厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
訳すまでもないですが、サブタイの訳は「答え」です。
―――では、タネ明かしと行こう。
全ての答えは、この男が握っている。
最後の「四大天使」にして、最初に建造された機体でもあるモビルアーマー「ガブリエル」を見事に撃破せしめたアグニカ・カイエル――「ガンダム・バエルバーデンド」の前に現れた、一機のガンダム・フレーム。
純白と群青の装甲を有するバエルとは相反する、漆黒と
「―――どういう、コトだ……?」
アグニカは疑問に支配されながら、眼前のガンダム・フレームを眺める。
意味が分からなかった。何故、此処に在るのか。何の為に出てきたのか。MAの本拠地たる要塞の最奥に、如何なる理由が有って配置され、何故ガブリエルが撃破された今になって姿を現したのか。
「……!」
ふと、アンドロマリウスの左腕が、ゆっくりと持ち上げられた。その手に握られるは、刃渡り十メートルも有る、赤いラインが側面に走り輝く大剣。
アグニカは警戒し、右手に一本のみ残されたバエル・ソードを構えるが――アンドロマリウスは左腕を真横に水平になるまで持ち上げると、左手に握る大剣を逆手に持ち替え、その場で振り下ろした。漆黒と紅蓮の大剣が白亜の床に突き刺さり、アンドロマリウスはその柄から左手を離した。
そして、両手を同時に胴体の前へと持って行き―――
「―――は?」
今度こそ、アグニカの思考は完全に停止した。
その光景を、アグニカは全く、これっぽっちも理解出来なかった。遂に眼が、頭がおかしくなったかと、自らの正気と感覚を疑った。
MAの本拠地の最奥に現れたモビルスーツ、失われたハズのガンダム・フレームが、拍手をしている――これを受けて、一体何が起こっているかを瞬時に理解出来る人間は、恐らくいないだろう。
アグニカがその摩訶不思議かつ意味不明な状況を認識し、呑み込むより前に、更なる衝撃がアグニカの耳朶を打つ。
『おめでとう、アグニカ君。
よくぞ、此処まで辿り着いた』
声。年老いた男の声――しかして
通信回線を通じて、アグニカの耳に届いた声――アグニカはハンマーで直に脳を殴られたかのような衝撃を受けながらも、それが何処から発されているかを、かろうじて理解するコトが出来た。
今、この場に在るのは
ならば、考えられる声の発信源、通信先はただ一つのみ―――「ガンダム・アンドロマリウス」をおいて、他には無い。
『まずは君の、君たちの健闘に敬意を表する。
全ての「四大天使」を撃破したコトは、称賛に値する偉業であり――四機全てを斬り伏せて魅せた君は、まさしく「英雄」と呼ばれるに相応しい。
流石はディヤウス君の一人息子、と言うワケだ』
拍手をやめ、アンドロマリウスは大剣を左手に握り直して、四つの瞳でバエルを見据える。
一方、そのバエルを駆るアグニカは、未だに衝撃から立ち直れていない。――しかし、アンドロマリウスから放たれている声からは、何故かは分からないものの、懐かしさを感じ取っていた。
「―――貴様、何者だ?」
『ん? ―――ああ、そうか。君は物心付く前だったから、覚えているハズも無いな。
君は私を知らないだろうが、私は君を知っている。何せ、
この瞬間、アグニカの脳裏には、一人の人物の名前が浮かび上がった。そして、その予測は、老人の次の言葉によって肯定されるコトとなる。
『
―――これ以上の自己紹介は必要かな?』
エイハブ・バーラエナ。
言うまでもない――重力を発生させる微粒子「エイハブ粒子」を発見し、後に半永久的エネルギー機関「エイハブ・リアクター」を発明した男。
そして――アグニカ・カイエルの父ディヤウス・カイエルと共に、マザーMA「ガブリエル」の開発に関与し、その起動実験の際に死亡したとされている人物だ。
「……何故――一体、何がどうなって……?」
『ふむ――それは、私が今此処でこうしているのは何故か、と言うコトか。何、口にしてしまえば……いや、音声にしてしまえば、さほど大した話ではないよ。
起動後、観測所に人間の存在を観測したガブリエルは、その殺戮の為にビーム砲を放った。私はそれに巻き込まれたが――身体は消え去らず、その場に残った。そして、ガブリエルは私を認識し、私が死に絶えるより前に、私を保護した。正確には、死に向かっていた私の脳組織を――と言うべきだが』
それだけだよ、とエイハブは言う。
しかし、アグニカには合点が行かない。
「――その時、お前は人間だったハズだ。
だったら、ガブリエルの抹殺対象になって、保護なんてされないんじゃないのか」
『プログラムの問題だよ。確かにガブリエルは――MAは
そして、一命を取り留めた――少なくとも脳に限っては――エイハブは、ガブリエルに回収された。脳組織だけが保護されて活動を続けているコトを、生きていると言って良いのかは怪しいモノだが。
『その後、私の脳は「
この機体はディヤウス君の研究所をMAが襲撃した際、深海に沈んだ所を回収させ、ガブリエルに完成させたモノだ。そして、私の脳を
つまり、この要塞――「
ラファエルが撃破された後も、外部での戦闘でダインスレイヴがナノミラーチャフと組み合わされる形で戦術的に使用され、要塞内通路の隠しハッチが閉じられてバエルを封じたのは、エイハブの命令によるモノだったのである。
なお、人間の脳をコンピューターに組み込むというコトは、エイハブの後にも、他ならぬMAの手で行われている。「四大天使」ミカエルがガブリエルに(エイハブに)用意させたMA――「捕獲型」たるアザザエルと「利用型」のシェムハザこそ、そのプロセスを完璧に再現した機体と言えよう。
「―――オイ、ちょっと待て」
しかし、エイハブがアンドロマリウスに組み込まれて今ここに至るまでの経緯など、アグニカにはどうでも良かった。いや、初めこそそれを疑問として問うたのだが――途中で全く別のコトが引っかかったコトで、それがどうでも良くなった、と言うべきか。
その、アグニカに引っかかったコトとは―――
「
じゃあテメェは――
―――眼前の機体を御する、この男が。
そして、その問いに対し、エイハブは答える。
『暴走、と言うのは間違いだよ。
「ッ―――!!!」
アグニカが歯噛みしたと同時、バエルが地を蹴って、アンドロマリウスに突撃した。
右手に握る黄金の剣「バエル・ソード」を振りかぶるバエルに対し、アンドロマリウスは
「何故、そんなコトをした!?」
『決まっているだろう。それが、私の目的を達成する為に、必要な手段だったからだ』
アンドロマリウスが一歩を踏み込むと、バエルは出力に押され、後方へと弾き飛ばされる。
「チッ―――!」
アグニカは舌打ちしつつ、残された三基のブレード・ファンネルを射出すると同時に機体を後転させ、再度アンドロマリウスに突撃。対するアンドロマリウスは、背部に装備された五基のブレード・ビットを展開し、向かって来る三基のブレード・ファンネルを三基で叩き落として、バエル本体に残りの二基を差し向ける。
バエルは一基を右手の剣で、もう一基を左足の脚部ブレードで弾き返す。そのバエルにアンドロマリウスが肉薄し大剣を突き出すと、バエルは機体を回転させつつ背部のスラスターウィングに装備されたブレードを振り上げて、大剣を打ち上げた。
アンドロマリウスは浮き上がった大剣の柄に右手を添え、両手で保持して振り下ろす。右手のバエル・ソードを横薙ぎに振るうコトでバエルはこれに対応し、大剣と長剣が火花を散らした――が。
「ッ、な!?」
バエルはパワー負けして押し切られ、右肩にアンドロマリウスの大剣が接触。
手首を返し、アンドロマリウスは斜めに斬り上げるようにして、赤い光を走らせる大剣を振るう。バエルは右足の脚部ブレードでこれを防ぐも、一際大きな火花が散ると共に、ブレードが打ち砕かれる。
「が、ぐッ……!?」
間髪入れずに二基のブレード・ビットがバエルを襲い、バエルは右手の剣でクロスするように胴体を狙って来たビットを弾くが、勢いに負けて剣は頭上へと流された。
胴体に隙を見出したアンドロマリウスが横薙ぎに振るった一撃を、バエルは全速後退して辛くも回避するも、大剣の切っ先がコクピット上部の装甲に掠り、それだけで形状を歪ませられる。
その後、アンドロマリウスが右足を持ち上げて放った蹴りをバエルは胴体のコクピット直上に受け、後方へと吹き飛ばされた。バエルは空中で後ろへと回転し、両足を白亜の床に擦りつけて蹴りの勢いを殺すと、アンドロマリウスが握る大剣を睨む。
「クソ―――あの剣……!」
『「γナノラミネート反応」――これは私ではなく、ディヤウス君の研究成果だがね。このような形でエイハブ粒子を利用する理論には、素直に驚かされたよ。こういう理論は、私には発想出来なかった』
アンドロマリウスの大剣は「γナノラミネート・バスターソード」――「ガンダム・アスタロト」が持つ「γナノラミネートソード」の大型版である。
この武器は刀身にケーブルを通じて圧縮したエイハブ粒子を送り込むコトで、「γナノラミネート反応」と呼ばれる現象を発生させられる。この反応は接触したナノラミネート構造を破壊するコトが出来る為、強力な武装となるものの、エイハブ粒子が約百万分の一秒で崩壊する都合上、圧縮技術に安定性を欠いてしまう。人類側で実用に漕ぎ着けた武装は相当少ない上、コストも莫大なモノとなる。
エイハブ粒子の発見者であるエイハブ・バーラエナの知識と、人類を上回る技術レベルを有したガブリエルを以てしても、武装の大型化と安定化こそ成し遂げたものの無線化が出来ず、有線での粒子転送を必須としている。
『悪魔とやらの「覚醒」によるリアクターの
……戦いの為でなければ造れない、というのが、現人類の限界点でもあるが』
左腕一本で大剣を構え直し、アンドロマリウスの桃色の
『そしてこの機体は、その利点を全て最大限に利用し、上回ると言える性能を有している。完璧な形でのトリプル・リアクターシステムの実現と、
「ッ……ゴチャゴチャと!」
射出済みのバエルのブレード・ファンネルが、アンドロマリウスの三方から襲いかかる。アンドロマリウスはそれを、同じく射出済みのブレード・ビットで迎撃するが、バエル本体はその時には既にアンドロマリウスの懐に飛び込んでおり、右手の剣を神速で振り上げる――と見せかけ、スラスターウィングに内蔵されたミサイルランチャーを撃ち放った。
対するアンドロマリウスは右肩のビーム・マントをバエルに覆い被せるように振り、右腕の側面からビーム・シールドを展開して弾頭を爆破させる。爆発の煙がバエルとアンドロマリウスの間に舞った瞬間、バエルは今度こそ右手の剣を振り、アンドロマリウスの大剣の柄から左腰に伸ばされた伝達ケーブルを切断する。
『ほう―――だが、迂闊な接近は頂けんな』
バエルが右手を引き、アンドロマリウスの胴体部にバエル・ソードの先端を向けた時――アンドロマリウスの胸部装甲と腰部装甲の一部が開いて、「スティング」が露わとなった。
「―――ッ!!」
アグニカがそれを視認した瞬間、バエルは攻撃を中断し、後方へと飛び去る。
エイハブ・ウェーブを増幅して打ち放つコトで、コンピューターや人間の脳を遠隔的に破壊出来る兵装こそが「スティング」――ごく至近距離でしか効果を現さないが、一度でも食らえばそれで終わりだ。絶対に直撃を受ける訳には行かない。
ブレード・ファンネルとブレード・ビットの激しい剣戟が続く中、アンドロマリウスは左腕に用意されていた予備の伝達ケーブルを大剣に接続するコトでγナノラミネート反応を再発生させ、背部スラスターを全開にしてバエルに吶喊した。
『此処に来るならば君だろう、と私は思っていた。だからこそ、このアンドロマリウスは近接戦闘で「ガンダム・バエル」に劣らぬよう、調整してある――言わば、これは君を倒す為の機体という訳だ』
大剣の攻撃を躱すべく、バエルは上空へと飛び上がる。アンドロマリウスはバエルのブレード・ファンネル三基に対抗する為の三基を除き、残った二基のブレード・ビットを先行させつつ、自身もバエルを追って飛翔する。
バエルはブレード・ビットの一基を剣で弾き、もう一基は左手で掴み取り、機体を一回転させてビットの持つ勢いを完全に殺してみせた。そして、戻って来て二撃目を狙うブレード・ビットに手に持つビットを真正面からぶつけ、相打ちにさせる形で二基を同時に打ち砕く。
『そして、このアンドロマリウスを動かすのは、君の戦闘データを蓄積して解析し、その全てを把握した戦闘プログラム――これにかかれば、君の動きなど、容易に予測するコトが出来る』
直後、襲って来たアンドロマリウスの大剣をバエルは左足のブレードで蹴り上げて防ぎ、膝を曲げて持ち上げた左足を即座に下へ打ち出すコトで、アンドロマリウスの大剣の側面を蹴飛ばす。左手に握る大剣を下に追いやられたアンドロマリウスは、右手でバエルの左足を掴み、思い切り下に引っ張るようにし、バエル自体を直下へと放り投げる。
バエルは即座に態勢を整え、アンドロマリウスが上段で振り下ろして来る大剣を右手の剣で迎撃。打ち合って三合目にパワー負けして一方的に弾き返され、アンドロマリウスの右拳をコクピットの上部に受けて吹き飛ばされたコトで、バエルは底部へと叩き付けられた。
『分かるだろう―――最早、
追って底部に到達したアンドロマリウスは、両手で大剣を握り、全力で横薙ぎに振るう。バエルはその渾身の一撃を辛くも剣で迎撃するも、力比べではアンドロマリウスに及ぶべくもなく、バッターに打たれるボールが如く、後方へと飛ばされる。
後方へのスラスター噴射も間に合わず、バエルは勢い良く背後の壁へと激突。そして、崩れ落ちるようにその場で尻餅をつき、壁に背中を預けさせられた。
「―――クソ、なんてザマだ……!」
それとほぼ同時に、それぞれ打ち合っていた三基のブレード・ファンネルとブレード・ビットが、エネルギー切れを起こして停止し、床へと落下する。これで、互いに遠隔武装を全て失ったコトになる。
『自分を責めるコトは無いよ、アグニカ君。これが必然――運命、というのが正しいかな。
ここまでの君の努力を踏みにじるようで心苦しいが、これも私の目的を果たすため。……大人しくやられてくれると、私としては助かるんだがね』
ジリジリと削られ、追い詰められているバエルに対し、未だにほぼ無傷なアンドロマリウスから、エイハブは余裕を持ってそう言い放つ。
アグニカは舌打ちしつつ、眼前の悪魔を滅ぼす算段を立てる時間を稼ぐべく、饒舌な
「―――テメェの『目的』ってのは、一体何だ?
何の為にテメェはMAを解き放って、人類を殺して来た? エイハブ・リアクターを創り、人類に無限のエネルギーを与えたテメェが何で、人類を殺そうとしやがる?」
『おや? ……そう言えば、それはまだ言っていなかったか』
しまった、とでも言いたげに、エイハブはそう呟きつつ――その次に彼が語った言葉を受けて、アグニカは頭が真っ白になった。それまで脳裏に巡らせていたアンドロマリウスに勝つ為の策、その全てが一瞬で吹き飛んだ。
その言葉。即ち、エイハブ・バーラエナがMAを世に解き放ち、戦乱を巻き起こした目的とは―――
『私の目的は、エイハブ・リアクターを創った時から、何一つとして変わっていない。
―――
次回「I deny you」