いただきます!鈴瑚のグルメレポート   作:ワン眞瑠★

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第2話 華麗なるカレーライス

 

「早苗ー、ただいまー」

 

 諏訪子様は私に向かって手招きすると、守矢神社の中に、まるで消えるように入っていった。しかし、やっぱり何度見ても荘厳で趣のある雰囲気が漂っている。まるで心が引き締まるような感じね。こんな山の中にあるのに、境内には落ち葉1つ無いし、神社にはホコリや汚れ、傷などが全く見当たらない。いつ観光客や参拝客が来てもいいように、掃除や手入れが隅々まで行き届いている。神様の2人が掃除するとは考えにくいし、そう考えると早苗さんってあんなチャラそうな見た目なのに意外としっかりしてるのね。

 

「おーい鈴瑚ー!来ないの?」

 

「あ、はーい!行きまーす!」

 

 諏訪子様が神社の入り口で手を振ってくれている。待たせてしまうのは申し訳ないし、お言葉に甘えて思いきりいただきます!

 

 

 

 守矢神社の廊下を進むと、カレーの芳しく芳醇な香りがどんどん強く感じ取れるようになってきた。どんな具材を入れているのかな?カレーのルーは甘口かな?それとも口から火が飛び出るほどの激辛なのかな?ああもうカレーのことを考えているとよだれが出ちゃいそう!

 

「鈴瑚、また鼻がヒクヒク動いてるよ」

 

「ええっ!?あちゃー、また無意識のうちに……」

 

「アハハハッ、鈴瑚って本当に食いしん坊なんだね!早苗は最近料理に凝ってるみたいでね。大丈夫、味は保証するよ」

 

「そうなんですね!いやーそれは楽しみです!」

 

 匂いに誘われるまま廊下を進み、守矢神社の奥にある居間へとたどり着いた。居間には中央に大きく丸い卓袱台が置かれ、その上に人数分の箸やスプーンが並べられている。そして卓袱台の中央には大きなお皿に盛られた、色鮮やかなサラダが眩しく輝いている。新鮮で瑞々しいレタスにキャベツ、真っ赤に輝くトマト、そして大きめに切られたジャガイモが顔をのぞかせるポテトサラダ。それに何より、サラダの頂点にドンと鎮座し、燦然と輝く千切りの人参!ああもうこのサラダを見ただけでワクワクが止まらない!早く食べたい!

 諏訪子様に促され、座布団の上に腰を下ろす。あらためて居間を見渡してみると、神社に負けないくらい趣ある部屋だ。部屋には書院造の床の間があり、誰が描いたのか分からないけどなんかすごそうな掛け軸がかけられている。そして隅々まで綺麗に掃除されている。こんなに広い神社の中を綺麗に掃除するのは一体どれほどの時間と労力がかかるのだろうか。

 部屋を見回していると、障子が開く音が聞こえ、居間に早苗さんが入ってきた。

 

「あー、鈴瑚さん!とうとう非常食になる気になったんですね!?」

 

「そんなわけないですよ!もう!」

 

 早苗さんは私の顔を見るなり、目をキラキラと輝かせてとんでもないことを口にした。あの異変で妖怪の山の自然を破壊してしまったことに早苗さんも怒りを覚えたのだろう。関係を改善できた今でも、早苗さんは私たちを見るなり「兎肉」とか「食料」とか開口一番物騒な言葉を口にするようになった。冗談だと分からなかった時は清蘭も私も心底震え上がってしまった。だって嘘とも本当ともとれる表情に加え、目の輝きが判断を迷わせる。いい加減やめてほしいんだけどなぁ。

 

「おっ、非常食に兎肉とはなかなか乙なもんじゃないかい」

 

「あー、もう神奈子様までそんなこと言わないでくださいよー!」

 

 もう早苗さんに乗っかってこないでよ、神様が言うと恐ろしさ倍増なんだけど。っていうかいつの間にそこに座っていたんですか!?神出鬼没というか、神様ってすごいのね。でも、改めてこの3人を見ていると、かなりすごい面々だ。3人の神様に囲まれていると自然と身が引き締まる。

 

「さあ、諏訪子様もご自分の席に座ってください。今からカレーライスを持ってきますね!」

 

「あ、私も手伝いましょうか?」

 

「そう?ありがとうね!じゃあ私について来てください!」

 

 早苗さんの後に続いて神社の台所へ生まれて初めて足を踏み入れた。おお、神社の台所だから、てっきり土間や釜戸なんかがあると思っていたけど、台所の床はフローリングだし、コンロやレンジ、巨大な冷蔵庫にオーブンまで備え付けられている。ここに置いてある設備はどれも最新型じゃないか。これは料理にハマるのも無理はないかもね。そして、何より台所に入った瞬間カレーの芳しい香りが一層強く感じられる。そのカレーのありかは、絶対にコンロの上に載せられた鍋の中だ。ああ、この香りを嗅いでいるだけでどんどんお腹が減ってきたよ……。

 

ぐぎゅるるるるぅぅぅ~

 

「あっ……」

 

 もう待ちきれないと言わんばかりにお腹の虫が大きな声で鳴き叫んだ。

 

「ふふふっ、そんなに慌てなくてもいいですよ。ではそこのお盆を持ってきてくれませんか?」

 

「はっ、はい」

 

 途端に恥ずかしくなって、真っ赤に染まった顔を見せまいと早苗さんが指差した方向に顔を向けた。指さした先には大きな食器棚があり、下段に3段の引き出しが備え付けられている。早苗さんに言われたとおり一番上の引き出しを引くと、中に大きなお盆が入っていた。

 そのお盆へ手を伸ばそうとした直後、鼻をくすぐる、食欲にガツンと直撃するスパイシーな香りが台所いっぱいに広がった。ああもうよだれが止まらない!

 

「じゃあこれ、気を付けて持って行ってね」

 

「はい!」

 

 私が持っていったお盆に、早苗さんがお皿に盛られたカレーを2つ載せてくれた。わああ、守矢神社のカレーってこうなんだ!具材はジャガイモに豚肉、玉葱、そして人参!使われている具材はオーソドックスなんだけど、どれも大きめに切られていて、食材の味や食感を楽しむことができそうだ。純白に眩しく輝く白米と色が濃いルーの対比が美しく、これはもう一目見ただけでもう美味しいってわかるよ!

 

「はい、お待たせいたしましたー」

 

 つまみ食いをしたい衝動を抑えながら、そう言って神奈子様と諏訪子様の前にカレーライスを差し出すと、お礼を言って受け取ってくれた。そして自分の席に戻ると、早苗さんが自分の分を持ってきてくれた。それを受け取った途端、嬉しさで思わず歓声を上げてしまった。なぜなら……

 

「わああああ!人参がいっぱい!!」

 

「お手伝いしてくれましたし、そのお礼ですよ」

 

「ありがとうございます!!!」

 

 カレーライスのルーの中には、大きく切った人参増し増しで入ってる。人参は私の大好物だよ!

 早苗さんも自分の席に着いたところで、さっそく頂きましょう!私は、食事をするときは絶対にあの言葉を口にするよう小さいころからしつけられてきた。例え生死を分ける戦場でも、寝起きで頭がボーっとしている時も、一回たりとも欠かしたことがないあの言葉。さあ両手を合わせて、目を閉じて。

 

「いただきます!」

 

 私たちが生きていくためにその命をささげてくれた多くの食材に感謝の気持ちを込めて。

 心の中でお礼を述べ、ゆっくりと目を開ける。目の前には早苗さんが作った大盛りのカレーが一つ。スプーンを手に持ち、ルーの中に差し入れる。程よいとろみが付いており、スプーンによくからむ。私はどちらかというと、さらっとしたルーよりもこのように少しどろっとした方が好きだ。ご飯をすくい、ルーにくぐらせて……。あ、ついでに豚肉も乗せよう!もう待ちきれないと言わんばかりに、勢いよくスプーンを口に入れた。

 

「あーんっ!」

 

 口に入れた瞬間、あまりの美味しさに驚き目を丸くしたが、カレーの味に浸るようにゆっくりと目を閉じた。

 ん、んまぁーい!!何このカレー!使われている具材は一般的な物とほぼ変わらないのに、なんでこんなにも濃厚で奥深い味わいなの!?口に含んだ瞬間舌や粘膜を駆け巡るスパイシーな辛さ。でも強く鋭くない、優しい辛みが口の中を刺激し、数種類のスパイスの香りが鼻へと抜けていく。そしてその後からやってくるまろやかで芳醇な風味。野菜の甘味、肉のコク、それらが混ざり合って見事に調和したルーの旨味が口いっぱいに広がる。それだけじゃない。一緒に食べたこの豚肉。大きめに切られているのに、軽く噛んだだけでほろほろと解けるような優しい食感。噛むたびに溢れ出す肉の濃厚でこってりとした脂の甘味とコク。それが口の中でルーと混ざり合って、お互いの味をより引き立たせる。

 

「あむっ!」

 

 そして今度は私の大好きな人参を二つすくい上げ、パクッと頬張る。人参特有の苦みは感じられず、本来持っている見事な甘みが噛むたびにほどけ、優しく口の中に広がる。歯を入れるときにわずかに押し返される程よい硬さも相まって、ずっと噛んでいたくなるくらいだ。これは早苗さん、下ごしらえの時から手を抜いてないな。さっき諏訪子様が料理に凝っていると言っていたけど、これはもうプロの領域でしょ!

 ……もう我慢できない!カレーをライスごと豪快にすくい、勢いよく口に放り込む。そしてそのままジャガイモ、ニンジン、豚肉、玉ねぎもすくいあげ、文字通り口いっぱいに頬張った。

 

「んんーっ!」

 

 ああー、たまらない!一回一回咀嚼するごとに、豚肉の柔らかさやニンジンの弾力、ほくほくとしたじゃがいもに、程よい歯ごたえのご飯、それぞれの食感を感じることができ、噛むのが楽しくて止められない。そして噛むたびにそれぞれの持つ旨味やコク、奥深い味わいが一つに混ざり合い、調和し、口の中隅々まで広がっていく。そしてごくっと飲み込むと口の中に優しいスパイスの風味が残っていて心地よい。

 

「ふぃー」

 

 今、初めて暑いと感じた……。今までカレーの味に集中し、堪能し、余韻にどっぷりとつかっていたため、自分が汗をかいていることにたった今気付いた。これほどすがすがしい汗をかいたのはいつ以来だろうか。額を流れる汗を腕で拭い、キンキンに冷えた水を一気にゴクゴクと体に流し込んだ。突き抜けるように流れ込んでいく冷たい奔流は、夏のうだるような暑さと、カレーで火照った体を優しく冷ましてくれた。

 

「っぷはぁー!」

 

 ふぅーと長めに息を吐いて一息ついたとき、3人がじっと私の方を見つめていることに気が付いた。

 

「え、えっ!?皆さんどうしました!?」

 

「いやー、だって鈴瑚があまりにも幸せそうに食べていたから、つい見ていたくなっちゃってねぇ」

 

 そう言いながらニヤニヤとした表情を浮かべている神奈子様を見ているうちにどんどん恥ずかしくなってきた。ほかの2人も笑いながらうんうんと頷いているのを見て、一気に顔が赤く染まっていくのが分かった。

 

「それに、食べているときに耳がヒクヒクと動いていましたよ。鈴瑚さんって可愛らしい所もあるんですね!」

 

「もう!見ないでください!」

 

 早苗さんから言われた衝撃の事実に、思わず顔を両手で覆ってうずくまった。え、耳が動いてた!?え、今まで全く気が付かなかったの!?もしかしてこれって私の癖!?無意識に動いていたの!?……っえ、じゃあ清蘭はこのこと知ってたの!?知ってて教えてくれなかったの!?

 あまりの恥ずかしさに思わず頭がパニックになった。頭の中で次々とわからないことが浮かんでは消えていく。一体私はいつから美味しいものを食べると耳が動くようになったのだろうか?どうして動くの?今暑さともカレーの熱気とも違う汗をだらだらとかいている。ああもうどうしよう……。

 

「ま、まあ気にしすぎですよ。気持ちを切り替えてカレーを食べましょう」

 

「う、うん。そうする」

 

 確かに早苗さんの言うとおりだ。こんなこといつまでも気にしていてはしょうがない。あとでアジトに帰ったら清蘭を問い詰めるとして、今はこのカレーをしっかりと堪能しよう。

 

「あむっ!うん美味しい!」

 

「ほら、また耳がひょこひょこ動いてる!」

 

「ちょ、ちょっと諏訪子様!」

 

 カレーを夢中で頬張りながら、私は心に誓った。開き直ろう。もう気にしないことにしよう。これが私の個性であり癖なんだ。それに早苗さんが言ってくれた、「可愛い」と。そう、私は可愛いんだ。美味しいものを食べるときに無意識のうちに耳をひょこひょこと動いちゃう私は可愛いんだ。そう言うことにしよう。MGMG……。

 

 カレーを堪能していると、外で何やら物音が聞こえた。誰かがやってきたのだろうか。そしてその後に響いた女性の声。私はその声に聞き覚えがなかった。

 

「すみませーん!早苗さんいますかー?」

 

「はーい!……ちょっと行ってきますね」

 

 名前を呼ばれた早苗さんはそう言い残し、席を立った。その時の表情からして、さっきの声の主を知っているかのようだ。諏訪子様と神奈子様も、誰が来たか分かっているようで、2人して顔を見合わせている。

 

「あの、誰が来たんですか?」

 

「それはあれだよ、幻想郷で一番…」

 

 神奈子様の言葉を遮るがごとく、守矢神社の廊下をドタドタと走ってくる足音が聞こえ、そして勢いよく障子が開け放たれた。

 

「お食事中に失礼しまーす!」

 

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