咲-Saki-二度目の人生は雀士として 作:468(ヨルハ)
次回からさらに遅くなると思われ…
初めて麻雀が出てきます!
といっても私は麻雀は軽くかじった程度なので細かい描写はできません。
ご了承ください。
それでは、本編へどうぞ。
前世を思い出してから3年、ぼくは6歳になっていた。
あの後なんとか落ち着いたぼくたちはやってきた医師たちに話を聞き、どこにも異常はないということでその日のうちに退院となった。
もともとぼくが気絶した原因も二人の向井遼太の意識と記憶が混ざって脳がパニックを起こしたからであり、ぼく自身もあれから症状が出ることもなかったので問題も起こらなかった。
それからは特に何かあるわけでもなく時間が過ぎていったんだけど、一つ変わったことがある。
「遼太くん!」
「わっ!?明華おねえちゃん!」
声が聞こえたかと思うと、後ろから衝撃が来て、胸に腕を回して明華おねえちゃんが抱き着いてきた。
そう、明華おねえちゃんがあの時以来スキンシップが激しくなったのだ。
いや、前から割とスキンシップはとられていたんだけどあの日以降は拍車をかけて激しくなっている。
同時に明華おねえちゃんと一緒にいる時間が長くなった。
それも明華おねえちゃんの母親がいないときはずっとって言っていいくらいに。
どうにも契機があの日からなのだが理由が分からない。
またあんなことにならないように見ているって感じなのかな?
正直に言うと、恥ずかしいの一言に尽きる。
ぼくは前世を思い出したとはいえまだ子どもで、しかも体の年齢に引っ張られて精神年齢も下がってる気がする。はっきりとは分からないけど。
でもそれを抜きにしても明華おねえちゃんは掛け値なしに可愛いと思う。
体のパーツの一つ一つが整っていて、爛々と煌めく綺麗なルビーの瞳は目が合うたびに惹き込まれそうになる。
将来は間違いなく美人になると明華おねえちゃんを見ていったのはおかあさんだけど、ぼくも素直にそう思えるし、明華おねえちゃんの笑顔に見惚れてしまったことも一度や二度ではなかった。
それに性格だって、純真無垢で仕事でいないことも多い母親に対しても泣きごとを言わずいつだって優しい。そんな優しさにぼくも、おかあさんも、明華おねえちゃんの母親も助けられてきた。
…だからこそ、こうして抱き着かれている現状は恥ずかしくもあり、同時に嬉しくもあるのだが。
あと、明華おねえちゃんを名前呼びにしてるのはこれもまたあの後から明華おねえちゃんに言われたことで
「あの、遼太くん」
「おねえちゃん?どうしたの?」
「えっと、これからわたしのことは…なまえでよんでほしいかなって」
「…え、なまえで?」
「うん!だめ…かな?」
「……うん、わかった。それじゃあ明華おねえちゃん、だね」
っていう経緯からなんだけど、呼び始めてから明華おねえちゃんの笑顔が増えた気がする。
本人が喜んでくれてるならいい…のかな?
「ねえ遼太くん!」
明華おねえちゃんは回した腕はそのまま肩越しにこっちをのぞき込む。
この態勢だと必然的に二人の顔が至近距離になるんだけど多分そんなこと気にしてるのはぼくだけなんだろうなぁ…
「マージャンしよう!」
ちなみにぼくたちの最近の遊びはもっぱら麻雀だったりします。
「ツモ!立直、ツモ、混一、白、ドラ3で4000・8000!」
「あら。」
「また遼太くんのあがりだね!」
「あたた、親っかぶり。」
遼太は意気揚々と点棒を受け取る。
今の面子は上から遼太、遼太の母親、明華、明華の母親で、順位もそのままその順番で遼太が4万点オーバーでトップを走っている。
しかしそれも2位と3位との差はさほどなく、3位の明華も遼太への親満直撃で十分ひっくり返る点差である。
今の局は南三局、今回の対局は半荘戦で行っているため次がオーラスになる。
ジャッ、と小気味いい音とともに牌山が現れ、配牌が行われる。
オーラスの親は明華、そして配牌が終わると、どこからともなく緩やかに風が吹き始め、それが明華に集まり服や髪をなびかせる。
それを見た他の3人は、来たか、と同時にその風の正体に感づく。
今いる場所は室内、しかも開いている窓や扉はなく普通に考えて風なんて入ってくるはずがないのだが、3人はそれに動揺も困惑もすることはなかったのは何故か。
こうなる可能性があったことを"知っていたから"である。
ーーー雀明華は風を引き寄せる
それは遼太たちの中では今や不変の共通認識だ。
いきなりなに意味の分からないことを言ってるのかって思うけどこれは本当のことである。
この世界には普通の常識の埒外にある超能力やオカルトとも呼ぶべき力が存在する。
その最たる例が遼太の目の前にいる後に世間から『
明華には普段からどこにいても風を呼び込む不思議な性質を持っていた。
それが麻雀の対局中に起こると、配牌の時点で明華の手配に自風牌が集まるのである。
攻撃、防御、スピード、火力と様々な状況に対応できる明華のこの能力はかなり強い部類に入るだろう。
そのほかにも麻雀の国際大会、特に女性では稀にそういった能力のようなものを行使している人も見かけることもある。
この世界は前世の遼太の世界とはまるで違う世界であると、遼太は改めて実感していた。
(案の定、{東}は手牌になし…普通なら別に疑問すら持たないけど、今は…)
手配を見て明華の自風牌である{東}がないことを確認した遼太はチラリと明華を見る。
未ださらさらと揺れるシルバーグレイの髪から覗く目が遼太の目と合う。
目が合った明華は満面の笑みを向ける。
それを見た遼太も微笑で返すがその顔は僅かに赤くなっており、少なからず明華に惹かれている自分がいる事実を認識させられる。
そんな中でもオーラス、南四局ははじまり、親の明華からツモっていく。
そして六巡目、
「ツモ!2000オール。」
対面の明華から声が響き、手牌が広げられる。
その手はしっかりと{東}が3枚組みこまれた良形3面張でのアガリ。
さすがに速い、と遼太が改めて明華の実力を認識しつつ、場は一本場。
遼太の手牌は二向聴、しかも手牌に幺九牌が一つのみ、現在トップの遼太は何をあがっても勝ちなので喰いタンの方針に決めると唯一の幺九牌を打牌する。
「ポン!」
3巡目、下家の明華の母親から出た{六}を鳴いて遼太は聴牌をとる。
役は喰いタンのみ、{二筒}{五筒}の両面待ちをとった遼太は卓上と他家を見据える。
上家、下家の大人組は聴牌気配はなくまだ手も遠そうだが、問題は対面の明華。
聴牌こそまだしていなさそうだが、明華の手牌から感じるプレッシャーがかなり大きい。
場には{東}どころか場風の{南}を含めた風牌が一つも見えていないため、これをもし明華がすべて集めはじめているとしたら軽く役満クラス、たとえツモられても他家からの出アガリでも確実にまくられてしまうだろう。
ーーー先にアガる!
より思考が前傾になった遼太は口角をあげて打牌する。
そのまま明華の母親、明華、遼太の母親と回っていき、遼太は山牌からツモるが、きた牌は{北}。
一瞬顔をしかめるが、そのままツモ切りした北に対面の明華が反応する。
「遼太くん、それポン!」
明華が{北}を鳴いた瞬間、明華の手牌のプレッシャーが段違いに増した。
遼太は本能的に明華が聴牌したことを察した。
それも、おそらく役は小四喜か大四喜。
明華の能力は現状自風牌のみを集める能力のはずなのだが、能力がどうのこうので言っても意味はないし、言ったところで現実は変わらない。
ならば信じるは自分自身の運、それだけだ。
遼太の運が上で逃げ切るか、明華の運が上でまくられるか。
その結果は…
「むー…」
「えっと、ごめんね?明華おねえちゃん」
対局が終わった後、ぼくは明華おねえちゃんのご機嫌をとっていた。
これだけで大体の結果は分かったと思うけど、最終的にトップはぼく。
あの後、明華おねえちゃんが捨てた牌がちょうど{五筒}でそれをぼくが和了って終局となった。
明華おねえちゃんの手牌はやはりというべきか小四喜聴牌の{六筒}{九筒}待ち。
しかも山を確認したら次の明華おねえちゃんのツモで{九筒}がつかめていたみたいで本当にギリギリでの勝利だった。
とまあ、ここまでギリギリだったからこそ明華おねえちゃんが頬を膨らませながらこちらから目をそむけているわけなんだけど…
「明華おねえちゃん…」
「プイッ!」
「あ、こんどおかしつくるから!」
「プイッ!」
「え~っと、じゃあぼくにできることならなんでもするから!」
「………」
「あの、明華おねえちゃん…?」
「……………て」
「へ……?」
「きょうからいっしゅうかん、いっしょにねて…」
「え!?それは…」
「なんでもするっていった!」
明華おねえちゃんは顔を近づけながらそう言う。
「あら、だったら枕の準備しないとね~」
「おかあさん!?」
「それなら家から着替えを持ってこないとね」
「おばさんも!?」
大人組二人がニヤニヤしながらトントン拍子で話が進んでいく。
お母さんはなんとなく分かるけどおばさんの方はそれでいいんだろうか…?
一応ぼく男なんだけど…あ、ここっていわゆる男女逆転した世界の上にぼくたちはまだ子どもだからか。
「えっと、おばさん…」
「ん、どうしたの遼太くん?」
「あ、…いちおうぼくおとこなんだけど…」
「あら、大丈夫よ二人なら。なんなら明華のこともらってくれるとウチとしては安泰なんだけど?」
味方なんていなかった。
いや、決して嫌なわけではないんだけど…
「遼太くん、いやだったかな…?」
「!」
明華おねえちゃんはそう言うとわずかにうるんだ瞳でぼくを見上げる。
分かってやってる…わけないよね。
そういうことができる性格じゃないのはなによりぼくが一番知ってる。
明華おねえちゃんは純粋に思ったことを言っているだけ。
その言葉には余計な考えは何もない。
そう、3年前…いや、"ぼく"の記憶の中にあるそれ以前の頃から変わってない。
そんな心が、ぼくにとっては羨ましくて…そんなところに一番惹かれたのかも…ね。
「ううん、いやじゃないよ。…いっしょに、だね」
「…うん!!」
そのとき見せた明華おねえちゃんの笑顔は向日葵のようで、眩しいほどだった。
「イヤっ!!そんなのイヤだよ!!!」
「明華、遼太くんも困ってるでしょ。」
「イヤぁ!!!」
だからこそ、こうしてぼくに抱きついて離さず泣いてる明華おねえちゃんを見ると、どうしようもなく自分の心に雨が降ってるかのように悲しくなってしまう。
時間をさかのぼることほんの少し前、2月も終わり春が近づいてきたころ。
もはやいつもの4人が集まった中で重い口を開いたのはおかあさんだった。
「私と遼太は、日本に行くことになりました」
「……………」
「えっ………」
「…そうですか。それは、寂しくなりますね」
理由はおとうさんの仕事の都合。
おかあさんからウチが転勤族ということは聞いていたし、今回の件については決して驚きはしなかった。
むしろ6年以上というのはかなり長い方だったらしく、これからは基本的に3年周期で引っ越しになるらしい。本拠地を日本に置くのでこれからは日本国内を転々とするといった具合になるんだとか。
正直に言って3年周期云々は割とどうでもよかった。
ぼくとって大事だったのは、もうフランスに住むことができないということ、それはすなわち、明華おねえちゃんとの別れだという事実だ。
仕方がないということは分かっているし、別に一生の別れというわけでもない。
それでも、ぼくにとって明華おねえちゃんは、大事な家族で、どこか惹かれていた女の子で、そしてこの世界で親以外のはじめてのつながりを持った人。
そう簡単に割り切れるほどの存在ではなくなっていたんだ。
「おわかれなんてイヤだよ!!!」
すでに頬に大きな雫を流している明華おねえちゃんがめいっぱいの力で抱きついてきた。
当然ぼくだってお別れなんてイヤだ。
でもそれはもうぼくたちの力ではどうしようもない。
だからこそ、別れは告げないといけない。
「…明華おねえちゃん」
「……遼太、くん…?」
「ぼくたちは、いかなくちゃいけない。明華おねえちゃんとは、いままでみたいにはあえなくなる」
「!イヤッ!!もうあえないなんて…」
「だから!」
でもこれは、ただのお別れの言葉じゃない。
「だから、またぜったいにあおう。やくそく!」
「…遼太くん」
ぼくはそう言葉を締めると明華おねえちゃんの首にあるものをかける。
その正体は羽根の形をした銀のネックレス。
引っ越しの話を聞いてからおかあさんに頼み込んで買ってもらったものだ。
これは、再開の約束。
これは、ぼくと明華おねえちゃんをつなぐための誓い。
ぼくは右手の小指を明華おねえちゃんに向ける。
明華おねえちゃんは未だに涙を流しながらもぼくが向けた小指に目を向ける。
そして、自分の右手をゆっくり差し出すとその小指をぼくのに絡めた。
「やくそくだよ…やぶったらゆるさないからね!」
「うん、やくそく!」
そう約束した二人は、笑っていた。
明華ってこんな性格か…!?
ま、まあ遼太くんが一緒にいてくれて甘えん坊になったと考えれば…うん。
いかがだったでしょうか?
今回でフランス編は終わりです。
ですが明華はまた原作前にどこかで出したいと思ってます。
是非気長に待っていただけたら嬉しいです!
それと、今回初めて牌画像変換ツールを使ってみましたが、「使わないほうがいい!」という声があれば戻すかもしれません。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
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