ルプスレギナへのお仕置き、姉の価値について。短い。
お題箱作ってみました、何かあれば
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「うっわ!!??」
リリーは眠っていたらしいベッドから飛び上がるように起き上がる。
「リリー様、起きられましたか!?」
「お姉様、大丈夫でありんすか!?」
ベッドの近くに侍っていたらしいユリ・アルファとシャルティア・ブラッドフォールンが自分に声をかけてきた。
シャルティアはひしりとリリーに抱きついてくる。
「ルプスレギナが申し訳ございません、今・・・・」
「ふ!」
リリーはユリの腕を掴み、そうして半泣きで叫んだ。
「風呂に入りたい!!」
その切なる声にユリとシャルティアは当然だろうと深く頷いた。
(そういや、悟のギルドって一時期、とんでもない罠を仕掛けて有名になってたな。)
リリーはユリに風呂に入れられながら、あの部屋を埋め尽くすゴキブリの光景を思い出してサブイボを立てた。
シャルティアはいろんな意味でアウトなため風呂場にはいない。
「にしても、迷惑かけて済まないな。いや、そりゃあ、侵略してきた用の罠にはまるなんて。」
リリーは心底申し訳なかった。何せ、間抜けなことにまんまと罠にかかってしまったのだから。自分に着いていたルプスレギナもさぞかし慌てたことだろう。
「・・・その、リリー様。」
「ああ、どうし・・・・」
「真に申し訳ございません、その件なのですが。実はルプスレギナがわざと、リリー様を罠にかけたようで。」
「は?」
すげえ、真性のあほって実在するんだ。
それがリリーの真っ先に浮んだことだった。
「リ、リリー様!まだ髪も乾かされていませんが!?」
「お、お姉様!風邪を引かれるのでは!?」
「言ってる場合でもないからだよ!」
リリーは風呂から急いで上がると、元々自分が来ていた簡素なローブなどを引っ張り出して着た。そうして、ばたばたと弟が執務室として使っている部屋に向かう。
「悟の奴のところにいるんだぞ、ルプスレギナは!」
「は、はい。リリー様が気を失われて助けられた後、アルベド様が来られて。大変激怒されて、ルプスレギナを連れて行かれました。そのまま、アインズ様に連絡されてお帰りになられています!」
「お姉様!もしや、ルプスレギナを直接お叱りに?」
ユリとシャルティアは慌てていたが、特別リリーを止めることはない。
それも仕方がないだろうとリリーは考える。
何せ、彼らに命じられたのは、リリーを弟と同格に扱い、もてなすことのはずだ。だというのに、そんなリリーをわざと罠にかけてゴキブリのたまり場に放り込むなんて。
自分の部下がやらかしたと思うと、背筋が凍るというか、もう荷物も取らずに逃げ出すレベルというか。
(まあ、悟はギルドメンバーの作った彼らに甘いし。私も命がなくなったとかはないし。あっても謹慎とかか?)
ここで何よりも罰になるのかはわからないが。リリーもトラウマと言えばトラウマだが、まあ、もう流して良いと思っている。
(こんな早々にチャンスが巡ってくるなんて!)
元々、ギルドのNPCたちからはさほど良い感情を持たれてないことはわかっていた。今回の件がそれを象徴しているだろう。
(・・・さすがに、今回のようなことがあったから。少し時間をおきたいと言えば、帝国に少しでも帰られる可能性がある。)
その可能性が出てきただけで、リリーは一周回ってルプスレギナ・ベータに感謝していた。
「なんてことをしてくれたんだ!!??」
(・・・・思った以上にダメかも。)
リリーは執務室の、扉越しにさえ聞こえてくる弟の爆音の怒鳴り声に遠い目をした。
リリーの後ろにいたシャルティアとユリは、モモンガの怒気に怯えているようで顔を青くしている。
「俺は言ったよな!?姉さんは俺と同等の扱いをしろと!だというのに、お前は何をした!?姉さんを恐怖公の所に放りこんだだと!?あの人がお前に何かしたか!?お前は何を考えていた!?」
「で、でも、に、人間・・・」
「人間!?そうだ、あの人は人間だ!それがどうした!?俺と姉さんは同等だと。その言葉の意味さえわからないというのか!?こんな単純な命さえも!?ルプスレギナ!今回はもう、お前にはあきれ果てた!」
弟の部下へのパワハラ場面にリリーはどうしたものかと考える。
(いやあ、でも、普通に考えて当然なのか?帝国で似たようなことしたら。うん、普通に胴体と首がお別れするか。)
後ろにいたユリとシャルティアは身を固くして震えている。
(でも、もう少しタイミングを見て。悟が怒りを爆発させて冷静になったときに入ったほうが。)
「ルプスレギナ・ベータ!お前には失望した!顔も見たくない!どこにでも消えてしまえ!」
(だめでーす!介入介入!!)
リリーは半ばやけくそ気味に扉を押して、部屋の中に入る。
そうすると、中には、弟と、それに侍るような立ち位置のアルベド。そうして、ルプスレギナと執事服を着た老人がいた。
(あれ?)
老人の顔に見覚えがある気がしたが、すぐに真正面にいた、全てに打ちひしがれるように座り込んだルプスレギナに視線が向かった。
「姉さん!」
「・・・・帰ってたんだね、悟。あと、ほら、大丈夫か?」
リリーは堂々と執務室に立ち入り、そうして、座り込んだルプスレギナに寄り添った。
「姉さん、それのことは気にしなくていい。」
「気にしなくていいって。お前。そんなことも言ってられないだろう。」
「この愚か者が何をしたのかわかってるのか!?」
「わかってるよ。でも、今回起きたのは、いつか起きる可能性があったことだろう?だから、悟。私、ここにはいないほうがいいんじゃないのかな?」
その言葉に、執務机の向こうにいたモモンガがゆらりと立ち上がった。
(あ、やべ、しくったかも。)
リリーは部屋にいる僕たちが全員、まるで息をすることさえも止めるほどに。緊張していることを覚る。
けれど、リリーとしても話を止めるわけにはいかない。
(こいつ、レベル六十ぐらいだろ?そんな奴を外にほっぽり出されたら普通にヤバいんですよ!)
「・・・何を、言っているんだ、姉さん?」
「・・・お前さんも言ってただろうが。ナザリックの僕達は人間を蔑んでるって。それなら、私がこういう目に遭う可能性はあったはずだろ?なら、一旦時間をおいた方がいいだろ。僕達が何考えてるのか、把握したりして。ルプスレギナも追い出さずに、謹慎とかさ。まあ、私も怪我はなかったけどさ。でも、さすがにこの状態で、ここにいるのは私もさすがに怖い、か、ら。」
弟が、ゆらりと、自分の前に立っていた。
「・・・・何、言ってるの?」
凍えるほどに、冷たい声が、自分に降りかかった。
ルプスレギナと、姉の件についてアルベドから連絡を貰ったモモンガは目の前が真っ白になるような感覚がした。
ナザリックには、人間を下に見ている者たちが多い。それこそ、人を捕食するものだっている。
けれど、一応は、彼らにとってふさわしい主としての振る舞いを見せている今ならば、自分の命に背くことはないはずだと考えていた。
なにせ、モモンガはそれこそ、暇さえあれば姉の元に通っていた。
ちょっと、ドキドキというか、そわそわするけれど姉にべったりと張り付いて寵愛的なものをアピールしていたのだ。
さすがに、そこまでされた姉に危害を加えるものはいないだろうと思っていた。
姉の側には、信頼のできるユリや、そうしてアルベドもいるため最悪なことも起らないと考えていた。
しばらくの間は姉が落ち着くまではと、アルベドに頼み、世界征服などの計画は凍結させたのだ。
デミウルゴスが気に入ったという、王国の姫については切り捨てることに決めた。
何故って、話は簡潔で。
「婚約者?いや、私に釣り合うほどの条件の良い奴がいないからって兄上に全部せき止められてるからな。ああ、でも、一回王国の長男と話が持ち上がったときは少し長考してたけど。」
「え、それ、どうなったの?」
「あー?結局、その時にはすでに魔法詠唱者として格があったから条件に合わないってお流れ。まあ、あっちの長男、私のこと醜女だとか散々言ってたそうだから。嫁がなくてよかったよ。」
その言葉で、王国の王族に関わる気が失せてしまった。アルベドに話せば、それに同意したため、王国の姫を引き込まないことをデミウルゴスに告げた。
デミウルゴスは残念そうであったが、すでに八本指を掌握しているのでいいだろうとしたため手は切った。
(・・・何かの折りに殺してしまおう。)
そんなことを考えていたモモンガであるが。
まさか、こんなことになるなんて誰が思うだろうか?
急いで帰ってきたモモンガを、アルベドとルプスレギナ、そうしてセバスが出迎えた。
「どういうことだ?」
「・・・はい。リリー様が、ナザリック内を見て回りたいということでしたので。ルプスレギナを付けて歩かれていたのですが。シャルティア様の領域を探索中に罠が作動して、リリー様が恐怖公の元に転移されて。」
「姉さんは!?」
「怪我はないのですが。その、恐怖公の元に行かれて、大量の眷属を見たショックで気絶されて。今は部屋で休まれております。」
姉が無事であったことに安堵しながら、それでもなお、怒りの波が押し寄せるせいで怒りが途絶えることはない。
「どういうことだ!?姉さんは、私と同じように扱えと言ったはずだ!ルプスレギナよ、お前が罠の位置を把握していなかったのか!?把握もせずに、姉さんの護衛ができるとでも!?」
ルプスレギナは怯えたようにがたがたと震え始める。それに、アルベドが重い口を開いた。
「アインズ様。この愚か者は、わざとあの人を罠にかけたのです。」
「わざと!?わざと、そんなことを!?」
「・・・・あ、あの、だって!人間のくせに、アインズ様の姉だって!不相応だから、少し、いたずらを。」
その言葉に、モモンガの中で、血が逆流するような怒りがわき上がる。
憎悪のままに怒鳴り散らしながら、殺意が芽生える。怒りの高ぶりが沈静化されるが、後からいくらでも怒りがわき上がり持続され続ける。
何よりも、死に果てた鈴木悟の執着が、モモンガに燃料を注ぎ続ける。
もしも、もしも、これがまだ理性的な恐怖公の元ではなく、本能のままに動くモンスターの元だったら?
死ねば蘇生することはできるだろう。けれど、姉はあまりにも特殊な生を生きている。もしかすれば、彼女には蘇生魔法が効かないかもしれない。
それに、モモンガの内に、恐怖があふれてくる。
もう一度、姉を失うかも知れない。
鈴木悟の唯一のよすが。
モモンガを支配する渇望の中心。
それを失う?それを、失わせる可能性がある?
それに、目の前のメイドに殺意がわいた。けれど、それは鈴木悟のもう一つの執着であるギルドメンバーへの感情が阻む。
それは、確かにギルドメンバーの忘れ形見であるのならば。
それが殺意と拮抗する。
故に、モモンガは、NPCたちにとって最悪の決断を下してしまう。
モモンガは告げてしまう。
もう、お前はいらないと。
その時の、ルプスレギナの絶望したかのような、茫然とした顔。涙を流して、モモンガに縋ってなお、それには欠片も響かない。
少なくとも、今はそう告げるしかない。でなければ、モモンガは目の前の忘れ形見を殺してしまいそうだった。
「姉さん、何を言ってるんだ?」
「っつ!」
ぎちぎちと両肩を、握り折られるほどに強く掴まれてリリーは苦悶の声を上げる。
それにモモンガは掴んでいた肩を一旦は離したが、片方の腕は腰に巻き付くようにして前方に回り、もう片方はリリーの首をわしづかみにする。
「なんで?なんで!?なんで俺から離れていこうとするんだ!?姉さんは違うのに!姉さんは俺のなのに!姉さんだけは違うはずなのに!」
弟の声と共に、何か、びりびりと刺すような、身がすくむような感覚がした。黒い影のようなものが自分に纏わり付く感覚がした。
その場にいた、アルベドたちはもちろん、リリーの後ろを着いてきたシャルティアたちも恐怖に震えて一言も話せない。
「まただ!また、俺を一人にするの!?俺を置いてくの!?許さない!許さない!何が姉さんを連れて行くんだ!?」
「さ、と、る・・・・・」
「ああ、ルプスレギナか!?ルプスレギナがいるからなんだな!?なら、こいつがいなければ姉さんは俺の側にいてくれるの!?俺の手の中で、ずっと、収ってくれるの!?」
(あー、虎の尾踏んだ・・・・)
恐怖で意識がぐるぐると回るような感覚がした。というか、これは真面目に考えて何かのスキルでは?
狂乱に包まれた弟はぎちぎちと自分を抱きしめる力を増させていく感覚がした。腰から、脇腹を回って自分に巻き付ける手が柔らかな胸に食い込んでいくのがやけに生々しい。
(どうする、これ?)
図太く、心の折れない女はそんな状態でさえも理性的に思考していた。
(やっぱ、外に出るのは難しいか?)
そこまで考えた時、モモンガはヒステリックに叫ぶ。
「なら、ここを出ればいいの?ここを出て、二人っきりになれば。姉さんは、姉さんは、俺のことを置いていかないの!?」
その言葉に、場の空気が変わった。
今まで、モモンガの絶叫に恐怖で満たされていた部屋に、なにか薄暗い絶望が混ざり込む。モモンガ越しに見た、アルベドがまるで見捨てられる寸前の幼子のような顔になっていた。
(・・・・今回は、諦めるしかないな。)
リリーはそう思って、自分を押しつぶす勢いで抱きしめる弟の頬に手を添えた。
「い、たい・・・」
「あ、ああ、ごめん。」
一旦、自分の体から離れた手にリリーはふうと息を吐き、そうして、モモンガの顔をのぞき込んだ。
「なあ、悟。この子、なら、いらないの?」
ルプスレギナを指してそう言ったリリーに、どうも怒りが持続しているらしいモモンガが不機嫌そうにああと言った。
「なら、私にくれるかい?」
「・・・・庇うのは。」
「違うよ。だってさあ、考えてみろよ。」
リリーはそう言いつつ、静かに覚悟を決める。そうして、モモンガの手を掴み、そうして、お願いをする体で思いっきり己の胸に弟の手を押しつけた。
「うぇ!?」
(下着は着けてないし、そこまで服も厚くはない。質感はそこそこダイレクトなはず。)
「お前、私にずっとここにいろっていうくせに、いないときはいないじゃないか。なかなかに寂しいんだぞ?」
「そ、それは、悪いと、思って。」
(よし!さすがは女経験が少ないな!姉のものとはいえ、ダイレクトな胸の感触には動揺してる!なら、今のうちだ。)
姉のものだからと気持ち悪がる可能性もあったが、しっかりと感触を確かめるように揉んでいる。
弟よ、お前も男かとちょっと切なくなった。
「だからさ、犬を飼いたいなって。」
「へ?」
「その子、人狼なんだよな?なんか、もふもふとしたものがいるなら、きっと寂しさも薄れると思うんだ。なあ、だめか?」
リリーはやけくそで上目遣いでそう言った。それにモモンガは動揺しながら首を振った。
「わ、わかった!わかったから!」
「そうか、わかってくれたか!」
リリーが手を離すのと同時に、モモンガは感触を確かめるように手をにぎにぎとしていた。
「なら、これはナザリックに残って、私の管轄にしていいか?」
「・・・・わかった。ルプスレギナ・ベータ。現在、お前がついている任は全て解く。今後は、私の命よりも姉さんの命を優先しろ。そうして、裏切らず、私以上の忠誠を誓え!これは厳命だ!」
「は、はい!」
「セバス。今後、ルプスレギナの全ての権限は姉さんに譲渡する。いいな?」
「賜りました。」
そういって老人が頭を下げるのを見ながら、リリーは弟の頭を軽く小突いた。
「悟。」
「姉さん、今回のことは。」
「いいよ、それは。もう、懲りただろうし。あとな、悟。」
「何?」
「ここを出て行くなんて言ってやるなよ。置いてかれるのが寂しいのは、お前だって知ってるだろ?」
それにモモンガは少し黙り込み、とても幼い声でうんと頷いた。
(・・・・・これで、人間嫌いのNPCが放逐されることはなくなった。主人が変わるっていう見せしめにはなっただろう。後は。)
未だに床を見つめる人狼にリリーはため息を吐いた。
自分はこれをしつけられるのだろうかと、息を吐いた。
(悟に色仕掛けとか。あの世の悟の両親に顔負けできねえな。)
リリーはヤケクソではあるとはいえ、弟に色仕掛けもどきをしたことについて若干死にたくなった。
ところで、おい、そこのおひげが素敵なおじ様。
あ、姉さん、これのことは気にせずに。
おい。
その・・・・
うん、ちょっと面貸して貰おうか?いやあ、可愛い金髪の女の子もいると思うんだよなあ?セバスの旦那?
・・・・はい。