姉がいる状態で、ナザリックにとって最悪なルートと人間側にとって最悪なルートについて考えている。
人間側にとって最悪なルート
平民に産まれてツアレルートを辿った後に弟に保護される。
ナザリック側にとって最悪なルート
聖王国で産まれて人間牧場にIN。その後、発狂して譫言で仲良くしていたウルベルトとかの名前を口走り発見され、モモンガに保護される。
「・・・・で、これがこちらに連絡も無しに、勝手に王国について首を突っ込んだ理由か?」
「そーですけどおおおおおおおお・・・・」
聞こえてきた声に、ジルクニフは執務室に置かれたソファに目を向けた。そこには、うつ伏せになっている、着の身着のままの妹がいるのが目に入った。
直立不動のまま、もう限界だとばかりにソファに突っ伏している。
ジルクニフは改めて、女が息も絶え絶えに部屋に押し入り、おそらく殴り書きだろう箇条書きの報告書に目を通した。
「・・・・これに書かれたことは事実なんだな?」
「事実だよ。そうでなくちゃ、兄上に相談もなく、こんな大事に首を突っ込むわけ無いだろ!」
叩きつけるようなそれにジルクニフは表面上は冷静であるが、高速で頭を回していた。
「お前が勝てないほどの悪魔が出現したと?」
「・・・ああ、つって、アダマンタイト級の冒険者が除けたけどな。だが、王都はぼろぼろだ。物資関係は持って行かれて、指揮関係もがたついてる。」
「が、死人の数が少ないな。」
「それ自体、私も又聞きみたいなもんだから絶対的じゃないけど。でも、どうして悪魔が攫った人間達は監禁だけに止まって被害が出てねえんだよなあ。」
ジルクニフはそれに考える。
(・・・・悪魔たちにとって優先すべき事があったために後回しにされた?いいや、そこまでの悪魔が現れたのならここまで数が少ないのはあり得るのか?悪魔を呼び出すアイテムは、王国に回収されたそうだが。)
何故、そこには何かの意図があるはずだ。
「リリー。」
「なんだよおおおおお。」
「・・・・悪魔が自分の欲望以上に優先することは何だと思う?」
「えええええ?そりゃあ。」
リリーは少しだけ考えた後に、ぽつりと言った。
「契約とかかな?」
「契約?」
「悪魔は、この世で何よりも、約束事に。契約に対して真摯だって、聞いたことがある。」
ぽつりとそう言ったリリーの脳裏には、お茶目な最高火力の黒ヤギの姿があった。
「・・・・・契約な。」
もしかすれば、悪魔の背後に、その言葉のままに契約をした物がいることをジルクニフは考える。けれど、それは一旦は思考の向こうに置いておくことにした。
(少なくとも、その悪魔に対抗できる存在は確認できた。だが、リリーが対抗できない悪魔が辺りをうろついているのか。事態によっては、スレイン法国と協力も考えねばならないか?)
頭の中で多くのパターンが組み上がる中、ふと、ジルクニフは書類の中で唯一、悪魔に対して対抗できたモモンという存在に目を向ける。
(アダマンタイト級、噂で聞く限り、現在のアダマンタイト級の中で頭一つ飛び出ているな。ふむ、剣士として相当か。)
などと考えていた時、ふと、ジルクニフは気づいたことがある。
「リリー。」
「何さ。」
「モモンという剣士、どう思う?」
「・・・・優秀だね。でも、ちょいっと剣技が粗い気がする。あと、なんつうか、傲慢さとかもなくて、他者との関係もきっちりできる。タイプだね。」
それは報告書の中でも書かれていることだ。けれど、ジルクニフは、リリーの一瞬の沈黙を見逃さなかった。
「・・・・お前、モモンと何かあったのか?」
「何が?何って、何かが起るような関係でさえもないのに?」
「・・・・妹。」
それにリリーの肩が揺れた。
「妹。」
ジルクニフは少しだけ叱りつけるような声音を出した。
「話しなさい。」
リリーとジルクニフは基本的に兄妹らしい関係性など皆無だ。けれど、リリーは何故か、妹や弟というものは兄や姉に従うべきと言う価値観を持っているらしい。
もちろん、主従という関係性が近いため、命令しても従いはする。だが、そうやって、兄として叱る方が、リリーの素直な言葉を聞けるため、わざわざそう言った。
ジルクニフがリリーにそう言ったのは、偏に違和感があったのだ。
これだけの重要人物且つ有能、おまけに冒険者のように引き抜くことが可能な存在ならば当然ジルクニフは欲しがる。
それを理解しているリリーならば、モモンの人となりだとかを些細なことでも報告してくるのだ。
だというのに、その報告書には男の事は欠片も書いていなかった。
意図的に、モモンから目をそらしたいというリリーの意図が見て取れたのだ。
リリーはそれにため息を吐き、そうして呻くように言った・
「・・・・・口説かれた。」
「は?」
動きを止めてそう言ったジルクニフに、リリーはがばりと起き上がり叫んだ。
「嘘じゃねえんだよ!嘘だったらどれだけよかったか!!」
そう叫んだ女のことをジルクニフは考える。
女は醜いわけではない。けれど、見目が良いとは言えない。
女の元々の世界で言えば、リリーというそれは容姿を武器にした職業についてもおかしくはないほど整っているのだが。
現状の世界では、良くも悪くも中の中程度に止まっている。
ジルクニフはいぶかしんだ。
それを口説く?
もちろん、リリーというそれについてある程度理解しているジルクニフはそれとの婚姻に価値は感じている。
「魔法。」
「目の前で使ってない。」
「立場。」
「知るはずがない。」
「・・・・顔。」
「仮面を目の前で取ったことはない!!!!」
なんとか口説かれるような雰囲気になりそうな理由を並べるが、それは全て否定される。
口説かれること自体間違いなのでは、と考えるが元よりリアリストなそれが勘違いするようなことはないだろう。
「理由が見えんな。」
「そうだよ!だからこええんだよ!おまけに、知ってるか!?モモンの近くにいる美姫ってあだ名のナーベって女!あれが隣にいてこっちにちょっかいかけてくるんだぞ!?恐怖だ!」
ソファ。というかカウチから立ち上がり、頭を抱えて困惑を表すようにじたばたと暴れる。
その珍しい狂乱ぶりに、ジルクニフはそれが事実であることを理解する。
(だが、リリーよりも強い存在か。)
「リリー、お前。」
「モモンと結婚しろとかいって見ろ!スレイン法国に嫁ぐ方がましだ!」
きゃんと叩きつけるようなそれにジルクニフはまじまじと見つめる。仮面をかぶったままのためどんな顔をしているのかはわからないがそれほどまでに拒絶することは珍しい。
(ふむ、二人の子どもならば、どちらの才を引き継いでもいいのだが。)
「というか、お前、ようやく男にもて始めたのか。」
「どーいう意味じゃ!」
うがあと叫んだ妹にジルクニフは淡々と言った。
「女にしかもてんお前が何を言う。」
それにリリーが仮面の下でぎりぎりとほぞをかんでいるのがわかった。
リリーというそれは、モテる。
といっても、ジルクニフに取り入りたかったり、その魔法の腕を求めてのことで、恋愛的なものはない。
けれど、何やらその女は、同性にはやたらと慕われている。
女の回りの腹心二人を見ればわかるだろう。何か、妙に心酔されることが多い。それは、妹の立場的に男に近づかないことがあるのだろうが。
それはそれとしての話だ。
「女のくせに女難のお前がよく言うな。」
「全部躱してるでしょうが!」
くわっとそう言った後、リリーは気を取り直すように首を振った。
「ともかく、それはいいんだ!それよりも優先事項がある。」
「・・・・行くのか。」
「行く。味方なら上等。敵なら。」
リリーはジルクニフを見た。
「覚悟を決めてくれ。」
静かな声にジルクニフはため息を吐いた。
リリーはモモンの勝ち鬨を聞いた後、そのまま《転移》を使い帝国にまで飛んだのだ。
なんでって?
んなもの怖いからに決まっている。
(王国襲った後にまた帝国を急に襲うとは思わないが。それはそれとして、だ。)
少なくともリリーは悪魔の案件が終わればもうそこまで付き合う義理はないのだ。
ならばと置き手紙に簡単なことだけを記載してさっさと城を出てきた。
(あーあ。もう、リスの名前で活動できねえ~。偶然とは言え蒼の薔薇とのパイプはおいしかったんだけどなあ・・・・)
そんなシンプルな別れを残してきたのは、単純にもう二度とリスとして王国を訪れる気が無かったのだ。
色々と惜しい。リスとして積み上げたものはそこそこにあるのだ。けれど、だ。
脳裏に浮ぶのは、スリットの向こうから己を見る、あの、粘っこい視線。
(あの男に会うなら、色々惜しくねえよ~・・・・)
何よりも、リリーとしてはカッツェ平野に突然現れたそれらが味方たり得るのかが知りたかった。悪魔なんてものが出てきたのならばなおさらに。
(・・・・結局、モモンってプレイヤーなのか?いいや、違うのか?わからん。)
いっそのこと、あの場所にいるのがモモンならばワンチャン交渉が上手く進むのでは?
なんてあほな考えが浮んだ。
「あー、やだやだ。」
リリーはじっと遠くを見た。そこは、見事は草原で、そうして、遠くにはこんもりと膨らんだ丘らしきもの。
リリーは当初の予定通り、カッツェ平野に現れたそれの調査のため、というよりはそこにいると予想される存在に接触をするためにやってきた。
ジルクニフには止められはしたものの、当初の予定通りに向かうことになった。
悪魔が出てきたことを考えればなおさらのことだった。
(・・・・旅の人間を装って。)
ちらりと自分の装束を見下ろす。普段通り、地味な茶色のローブなどではあるが、ぐっと手に握りしめている杖に顔をほころばせた。
もちろん、いつも通りの仮面のため、表情は見えないが。
「・・・・うん、姉ちゃんがんばっから。」
杖は艶やかな飴色をしていた。磨かれ、木の形そのままを使っているらしく歪曲したそれは、不思議なことに百合の花が咲いていた。いいや、咲いているというよりはまるで蔦のように絡みついている。
そうして、咲き誇っているように瑞々しいそれは、驚くことに何かの鉱石であることがよくよく観察すれば理解できただろう。
マジックアイテムとして、この世界の人間からすれば破格の価値があるそれは、装飾品としても十分な価値が察せられた。
「今日もがんばろ。」
ぽつりとリリーは呟いて、そのまま草原を歩き出した。
「ようこそお待ちしておりました。私はあなた様を歓迎するように任せられました、ユリ・アルファと申します。そうして、後ろの者は私の補佐として付けられたルプスレギナ・ベータと申します。」
メイド??????
リリーは思わずまじまじと目の前の存在を見た。
えらい美人だ。
それこそ、ナーベだとかに匹敵するほどの美人だ。それが自分を当たり前のように出迎えたことで、頭の中ではてなが乱舞する。
場違いのように、こんな美人と名前が被ると気後れするなあなんてことをバカみたいに考えた。
「お客様のお名前をお伺いしても?」
「あ、ああ。私の名は、リーリエという。その、旅の途中の身、なのだが。」
「そうですか、リーリエ様。それで、こちらにどのようなご用で?」
淡々と言われ、リリーはともかくと偽名の一つを名乗った。リスもリーリエも、百合をどこかの言語に言い換えただけだ。
ユグドラシルを始めるときに、名前を考えるのが面倒で調べたそれらはわかりやすく使えて楽だ。
(なんでメイド?いいや、やっぱしどっかのギルドか?NPCの可能性がたけえな。にしても、私のことばれて?いいや、NPCとかが自由に動けるなら、監視が。まあ、いいか。敵対感情を見せないのが一番だ。)
何の用?
そう言われて、リリーはぐっと息を飲み込んだ。そうして、覚悟を決めて口を開いた。
「・・・・ここにはひどく、なんというか、立派な方がおられるように思いまして。そうして、もしやすれば、その方は、私と同郷、ユグドラシルを知っているのではないかと思いまして。」
リリーは考える。
いや、ありえんやろ、なんだよこの内容。いけるのか、と。
(いや、でも。自分と同じプレイヤーなら、このユグドラシル関係でしか糸口ねえしなあああああああ。はあ、ゲームの知り合いなんて悟関係だけだし、有名なギルドも殆ど知らねえんだよな。)
ゲームのことは弟に教えて貰ったし、リリーが始まる頃にはすっかりギルド間の争いも鎮静化し、話題もあがることはなかった。
「賜りました。」
(え、まじ?)
ユリの返答に、リリーは目をぱちくりさせた。そうして、恭しく礼をして見せた。
(え、え、まじですか?いいんですか?本当に大丈夫ですか?)
けっこうすっかすかの理由だったが赦されたらしく、了承されてリリーは頷いた。
そうして、リリーはどうも応接室に相当するらしい部屋に通された。そうして、何やらもてなしなのか紅茶と菓子類が出された。
食べた方がいいのだろうが、緊張のせいで何も喉を通らない。
(食べた方がいいんだろうなあ。いや、今食べたらなんか緊張で吐きそう。)
そのまま時間は過ぎ、どうやら相手の準備が終わったと言われてリリーはもう倒れそうなほどの緊張に襲われていた。
(・・・・・ギルドの広さってイコールで、それを攻略したときのメンバーの力量を量るのに使えるけど。わざわざ応接室なんて無駄な門を作るぐらい広いギルドならまじでトップランカーの集まりの可能性が出てきた。おまけに、細かい装飾にこだわる余力があるならギルドに思い入れのある奴が多かったり。)
イコール、課金とかしてる強者が多い裏付けになったりするのだ。
そのまま、応接室を出て、周りの景色の豪華さにうわあと思いつつ、そんなことを思っていると。
ふと、思い立つ。
何か、妙に、なんというか見覚えがある景色であるように。
アホらしい、デジャヴか何かだろうと押し流す。
結局、あの世界のものならば何かしらのデザインを流用した可能性がある。ならば、どこかで似たような物を見たのだろう。
そう、思っていたのに。
(あれ。なんだろ、ここ。)
ぐるりと、辺りを見回して、既視感、いいや、明確に何か、見たことがあると思って。
すごいだろ?うちのギルド。
そうして、頭の中に響いたのは、もう、掠れてしまった弟の声だった。
また豪華なとこだね。
まあ、やっぱりこういうのは雰囲気が大事じゃん?
それはそうだな。せっかく悪役ロールするならこっちの方が雰囲気あるか。
そうそう、後で俺の部屋にも来なよ。姉さんが使えそうな装備があったかも。
いっつも悪いなあ。
いいよ、そうだ、今度姉さんが行きたがってた場所に・・・・
「こちらです。」
その言葉にリリーは思い出したそれらからはっと帰ってくる。ユリとルプスレギナが一つの、巨大な扉を示していた。
見上げた先、禍々しい、扉。女神と悪魔の描かれたそれ。
ほら、すごいだろ?
可愛い、弟の声が頭の中でこだまする。
そうだ、百合というそれは、弟のギルドに入ることはなかった。けれど、ギルドの建物自体には一度だけ入ったことがある。
弟が作ったらしいNPC、それを見せて貰うために、一度だけ、残っていたメンバーに許可を取って、遊びに来て。
(あの子の、ギルド名は、だって。)
姉さん聞いてよ!俺さ、一緒に遊ぶ人ができたんだ。
へえ、よかったね。なんか、人間じゃないと、あのゲーム色々面倒なことが多いんじゃないの?
うん!でもさ!PKから俺のこと助けてくれた人と行動して、こんどクランを組むんだ!
くらん?ふうん、名前は?
ナインズ・オウン・ゴールっていうんだ。
・・・・なんか、不穏な名前だな。
(だから、違うはずだ。違う、はずで。)
「主、アインズ・ウール・ゴウン様が奥でお待ちです。」
ユリの声がした。
扉が開く、大きなそれが、開いた。
だから、まるで機械のように歩を進めた。
ぜえぜえと息が荒くなる。腹の底が熱くなって、なにか、喚き出したくなった。今にも、ユリたちに掴みかかって問いただしたくなった。
なあ!この先にいるのは誰なんだよ!なあ、誰が、誰が、その名前を、そんな名前のメンバーがいたか!?
誰だ?誰だ?誰が。そこで?
歩を、進める。ふかふかとした絨毯を、進んでいく。
違うと、冷静な自分がいた。けれど、今にもかけだして、そうして奇跡を信じる己がいて。
けれど、皇女としての教育を受けた自分が、その歩みをなんとか押しとどめた。
ああ、だからこそ、遠くに見えた存在に。
ようやく視認できた存在に。
なあ、なんで骸骨なんかにしたんだ?
ええ、不死者ってかっこよくない?
それだけいうとかっこいいけどさ。やっぱりドラゴンとかの方がロマンを感じるな。
それで竜人にしたわけ?
まあねえ。つって、竜人の剣士やりたかったけど、あれは純粋に才能がねえからやめた。
前衛系は運動神経いるもんなあ。
まあ、元々、種族レベルみたいなのもわかんなかったからいいけどさ。
わざわざ人間じゃなくても相談してくれれば、おすすめの種族たくさんあったのに。それに、ギルドにだって入れたのにさ。
いや、いいよ。人間は人間でシンプルで楽でいいしさ。
その時の、拗ねた顔。
可愛い奴めと、頭を掻き撫でてやった。
可愛い、藤堂百合の弟。
骸骨、見慣れた仰々しいローブ、武器。
ああ、ほら、ほら、なあ、イビルアイ。
奇跡を信じたその先には、確かに願ったものがあったじゃないか。
未来であるかもしれない誰かの会話
よくさ、アインズ様の寵愛を、みたいなノリの僕がいるでしょう?
まあ、それは、ナザリックを治める方ですから、その感覚は普通では?
まあ、それはいいんだよ、いいんだけどさ。みんな、それにしてはあまりにも覚悟が足りないと思うんだよね。
覚悟って。アインズ様の寵愛のためなら、みんな、どんな覚悟だってすると思うけれど。
いいや、圧倒的にみんな覚悟が足りないんだよ。
なんの覚悟のこと?
パンドラの兄さんにおかあさまって呼ばれて受入れる覚悟。
・・・・なかなかにカロリーのいる覚悟ですね。