アルシェとかジルさんとか、あと、蜥蜴人の話。
アニメ見返して思ったんですけど、これいろんなことが重なって、運が悪かったら、リリーのことを醜いとか影でいいながら魔導王国を乗っ取るために口説くフィリップさんが見えるんですか!?
お題箱作ってみました、何かあれば
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(今日も、連絡はない。)
アルシェは愁いを帯びた視線で空を見上げた。
彼女の主がとある人物の調査に向かってある程度の時間が経った。それでも、城には騒ぎはない。というのも、皇女の放浪癖は有名である程度の時間城を開けるのはままあることだった。
けれど、事情を知る者たちは表立っていないが、少々ひりつくような空気を持つようになっている。
当たり前だろう。
趣味の放浪ならばまだしも、任務として出かけた女がここまで連絡を絶つことなど今までなかったのだ。
アルシェは重い腰を上げて、今日も、彼女の兄の元に向かう。
「・・・・そうか、未だ連絡はないか。」
「はい、陛下。」
目の前に居るのは、バハルス帝国皇帝、その人である。
彼は気だるそうに金の髪をかき上げて、ため息を吐いた。そうして、執務机の向こう側からアルシェを見る。
「アルシェよ。仮に、仮に、だ。あれが死んでいるとして、あれに勝ったものにこちらが対抗する術があるか?」
「申し訳ありませんが、それは難しいかと。」
アルシェの言葉に、ジルクニフは続けろというように彼女を見た。
「基本的に騎士などは遠距離で攻撃を仕掛けてくる魔法詠唱者に対抗するのは難しいです。かといって、魔法詠唱者は格上に対抗するのも難しいのです。それほどの力量差はなくとも、基本的に魔法詠唱者は冒険者でもない限り、戦闘技術に疎いので。」
「・・・・そうか。」
ジルクニフはまた物憂げにため息を吐き、そうしてちらりと窓の外を見た。
「お前はあれが相手に不興を買った、という可能性は考えられるか?」
「可能性としては低いでしょう。師匠は元々なんというか、醒めているというか、感情的になる人でもありません。それに加えて、傲慢な態度を取ることも滅多にありませんので。」
「ああ。あれは良くも悪くも、身分という物を笠に着ん。相当のことがなければ不興を買うとは思いにくい。故に、だ。私は二つ、可能性として考えている。」
一つは、何らかの事情で妹が囚われており連絡が取れないこと。もう一つは、調査時にいた存在に理性がなく妹が殺された可能性。
「細かく分ければ他に可能性としては多いが。ざっくりと言えばその辺りだろう。」
「陛下はどうされるつもり、ですか?」
「・・・・あれを容易く扱えるものたちと敵対を取りたくない。だが、行動を起さないわけにもいかん。王国の方に手を回して、誰かしらの使者を送らせようと考えている。何かしら、相手が望むものを探り、こちらに組み伏すことができれば。」
「師匠を害した人間を!?」
アルシェの怒号にジルクニフは静かな目を向ける。それにアルシェは蹴落とされる。
おそらく、純粋な戦闘力においてアルシェは格段に上であろう。けれど、少なくない年月帝国という巨大な集団を動かし続けてきた青年の持つ眼光は、小娘を容易く黙らせた。
皮肉なことに滅多に似ていないと言われるリリーとジルクニフという兄妹は、そのしんと静まりかえった時の紫の瞳はとてもよく似ていた。
「・・・・どんなことがあれど、帝国にとって利になるならば私はどんな毒でも飲み込む気だ。それに、だ。あれの死体でも手に入れば、かすかでも蘇生の可能性が出てくる。」
「・・・・失礼を。」
「いや、よい。お前があれにどれほどの恩を感じているのかはよくよく理解している。」
ふうと、ジルクニフはため息を吐き、そうしてアルシェを下がらせた。そうして、独りになった執務室にておもむろに机の引き出しを開けた。
そこには、布で作られた小さな袋が入っていた。見る人間が見れば、それは東洋の神社で配られるお守りだとすぐに分かったことだろう。
それは、ジルクニフに妹が寄越したものだった。
兄上、これ持っておきなよ。
なんだ、これは?
一度だけ、どんな毒や攻撃でも身代わりになってくれるマジックアイテム。
そんな希少なものなのか?
希少だけど。私よりも兄上にこそ必要なものでしょ。まあ、数がないから兄上にしかあげられないけど。兄上が生き残ってたらなんとかなるから持っておいて。
ジルクニフはそう言って自分にマジックアイテムを寄越してきた妹のことを思い出す。
「ああ、そうだ。私さえ生きていればなんとかして見せよう。ただ、お前のような手駒がなくなるのはなかなかに厳しいのだぞ?」
それが王としての言葉なのか、それとも、兄としての痛みなのか、ジルクニフにもわからなかった。
そうして、彼は窓の外に空から飛来する何かの存在に未だ気づいていなかった。
「ここが、蜥蜴人の村?」
「エエ、ソウデス。」
その日、クルシュ・ルールーとシャースーリュー・シャシャはめまいで気絶しそうだった。
目の前に居るのは、黒い髪をした女がいた。
恐レ多クモ、アインズ様ノ姉君ガ村ノ見学ニ来ラレル。努々、失礼ノ無イヨウニ。
そんな知らせが村の支配者であるコキュートスからもたらされたとき、村に残っていたクルシュとシャースーリューの気持ちがどんな物か、誰かに叫び出したいほどだった。
姉?
あんな強大な力を持った存在の、姉!?
そんな存在が居たのか?そうであるにしても、一度も聞いたこともない。いいや、もしや知らせる必要がないと思われていたのかも知れないが。
それはそれとして、そんな重要な存在、もっと早く知りたかったというのが蜥蜴人である彼らの本音だ。
おまけに、だ。
コレハ、アクマデ内々ノ話デ、決マッタコトデハナイガ。将来的ニアインズ様ノ妃ニナラレルカモシレナイ方ダ。ソレモ心ニトドメテオケ。
なんだ、その重要な立ち位置てんこ盛りの存在は。
なによりも、姉であるのに、妃とはどういうことだろうか?
まあ、希少な魔法を受け継いでいたりだとか、そういった理由で近親で婚姻を繰り返す存在もいるらしいのでそういう事情なのかも知れない。
なにはともあれ、かの至高なる存在は自分たちの想像の範囲外だ。そういうこともあるだろう。
歓待の宴などはなく、本当に日常的な村を見て回りたいとのことだった。
クルシュとシャースーリューは村中を駆け回り、無礼がないようにと言付けて回った。
蜥蜴人たちは今度はなんだと不安がっていたが、コキュートスより、ただの姉君の気分転換のためという話で不安がることはないというお墨付きは貰った。
村の見物と言っても、周りの湿地帯と、あとは魚の養殖場を見たいとのことで直接的に村を来るわけではないと言う話で落ち着いた。
そうして、当日のことだ。
現れたのは、驚くことに人間の女だった。
てっきり、死の支配者と同じ、アンデッドかと思ったがそうでなかったことに驚いた。見た目が人であっても、種族としては違うのかも知れないが、それはクルシュには見分けが付かないことだ。
黒く長い髪に、白い肌。真っ白なローブを纏った女が美しいのかは蜥蜴人のクルシュにはわからない。ただ、その女の目は、まるで季節に咲く花のような濃い紫で、それが美しいことだけはクルシュにもわかった。
女が美しいのかはわからないが、それはそれとして女の身につけるものたちについては目を引いた。
白いローブには、惜しみなく金と銀の糸が使われて、見事な刺繍がなされていた。そうして、何よりも目を引くのはその黒い髪をまとめるために使われているものだろうか?
それは、まるで百合の花そのものだった。
けれど、よくよく見れば、その百合の花は鉱石を削り出して創られたかんざしであることがわかる。
白い花びらの部分はオパールで、茎の部分はエメラルドで創られていた。
その花を削り出すほどの技術を持った存在と、削り出せるほどの鉱石の塊を用意するほどの財力があることが条件であり、見るものが見ればどれほどの力を持っているのかと戦慄していたことだろう。
ただ、そういった鉱石などについて知識に疎いクルシュたちにとっては手間のかかったものだということしかわからない。
「リリー様、コレラガコノ村ノ顔役ヲシテイル、クルシュ・ルールー。ソウシテ、シャースーリュー・シャシャデス。」
「・・・・そうかい。すまないね。今日は私のためにわざわざ。」
「い、いえ、そのようなことは。」
「そうかい?まあ、あまり気にしないでくれ。」
女は、どこか疲れたような、しんと静まりかえった紫の瞳でクルシュのことを見返した。
クルシュはその瞳に何を言えばいいのかわからずに、黙り込むことしかできなかった。
女は、赤毛のメイドを連れているだけで特別大仰に振る舞うこともなかった。
ただ、どこかほっとした顔で青空を見つめた後、じっと自分の下に広がる湿地を見る。
そうして、浅く水の広がる場所を見つけると、服が汚れないように使っていたらしい〈飛行〉を止めてそこに足を付けた。
わざわざ空中で靴を脱ぎ、そうして裸足のままばちゃばちゃと歩き回る。
「服がよごれるっすよ!」
「後で洗うよ!」
「姉君!危ノウゴザイマス!」
「そんなことを言わないでよ。今日ぐらいはさ。」
相当に機嫌が良いのか、鼻歌さえも歌いながら、それは清々しいという顔で空を見上げる。
けれど、クルシュには、なんだかとても幸福そうには見えない女だった。
(人間の表情なんて、よくわからないけれど。)
「・・・・あの子は、君達によくしてくれてる?」
湿気地から、ゆっくりと森の中にある湖畔に向かうために歩きながら、クルシュは蜥蜴人たちの生活について話していた。
話が一段落した後、アインズの姉が口を開いた。
あの子、というそれが誰を意味するのかわからずに、クルシュは目を瞬かせた。それに姉はわからなかったと、頷いた。
「ええっと、君達には、アインズって呼ばれてるのかな?」
クルシュはそれに咄嗟に答えられなかった。あの、恐ろしい支配者たる存在を、あの子などと呼ぶ存在が居るとは思わなかったのだ。
黙り込んだクルシュに、慌ててシャースーリューが口を挟む。
「はい、もったいないほどの待遇を受けております。」
「そう。それなら、よかったよ。」
「姉君、心配ナサラズトモ、十分ナ慈悲ハ与エラレテオリマス。」
「まあ、そう言わずに。慈悲は慈悲でも、思いがけないことが喜ばれてたりするから。君だって、嬉しいものってないかい、コキュートス。」
「私、デスカ?」
「ああ、何かないかい?」
「至高ナル御方ニ仕エ、忠義ヲ差シ出スコト、ソレ以上ノコトナドアリマセン。」
「・・・・そうかい?わざわざ君に時間を取らせて申し訳なく思ってたから。それ相応のものを贈ることができればと思ってたんだけど。」
小さく息を吐いた女はまた、ぼんやりと空を見上げて歩き始める。
女は、あまり口数が多いわけではなかった。
魚の養殖が行われている湖畔にやってくれば、魚を見ると言うよりも、佇んで飽きることなく空を眺めている様子が目立った。
シャースーリューが簡単に養殖の説明をする。
「・・・・これって、君が始めたのかい?」
「いえ、これは元々、私の弟が始めたもので。」
「弟?へえ、君がお兄さんなのかい?」
そこで初めて、女は楽しいという感情をクルシュとシャースーリューに向けた。
シャースーリューも自慢の弟に興味を持たれて嬉しく思ったのか、機嫌がよさそうに目を細める。
「ええ、自慢の弟で。私は、あれが長になるべきだと思っていたのですが。あれは、諸事情でそうはならず。ですが、飢えないためにこうやって養殖という概念を持ち込んで。」
女はこれ以上ないほどに、嬉しそうにシャースーリューの言葉を聞いた。女は楽しそうに相づちを打つ。
「わかるよ、わかる。可愛いだろうねえ。」
「ただ、まあ、面食いなのが玉に瑕で。」
「おや、面食いなのかい?」
「ええ、なにせ、隣のクルシュに一目惚れしてそのまま婚姻の申し入れをしたほどです。」
それにクルシュは思わずたしなめるように鳴いた。それに、女は不思議そうに目を瞬かせた。
「おや、君、婚姻してたのかい?」
「は、はい。」
「ふうん?」
女はそう言って、ずいっとクルシュに近づき、その顔をのぞき込む。
「君って、蜥蜴人の基準で言うと美人なの?」
「ど、どうでしょうか?」
なんというのが正解なのかわからずに、クルシュが答える。それに女は少しだけいたずらっ子のような顔をした。
「いや、君、うちの弟に体を差し出そうとしたって言うからさ。」
「そ、それは、その!」
「ふ、ふふふふふふ、ごめんごめん。意地悪したいわけではなくてね。まあ、君達としても状況が状況だから。価値になるならなんでも差し出すんだろうし。」
女はそう言った後、クルシュのことをまた見つめる。
「ねえ、不快でなければでいいんだけど。君の鱗をなでてもいいかな?」
「え?」
クルシュは驚いたが、女の後ろにいるメイドとコキュートスの視線が恐ろしく、了承した。
女は、恐る恐るクルシュの頭に触れる。
幾度か、手を滑らせた後、離す。
「ありがとうね。」
「いえ、ですが、どうして?」
「うーん?昔ね、竜を飼っていたんだよ。」
((竜!?))
驚きに声も上げられずに、また湖畔に視線を向けているリリーを二人は凝視した。
「可愛くてねえ。小さい、白銀の竜だったんだ。卵から孵してね。私に会うと、きゅーきゅー鳴いてて。君を見てると、思い出したんだ。綺麗な、真っ白な、鱗が。」
「・・・・・気ニ入ラレタノデ?」
「変なこと考えないでよ。あるべき物は、あるべき場所にってね。」
ふうと息を吐いて、女はそのまま黙り込み、青い空を眺めるだけだった。
長い時間、女はぽつぽつとクルシュやシャースーリュー、そうしてコキュートスに話しかけ、幾度か言葉を交わすとまた空を見上げると言うことを繰り返した。
コキュートスは、彼にとって重大な人物の話を女とできたことに嬉しそうだった。
クルシュは女のことをじっと見つめていた。
かの、偉大で、強大な力をもった存在の姉で、将来的に妻になる存在。
女の身につけたものや、コキュートスたちの対応からしてその寵愛の深さは察せられた。けれど、何故だろうか。
そんな恵まれた女が、何故か。
(とても、不幸に見えるのは。)
その女は、秋の終わりのようだった。
実り豊かで、満ち満ちたる季節なのに、妙に陰鬱で。
(死ぬ何かの、ような、冷たい臭いがする・・・・)
その理由を察したのは、女の迎えが来たときだ。
クルシュとシャースーリューは、その存在が姿を現したとき、恐怖で同じように平伏した。
「・・・・姉さん、ほら、もう暗くなるから迎えに来たんだ。」
「ああ、そうかい。ごめん、わざわざ時間を取らせたね。」
「構わない。ああ、こんなに体が冷えてしまって。コキュートス、今日はよくやってくれたな。」
「イエ!アインズ様ノ御命令トアレバ当然デス!私モ、武人建御雷様ノオ話ヲ聞ケマシタ!」
「姉さんは、建御雷さんと面識が?」
「あー、例のあれでさ。」
「懐かしいな。」
クルシュはこの会話を自分が聞いて良いのか悩んだ。何せ、自分が知る声の主とは思えないほどに優しく、穏やかで、そうしてどこか甘ったるい声だったのだ。
「さあ、帰ろうか。今日は料理長が温かいものを作ってくれている。」
「そうかい、それは楽しみだ。あと、クルシュ、シャースーリュー。」
名前を呼ばれて顔を上げた。そこには、今日のは明るくて、朗らかな笑みなんてなかったかのような、どこか暗い影の落ちた笑みを浮かべた女がいた。
女は、あの、恐ろしいアインズ・ウール・ゴウンの腕の中で、宝物を扱うように暖かそうな布にくるまれていた。
けれど、その体や、首には鎖のように骨の腕や指が絡みついている。
「今日は、ありがとう。楽しかったよ。」
「いいえ、もったいないお言葉です。」
それに女は笑みを深くして、小さく手を振った。
アインズたちがいなくなった後に、クルシュは女がけして幸せそうに見えない理由がなんなのか理解した。
(・・・哀れなこと。どんなに豊かで、絢爛な城でも。望まなければそれは、ただの牢獄に過ぎないでしょうに。)
その日、アインズ・ウール・ゴウンこと、モモンガはひどく機嫌が良かった。
というのも、だ。
久しぶりに、姉が笑ってくれたためだった。
(この頃、塞ぎ込んでいたからな。)
それも仕方がない。何せ、いくらナザリックが快適でも、急な環境の変化は姉にとっては辛いことだったのだろう。
段々と、口数も減り、笑うことも少なくなった。前ならば、ナザリックを歩き回っていたのに、図書館にさえも行かなくなり、部屋に籠りがちになってしまった。
唯一救いなのは、パンドラズ・アクターの元にだけは足繁く通っていることだろう。
それでも、モモンガはとても不安になる。
姉には笑っていて欲しい。
現実世界では、散々に苦労をしていた。この世界では、ゆっくりと心穏やかに過ごして欲しいと願っている。
何よりも、モモンガはリリーの浮かべる優しい笑みが何よりも大好きなのだ。
姉のそれを見れないことがモモンガには辛かった。
そんなときだ。
パンドラズ・アクターより提案があった。
「母上も気晴らしがされたいのでは?」
「気晴らし、なあ。」
「そうですねえ。蜥蜴人の村などはどうでしょう?コキュートスを護衛に付ければ安全でしょうし。」
「ふむ。」
モモンガとしても、四六時中他人の居る生活にうんざりする気持ちもわからないわけではないのだ。
気晴らし、といわれて真っ先に思いついたのはカルネ村だ。けれど、人のいるような環境で、姉に里心が付くのは赦せない。
蜥蜴人の村、といわれて、それならばとモモンガも快諾した。
コキュートス管理の村ならば、安全も保証されているし、湖畔などはよい眺めのはずだと。
その考えは成功したようで、姉は珍しくよく笑いながら湖畔の話をした。特に、クルシュのことが気に入ったようで、姉の気に入りだった小竜の思い出話をしてくれた。
(竜か。こちらでは希少なんだよなあ。もしも、叶うなら贈り物としてペットに連れてくるか?)
そんなことを考えながら、モモンガは寝室を出た。姉が寝付くまで側に居たが、彼女が眠りに落ちたのだ。
扉を閉めた後、ふと、視線の先に丁度パンドラズ・アクターがいるのが見えた。
「アクターか、どうしたんだ?」
「アインズ様、いえ、母上に会いに来たのですが。」
「ああ、姉さんならすでに眠ってしまったが。」
「そうですか。ですが、顔だけ見ておきたいのです。今日は、出かけるからと会いに来られなかったので。」
そう言って、パンドラズ・アクターはちらりとリリーの眠っている部屋を見た。それにモモンガは上機嫌に口を開いた。
「そうだ、アクター!お前には礼を言いたかったんだ!今日は姉さんが久しぶりに笑ってくれてな!」
「なんと!それは私も嬉しゅうございます!時折は、出かけるのもよいことでしょうから!ところで、アインズ様。例の件を聞いたのですが。母上には何も言われないのですが?」
「ん?そうか、お前の耳にも入っているか。ああ、言う気はない。お膳立てが済んでからにするつもりだ。」
本当を言えば、姉にその辺りを告げるのは、なかなかに、勇気がいるわけで。
(・・・・・決めたことは決めたけど。どうしよう。あ、指輪も用意しないと!?指輪、百合の何かあったっけ!?というか、どうしよう、台詞も用意しないとなあ。)
「母上は嫌がるのでは?」
パンドラズ・アクターの言葉に、モモンガは揺るがず言った。
「どうしてだ?俺とずっと共にあれるのならば、姉さんだって嬉しいはずだろう?」
その言葉に、パンドラズ・アクターはポーカーフェイスのまま、敬礼した。
「まったく!その通りですね!!」
ふらりと入った寝室には、かすかな寝息が聞こえてくる。どうも、あの犬はいないようでパンドラズ・アクターはそのままベッドに近づいた。
ベッドには、異形の母である存在が体を丸めて眠っている。
パンドラズ・アクターはベッドに腰掛けて、そうして、疲労の見える顔を撫でた。
「・・・・ええ、私は、アインズ様の幸福を願っております。ですが、それは、母上も同じなのです。」
ぽつりと呟いたパンドラズ・アクターは眠っている女の腹にそっと己の顔を埋めた。
(人間は、母の腹から産まれてくる、んでしたっけ?)
そんなことを考えながら、パンドラズ・アクターはそのままの姿勢で母親の寝息に耳をそばだてた。
帝国のデスナイトってどうなったのというお題箱があったので。
当時、カッツェ平野で自然発生したそれの討伐のためにリリーもかり出された。が、余りの強さにそれを研究したがったフールーダが捕縛を望む。
は!?捕縛!?いや、そりゃあ、できますけど。あんなの私以外に勝てないんだから管理できませんよね?
ちゃんと管理しますから!厳重に!
あのねえ、人間の管理なんだからエラーが出ますし。さすがにリスク的にも。
どうしても!どうしても!あれの研究をしたいのです!それに、ジルもアンデッドの生産力には目を付けておりますから!!
〈飛行〉で宙に浮いた状態でフールーダは散々に駄々をこねた。それこそ、リリーの服の裾に縋り付き、母親に駄々を捏ねる子どものように。
危険すぎると却下しなくてはいけないのだが。
恩義があるという前提だとかのせいか、リリーはその老人に対してどうしても甘い
わかりました!なら、一応捕縛しますから、兄上に許可は得てくださいね!?
そんなこんなでデスナイトが捕縛されることとなったが、さすがのジルクニフも却下した。
それにフールーダは散々にいやじゃいやじゃと騒ぎ立てる。
恩師のこんなとこ見たくなかったなあと考えていた時、リリーが諦めのため息を吐いた。
弟から貰ったマジックアイテムで今のところ制御下に入ってる。
なんで師匠の魔法が効かないのは、師匠のレベルが足りてないのかね?こっちのモンスターって、レベルが一律ってわけじゃないからなあ。召喚系って確か、自分よりも格上ってできなかったような。
・・・・一回、経験値系のアイテムぶっ込んで師匠のこと百レベルにして見るか?いや、だめか、制御効かなくなる。