次回はナザリック側の話になると思います。
この話の本当のバッドはナザリックの誰かがリリーを殺してそれがアインズにバレた時だろうか。
「・・・あの。」
「モモン殿のことについては何も言わないからな?」
不機嫌さ全力という声音にクライムは思わず黙り込んだ。
リスという女については、幾度か話したことがある。ラナー王女の関係で蒼の薔薇の面子に関わる折、時々だけその中に混ざっていた。
「どなたですか?」
「まあ、野良猫みてえなもんだ。」
そんな反応が入ってくる。
冒険者というわけでもなく、どちらかというとワーカーに近いのだろうか。そんな存在が蒼の薔薇たちに混ざっていることは異端であった。
「独自の伝手があるようでね。情報提供者としては重宝しているの。」
そんな返答を貰った。モンスターについてや、また、八本指の動向などの情報も提供してくるのだという。それに加えて、魔法の腕も確かで、第五位階魔法まで到達しているのだという。
それははっきり言って英雄の枠組みに入っているはずだ。けれど、リス自身は目立つことを嫌っている。
「蒼の薔薇に入らないのですか?」
クライムはあまりにも立ち入りすぎていたと恥じているが、そんなことを聞いた。
それにリスはふっと少しだけ笑った。
「望みがある。そのために、根無し草がちょうどいい。」
リスの返答はそんなものだった。
「・・・・しかし、あんた、モモン殿についていかなくてよかったのか?」
そこでブレインが口を挟んできた。
「・・・明らかに過剰戦力だろう。」
苦々しい口調でリスは言った。
現在、リリーとクライム、そうしてブレインはツアレが放られた娼館に侵入していた。モモンとセバスとは二手に分かれていた。
モモンはリリーと共に行きたがったが、彼女の必死な抵抗にブレインとクライムペアにいれられた。
モモン殿とセバス殿の二人ならなんとかなる!だが、こっちは未熟なクライムがいる!なら、魔法詠唱者の私がいる方がいいな!そうだな!いいよな!!
ものすごいごり押しで押し通した。モモンもさすがに無理矢理連れて行くということは出来ずに、セバスを連れて行った。
「・・・すぐに片付けますので。」
それに思わずクライムへと怯えるようによりそい、リリーはその後ろ姿を見送った。
なんなのだろうか、あの覇気と言えるものは?
「・・・・そこ、扉がある。あと、罠は、解除。」
リリーはぐったりしながら、先頭を歩いていた。それをブレインはまじまじと見つめる。
「・・・あんた、盗賊だったのか?」
「いいや。ただ、ちょっといい目を持ってるだけ。」
リリーはそう言って、仮面の眼の部分を叩いた。
「・・・タレントか?」
「そう思っておいて。」
本当は違う。リリーの被っている仮面は簡易、それこそ、魔法以外の罠については認識できる魔法道具というだけだ。
あと、罠の解除も物理的な、それこそ魔法に関係していないもののため、リリーの持つマジックアイテムでなんとかしているだけだ。
(ユグドラシルだと、罠とかほぼほぼ魔法関係だったし。幻術系も高位になるからすぐにゴミアイテムになるけど。こっちだと重宝するよなあ。)
なんてことを考えつつ、三人はそのまま進んでいく。隠し扉を前にして、ブレインが言った。
「誰が行く?」
「クライムを一人で残しておけないぞ。こいつ、狭いところの戦闘なんて不得意だろ?私も、誰かと一緒が前提なら広いところの方がありがたい。」
「ええ、ですので広いところなら。」
「なら、三人でいくか。」
そうして、広間と言える場所にまでたどり着いた。そこまでやってきて、ブレインが改めてリリーを見た。
「それで、あんた、どれぐらい強い?」
「お前さんぐらいなら殺せるよ。」
さらりと言い切ったそれにブレインは目を見開き、そうして、クライムを見た。クライムは少しだけ困った顔をした。
「・・・強いことは確かです。蒼の薔薇の方々も認めておられる方なので。」
「そんなに強いのに根無し草か?」
「お前さん、人のこと言えるのか?」
呆れた調子でリリーはため息を吐き、そうして、吐き捨てるように言った。
「捜し物をしてるんだ。見つかるとは思っていないが。」
ブレインは目の前のそれを見た。
強いかどうかはわからない。魔法詠唱者という触れ込みであるが、それが魔法を使ったところを見ていないために実力はわからない。ただ、蒼の薔薇によって担保されたというのならば信用しても良いだろう。
何よりも、それの持つアイテムの一つ一つが有用で、それだけでも十分に戦力と言えた。
「・・・なら、ここからは俺一人で行く。」
「私はここでクライムと一緒にいよう。」
「わかった。」
「それならば、これを。」
クライムは万が一のことがあると、ガガーランから貰ったマジックアイテムを渡した。それをもってブレインは娼館の奥に向かっていく。
「・・・・はあ。」
リリーはそれに疲れたように頭を振った。
「大丈夫ですか?」
「なんでもない、気にしないでくれ。」
「・・・・モモン殿のことで?」
「その名前を言わないでくれ!!」
絶叫染みたそれにクライムはびくりと体を震わせた。それにリリーは申し訳なさそうに手を振った。
「すまない、色々あるんだ。色々と・・・・」
それにクライムはなんだかリリーが気の毒になる。クライムもラナーから寵愛を得ている身だ。そうして、アダマンタイト級の冒険者、英雄にも好かれるリリーももしかしたら似たような事があるのかも知れない。
噂によれば、モモンは美女を相棒に得ているそうで、その人とも色々とあるのやもとクライムは考えた。
(・・・モモンさんからのあれだけの思いがあっても得られないと言うことは。相当の事情があるのかも知れない。)
クライムが知る限り、リスという女は悪い人間ではない。飄々としてある程度の部分に立ち入らせない部分があっても、それはそれとして、クライムを蔑むことはない。
思うだけならタダだからな。その結末やら、先がどうしようもないとして。表に出せないとしても。願うだけなら自由だろう。
そんな言葉をかけてくれる程度には、人のことを慮ってくれる人だ。
クライムはその人の恋が実ることを切に願っていた。自分の思いが報われることがないと理解してるが故に。
(はああああああ、本当に、どうしたものか、あの男!)
リリーの心情などお構いなしではあるが。
リリーは正直、もうさっさととんずらをこきたかった。娼館自体燃やして完!と叫んで逃げ出したかった。
さすがにそんなことをするほど理性を放り出してはいなかったが。
脳裏に浮ぶのは、先ほどの男だ。
(・・・・高位のモンスターを倒して、なんでも、それを追ってきたそうだから訳ありなのはわかるが。いや、それにしても私を望む理由がない。)
仮に、帝国の皇女であると知っているのなら、援助を望んでいるのだろうか?
(冒険者組合で、どっかの王族の血筋なんじゃって話もあったしなあ。もしかしたら、それ関係で援助が欲しい?国が滅びてるなら、いっそのこと、再建のための足がかり・・・)
そこまで考えて、がたりと部屋の中で音がした。その音の方に視線を向けると、どうもクライムが部屋の中を調べているようだった。
彼は置いてある木箱を開けていた。
「何か入ってたか?」
「いえ。何故か、女物の衣装ばかりで。何か隠してるのか?」
それにリリーも近づき、木箱をのぞき込む。
(・・・女物の衣装、ここは娼館。)
そこまで考えて、リリーはその衣服の意味を理解した。
(・・・イメクラ?つーのか。いや、どこの世界でも、こういうのは変わんねえのか。)
リリーはちらりとクライムを見るが、少年はその衣装の意味がわかっていないらしいことを察した。
「・・・お前、本当にわかんないの?」
「え、リスさん、わかるんですか?」
その澄んだ瞳に、リリーは己が穢れていることを理解して切なくなった。
ごめんな、おばちゃん、すっかり汚れちゃってるんだ。
(つーか、この子、どこまで純粋培養。まあ、城でも孤立してるらしいし。男友達なんていないならそこら辺は無頓着なんだろうなあ。)
リリーはそんなことを考えつつ、クライムの肩を叩いた。
「・・・・お前はそのままであってくれ。」
「はい?」
そんなとき、がたんと、部屋の中に物音がした。それにクライムは辺りを警戒するように見回した。そこで、壁際に置かれた鉄の箱の側面が開かれていることに気づいた。
「あんたがサキュロント?」
姿を現した二人に、リリーは問うた。
平然と自分に問いかけてくるそれにサキュロントはため息を吐いた。
「コッコドールさん、彼らは?」
それに甲高い声でもう一人の男が答える。
「仮面の方は知らないけど、少年の方は、私がこの世で最もむかつくメスの部下ね。」
「なるほど、お姫様の部下ですか。」
リリーはコッコドールと呼ばれたそれがクライムに対してじっとりとした視線を向けていることに気づいた。
リリーはそれにモモンから向けられる視線のことを思い出して身震いする。
「おっさん、男の方が好きなの?この子、すでに予約済みだから上げられないけど。」
「誰がおっさんですって?」
「リスさん、援護をお願いします!」
「おっさんは、おっさん。いや、いいか。クライム、この人達は私がなんとかする。お前さんになんかあったら多方面にめんどうなんだから。殺し、たくはないけど。殺したらごめんね?」
リリーがそう言えば、サキュロントは皮肉げに笑いながら一歩踏み出す。それにクライムは圧倒的な何かを感じて抜き身の剣を構えた。
その時だ。
リリーの周りに、五つの光弾が現れる。
「い、いつつ?」
「だから、死なないでよ?」
打ち出された光弾は。まっすぐにサキュロントとコッコドールに向かっていく。
「ちぃ!!」
サキュロントの方は光弾を持った得物で打ち払う。それにリリーはまあ、そうかと納得した。
殺さないという大前提のために出力は落としているし、アダマンタイト級といわれるほどなら当然だろう。
(本命は・・・)
「ぎゃああああああああああ!?」
これまた甲高い悲鳴が響く、それにサキュロントは状況を理解して苦虫を噛みつぶした顔をした。
サキュロントが取りこぼしたマジック・アローはコッコドールの足を打ち抜き、彼はその場に倒れ伏していた。
(やっぱ、あっちには戦闘力ないか。まあ、どこかの部門のお偉いさんなら当然だ。さて、こうなったらサキュロントは。)
サキュロントは短期戦に切り替えたらしく、まっすぐにリリーたちに向かっていく。
(こっちに!)
クライムは茫然とリリーのことを見た。
以前、蒼の薔薇の、イビルアイから聞いたことがある。マジック・アローのような魔法は、出せる数によって魔法詠唱者の能力を量ることが出来るのだと。
それが、五つ。クライムはリスというそれの実力を理解して、驚いていた。けれど、サキュロントが近づいてくるのを見て正気に戻る。
構えを取ったクライムを、リリーは横から蹴り飛ばした。それにクライムは驚いた顔をした。
リリーは正直、戦うのが下手くそであったりする。
それは仕方が無い話で、ユグドラシルで彼女の目的は、友人の少なくなったモモンガとゲームをするのが目的で、それ以外ではグラフィックの見事だったユグドラシルの物見遊山をよくしていた。
それでさえも、モモンガにキャリーをして貰ってのことで、魔法の組み合わせもある意味で火力が高いものをという雑さだ。
帝国に生まれた後も、魔法の階位の高さで強者との戦いを経験したことがない。
(もっと、色々しとかないとダメだよなあ。)
そんなことを思いつつ、驚いたクライムのことを見て、マジック・アローを使用する。
サキュロントは迷っている。
無防備なクライムに向かい、後ろからマジック・アローを受けるか。
それとも、リリーに真っ正面から向かうか。
(まあ、だよな。)
サキュロントはリリーに向かってきた。リリーはそれに淡く笑い、マジック・アローを近接で叩き込む。
腕が、飛ぶのが見えた。
(最初から、腕に幻術かけてるのはわかってたから難しい相手でもなかったな。)
そんなことを考えている時、リリーは少しだけ油断をしていた。
そうだ、その、サキュロントというそれは腐っても戦士で、少しぐらいの矜恃というものがあったようで。
咄嗟とは言え、取り出した短刀を無事な方の手に振りかざしていた。
ぱさりと、軽いものが落ちる音がした。
「あ、くそが・・・」
「リスさん!?」
蹴り飛ばされた先で、クライムが立ち上がり、リリーに近寄る。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん?ああ、髪が切られただけだな。」
クライムの視線の先には、彼女の片側の後ろ髪が不自然な長さで揺れていた。
サキュロントはなんとか立ち上がろうとしたが。さすがに片腕を吹っ飛ばされた痛みで悶絶している。
このままだと死ぬなと理解して、リリーが止血をと思ったとき、部屋の扉が開いた。
「リスさん、大丈夫・・・・」
そこにはモモンがいた。リリーはそれに、はええなこいつと感心して、言葉をかけようとした。
けれど、それは喉の奥に引っ張られる。
何故って、モモンから爆発的な、殺気と言えるものが立ち上ったからだ。
「・・・・あああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
絶叫のような声が、部屋に響く。殺気と、憎悪と、憤怒が入り交じった声でモモンが叫び、そうしてがちゃんと兜を揺らす。
「誰がやった!?おい、誰がやったんだ!?」
悶絶するように、モモンは兜を両手で抱えるようにして体を揺する。
がんがんと揺すぶられるようなその声に、クライムは思わず、サキュロントを見た。それに全てを察したのか、モモンが殺気を振りまきながら近づいてくる。
「どうしてくれる!?完璧だったんだ!真っ直ぐな、背中まである黒い髪!完璧だった、そのままだった!なのに、貴様が損なわせたのか!?どうしてくれる!?完璧なまま、俺の物になるはずだったのに!そのものだったのに!ああ、欠けた、俺の、俺の、ものを!ああ!貴様か!!」
爆発的な殺気にクライムが隣でへたり込むのが見えた。そんな中、リリーだけが殺気と言えるものに鈍いおかげで平然と立っていた。
そうして、場違いのように考える。
(こいつ、どさくさに紛れて人のこと、自分のものとか言いやがってる・・・・)
リリーはどつき回して良いだろうかと考えつつ、あまりの殺気にサキュロントの危機を感じてモモンの前に躍り出た。
「どけ!そいつを殺せない!」
「殺すな!こいつは拘束対象だ!」
「何故だ!?ああ、せっかくの、くそ、完璧な!初めて見て、完璧だったんだ!完璧な、そのもので、くそが!!」
わななくような英雄のそれに、リリーは思わず、彼の連れていたナーベを思い出す。
(そんな極端な黒髪、ロングフェチなのか。知らんがな。それで声をかけて?いや、ニッチすぎる。んなもんもっとおるわ。)
リリーがまた口を開く前に、モモンはリリーの後ろ髪を確認するようにガントレットでリリーの首辺りを覆う。
「ああ、欠けてしまった。くそ、ああ、くそ。完璧で、そのままで。」
広がる殺気にリリーはサキュロントがショック死でもされれば困るとモモンに向かって言った。
「短髪の女は好みではないので?」
その言葉にモモンは子どものような声を出した。
「・・・・髪は、女の命でしょう?」
これまた懐かしいことを聞いたものだとリリーは思いつつ、モモンのガントレットの上から手を重ねた。
ともかく、何をしても落ち着かせねばと、色仕掛けでもしてやると意識して高い声を出した。
「ならば、あなたのためにもう一度伸ばしましょう。いかがですか?」
あなたのため、というそれにモモンはそわりとしてそうして、子どものような仕草でリリーのことを抱きしめた。
「・・・今度は、今度こそは、完璧で、損なわせないように、あなたを守りますから。」
鎧の上から締め上げるように抱きしめられ、リリーはそれに思い出したかのように危機感を感じる。そうして、モモンの方を軽く叩いた。
「ともかく、サキュロントの捕縛を優先で!」
それにモモンの後ろからセバスがやってきて、サキュロントを何らかの方法で治療しているのが見えた。
リリーはともかくモモンが落ち着くのを待つためにそのままにされていた。
そうして、男の言っていた言葉を思い出す。
(そのもの、でなあ。)
リリーは男が蘇生魔法に興味を持っていたことを思い出し、考える。
(死んだ誰かに似てたのかもな、もしかしたら。)
それにリリーは少しだけモモンに同情し、そうして、それはそれとして気持ち悪いなあとため息を吐いた。
(コレが終ったら、ほんとに逃げよう。)
そんなことを固く誓って。