バハルス帝国の贄姫   作:藤猫

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色々と原作とは微妙なずれが出てきますが、それでもよければどうぞ。


邂逅への第一歩

 

「おお!来たか、我が愛しい妹よ!」

 

人払いのされた部屋にリリーが入ると、そんな大げさの声が聞こえて来た。それに、リリーは、なんのためらいも無く、面倒臭いと掲げた表情で声の主を睨んだ。

声の主は、ひどく、美しい男だった。

キラキラと光る豊かな黄金の髪に、アメジストのような濃い、紫の瞳。そうして、まるで才能豊かな芸術家が配置したかのような完璧の顔立ちをしていた。

男は、まるで恋人に向けるかのような完璧で、甘やかな微笑みを浮かべていた。

 

「ところで、リリーよ。まだ、夢は見ないのか?」

 

それに、リリーと呼ばれた女はちっ、と憎々しげに舌打ちをした。

ジルクニフにそんな態度をとられても気にすることはなかった。

 

「・・・・今の所は。」

「それは、残念だ。」

 

一向に残念そうでないジルクニフの声音に、リリーははあとため息を吐きたくなる。そんな彼女は今、皇帝である兄が使っている皇帝執務室だ。

そこに置かれたソファの上で、だらりと寛いでいる。

世の中広しと言えど、その男の前でそんな態度を取れるのはその女ぐらいだろう。

 

「で?そんなことで私を呼んだんじゃないんだろう?」

「まったく、お前は生意気になったことだ。兄は悲しいよ。」

 

よよよよ、と分かりやすい泣きまねにリリーは馬鹿に大きなため息を吐いた。そうして、こいつ何してんだろう、と言っている様な目でジルクニフを見た。

リリーの向かい側に座ったジルクニフは乗ってこないリリーにつまらない奴、というように鼻で笑った。

 

「ったく。こちとらフールーダのことかいくぐって会いに来たんだからな?」

「・・・・お前も大変だな。」

 

リリーの言葉に、ジルクニフも思わず同情した。

リリーもジルクニフも、フールーダには弱い。

もちろん、公的な場には持ち込まない程度だが。やはり、教師として色々と互いに恩は感じているため、それ以外だとどうしても許容してしまう面があった。

リリーもまた、フールーダの狂気的な部分に引きはしても、拒絶しきれなかった。

ただ、ジルクニフもフールーダの本性を知っているため、そこまでリリーへの信仰心ともいえるそれを理解できなくはない。

当初、リリーはただ魔法の才があるだけの子どもであり、フールーダからの扱いもごくごく普通であった。

けれど、それもリリーが十ニほどになった時に全てが変わった。リリーは順調に魔法詠唱者としての段階を踏んでいたが、それでも平均的な実力を超えることはなかった。

が、ある時、弟子たちに紛れてカッツェ平原へとアンデッドの調査へ赴いた時だ。

リリーが行方不明になったのだ。

表舞台では日陰の者とは言え、腐っても姫なのだ。帝城は大騒ぎになった。

ジルクニフは、それに、死んだのだろうなと予想した。

けれど、さほど残念とは言えなかった。リリーは、確かに特異な雰囲気で在り、平均よりも早く魔法の習得に至っても所詮は凡人の域を出なかった。

仕方がないと、つまらない奴と、ジルクニフはさっさとリリーのことを忘れようとした。

けれど、葬式について話し合いが行われようとした三日ほど経ったとき、ひょっこりと彼女は帰って来たのだ。

もちろん、帰って来た時はひどいものでボロボロの様相だった。

けれど、そんなことも吹き飛ぶような事実が沸き上がったのだ。

帰って来たリリーは、第四位階魔法を会得していたのだ。

フールーダは、いったいどうやって会得したのかと問うた。

それに、リリーはこう答えたのだ。

 

死ぬと思った瞬間、頭の中に知識が流れ込んできた。

 

それからリリーはよく、一人で出かけることが多くなった。それを止めるものは多く居たが、魔法詠唱者としての成長の芽を摘むことをことさらに嫌がったフールーダの推薦である程度の自由を得るようになった。

行く先々で、不可思議なマジックアイテムを拾ってくることもあった。

そうして、等々ある日、彼女はフールーダさえも超え、伝説とも言える第八位階魔法に至った。

あの時のフールーダの狂喜をジルクニフは覚えている。

狂信とは、まさしくあれを呼ぶのだろうと。

 

(・・・妹の靴を舐めようとするじいを見たくはなかった。)

 

その時初めてと言えるリリーの悲鳴を聞いたと言えばその時の怯えぶりも分かるというものだろう。

そうして、その魔法を習得したことによって日陰で生きることを決定づけられた少女が表舞台に舞い戻った瞬間であった。

フールーダのお墨付きをもらった彼女に周りは掌を返して構い始めた。

リリーは、それに無関心であった。

大量の贈り物も、賞賛も、己を捨てた母からの甘い言葉も全て受け流し、彼女はジルクニフへと真っ直ぐと向かい合って言ったのだ。

 

「私は、兄上にとって価値ある者になれたか?」

 

その言葉に、ジルクニフは驚き、ああと頷いた。リリーは、それにぼんやりとした気だるそうな表情をぶら下げて、一度頷いた。

 

「約束は果たした。せいぜい、上手く使ってくれ。」

 

その言葉で、ジルクニフは女がそこまで力を磨いたわけを全て察した。

ジルクニフは、異質であった少女に言ったのだ。

役に立てと、そうすれば居場所を用意してやると。

言葉通り、ジルクニフは少女に生きていくための全てとして教育を与えた。

彼女は、地位も賞賛も知識への探求でもなく、ただ、ジルクニフの手を取った代価に伝説にまで至ったのだ。

ジルクニフは、女を笑ってしまいそうになった。

だって、そうだろう。

たった、それだけだった。本当に実現するかもわからない約束を、その幼子であった女は律儀に覚えていて、そうして果たして見せたのだ。

超越者としてのフールーダを押しのけ、そうして伝説へと至ったのだ。

対価は支払われた。

だから、ジルクニフはその約束を守ると決めた。

忘れたわけではなかったが、果たされるかも曖昧な意味のない約束。

リリーは何にも興味を払わない。

どんな甘言にも、振り向こうとしない。

リリーは、いつだってあの幼い約束への代価をジルクニフに差し出し続ける。

そのために、神といえる領域にまで至って。

律儀な奴だと、愚直な奴だと、そうして愚かな奴だと、ジルクニフは思う。

ジルクニフには、少なくとも仮にリリーが出ていくことを決めれば、引き留める術はない。

リリーは、何かしらに執着することはない。ただ、弱者への憐れみを数度見せたことはあっても。

加えて、貴族間や国同士の付き合いをリリーがことさらに面倒に感じているのも知っている。

何処にだっていけるというのに。もう、自分が異質でない場所を探す手段だってある。

けれど、彼女はジルクニフの側に止まり留まり続ける。

あの日交わされた幼い約束を違えぬために。

彼女は、その短い今までの人生で、誰よりも男の味方であると示して見せた。

味方であり続けると、彼女も持ちうる全てを差し出して証明したのだ。

だからこそ、ジルクニフは己が妹へと信頼を寄せる。

いつか、国のために切り捨てることがあっても、捨て去ることがあっても、ジルクニフはリリーを信頼している。

彼らの間には、それだけしかなかったが、それだけで十分だった。

 

「・・・・まあ、話を進めるか。実はな、法国からお前に向けて縁談が来ているが。」

 

どうする?

 

ジルクニフの言葉に、リリーは心の底から不可思議そうな顔で首を傾げた。

 

「どうして私にそんなことを聞くんだ?私の価値は、兄上が一番に知っているはずだ。私の使い方は、兄上に任せる。」

 

それが揺るぐことのない、リリーの本心だった。

それに、ジルクニフは笑った。

予想通りの言葉に、親に従う幼子のような妹にジルクニフは笑う。

本当に、良くも悪くも都合のいい存在だと。

 

「それだけなら、私はもう行く。結果だけを教えてくれ。」

「いや、これは断る。お前の価値では、これには釣り合わないからな。」

「そうか、分かった。」

 

単的にそうリリーは応えると無言で立ち上がり、部屋を後にした。

 

 

 

(・・・・・法国も飽きないな。)

 

リリーが第八位階以上の魔法が使えることは一応、周囲の国には周知されている。といっても、それも信じている国と信じていない国で分かれてはいる。

彼の国は、リリーがカッツェ平原でせっせとレベリングしている時に接触してきた。

彼らは、リリーをぷれいやーだと疑っていた。

最初は意味の分からなかったが、ぷれいやーとはどうも、ユグドラシルのアバターのままこの世界に来たらしい存在であるようだった。それに思ったのはやっぱりか、だった。

時折聞く伝説の中で、そうではないかと疑う存在は幾人かいたからだ。

法国は、リリーがぷれいやーでないにしろ、あるにしろ、国に来て欲しがったが。もちろん、リリーはそれを断った。

今更、何もかもが遅いのだ。

リリーが全てを差し出すのはジルクニフだけだ。

彼だけが、無価値なリリーに手を伸ばした。

何よりも、使者のノリが完全にフールーダと同じだった。

正直な話、狂信者は一人で十分だという面倒さを感じたのが一番にあったために、法国の話は断ったが。

一応は、ジルクニフに報告しておいたため、後は兄が何とかするだろう。

リリーは、法国のことが好きではなかった。

人は、この世界では弱者だ。そのために、法国が人を何よりも優先するのは分かる。けれど、ジルクニフから聞いた法国がやっているらしいことを聞いて嫌悪感を持つようになった。

理想のために死ぬならば、自分たちが死ねばいいのに。

ただ、日常を生きている人間を神のためにと殺す奴らが、リリーはことさらに嫌いだった。人殺しは人殺しだ。

どんな大義名分があっても、いつかは地獄に落ちるべきだ。

ジルクニフと自分のように。

リリーは、ふらふらと帝城の中を歩きながらそんなことを考えた。

そうして、すぐに思考を切り替えた。

フールーダを振り切る瞬間に、あとで話を聞くという約束をしてしまったのだ。

リリーは、のろのろと重い足取りで、フールーダの下に向かう。

彼女は、どこまでも律儀な性格であった。

 

 

フールーダは、そわそわと己の部屋で待ち人を待っていた。

机の上には、リリーの好んでいる菓子と紅茶の準備がされている。

フールーダは、現在、人生の絶頂と言える時間を過ごしていた。

最初は、ただ、魔法が使える王族でしかなかった。期待もしていなかったし、さほどの興味もなかった。

けれど、あの日、全てが変わった。

まるで、火の龍が生まれたと幻想した、彼女の魔法。

フールーダはあの日、彼女へと跪き、弟子にしてくれと懇願した。彼女が望むなら、何でもしようと思った。

もちろん、自分の弟子であったリリーは特に何かを望むことなく、自分が深淵を覗くための手助けをしたが。

そうして、彼女によって弟子の一人が第五位階の魔法へと手を伸ばすことが叶ったのだ。

 

(・・・・師の考えは興味深い。特に、魔法への親和性を高めるためには魂の質を高めることが重要であり、それに伴ってモンスターを殺すことで可能になるというあの説は特に。ああ、私ももっと高みに登ることが叶うに違いない!)

 

もちろん、このフールーダの浮かれている理由である第五位階の魔法は全て偶然であったりする。

リリーは、長い間気づいていなかったが、魔法詠唱者の見習いになった際にようやく自分が最初から魔法が使えたことに気づいた。

それは、遠い昔の記憶が正しければ、ユグドラシルで自分がアバターを作った時に使えた、本当に初期のものだ。

それは、相手のレベルを見ることが出来る魔法であった。それを試しに使った時のリリーの感想は、レベル低くね?ということである。

もちろん、英雄と呼ばれるフールーダでさえ第六位階の魔法しか使えていなかったため、予想はしていたが、それでもあまりにも全体的なレベルが低い。

それを、リリーはこの世界での死へのリスクの高さに納得していた。ユグドラシルならば、生き返ることは難しくない。

ペナルティーを考えなければ、特攻を決めることだって出来たのだ。

それに比べて、この世界では死なないために出来るだけリスクを避けることになる。

レベルだって上がらないだろう。

そうして、リリーは考えた。

レベルをひたすら上げれば、少なくとも自分は第十位階まで使えるのではないかと。そうして、その計画を決行したのがカッツェ平原でのことだったのだが。

三日間不眠不休でひたすらアンデットを狩り続ければ嫌でもレベルは上がった。

どこぞの弟分が聞けば馬鹿だろうと言われるほどの力技である

もちろん、彼女にも勝算があったからこその強行だったのだ。

その勝算というのが、彼女が魔法が使えることと一緒に気づいたアイテムボックスであった。

その道具を使えば、強行軍を行えると踏んだのだ。

もちろん、丁度過疎化に入った時期にプレイヤーになった彼女の持ち物はレアアイテムだらけというわけではなかった。

けれど、熱心なプレイヤーであった弟分が何くれと彼女にアイテムを与えていた。それは、先輩風やら先達としての贈り物であった。何よりも、彼がリリーに何かをあげるという機会がなかったために、せっかくだからと貢いだという事実もあった。

その中にあった、低レベル時の助けとして、経験値を一時的に上げるアイテムの助けもあってのことだった。

リリーは単純に、フールーダのレベルを上げるために共にモンスターをひたすらに狩りまくったのだ。

フールーダへの説明には、経験値を魂と呼び変えたが。

それも、彼が語った、始原の魔法を聞いた時のことがきっかけであった。

そうして、何を教えていいかもわからなかった彼女は、フールーダに職業取得のために必要であった魔法書っぽいアイテムと魔力の消費を軽くするマジックアイテムを渡したのだ。

レベル上げの折に出かけた先で見つけたのだと。

第五位階の魔法の取得は、ただ、リリーの単純な考えで行ったレベル上げと、アイテムに書かれていた知識をフールーダが読み解いたということが重なって実現したことなのだが。

リリーを盲信しているフールーダには関係のないことであり、彼の頭の中にこれから行われる魔法についてのことでいっぱいであった。

 

 

「・・・・・・なんだこれ。」

 

鈴木悟は、モモンガはその時玉座の間で一人、ゲームの終わりを待っていた。

他のメンバーはすでに帰っているそれも、モモンガに気を使ってのことだと彼はわかっていた。

何よりも、百合の死に伴ってゲームを再開したメンバーは彼女に借りがあったものばかりだ。

その借りというのは、百合が友人に頼まれて開いたという合コンで恋人を作り、果てには結婚したものがいたというものなのだが。

百合が死んだ後も、幸せな自分たちが後ろめたかったのだろうと、モモンガは思っている。一人で、ギルドに残ることを気にはしていなかった。

気にするよりも、ずっと、彼の中には重たく広がる孤独があった。

メンバーの数名は、違うゲームに誘ってくれている。

けれど、それだけでは、彼の孤独を癒すことは出来なかった。

モモンガは、ユグドラシルでみんなとゲームを続けたかったのだ。

それと、これとはまた違う。

何よりも、ゲームが終わっても、もう出迎えてくれる人はいない。今日あったことを、話し合える人はいない。

ぼんやりと、いままでのことを振り返った時、ふと、NPCが目に入った。

彼女が持っているアイテムも気になったが、最後なのだしと放っておいた。そんな時、ふと、彼女の設定に気が向いた。

 

そうして、目についたのは最後の文章。

ちなみにビッチである。

 

少し、どうなんだろうと思った。だから、最後の最後の気まぐれに、モモンガはそれを消し、そうして、こう打ち込んだ。

 

百合を愛している。

 

打ち込んだ後に、全てが遅いと己を嘲笑った。

大好きだった、愛していた。

もう、それを伝えることも出来ないといのに。

 

「・・・・はははははは、こんな所に書いたって、誰にも伝わらないのに。」

 

いや、こんな所だからこそ、誰にも知らせる気もないからこそ。

モモンガは、消えていく彼女に自分の思いを託してしまった。

たった、一人だけ、彼女にだけ己の思いを吐露したのだ。

目の前のNPCは消えゆく存在だ。だからこそ、あの世というものがあれば、彼女に伝えてもらえるかなんて幻想をいだいてしまった。

モモンガは、こみ上げて来る嘆きと、空しさに設定を閉じた。

俯いた彼と、栄光あるナザリックはそれで、全てが終わるはずだった。

 




最後のモモンガさんが打ち込んだことに関しては、彼の精神状態で原作通りに打ち込むのはないかなあと考えたための結果です。
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