間桐桜救済ルートを求めて   作:ことはのセーラー服

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呪い(まじない): 神仏その他神秘的なものの威力を借りて、災いを取り除いたり起こしたりしようとする術。

呪い(のろい): 物理的手段によらず精神的あるいは霊的な手段で、悪意をもって他の人や社会全般に対し災厄や不幸をもたらせしめようとする行為。


第一話 邂逅

 

 

 

 

そう、特に意味はない。

 

今日も、明日も明後日も、これからずっと同じように時を過ごすのだとわかっていた。

 

あの痛み、苦しみ、孤独。

 

前まではいくたびに襲いかかるそれに怯え、涙を流していた気がする。

 

誰の助けもなく、ずっとこのまま……

 

 

 

 

 

でも今日(・・)だけは違った。

 

なんの気まぐれか、私は家を出た。

 

荷物をまとめ、2度と戻らないとか家出とかそんな大層なものではないけれど。なんとなく私は外に出た。

 

昔、姉さんとお母様だった人と一緒に遊んだ公園。一緒に夜ご飯の材料を買いに来た商店街。仲よさそうにはしゃぐ子供たちを横目に私は通りを抜ける。

 

そういえばあの頃は楽しかったのか。うっすらと当時の感情が起きたかのように思えたがすぐに掻き消えた。

 

 

 

とてつもなく虚しかった。

 

 

 

何も感じることができず、何も思うことができなかった。

ただ、胸の中に穴が空いたように、虚無を感じるのだった。

 

 

 

 

 

未遠川に沿うように広がる河川公園の堤防をぼんやりと歩く。

 

家を出た頃には燦々と輝いていた太陽も、今は夕陽となり地の果てへと沈みかけていた。

 

 

 

 

 

なんとなく家を出たが、何もなかった。

ただ、自分には何もないこと、ただの(から)だということが再確認できただけ。

 

足を家の方角に向けたその時、歌が聞こえた。

 

 

なんだろう。

 

 

家の方角に向いていた足は自然と音のなる方へと向かって動き出していた。

 

だんだんと歌の音量が大きくなっていく。

 

果たしてそこにあったものとは。

 

一人の少年が未遠川にかかる大きな橋の下で歌っていた。

 

夜のような黒髪が印象的な少年だった。中性的な顔立ち、街中で歩いている人と別段変わらない一般的な服装に身を包んでいた。

 

その場には、少年の歌に惹かれたのか、もうすぐ夜だというのにもかかわらず、小鳥や猫、犬などの動物が集まり、小さなコンサート会場となっていた。

 

沈みかける夕陽の光をスポットライトに歌う少年の姿に少女は、間桐桜はどうしようもなく惹かれた。

 

絨毯にこぼしてしまった水のように、少年の歌は瞬く間に少女の()に染み込んでいった。

 

少年は少女の存在に気づかずに言葉を紡ぎ続ける。

 

少女には少年の歌う歌詞の意味は理解できなかった。ただ、その少年の優しげな雰囲気と声色に包まれるだけで、どこか暖かい気持ちになれた気がした。

 

 

 

少年が歌い切り、意識が周囲に回るのがわかった。少年と目が合う。

 

私はただ、そこに立ち尽くしていた。

目が合った。何か話さなきゃと思ったけど、頭がうまく動かなかった。

 

何を話せばいいのか、わからなかった。

 

「あれ、君は……ってなんで泣いてるの?」

 

少年が若干慌てたように声を上げる。心配そうな表情を浮かべて近づいてくる少年に対して、何か反応を返さなきゃと心の中で悲鳴をあげるけれど、体は返事を返そうとするどころか後ずさりしてしまった。

 

「あぁ、驚かせたならごめんね。……やっぱり泣いてるじゃないか、何かあったかい?」

 

 

私は、泣いているの?

 

 

たどたどしい動きで手を頰に当てる。確かにそこには一筋の涙が走っていた。

 

「うーん……取り敢えず座る?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年に手を引かれて連れていかれたのは、未遠川の河川公園のそばにある大きめの河川敷。その土手に二人並んで座った。

 

「取り敢えずどうぞ」

 

少年は、カバンから小振りなタンブラーを取り出すと私に渡してきた。

 

でも、私はまたも怯えたような反応をしてしまう。そんな私を見た少年は苦笑いとともに、声をかけた。

 

「別に毒なんて持ってないさ。ただのココア。なんなら毒味しようか?」

 

「だ……い、じょうぶ、です」

 

「……そうか」

 

少年は少し驚いたような表情を見せた。

 

「僕の名前は飯場 柏(いいば かしわ)。きみは?」

 

「……まとう、さくら」

 

「間桐……か」

 

何かを考え込む少年改め柏。私はゆらゆらと揺らぐ茶色の液体を一口飲んだ。

 

甘い。

 

それだけじゃない。あたたかい(・・・・・)のだ。

 

今までも、まだ自分が遠坂だった頃に何度か飲んだが、こっちの方が何倍も美味しい。

 

心の穴が、僅かだけれど何かで埋められていく。

 

あたたかい。

 

 

 

また涙。

 

 

 

今度は自分でもはっきりとわかるくらいの涙が。両方の目からぼろぼろとこぼれ落ちる水滴。止めようとしても、止まらない。むしろ堰を切ったかのようにとめどなく溢れでてくる。

 

「うぐ、ひっ…………うぁ………っ」

 

「……大丈夫、大丈夫だよ」

 

私を包み込むような声。僅かに感じる感触。

 

私は少年の腕の中で、涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロポロと涙を流し、流し疲れて眠ってしまった少女、桜を自らの膝を枕代わりにして横にする。

 

寒くないように、自身のジャケットをかけてやるのも忘れない。

 

 

 

 

 

飯場 柏(いいば かしわ)は魔術師だ。

それも千年よりも長く続く家系のだ。

 

普段は見聞を広げるために倫敦(ロンドン)の時計塔に留学しているのだが、今は違った。

 

 

 

『聖杯戦争』

 

 

 

それは過去の英霊をサーヴァント(使い魔)として召喚し、最後の一人になるまで争い続ける殺し合い。

 

最後の一人となった勝者には、あらゆる願いを叶える願望器である聖杯を手にする権利が与えられるという、極東の国日本の冬木という街で行われる儀式のことだ。

 

魔術師の格が問われる戦、それが聖杯戦争。

 

今回、柏はこの聖杯戦争に参戦するために日本に帰国していた。

 

しかし、柏の一族は魔術師と謳っているが、本質的には精霊使いに近い。

 

飯場家は『言霊』の権能の一部をその身に宿す一族だ。

 

聞いたことがあるだろうか。何事もまず口に出してみるといい、とか。

 

例えば

 

『○○ちゃんなんて死んじゃえばいいのに』と普通の人が言えばただの悪口だ。後日、(くだん)の○○ちゃんが運悪く(・・・)大怪我をした、とか。

 

思いというのは、口に出してしまえば、それは一種の呪いと成って対象に伝わる。それが悪口であろうと願望であろうと。

 

結果として不幸な出来事が起こるとか、怪我を負うこともある。そんなもので済めばいい方である。

 

言霊とは半分概念のようなものだ。故に、気まぐれで一般人の願いを成就させたりもする。気まぐれだからこそ、悪口を言えるという言い方もできる。

仮に全ての願いが叶うなら今頃世界はこんな綺麗に残ってはいない。

 

しかし、言霊の権能を預かる飯場一族は、口に出した事象を意図的に実現することができる。

言霊という上位の存在の権能を操ることで呪いとして伝え、事象を現実させるのだ。

 

ただ、これも万能というわけではなく、一流の術師なら抵抗(レジスト)は難しくなく、二流なら効力を薄める程度だ。ほかにも『今すぐ大金が欲しい』とか『自分用のビルを今すぐ用意したい』などは現実的に厳しい。

 

つまるところ、権能の一部を預かっているだけで、せいぜい相手の行動を阻害する程度しか確実には起こせない。

 

さらには対象をはっきりとさせなければならない。呪いたい相手が何キロメートルも先にいて、一言呟いて呪いが完成するなら飯場一族はこの世界の頂点に立っているだろう。

 

簡単な言い方で言えば、一種の簡単な攻撃呪術だ。

 

そんななか、柏はその飯場一族でもわずかしか生まれない上位個体だったのだ。

 

血がだんだんと薄くなっていく中で生まれた(優等生)に一族の全てをかけたのだ。

 

一族は柏の機嫌を損ねないことに躍起になっている派閥も存在する。なので、柏自身は比較的自由に行動できるのだ。

 

当初、聖杯戦争に出ること自体、反対されていたのだが、一族のためだと適当に熱弁したらあっさりと許可が出た。ぬるい。

 

 

 

 

柏の魔術は言葉を扱うもの。

 

喉の調子を確かめるのを兼ねて大橋の下で歌っていたときに遭遇した子が桜だ。

 

桜が寝てたらだいぶ時間が経ったように思われる。さっきまで辛うじて出ていた陽の光は完全に沈み、今は闇が空を覆っている。

 

この子は訳ありだ。

 

体の中に魂が二つ(・・)ある。

 

二重人格とか特異体質でもないという可能性は捨てきれないが、体内から魔力の痕跡を感じるので恐らくはこっち側の世界の住人。

 

「この子はどこに帰してやればいいんだろうかなぁ……」

 

起こすしかないか……と思い始めたその時。ふと、夕闇の風に紛れるような魔力の点に気づく。

 

ただの魔力の痕跡ではない。

 

巧妙に隠された、柏がなんとなく嫌いだと思っている魔力だ。

 

「さて、そこにおられる御仁はどちらか?」

 

『カカカカカ、この儂に気がつくとは。貴様どこの家のものだ?』

 

虚空から声が響く。

 

最初はぷーんという小さな羽虫の音。それがだんだんと束になり以上と思われる虫が集まり一つの形を成す。

 

そうして、柏と桜のいる位置と対面する位置、河川公園堤防の平地に一人の翁が現れた。

 

「極東日本の蟲使い、その最上。なるほど、貴方はマキリの方か」

 

「よせ、今は間桐よ。しかし、すっかりと衰退したものよ」

 

自虐的な意味を含んだ笑みを浮かべた老人。

 

あらゆる場所に皺がより、その姿はかの妖怪ぬらりひょんを彷彿とさせる。

 

これが聖杯戦争を作り上げた一人、間桐臓硯(マキリ・ゾォルケン)との邂逅だった。

 

 

 

 

 




読了、ありがとうございます。

評価・感想をいただければ幸いです。次の作品の燃料になります。


次話もなるべく早く投稿します。

よろしくお願いします。
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