バハルス帝国の贄姫   作:藤猫

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短いです。

リリーは基本的に相手によってだいぶ口調は変えます。


おせっかい

 

「よお、旦那。ご機嫌いかが?」

 

突然、自分の背後に立った存在にセバス・チャンは目の端を震わせた。

細い路地、そこでお世辞にも上品とは言えない男と向かい合っていたセバスは唐突な存在に意識を向けた。

そこにいたのは、人間、のようだった。

フード付きのコートに、そうして、地味な仮面を付けたそれはセバスの肩に気軽に手をかけた。

当然のそれに、目の前の男も目を見開いた。それは二人のことなど気もせずに、セバスの足下にある息をしているだけの死体に目を向けた。

 

「あー、なるほど、なるほど。わかった、わかった。旦那、あんたの考えは分かったからよ!」

 

男にしては高く、女にしては低い、独特の声音だった。それは親しげにセバスに顔を寄せてきた。セバスは一瞬だけ、それを振り払おうとしたが、それよりも先にそのフードの人物はセバスに囁いた。

 

(いいから、合わせろ。悪いようにはしない。)

 

それにセバスはひとまず、成り行きを見守ることにした。

 

「・・・・またわいてきやがったか。」

「あー、そっちの兄さん、いやな。そう、嫌がらねえでくれよ!こっちも渡りに船でありがてえんだ!」

 

陽気そうなそれは大ぶりに手を上げる仕草をして男に話しかける。

 

「いやな、お恥ずかしい話。俺たち、ちょいっと、入り用なんだよ。人手がな?だがな、そうそう良い人材なんていねえもんだろう?」

「・・・・おい、失せろと。」

 

ちゃりんと、コートの人間から金属同士が、いや、コイン同士がこすり合うような音がした。

 

「もちろん、人を雇うんだ。報酬は必要だろう?仲介してくれる人間にだってな?」

「へえ、そりゃあ、そうだな。」

 

あからさまなその仕草に、男はにやりと笑う。それにコートの人間も肩をふるわせた。

 

「それでな、そっちの女、いや、俺たちの探していた人材にぴったりだ!どうも怪我をしてる見てえだし!当分は働けねえんじゃねえのか?」

「・・・そうだな。解雇、しねえとなあとは思ってたんだが。」

「ああ、兄弟!それなら是非とも、俺たちが連れて行ってもいいだろう?解雇する予定だったのなら、上に伝えなくてもいいだろう?止めた人間が次にどこで働こうとどうでもいいしな!」

「・・・仲介料は?」

 

それにコートの人間は古ぼけた革袋を男に渡した。男は中身を見て、にやりと笑った。

 

「・・・・ああ、好きにしろ。」

「おう、交渉成立だな!」

 

コートの人間はそう言って、革袋に包まれた人間を抱き上げ、そうして、セバスの肩を掴んだ。

 

「じゃあな、良い取引だった!」

「おう、処分してくれて礼を言うぜ。」

 

閉まった扉を背にコートのそれはセバスの肩を掴んで、路地を出た。

セバスは今までの取引に眉をひそめつつ、そうして、そのコートの人間がこの後どうするのか気になったのだ。

 

足早に去った後、ある程度距離が開いた。そうして、適当な路地にコートの人間はセバスを引き込み、そうして、勢いよくケツを叩いた。

ぱあんという音にセバスは、あまりにも予想外の行動に目を丸くした。

そうして、叩いた本人はぶるぶると震えて手をひらひらとさせる。

 

「かった!!何、鉄板でもいれてるの!?」

「・・・・いれてはいませんが。いささか、失礼では?」

 

これが他の同胞ではなくて幸運だとセバスは目の前のそれを見つめた。セバスは一瞬、その無礼にやり返すかと考えるが、目の前のそれの思惑が気になったのだ。

 

「あのな、失礼とか言ってるが。お前、どこのお上りさんだ?ここら辺で、あんなことをしてるのが八本指だって知らずにしたなんて言い訳にもならないぞ?」

「・・・・ルールとは、弱者の絶対ですので。」

 

それにコートの人間はじっとセバスのことを見つめる。

 

「はっ、まじもんでどこぞの貴族の配下か?」

 

セバスはそれに眉をひそめた。己の主を、貴族、程度で済ませて良いはずがない。

 

「貴族、王程度で済むお方ではございません。」

 

それにコートの人間はがっくりと肩を落とした。

 

「意味がわからん、ともかく、この子はどうしたものか。」

 

コートの人間は担いでいたそれを丁寧にその場に下ろした。すでに息をしているだけの死体を見下ろした。

 

「・・・・くそ、骨もそうだが性病にも罹患してるな。このままじゃ。」

 

セバスはそれに、じっとズタ袋に包まれたそれを見つめ、次にコートの人間に視線を向けた。それは、衣服に包まれて表情も見えないが、何か、物悲しそうにしていることは理解していた。

 

「・・・・あなた。」

「なんだよ、つーか、あんたもなんであんなことしたんだよ。面倒ごとに巻き込まれれるのはわかってただろうに。いいとこに勤めてるんだろう?服を見ればわかる。」

「それはあなたにも言えるのでは?」

 

その言葉にコートの人間は少しだけ黙り込み、ため息を吐いた。

 

「・・・・いいだろう。とっさに、動いてしまうことがあるんだ。」

 

それにセバスは、その震えるような肩に、ああと思う。セバスはその人間に視線を向けた。その人間は、コートの人間の腕を掴んでいた。

もう、掴むと言うよりも、触れているというのが正しいのだが。

それに、セバスは、助けを請うていると、理解して。

 

「・・・・助けて欲しいですか?」

 

コートの人間は何をと、セバスを見た。何を今更なのだと。

セバスにだってわかっている。

助けられる存在は出来る範囲で助けたいとは思っている。けれど、その横たわる存在を助ければ厄介ごとが舞い込むだろう。

けれど、そこで、一人、ぼろぼろの、死んだも同然のそれのために少なくないだろう金を払って、自分のことまで巻き込んだそれ。

 

「助けて、ほしいですか?」

 

それに、すでに、死にかけたそれは。

 

「――――」

 

かすかな、声さえも聞こえていなかったのかも知れない。けれど、セバスは確かにそれの助かりたいと伸ばした手を理解した。

 

「私がなんとかしましょう。」

「なんとかって、できるのか?」

「ええ、伝手はありますので。」

 

己自身で生きようと足掻くものであるのならば。

セバスは覚悟を決めた。女を抱え上げて、セバスは軽く会釈をした。

 

「今回について礼を言います。」

「礼って、はあ、たく。」

 

コートの人間はため息を吐いて、頭を掻いた。

 

「・・・いいか、八本指はそれこそ国の中核までずっぶずぶだ。下手したら数日中に兵士でも引き連れてやってくる可能性もある。」

「私は怪我人を助けただけ、ですが。」

「一応、この国では奴隷は御法度、ではあるが。法の抜け穴で契約でぎっちぎちにして実質的に奴隷にされているんだ。今回、金を払って女を買ったと難癖を付けられる可能性もある。だから、もしも兵士が来たら。」

女は、一緒にいた男が連れて行った、自分は脅されただけだと言っておけ。

 

セバスはそれにまじまじと、目の前のそれを見た。

 

「それはあなたにとって迷惑になるのでは?」

「いい、どうせ、私の拠点はここじゃないしな。用が終るまで逃げ回れば済む。その間、その子のことは隠しておけよ?ともかく、この都市から逃がすぐらいの。わかったか?」

 

セバスは、その、悪く言えば考え無しの、よく言えばお人好しの存在をまじまじと見つめた。

 

「なぜ、そこまで?」

「いいだろう。少し、思い出すことがあるだけだ。」

「失礼ですが、お名前は?」

 

それに、コートの人間はリスと名乗った。

 

 

 

(・・・・やってしまった。)

 

その日、リリーは宿屋にて数日前に自分のしてしまったことについてうんうんと悩んでいた。

それは、ただの偶然だった。

 

カッツェ平原にいる、おそらく同郷の人間に会いに行くと兄に言った手前、さすがにリリーが処理すべき事が積み上がっている。

それと同時に、王国内で起ったアンデッドの大量発生の報を聞いて頭を抱えた。

ズーラーノーンの活動の可能性もあり、リリーは彼らの動きが活発になっていないかと帝国内を駆けずり回っていたのだ。

おかげで、発端から一ヶ月以上が経ってしまっていた。

 

(・・・行く前に蒼の薔薇の奴らに何か知らないか聞きたかっただけなんだけどなあ。)

 

今回、リリーがわざわざ王国を訪れていたのは、既知の仲である蒼の薔薇と接触を図るためだ。

彼らの中で、イビルアイと呼ばれる存在がいる。彼女が吸血鬼であることは知っており、なかなかに特殊な立場であること知っているため、何か情報がないかを探るためだ。

彼女らがどれぐらいで帰るかはわからないが、それはそれとしてギリギリまで王国には滞在して待つ気ではいたのだ。

そんな中、夜の路地裏で、件の老人に会ったのだ。

 

その老人は、上から下まで、見事な執事然としていた。セバスと名前を聞いて、そこはセバスチャンやないんかいと思いつつ、町中で会えば世間話程度はするようになっていた。

セバスは、何か、リリーに対して恩義を持っているようで執拗に己の主人に会って欲しいと言ってくるが、それについては断っている。

ただ、聞く限り助けた、女、ツアレは元気になったと聞いて驚いた。

 

(あれを治すなんて、それこそ、今の魔法では無理なはず。)

 

リリーはもしやすれば、セバスの後ろにいる存在が自分と同胞で、自分と同じようにゲームでのマジックアイテムなどをそのまま持ち越している可能性についても考えている。

 

(・・・どうするか。あっちから探るか。いや、でも、やっぱ拠点に行ってみて相手の全体像を探った方がいい。)

 

 

が、それはそれとしてやはり、蒼の薔薇に王国で何か妙な勢力が増えていないかという話しは聞きたい。ジルクニフからの情報はもちろんありがたいが、貴族が先に手に入れられる情報と、冒険者が手に入れられる情報はちがうのだ。

リリーはできるだけ宿に籠りっきりになっている。

 

それはそれとして、いつ、八本指が自分のことを探すかはわからない。賄賂を男に渡したが、ばれない可能性がないわけではない。

 

(・・・こういう考え無しのところが兄上に呆れられるんだろうな。)

 

ため息を吐きたくなるような感覚で、リリーは今日こそはと蒼の薔薇たちがよく使っている宿屋に向かった。

 

 

「ようよう、お二人さん、帰ってきてたのか?」

 

嬉しそうな声を上げて自分たちに近づいてくる存在にガガーランは視線を向ける。丁度、ガガーランたち、蒼の薔薇のリーダーは報告のために留守にしており、残ったイビルアイとつかの間の休息を過ごしていた。

そこで、堂々と、自分たちの間に入ってくる存在に視線を向けた。

それは、彼らにとってなじみ深い、リスと名乗っている女だった。

 

「よう、リスじゃねえか!久しぶりだな!」

「ガガーランの姐さんも相変わらずで!ご機嫌はいかがで?」

 

楽しげに会話をする二人に、周りの冒険者たちは何も言わない。ガガーランの客に手を出すほど愚かな存在はその場にはいなかった。

リス、蒼の薔薇と親交がある魔術詠唱者はある程度の冒険者ならば知っている。

情報屋のようで、蒼の薔薇たちに時折話しをしているのはよく目撃されていた。

 

「お前、また、どこに隠れていたんだ?」

「ああ、イビルアイ様もごきげんようで。いいえ、知の探求のためにあっちにふらふら、こっちにふらふらと、まあ、そこそこやっておりますよ。」

 

おどけるようにそう言ったそれにイビルアイは呆れた顔をした。

 

「ふん、お前が私たちに近づいてくるのは用があるときだけだ。今回は、何のようだ?」

 

皮肉交じりのそれに、リリーは仮面の下で苦笑しそうになりながら、口を開く。

 

「ええ、実は。」

 

かたんと、また出入り口から音がした。それに、周りの人間からざわつきが起る。それに、リリーは蒼の薔薇のリーダーが来たのかと思ったが、なぜかガガーランまで驚いた顔をしていたのが気になった。

 

それにリリーもまた扉の方に視線を向ける。そこには、モモンが立っていた。

 


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