咲-Saki-二度目の人生は雀士として   作:468(ヨルハ)

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失踪してないです。(真顔)
…ごめんなさい遅くなりました!(土下寝)

それもこれもパソコンに入れておいたデータが吹っ飛んで書き気力がなくなったからなんだ…
一応一定のモチベーションは戻ってきたので更新再開です。




鹿児島編ラストです。
それでは、本編へどうぞ。


第5局 敬慕

 鹿児島に来て、霧島神境のみんなと知り合ってから二年が過ぎた今日この頃、小学3年生になったぼくこと向井遼太はいい加減慣れた足つきで霧島神境へ続く階段を上っていた。

 

 

 初めて顔合わせをしたあの日から、おおよそ二日に一回のペースで神境へ赴き、小蒔さんや六女仙のみんなとは別メニューで修行を行った。

 みんなは物心ついたころから修行は行われていたらしく、はじめたばかりのぼくとは適切な修行の量や質が違うんだとか。

 はじめたばかりのぼくがやることは、『力』とはなんなのか、どのようなものなのか、どうやったら引き出せるのかといった、『力』そのものを知るところから始まった。

 まあ聞いた話では男で『力』を持った人は過去にいなかったみたいだから、神境側もぼくの扱いについては難儀してるみたい。

 

 そして、もちろん修行だけではなく、合間の時間や終わった後の時間を使って小蒔さんたちと親交を深めることも多かった。

 麻雀で遊ぶこともあれば、お互いの学校での出来事について話すこともあった。

 ぼくにとって神道系の学校に通っている彼女たちの話は新鮮だし、霧島神境以外での彼女たちを知れるというのが嬉しかった。

 それはみんなも同じだったようで、興味深そうにぼくの話すことを聞いていた。

 

 

 そして、この2年のなかで新しい出会いもあった。

 

 

 

「はじめまして、石戸明星です!」

「は、はじめまして…十曽湧です…」

 

 

 

 霧島神境の六女仙残りの二人。

 霞さんからの紹介で二回目に霧島神境に来た時に初めての顔合わせになった。

 ぼくより背が低く、霞さんとよく似た少女、石戸明星。名字も霞さんと同じだったので気になって聞いてみたらどうやら従妹の関係らしい。

 ブラックグレーの髪を一部だけ後ろにまとめたような髪型をした少女、十曽湧。

 歳は二人ともぼくよりひとつ年下みたいで、呼び方は「明星ちゃん」「湧ちゃん」で落ち着いた。

 

 二人の印象は正反対で明星ちゃんは快活で積極的、湧ちゃんはおとなしく消極的といった感じだ。

 積極的に話しかけてきてくれた明星ちゃんはすぐ仲良くできたが、湧ちゃんは初日ですぐ仲良く、というところまではいかなかった。

 どうやら聞いたところ同世代の男を見るのは初めてらしく、加えて引っ込み思案な性格から初日はずっと明星ちゃんの後ろに隠れて顔だけ出してこちらの様子をうかがっていた。

 

 別にそれが悲しいわけではなかった。

 こちらから声をかければすぐに明星ちゃんの後ろに隠れてしまうが、逃げ出したりはしなかった。

 それから少しして明星ちゃんの背中から顔をのぞかせると、申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。

 それだけで、ぼくを嫌ってるわけじゃないと、おっかなびっくりながらも自分からこちらへ歩み寄ろうとしてくれている気持ちがあることは言葉にするでもなく伝わってきたから。

 

 だからこそ、そこから湧ちゃんと仲良くなれるまで長い時間はかからなかった。

 ぼくがしたことなんてせいぜいきっかけを作ることくらいだったけど、それで十分だった。

 自分から近づこうとしている人にこっちから距離を詰めるのは逆効果になることもあるというのは前世の子どもたちで体感したことだったから、ぼくがしたのは湧ちゃんが話しかけやすいような環境を作ることだけ。

 その様子を見ていたみんなから「なんだかお兄ちゃんみたい。」という謎の評価をうけて、後に本当に明星ちゃんも加えた2人からそう呼ばれるようになったのは…まあイヤではないし今更何か言うこともないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて思い返すのも束の間、いつもながらに長い階段を登り終えてその先に待っていたのは、ぼくにとってはもう見慣れた人物だった。

 

 

 

「小蒔さん!」

「あ、遼太くん!」

 

 

 

 鳥居の下にいた小蒔さんはぼくの方を向くと陽だまりのように明るい笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。

 足を踏み出すたびに小蒔さんのトレードマークともいえる二つのおさげがぴょこぴょこと小さく揺れる。

 

 この二年間で一番仲良くなった人といえば、おそらく小蒔さんだと思っている。

 ぼくの修行の内容はやはりというべきか、本家筋の修行を鹿児島に住める三年間で力を制御できるレベルまでもっていけるように調整したものらしく、一年もたたずに基礎的なものが終わった後は小蒔さんと一緒に修行することが多かったのだ。

 なればこそ一緒にいる時間も六女仙のみんなより多くなるため、一番仲良くなれたのも必然だったのかもしれない。

 ちなみに本来の案内役である霞さんとは交代で順々に出迎えてくれている。

 今では小蒔さんも初めて会った頃のようなおどおどした様子は全くなくなり、いつも笑顔で嬉しそうに接してくれるのを見るとこっちまで笑顔になってくる。

 ただ、たまに笑顔じゃないときもあって…

 

 

 

「あ、あの…遼太くん。」

「?小蒔さん?」

「えっと…また、手をつないでもいいですか…?」

 

 

 

 小蒔さんは赤くなった顔を俯かせて隠すと、それでも眼だけはしっかりとこちらから離さずに尋ねてくる。

 そう、こうやって小蒔さんは時折ぼくと2人のときに毎回顔を赤くして恥ずかしがりながらも手をつなぐのを望んでくる。

 正直に言ってこっちとしても恥ずかしい気持ちはあるのだが、断ろうとするとシュンッ、とマナリア海溝よろしく気分が落ち込んでしまうし、手をつなぐと顔は赤いままだが実に嬉しそうな顔をするので最近はもう断ろうとするのは諦めてたりする。

 フランスにいた頃に明華お姉ちゃんに手をつなぐ以上のことをしょっちゅうされていたからというのも断ることをやめた理由の一つなのかもしれないけど。

 

 

 

「…はい。それじゃあ、一緒にいきましょうか。」

「…!うん!」

 

 

 

 ぼくが手を差し出すと、小蒔さんはパッと顔をほころばせて手をつないでくる。

 キュッ、とつながれた左手からたしかな温もりを感じながら、ぼくたちは歩幅を合わせて神境の道を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小蒔が遼太と出会ったばかりの時の印象は『不思議な男の子』だった。

 小学2年生の春、本家筋の男の子が力の制御の修行のために霧島神境へやってくると聞いて、驚きと同時にとても緊張していた。

 本家の力を持った男子がいるということ自体初めて聞いたことだし、なにより今まで男子と接することがほとんどなかった小蒔にとってはその本家筋の男の子というのは未知の対象だった。

 

 だが、実際にその男の子ーーー遼太と出会い、話して、その緊張はすぐに薄れていった。

 

 

 

 綺麗な銀色…。

 

 

 

 言葉を交わす前に、小蒔が本当に抱いた第一印象はおそらくこれだっただろう。

 僅かなくすみすらない、それ自体が光を放ちそうなほど澄んだ銀髪。

 今まで見たことのないそれに目を奪われ、我に返るまで僅かながら時間がかかってしまった。

 初日はそれから自己紹介と交流がてらの麻雀を一局だけして終わりすぐ別れることになった。

 修行のために遼太は霧島神境に来て、小蒔たちとは初めての顔合わせで、一緒にいた時間はせいぜい一時間程度、しかも会話をしたのは十分となかったといえるほどの短い時間だった。

 

 それなのに、別れるときに()()()と小蒔は思った。

 これに関しては、小蒔だけでなく六女仙も同様だった。

 

 遼太が彼女たちにとって珍しい存在だったからというのも理由の一つだったかもしれない。

 霧島神境で過ごしてきた今まででまともに見たこともない同世代の男の子。

 加えて明らかに日本のそれではない銀髪と朱瞳。

 遼太のどこか幻想的な容姿は彼女たちにとっての()()()()に変えてしまうのは自然なことだっただろう。

 

 だが、小蒔たちが寂しいと思った理由の多くは遼太のその性格や雰囲気によるものだろう。

 物腰が柔らかく、常にこちらを慮る年不相応の話し方。

 どこか目が離せない、気付けば傍にいたいと思わせてしまうような、そんな儚さや安心感を与えてくれる雰囲気。

 さらには対局のときに見せた麻雀に対する熱と勝負に対する意思という、年不相応な印象を感じさせる普段とのギャップ。

 そんな様々な面を見せる不思議な男の子に、意識的か無意識的か彼女たちは惹かれたのだ。

 

 遼太たちが一緒にいた時間は一時間程度。

 だが、遼太のその人を惹きつける力が小蒔たちに影響を与えるのには十分すぎるほどの時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは小蒔にとって遼太という存在は『大事な友達』にまでなっていた。

 なっていたはず()()()

 遼太を想う感情の転機は、ほんの些細なこと。

 

 

 

 神代小蒔は数少ない本家筋の人間であり、六女仙を従える正真正銘の霧島神境の姫君である。

 故に、彼女に対する態度や扱いは世間一般の同世代の女の子のそれとは大きく異なっていた。

 彼女より何倍も長く生きてきた大の大人たちが齢が両の手で数えられる程度の少女に(へりくだ)り、直接触れることすら(はばか)られてきた。

 例外としては小蒔と同年代の霞たち六女仙がいるが、やはり子どもながらにも姫君と六女仙、主と従者という関係が根底にあるからか、仲がいいのは確かだがどこか一歩引いた親交になっていた。

 

 そんな中、遼太だけは()()だった。

 いや、彼もまた小蒔に対して敬意は払っていたし、常に慮っているが、それはあくまで年上の女性としてや修行の先輩としての意味合いが強く、同時にそれが遼太にとっての当たり前であった。

 なればこそ、遼太は小蒔だけでなく霞たち六女仙にも神境の大人たちにも同じような態度で接している。

 

 

 つまり、小蒔だけを特別視しなかったのだ。

 それに小蒔が気付いたとき、どれだけの嬉しさがあったのかは彼女の立場を考えれば想像に難くないだろう。

 だからこそ、ある日小蒔は霞にあるお願いをした。

 

 

 

「あの、霞ちゃん…ちょっとお願いがあるんですけど…」

「あら、珍しいわね。どうしたの?」

「き、今日の遼太くんの出迎え、私にさせてもらえないかなって…」

「それは構わないのだけど…何か理由でもあるの?」

「あ、いや!何かあるわけではなくて…!で、でも何もないってわけでも…」

 

 

 

 そうしどろもどろに言う小蒔は顔を赤らめながら手をパタパタと振り、どんどん声量が小さくなり顔を俯かせる。

 今まで見たことのないような表情を浮かべる小蒔を見た霞は何かを察したのか、小さく微笑んだ。

 

 

 

「それじゃあお願いしようかしら。あと10分もすれば来ると思うからそろそろ準備した方がいいわよ?」

「!はい、行ってまいります!」

 

 

 

 そうして鳥居の前まで走り待つこと数分、コツッコツッと音を立てながら階段の奥から遼太が顔を覗かせた。

 小蒔を視認した遼太はわずかに驚いた顔をすると声をかける。

 

 

 

「小蒔さん?どうしてここに…」

「えっと、少し話が…というより、してほしいことがあるといいますか…」

 

 

 

 そこで一度言葉を切った小蒔は深く深呼吸を始める。

 そして数十秒後、ようやく落ち着きを取り戻したのか最後に一度ゆっくり息を吐くと、覚悟を決めたような顔でまっすぐ遼太を見て、口を開いた。

 

 

 

「広間に着くまででいいので、手を…つないでくれませんか!!」

「へ…?」

 

 

 

 完全に想定外の言葉だったのか遼太はポカンッと呆けた表情を浮かべる。

 だが、相当な勇気を振り絞ったであろう小蒔の表情は真剣そのもので冗談を言っている風ではないのは分かるし、そもそも小蒔が冗談を言う性格ではないのは遼太もよく理解している。

 しかしなぜそんな頼みをされるのか皆目見当がつかなかったのか、遼太はとっさに言葉を返すことができなかった。

 やや思考停止していた遼太を見て不安に思ったのか小蒔は二の句を継ぐ。

 

 

 

「ダメ、でしょうか…?」

「あ…。…いいえ、そんなことでよければ。」

 

 

 

 かぶりをふるとゆっくりと左手を差し出す遼太。

 小蒔はまだ緊張があるのか両手をキュッと胸の前で組む。

 が、そうするのも束の間、手を開くとその両手で目の前にある左手を包み込む。

 

 

 

「…温かい、ですね。」

「そう、ですね…」

 

 

 

 包んだ手から感じる温もりに小蒔が頬を緩めると、遼太もつられて微笑む。

 

 小蒔は人の温もりをその身で感じる機会はほとんどなかった。

 親の愛情はあったのだろう、六女仙のみんなも仲はいいし神境の大人たちもよくしてくれている。

 だが、やはり霧島神境の姫という立場からか、直接誰かに触れることなど物心がついた頃からは既に皆無だった。

 

 覚えている限りでは初めてといっていいくらいの人の温もり。

 触れ合っているのは手だけなのに、どうしてか体の芯まで、そして心までもが温かくなっていくかのように感じる。

 その温もりを忘れまいと、逃すまいと小蒔はさらに強く手を握り締める。

 それを感じた遼太もまた、小蒔の手を少しだけ強く握った。

 

 

 

 ---好きです。遼太くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いらっしゃい遼太くん。小蒔ちゃんも出迎えお疲れ様…って、あらあら。」

「…遼太と手をつないでる…」

「へ!?あ、これは…!!」

 

 

 

 霧島神境本殿に着いていつもの広間に入ると、そこにいたのは霞さんと春の二人。

 他の六女仙の面々はどうやらまだ修行中らしい。

 二人はこちらを視認するとまず目を向けたのが未だにしっかりとつながれた僕と小蒔さんの手。

 霞さんは微笑ましいものを見たような目を、春は表情こそほとんど変わっていないけど僅かにジトッとした目をそれぞれ向けてきた。

 小蒔さんは春にそう言われてようやく未だに手をつないでいることを思い出したのか、先程よりも顔を赤くさせてあわあわと手を放す。

 そういえば誰かに見られるのは初めてだっけ、と思いながら遼太も遼太で少し赤くなった顔をごまかすように横に眼を背けながら頬をかいた。

 

 

 

「遼太…」

「どうしたの春…ムグッ!」

「あら。」

 

 

 

 呼ばれた遼太が春の方を向くと、突然口の中に何かを押し込まれた。

 大方さっき手に持ってた黒糖だと予想がついた遼太だが、彼にとって問題はそこではなかった。

 口に入った黒糖のまろやかな舌触りとは別になんだか細くて生暖かいものが同時に舌に当たる。

 咄嗟に視線を下に向けるとそこにはいまだに口の中に入ってる春の指が見えた。

 

 

 

「!?…っぷは、春!いきなり何を…」

「美味しい?」

「へ?あ、うん、風味があって美味しかったけど…ってそういうことじゃなくて!」

 

 

 

 遼太は咄嗟に春の腕をつかんで口から離す。

 春はそれを気にしないかのようにコテンと首をかしげて感想を聞いてきて、遼太もその空気につられたのか素直に感想を返すが、いやいやとすぐ首を振る。

さすがに遼太もこんな経験は初めてだったのか普段のようなどこか大人びた印象は鳴りを潜め、年相応な慌てた様子を見せる。

 

 

 

「それならよかった。」

「いや、だから春ってば……………ん?」

 

 

 

 ふと、遼太はあることに気が付いて視線が固定される。

 その視線の先にあったのは春の顔。

 より正確には、わずかに赤みがさした春の頬だった。

 

 滝見春という少女は表情を変えることはあまりない。

 しかし、それは決してポーカーフェイスをしているのではなく感情が表情に出にくいということであり、彼女の性格自体はいたって素直なのだ。

 それに、表情に出にくいだけであって全く出ないわけではない。

 むしろ、その素直な性格と相まって小さいながらもたしかに表情に変化は起きるため、しっかり見ていれば春の感情を読み取ることはさして難しくはない。

 

 

 

「…えっと、もしかして春も恥ずかしかったの?」

「!………ん。」

「それで誤魔化そうとあんな…」

 

 

 

 さっきの行動にようやく納得といった様子を見せる遼太。

 無論遼太にはなぜこんなことをしたのかということまでは分かっていないのだが、そこは前世で同年代の女性関係がほとんどいなかったために特別な誰かを好きになることがなかったが故である。

 所謂初心なのである。

 一つ言及しておくと、遼太は人の感情の機微には聡い方である。

 それは明華をはじめ、小蒔たちもその身をもって知っていることだが、彼はそれが自身に向けられたものになると途端に鈍くなる。

 それはもう好意であろうと対抗心や嫉妬心であろうと直接口に出して伝えない限り伝わらないほどだったりする。

 

 

 

 

 

 んー、と遼太が未だに春の行動の理由を考えていると、完全に思考に耽っていたのか後ろからギュッと抱きしめられるまで誰かが背後に回っているとこに気づかなかった。

 

 

 

「ひゃ!?」

 

 

 

 突然のことに遼太が素っ頓狂な声をあげて慌てて後ろを振り向くと、いつもの笑みを崩さず遼太を見つめる霞と目が合った。

 加えて二人の体格の関係上、後ろから全身を包むように抱きしめられている遼太は霞から香る甘い香りや既に小学生とは思えないほど発達したふたつのおもちの感触をダイレクトに感じられ、耳まで赤くなりながらも極力意識しないようにしながら話を進める。

 

 

 

「か、霞さん?」

「小蒔ちゃんと春ちゃんとは触れ合って、私には何もしてくれないのかしら?」

「あ、それは…」

 

 

 

 霞はさらに抱きしめる力を強くする。

 

 遼太はこの2年間霧島神境で一緒にいて分かったことがある。

 それは、霞は意外とからかい癖があるということだ。

 遼太と霞が初めて会った日もそうだったが、霞は時折こうして遼太のことをからかうことがある。

 時には言葉で、時には今回のようにその身でもって。

 遼太にとってはボディタッチなどは明華で多少の耐性はついていたが、それでも当時の明華と今の霞とでは歳が違えば体の成長具合も違う。

 故にこうされるのも慣れずに未だに毎度のことドギマギしてしまう。

 そしてそれを見るたびに霞はイタズラが成功したような笑顔を見せる。

 

 

 

 だからこそ、今から遼太がすることはちょっとした意趣返しである。

 遼太は体にまかれていた霞の腕を優しくほどくと、反対を向いて霞と正面から向かいあう。

 この時点で霞はキョトンとした表情を浮かべるが、それに遼太はさして触れることもなく意を決したような表情で顔を霞の目と鼻の先まで近づける。

 いきなり視界が銀と朱に染まったことでようやく事態を察した霞は狼狽えながらも言の葉を紡ぐ。

 

 

 

「遼太くん?ど、どうしたのかしら…?」

「………」

 

 

 

 いつものどこか余裕を持った雰囲気からかけ離れた霞の様子に内心もうやめようかとわずかな罪悪感にとらわれた遼太だが、自分でも分からない謎の意地によって踏みとどまる。

 そして遼太はゆっくりと右手を上げると、それを霞に向けて伸ばす。

 霞はからかいすぎて怒られると思ったのか咄嗟にギュッと目をつぶってしまう。

 遼太が手をあげるなんてことは万が一にもありえないと頭では分かっていてもそうしてしまうのは、大人びていても霞がまだまだ子供であるという証左なのだろう。

 

 目をつぶって何も見えていない霞が次の瞬間に感じたものは、何かが頭にのせられたような感触だった。 

 予想にもしていなかった出来事に霞が目を見開くと、そこにあったのは自分の頭にのせられた右手と、どこまでも優しさに満ちたような瞳でこちらを見る遼太の姿だった。

 

 

 

「いつものお返し、なんてね。」

「え、あ…」

 

 

 

 霞は突然のことで茫然自失となる。

 遼太はそれを見るとまるで割れ物を扱うかのようにゆっくりと霞の頭をなでる。

 なでられた霞は恥ずかしいやら嬉しいやら心地いいやらと様々な感情が飛び交いながらも、無意識的に頭を少し遼太に向けて体を寄せる。

 

 

 

「ごめんなさい、怒られるって思ったんだよね。」

「それは…」

「まあ何も思わなかったわけじゃないんだけど。アレされるの、かなり恥ずかしかったんだよ?」

「ご、ごめんなさい。」

「うん。こっちこそごめんなさい。これでおあいこ、だね。」

「!ふふっ、そうね。」

 

 

 

 二人は目を合わせると、はにかむように笑いあう。

 あふれるように感じられるあらゆる暖かい感情。

 それを見て、感じた小蒔と春もまた、頬が緩むのを抑えることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別れのときほど今まで過ごした時間が短く感じられるもの。

 前世から一向に慣れないなと思いつつ、お父さんの転勤で引っ越しの日を迎えたぼくはお母さんとともに霧島神境へ挨拶にきていた。

 ぼくは大人の人たちに挨拶を済ませると、小蒔さんたちの方へ向かう。

 小蒔さんや霞さんたち六女仙のみんなはそれぞれ寂しそうな表情をしながらも、それでも決してぼくを引き留めようとはしなかった。

 

 

 

「みなさん、今まで本当にありがとうございました!」

 

 

 

 ぼくがそう言うと、みんなもそれぞれ言葉を返す。

 

 

 

「ええ、こちらこそありがとう。本当に、忘れられない日々だったわ。」

「たまには、連絡してくださいね?」

「いつでも私たちは大歓迎なのですよー。」

「さようならは、言いません。絶対にまた会えると信じてますから。」

「待ってる。」

「お兄さん、一緒にいれて楽しかったです!」

「お兄さん、向こうでも、お体には気を付けて…」

 

 

 

 皆の言葉で思わず涙が出てきそうになる。

 明星ちゃんと湧ちゃんなんかは言葉を伝えたら泣き出してしまったほどだ。

 なんとか二人をなだめ終わると、今度は小蒔さんが瞳を潤わせながら一歩前に出てきた。

 

 

 

「遼太、くん。最後に手を、つないでいいですか?」

「…はい、もちろん。」

 

 

 

 なんとなく小蒔さんの言うことが予想出来ていたぼくは小蒔さんが差し出した両手を同じく両手で握り返す。

 小蒔さんはつながれた手を見ると顔を綻ばせる。

 それを見てぼくやみんなも笑顔になる。

 たっぷり数分間つながれた手がようやく離れる。

 その間、誰も言葉を口にすることはなかったが、その沈黙が嫌なものでなかったのはもはや言うまでもないことだった。

 

 

 

「遼太。」

「…うん、分かった。」

 

 

 

 お母さんに呼ばれ、ぼくは荷物を持ちお母さんの元まで歩く。

 神境の出口までいくと、最後にみんなの方へ振り返る。

 

 

 

「きっとまた会えます。だから、またね。」

 

 

 

 別れを告げる言葉ではなく、再会を約束する言葉。

 それを聞いた彼女たちが返す言葉もまた、同じものだった。




サボってた間にも評価が上がっていたことに嬉しいやら申し訳ないやらです。
あ、モチベーションアップのために他の小説をちょこまか書き進めていたのでもしかしたら出すかもです。
まあしばらくは当小説を進めるので当分先になるかと思います。

本編ですが、しばらく書いてなかったため書き方が統一できなかった気がします…
少しでもお気に召してくだされば幸いです。


それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!
ご意見、ご感想、誤字脱字報告もお待ちしております。




追記)8/6誤字修正いたしました。
報告してくださった方、ありがとうございました!





評価ありがとうございます!
☆10
紅頚黄鼓光慧航行さん
逆行したら野球がしたいさん
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前原圭一さん
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☆9
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