厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
何言ってもネタバレになる気がするので、これ以上は言わないぜ。ただ、まだ行ってない人は行けそうな時に迷わず行くべし。
それはともあれ、今回もご覧頂き、ありがとうございます。
サブタイの意味は「死に物狂いの殲滅戦」です。
モビルアーマーの本拠地たる月面の要塞「
現状では、ヘイムダルと火星防衛軍のモビルスーツ部隊とアメリア合衆国軍のマリベル・コルケット大尉が駆る「ガンダム・ボティス」、オセアニア連邦国軍のアイトル・ウォーレン大佐が乗る「ガンダム・ウヴァル」が要塞入口周辺で、少し離れた後方で十国軍の艦隊と十国のMS隊が総力戦を繰り広げている。
しかし、アグニカ達とガブリエルが戦闘を開始すると同時に――要塞内部から、小型MA「ハニエル」が大量に湧き出したのだ。
「内部から大量のエイハブ・ウェーブ……!?」
「まずいな――ザコが湧いて来たぞ!」
数えるのもバカらしいほどの数。
内部ではトビー・メイの「ガンダム・アンドラス」が戦っており、アグニカ達と戦うガブリエルを援護させるコトは阻止し続けているものの、反対方向となる外への流出まではどうにもならない。結果として、膨大な数のハニエルが、外へ溢れ出すコトとなったのである。
要塞入口周辺で戦うヘイムダルと一部の十国のガンダム・フレーム、火星防衛軍のMS部隊は、質こそ最高峰だが、数の暴力を受けるのは厳しい。本来は十国軍の膨大な数のMS隊で解決すべき所だが、この状況ではそうも行かない。
「ソロモンさん、撃てないのか!?」
「今
「ガンダム・キマリスデストラクション」を操るクリウス・ボードウィンの要請を、ソロモン・カルネシエル――「ガンダム・オセマジェスティ」のパイロットは却下する。せざるを得ない。
確かにオセの兵装ならハニエルを一掃出来るが、要塞入口周辺と内部に固まっているこの状況でそれを使えば、どうしてもアンドラスを巻き込んでしまう。かと言って、このままハニエルの群を放っておけば、それはまた厄介なコトになる。
「ッ、新型が艦隊に向かうぞ!」
「行かせるモノかァッ!」
ハニエルの出現を受けて、要塞入口周辺で戦っていた対ガンダム・フレームを想定した新型のMA達が、一斉に後方の十国軍艦隊とMS部隊の方へ移動を開始した。
「ガンダム・アスモデウスベンジェンス」に乗るフェンリス・ファリドの声で、ケニング・クジャンの手足たる「ガンダム・プルソンアサルト」が追撃しようとするが、新型の一機に攻撃を受けて足止めされてしまう。
「砲撃しろ、撃墜するんだ!」
「無茶言うな! もう弾が無ぇんだぞ!」
「小さいのが来るわよ!」
火星から増援に来た「ガンダム・マルコシアス」の金元・カーゾンに、「ガンダム・グシオン」の和弘・アルトランドが言い返す。火星防衛軍の艦は全てが撃沈しており、残るヘイムダルの艦もダメージコントロールで手一杯、十国の艦隊は後方の為、補給を受けに行くタイミングが無いのである。
カロム・イシューの「ガンダム・パイモンビリーフ」を始めとし、ヘイムダルは新型への砲撃を続行しつつも、ハニエルの群に向かう。ザコとは言え、放置しておく訳にも行かない。放置すれば、中で戦う仲間の負担が増えてしまうからだ。
「――相性の悪い敵と戦わされてるみたいだな」
「はい。……私たちの配置に、敵が対応して来ています」
アイトルとマリベルも言い合いつつ、艦隊側で指揮を取る者たちを信じ、ヘイムダルと並んでハニエルとの戦闘に参加する。
一方、二度のダインスレイヴ攻撃で大損害を被っていながら、MAの群と戦う十国軍艦隊とMS隊は。
「戦闘能力を失った艦は後退! 航行能力を失った艦は、その場で砲撃を続行せよ! 退艦も急げ!」
「MS隊、必ず小隊を組んで敵に当たれ! 軍の所属は無視だ、その場の判断を優先しろ!」
「ダインスレイヴ隊は後退して良い! 動かねば、ただの的になるぞ!」
艦の放棄とクルー受け入れを行いつつ、各小隊の判断で殲滅戦を展開する、非常に混沌とした戦場となっている。艦隊や部隊としての体裁を保ち、後方から追撃して来ていたMA部隊を八割方殲滅するコトに成功している辺りは、大国の威厳を発揮したと言うべきか。
しかしここで、要塞入口から移動して来た複数の新型MAが、戦場を更にかき乱す。
「前線よりエイハブ・ウェーブ――うわぁっ!?」
「何だコイツ、速……があッ!」
「クソ、当たれ、当た――来るなああッ!」
「四大天使」ガブリエルの直属機にして、装甲まで捨てて対ガンダム・フレームを想定した高機動性と、一撃でナノラミネートアーマーを破壊するヒート・ウィップを持つMA「メタトロン」により、小隊が一瞬で全滅させられた。
量産機の機動力では、やはりどうしても新型の速度に対応しきれない。パイロットが反応出来ても、機体がスペック的に追い付いていけないのだ。
「新型はガンダム・フレームが引き受ける! 後退しろ!」
ヒート・ウィップの攻撃をナノラミネートコートで弾き返し、サンスクリット連邦共和国軍のイシュメル・ナディラが駆る「ガンダム・グレモリー」がバトルアンカーを振るう。しかし、大振りの武器は容易く回避され、メタトロンと入れ替わりに現れた四肢を持つ人型MA「マスティマ」の剣をレアアロイの錨で受ける。
かくしてメタトロンは再びヒート・ウィップを振るい、攻撃範囲内にいたMS三機を叩き落とすも、セグラ・ジジンが操る「オルトリンデ」に組み付かれ、至近距離でのダインスレイヴを食らって爆散させられた。
「これで残弾ゼロ、か――イシュメル様!」
「ッ、案ずるなセグラ! 私をナメるなよ!」
凄まじい速度で振るわれるマスティマの剣を、グレモリーはバトルアンカーで受け続けて耐え、隙を見て柄の先端でマスティマの腹を突き、錨を胴体に打ち込んで粉砕する。
一方、アラビア王国軍のラティーフ・ビン・ナーイフが乗る「ガンダム・ストラス」は、忠臣ケイハズ・タイステラの駆る「ゲルヒルデ」と連携し、電撃を纏った槍ことスパークランスを有する新型「バラキエル」を迎撃している。
「このモノら、一体何故……!」
「要塞の内部から、敵の増援が増え続けているようです。ヘイムダルはそちらに戦力を割かざるを得ないようで」
「貴兄ら! そのまま頼むぞ、っと!」
イングランド統合連合国軍の「ガンダム・カイム」に乗るヴィンス・ウォーロックは、ストラスと戦っているバラキエルに剣を投げ、装甲の隙間を見事射抜く。その投擲の隙は、遼真・ウェルティの「ガンダム・ゼパル」とサミュエル・メイザースの「ガンダム・アムドゥスキアス」がカバーする。
「お見事――我々も行くぞ!」
「了解!」
大太刀を構えた「ガンダム・アンドレアルフス」、アフリカン共和国軍のアーヴィング・リーコックは、全身の剣を繋げて大剣とするミエッカ・イリヴァータの「シュヴェルトライテ」と並んで、プルーマを斬り払いながらメタトロンに突撃。
一度の交錯でそれぞれがメタトロンの両腕を切断し、振り向きざまの二撃目で二機の武装が交差し、斜めにメタトロンが四分割され――爆散した。
『アラビア軍艦隊を
「良し、立て直しつつある……MS隊、新型とは距離を取って応戦しろ! ダインスレイヴ隊は――」
アメリア軍の「ガンダム・サブナック」、サイラス・セクストンもアメリア軍旗艦「ワシントン」の援護を行いつつ、部隊に支持を出す。
新型は十分、ガンダム・フレームを始めとする精鋭部隊で対応出来ている。ようやっと、終わりなき戦いの終わりが見えてきた――と、誰もが思った、次の瞬間。
月面に隠された無数のミサイル発射管が開かれ、一斉にミサイルを吐き出した。
狙いは勿論、人類軍の要たる後方艦隊。一万近い数のミサイルが、要塞入口周辺で戦うヘイムダル達をガン無視して飛翔する。
『月面よりミサイル接近!』
『対空砲火だ!!! 撃ち落としてやれ!!!』
『MS隊も、火力を集中しろ!』
戦闘能力が残る艦の全てが、対空砲火と共に全砲を発射して迎撃にあたる。弾を当てられたミサイルは、その場で爆発して行くが――悉くが桃色の煙を噴出し、拡散させて行く。
艦隊と一定距離に達したミサイルも次々に自爆して、同じように桃色の煙を拡散し、戦場に充満させる。やがて膨大な範囲を覆い尽くし、艦隊を丸ごと呑み込んだ。
『ッ、LCS通信途絶! レーダーも消えました!』
『メインモニター消失、火器照準システムも機能していません!』
『何だ、何が起こって――!?』
『原因の解明を急げ! これはヤバいぞ!』
大規模な通信と光学探知の妨害。敵味方入り乱れる状況で、この手は非常にマズい。
煙の正体は「ナノミラーチャフ」――ナノラミネートアーマーに用いる粉末状の素材を利用して電波を反射する物体を散布する兵器であり、エイハブ・ウェーブの影響下でのレーザー通信や光学探知を妨害するコトが出来る代物だ。
物体を焼き払ってしまえば容易く排除出来る為、これまで実戦で使用されるコトは無かった。それ故に、人類側は反応が遅れてしまったのである。ディヤウス・カイエルならあるいは一目で見抜けたかも知れないが、彼は最早この世にはいない。
だが、この状況では新型のMAと言えど、満足に動くコトは出来ないハズ。対処には多少の時間が与えられている―――と、人類は考えたが、天使とはさして甘い敵ではない。自ら引き起こしたこの状況を、彼らは最も効果的に活かしてみせる。
当然、回避など出来るハズが無い。
ナノミラーチャフの煙の中で、区別無く平等に、天使の裁定が下される。一撃でも直撃すればMSを四散させ、戦艦であろうと当たり所次第で沈めるコトの出来る神速の魔剣にこの状況下で反応出来たのは、本当に一部のパイロットのみ。
混乱する人類軍は、次々と殺戮されて逝く。
『
『……まさか、こんな!?』
『やれやれ、これだから戦いというモノは』
『はは、あり得ん――!』
艦隊はアメリア合衆国軍、サハラ連邦共和国軍、中華連盟共和国軍、サンスクリット連邦共和国軍の旗艦が撃沈。艦隊は七割が壊滅した。
MS隊も被害が甚大となり、ガンダム・フレームを任せられる精鋭にも、犠牲が拡大する。
「があああっ!」
ユーラシア連邦軍のイゴール・ドミートリエヴナ・プーシキンが戦死し、「ガンダム・ヴァレファール」も粉砕させられた。
「まずい、しまっ―――」
「やらせ……があっ!」
ヴィンス・ウォーロックの「ガンダム・カイム」が、サミュエル・メイザースの「ガンダム・アムドゥスキアス」と共に爆散。これにより、イングランド統合連合国軍は、最高司令官を失った。
「殿下ァァァッ!」
「ケイハ――うわっ!」
ラティーフ・ビン・ナーイフの「ガンダム・ストラス」を突き飛ばし、庇ったケイハズ・タイステラの「ゲルヒルデ」が四散。忠臣としての責務を全うした。
「ぬああっ!」
中華連盟共和国軍の「ガンダム・ムルムクス」――
「一体、何が起こ」
「危な―――」
アーヴィング・リーコックとミエッカ・イリヴァータが、乗機の「ガンダム・アンドレアルフス」「シュヴェルトライテ」と共に死亡。アフリカン軍のMS隊は、隊長と副隊長を同時に喪失した。
「センサーが、ッ!?」
「ミシャンドラ」――ラテンアメリア連邦共和国軍MS部隊隊長ラーペ・グランの駆る機体もまた、魔剣により貫かれた。これで、マドナッグ・フレームのMSは、全機が失われたコトになる。
あまりにもアッサリと悪魔たちが滅んで行く中、攻撃に反応して迎撃や回避を行う者もいたが――それでも、ただでは済まない。
「この――ッ!?」
イシュメルのグレモリーなどは、ダインスレイヴを迎撃するべくバトルアンカーを胸部の前に構えたが――錨型の近接兵装は接触時の衝撃に耐えられず、片刃が根元から圧し折れた。ナノラミネートコートでなければ、本体も吹き飛んでいただろう。
その他も即死にならずとも、損傷した機体がほとんどだ。弾薬は元から尽きかけていて、前線のヘイムダル同様こちらも後が無い。
『敵からのダインスレイヴです! 損害不明!』
『構わん、砲撃続行! 何だか知らんが、焼き尽くしてしまえッ!!』
ユーラシア連邦軍参謀本部長アーイスト・スヴィエートの命令で、ユーラシア軍艦隊が艦砲射撃を再開する。
この砲撃でナノミラーチャフが焼き払えるモノであり、妨害煙は思ったより容易く排除出来るコトが判明したのである。それが分かってからの各国の対応は速く、たちまち全軍のナパーム弾を中心とする艦砲射撃で、ナノミラーチャフが晴らされる。
『僚艦とのデータリンク、回復しました!』
『LCSレーザー通信、レーダー復旧!』
『被害報告を急げ! ダインスレイヴ隊は月面を狙え、再度の攻撃を赦すな!』
百機程度が残ったダインスレイヴ隊が、月面に向けて魔剣を撃ち返す。広く面制圧を狙った、ダインスレイヴの本来の運用方法そのままの攻撃で、月面に残されたダインスレイヴは破壊され、今度こそ使用不可能な状態となった。
だが、もう既に艦隊は瀕死――通常の作戦であれば、もう既に還付無きまでの敗北だ。限界はとうに通り越している。
『か、艦隊被害甚大! これ以上の作戦展開は不可能です!』
『所属に構わず再編、戦線を維持したまえ!』
『クソみてぇな状況だな、クソが!』
『――撤退は赦されません。今の私たちに、退路など存在しない』
十国の内の五ヶ国、実に半数の国が作戦指揮官を失った。艦隊の損害も極めて大きく、MS隊も同様――それでも、人類軍に撤退は有り得ない。
人類は、勝つ為だけに此処に来た。無様に敗戦、潰走する為にノコノコやって来たのではない。
「四大天使」ガブリエルの撃破。
それさえ成されれば、人類の勝利。それを成さない限り、人類に勝利は無く、未来も無い。その未来を掴み取る為に、あらゆるセオリーをかなぐり捨てて、如何なる犠牲でも払うと覚悟した上に、この作戦は成り立っている。
例え旗艦が撃沈しようと、最高司令官が戦死しようと、艦隊の七割が撃沈されようと。何があろうと、ガブリエルを撃破するまで人類軍は退かない。退けない。退く訳には行かないのだ―――!
「パール、パール! ―――クソッ……!!」
「――目の前の敵を殲滅する!! 全機、死ぬ気でかかれェッ!!!」
悪魔たちがまたも「覚醒」を使い、最後の――最期の殲滅戦を開始する。十国軍と共に、ヘイムダルの側も「覚醒」を行い、戦場の各所で悪魔が叫声が如き駆動音を鳴り響かせる。
―――悪魔が天使を狩る、厄災の祭典。
その最終演舞の幕が今、開かれた。
次回「Signs of Victory, Scatter Life」