バハルス帝国の贄姫   作:藤猫

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感想、評価ありがとうございます。感想いただけましたら嬉しいです。

パンドラの話、次ぐらいにアルシェとか出したいなあ。

お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56


可愛い子

 

 

「ほら、悟!早く早く!!」

「わかってるよ、姉さん。」

 

その日、モモンガはまさしく、牛歩という体で宝物庫を歩く。

 

(少しぐらいは、時間稼ぎ。いいや、本当はすぐになんとかしないといけないん、だけど。)

 

モモンガはこの頃、特に頭を悩まされている事実にうなり声を上げそうになった。

 

まず、一つ目にヤルダバオトの正体が若干ばれそうなことだ。姉としてはなにやら確信染みたものがあるようだが、今のところははっきりとさせていない。

これはいい。いや、よくはないのだが、それはそれとして一番の問題は。

 

(モモン、どうしよう。)

 

モモンガが思い出すのは姉がやたらとモモンのことを気にしているという事実だ。ヤルダバオトに加えて、恐る恐るという感じで問うてきたそれに、モモンガはそわっとした。

 

え、やっぱり?やっぱり、その、姉さん的には結構好きだったりする?というか、え、そんなに気にしてるんだ、へえ、ふーん。

 

もちろん、そんな内心を知られれば姉から殺意が飛んでくるのだが、それを知らないモモンガからすれば非常にそわそわとしてしまう。

 

そっかあ、姉さん、俺のことそういう意味で好きになったりするんだ。そっかあ。

 

もちろん、条件がまったく違うのだが、姉にとって場合によっては自分がそういう存在になるのだという事実は非常にモモンガをそわそわさせた。

あの、どこかこらえるような切なそうな顔は、完全にそうとしか思えないだろう!?

けれど、そこでもちろん考える。

 

(・・・・俺、モモンのことと、姉さんのことをどう処理したいんだろ?)

 

もちろん、モモンとして接したときの羞恥心はなかなかでできればばれたくないなあと思いはする。けれど、それでは姉はずっと片思いを抱えたままになってしまう。

 

(それなら・・・)

「なあ、悟?」

「え、うん、どうしたんだ?」

「なんだよ、話しかけても全然だから声をかけたんだろ?」

「悪かったよ、怒らないでくれ。」

 

そんなことを言いつつ、そのままモモンガは宝物庫を歩く。

モモンガは姉からの追求を逃れるために、ずっと避けていた己が創ったNPCと姉を合わせることに渋々了承したのだ。

その日は、姉に付けたユリと、そうしてルプスレギナがともに歩いていた。ルプスレギナは、姉の近くに居る間は狼であることを命じられているらしく、赤毛の狼としてそこにいた。

それを見つめていると、まだかすかな苛立ちを感じる。

けれど、それと同時に罪悪感も存在していた。

 

仲間の創造したNPCを勝手に追い出そうとするなんて、そんな思いと、ルプスレギナが最後に浮かべた絶望したかのような表情はモモンガの胸にちくちくとした痛みを与える。

 

それでも、まだ、モモンガの中には憤りが根付いているのだ。そのため、モモンガはそれを無視した。

 

(というか、今はそれよりも、パンドラズ・アクターのことだ。)

 

モモンガは切に願った、頼むから尖った奇行ができるだけ収っていることを。

 

 

 

まあ、そんなモモンガの切なる願いはことごとくへし折られるのだが。

 

Besondere Blumen für die Göttin.(女神にふさわしい花を)!!」

 

薔薇である。もう、それは見事な、真っ赤な薔薇の花束を抱えたパンドラズ・アクターが出迎えたのだ。

その時のモモンガは、見る人が見れば、それはもうぴっかんぴっかん輝きまくっていた。

 

まず、注目すべきなのは、その薔薇の量だろう。何本だ、と思わず突っ込みたくなるような量だ。本数が多すぎて抱えているパンドラズ・アクターが薔薇で見えなくなっている。

そうして、色も何と、誇れよお前と言いたくなるほどの真っ赤な薔薇である。

この事実でモモンガはそれはもう見事に輝いていたが、それ以上のこととして上げられるのはパンドラズ・アクターは戸惑いもなくリリーに跪きながらその花束、というか花の固まりを捧げたことだろう。

 

その光を認識できるものがいたのならば、あらま見事なイルミネーションと称えたことだろう。

それもさることながら、放たれたドイツ語もモモンガにはクリティカルヒットである。

 

(あれか!?姉さんが行くから失礼のないようにとか先に言ってたのだが悪いのか!?いや、だってあんなの用意するなんて誰が思うよ!?)

 

羞恥心と混乱が交互にやってきて、モモンガは固まってしまい、何を考えれば良いのかわからなくなる。

 

リリーは少しの間、目を瞬かせていたが、不思議そうに聞いた。

 

「これは、私にくれるのかい?」

「はい!わ、我が女神にと、用意させていただきました!」

(女神って!!!!!!!)

 

ぴっかんぴっかん光ってるモモンガが足止めされている中、リリーは困ったように薔薇を見つめる。

そうして、受け取ろうとするが、さすがに数が数で上手く受け取れない。それを見かねて、固まっていたユリと、人の姿に戻ったルプスレギナが薔薇をばらして二人で受け取った。

 

モモンガはそこで気づく、姉はどんな顔をしているのだろうかと。

 

もちろん、それはプレアデスの二人も同じだった。

何やらパンドラズ・アクターと会うのを楽しみにしていて、お出しされたのがこれなのだ。

恐る恐る、リリーの顔を見た三人は思わず驚愕した。

 

「ふ、ふふふふふ、そうか、ありがとう。」

 

笑っとる!!!

おまけに、けっこう嬉しそうと言うか、え、そんな微笑ましいものを見るような顔をする相手じゃないぞ、それ。

 

そんなことを考えられているなんて思わないリリーはパンドラズ・アクターに話しかける。

 

「にしても、薔薇って気合い十分だな。」

「当たり前でございます!!我が愛しき、母に等しきあなたのためです!そのための贈り物ならば、それ相応のものをと!」

 

芝居がかった大仰な仕草をしているパンドラズ・アクターは非常に痛々しい。モモンガはまたどっかんどっかんぴっかんぴっかんと光りまくる。それを姉にされていると言うことが拍車をかけていた。

 

「花が好きなあなたのためにと、ふさわしい花を、百合の花を用意したかったのですが!どうしても満足のゆくものが見つからず!ならば、薔薇のように美しい母上ならばと!用意させていただきました!!」

 

最終的に敬礼をされて、もう、モモンガは泣きたくなった。あんなにしないでくれって言ったのに!!

 

「・・・・申し訳ありません。ですが、ですが!見てください!こんなにも、あなたのように美しい薔薇の花が!!」

 

モモンガが間に入ろうとしたとき、リリーは楽しそうに笑って、ひょいっとパンドラズ・アクターの帽子を取り、自分に被ってみせた。

 

「いいな、君のためにしつらえた帽子。大事にしてくれてるみたいで。」

 

そうして、いたずらっ子のように笑った。

 

「ありがとうな。パンドラズ・アクター。久方ぶりだね。」

 

女はそう言ってにっと歯を見せて笑いながら、パンドラズ・アクターの頭を撫でた。幼い子どもにするような、そんな仕草で。

 

「相変わらずかっこいいね、お前は。」

 

その言葉に、パンドラズ・アクターは少しだけ動きを止めた後、表情の読めない顔でリリーを見下ろした。

 

「・・・・そういって、いただけて、嬉しく思います。」

 

その時だけは、パンドラズ・アクターは囁くようなかすかな声で、敬礼もせずにじっとリリーのことを見下ろした。

 

 

 

 

「いやあ、アインズ様と、そうして母上が会いに来てくださり、大変嬉しいです。」

 

宝物殿に置かれた、パンドラズ・アクターが来訪者を迎えるためのソファと机についてモモンガは目の前の光景を見た。

向かいの席ではリリーと、その隣に座るパンドラズ・アクターの姿があった。

 

「そうだねえ、にしても、アクター。君、よくここまで薔薇を用意したな。」

「アインズ様に、母上が来られると聞いて頑張りました。」

「アクター!お前、姉さんになれなれしいぞ!というか、お前、母上ってなんだ?」

「ですが!アインズ様!私はアインズ様にそう創られましたので!」

「あー、確か、私のことを母のように慕ってるだっけ?」

 

当時、パンドラズ・アクターを創るという話をモモンガから聞いたとき、リリーは珍しくいいなあとうらやましがった。

丁度、ギルドのメンバーがゲームにインすることが少なくなっていったときのことだ。

それに合わせてリリーもこっそりとユグドラシルを始めていた。

そんなときに聞いたNPC作成はリリーにとって憧れだ。

NPC作成をする条件は多く、その時、ソロでこそこそとゲームを進めていたリリーには叶わない夢だ。

 

珍しく、ゲームに興味を持ってくれた姉に、モモンガはNPCに着せる服について相談をした。

それに引っ張られてきたのが、その軍服なのだ。もちろん、設定についてはモモンガの作ったものだ。ゆえに、モモンガはパンドラズ・アクターの設定にそっと一つ書き加えた。

 

母のように慕うリリーから贈られた戦装束である衣服を何よりも大事にしている、と。

 

姉もパンドラズ・アクターを見に来たときに覗いた設定に、自分のことが書き加えられていることを嬉しがり、他の装束も用意したいと素材を穫りに行った思い出がある。

 

「はぁーい!!はっは上から貰った衣服たちは、それはもう丁寧に、毎日のように手入れをしておりますよ!」

 

変わらないオーバーリアクションでそういうパンドラズ・アクターにそうかそうかと、リリーは機嫌がよさそうな顔をする。そうして、隣に座るパンドラズ・アクターの頭を撫でる。

パンドラズ・アクターは感極まってなのか、リリーに抱きつき、腰に手を回してはしゃいでいる。

 

「アクター、君、なんか良い声だな。」

「お褒めにあずかり嬉しゅうございます!」

 

モモンガは頭を抱えたくなった。

パンドラズ・アクターに引かない姉を嬉しがればいいのか。それとも、受入れないでと叫べば良いのか。

 

そんな主人の苦悩を知ってか知らずか、ユリとルプスレギナは何かを話すということもなく、けれど、その目は顕著に語っていた。

 

まじかよ、これをかっこいいと表するのか!?

 

驚きに満ちたそれの中で、モモンガが正気に戻り口を開く。

 

「・・・・それで、なんでこんなに花を用意したんだ。これだけの量だと、一周回って不格好だろうに!」

「はい、365本ありますので。」

「多!?なんでそんなに集めたんだ!?」

 

モモンガのそれに、リリーが口を開く。

 

「確か、薔薇の花束とかって本数で意味があるんだっけ。ええっと、知ってるか?」

 

ユリやルプスレギナに問いかけたとき、遮るように、パンドラズ・アクターが口を開いた。

 

「はい、そうです!薔薇の花束、365本の意味はですねえ。」

あなたが毎日恋しい、という意味なのです。

 

今までの、明るく、通る声とは違う、ひどく静かで冷たい声でパンドラズ・アクターは吐き出した。

異変に気づいたモモンガや、ユリたちがパンドラズ・アクターに視線を向ける。彼は、いつの間にか、リリーに抱きついていた腕を解き、立ち上がって彼女を見下ろしていた。

 

「・・・あなたが初めて来られたとき、本当に嬉しゅうございました。私の一張羅を贈ってくださった。私の、母上。だから、あなたが来て、私のことを嬉しそうに、かっこいいと見つめてくださったときのこと、つい少し前のように覚えておりますよ。」

 

その声は、とても穏やかで優しい。なのに、三人は奇妙な違和感を覚える。何か、優しげなのに、妙な。

故に、三人はそれを黙って見つめてしまう。

リリーだけが気づいていた。

その時のパンドラズ・アクターは、リリーを逃がさないと、ずっとナザリックに居るのだと、子どもが無邪気に虫を手で捕まえるときのような残酷さで己を見下ろす弟に瓜二つだった。

 

「なのに!」

 

だんと、座っていたソファに手を突き、リリーの顔を挟むような姿勢になったパンドラズ・アクターは女の顔を、あの表情のわからない顔で見下ろした。

 

「あなたは来なかった。また来ると、あなたは言って。来なかった。毎日、毎日、毎日、あなたが来ないかと、待ち続けていたのに。あなたは、ずっと。」

毎日、あなたが来ないかと、恋しいと、思っていました。

 

パンドラズ・アクターは穏やかな声でそう問いかける。

 

「アクター!」

 

モモンガの怒声と同時にルプスレギナがパンドラズ・アクターを拘束するために、飛びかかる。ユリはモモンガを庇うように前に出た。

 

「ルプスレギナ!」

 

それを止めるようにリリーが声を上げる。その声に、ルプスレギナは動きを止めて、困惑するようにリリーを見た。

 

「アクター、姉さんから離れろ!」

「悟、待て!」

「危険だ!」

「最初に約束を破った、私が悪いだろ!」

 

リリーはそう言った後、どんな表情なのかわからない、パンドラズ・アクターの頭を撫でた。

 

「そうか、あの時、また会いに来るなんて言ったから。待ってたのか。」

「・・・・・はい。」

「そうか、そうかあ。それは、とても寂しいな。」

 

リリーはパンドラズ・アクターの頭を幾度も撫でて、そうして微笑んだ。

 

「毎日、はさすがに難しいけど。できるだけ君に会いに来よう。君の好きなマジックアイテムの話、聞かせてくれると嬉しいな。」

 

その言葉に、パンドラズ・アクターは黙り込み、そうしてソファから手を離すと、幾度もハイと頷いてリリーのことを見下ろした。

 

 

 

一人だけ残されたパンドラズ・アクターは、そっと、きっちりと着込んだ軍服からずるりと首飾りを取り出した。

それはとても簡素な作りのペンダントで、銀のプレートに、これまた簡素な百合の紋様が刻まれていた。

それは、リリーが本当に初期に創った装備で、パンドラズ・アクターからすれば笑ってしまう程度のバフ効果しかないものだ。パンドラズ・アクターの新しい衣装を創るのだとリリーが決めたおりに、記念にと女がパンドラズ・アクターに装備させたものだ。

けれど、パンドラズ・アクターはまるで十字架に祈りを込める神父のようにそれを口づけた。

 

「・・・・それでも、母上は、できるだけ、としか言われないのですね。」

 

ちゃりっと、手の中でペンダントを弄ぶ。

 

「母上、私は毎日、あなたが恋しいのです。」

 

ちゃりっと、また、ペンダントがパンドラズ・アクターの手の中で鳴った。

 

 

 

「・・・・・姉さんさ。」

「ああ、なんだ?」

 

その時、モモンガは姉と二人っきりの寝室にて、すでに彼女の定位置になってしまったベッドにくつろぐ姉を見た。

 

「・・・・・パンドラズ・アクターのこと、姉さん、引かないの?」

「はあ?なんでだよ?可愛い奴じゃないか?」

「可愛いって。どこら辺が!?いや、俺もさ、創ったときはかっこいいと思ってたんだよ。ああいう、感じの、その、芝居がかったというか、道化師っぽいキャラクターってさ。でも、見てたら、さあ。痛々しく思わないの?」

 

モモンガはのそのそと動き、ベッドの端に腰を下ろして、寝転びながら本を読む姉に聞いた。それにリリーはふふふふふと、思い出し笑いをする。

 

「うーん、そうだなあ。小さい頃のお前に似ていて可愛いよ。かっこいいって言われるのが好きなところとかな。」

 

その言葉にモモンガはまたぴっかーんと光る。そうして、慌てて問うた。

 

「似てる!?似て、あれと俺が!?俺、子どもの頃あんなのだった!?」

「お前は小さい頃、ごっこ遊びが好きだったじゃないか。覚えてないか?当時、配信サイトで見たヒーローものが好きでさ。おじさんとかおばさんは仕事だったからなあ。私がその相手をよくしてたんだ。懐かしいね。」

「そうだっけ!?全然覚えてない!」

「ポーズ決める度に、かっこいいって言わないと拗ねてたからな。」

 

がーんと、モモンガはショックを受ける。

妙なところでつじつま合わせのように爆誕した己の幼い頃の微笑ましいエピソード、この年になれば黒歴史の事実にもだえたくなる。

そんなモモンガの心境などお構いなしに、リリーは懐かしそうに微笑む。

 

「懐かしいなあ。そう言えば、お前さん、ヒーローの他に結婚式のまねもしてたんだぞ?」

「は?」

「私に白いタオルを被せてきてね。お姉ちゃんと結婚するっておじさんとおばさんによく宣言してたんだぞ。可愛かったなあ。」

 

その日、モモンガは今まで以上にピカピカと輝いたことは言うに及ばないことだろう。

 

 

 

 

昔の、俺。

その日、モモンガは頭を抱えつつ、執務机に向かい合っていた。

といっても、一旦は世界征服関係の計画はストップさせたので情報収集などに収っているが。

 

(・・・今のところ、帝国には目立った部分は無いか。)

 

帝国のこともどうしたものだろうなあと、モモンガは考える。

姉はここに居るのは当然として、真面目なあの人は帝国に残してきた仕事については気にしているだろう。

 

引き継ぎのない仕事を放られた地獄を見た覚えがないわけではないのだ。

 

(いや、あんまり帝国のことは話さないから、そこまで気にして無くてくつろいでるのかな?)

 

そんなことを考えていると、アルベドとデミウルゴスが入室してきた。

 

「アインズ様、少々お話があるのですが?」

「ああ、構わないが。どうした、二人とも?」

「はい、それで。申し訳ありません。メイドを下がらせていただけますか?」

 

モモンガはそれに不思議に思うが、二人がそういうのならばと頷いた。

 

「それで、どうしたんだ二人とも。なにかあったのか?」

「ええ、アインズ様。実は一つご提案がありまして。」

「ふむ。提案か。」

 

デミウルゴスが変わらず淡い笑みを湛えてアルベドの話を聞いていた。

 

「・・・・現在、世界征服の計画についてはストップをかけております。ですが、アインズ様としては、この計画を凍結する気はありませんよね?」

「・・・・それは、一応な。」

 

世界征服の凍結に関しては、アルベドに頼んで誤魔化して貰ったために、デミウルゴスの前では歯切れが悪い。

正直、世界征服に関しては上手く行くならば実行したい。今の、現状として姉はこの世界では強者側であれど本当の世界なんて分かりはしないのだ。

自分もずっとナザリックでは息が詰まる部分があるので、姉を連れて散歩に行くぐらいのことはしたい。

 

(そのために、どうにか安全な場所は用意したい。)

 

姉が無防備に過ごしても許されるような場所。そう言った意味で、世界征服というのはなかなかに合理的な部分がある。

掌握した場所が多いのは悪いことではないはずだ。

 

(でもなあ。)

 

問題は姉だ。

彼女は、恩義には恩義を。そうして、その反対に報いも受けさせることを是とするタイプだ。そんな彼女は、無害な人間がむごい目にあうことを嫌う。

そんな姉が、世界征服なんてものを受入れるだろうか?

それはそれとして、帝国として王国への侵略行為はやっているため、どちらに転ぶのかわからないのだ。

が、そんな、姉が嫌がるかも知れないという理由で計画を凍結したなんてデミウルゴスに言えるはずもない。

 

「・・・・ご安心ください、デミウルゴスには凍結理由については伝えております。」

「そうなのか?」

「はい、アインズ様がそう望まれるのならば、私としては納得しております。」

「そ、そうか。お前には色々と不自由をかけてすまないな。」

「いいえ、そのようなことをお気になさらずに置いてくだされば。」

「それで、アインズ様。現在、我らは王国の裏側を掌握しておりますが。」

 

モモンガがそれに頷けば、アルベドが嬉々として話をし始める。

 

「それで、なのですが。我らも領土を創り、そうして国を建てることを考えております。」

「国、か?」

「アインズ・ウール・ゴウンとしての名前を知らしめるにはちょうどよいですし。そろそろ我らの存在を広める形としても丁度よいでしょう。そうして、世界征服を推し進めるとしても、守りにつくとしても、国という態勢は丁度良いと思われます。」

 

なるほど、とモモンガも同意する。

言われてみれば、メリットも確かに多いだろう。そんなことを考えているとアルベドが、どこか、笑みを深くしてモモンガに囁いた。

 

「はい、それで提案なのですが。国を建国した際に、バハルス帝国の皇女であるお姉様を妃として娶られるのはどうでしょうか?」

 

それにモモンガは目に宿る、その赤い瞳を強くして目の前の女を見つめた。

 

「・・・・何を、言っているのだ。アルベド?」

「彼女を、妃として娶ってはどうか、と。」

 

それにモモンガは何か、どう答えて良いのかわからずに、から笑いのようにけたたましく笑った。

 

「ふ、あ、あははははははははははははは。アルベド、何を言っているんだ?私と、あの人は二人っきりの姉弟だ。そんなこと、ありえるはずが。」

「何故ですか?お二人は元々、血は繋がってはおりませんし。それに、今も、彼女がバハルス帝国の皇女だというのに。」

「あ、ありえん。血は繋がっておらずとも、あの人は俺の姉だ!誰よりも近くで、俺の世話と、俺を育ててくれた、そんな人だぞ。」

「アインズ様は、彼女のことがお嫌いですか?」

「嫌いではない。だが、これはあくまで親愛で。」

「・・・・アインズ様、お一つよろしいでしょうか?」

 

突然、デミウルゴスから遮られたそれにモモンガは反応する。いつも通り、穏やかな微笑を湛えたままだ。

 

「リリー様は、バハルス帝国の皇女であります。」

「・・・・アルベド、お前。」

「申し訳ありません、デミウルゴスにだけは相談があり、話しました。」

 

モモンガはそれに少しだけ思うところはあるが、はっきりと口外するなとも言わなかった自分が悪い。少なくともデミウルゴスに忌避感がないのならばそれでいいはずだ。

 

「現在、バハルス帝国はリリー様がこの辺りの調査に来ていることはわかっております。ならば、遅かれ早かれ、かの帝国からこちらに返還の要請が来るでしょう。それを突っぱねるために存在を秘匿するのも良策ではないはずです。」

「ならば、別に婚姻などしなくてもいいはずだ。他にも方法は。」

「ですが、彼女は皇女。立場等でしがらみは多くあるはずです。例えば、婚約者がいるため返して欲しいと要請があった場合、断るのは難しいでしょう。」

「そんなものはいないはずだ。」

「かの国がそう宣言すれば、その限りではないかと。」

 

それにモモンガはまるで、とろ火で炙られるかのような不快感がじわじわと広がる。

姉が結婚?

自分よりも弱くて、自分よりも下の人間と?

自分だけの姉が?

 

「アインズ様、アインズ様は、ずっと、彼女が欲しいと言われていましたよね?」

「っ、それは、あの人が、姉とは知らなかったからで。」

「ならば、こうお考えください。これはあくまで、大義名分を得る為なのだと。」

「たい、ぎめいぶん・・・・」

「そうです、アインズ様。婚姻とは、突き詰めれば契約です。人間達に対して、ある程度友好的なアピールになるという契約。アインズ様の姉君がここにいるための大義名分。関係の名前など、どうでもいいことなのです。大事なのは、アインズ様が、姉君と共にありたいかどうかだけなのですよ。」

 

二人の悪魔が交互に、モモンガに囁いてくる。

それに、すでに死に果てた、生者であったころの妄執に囚われた不死者の中にぐずりと何かが芽生えた。

 

(・・・・姉さん、モモン()のこと、好きなんだよな。)

 

姉はずっと、鈴木悟を中心に置いていた。

そんな中でも、弟がある程度の年齢になれば狭い範囲でも交友関係はあったのだ。

その中には、幾度か、交際相手もいたりした。

けれど、ことごとく、姉はそういった関係が上手く行かなかった。

何せ、女はずっと弟を優先していて、そのたびに恋人を優先しない姉は振られてばかりだった。

 

それに、モモンガの中の、鈴木悟が囁く。

 

そろそろ、姉さん個人の幸せを考えればいい。ほら、姉さんはさ、俺のことが好きなんだって。俺のことが、一番に好きなんだって。

 

囁いたその後に、幼い子どもが笑う声がする。

 

僕、お姉ちゃんと結婚する!

 

その瞬間だ、その瞬間、がちゃんとモモンガの中で何か、何かの歯止めが壊れて、あふれ出す。

生者の内に、押しとどめて、目をそらしていた何かがこぼれ落ちる。

 

「そっか!俺、姉さんのこと好きになっても良いんだ!」

 

とても、無邪気な、普段の支配者然とした声とはかけ離れた、幼い声だった。

けれど、デミウルゴスと、アルベドは気にしない。

だって、己の主人が喜んでいる。それ以上の事実なんてどうだっていいことなのだから。

 

「それで、お前達。どうする気なんだ?」

 

その言葉に、二人の悪魔はゆらりと微笑んだ。

 

 

 

「・・・・アインズ様、お一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「リリー様は、皇女として産まれる前。アインズ様のお姉様であったとき、それは、アインズ様と同格程度の方、であったということでしょうか?」

「・・・・そうだな。私やウルベルトさん、ギルドメンバーと同格の存在だった。それがどうかしたか?」

「いいえ、少し、考えることがございまして。まとまればまたお話しします。」

「そうか、わかった。」

 

デミウルゴスは考える。

もしも、リリーというそれが、自分の主達と同格の存在であるのならば。

彼女が、死んだ後、人として生まれ変わったというのならば。

それは、はたして、リリーという存在にだけ収るものなのか?

 





妹よ。
なんだよ、兄上。
お前に苦情が入っている。
なにさ、何もしてないぞ。もう、嫌になって社交界とか自粛しまくってるのに。

お前、この頃見習い騎士にちょっかいかけてるらしいな?
ああ、夜中まで頑張ってる子が何人かいたから。ちょこちょこ差し入れ上げてたんだけど。何で知ってるんだ?
お前、それで適当に魔法詠唱者のほうの所属とか嘘を言ったんだろう?仮面の君だとか、下っ端の騎士達の間で噂になってるぞ?
か、仮面の君!?なんだよ、それ!?
城の噂話はある程度把握しておけ。それでお前、昇格したら言うこと聞いてやると何人かに言ったらしいな?
言った・・・・
お前がそう声をかけた奴らは、お前に対して交際を申し込む気だぞ?頭を抱えている場合か?

・・・・兄上。
大方、昇格したら立場をばらして褒美を、などと考えていたのだろうが。それは酷だからやめておけ。士気が下がる。はあ、仮面の君は家の事情で退職したことにしておく。
なんで、なんで、そうなるのさ。顔見えない、不審者じゃん?

お前は本当に、女と、あと男の場合は年下にやけにモテるな。女難だけでなく、男難でも加えておくか?
まっじで申し訳なく思ってるから勘弁してくれ!
お前の結婚相手は苦労するだろうよ。兄の私が苦労しているのだから。
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