咲-Saki-二度目の人生は雀士として 作:468(ヨルハ)
ここでもヒロインは出てきません(ネタバレ)
今話は前世の遼太くんのお話です。
それではどうぞ!
向井遼太は病弱である。
とても重い心臓の病気らしく、物心がついたころには既に入院生活が始まっており、彼の生活の半分以上はベッドの上だった。
まったく体を動かせないわけではなかったが、数分歩くだけで動悸が激しくなり胸に激痛が走り、最悪気絶してしまう。
よって移動には必ず車椅子に乗る必要があり、外に出るなどもってのほかだった。
それでも遼太は塞ぎこむことはなかった。
幸い病院内ではある程度自由にすることはできたので、よく個室から抜け出しては他の病室に遊びに行き、自分より小さい子供たちとは一緒に絵を描いたりトランプでマジックを披露したり、自分よりずっと年上の老人たちとは将棋やチェスで勝負したり麻雀の卓に混ざってうったりするなど、積極的に人とかかわりを持つようになっていった。
将棋やチェスはともかく、麻雀に関しては主に母親から「なにやってるの」と怒られることもしばしばあったが。
しかし、そういった出会いがあれば当然別れもある。
病院という場所においてはそれは特に顕著だった。
退院する人、転院する人、はたまた亡くなる人も。
人のことが好きな、人とのつながりを大切にする遼太は当然悲しくなった。
退院する人は素直に誰かが治ったことが嬉しかったし、喜びもした。
しかし、転院でお別れする人、特に亡くなって別れた日の悲しみは自分の病気を治す方法がないと知った時よりも大きいものであった。
何日泣いたかわからない、何人の人と別れたかなんて覚えられないほどの数を遼太は経験した。
逆に言えば、それはそれだけ多くの人とつながっていたということでもある。
別れるのが嫌ならそもそも出会わなければいい、遼太もそう思った時期はあったし、実際に一時期とはいえ塞ぎこんだこともあった。
しかし、それでも遼太は人と関わることをやめなかった。
遼太は知っていた、信じていたのだ。人とつながることで人というのは強くなれるということを、人とのつながりが、自分に、そして他の人にも勇気と力をくれるのだと。
無駄な出会いなんてないし、無駄な別れなんてない。
たとえ他の人みんながそれを否定しても、遼太は信じ続けた。
なぜなら、遼太自身が、様々な人と出会うことで、生きる勇気と力をくれたのだから。
まだ大丈夫、まだ生きれる、そう思うことができたから遼太は病院生活をつづけられた。
だが、いよいよ限界が来た。
病院の遼太の個室では、様々な機械が遼太の体に取り付けられており、当の本人はひどく浅く小さな呼吸を繰り返して、意識はなくなりかけ、いつ命の灯が消えてもおかしくない状況になっていた。
体も呼吸に合わせて胸がわずかに上下するのみでまともに動かせず、眼もハイライトが失せて霞んで見える。
多くの医師たちが慌ただしく動き回り、両親が遼太のそばでそれぞれ必死に声をかけているが、遼太はそれに反応を返すだけの気力も体力もなくただただ天井を見つめる。いや、それすら意識してそうしているのではなく、体が動かせないが故にそう見えるのだが。
もともと、ここまで生きられたのも奇跡だったのである。
遼太にかけられていた余命は3年以上前に過ぎており、本来ならいつ死んでしまってもおかしくなかった。
それがここまでこの世に生きていられたのは紛れもなく「人とのつながりの力」というものだと遼太は薄れゆく意識の中、心の底から確信することができた。
(…ごめんなさい。お母さん、お父さん。いっぱい迷惑かけて、なにも親孝行ができなくて、何も返すことができなくて。
…ごめんなさい、みんな。子どもたちには今度新しいマジック見せるって言ったのにね。おじさんたちにはまた麻雀打とうって言ったのにね。嘘ついちゃったね。
もし次があったら、そのときは…)
灯が、意識が消える直前、もはや真っ暗で何も見えないはずの目に、暗闇の中に爛々と輝く一番星のような、強くて暖かい光が見えた気がした。
次回からヒロインが出てきます!(ネタバレ)
ということで前世の遼太くんの人生でした。
こういうシリアス(?)なお話は苦手なのでかなり駆け足で終わらせた感がありますがご了承ください。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
ご意見、ご感想、誤字脱字報告もお待ちしております。