けものフレンズR Record   作:新人描画師

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とうぼうせん

月すらも雲に覆われ、完全なる暗闇となった道を1台のサイドカー付バイクと1台の大型クルーザーが並走している。

 

が、2台の走りはどうも穏やかなものでは無いようだ。

 

「はああっ‼」

 

バイクとクルーザーの後方。水色だけを瞳を輝かせた(野生開放した)イエイヌは光の結晶が迸る右手を振り下ろす。放たれたそれは薄緑色の(へし)を砕きながら抉り取った。

 

《―――――!》

 

直後、へしを砕かれた『回転する円盤(しゃりん)』を付けたセルリアンはその身体をパッカーン‼させてサンドスターに還元される。が、その後すぐに後続の同型セルリアンが迫り、イエイヌは顔を顰める。

 

「うぅ~‼しつこいですね‼」

『イエイヌちゃん‼一旦戻って‼』

 

イエイヌの左耳に装着されたインカムからともえの声が聞こえる。その声を聴いてイエイヌがバイクの方へ顔を向けると、バイクを運転しつつも自分の方へ顔を向けているともえの姿があった。

 

『サイドカーに戻って足を休めて‼』

「は、はい‼」

 

イエイヌがバイクに戻ろうとしたその時、ともえの右方向、クルーザーの影から1匹のセルリアンが飛び掛かり、ともえを急襲しようとする。

 

「ともえさんっ⁉︎」

「きゃああっ⁉︎⁉︎」

 

慌てて跳躍するイエイヌ、ハンドルを握っているが故に何もできないともえ。

 

「てぇいっ‼」

《―――――!》

 

その時、突如としてともえに襲い掛かったセルリアンが勢いよく吹き飛ばされ、そのままパッカーン‼となった。

 

「おい‼余所見するな‼危ないぞ‼」

「ゴマちゃん‼(ゴマさん‼)」

「だから『ゴマ』って呼ぶなって言ってるだろう⁉︎」

 

ともえを守ったのは『ゴマ』と呼ばれたフレンズ。斑模様の羽根を頭に持ち、水色の生地に『Beep!』を印されたシャツを着ており、頭の羽根を羽ばたかせて浮遊している。

 

「私の名前はロードランナーだって昨日から」

「ゴマちゃん後ろ‼」

「っ‼」

 

ともえが叫ぶとほぼ同時にG・ロードランナー―――愛称ゴマの背後にセルリアンが飛び掛かってくる。

 

「しゃらくさいっ‼」

 

ゴマはそう叫びながら両の瞳を輝かせ(野生開放をし)、同時に両足に光の結晶を迸らせて回し蹴りを振り放つ。

 

《⁉︎》

「おりゃあっ‼」

 

振り抜かれた蹴りはセルリアンに深くめり込み、へしに関係なくそのままパッカーン‼とさせた。

 

「へんっ‼どうだ?ビビッたか?」

 

尚もクルーザーを追ってくるセルリアンの群れにゴマがそう言うと、心なしかセルリアンは怖気づいたかのように動きを鈍らせた。

 

「ならこっちから行くぜ‼うおおおおっ‼‼」

 

ゴマは一度クルーザーの屋根に着地すると、今度はそこから跳躍をしてセルリアンの群れに突っ込んでいった。

 

「ご、ゴマさーん⁉︎」

 

突撃していったゴマにともえは声を上げるが、ゴマの様子から届いていないか聞こえていないようだ。そんなともえの横に鈍い音と共にイエイヌがサイドカーに戻ってきた。

 

「イエイヌちゃんっ⁉︎」

「はぁ…はぁ……だ、大丈夫です…まだ……」

 

肩で息をするほどに疲弊したイエイヌが枯れた声で呟く。イエイヌが飛んできた方には依然として複数のセルリアンがバイクとクルーザーを追ってきている。

 

「けど、このセルリアン達の狙いは」

「……うん」

 

ともえとイエイヌがクルーザーの車内に目を向ける。そこには、助手席に座っている1人のフレンズの姿があった。

 

虎模様のロングヘア―をリボンで纏め、黒のベストと緩めた黄色のネクタイが特徴の外見のフレンズが、グッタリとした様子で席にもたれかかるように寝込んでいる。

 

『ともえ、イエイヌ、目的地ガ近クナッテキタ。コレ以上ノ戦闘ハ厳シイゾ』

「「‼」」

 

そんな時、2人のインカムにラモリの声が聞こえてくる。クルーザーを運転しながら2人に声を掛けているようだ。

 

『ソレ二イエイヌ、オ前サンノ『野生開放』ハ未熟ナモノダ。コレ以上ハ身体ニ負荷ヲカケル』

「け、けどボス⁉︎」

 

ラモリの言葉に反論しようとするイエイヌだが、それをともえが抑える。

 

「……どうすれば良い?ラモリさん?」

『アノ鳥ノフレンズヲクルーザーニ呼ビ戻セ。一カ八カニナルガ、セルリアンヲ一気ニ振リ切ル』

 

その言葉を聞いたともえはコクリと頷くと、イエイヌにアイコンタクトを送る。それを察したイエイヌは呼吸を整えると、再びサイドーカーを飛び出してセルリアンの群れに向かった。

 

『ともえ、危ナクナルガ光ヲ消セ。ジャナイトセルリアンヲ撒ケナイ』

「は、はい‼」

 

ともえはすぐさまバイクのヘッドライトを消灯し、同時にクルーザーのライトもラモリによって消灯する。そうして、灯り一つ無い完全なる暗闇となった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

「ゴマさん‼」

「だ、か、ら‼ゴマじゃなくてロードランナーだっ‼」

 

イエイヌの声にセルリアンを回し蹴りで弾き飛ばしながらゴマは声を上げる。

 

「そんなことより‼」

「そんなことよりだと⁉︎」

「セルリアンから逃げます‼戻って来てください‼」

 

そう言ってイエイヌはすぐにともえのバイクに戻ろうとする。が、

 

「っ⁉︎」

「っておい⁉︎」

 

踵を返した瞬間にイエイヌの体勢がガクリッと大きく崩れ、慌ててゴマがそれを抱きかかえる。

 

「どうしたっ⁉︎」

「ぁ……が……‼」

 

イエイヌは何かを発しようとしているが声が出ていない。おまけに両目が野生開放のように光っては消え、光っては消えと不規則に点滅しており、それを見たゴマは即座にイエイヌの異常を察した。

 

「くそっ‼一体何なんだよ‼」

 

ゴマはイエイヌを抱えたまま浮遊し、少々無理矢理だが一気に加速してクルーザの屋根にイエイヌごと身体を着地させた。

 

「イエイヌちゃんっ⁉︎」

「それどころじゃないだろ‼逃げるんだろ‼」

 

イエイヌの状態を見てともえが叫ぶが、それをゴマが制する。

 

「オイ‼変なボス‼」

『任セロ‼ともえ‼今ハトニカク逃ゲルゾ‼ツイテコイ‼』

 

ゴマの言葉を受けたラモリはクルーザーを一気に加速させる。急加速で飛ばされそうになるのをゴマはイエイヌを片手で抱えたまま、もう片方の手でハッチの取っ手を掴んで踏ん張りを入れる。

 

「……っ‼」

 

イエイヌが心配なともえだが、今はとにかく逃げることが先決だと自分に言い聞かせ、バイクのスロットルを全開にする。暗い中の全力疾走で不安になるが、今はとにかくクルーザーを見失わないように目を凝らすことに集中した。

 

バイクとクルーザーが一気に加速したこと、2台とも光を消した為に見えにくくなってしまったこと、月明かりも無い闇夜で更に視界が悪くなったこともあり、追いかけていたセルリアン達はものの数秒でともえ達を完全に見失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

セルリアンを完全に撒いたことで、危機を脱したともえ達は一先ずは胸を撫で下ろした。

 

「はぁ……はぁ……っ‼イエイヌちゃんは⁉︎」

「心配ねえよ。寝ちまってるだけだ」

 

ハッとなって声を上げたともえにゴマが答える。ゴマの腕の中にはグッタリとしつつも、規則正しい呼吸を繰り返して眠るイエイヌの姿があった。

 

「よ、良かった……ありがとうゴマちゃん‼」

「だからゴマじゃねえって言ってんだろうが⁉︎」

 

ともえの感謝にゴマが何度目かの声を上げる。

 

「…?おい、何だあれ?」

『ともえ、見エタゾ』

「‼」

 

ゴマが何かを見つけ、同時にインカムからラモリの言葉が聞こえ、ともえは正面を向き直す。

 

『機材ガ無事ダト良インダガナ……』

 

バイクとクルーザーの進行方向には、外壁がボロボロになった1棟の建造物が待ち構えるように存在していた。




【セルリ案紹介】

『しゃりんセルリアン』
・球体状の体の両サイドに『回転する円盤(しゃりん)』を備えた高速移動型セルリアン
・体色は深緑色、(へし)は薄緑色
・1体1体は小型なのだが、最高速は『のりもの』を追いかけられるほどに素早い
・加速能力も高く、動物が走り出してからトップスピードになるまでの時間で最高速になれる
(へし)は体の頂点にある。

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