バハルス帝国の贄姫   作:藤猫

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次回、ナザリック番フラッシュモブ!


企み

 

リス、またはユリと名乗る女がいれば優先的に関わり、情報を引き出すこと。

 

そんな命がナザリックに回った折、大抵の僕は不思議に思った。

至高なる四十一人の一人でモモンガこと、アインズの命は何があっても優先すべきだ。

けれど、わざわざ人間の女を捜す、それも傷つけることは厳禁で、あくまで友好的であることを求められれば疑問にも思うだろう。

そんな中、偶然出会ったリスというそれが該当の人物かと報告を行った。

それにアインズはそれはそれは喜んだ。

 

(おお、そうか!よくやったセバス!)

 

己の主の役に立てたという事実にセバスは喜びに震えた。けれど、それと同時に疑問にも思う。

モモンガは非常に慈悲深い存在だ。けれど、それはそれとしてそこまで喜ぶのも疑問だった。

 

(・・・好ましい方でしたが。)

 

セバスの脳裏に浮ぶのは、つっけんどんな態度ではあるものの、非常に人がよさそうな女だった。

アインズはセバスにリスという女とできるだけ関係を良好に保つことを命じた。

ツアレのこともリスの気を引くために保護を許可された。

 

セバスは命令も有り、隙を狙ってはリスに近づいた。

リス自体、王都をうろついており、接触自体は難しくはない。

が、リスというそれはけんもほろろとセバスの申し出を断り続けた。

 

「・・・気遣いは無用だ。私は私の好きなようにやっているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。礼もいらんし、そんなことをするなら、できるだけあの子を気遣ってやってくれ。」

 

そう言って、礼も、屋敷への招待も望まなかった。

が、それはそれとして拾った女、ツアレのことは気になるようでその話には食いついた。

 

セバスは、なんとなく、その女のことが不思議だった。

 

というのも、女は、なんというか善人というわけではない。クライムのような純粋さや、ブレインのような潔さのようなもの。

弱者への哀れみと言うには、何か、苦々しい声音をしたそれは、悪人というわけでもなく、善人ではなく。

ただ、仮面の下でずっとしかめっ面をしているのがわかった。

 

リスがなかなかこちらに乗ってこないことを知ったアインズは自ら王都までやってきた。

幾つかの依頼を片付け、早急な行動をしたアインズにセバスは驚いた。

 

何をそんなにそれに執着するのだろうか?

もちろん、アインズがそうであるというならそうでしかないのだが。

思い出すそれは、美しいのかもわからず、さりとて有能かもわからない。

セバスは思い出すが、やはり、アインズがそこまで執心する理由もわからない。

セバスはそれに問いかけてみようかと思うが、それこそ余計なことかと黙り込んだ。

 

そうして、アインズがやってきたその日、ツアレを目的に屋敷に八本指たちがやってきた。

セバスはやってしまったと後悔をし、けれど、報告をしなくてはとアインズに〈伝言〉を送ったのだ。

 

(・・・・何?)

(おそらく、八本指という組織の人間かと。)

 

セバスはその時、後悔をしていた。もちろん、リスとの関係を持てたことについては僥倖ではあった。

けれど、厄介ごとを招き入れてしまったことに関しては後悔する。何よりも、このままではツアレの身も危うい。

けれど、予想に反してはアインズは嬉しげな声を出した。

 

(ほう、そうか、そうか。ああ、ちょうどよかった。)

(丁度、ですか?)

(ああ、セバス。そのままリスに接触してくれ。)

 

そのままセバスはリスを巻き込む形で娼館へのカチ込みを行った。

が、どうもアインズの願いに反してリスとの行動は離れてしまった。

 

「・・・・セバスさん。」

「はい、なんでしょうか?」

「最速で、片付けさせていただきます。」

「了解しました。」

 

二人の強者に蹂躙された娼館側の人間達の末路はお察しの通りである。

 

セバスはずっと不思議であったのだ。アインズがそれを求める理由がわからなかった。

 

(そこまで有用な方なのか?)

 

あのアインズが求めるのだ。おそらく、ナザリックにとって有益な人なのだと考えていた。

けれど、その時、自分たち側の組織の人間を片付け、リスたちを助けに向かったときだ。

 

女の髪が、少しだけ短くなっているのが視界に映った。

その時の、圧倒的な己が主の怒り。

それを近くで、おまけに直に喰らったセバスは恐怖で震えた。絶望のオーラが噴出しなかったのは、アインズの最後の理性だった。

そんなことをして、その女が少しでも欠けるのを嫌がったために。

 

「・・・・髪が短くなってしまいましたね。」

「ああ、まあ、そうですね。」

「私が整えましょうか?」

「「は?」」

 

がたがたと震えるクライムをブレインと共に解放していたセバスはそれを聞いて、リスと一緒に叫んでいた。

アインズは、クライムが怖いだろうという建前をしながらリリーの側にいた。

 

「い、いいや!そんなことをさせられないだろう!?」

「遠慮せずに。私がもっと早く片付けていれば、こんなことには。」

「結構だ!本当に、大丈夫だ!アダマンタイト級の英雄にそんなことを!」

「ご安心を、これでも昔は己のことぐらいはしていたので。」

 

セバスは口をぽかんと開けてしまいそうだった。

 

至高の御方が?

そのリーダーであったモモンガ様が?

髪を?

使用人のように?

 

頭の中にはてなが浮び、そうして、怒りが浮んだ。

己の主がそのようなことを!

と思いはすれど、まだ、善性よりのセバスはアインズがそれを望んでおり、そうして、不敬だしね!?と断る女になんとかバランスを取る。

 

 

「・・・・セバスよ。」

「はい、何でしょうか、アインズ様?」

 

事が終り、一足先に屋敷に帰ってきていたセバスがアインズを出迎えると、少しだけ気落ちしたような声で己が主が問いかける。

 

「先ほどの私について、どう思う?」

「どう、というと。」

「リスから見て、私の態度だ。なんというか、変というか、踏み込みすぎではなかっただろうか?」

 

その場にアインズと親しい、それこそ彼についてすっぱり言える人間がいれば。

 

ダメに決まってるだろう、あほかお前は!!

と、叱責の一つでも出来ていただろう。

それこそ、彼の姉がいれば、そこまで親しくない女へぐいぐい行きすぎ、怖い、キモい、全部ダメ!!

それぐらいは言って、正気に戻してくれただろう。けれど、その場にいるのは、アインズのイエスマンだけである。

 

セバスは思い起こす。

勇猛果敢に敵を倒し、誰かが傷つけられたことに怒り、髪を切られた女性を紳士的に気遣い、自ら世話をするという身の程以上の扱いまで行っていた。

 

「見事な立ち回りであったかと!」

 

アインズもツアレの様子を見て、女の扱いに若干の信頼を持ったセバスのそれに、よかったあと胸をなで下ろす。

世界のどこか、ばかあああああ!と叫ぶ姉がいたかも知れないが、それを知るものはいない。

 

そんな話をしていたときだ。

アインズに呼び出されたデミウルゴスとアルベドがやってきたのだ。

 

 

アインズはやってきたデミウルゴスを見て、少しだけどきどきした。

そうして、ちらりとアルベドを見た。

すでに先にアルベドには相談を行っていた。おそらく、計画としてはなんとかなるだろう。

目の前には、セバス、アルベド、ソリュシャンの四人がいる。

 

「・・・遅くに済まないな。一つ、早急に進めたい計画があり呼んだわけだが。すまないな、任せている仕事があるというのに立て込んでしまって。」

「いいえ!アインズ様からの呼び出しならば何よりも優先すべき事!」

「そうか、とはいえお前に任せている仕事も多い。負担が大きくなければ良いのだが。」

 

そう言えば、デミウルゴスは無垢とさえ言えるような笑みを浮かべた。そうしてそのねぎらいの言葉に礼を言い、やりがいがあると首を振った。

アインズはそれに対して心配になりつつも、デミウルゴスも無理を押し通すようなことはしないだろうと置いておくことにした。

 

そうして、アインズは、机をとんとんと叩く。

 

「それで、だな。今回の計画について、その、ナザリックへの利益はもちろんあるのだが。」

 

とんとんと、アインズは忙しなく机を叩く。

 

「だが、そのな。」

 

アインズは言いにくそうに指で机を叩く。

いつかは言わなければいけないのだ。アインズが、現在、主軸というか、目的にしていること。

現在、モモンとして活動していながら、依頼を断ってここまで来てしまっている自分に呆れる。

けれど、頭の隅で、揺れる黒い髪を思い出した。

 

(・・・・いい、最高だ。いいや、そのものだった。)

 

ずっとフードを被り、おまけに仮面をつけた女がそれを脱いだ瞬間、アインズは浮き足立ってしまった。

まっすぐな、さらさらとした、背中まである黒い髪。

日の光の中で、天使の輪が作られた、それ。

 

百合という女はあまり物欲がない女だった。

化粧っ気もなく、着飾ることもあまり好きではなかった。まあ、着飾ったところでという過酷な環境というのもあるのだが。

アインズのようにゲームもあまりしない人だった。強いて言うのならば、牧場経営するという牧歌的で延々と作業的なものを好んでしているぐらいだった。

 

そんな彼女は、唯一、髪の手入れにだけは一定の熱量を注いでいた。

元々ストレートの髪は、さらさらとしていて、良い匂いがしていた。

 

「お前さんは知らないだろうが。私の、実母といえばわかるかな?とても綺麗な髪をしていたんだ。」

 

そう言って見せて貰った画面の先では、百合と同じ真っ黒な、綺麗な髪を下ろした女性が笑っていた。

自分を背に、女が歩いている。

さらさらとした黒い髪がなびいている。

 

触ってみたいと思った。そうしたら、いつかに戯れのように梳った髪、そのもののような感触が得られると思った。

ガントレット越しではない、そのままに、触ってみたいと思った。

 

歩く後ろ姿は、まさしく、姉そのもので。

欲しいな、ああ、欲しいな。欲しくて、欲しくてたまらない。

 

そこでアインズの中で、爆発的な怒りがわき上がる。

 

(あの男!)

 

ああ、なのに、欠けてしまった!

姉そのものだったのに!あれが、そのまま欲しかったのに!あの男が、自分のものを傷つけた!

 

そこでアインズはようやく正気に戻る。

 

「ああ、すまない、皆。お前達に怒ったわけではないのだ。」

 

爆発的な怒りに震える守護者達にアインズは慌てて弁解する。それに、ぐっと歯を食いしばったデミウルゴスが口を開いた。

 

「・・・アインズ様、ならば、なぜ、そのようにお怒りを?」

「そうだな。いいや、その理由を話す前に、言わなくてはいけないことがあってな。」

 

アインズは悩んでいた。自分の私益のために一つの計画を進めること。そうして、下手をすれば損害がでるかもしれないのだ。

なによりも、彼らにとっては自分の望みは不快かもしれないのだ。そこで、アルベドが口を開く。

 

「・・・・アインズ様。」

「ああ、なんだ?」

「お望みがあれば、口にお出しください。アインズ様の命に応えることが我らの幸福。」

 

それが言外に意味することを察して、アインズは息を吐いた。そうだ、遅かれ早かれ言わなくてはいけない。

アインズは、少なくとも、アルベドという味方を得ていることを理解して、心が軽くなる。

 

「そのだな、デミウルゴス、セバス、ソリュシャン。」

欲しい、ものがあるのだ。

 

 

恐る恐る口にしたそれに、デミウルゴスはああと息を吐いた。

 

「アインズ様、そのように言われずとも、命じてくだされば早急にご用意いたします。もちろん、お時間が必要な場合もありますが。」

「いや、そのな。あー、人間が、欲しいのだ。」

「に、んげんですか?」

 

あまりにも漠然としたそれにデミウルゴスは改めて考えを巡らせようとした。アインズはその時、嫌な予感を覚えて口を開いた。

 

「そのだな、個人的にな。個人的に、どうしても、欲しい人間がいるのだ。私の、その、身勝手な考えでな。」

「欲しい、というと。その、何か利用価値が?」

 

それにアインズはどう説明したものかと考える。確かに、リスというそれに惹かれるが、手に入れてどうしたいのかといわれると少し悩む。

それにアインズは感性のままに口を開く。

 

「いや、有益になるかわからないが。なんというか。うーん、しまいたい?」

 

アインズが悩んだ末にそう言えば、皆の頭の上にはてなが浮ぶ。

アインズの想像は、その人間が己の手の内で行儀良く収まっている光景だ。

それに心が躍った。

そこにいて、そこで、自分のことを待って、にこにこと笑っていて、帰ってくれば嬉しそうに出迎えてくれたら。

姉のように、そうあってくれたら。

 

「綺麗に整えた部屋にいれて、そこでずっと過ごさせて。それで、いつもにこにこしていれば、いい、のか?」

「それは、飼育したい、ということですか?」

 

デミウルゴスのそれにアインズはそうだろうかと考える。

ただ、ナザリックの部屋の一室でそれが待っていると思うと、なんだかいいなと思う。

 

(・・・・家に帰ったらペットがいると癒やされるな。)

 

頭の隅で、殿!と騒ぐジャンガリアンハムスターがいたがアインズはそれをそっと無視した。

 

「・・・そうか?そうなのか、まあ、そんなものだな。それで、だな。現在、モモンに依頼が来ている。表向きは貴族側からの護衛だが、実際は対八本指の捕縛計画だ。」

「ほう、八本指ですか。確かに情報の中に。」

「ああ、それでだ。これを機にモモンとして近づければ、と思ってな。」

 

アインズはひどく幼い仕草で両手をいじくった。それにデミウルゴスの思考は止まりそうになる。

 

何故、わざわざ人間を?

おまけに、それならば無理矢理にでも攫ってくれば良い。至高の御方からの寵愛を得られるのならばどんな人間でさえも頭を垂れてしかるべきなのだから。

わざわざモモンとして近づかなくてもよいのではないか?

 

それはもちろん、モモンの姿とは言え、リスにモモン様、みたいな扱いを受けたいアインズの密かな野望というか、アホと言われても仕方が無いような理由があるのだが。

そこまではさすがに言えなかった。

正直、アインズも、リスというそれをナザリックに連れて行くことに関しては反対だった。

ナザリックがアインズに対して忠誠を誓っているとは言え、リスというそれが傷つけられない可能性がないわけではないのだ。

 

「・・・・今回の八本指の捕縛でモモンの更なる名声と、あとは、八本指の資産を横取りも考えていてな。それで、モモンの活躍が必要になるのだ。」

 

もちろん、今回、クライムに引きずられて八本指の捕縛にかり出されているリスのことを考えた。

 

(強引に行きすぎた、いや、だが。彼女だって俺のために髪を伸ばしてくれるって言ってたし。何より、こっちは、顔やら資産よりも、強さが一番だって言うし!)

 

脈はあるとアインズは信じる。そんなものはなさ過ぎて死体レベルであるのだが。

 

「・・・それで、そのためにもっとよりよい提案がないか。デミウルゴスにも意見を聞きたいということでよろしいでしょうか?」

 

深い思考に嵌まっていたデミウルゴスは、アルベドのそれに意識を取り戻す。ちらりと伺ったアルベドは変わること無く淡く微笑んでいる。

それにデミウルゴスは多く疑問が残りはすれど。

 

「・・・アインズ様がお望みならば。」

 

そう、忠実な僕であるために頭を垂れた。

 





百合さん、ゲームでの種族は竜人だった。が、MMORPGなんて触ったこともなく、運用が当人的に難しすぎて能力的に使いやすい平均的な人間に作り直した。


アルベドの部屋は、モモンガ人形と百合人形の半々で埋まってる。
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