きりの良いとこで終わらせようとしたらめっちゃ長くなった。モモンガさんが今回大分怖いです。
お題箱作ってみました、何かあれば
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アインズ・ウール・ゴウンことモモンガはとても不安になっていた。現在、彼は自室の一角に座って姉の着替えが終わるのを待っていた。
彼が悩んでいるのは少し前に行っていたアルベドと姉の間で交わしていた会話だ。
「・・・・それで、アルベドさん。」
「さんづけなんて!お願いだから、アルベドと呼んで!?」
「あー、わかった。アルベド。それで、だ。君が私のことが好きな理由についてはわかった。」
「理解してくれたのね!なら!」
「でも、君と恋人同士になることは難しいかな。」
「どうして!?」
アルベドは姉に縋るようにその腰に抱きついた。前衛職のせいか、アルベドとリリーは明らかに姉のほうが華奢でどこか不安になる光景だった。
「残念ながら、私は同性は恋愛対象じゃないんだ。だから、君と恋愛関係になるのは難しいかな。」
「そんな!お願い!チャンスを!」
「だからね。」
姉はあやすかのようにアルベドの方に指を滑らせた。その仕草だけでアルベドは顔を赤くして、ぽやぽやとした顔になる。
「恋愛を君に抱くことはないけれど、友愛や親愛は抱けるっていう話だよ。」
「友愛、ですか?」
「不満かい?」
それにアルベドの腰の羽根が不満そうにぱたぱたと跳ねる。幼い子どもが拗ねるような顔でアルベドはリリーをじっとりとした目で睨む。
「・・・・愛が欲しいのです。」
「おや、親愛や友愛が恋愛に劣るのかな?それに、恋愛は壊れやすいけど、友愛や親愛は得てして壊れにくいものだ。それに。」
リリーは子どもの頭を撫でるようにアルベドの髪を梳った。
「友情や親愛から始まる何かもあるかも知れないぞ?」
にっこりと笑った姉にアルベドは目をキラキラさせて追いすがる。
「それは!それは!可能性があると言うことですか!?」
「うーん、少なくとも今のところは可愛い娘か妹でもできたと思っているかな?」
「頑張ります!私、頑張りますから!!」
そういって自分に抱きつく女の背を撫でる姉にモモンガは思った。
ねえ、慣れてない?
なんか、ちょっと扱いに困るタイプの女に慣れてない?
モモンガはいぶかしんだ。
「ところで、リリーって呼んでくれないかな?同じ名前の子がいるし。」
「・・・ですが、百合はモモンガ様の姉君。なら、それを優先した方が。」
「私はリリーって呼ばれて慣れてるし。ここの人からすれば、あの子の方が馴染んでるから。」
「ですが。」
「なら、二人っきりの時には、君だけは百合って呼んでくれない?ちょっと、特別で素敵だろう?」
「ゆ、ゆり・・・・・」
ねえ、慣れてない?
(明らかに、女の扱いに慣れてる気がする。)
もちろん、姉自身、人当たりがいいとは言えないが人間関係で不和を起しまくるタイプではない。愛想はないが、誠実な人間だ。
けれど、モモンガは思う。
なんか、こう、妙な方向で女慣れをしていないだろうか?
モモンガは考える。
姉がこの世界でどういう風に生きていたのか、自分は余り知らない。
皇女として産まれ、同腹の兄に支援を受けて、国のために駆け回っていたこと。話す時間は余り取れなかったから個人的なことは殆ど知らないのだ。
(兄か。)
自分以外の、姉の家族。
アルベドに関しては、自分の責任があるしなあということと、彼女を作った創造主のタブラへの申し訳なさで一旦は飲み込んでいる。
(まあ、目に余るなら。その時はその時だな。)
また、思考が姉がいう、兄というそれにうつる。
それにモモンガの精神がちりちりと嫌な不快感に襲われる。
けれど、それを彼の中の幼い悟が止めた。
姉さん、怒るよ。
それと同時に、思い出すのは、遠い昔自分たちが二人っきりの家族になってしまったときだ。
なあ、悟。
なあに、お姉ちゃん。
今日から、姉さんと悟は二人っきりで生きていくんだ。それでな、悟、一個だけ約束してくれないかな?
なにを?
いいかい、この世界は、お世辞にも優しくはない。それでもな、嫌な奴にだけはなって欲しくない。悟は、優しい子だからならないだろうけど。それでも、一個だけ約束して。
「・・・・誰かに、何かを与えられたら。それを倍は無理でも返せる人間であってくれ。」
モモンガは静かに呟けば、そのアンデッドの中の鈴木悟が幼く笑う。
それは幼い子どもにとって、価値観の基準の一つになるものだった。与えられれば返し、傷つけられれば報いを。
それは、モモンガというそれがこの世界に降りたってなお、根幹となる価値観だ。
兄がいると、そう聞いたとき。
嫌な感覚はした。けれど、姉は静かに言った。
恩義がある。その男に生かされて、教育を受けて、ここまで大きくなった。皇女としては十分なものを貰った。
指がぴくりと震えた。自分と、姉の間にある存在が気にくわない。けれど、それと同時にモモンガは考える。
姉を生かして、自分と再会出来たのは、その兄のおかげであるのならば。
それは、モモンガにとっても恩義に値する。モモンガの根幹である鈴木悟が、それは恩義だと、姉の恩人への無礼を許さない。
(・・・・鮮血帝か。)
バハルス帝国皇帝の名前はもちろん知っていた。そうして、なしたことも。
身内を全て殺したと言うことは少しだけ不快な感覚もした。けれど、姉のもの悲しい、けれど否定しない態度にそこは一旦納得した。
(何か礼を考えた方がいいか。)
そこまで考えたとき、扉が開き、アルベドと、そうして姉の身支度を頼んだユリ・アルファが顔を出す。
「アインズ様!見てください!どうですか!?」
元々、アインズはコレクター気質で気に入ったデザインならばなんでもため込んでしまっていた。
それの中から姉に似合いそうなものを見繕い、そうして、髪など整えるようにと命じたのだ。
残念ながらモモンガには女の着る服を選べるようなセンスは持ち合わせていないのだ。
「・・・・疲れた。」
そう言って姿を現した姉の姿に、モモンガは思わず立ち上がった。
姉が着ていたのは、黒いドレスだった。体にぴったりとした、ラインが際立つそれは細身の姉によく似合っていた。露出は殆どなく、首元まで布で覆われている。
黒い布地には、びっしりと銀糸で細やかな、百合の刺繍がされていた。そうして、真っ黒な黒い髪には細かく編み込みがされ、真珠の髪飾りがされていた。
白い肌に、黒い髪だけで構築された女は、夜が浮かび上がったかのように立っていた。
「・・・・やあ、悟、どうだい。着せ替え人形になった私の結果は?」
それにモモンガは姉の元に駆け寄り、心の底からうれしそうに声を上げた。
「綺麗だ!綺麗だよ、姉さん!!」
子どものようにはしゃいだ声にユリとアルベドは驚いた顔をした。
「姉さん、細身だからよく似合ってるよ!それに、黒い髪にも真珠が映えているし!これをやったのは、ユリか?」
「は、はい!」
「そうか、そうか、よくやった!お前に任せて良かった!」
モモンガはとても気分良く、はしゃいだ声を上げた。
何せ、前の世界では着飾るなんて余裕は互いに持っていなかった。けれど、やはり、自分にとって大事な姉にこうやって高価なものを贈れるというのは、少しだけ、何か心をくすぐられる感覚がした。
ユリはその言葉に顔を少しだけ興奮で赤らめて軽く礼をした。
そうして、姉は、と言えば。
(よくわからんけどすっげえはしゃいでるなあ。)
疲労困憊だった。なにせ、その女は着飾ることが苦手で、帝国で行われるパーティーでさえもこれが正装だからと魔術詠唱者らしくローブで参加していた人間だ。
アルベドとユリに散々に着せては脱がされを繰り返した女は、綺麗になったとはしゃぐ前に疲れてしまっていた。
悲しいかな、女のそういった類いの感性は枯れてしまっている。
「・・・・ち。」
高揚感が霧散していくことを感じたモモンガは憎々しげに吐き捨てる中、ようやくぼんやりした思考から抜け出したリリーが口を開く。
「まあ、そこまで喜んで貰えるならよかったや。着飾ることなんてそうないけど、悟がそんなにうれしいならやる価値があって。」
そういって、モモンガの大好きな目尻の下がった一等に優しい笑みを浮かべる。それにモモンガは、その不快さも忘れてしまう。
リリーは何か上機嫌になって鼻歌交じりにくるくるとドレスの裾をもちながら回った。おそらく、そんなに褒めてくれるなら後ろも見せてやろうという心意気だろう。
その幼い仕草にモモンガは可愛いなあと心が浮き立ち、そうして、また精神が沈静化されて舌打ちをしたくなった。
「そうだ、姉さん。これ、渡しておかないと。」
「なんだい、その指輪?」
仕事を終えたユリは下がり、アルベドも他の守護者を招集すると先に部屋を出て行った。そうして、一息吐いた姉にモモンガは一つの指輪を見せた。
「うちのギルド、移動阻害とかあるから。このリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡しておくね。」
「それ、ギルドメンバーの人しか持てないんじゃないの?」
「今は状況が状況だし。姉さんならみんな許してくれるよ!」
「そうかい?なら、借りとこうかね。」
リリーはそう言って指輪を受け取ろうと手を差し出した。けれど、それよりも先に機嫌の良いモモンガがリリーの左手をとり、そうして当たり前のように薬指にはめた。
「・・・・・・・・・・」
モモンガは左手の薬指に嵌まった指輪を眺める姉の後頭部を眺めた後、どわあああああああああと内心で身もだえた。
(間違えた!!!アルベドとか、マーレが左手の薬指にはめるから無意識に同じとこにはめちゃった!!!???え、どうしよ、姉さんにこいつなにしてんだとか思われる!?うっわ!どうしよ!!)
幸いなことにそんな精神の動揺もすぐに収ってしまう。そうして、ちらりと姉の様子をうかがった。姉は不思議そうに指輪を眺めている。
「ごっついな。まあ、動かすのには支障がないからいっか。つーか、悟。お前、左手の薬指は結婚とかの奴だぞ。知らないのか?」
「し、知ってるけど!?」
「知ってるならいいけど。」
姉はそう言って指輪の使い方について聞いてくる。それにモモンガは冷静になった頭で説明しつつ、疑問で埋め尽くされる。
(いや、もっと、こう、ないの?)
なんで受入れてるの?いいや、姉の性格的にびっくりするほど気にしてない。たぶん。指輪を付けると言えばではめちゃったか、ぐらいにしか考えていない可能性が高い。
リリーとしては、まったくその通りの考えをしていたが、それ以上にどうせあと数日泊まった後に帝国に戻ろうと考えていたため、返却しなくちゃなあとまったく別のことに思考が取られていたこともある。
(・・・俺、弟だし。)
それになんだか面白くない自分もいることに気づいたモモンガはまた、ぶわあああああと精神的な動揺が回る。
(そうだよ!?俺、弟だよ!?それ以下でも、以上でもないよ!?)
また、精神の沈静化が行われると、モモンガはため息を吐きたくなった。
(だめだ、何か、妙に。)
追っていたリスがイコールで姉であるとわかってから、妙に姉が女であることを意識している自分がいる。
執着としかいいようのない感情であっても、腐ってもリスというそれの尻を追い回していた自分はけっきょく姉にまで地続きにさせてしまっている。
(そうだ、一緒に住んでたんだぞ?なら、この程度、平気、平気。)
ちらりと姉を改めて見る。
(・・・・細くない?)
モモンガは女を見て思った。元の世界ではオーバーサイズの服を着ていたせいで、そこまで姉の体形を認識したことはないが、着ているものも相まって腹の薄さが妙に目を惹きつける。
(あ、でも、確かに言ってたとおり胸はそこそこ。)
そこまで考えて、また精神の動揺と沈静化が繰り返される。
(だめだ、俺!まじでダメだ!)
「なんだよ、何かついてるか?」
「えっと、姉さん、ご飯ちゃんと食べてる?なんか、体が薄くて心配に。内臓入ってる?」
「入っとるわ。それ言うなら、ここのNPCも細いだろ。」
「・・・まあ、彼らはギルドメンバーがデザインした子達だから。姉さんは人間だろ?ちゃんと食べてるのかなあって。」
もちろん、食べるには食べているが。リリーはそこまで健啖家というわけではない。もちろん、こちらの世界に来てからの食事の方が格段に旨いのは旨いのだが。
昔、それこそ冷遇されていた時代に食事に何かを盛られたのか、嘔吐を繰り返すと言うことがありそれが若干のトラウマになっているのは事実だ。
それによって、確実に食事量は自制されている。それにプラスして、帝国やら王国やらを動き回る分の運動量もそこそこあるために体の細さだけは褒められることも多い。
(あれ、結局誰が盛ったんだろ。まあ、あれ以降なかったし別にいいか。)
「というか、私は女だから男よりも臓器が一個多いんだぞ。詰まってる、詰まってる。」
ひらひらと手を振る姉にモモンガは一つ多い臓器について考えて、答えに辿りつく。
モモンガは無言で頭を壁に打ち付けた。
「うっわ!?どうしたんだ、お前!?」
「何でもないよ!何でもないんだ、姉さん!!」
「そ、それならいいけど。」
連れてこられたのは、広々とした部屋だった。部屋の奥に執務机のようなものが置かれており、その前に幾人かの人影があった。
彼らは、モモンガが部屋に入ると同時に深々と礼の姿勢を取る。
(・・・・なんだろう、この仰々しさ。)
アインズ・ウール・ゴウンは幾層かに分かれた作りになっており、その階層ごとに侵入してきた他のプレイヤーを除けるためのNPCがいるというのは知っていた。
いや、仰々しいな!
ある意味でウルベルトさんとか好きそ~なんてことを考えつつ、名乗りを聞いた。
その場にいたのは、東洋系のスーツを着た悪魔、双子のダークエルフ、青い昆虫の亜人、白銀の髪をした少女、そうして、アルベドだ。
(でも、メイド関係のリーダー的な人はいないのか?ユリって子はリーダーだっていってたけど。もう、挨拶してるからいいのか?)
最後のアルベドの挨拶を聞いた後、モモンガは隣に立っていた姉の腰を抱き、挨拶をする。
リリーはその仕草に妙な既視感を持つが、されるがままになる。
(ここのNPC、人のことを軽んじてるって言われたしなあ。)
曰く、ここのギルドは元々、異形種が集まってできたギルドでそこにコンセプトを置いたらしい。おかげで、NPCたちは人間蔑視が酷いそうだ。
弟としても不安も大きいため、できるだけリリーがモモンガにとって大事な存在であることをアピールすると言っていた。
(なら、私も黙ってされるがままになっといた方がいいのか?)
そんなことを考えながらリリーはモモンガの様子を伺う。
「皆、よく集まってくれた!今回は、まだ説明し切れていなかったものたちにも紹介をしようと思ってのことだ。紹介しよう、私の姉のリリーだ。」
全員の視線がこちらにむく。なかなかな圧のある絵であるが、リリーはさほどの恐ろしさは感じなかった。
近くにいる弟と、長年積み上げた人の前に立たされるという経験のおかげだ。
「紹介にあずかった。姉のリリーだ。とても、よくよく仕えてくれる者たちだと聞いている。あえてうれしい。」
どういったものが正しいかはわからないが、アルベドだとか、ユリだとか、その辺りの反応を見るに忠誠心的なものは高いのだろう。
ならば、そうやって相手の心をくすぐれそうな言葉をかけたほうが良いだろうと考えた。
「姉さんについては、私よりも丁寧に接すること。これは厳命であると心得よ!また、他の僕たちにも通達しておくように!」
「賜りました。他の僕にもよくよく伝えておきます。」
「ああ、わかった。それで・・・」
そこでリリーはくいくいとモモンガのローブの裾を引いた。それにモモンガは少しだけため息を吐いた。
「・・・・それで、姉さんは、ギルドメンバーたちとも交流があってな。お前達のことも事前に知っていた。それで、幾人か個人的に話がしたいそうでな。いいだろうか?」
「アインズ様が命じられるのならば、聞かない理由はございませんが。」
それにその場にいたNPC全員が頷く。モモンガとしては、ここでNPCたちの反応を見て、今後姉と接触させてもいいものを見定めようと考えていた。
弟に促されて、リリーは普段の無愛想さを引っ込めて、真っ先にデミウルゴスに近づく。
「やあ、君がデミウルゴスかい?」
「え、ええ、そうですが。」
「やっぱりかあ!いやあ、すごいなあ!ウルベルトさんに君のことを教えて貰っててさあ。いやあ!」
リリーは左に右にと揺れて、デミウルゴスを見上げる。
「すっごい何か、ウルベルトさんの趣味を全体から感じる。」
デミウルゴスは、何か、とても困惑していた。
何せ、彼にとってモモンガの姉、というのならば彼と同じように賢しく、相応しい女であることを予想していたのだが。
平凡な女だ。
見目が良いわけでもなく、さりとて賢そうなわけでもない。普通の、女だ。
けれど、失望と同時に、デミウルゴスには一つの疑問、というか、確認しなければならないことがあった。
「・・・・申し訳ございません。モモンガ様の姉君、の、その、リリー様はウルベルト様とご親交が?」
「ああ、幾度か一緒に遊んだりしたけれど。」
「人間、で?」
「そうだね、私は人間だ。つま先から、髪の先まで。」
特別なためらいもないそれに、NPCたちからかすかな動揺が上がった。
「も、モモンガ様のお姉様なのに!?人間、なの!?」
アウラのそれにアルベドが不機嫌そうな顔で口を開こうとする。けれど、それよりも先にモモンガが口を開いた。
「何か、問題があるのか、アウラ?」
「え、いえ、その。」
モモンガは釘を刺すように、言葉を吐いた。モモンガから感じる不機嫌そうな空気に皆が黙り込む。モモンガはリリーの背後から手を回し、まるで気に入りの宝物を愛でるかのように首筋に指先を滑らせる。
(・・・・なんかわからんがすごい覚えが。)
リリーの中に、その手つきに妙な既視感を覚える。
殺意と気色悪さのハイブリッド的な概念を感じるが、リリーは気のせいかと考える。
まあ、弟だし。
やたらとスキンシップが激しい気もする。けれど、今は状況が状況である。自分だって弟の死を体験した後に再会なんてすればそれこそ四六時中の勢いでべったりしているのかも知れないと思いそのままにさせた。
「姉さんは、血も繋がらない私を幼少期から一人で育ててくれた。人間であることが、そこまで重要か?」
「い、いえ!ただ、驚いてしまっただけです!」
「・・・・そうか。私も短慮をした。許せ。ただ、姉への無礼は私への無礼だと、ゆめゆめ忘れないでくれ。」
そんなことを弟が言っている中、姉はどこか上の空になっていた。なにせ、この、弟の手から感じる殺意と気色悪さのハイブリッドな感覚がなんなのか甚だ疑問に思いあまり聞いていなかった。
「・・・・それで、その、リリー様。」
「お、うん?そういえば、何か聞きたそうだったっけ?」
「リリー様は、その、ウルベルト様とご友好というと。何か、恩義のようなものは売られたことは?」
「恩義?」
リリーははてりと考える。何かがあっただろうかと思っていると、突然、脳内に弟の声がした。
『姉さん、ウルベルトさんに仕事紹介したよね?あれじゃない?』
(《伝言》か。びっくりした。)
「思い当たるのはあるけれど。」
それにデミウルゴスは深々と、リリーに礼をした。
「ウルベルト様より、リリーという女性に会うことがあればよくよく助けるようにと、仰せつかっております。」
「え、そうなの?」
(わざわざそんなこと。いいや、私が死んだ後、ギルドの人もそこそこ動揺してたらしいからなあ。)
「デミウルゴス、それは本当か?」
「はい、確かにそう言われておりました。」
「そうか、そうか。姉さん、何か困ったことがあれば頼るといい。」
「ああ、わかった?」
(・・・・ウルベルトさんの名前を出したと言うことは、嘘ではないな。)
モモンガはそう思いつつ、他の僕を見る。
デミウルゴスとアルベドは今のところは安全だろう。コキュートスに関しては元々他種族への感情はドライな方なのでそこまで危険視はしていない。
(アウラとマーレは未知数だな。最後に、シャルティアは・・・・)
「あ、あの!」
そんなことを考えていると、シャルティアが声を上げた。皆の視線がシャルティアに集まる中、彼女はゆらりと姉に近づく。
「も、もう、我慢できんせん!!」
がばりとシャルティアがリリーに抱きついた。
「ようやく、ようやく、お会いできんした!私の、愛しいお姉様!!」
「は?」
シャルティアはリリーの胸の辺りに顔を埋めて、顔を赤くしてうっとりと微笑んだ。
「ペロロンチーノ様が、妾にそうあれとしてくださったんでありんす!妾の、愛しい、お姉様!!一目見て、わかったでありんす!お姉様がそうであると!!」
「シャルティア!!!私のリリーから離れなさい!!」
そうして、横から感じる圧が自分の肩を掴んだことに、リリーの脳裏には一つの単語が思い浮かんだ。
女難!!
遠いどこか兄の高笑いがした気がした。
「・・・・・あんた、本当にいい加減にしなさいよ?」
「・・・・・わかってるでありんす。」
シャルティアの暴走のために一旦はモモンガの姉の紹介の場はお開きになった。シャルティアはモモンガにそこそこがっつりと叱られてしょぼけている。
それをリリーがなんとかなだめて、その場を去ることで一時的に決着した。他の守護者達も呆れているが、シャルティアの暴走が創造主からそうあれとされたのなら、と生暖かい視線を向けていた。
そんな中、コキュートスが呟いた。
「・・・・アインズ様ノ姉君トイウガ。平凡ナ方ダッタナ。」
「・・・だねえ。」
「でも、アインズ様が、自分と同じぐらいに敬うようにって。」
「そうだけどさあ。人間だよ?」
「皆、先ほどのアインズ様の言葉、忘れたの?」
「わ、忘れてないけどさ!でも、さあ。」
アルベドはそれに呆れながら何かしら手は打った方がいいのだろうと考える。特に、これからリリーと対峙することが多くなるメイド達には釘を刺すか、それともリリーを軽んじればどうなるかについてわからせた方がいいだろう。
「・・・・それに、もしやすればリリー様はアインズ様のお世継ぎを産む可能性だってあるわ。」
アルベドのそれに、守護者達は驚愕の表情をする。
「アルベド!それはどういうことですか?」
「・・・・お前達だって感じていたでしょ?アインズ様が、どれだけあの人にご執心か。」
「それは、そうですが。」
「近くにいれば、すぐにわかるわ。コキュートスに、デミウルゴスだってうれしいでしょう?もしも、それが実現すれば。」
「・・・ソレハ、願ッテモナイコトダガ。」
(・・・・これで、守護者たちには、あの方に手を出したりするような愚か者はでないでしょう。)
アルベドとしては、モモンガからのリリーへの執心ぶりに、それが弟から姉への親愛だけでないことは察せられる。
(さすがに、アインズ様を差し置いて百合を独占することは難しいわ。でも、ここでアインズ様を上手くサポートして、二人の仲を取り持てば。)
アルベドの脳裏には、一つの単語が浮ぶ。
そう、目指すは、夢の3Pである。
「・・・・・アルベド、急に笑い出して怖いんだけど。」
「・・・・・色々、あるんだろうが。ふむ、そうか、あの方がねえ。」
「・・・・なあ、ペロロンチーノの兄さんって、炎への耐性あるっけ?」
「焼き鳥にする気だとしても、あの人ガチビルドだから姉さんは勝てないと思うよ。」
モモンガとリリーは満身創痍で、寝室に帰ってきていた。リリーはそのままベッドに転がり、モモンガも精神的な疲労感を感じてベッドに座った。
リリーはうつ伏せのまま寝転がって、口を開く。
「・・・・なによ、お姉様って。」
「シャルティア曰く、一目見て、姉さんのことが好きになったみたいだけど。NPCの設定は如実に出るから。ペロロンチーノさんが姉さんのことを設定に組み込んでたのかも。」
「勝手に人で百合ップル作るの止めて欲しい。」
「でも、あの人そこら辺は常識ある人だったから姉さんに一言断りそうだけど。覚えてないの?」
「わからん。雑談の中でそんな話をした可能性もあるけど。」
「まあ、シャルティアには釘刺したから。何かあったら言ってよ。」
「へーい。」
リリーは疲れ切ったそのままに、そのまま寝てしまいたかった。けれど、ふと、思い出す。
「そう言えば、パンドラは?会いたいんだけど。」
「・・・・それは、うん、またね。」
「えー、なんでさ。楽しみだなあ。あの子には会ってるから。ねえ、あの軍服、着てるんだよな?」
「着てるよー。というか、あれのデザイン、ネットの海から見つけたの姉さんじゃん。」
「やっぱ軍服はロマンがあるよなあ。かっこいいんだろうなあ、動いてたら。」
(・・・・・実際動いてるの見たら、絶対引く。)
そんなことを弟が考えているなんてリリーはつゆ知らず、そう言えばと口に出す。
「そう言えばさ、あと数日は滞在したいんだけど大丈夫だよな?」
「え?」
「まあ、大仕事が終わって良かったよ。そうだ、帝国に帰るとき、一緒に来るか?」
兄様に紹介と、リリーが言いかけたとき、頭上からこれ以上ないほど穏やかな弟の声がした。
「何言ってるんだ、姉さん?」
「何がだ?」
リリーは弟と向き合おうと、起き上がろうとしたとき、ぐいといきなり持ち上げられた。
自分の腹に腕が巻き付き、もう片方の腕は脇から伸びてリリーの首にひんやりとした骨の指が絡みつく。
「もう、姉さんは頑張り屋だなあ。」
リリーはそれにあきれ果てて、離せ愚弟と叱り飛ばしてやろうとした。いつも通り、弟を叱ろうとした。
腹と、胸に固い骨の感触が食い込んで痛くさえあった。後ろから覆い被さるように抱きしめられ、囲い込むように骨の腕や足が体に絡みついている。
いくら姉弟でも、少し無遠慮というか、きわどい部分に触れられているから。
弟を叱らなくてはいけないのに。
なのに、リリーはじりじりと、自分を見つめる視線を感じると言葉が喉の奥に引っ込んでいく気がした。
(・・・・なんで?)
リリーは、何故か、振り向きたくないと思った。体中から冷や汗が流れるような感覚がした。
「ここはすごいだろ?豪華で、おいしい食事に、綺麗な服だってある。そうだ、姉さんに似合いそうな服、まだまだあるから着て見せてよ。」
いつも通り、明るくて、穏やかな弟の声がする。なのに、何故だろうか。
首元を撫でる冷たい、骨の指。リリーの柔らかい肉を確かめるような、食い込んでいく骨の体。
「退屈なら、メイド達と遊べばいいよ。うちには森もあるし、そうだ、コキュートスの領域は雪もあるから雪遊びもできるかもね。嫌なことは全部、僕達がやってくれるから姉さんはゆっくりしてればいいからさ。」
骨の弟には、体温なんてないはずなのだ。なのに、なのに、何故だろうか。
体が震えて、冷たくなっていくような感覚がした。
「姉さん。」
どろどろとした、甘い、幼い子どもが全幅の信頼を寄せる誰かにじゃれつくときのような声がした。
なのに、何故だろうか。
それは、遠い昔に何かのおとぎ話で聞いた、振り向いてはいけない道で罠を張る悪魔の声のようで。
首に掛かった指が、リリーの視線を上に向かえる。
「姉さんは、もうどこにもいかなくていいんだ。」
ずぅーっと、ここで、俺と一緒に暮らそうね。
そこには、赤い目をぎらぎらと輝かせて、ニタニタと笑う幽鬼がリリーを見下ろすだけだった。
そう言えばさ、この前お姉さんに会ったよ。
え、リリーさん大丈夫だった、あの。
何が?にしても、すっごい上品なお姉さんだね。
・・・・・上品?
うん、知ってるアニメに出てたからって色々とお話してくれてさ。
あの、下ネタとかって・・・・
何の話?
まじかよ、姉貴。
百合が下ネタとか嫌いと聞いて、遊ぶときは猫被ってた茶釜さん。
ねえねえ、リリーさん。
なんだい、ペロロンチーノさん。
うちのシャルティアの姉になってくれない?
唐突にどうしたの?
俺、リリーさんみたいな姉が欲しいから、シャルティアに思いを託そうと思って。
まあ、気が済むなら構わないけど。
よっし!言質取った!
姉は姉でも、ペロロンチーノの趣味全開で設定が組まれて起こった悲劇。ちなみに、リリーは覚えてない。