厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
サブタイの意味は「終戦への一本道」です。直訳じゃないのは双方のカッコ良さの為。
ヘイムダルのラファイエット級汎用戦艦「サロモニス」と、火星防衛軍のハーフビーク級宇宙戦艦「イシディス」――二隻の戦艦による決死の特攻を迎撃した「四大天使」ラファエルは、その爆発に巻き込まれた。無論、それで誘爆してサヨウナラ――とはならないが、残骸が周囲に散らばり、ラファエルは爆煙に包まれる。
直属機たるモビルアーマー「ラジエル」を全機一斉に落とされたのは痛いが、それも一時的な話だ。全て、ラファエルの特殊機能「万物修復」により、そう時間を要さず戦線に復帰して来る。ビーム・バリアービットさえ破られなければ、ラファエルに人類の牙が届くコトは無い。
だが、二隻がその身を犠牲に作り出した僅かなチャンスを、
爆煙の中で、七機のガンダム・フレームが咆哮する。同時に、ラファエルが展開するビーム・バリアービットの一基が、大きな衝撃を受けた。
カロム・イシューの「ガンダム・パイモンビリーフ」とフェンリス・ファリドの「ガンダム・アスモデウスベンジェンス」、クリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリスデストラクション」、ドワーム・エリオンの「ガンダム・ベリアルコンセンサス」、ケニング・クジャンの「ガンダム・プルソンアサルト」、ディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネアニヒレート」、ミズガルズ・ファルクの「ガンダム・アモンサヴァイヴ」―――後に「セブンスターズ」と並び称される七人が、一斉に取り付いたのである。
『
七人の声が揃い、同時に攻撃をブチ込む。
パイモンは太刀と薙刀を。
アスモデウスは十本の槍と長槍を。
キマリスはドリルランスとドリルニーを。
ベリアルは二本の大剣と全身の火砲を。
プルソンは四肢のナックルを。
ヴィネはブレード・ファンネル全基と大鎌を。
アモンは蓄えたエネルギーの全てを込めた拳を。
「覚醒」のパワーも上乗せして各機が放った攻撃は、ラファエルのビーム・バリアービットを覆う頑強なナノラミネートコートをも粉砕し、ビットを内側から爆散させる。
彼らが持つ一部の武装も、この衝撃で破壊されたモノの――これでラファエルのビーム・バリアーは均衡を失い、完全に消え去った。すかさず再展開すべく残り五基のビットが動くが、他のガンダム・フレームが妨害に入っているので、それも叶わない。
そして、この大きな戦局の変化を、十国の指揮官たちは断じて見逃さない。
『ダインスレイヴ隊、照準!!
目標、敵要塞入口ッ!!!』
ガンダム・フレーム隊後方の艦隊で待機していた百数機のダインスレイヴ隊が、一斉に要塞入口に照準を合わせた。
特殊KEP弾頭の装填作業など、長い戦闘の間にとっくに全機分終了している。敵によるダインスレイヴ攻撃でダインスレイヴ隊にも被害は出たが、要塞入口のハッチを吹き飛ばす程度の火力は、余裕で残っている。
なおも残る
ラファエルが頭部ビーム砲を照射し、それと同時に超硬大型ワイヤーブレードを振るう。アグニカ・カイエルの「ガンダム・バエルバーデンド」を撃墜する為の攻撃――だが、彼には長らく共に戦った、最高の仲間たちがついている。
「アグニカはやらせん!」
ソロモン・カルネシエルの「ガンダム・オセマジェスティ」が八基のファントム・ミラーファンネルをバエルの前方へ展開し、ビームを屈折させ、拡散させていく。ラファエルのビームは、バエルの道を阻むには至らない。
残るは超硬大型ワイヤーブレード――MSの全高ほどもある、例え仕留められずとも弾き返すコトの出来る質量を有した、防衛目的で建造されたラファエルが持てる最高の攻撃用兵器のみ。
「トビー、合わせろ!」
「了解……せー、のッ!」
バエルの前に、アマディス・クアークの「ガンダム・フォカロルテンペスト」とトビー・メイの「ガンダム・アンドラスレクイエム」が出る。
いくら「覚醒」中のガンダム・フレームと言えども、「四大天使」のMAが圧倒的速度で振るう超硬大型ワイヤーブレードを、正面から打ち返すコトは出来ない。質量的にまず不可能なので、基本的には上手く受け流すか、大破覚悟で突撃するしかない――ハズ、なのだが。
フォカロルのバスターオールとアンドラスの剣が交差し、ワイヤーブレードと接触する。
全力で突撃した勢いで、フォカロルとアンドラスは拮抗してみせ――フルパワーを以て、ワイヤーブレードを正面から弾き返した。
パワーで強引に押され、そのまま弾かれたラファエルのワイヤーブレードは、あらぬ方向へと吹っ飛んで行った。ラファエルが持つワイヤーブレードはこの一基のみであり、全速で突撃して来るバエルを横から攻撃するのはもう不可能だ。
ラファエルはこの瞬間、ほんの一瞬のみ、全ての攻撃の択を失った。
言うまでもないが――その明確な隙を、アグニカ・カイエルは絶対に逃しはしない。
「うおおッ!!!」
神速でラファエルの懐に飛び込んだバエルは、左手に握る黄金剣バエル・ソードで、ラファエルの胴体――中枢制御コンピューター部を穿ち抜く。
そして、間髪入れず右手に握る剣も胴体に突き刺し、ラファエルをハッチに縫い止め、剣の柄に足をかけて蹴り、後転してハッチの直上から速やかに離脱した。
『ダインスレイヴ隊、放てッ!!!』
直後、ダインスレイヴ隊が一斉射撃。
百本以上の特殊KEP弾頭がオレンジ色の雨となって、ラファエルの死体が転がるハッチに降り注ぎ――大爆発が発生した。
衝撃波が戦場に響き、銀色の大地が割れて砂埃となり、ハッチ周辺を覆い隠して行く。しかし、その煙もすぐに晴れ―――そこに防壁の姿は無く、大穴が開けられていた。
今まさに、始まりの「四大天使」――ガブリエルへと続く突破口が、確かに拓かれたのである。
「突入する!」
迷いなく、アグニカのバエルが敵要塞内部へと飛び込んで行く。それを追い、アマディスのフォカロルとトビーのアンドラスも内部へと侵入。
ソロモンのオセも続こうとしたが、急遽機体を回転させながら黄金の双剣を振り、背中側から放たれた攻撃を弾いた。――それはガブリエル直属機、メタトロンによる攻撃だった。
そう。
ラファエルが崩れ堕ち、ガブリエルへの道が拓かれようと、他のMAが消え去る訳ではない。ラファエルの死によって即時修復機能は失われたが、それでも「天使」のMAは戦闘開始時から一機たりとも減らず、人類の前に立ちはだかり続けている。
だが、これでようやく対等だ。後は一機につき一度破壊すれば、立ち上がって来るコトは無い。
「アグニカの追撃など、絶対にやらせん。
この門は、私が――いや、私たちが死守する!」
ソロモンだけではない。ヘイムダルのガンダム・フレーム隊、その全力をかけて、敵が要塞内に戻るコトを阻止してみせる。
プルーマの一機すら、ここを突破させる訳にはいかないのだ―――!
「我々は艦隊の援護に回る! 後方のMA部隊を殲滅するぞ!」
一方、十国のガンダム・フレーム達は下がり、後方で戦う艦隊とMS部隊に合流するべく動き出す。
しかし、それは全てではない。
「ヘイムダルだけでは、流石に足りないだろう。向こうはフィーもいる、私が残って援護してやるさ」
「――良いのか、ウォーレン大佐」
「オセアニア軍は比較的、まだマシな被害だしな」
オセアニア連邦軍の「ガンダム・ウヴァル」――アイトル・ウォーレン大佐は、最前線に残ってヘイムダルと共に戦う決断をした。
それを聞き、「ガンダム・サブナック」に乗るアメリア合衆国軍のサイラス・セクストン大佐は、もう一機くらい残るべきと判断し、部下たるマリベル・コルケット大尉の駆る「ガンダム・ボティス」に通信する。
「私は残る。コルケット大尉は、パール達の援護に向かえ」
「――いいえ。私が残ります」
「大尉? だが―――」
「大佐は、准将のところに行って下さい」
サイラスは僅かに思案したが、一言「任せるぞ」とだけ残し、アメリア軍艦隊の方へと飛び去る。
残ったマリベルは一瞬目を伏せた後、機体のワイヤーブレードを解き放ち、眼前の四肢を持ち、剣を振りかぶる新型MA――「マスティマ」へと襲いかかって行った。
◇
遂に「四大天使」ガブリエルの牙城「
ちなみに、ハッチの真裏には入口より直径の大きい空間が広がっていたが、要塞最奥に繋がる道の直径は入口と同じになっていた。全体図として見れば漏斗のような形状であることが予想され、突入した直後のアグニカには、奥への道はアリ地獄の中心に空いた穴のように見えた。
そして、その道には当然ながら、無数のMAが跳梁跋扈している。
ガンダム・フレームが特有の高機動性を活かし、縦横無尽に飛ぶには狭い通路に
その内のいくつかは、先のハッチをブチ破ったダインスレイヴに機能を停止させられ、漂っている。それでも、通路の壁を埋め尽くしているハニエル達は、三機を捕捉した瞬間、ビーム砲を展開して発射した。
「ッ――数が多い!」
バエルは腰背部のブレードホルダーから予備のバエル・ソードを引き抜いて機体の前方で交差させると共に、全身に備えられた八基のブレード・ファンネルを射出して前方に集中させ、ビームの雨を特殊超硬合金で受け止めた。
一本一本のビームの出力自体は大したコトもないが、とにかく数が多すぎる。ただでさえ狭い通路の壁を埋め尽くすほどの数のMAが一斉にビームを放てば、そもそも回避する為に必要な
「クソ、どきやがれ!」
フォカロルは全身から火砲を斉射し、前方のハニエル達を吹き飛ばして行く。しかし、通路の壁にはMA製造プラントと直結していると思われる穴が空いており、敵の数は増え続けて、一向に減る機会が無い。
本命はあくまでも「四大天使」ガブリエル――補給ももう無い以上、こんな途上で弾を消費するべきではないのだが、群れを為しガブリエルへの道を塞ぐハニエルの群団を一刻も早く突破しなければならないので、そうも言っていられない。弾をケチってまごつき、数に押し切られるよりはマシである。
「アグニカ、アマディス! ここは僕が引き受けるから、二人は先に行って、ガブリエルを!」
「トビー、お前……!」
アンドラスがマイクロミサイルポッドを射出し、ハニエルの群れへと突っ込ませる。四方にミサイルが拡散し、小型であるハニエル達は面白いように吹き飛んでいく。
「―――任せたぞ、トビー!」
ハニエルの群れの中に薄くなった場所を見出したアグニカは、両手のバエル・ソードを機体の前で交差させたまま、スラスターウィングを吹かせて加速をかける。ブレード・ファンネルを機体の周りに飛翔させ、ハニエルの群れの中に突っ込み――道の突き当たり、最終ハッチに追突した。
そこには先程のダインスレイヴの弾頭が何本か突き刺さっていて、既に歪んで崩壊しかけている。
「避けろよ、アグニカ!」
追いついてきたフォカロルが、温存していた二基のダインスレイヴを放つ。バエルがブレード・ファンネルを回収しつつ、全身の姿勢制御用エイハブ・スラスターを吹かせて態勢を変え、最小限の動きでダインスレイヴの射線を確保すると、フォカロルの放ったダインスレイヴはバエルを追い抜いて最終ハッチに直撃し――それを、奥へと吹き飛ばした。
「よっし、行くぜ!」
「ああ――全て、終わらせてやる……!」
最後の扉が開かれ、バエルとフォカロルはすかさず突入し―――広々とした、半球状の空間に出た。純白の壁によって作られた、一切の飾り気が無い無機質な場所――これが、MAの本拠地「
そして、半球状の空間の底には、二枚の翼を有して五本の尻尾を遊ばせる巨大なMA――今回の作戦目標にして全ての始まりとなった機体、「四大天使」ガブリエルが鎮座している。
「アレが、ガブリエル――!」
「ッ―――来るぞ、アマディス!」
アグニカとアマディスがガブリエルを視認した直後、ガブリエルの二翼に装備された計十基のダインスレイヴが、一斉に火を吹いた。ガブリエルと二機の距離は存外近く、唐突な攻撃の為、到底回避はしきれない。
バエルは直撃コースを取ってくる二本の大型特殊KEP弾頭に対し、その先端を両手に握るバエル・ソードでそれぞれ叩き、受け流すように軌道を変えて辛くも凌ぐ。だが、フォカロルはほんの僅か、反応が遅れた。
「な、うおわぁっ!?」
慌ててバスターオールを振るうも、通常のダインスレイヴより口径が大きく速度の速い「四大天使」のダインスレイヴ相手には、それすら決定的な差になる。フォカロルのバスターオールは衝撃で柄が真ん中から折れ、掠めた衝撃で左足と右腕の装甲が外れ、無理な方向から力を加えられた左腕が肘から千切れ飛んでしまう。
「クソが、しくった……!」
「アマディス!」
「構うな、来やがるぞ!」
ダインスレイヴを再装填しながら、ガブリエルが駆動音を咆哮のように響かせる。そして、ガブリエルの陰からは一斉に、二百機以上にもなるプルーマが姿を現した。
同じ「四大天使」たるウリエルやミカエルと違って、ガブリエルは戦闘を目的として造られた機体ではない――が、広大なMA製造プラントを運用してみせるフィフス・リアクターシステムの出力を利用する頭部ビーム砲やダインスレイヴの威力は、決して
対する人類は、悪魔が二柱のみ。増援は愚か、補給も望めない。ましてや、この狭い要塞内部では、圧倒的な機動力で翻弄するコトも難しい。この期に及んでなお、人類は圧倒的不利の戦いを強いられるコトとなる。
―――此処が、厄祭戦の最重要局面。
次回「Extermity Battle for Death」