バハルス帝国の贄姫   作:藤猫

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偶然の邂逅

 

 

「ああ、リスさん、奇遇ですね。」

 

目の前の漆黒の鎧を纏った男が自分に弾んだ調子で話しかけてきた瞬間、リリーは本気でこいつ殴っていいだろうかと考えた。

 

 

 

「はあ・・・・」

「どうした、リス?」

 

珍しく、陰気、と言えるような空気を醸し出しているリスにイビルアイは不思議そうな声を出した。

それに、リスはいいえと首を振った。

そうして、脳裏に浮ぶのはいけ好かない黒の全身鎧を纏った男だ。

現在、リリーはイビルアイと共に八本指たちの主立った施設を襲撃している。

 

(なんで、昨日の今日で、こんなことに!!)

 

リスは頭を抱えたくなった。

リリーの脳裏には、別行動とは言え、なぜかずっとつきまとわれ続けている黒い騎士についてだ。

事の発端は、道ばたでセバスに会ったことだった。

 

モモンから逃れるように歩き出した後、ふらふらと道を歩いているとどこか困った顔をしたセバスに会った。

 

「リス様!」

 

リスはそれに、また主人に会えという話しかと思い、なんだと待ち構えた。それに、セバスは駆け寄ってくる。

非常に綺麗なフォームだった。

 

「何か用か?」

「・・・・あちらが家に来ました。」

 

それにリスは仮面の下で苦い顔をした。

 

(やっぱりばれたか。いいや、セバスの爺さん自体はちゃめちゃに目立つから着けられたか。)

 

リリーは、取引した男は死んでいるかなあと考える。まあ、大方急に羽振りが良くなりげろったのが実情だろう。

 

「・・・・誤魔化しは?」

「しましたが、確信は持っているようです。あの子も、雑用でどうしても庭先に出ていたときもありましたので。」

 

リリーは頭を抱えたくなった。

お前―!もっと警戒!!

が、そんなことも言ってられないのも事実だ。

 

(・・・・私が引き取ることも出来るが。あまり王国とリリーという存在の関係を示唆する者を残しておきたくはない。なら、王国の人間に預けるのが得策、だとして。)

 

リリーは己の伝手である蒼の薔薇からラナー王女へ頼めないか考える。

己の中の兄が呆れた顔でほおって置けといっているが、もう、自分は彼女について足をツッコんでしまっているのだ。

ならば、もう、最後まで行き着くしかないだろう。

 

「・・・・わかった、なんとかしてやる。」

「どうされるのですか?」

「・・・・・保護してくれそうな人の宛てがある。そこに行く。」

「私も行ってもよろしいですか?」

 

セバスのそれにリリーは悩むが、話しの中心である男がいた方がましかと思い、つれていくことを決めた。

そのままリリーたちは、帰ってきたばかりの蒼の薔薇の元に向かう。

そうだ、その途中で子どもを助けたりだとか色々ありはしても、そこまでは順調だったのだ。

セバスに興味を持ったクライムだとか、ブレイン・アングラウスだとかに会ったときも。

それ以上に、リリーは嫌な予感で胃がキリキリしていた。

もしかして、このじいさん、はちゃめちゃに強いのでは?

 

(待て待て、まさか、この爺さんもプレイヤー関係!?どこのだ?でも、あの子を助けようとしたところから見て善性ではあるのか?)

 

リリーはまた調べる必要がある所を見て、頭を抱えたくなった。が、そんなことはブレインの登場で一旦は置いておくことにした。

 

(うわああああ、ブレイン、こっちにいるの!?くっそ、あの野郎、こっちに気があるような話しといて、こっちに着く気か!?)

 

リリーは以前、勧誘をかけたブレインがどうも王国に居着きそうな気配を察して歯がみする。

 

(なんとか、後で勧誘かけたいな。でも、帝国側であることも話せないし。何とかしよう。)

 

リリーはどうも、以前と男の様子がまったく違うことに気づいた。そうして、話しの文脈として自信を失っていることにも。

 

「・・・・リス殿も、なぜ、あの殺気の中で立っていられたんだ?」

 

話を振られたリスは何と答えようかと考える。適当に答えても良いが、それはそれとしてブレインの好感度は手放したくないために真面目に答えようかと考える。

何故?

簡単だ。

 

リリーは一度は、百合として死んだ身だ。そのせいか、どこか、死に対して鈍いのだ。死への恐怖が麻痺してしまっている。

そのおかげで、彼女は少なくとも、戦いから遠いはずだった百合としての在り方を持ってなお、戦いに順応できたのだ。

 

(なんて、話せるはずもない。)

「・・・・人なんて、いつ死んでもおかしくないだろう?」

なら、死を恐れてもしょうが無い。

 

あっけらかんと、そう答えるしかなかった。

その台詞に、ブレインはもちろん、少しは交流のあったクライムも驚いた顔をした。

 

「人は生きているけれど、結局行き着くのは死だ。死ぬしかない、死に至るしかない。それが、長いか短いか、それだけだ。なら、恐れたって仕方が無い。負けてしまうとわかるような殺気の中でも、やることをやるしかないだろう?」

「・・・そこまでの境地、俺には至れそうにない。」

「ブレインという名前は聞いたことがある。あんた、圧倒的な何かに負けたのか?」

「・・・・ああ、化け物に会った。それで、心も折れた。」

(まじか、まだそんな化け物いるの?いや、ブレイン自体のレベルは、この世界では高いけど、私も殺せるしなあ。)

 

その化け物のレベルがわからずに。何に会ったのだろうかと考えて、リリーはブレインに聞いてみた。

 

「なら、歩みを止めるのか?」

「え?」

 

リリーはちらりと、ブレインの腰にある得物を見た。

 

「心が折れたというが、お前は未だに得物を持ち、そうして、強者の存在に惹かれてここまで来た。それは、まだ、諦めていないと言うことだ。お前はまだ、歩みを止めていないのなら。」

お前はまだ、強くなれるんじゃないのか?

 

リリーのそれに、ブレインは目を見開いた。

 

「いた、れないほどの高みがあっても、か?」

「上を見上げれば切りが無い。その怪物も、神の前ではどうしようもないだろう。個々人が出来るのは、己の至れる場所を目指せるかどうかだ。お前の最高は、ここなのか?」

 

ブレインの指先が震えた。それにリリーは祈る。

 

(頼む、折れないでくれ!戦い続けてくれ!そうして、うちに来てくれ!!)

 

心の内は、下心で満たされていたが。

 

「諦めて、剣士以外を目指すのもいいが。少なくとも歩き続ければ、どこかに至れるだろう。いつか、死ぬしかないのなら。届かない果てを目指しても良いだろう。人の人生は短いのだから。」

 

ブレインの目が見開かれて。

 

「・・・・・申し訳ありません。どうも、客人が来たようです。」

 

その言葉に四人の目の前に、人影が三つ現れる。それに、リリーは、八本指の人間であることを理解した。

 

(・・・・うわああああ、こんな狭いところで魔法とか、誰か巻き込むじゃねえか!)

 

それでもと覚悟を決めてリリーは構えを取る。そうして、ちらりとセバスを見た。

 

(私はクライムの補助に回って、セバスの爺さんの実力を量るか。)

 

なんてことを考えていた時だ。

 

「・・・・どなたか、来られますね。」

 

セバスのそれに、皆がなんだと視線を向ける。

言葉の通り、路地の向こうから人影が現れた。

それは、先ほど恐怖で逃げ出したはずの男で。

 

「ああ、リスさん。奇遇ですね。」

 

リスはそれに一瞬、逃げ出すことを考えた。

 

 

「・・・なるほど。」

 

リスは、モモンが納得顔で頷いているのを尻目に、男によってぼこぼこにされた暗殺者を見つめた。

 

「つまり、あなたとリスさんが保護した女性が狙われている、と?」

「ええ、そうです。」

 

リスは、何故か、偶然と言うにはあまりにも都合の良い登場に不信感増し増しでモモンを見つめる。というか、彼女はモモンに対して舌打ちしたかった。それが乱入したせいでセバスの実力を見ることが出来なかったのだ。

というか、クライムが頑張っているときに割り込んでくると言う空気の読めなさに辟易していた。

そうして、ともかくモモンから離れたいとクライムに話しかけた。

 

「それで、だ!クライム!お前さんの上に保護を頼めないか?」

「え、ええ、それはもちろん!」

「だ、そうだ!彼女、ツアレについてはこれで安心だ!さあ、セバス!彼女を連れてくるぞ!クライムも、すぐに許可を取りに行ってくれ!」

 

何はともあれ、モモンからさっさと離れたかった。あまりにも、その男は気味が悪すぎた。

いや、男についても探らなくてはいけないのだが。

何か、恐ろしすぎて触れたくない。

リリーはセバスの肩を掴んで、そのまま引きずって行こうとした。

 

「待ってください。」

 

それにリリーの動きは止まった。それはモモンの声に引き留められたと言うよりもまるで岩のような不動さのセバスを引きずれなかっただけなのだが。

 

「・・・・例え、その女性がどうにかなったとして。セバスさんに暗殺者が送られてくるのは止まらないのでは?」

「なら、どうするんだ?」

 

 

リリーが思わずそう言えば、モモンは当たり前のように言った。

 

「カチコミましょう。」

「「はあ?」」

 

ブレインとリリーは同時に言った。

 

「そうですね、それが得策かと。」

「「はあ!?」」

 

セバスの同意に、また叫んだ。リリーはそれに叫んだ。

 

「ま、まてまてまてまて!!」

「リスさん、どうかされましたか?」

「あのな、カチコムって、このメンバーでか!?斥候もいないような、ごりごりの前衛しかいない状況で!?」

「ええ、そうですが?」

 

モモンのそれにリリーは頭を抱えたくなった。そりゃあ、リリーだって一人でカチ込みして、そのまま蹂躙できる。モモンの実力を見るに、彼もまたそれが可能かも知れないが。

だが、問題なのは八本指が国の中核に纏わり付いている組織だと言うことだ。

 

「そうですかって、モモン殿!?」

「考えてみてください、リスさん。彼らはおそらく、彼女のことを探し続けますし。そうして、セバスさんにも暗殺者を送り続けます。なら、ここで叩いて、相手を混乱させ、矛先をこちらに向けさせるのです。」

「いや、それは、わかる。その思考はな?だがな、あなたは冒険者だろう?」

 

リリーはなんとか男にこれ以上関わりたくないと、モモンの提案を断ろうと必死に頭を回す。もう、ツアレに関しては帝国で引き取るから!

だから、もう、止めて欲しいと切々に願った。

 

「ぼ、冒険者は基本的に国のもめ事には関われないんだ?あなたに迷惑がかかるだろう?」

 

アダマンタイト級の冒険者であるモモンが協力を!?とそわそわしていたクライムは、その言葉に少しだけしゅんとしていた。

その事実を思い出したのだろう。

 

「下手をしたらあなたに不利なことになるかもしれない。」

 

リリーはそれにこれでモモンがこの件から引いてくれると思っていた。蒼の薔薇は経歴も長く、ラナー王女と密接な関係のリーダーのおかげという部分が重なり、冒険者組合も放置している。

だが、モモンは冒険者になったばかりの身だ。ならば、下手なことをして冒険者組合と妙な関係になりたくないはずだ。

そう思っていたはずなのだ。

 

「・・・・あなたこそ、どうしてそんなにも一度会っただけの誰かのために駆け回っているんですか?」

「は?」

 

リリーは何を聞くのだと思いつつ、口を開いた。

 

「私は今のところ、根無し草で、特別な勢力に着いているわけではない。だから、自由にしているし。それに、彼女がセバス殿の所に行くきっかけも作った身だ。なら、最後まで付き合うのが筋だろう。」

「なら、私が関わる理由も出来ますね。」

「は?」

 

リリーはいぶかしげにモモンを見つめた。モモンは不躾にガントレットをリリーに伸ばす。リリーはそれを避けようとするが、後ろにセバスがいるためにそれは適わない。

 

男の、不躾なそれが、戦いによって脱げたフードから晒された顔に触れる。

仮面越しに顔に触れ、そうして、冷たいガントレットが首を撫でる。びくりと、リリーの肩が震えた。

ぐいっと、モモンは屈み込んで。きっと、ヘルムの向こうで笑っていた。

 

「あなたがそう望むなら、私がそれを叶えない理由などないでしょう?」

 

それにブレインが唇を吹くのが聞こえたし、クライムはその様に少しだけ自分と、無礼だと理解しながらラナーと重ねた。

そうだ、その様は、なんというか、完璧なまでに愛しい女を口説こうとしている男の様だった。

 

アダマンタイト級の英雄が、愛しい女のために無茶をする。それは、ある意味で冒険譚の始まりのように周りからは見えていた。

けれど、リリーは違う。

 

ぶわあああああと体中にサブイボが走った。リリーは飛び退いてモモンから離れようとした。

けれど、それよりも先にモモンの手がするりと抜けた。その間も、リリーの髪を弄ぶように指先に絡めていた。

それは、アダマンタイト級というフィルターのおかげか、ひどく、モモンの仕草が決まって見えた。

 

(ああ、なれたら・・・・)

 

クライムはどきどきとする胸の内に、憧れのヒーローを見るようにモモンを見た、

 

「それに、もうすぐ色々と始まることがあるので。ならば、それの事前試合としてちょうど良いのですよ。」

 

その言葉にクライムは思うことがあるらしく、顔を引き締めた。

 

「さて、先ほどの暗殺者たちから話を聞いて向かいましょうか。」

 

モモンはそう言ってばさりとマントを捌いて動きだした。それにクライムとブレインがついて行く。

 

「リス様?」

「え、あ、うん!?」

 

リスは胸に手を当て、茫然としていた。それは、突然の接触にときめく乙女のようだった。それにセバスはあくまで穏やかにリスに微笑んだ。

 

「・・・リス様は果報者ですね。」

「な、何がだ?」

「あのような方に思われておられて。」

 

セバスは、そう、心底、思っているような声を出した。

 

「強く、慈悲深く、賢く、偉大なる方です。私にはわかります。」

 

まるでモモンのことを全て知っているかのような口調だなあと思えるような口調だった。

 

「は、ははははは。いや、モモン殿は、どの方にも優しい方だからな。」

 

そんなことをいってリリーはばくばくと鳴る心臓を押さえた。

リリーは体全身に冷や汗をかいて、震えそうになる足に渇を入れる。リリーは仮面を被っていてよかったと心底思う。

 

リリーの顔は恐怖に引きつり、そうして、意味がわからなすぎてその場で叫び倒したかった。

 

何なの!?

ねえ、何なの!?何考えてるの!?

絶対に思惑があるとわかっているからこそ、あそこまで分かりやすいアプローチが怖すぎる。そこでリリーは一つのことに思い至る。

 

(まさか、私が帝国側だって、気づかれてるのか!?)

 

リリーの脳裏には、下手こいたなとにこやかな顔で怒る兄の顔が浮んだ。

 

(あああああああああああ!!??なんで、次から次へとこんなに起こるんだよ!)

 

けれど、いくらリリーがモモンについて恐れても、どうしようもないことを理解している。だって、今のところ、モモンは品の良い英雄と言っていい立場だ。

 

(腹を決めて、探らないといけないのか。)

 

そこまで考えて、リリーはまた、やだなあとため息を吐いた。

 






リリー、ブレインとはリリーとして面識がある。内に来ない?という申し出をしたが考えさせて欲しいと言われてそのまま放置されて今に至る。


リリーさん、ウルベルトさんの服のデザインが好きすぎて外装データをまねしたものを持ってた。モモンガが羨ましいとのことで、モモンガ風のローブでおそろいにしてた時期も合った。
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