バハルス帝国の贄姫   作:藤猫

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アルベドの愛と、レイアースの正しさ、
そうして寒気を感じる百合さん。


憐れみなんてない

 

 

 

「・・・・・さて、これからのことだが。アインズ様の命令は、この世界についての情報と、そうして魔法の知識。特に、蘇生に関するものを集める様にということだったね?」

 

モモンガ改め、アインズと名乗った主からの命をデミウルゴスが復唱した。

その場にいた守護者たちはもちろん張り切っていた。

己が創造主からの命令だ、張り切らないわけがない。

生き生きとした打ち合わせをする中で、何故かアルベドだけが浮かない顔をしていた。それに気づいたアウラが不思議そうに問いかけた。

 

「どうしたの、アルベド?」

「え、ええ。」

 

アルベドは返事をしたものの、気もそぞろにぼんやりとした顔でアウラを見返した。

それにデミウルゴスが不機嫌そうに顔をしかめた。

 

「至高の御方たるアインズ様の命を前にぼんやりするなど。何かありましたか?」

「・・・・いいえ。」

 

そう答えはしても、やはりアルベドの返答はぼんやりとしており、気もそぞろであった。それに、守護者の面々は明らかに目の前の存在に対して不信感のある目を向けた。

 

「・・・・少し、気になることがあるの。それについて考えていたわ。」

「それはそんなにも重要な事なのかね?」

 

デミウルゴスが促す様に頷くが、アルベドは首を振った。

 

「いいえ。これについては少し一人で考えたいの。答えが出ないようなら、相談させて頂戴?」

 

そう言った後に、アルベドは守護者統括としての働きを見せ、今までのぼんやりとした様子などなかったように振る舞った。

それに守護者たちは訝し気な視線を向けるものの、その完璧な立ち振る舞いに口を挟む気にはなれず黙り込んだ。

 

 

「・・・誰なの?」

 

アルベドはナザリックの中を歩きながら、掠れた声で囁いた。

彼女の頭の中には、主の命を遂行するための計画が立てられ、それを施行するための動きが組み立てられてゆく。

それと同時に、彼女の頭の中でまるで風に捲られるページのような次々に一人の人間の女の映像が浮かんでは消えてゆく。

 

(・・・だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?だれ?)

 

頭の中で幾度も反芻する、その疑問。

平凡な女だ。醜いとまではいかない。けれど、けして美しいわけではない、気だるそうな目つきの悪い女。

何も分からない。ただ、その女が自分に微笑んでいる。じっと、まるで愛おしいものを見るような、目で。

分かる、分かりはする。

その女の名は、百合。白い、花の名前を持つ女。

唯の女、何も知りえず、何の価値もない、人の女。

だというのに、だというのにだ。

 

(ああ、どうして、こんなにも。)

 

愛おしい。

 

アルベドの中を支配する衝動。

ただ、その女を、愛したい。

笑っていてほしい、幸せであってほしい、抱きしめてほしい、腹を満たしてやりたい、彼女の周りを美しいものだけで埋めたい、頭を撫でてほしい、赤く染まった顔を見たい、快楽で溶けた顔を見たい、褒めてほしい、他愛も無い話をしたい、ベッドの中に引きずり込みたい、ただ、会いたい。

 

頭の中を浮かんでは消えていく、その欲望とも言える何か。

ただ、その感情を、アルベドはどこか絵空事のように枠の外から見ていた。

その感情はアルベドの、人を下等とするナザリックの守護者統括としての感情とどこまでもかい離していた。

守護者統括としての価値観とその愛はまるで水と油のように解離し、アルベドの中でうねりを上げていた。

それを、守護者統括として冷静な頭で見つつも、彼女はしっかりと理解していた。その感情は、いつか己の中で暴れ、崩壊し、ナザリックに害をもたらすと。

いつか、自分はその女を求めて、どこかに駆けて行ってしまうのかもしれないと。

その不安感を無くすのは簡単だ。

そうなる前に、その百合という女を確保すればいい。

愛でるにしても、排除するにしても、その女の行方を知らなくてはいけない。

けれどだ。

アルベドの中には、その女の容姿と、種族、そうして名前しか知らない。

己の中に唐突に現れたその女の存在に、彼女は精神系の攻撃を受けているのかと疑いはしても、調べたところでそんな証拠もない。

百合とは、誰なのか。

 

(・・・・・精神系の攻撃でないとしたら。それは、そう創られたから?)

 

その予想に、アルベドはそれが答えであると察した。

そうだ、きっと、その女は創造主たる存在の何かなのだろう。

 

(・・・アインズ様なら、知っているかもしれない。)

 

あの女が誰なのか、あの女が今、どこにいるのか。

彼女にしては珍しく、いや愛に狂っているサキュバスとしてはある意味正しく、アインズに<伝言>を送った。

 

(アインズ様!)

(ど、どうしたアルベドよ。何かあったのか?)

(アインズ様!無礼を承知でお伺いします!百合という、人間を御知りではないですか!?)

 

唐突に喰い気味のアルベドからの<伝言>にかたまる。が、百合という単語に目を見開いた。

そうして、自分が書き込んだ設定の件をようやく思い出す。

 

(あああああああああああ!!)

 

アインズ、いやモモンガはそれに出もしない冷や汗を幻想する。今の今まで、ドタバタしていて忘れていたが、自分のしでかしたことをようやく思い出した。

 

(・・・・アルベド、それは。)

(お願いです!どうしても、会いたいのです!ああ、私の愛しい、百合!!)

 

なんと言い訳をしようかと考えているアインズは、そのアルベドの言葉に少しだけ空白を持った。

そうして、ひどく静かに口を開いた。

 

 

 

アルベドは、アインズに呼ばれた自室にて茫然と固まっていた。

流石に、あの<伝言>は不躾すぎたかと恥じ入ったが、部屋で待っていたアインズの様子にそれが違うと察せられた。

そうして、彼は驚くべきことを口にした。

 

「・・・・百合は、私の姉のことだ。」

「アインズ様の、お姉さま。」

 

それだけでも驚きで在り、何よりも先ほどアインズに自分が言った告白がどれだけ不敬な事かと慌てた。謝罪を口にしようとする前に、アインズはそれを止めた。

 

「いや、よいのだ。アルベド。それは、その、私がお前につけてしまったものだ。」

「アインズ様が、ですか?」

「・・・それについては、酷なことをしてしまった。アルベド、彼女はな。」

 

すでに、なくなっているのだ。

 

それにアルベドの瞳がゆっくりと見開かれた。

今、己が主人は何と言った?

死んだと?あの、穏やかに笑う、善人そうな女は死んだと?

ぶわりと、彼女の体から漏れ出たのは、何に向ければいいのかもわからない憎悪だった。

あの、女!愛しい、私の女!

何が奪った?何が殺した?何が、何が、何が!?

 

「落ち着け、アルベド。」

 

その言葉に、激高したようにアルベドが叫んだ。

 

「落ち着いてなどいられません!誰が、奪ったのですか!?何が、どうして!」

 

どうして、守ってくださらなかったのですか?

 

どんな状況だったのかもわからない。どうして、死んだのかもわからない。

それでも、アルベドは、己が主人の絶対的な信頼ゆえに、それを叫んだ。

その言葉と同時に、アインズの口から怒号が放たれた。

 

「守りたかったに決まっている!」

 

冷気のような威圧感が辺りに

 

「守りたかったに決まっている!あの人だけが、俺の側にいてくれた!アルベド、分かるか!?ただの、何の価値もない存在を、守り、慈しみ、育て上げたのだ!恩を返したかった、ずっとそばにいたかった!弱い人間の俺には、何もできなかった。」

 

最後、囁くようにアインズは呟いた。

 

「・・・・・優しい人だった。私とは、血の繋がりも無かったが父母がなき後も私の世話をしてくれた。」

 

優しさをくれた、穏やかさをくれた、当たり前の温かさをくれた。

守りたかった、守れなかった。

 

そう言った後、アインズは精神が安定していく。彼女を殺した存在への憎しみはそれによってすっと引いて行く。それが、今はありがたい。

 

「人、間?」

 

アルベドの囁くような声に、アインズはぎくりと固まった

高ぶった感情に任せて、暴露する気のなかったそれにアインズは、モモンガは固まった。

それにアルベドの顔を窺うが、そこには不思議と嫌悪感はなかった。

確かな驚愕はあったが、忌避感と言えるものは存在しなかった。

といっても、それが真実であるかは分からない。もしかすれば、とっさにその感情を隠している可能性がある。

 

「ア、 アルベド。」

「はい、アインズ様。」

「その、人間であったことについては。」

「そのようなことは今はいいのです!」

「そ、そのようなこと?」

 

それは今のアルベドにとってはどうだっていいことだ。

もちろん、もしも、何も変わることのなかったアルベドに話していれば動揺の一つでもしたことだろう。

けれど、彼女の頭の中は愛しい女が死んでいるという事実でいっぱいだった。

別段、モモンガが人間であることなど些細な事だ。

アンデットなのだから、その可能性は以前からあったこと。何よりも、人である事実を前に己の忠誠が揺らぐ理由など一つだってありはしないのだ。

愛しい女が、奪われている。

それだけが、アルベドを満たしていた。

その話題を振り払うように、彼女は口を開いた。

 

「蘇生は、できなかったのですか?」

「・・・ユグドラシルでは、無理だった。だが、この世界では違うかもしれない。」

 

アインズは、そっとアルベドの手を取った。

 

「・・・・蘇生の魔法を探させているのは、私の私用だ。恥ずべきことだ。」

「そのようなこと!アインズ様は、アインズ様のしたいようになさってください。何よりも、彼女を蘇らせることは、私の願いでもあります。」

「人間が愛おしいことは、不快ではないのか?それを植え付けてしまった私が言えたことではないが。」

「そのようなことはありません!至高の御方に与えられたものが嫌であるはずがありません。」

 

何よりも、アルベドは幸福であったのだ。

アルベドの中にある、百合という存在への情は、彼女が知る中でも何よりも苛烈で、そうして柔らかだった。

アルベドは、サキュバスだ、悪魔だ。

その愛は、燃えるようで、熱っぽく、甘く、そうして色欲に見えている。

けれど、百合という存在への愛は、確かに性愛とて持っている。けれど、それ以上に、ただ、相手への幸福を願うという柔らかで、優しいだけの祈りのような愛だった。

それを知ること自体は不幸ではなかった。だから、そんなことをアインズに言わないでほしかった。

 

「アルベド、すまない。このことはまだ秘密にしておいてほしい。そして、彼女のことでまた相談をしたいのだが構わないだろうか?」

「はい、アインズ様!」

 

アルベドは幸福だ。

優しい、知らなかった愛を知り、そうして愛しいアインズとの秘密を共有している。

彼女は、百合を愛している。そうして、ただ一人、ナザリックに残った慈悲深き唯一を愛していた。

もしも、百合が帰ってきたとき、自分がどちらの一番にもなれぬことからは目を逸らした。

そうして、甘やかに微笑んだ。

ここにはいない、彼女。

あなたと出会えた、その時はどんなふうに愛してあげましょうか?

 

 

 

「・・・寒気?」

 

生まれてこのかた、風邪を引いたことがないことを自慢にしているリリーはその寒気にはてりと首を傾げる。

その横にいたレイナースがさっと持っていたマントを差し出してくる。

 

「いや、いらんから。」

 

手を振って拒絶すれば、レイナースは不機嫌そうな顔をする。

 

「風邪を引かれたのでは・・・」

「いや、別に引いたところで何とかなる。」

 

それに、レイナースは黙り込むがじんわりとした威圧感だけは面倒なことに放っている。

リリーとしては無視してもいいのだが、残念なことに彼女たちがいるのは帝国魔法学院だ。レイナースの放つ、じんわりとした威圧感に明らかに避けられている。

彼女たちがいるのは、学園の外に面した廊下近くに置かれたベンチだ。

今まで、リリーの姿を見て、親しみやら媚やらを含めて元気よく挨拶をしていた生徒たちがまるで怯える小動物のように離れていく。

それにリリーはため息を吐きながら、そのマントを受け取り、羽織った。

 

「これでいいか?」

「・・・・ええ。」

 

その声音はやはり固いが、それでも先ほどよりもだいぶ柔らかい。それにほっとしながら、リリーはぺらりと生徒たちとの話を書き留めた紙を捲った。

 

リリーは、時折学園にて特別講師としてまねかれることがある。

もちろん、始めた当初は相当の反発があったが、といってもたった一人だけ。

 

(・・・・自分だけ反対しといて、聴講生の中に混ざってるのはどうかと思うんだけど。)

 

隣りになってしまった生徒の気まずそうな顔を見るたびに哀れで仕方なくなって来る。

もちろん、リリーに先生として才はない。

 

(というか、私もそこまで魔法に関して理解してるとは言いにくいしな。)

 

この世界の魔法は、どこかプログラミングに近いように思える。

魔法において使われる単語を組み合わせて式を作り、それに魔力を流し込むことで魔法を行使する。

ここで厄介なのは、魔法を使う上では、その正解である式を見つけなければいけないのだ。

もちろん、式が多少間違っていてもなんとかなるが、それでも思った様な結果を引き起こせず、効力が思うように続かなかったりと色々あるのだ。

ただ、といっても式を知っていても魔力が高くなければ魔法は使えない。魔力があっても、使えないらしい。

その魔力が使えないという感覚がリリーにはピンとこないが、そういうものらしい。

これを魔力適正といっているが、そう言った系統の職業をとっていないということなのだろうか?

リリーがそう言った講義で話すのは、ユグドラシルにおいての設定から考えた考察で、それがどうもこの世界では新鮮であるらしく受けている。

フールーダのテンションもバク上がりである。

 

リリーが持っているのは、生徒たちのレポートである。

レポートの添削自体はフールーダと共にする。リリーには、そういった才がないためだ。といっても、フールーダはそう言った場での発言に何か閃きを覚える為、嬉しそうだが。

 

(・・・というか、フールーダ、レベルが低いだけじゃなくて魔法自体使える数決まってたはずだから。その許容量超えてるのか?)

 

そんなことを考えつつ、リリーは現在兄に頼まれている仕事について思い出していた。

 

(・・・・アインズ・ウール・ゴウン。)

 

その名前を考えるたびに、何故か楽しそうにはしゃぐモモンガを思い出すのはなぜなのか。

リリーとしては、姉の前ではしゃいで雑魚に超位魔法を叩きこんで、どや顔を曝す弟についてなごむが今はその時ではないのだ。

そこまですごいマジックキャスターであるというならば、もしかすればプレイヤーであるのかもしれない。

プレイヤーというものがこの世に存在すると知った時、改めてお伽噺を調べてみた。そうすると、百年ほどの単位でそう言った存在の話が語り継がれている。

もしも、その周期が巡った末に、現実世界のプレイヤーが現れたというならば。

 

(・・・その、彼は、または彼女は何を目的にするんだろう。)

 

何はともあれ、面倒な事だとため息を吐いた。

 

 

 

(・・・・不思議な人。)

 

レイナースにとってリリーという存在はその一言に尽きた。

彼女が、初めてその人に会ったのは、何もかもから見捨てられた後の事だった。

己が顔にはしった呪い。

それへの蔑みと、そうして腫れ物に触るような目。

今まで、守っていた民からの拒絶。

それに、レイナースは全てへ絶望した。人という、醜い生き物に対して、徹底的に失望した。

 

守りたかった、慈しみたかった、貴族としての義務を果たしたかった、誇りでありたかった、笑っていてほしかった。

 

愛していた。

 

まだ、無邪気に世界の優しさを信じていた少女の祈りは、顔に現れた醜い呪いによってぐちゃぐちゃに蹂躙された。

信じていたのに、助けたのに!

誰も、彼女を助けなかった。

ああ、無意味だ、無価値だ!

 

その、優しい祈りはどこまでも無価値であった。

 

家を放り出された彼女は、その強さを活かして闘技場で身を立てていた。

少なくとも、強ささえあればなんとかなった。

けれど、その心をぎりぎりと締め付けられる。

そんな時、ふらりと現れた女がいた。

 

それがリリーだった。

もちろん、レイナースとて彼女の顔は知っていた。滅多に見ないものの、貴族であった彼女は顔ぐらいは知っていた。

レイナースの親や婚約者も彼女との繋がりを持ちたがっていた。

いつだって、何もかもに興味のなさそうな顔で、皇帝の側に立っていた。

初めて話すリリーは、ぼんやりとした目でレイナースを見た。

 

「・・・・君が家を追い出されたレイナース?」

「だからなに?」

 

始めから無礼の一言に尽きた彼女は、気だるそうに頷いた。

 

「いや、実はね護衛が欲しいんだ。でもさ、男だと色々周りが煩くてね。それで女の護衛を探してるんだけど。兄貴に、いや、陛下に身分のしっかりした奴にしろって言われてて。それで、捨てられたらしい君のことを知ったんだ。」

 

私の護衛にならないか?

 

「・・・・どれだけ人を侮辱すれば気が済むの?」

 

憎悪を込めたそれに、彼女ははてりと首を傾げた。それにレイナースは叫んだ。

 

「捨てられたから拾ってあげるとでもいうの!?人を犬猫みたいに言わないでくださる?あなたに蔑まれ、憐れまれることなんてないのよ!?」

「うん、そうだよ。君は、誰よりも善人だと私は思うし、だから私は君を護衛にしたいと思った。」

 

淡々と続けられた言葉は、どこか熱はなかった。けれど、妙に穏やかなそれからは蔑みなど一ミリだってなかった。

当たり前のように返されたその言葉に、レイナースは固まった。

彼女は、もっと違う言葉を予想していた。

もっと、傲慢で、醜い言葉を予想していた。

けれど、じっとレイナースを見る目は、ひどく澄んでいた。

憐れみも、侮蔑も、慈愛も、優しさも、親しみも無く、なにもないからこそ澄み切ったその眼は、まるで宝石のように美しかった。

何一つの、醜さもないというような、本当に凪いだ目だった。

 

「・・・・・君は、例え、その身に呪いを受けているとして。家を追い出されたとして、君が憐れまれることなんてない。」

 

リリーは、淡々と語る。

 

「君は、もしかしたら、自分のしたことに意味なんてないと思っているのかもしれない。君の味方はおらず、一人で放り出された虚しさを私は知らない。それでも、君は確かに誰もしようとしなかった、弱さへの祈りを以って救い続けた。例え、その結末が君にとって無意味で、無価値に終わっても。それでも、君はそれを誇りに思っていいんだ。君は、少なくとも何かをなした、誰かを救った。誰も助けられず、なにもなせずに死んでいく、弱い人がたくさんいる。それでも、君はなしたんだ。君の祈りを、君の願いを。」

 

私は、それが何よりも美しいと思った。

 

それでも、そんな言葉を吐いても、その眼は澄んでいた。

穏やかで、淡々として、それでもその言葉が真実であると、何故か分かった。

 

「私は、美しいと思った君が欲しい。君の祈りが、無意味であったといいたくない。君に、価値があるのだと。そう思いたい。遠い何時か、弱者であった私は、誰かを助けた君を美しいと思った。」

 

だから、こんなところで、そんな顔をしないでほしい。私は、この国に住まうものとして、あなたを誇りに思うから。

 

願う様な言葉は、なんだかひどく、キラキラしていた。

伸ばされた手を、思わず手に取ってしまったのは、何故だったか。

 

いいや、きっと、レイナースはずっと願っていた。そうだ、レイナースは欲しかったのはそれだった。

 

例え、醜くなっても、呪いに塗れていても、最後には泥を被ったとしても。

それでも、レイナースの優しさを正しいと言ってほしかった、伸ばされる手が、裏切らない何かがほしかった。

 

レイナースはそっと己の顔に手を滑らせた。

そこには、すべすべとした頬があるだけだ。

彼女はあっさりと自分を蝕んでいた呪いを解呪した。どんな魔法を使ったのかという問いに、リリーは少しだけ苦笑した。

 

「遠い昔の、過保護?」

 

意味が分からなかった。ただ、彼女がそんな風に笑うから、まあいいかと思った。

レイナースはぶつぶつと何かを呟きながら、生徒のレポートに目を通す己の主人を見た。

その人は、変な所に薄情で、気だるげに、仕事中毒で、そうして妙に善性というものを好んでいる。

子どもは健やかに育つべきで、無力な誰かは幸福に生きるべきだという、祈りを孕んでいる。

レイナースは、その女を守るだろう。例え、命に代えても。

遠い、あの日。

レイナースの願った幼く、愚かな正しさを彼女だけが捨て去らなかった、手を伸ばして拾い上げてくれた。

レイナースは、その主人を、神のごとく愛している。

 

 






アルベドの狂った愛をもっと書きたかったんですが難しくて薄味になりました。

魔法についての設定は、こんな感じかなあという予想です。
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