姉と弟の現在の評価。
ナザリックの中で、リリーについて誰よりもやらかすの誰かなあと考えたらこの子かなあと。
報連相はしたし、護衛もしてる。ただ、驚かせてやろうと思ったのと、少しの入れ知恵があったため。
お題箱作ってみました、何かあれば
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(・・・・どうしよう。)
その時、アインズ・ウール・ゴウンことモモンガはうんうんと悩んでいた。
彼がいるのは、ナザリックにて執務室として使っている部屋だ。そんな場所で、彼は机に向かって悩んでいた。
「どうかされましたか、アインズ様?」
「・・・・いや。」
モモンガは声をかけてきたセバス・チャンに返事をしつつも、どうしようかと頭を悩ませていた。
モモンガには現在、多くの厄介ごとが重なり合っている。
というのも、だ。
(世界、征服って!!)
彼は、この頃非常に幸福な日々を過ごしていた。
大事で、仕舞っておきたかった姉が手元にいる。己の寝室に所在を置いている姉に会おうと思えば会える日々はモモンガの心を満たしてくれた。
けれど、だ。
それと同時に、ふと、思い立つ。
僕の中に、もしかしたら自分の知らない範囲で、姉にドン引きされる案件をやってる奴いるんじゃね?と。
もちろん、報連相は大事にしている。だが、デミウルゴスのように上手く指示が伝わっていないだとか、何でもないことだからとスルーされている可能性はゼロではないのだ。
故に、だ。
アインズは改めて、外で活動しているだろう僕達に聞いて回った。
情報収集も終わり、一段落したため、改めて計画の内容のすりあわせをしたい。そのため、できるだけ細かく話を聞きたいと。
そこで飛び出したのだ。
どうも、ナザリックの今のところの計画が、世界征服であるのだということに。
モモンガは頭を抱えた。
うん、いつから?いつからそんなことになっていたのだと。
それにモモンガはどうしたのかというと、アルベドに泣きついたのだ。
以前の彼ならばけしてしない選択肢であったが、アルベドに関しては自分が人間であったことや姉の件でずっと気安い関係になっていた。
世界征服なんて、姉に知られれば相当に叱られてしまう。もしかすれば、口も聞いてくれなくなるかもしれないと。
コレに関してはアルベドもそれに同意し、それと同時に提案をした。
「確かに、あの人の性格からしてよい感情は持たれないでしょうが。」
「そうだろうな。」
「ですが、必要なことでもあるのでは?」
「必要?」
「・・・・百合は、とても弱いです。」
「そうだな。」
姉というそれは、モモンガ基準ではとても弱い。この世界においては、圧倒的な能力であっても、油断はできないのだ。
「この世界を、百合にとって安全なものにするために、支配下に置くのは手かと思います。」
「・・・・納得するか?」
「ええ、ですので。あくまで、あちらからこのナザリックの庇護下に入りたいと誘導をすればいかがでしょうか?」
「マッチポンプを仕掛けると?」
「ええ、それに百合自身、帝国で皇女として育っています。帝国も王国のことは狙っている。ならば、そこまで悪感情はなさないかと。」
「そうか。それは、ふむ。ただ、少しの間、計画については凍結したいなあ。姉さんにそこら辺を話さないといけないし。それに、王国で行ったことの言い訳もできていない。」
守護者達を紹介した後、少しゴタゴタしていたせいで気づかなかったが、少しして思い至ったらしい。
なあ、デミウルゴスってさ。変な仮面付けてヤルダバオトって名乗ったりした?
(・・・・誤魔化したけど。絶対ばれてる。)
モモンガはできればなんとかその辺りを隠したかった。百歩譲ってヤルダバオトのことがばれるのはいい。
だが、モモン=モモンガだとばれるわけにはいかない。
(俺が姉さんに、あんな、あんな、態度取ってたとか!ばれたら、そんな!!)
恥ずかしい、気まずい、でも姉さんもうれしそうだったし。
なんてことをぐるぐると考えるほどに悩みまくったのだ。
(と、いうか。それの関係でセバスやらツアレやらと会わせられないんだよなあ。人間に悪感情のないセバスは姉さんの近くに付けときたいし。あと、ツアレ。人間だし、姉さんも気にかけてたから話し相手に丁度よさそうなんだけどなあ。)
セバスとモモンは親しい空気を出していた。それ関係で会わせるとばれる可能性が若干ある。ちなみに、ナーベラルと姉は絶対に会わせられない。
それはそれとしてモモンのことはばれたくない。切にモモンガはそう願っているのだ。
(・・・・でも、姉さんも、モモンには会いたいとか、思ってたりとか、しちゃったらさあ!それはさあ!)
それにモモンガは何か、こう、心がうきっとするというか、妙にこそばゆい感覚に襲われる。すぐに精神は沈静化してしまうが。
(まあ、それは別にいいよ。それよりもとんでもない爆弾埋まってたからね!?)
特大の爆弾というのは、そう、みんな大好きデミウルゴスの両足羊である。
うん、あれはやばい。というか、早々にばれて良かった。
(ヤギとかならほのぼのしてて姉さんが喜ぶかと思って突っ込んでよかったね!うん!でも、内容が本当にヤバすぎてドン引きだね!!)
モモンガは速攻で隠蔽を図った。被害に遭った人間達の傷などは治し、トラウマになるだろう記憶は消した。
(まだ、そこまで人数がいないことが不幸中の幸いだが。いなくなった人間が大人数で返ってくるのも不自然だし。カルネ村に一時的に匿って貰ってるけど。長くは持たないだろうなあ。)
殺してしまえば良いのでは?
そんなことが囁かれる。けれど、だ。
姉の言葉が思い浮かぶ。
恩には恩で返しなさい。
一時的とは言え、ナザリックに羊皮紙の代わりになるものを配給してくれていた存在だ。殺すのも忍びない。
モモンガも、悪魔である彼らが人で遊びたがるということを理解していなかったのが悪い。
(やっぱストレス溜まるかなあ?まあ、捕らえた六本指とかの辺りの下っ端を皮剥用と、後、遊ぶようにやったからいいだろ。)
姉も六本指のことは嫌っていたから気にしないはずだ。
特に、姉の髪を切った男に関しては徹底的に、楽しく遊んで良いと伝えてある。
(・・・・忌々しいなあ。姉さんの髪。綺麗な、俺の、姉さんの髪を。)
「・・・・アインズ様、お疲れですか?」
「ああ、いや。すまない、その、だな。姉さんのことで少しな。」
「お姉様の件で、ですか?」
「ああ、お前には不自由をかけているな。ただ、お前と姉は面識がある。少し、紹介しにくくてな。タイミングを見計らって紹介はするつもりだ。」
「はい、是非ともお会いしたい。」
「お前は姉のことをどう思う?」
「アインズ様のお姉様らしく、非常にお優しい方だと思います。ツアレを助けられるときも、一人で泥を被ろうとされていました。」
モモンガはセバスのそれに上機嫌そうに答える。
「そうだろう、そうだろう!姉さんは優しい人でな、面倒見もいいから慕われていたんだ。」
(それに勘違いして、後輩とかに告白されて困ってたもんなあ。)
といっても、そういった存在は姉の端末の壁紙にしてある鈴木悟の写真で色々と察して離れていくのだが。
(何も言わなければ、弟ってばれないから便利だあって姉さんは言ってたけどさ。)
出汁にされる弟のことも考えてほしいものだ。
「それで、だが。姉がな。ナザリックから出たがって困っているんだ。」
「それは、何故でしょうか?」
「帝国の方で残してきたものが色々と気になるらしくてな。」
モモンガが思い悩んでいるのは、姉が帝国に戻りたがっていることだった。
「あちらに残しておいた仕事やらなんやらが気になるとな。」
「責任感の強い方なのでしょう。」
「それはそうなんだが。もう、仕事をせずとも、ゆっくりしてくれればいいんだが。」
「ですが、姉君はバハルス帝国の皇女とのこと。彼の人の噂は、情報収集の際によく聞きましたが。あれほどの方の行方がわからなくなるというのは確かに少々困ったことになるかと。」
「それは、そうだな。何かしらのことは考える必要があるか。」
もちろん、それならば一度姉をバハルス帝国に返すのが一番の選択肢のはずだろう。
けれど、そのアンデッドの中には最初からその選択肢はない。
姉はここでこのままずっと過ごすのだ。外に出す理由がないと、はなから選択肢として存在させていない。
一瞬、モモンガの脳裏に、理由がなくなれば姉がここから出たがることもなくなるのでは?
なんて甘い誘惑が浮んでくる。
けれど、それも、そんな恩知らずなことはできないと頭から追いだした。
(でも、姉さん弱いんだよなあ。)
それは、とても困った事実であるのに。
モモンガはそれが嬉しくてたまらないのだ。
アヴァターのためか、二人の身長差は大分開いてしまっている。
姉を抱きしめるのは好きだ。暖かくて、軟らかい肉に己の体が沈むのは、姉が生きていることを実感できてとても好きだ。
そういうとき、モモンガはまざまざとわかってしまうのだ。
あんなにも強くて、気高くて、かっこよかった姉は、今になってみればとてもか弱くて愛らしい生き物であったことに。
自分の手の中に、あんなにも強くて気高い生き物の命が握られていることに、薄暗い興奮を覚えてしまう。
(殺すなんてあり得ない。あり得ないけど、俺に腕力で抵抗できない姉さん、ちょっと、可愛かったっていうか。)
姉はモモンガにとってずっと、後を追い続けなくてはいけない、逆らうことの難しい庇護者だった。けれど、今、力関係が逆転し、モモンガは庇護者側に立っている。
(女を男が守るって言うのは、古い考えなのかな。)
けれど、今になって、モモンガは嫌と言うほど、姉が女であったことを、か弱くて愛らしい女である肌触りを認識し始めている。
(・・・・なんか、たっちさんの気持ちがわかるかも知れない。)
歪んでいるけれど、自分が守らなくてはいけない、愛しいものがこんなにも可愛いなんて思わなかったのだ。
モモンガは、そんなことを考えつつ、報告書の表面をなぞった。
「姉さんの様子はどうだ?」
己の主からの問いかけに、セバスは口を開く。
「今のところは変わらずにお過ごしになられています。九階層以外に立ち入るときは護衛としてユリか。それともプレアデスの誰かがつくようにしております。時折、森林に行かれる程度で、後は図書館に行くか、お部屋で過ごされているようです。」
「そうか。一般メイド達はどんな反応だ?」
「・・・お世話をする方が増えたことは喜ばしいという意見ですね。」
「そうか。ないとは思うが、無礼を働くものがないかは見ておいてくれ。」
「はい。」
セバスは主人に返事をしながら、どうしたものかと考える。何せ、皆が認めるとおり、ナザリックでは人間というのは蔑むべきものなのだ。
そんな中現れたリリーという存在についての反応は、多種多様だ。
至高の御方である主から、自分と同程度に敬意を払えというのだからと態度には出さないが何故という意見も多い。
ただ、いいこともある。
何って、リリーの世話を丁寧にすればそれだけ主人に褒められるのだ。
リリーの着るものだとか、髪の毛の手入れだとか。
リリー自身も、自分の世話をするものたちについてしっかりとモモンガにこういったことをしてくれて嬉しいと意思表示してくれる。
厨房の僕達も、モモンガには振えなかった料理関連で褒められることが増えた。
そのため、リリーという存在は、少なくともメイド達などからいないよりもいるほうが良い存在になっている。
(・・・・仕えるものとして軽んじ過ぎていますが。これは意識改革として長期戦になることは覚悟せねば。)
セバスはそんなことを考えていた。
ぴちゃーんと、その日、リリーは第六階層の湖の畔にてくつろいでいた。
その日着せられた白いワンピースを捲って、ふくらはぎまで湖に浸して、ばちゃばちゃと水面を揺らしていたりした。
その近くには、ピクニックの準備をしてくれたユリが自分を観察するように見ている。
リリーは、殆ど空そのものの天井を見つつ考えていた。
思ったよりも弟がやべええええええええ、と。
(いやあ、そりゃあ、身内が死んでそれ相応の衝撃はあったし。その死んだ人間と再会とかそりゃあ、奇跡だろうがな?)
まさか、あそこまで突き詰めてしまっている何て誰が思うだろうか?
(そりゃあ、私だってそれ相応に執着してたさ。二人っきりの家族だったし。)
リリーとてわかっている。前世の自分たちはそこそこに共依存になりかけていたことぐらい。幸いだったのは、鈴木悟はゲームの中で友人を得たことと、藤堂百合という女はそこまで束縛を好まなかったことだろう。
だからこそ、二人は勝気な姉と、気弱で優しい弟のままであれたのだ。
けれど、それは、姉の死と。
(悟がアンデッドになったのが一番の理由、か?)
元来の弟の性質を考えれば、姉に強く出るなんて事できないだろう。そんな中、一番の理由として考えられるのは、アンデッドになったという部分なのだろう。
何かのたがが外れてしまっているのだと、リリーとてわかっている。
リリーが思い出すのは、守護者達に面会をした日の、あの夜。
冷たい自分の肉に食い込む固い骨の感触。不躾に体を這い回る骨の指。ゆらゆらと自分を見下ろす眼窩の中で揺れる赤い光り。
(・・・・わかりたくないがなあ。)
あの時、理解した。
あの瞬間、自分たちの関係性はとっくにひっくり返ってしまったことを。
(人の手の中で愛玩される小動物って、あんな気分なのかね?)
それを絶対的な庇護下だと安堵するのか、それともその手が自分を握りつぶす時を考えるのか。
(私は・・・・)
「姉さん、今日はこっちにいたんだね?」
「アインズ様!」
リリーは会いたくないような、けれど、やっぱり会いたいような、そんな複雑な心境で振り返った。
そこには簡素なローブを羽織った骸骨が立っていた。
「ユリか、姉さんの世話をすまんな。」
「いいえ、そのようなことは。」
「人が迷惑かけてみたいなこと言わないでくれるか?」
「まあ、お世話になってるのは当然だろ。」
弟はそう言って、当たり前のように姉の隣に座り、その両腕を腹に巻き付けてくる。そうして、その肩に頭を乗せてくつろぎ始める。
「湖で遊ぶなんてどうしたの、暑い?」
「いや、純粋に建物の中に湖、っていう驚きに身を任せてるだけ。」
「ここはねえ、ブループラネットさんの努力の結晶だから。」
「あの、自然が好きだって言う?」
「そ、ユグドラシル時代も、空の作り込みはすごかったからねえ。姉さんは。」
「その人には会ったことないなあ。」
「そっか、ブループラネットさんはさ。」
そのまま弟は、友人の話をし始める。リリーもその話を聞くのはけっこう好きだ。話自体は面白いし、そこからリリーの知るギルドメンバーの話しになったりもする。
そうして、その話の中、頭の片隅で考える。
(・・・身体接触が多くなった。)
リリーは己の腹や腰に絡みつく、冷たい骨の指に目を細める。けれど、リリーはそれについて何も口にしない。
それが、言えないのか、言わないのか、どっちなのだろうかと考える。
あの日、ベッドの上で帝国に帰さないことを告げてきた弟に、リリーは顔を青くして言った。
「で、でもな。私も、色々と仕事を残してきてるんだ。領地のこともあるし。だから。」
「姉さん。」
弟は、そうだ、昔、残業で疲れ果てた姉に声をかけたときのように、優しく、穏やかに話しかけてきた。
「そんなこと、もう、きにしなくていいんだよ。」
何かが、弟の何かが、決定的に、変わってしまったと理解できた。
それに弟はとても上機嫌そうな声を出した。
「姉さんも、もう働かずに気楽にしてていいんだから。ほら、今日は疲れたでしょ?もう、寝よう。好きなだけ、寝坊してもいいんだから。」
その日、リリーとモモンガは同じベッドで眠った。
(悟は眠りは必要ないって言ってたから、多分、私が寝た後は起きて何かしてるんだろうけど。)
それはそれとして起き抜けに目の前に骸骨がいるのはなかなかキツい。思わず叫んで仕舞ったぐらいだ。その時のしょぼけた骸骨は妙に愛嬌があった。
それから、モモンガは確実にリリーへの身体的な接触が多くなった。まるでその肉の感触を、生きている実感を確かめるように、それと同時に幼い頃に甘えてきたのと同じようにリリーにすり寄る。
それを拒絶しないのは、別段嫌ではないことと、そうして、拒絶してどうなるかわからないためだ。
そのさわり方に粘っこいものはなんとなく感じられたが、自分の弟への執着も端から見れば気色悪いのかもなあという思いもある。
(でも、弟を恐れて何も言えない時点で不健全か。)
嫌ではないのは、偏に、リリーの中では無意識でもモモンガが幼い子どものイメージで止まってしまっているせいだろう。
その、自分の肉に食い込む骨の指は、独りになることを恐れる子どもが縋り付くときの手つきに似ている気がする。
弟が上機嫌で自分の髪を梳いている。
「ねえ、姉さん。髪、今度は思いっきり伸ばさない?ほら、前にあったじゃない。髪の長い、塔に住んでる女の子の話。」
「おま、最大足まで伸ばせと?お前、背中まであるときだって手入れが大変で。野営の時だって面倒だ・・・・」
「姉さん。」
弟の冷たい骨の指が顎にかかった。そうして、それと同時に、ぐいっとまた顔を上に向かされる。
赤い光が、ゆらゆらと揺れて、自分を見ている。
「どうしてそんなことを気にするんだ?」
寒い、とそう思う。何か、凍えるような、そんな、寒さを感じる。温度がすうと吸い取られてしまうようなそんな感覚がする。
喉元を撫でる固い、骨の指に体が震えた。
「姉さんが野営なんてする必要ないだろ?」
「そうだな。まあ、思い出しただけだろ。つーか、あんだけ伸ばしたら髪に栄養がいって不健康になるって聞いたけど。」
「えー。それじゃあだめか。でも、姉さんはもう少し太らないと。そうだ、お菓子とか増やさない?」
「今でさえ、腹はち切れそうだからいらん!」
えー、でもさあ、もうちょっと太った方がいいってえ、なんて自分にしだれかかってくる弟を、女には絶対に言うなよそんなこと、といなしながら考える。
そうやって、弟はリリーが外に行くことを連想する言葉を吐くと、そんな風に圧を与えてくる。
特に、リリーが帝国にいたときのことを話すのを嫌う。
故に、リリーはあの夜から一度だって、帰りたいとも、外に出たいとも、言えていない。
それを言ったとき、取り返しの付かないボタンを押してしまう気がした。
それが、とても、リリーには悲しい。
優しい弟が、何か、決定的に多くを欠いてしまったのだと付き付けられるようで。
けれど、それでも、自分に甘える仕草は幼いときの、可愛い悟のままで。
(・・・・ここで、悟の愛玩に屈するのも一つの選択肢か。)
それはきっと、安寧に満ちているのだろう。ここで、傅かれ、弟に囲われて、兄が見ればくだらないままごとだと言われるような行為に耽れば。
何もかもを無視して、そうすることが弟の幸福であるというのならば。
(お前の幸福のために、私がここにいることが一番なのか。)
まあ、そんな繊細さなど、女には結局ないのだが。
「リリーさまあ、そっちは罠があるんで行かない方がいいっすよ。」
「うん?そうかい?わかったよ、ルプスレギナ。」
リリーはその日、シャルティアが守護者をしているらしい階層に来ていた。
「にしても、行くなら第六階層とかの方がいいんじゃないんすかね?」
「うーん、まあ、行ったことの無いとこも見てみたかったんだ。」
なんてことを言うが、実際の所はナザリックを抜け出せる方法を探すためだ。
(・・・・ここは少なくとも、人間に対して軽視してる部分がある。でも、悟が直々に命令しているから危害は加えられない。わんちゃん、追い出したいって奴がいるかもしれない。)
リリーが探しているのは、そういう、自分を厭うている存在だ。リリーが勝手に抜け出してしまえば、下手をすれば兄や帝国に危害を加えられる。
けれど、そうだ、弟側の手違いで外に出れば?
(・・・・一瞬だけ外に出れば、兄上に連絡を取る手段はいくらでもある。)
ナザリックの中から〈伝言〉を使うことも考えたが、盗聴されている可能性もある。
(あー、ちゃんと魔法の勉強しとけば良かった!〈伝言〉に対抗できる魔法とかってあったっけ?)
そんなこんなでリリーはひとまずはナザリックの中を歩き回り、自分にとって都合の良い、味方になってくれそうな存在を探そうと思ったのだ。
弟には怯えている部分はある。自分よりも圧倒的な強者である存在にあれだけの執着やらなにやらを見せられれば、その手の中で震えている方がずっと安全なのだろう。
けれど、残念ながら、女は何よりもエゴイストなのだ。
自分がどうなるか、よりも、どうしたいかを優先するために女は足掻いてしまう。
リリーというそれには、魔法という才以外に何もないと評価されることが多い。けれど、彼女の兄は嗤いながら、女の才をもう一つ語る。
あれは誰よりも図太いぞ。心が折れん。それこそ、妹が妹足るゆえんだな。
少なくとも、今まで庶民として、それこそ技術的な格差がある世界で、皇族なんてものになってなお生活に順応したのは女が何よりも図太く、精神的な強度を誇るおかげだ。
(ともかく、兄上と連絡を取って。現状だけでも伝えんと。焦ってちょっかいなんかをかけた日にはなあ。)
そんなことを思いながら、女は墳墓という単語がふさわしい墓場を歩く。一応、自分のことは伝わっているようでモンスターには会わない。
にしても、とリリーはちらりと後方から着いていくプレアデスの一人を伺う。
今日、着いているメイドは、ユリではなく人狼のルプスレギナ・ベータだ。
ユリは所用があるらしく彼女がお付きになっている。
(まあ、緊急でユリが来れないときもあるだろうし。その時用に慣らしときたいのかな?)
「そうだ、リリー様!」
「え、なんだい?」
「ここらへんって、面白い仕掛けがあるんすよ。」
「仕掛け?」
「そうそう、例えば、これとか。」
そういって、ルプスレギナが何か動作をした。場所が暗いせいでなにもどんなことをしたのかわからない。けれど、それと同時に、床がぴかりと光った。
そうして、浮遊感に襲われる。
「え?」
思わず声が出た。リリーは自分がどこにいるのかわからない。完全な暗闇に覆われ、何か、固いものを踏みしめるような感覚がした。
その日は、動きやすいパンツスタイルで、ブーツを履いているせいでそれが何かまでははっきりわからない。
(どこだ?転移した?指輪を使って・・・・・)
そこまで考えたとき、声がした。
「おやおや、これはこれは。お客人ですかな?」
「ああ、誰かいるのかな?申し訳ない、私はリリー。あー、このナザリックの主人の姉だ。話は聞いているだろうか?」
「おお、お話は聞いておりますよ。アインズ様の姉君がこちらに遊びに来られるとは。我が輩は恐怖公と申します。」
「恐怖公、すまない。そちらの領分を侵す気はなかったんだが。どうも、トラップに巻き込まれたようで。」
「なるほど、うっかり作動してしまったのかな?ああ、姿を見せないのは失礼ですな。今、明かりをつけましょう。」
その言葉と同時に、魔法か何かで明かりが付いた。それを、リリーは一生後悔した。さっさと指輪でその場を立ち去ればよかったと。
「へ?」
「おお、眷属達も姉君に会えて嬉しがっておりますぞ。」
そこには、部屋を多い尽くすほどのゴキブリがざわざわと四方八方を埋め尽くしていた。
その時、リリーは知った。
人間というのは本当に驚いたとき、声というものがでないということを。
そうして、リリーの気はそのままふっと切れて闇の中に沈んでしまった。
お題箱の質問で
ナザリックの他のギルドメンバーが転移してた場合はどうなってたかは。
基本的にモモンガの味方なので、囲い込み強度が上がるだけかなあと。メンバーによってはもしかしたらモモンガとの三角関係みたいなのもあるのかな?
話のストーリーラインはそこまで変わらないと思います。