生い茂る葉の隙間から光が差し込む森林の道脇に、サイドカー付バイクが停まっている。
『……コノ程度ノ故障ナラ1時間モアリャア直セルダロウ』
「本当ですかラモリさん⁉︎良かった~…!」
バイクの前にはともえ、そしてその足元にはサングラスを掛けた赤色のぬいぐるみ?がバイクをじっと観察している。
『シカシ運ガ良カッタナ。走ッテイル最中ニ『エンスト』ヲ起コシタッテノニ、全員無事ナンダカラナ』
ラモリと呼ばれたぬいぐるみは更にバイクに近づき、バッテリーとエンジンに自身の作業用アームを伸ばしてより詳細な状態をチェックし始める。
「ほんっとに焦りましたよ‼‼いきなりガガガッ‼っておっきな音がしたかと思ったら、バイクが言うことを聞かなくなったですから‼」
冷汗を浮かべながら、ともえはバイク近くの樹木に背を預けて腰掛ける。
「あと少しブレーキが遅かったら……あわわわ」
『危ウク俺モスッ飛ンデクトコロダッタゾ。万が一ノ時ノ対処法ヲともえニ教エテオイテ正解ダッタ』
青ざめるともえを横に、ラモリは軽口を呟きながらバイクの修理を始めた。
『ソウイヤ、イエイヌハドウシタ?』
「あ、えっと、イエイヌちゃんは「折角ですからこの辺りで水を探してきます‼」って言って、水筒を持って行っちゃいました」
そういってともえは木々の間に指を差す。その方向の地面にはイエイヌの足跡があり、持ち前の嗅覚を頼りに水を探しに行ったようだ。
『ソウカ……フム、コノ辺リハサンドスターノ濃度モ低イカラ、セルリアンモ心配イラナイダロウ』
「そうですか……!」
ラモリは淡々と告げると、無言になってバイクの修理を続ける。一方でともえはラモリの言葉に答えると、鞄の中からスケッチブックとクレヨンを取り出してページを開いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『……ナンダ?』
「いえ、お気になさらず。そのまま続けて、どうぞ」
ともえの行動にラモリは思わず作業を止めて訊ねるが、そんなのお構いなしと言わんばかりにともえはクレヨンを走らせる。
『アノヨ?俺ナンカ描イテ楽シイノカ?』
「何言ってるんですか‼楽しいですよ‼めっちゃ絵になりますよ‼」
カッ‼と擬音がしそうなほど目を見開いてともえは言い放つ。因みにクレヨンを走らせたままだ。
『……分カラン』
ラモリは呆れたように身体を傾げ、それから再び作業に戻る。
「……そういえばラモリさんって、少し前までは私としかお話しませんよね?」
色の違うクレヨンに持ち替えながら、今度はともえからラモリへ訊ねる。
『ン?アア。俺達ラッキービーストハ元々、コノジャパリパークノ管理維持ヲ行ウコトガ任務ダカラナ。フレンズトノ過度ナ接触ヲシナイヨウニッテコトデ、フレンズト話ガ出来ナカッタンダヨ』
淡々と作業を続けながらラモリはややぶっきらぼうに話す。
「けど、今は普通にイエイヌちゃんともお話してますよね!」
『今ハ………マア、状況ガ昔トハ色々ト違ウカラナ』
「昔ですか……?」
ラモリから出た『昔』という単語にともえは首を傾げる。
「その昔。アタシ達と会う前って、ラモリさんは何処に居たんですか?」
『…………』
ふと、ラモリの動きが止まる。
「……ラモリさん?」
その様子をともえが声を掛けると、程なくしてラモリは作業を再開した。だが、ラモリは完全に黙り込んでしまい、作業音だけが2人の間に響く。
「あ…えっと、その……ごめんなさい」
『イヤ、謝ルコトハ無イゾ?』
自分の言葉が原因だと感じたともえは思わず頭を下げて謝ったが、それにすぐさまラモリが言葉を返した。
「いや、だって……」
『少シ『昔』ノコトヲ思イ出シテイタダケダ。怒ッタ訳デハ無イカラ安心シロ』
そう言うとラモリはピョンと飛び跳ねると、器用にバイクのサドルに着地し、アームを使ってエンジンキーを回す。するとエンジンが掛かる音が響くと同時にエンジンから比較的静かな駆動音が聞こえ始めた。
『ヨシ、修理完了。後ハイエイヌガ戻ッテ来ルノヲ待ツダケダナ』
「そ、そうですね……」
何だか有耶無耶にされたような感じとなってしまい、ともえは複雑そうな顔を浮かべてしまう。
『イツカハ話ス』
「……え?」
そんなともえを見かねてか、サドルに佇むラモリは身体の向きをともえに向け直してそう言った。
『今ハ言エネエガ、イツカ必ズ話ス……ソノ時ガ来タラナ』
「………」
サングラスを掛けている所為でラモリの目を見ることは出来ない。けれど、何故だかラモリが自分に向けている目が見えたような気がした。
『………』
「………」
それも、嘘偽りの無い真摯な目がサングラスの向こうに見えた気がした。
「……分かりました。その時になったら、私だけじゃなくてイエイヌちゃんにも話してもらいますからね?」
『アア、分カッテイルヨ』
「約束ですからね!」
その言葉を聞いてともえの顔に笑みが戻る。ラモリも肩を竦めるような動きをしてから、サドルから降りようとする。
「あぁ⁉︎折角なのでそのまま‼ラモリさんそのままで‼めっちゃ絵になるじゃないですか~‼」
『……エ?』
ともえは思い出したかのようにスケッチブックを開き直し、その勢いのままにクレヨンをこれまた一気に走らせる。
『……マジカイナ』
ラモリはその光景に唖然となって意図せずその場で固まってしまった。もっとも、それはともえにとって大変都合の良い事であるのだが。
「ともえさ~ん!ボス~!お水汲んできまし……⁉︎」
「そう‼そのまま‼そのアームの角度を維持して‼‼」
『ア、アガガガガガガ………』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ともえのスケッチブックに、新しい絵が加わった。
木々が生い茂る森の中に停まる一台のバイク。
そのサドルで毅然とした様子で堂々と佇む、ラモリの姿。
とても頼もしそうな、それでいて何処か寂しげな、そんな不思議な雰囲気が絵に描かれていた。