間桐桜救済ルートを求めて   作:ことはのセーラー服

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第二話 覚悟

 

 

 

 

「三流魔術師ではないと見た。おぬし、名は?」

 

空気がピリピリと張り詰める。

 

「飯場一族に連なるもの、とだけ言っておきます」

 

「飯場……あぁ、あの言霊使いのか。なるほど、平安の世よりも前から綿々と続く家系のものはよほど優れていると見える」

 

これは、褒められているのだろうか。どう切り出したらいいかわからない柏は自分が最も無難だと思う選択をとった。

 

「それで、間桐の翁がこんな街中に何用で?」

桜の頭を撫でながら柏は警戒レベルを一気に引き上げた。

 

この魔術師は危険だ。聞く話によると、延命に延命を重ねた結果、もはや人の部分を捨てたとの噂もある。

 

延命、人のみを捨てるというのは簡単なようでとても難しい。人をやめたければそこいらの食人鬼にでも血をすすらせれば良いのだから。

 

しかし、この目の前の魔術師は外見は人間を捨てているが、中身は以前、間桐(マキリ)という魔術師の一族の長なのだから。

 

「カカカ、何をそんなに警戒してるのかは知らんが、今は何もするつもりはないぞ」

 

「なんだって?」

 

「儂はそこな小娘の父のようなものでな。面倒を見てもらったようなのでな、引き取りに来ただけだ」

 

「……娘?間桐の家系はもう(つい)えたのでは?」

 

聖杯戦争という前代未聞の降霊技術を確立させた始まりの御三家。アインツベルン、遠坂、そして間桐(マキリ)。どれも一級の魔術師の家系だ。

 

しかし、話には続きがある。

 

アインツベルン、遠坂と違い、間桐には子宝に恵まれなかったのだ。

 

聞いた話では、どれも間桐の秘奥を完全に受け継げるものが一人として生まれなかったとか。

 

そして残った子供は確か二人。魔術師としては三流、そして弟の方は魔導の道に足を踏み入れる前に間桐の家を出奔したとかなんとか。

 

そう、間桐の家にこんな素晴らしい魔術回路を持った女の子なんていなかったはずだ。

 

なのに、なぜ……

 

「つかぬ事をお伺いしますが、この子は……?」

 

「おぬしの考えてることはよくわかる。考えているのと同じよ。あの穀潰しどもの代わり、養子として遠坂から貰い受けたのだ」

 

ニヤリ、と柏が嫌いな笑い方をする臓硯に嫌な予感が走る。

 

撫でていた頭から、魔力を流して桜の体を解析する。

 

 

 

吐き気がした。

 

 

 

体内の隅から隅までが全て蹂躙されていた。それは臓器に始まり、この歳ではまだ発達もしていないであろう子宮も例外ではない。

 

その体全てが作りかえられている途中だった。

 

もともと上質であったであろう、その体の殆どが間桐の色に無理矢理(・・・・)染められていた。

 

この子は、間桐(誰かに)堕とされた(・・・・・)のだ。

 

 

鋭い痛みが走る。

 

 

自分の過去と、桜の今の現状が重なったせいでアレ(・・)を思い出してしまった。

 

 

なんとかそれを抑え込み、臓硯を見やる。

 

「何故こんなことを?」

 

もしかしたら知らず知らずのうちに怒気が混じっていたかもしれない。しかし、臓硯はそんな柏を見てなお笑った。

 

「何、おぬしも知っておるようにな、我が一族はもはや終わり同然よ。それは聖杯戦争に参加しても初手で敗れる程度の魔術師しかいない時点でわかるだろう?」

 

柏は、あなたもその程度なのか、という言葉を飲み込んで話を聞き続けた。

 

「そも、今回の聖杯戦争は見送る予定だったのでな。この第四次で勝つつもりなど毛頭ないわ。これは嬉しい誤算だろうよ」

 

 

 

 

 

「…………桜はな、第五次に向けての布石。間桐の魔力に染まりきったこの小娘から生まれる子供は、さぞ上等なものに違いないからな……カカカカカ」

 

 

 

 

 

そういうことだったのか。

 

 

 

「そろそろ寒くなります」

 

 

決めた。僕はこの子を救う。

 

 

「桜ちゃんは僕がおぶっていきますよ」

 

 

聖杯戦争にかける望みなんてなかった。一族の繁栄のため、ただの箔付のためだけに参加するつもりだった。

 

 

「ご老体には響くでしょう?」

 

 

たった一人の女の子を助けることもできずに何が男だ。

 

この聖杯戦争に紛れて間桐から桜を救い出す。

 

 

これが僕が決めた覚悟だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の命の歌で、君の命を助ける。

 

 

所詮人間は欲望に溺れた獣だ。

 

 

そんな欲に(まみ)れた常人のなり損ないだけど。

 

 

僕は()を救う神様になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぬしも聖杯戦争に参加するつもりなよだろう?」

 

間桐邸に続く坂も残りわずかというところで臓硯が、桜を背負った柏に向かってそう問いかけた。

 

老体の臓硯に合わせてゆっくりだった歩みの速度がだんだんと無くなって行き、遂にはその足を止めた。

 

「ええ、そのために私はイギリスの倫敦(ロンドン)、時計塔から帰ってきたのですから」

 

ゆっくりとその首を回してこちら側を見る臓硯の視線を全身に受ける。

 

「聖杯にかける望みは?」

 

ここで言っていいのだろうか。

 

言ってしまえば、柏の願いは、聖杯戦争の途中にやろうとしていることは百何年と続く間桐の道を破壊する行為に等しい。

 

いや、ここではいうまい。

 

この騒動、どさくさに紛れて桜を救い出す。そんなことをこの臓硯(妖怪)が許すはずがない。

 

こんなこと(禁忌の延命)までして生にすがりつくのだから。

 

「内緒です」

 

そういうと、臓硯は楽しそうにも嫌そうにも見える表情を浮かべて口を開いた。

 

「キサマからも欲に溺れた獣畜生の匂いがするわ。フン、儂()どっちにしろ傍観者、せいぜい励むと良い」

 

再び間桐邸に向かって歩き始める。

 

柏は臓硯の含みのある言い方に引っかかり、言葉を返した。

 

「儂()、というと間桐は他の魔術師を?」

 

「他ぁ?ああ、一応間桐からも聖杯戦争に参加するやつはおる。ただ、ろくに経験も積んでいないあの穀潰しにはちと荷が重いと思うがな」

 

「穀潰し…………間桐鶴野?」

 

「あぁ、それではない」

 

となると、間桐雁夜か。間桐の家を出たものだったか。

 

「なるほど、今回に期待していないというのはそういうことですか。そもそも戦える者がいない、サーヴァントを扱う素量すらない、と」

 

「嘆かわしいことにな」

 

その時ちょうど間桐邸に到着した。

 

大きな門を潜り、洋風の扉を進み、何もないただの一室(桜の部屋)に置かれたベッドに桜を寝かせ、掛け布団をかけてやる。

 

 

 

 

 

「いやご苦労だったな」

 

「いえ、これくらいのことは」

 

見送られる形で外に出た柏に臓硯は待ったをかけ、声をかけた。

 

「ふむ、そんなおぬしには一つ情報をくれてやろう。間桐のものとして聖杯戦争に参加するのは雁夜だ。そして雁夜の願いは

 

 

 

間桐桜(・・・)を間桐の家から救うこと

 

 

 

儂に提案してきたのだ。聖杯を手に入れる代わりに桜を解放してほしい、とな。そのためだけにあの穀潰しはこの屋敷の門を潜り、その体を生贄にしてまで聖杯戦争に挑むようだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてここで、おぬしの話を聞こうか。飯場何某、キサマの願いはなんだ?」

 

 

 

臓硯は悪戯が成功した少年のような表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 





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