納得のいくものを作りたくて…すみません。
風が吹いていた。
一人の少年は、終末の谷と呼ばれる場所に着くと、真っ先に背を向けている友の名を呼んだ。
「ナルト!」
それが友の名だ。そして、うずまきナルトはゆっくりと首をこちらに向けた。
額当てをつけていない。それは、木ノ葉を捨てたと同義。
「なに?」
瞳は、昏い。虚無の空間を思わせるかのように。
「お前…なにをしているんだ!」
「は…?」
全く意味が分からない。
そんな雰囲気を醸し出していた。
「木ノ葉に戻ろう!オレたちは仲間だろ!?」
どうか届いてほしい。
そんな一心で叫んだ言葉は、ナルトには届かなかった。
「仲間ぁ?はんっ、オレを散々ドべドべと罵っておいて、そんな甘ちゃんな言葉をよく吐けるな。感心だってばよ」
「…お前…」
「よく考えてみろ。自分の気持ちを。オレを馬鹿にしてたんだろ?皆。サクラちゃんも、カカシ先生も!なあ、サスケ?見え見えなんだよ、お前らの心なんて!本意なんてさ!偽りはどれだけ正義で塗り固めても偽りに過ぎないんだよ!」
必死に、嘲笑うナルト。
もう、無理だ。とサスケは悟った。オレとこいつには既に、越えられない壁がある。今はただ硝子越しに喋っているだけなのだろう。それでは言葉に乗せた魂も跳ね返されるだけ。
なら―。
「オレが壊してやるよ、ウスラトンカチ!お前の骨全部折ってでもな!」
叫び、駆け出して、跳躍する。
ナルトが立つマダラの像に着地すると、サスケは思い切り彼を殴った。
一回バウンドしたもののすぐに体勢を立て直すナルト。
「なあ…みんな、お前の帰りを待ってんだ。心から…どうか、それを」
「分かりたくないね」
サスケの言葉を遮り、ニヤリ、と笑ってナルトは右手にチャクラを集中させた。
(あれは…螺旋丸…)
素早く印を組んで、サスケも左手にチャクラを集中させる。
千鳥だ。
「お前、言ってたよな?オレと戦いたい…って」
「今のお前とじゃあ、なかったんだがな」
通じないもの。
それを通じさせるために、サスケは駆け出した。
とめねばならぬもの。
それを貫き通すために、ナルトは駆け出した。
「〈千鳥〉!」
「〈螺旋丸〉!」
互いの奥義の衝突。
その余波で二人は吹き飛び、一方は滝つぼの中へ。
もう一方は地面に落下した。
「がっ…はあ、はあ…」
チャクラで身を守っていた為に、怪我は防げた。
サスケが落ちた方向を見る。
ボコボコ…と泡が出たかと思うと、ゆっくりとサスケが現れた。
瞳は赤。写輪眼だ。
「…」
立ち上がって、こちらを睨んで来る。涙が出ているかのように思うのは気のせいだろうか。
「ナルト…」
「制止は無駄だぜ、サスケちゃん?忍が涙を流すな…そう言ったのは誰だっけか」
鋭く尖った犬歯を見せ、ニヤリと笑う。
そして、ポケットから額当てを取り出すと、それを自身の額に巻いた。
「ここからはうずまきナルトとうちはサスケじゃない…忍と忍の戦いだ!」
二人が同時に地を蹴る。
ナルトの拳がサスケにはいった。
「ぐふっ!」
苦し気に呻くサスケ。そこにまたナルトの蹴りが顔面に入る。
崖にぶつかり、土煙があがった。
「どうだ?写輪眼で見切れるか?」
「はあ…はあ…」
「ふっ…次で…終わりだ!」
右手には螺旋丸。
タンッ、と水を蹴ってサスケに向かってそれを当てる。
が。
サスケの足がナルトを捉えていた。
「ぐふ!」
水面を流れるように滑って、水しぶきをあげながらもなんとか止まる。そこでサスケの追撃。
「〈火遁。豪火球の術〉!」
巨大な火の球がナルトを襲う。
「っ…〈影分身の術〉!」
印を結んで影分身を置くと、水中へ逃げ込む。
しかし。
「!?」
そこにいたのはサスケ。
「お前を止める!」
その掛け声とともに、拳がナルトの鳩尾へ。
「ぐっ」
さらに顔面、肩、足、わき腹…様々な場所に攻撃が入っていく。
顎を殴られて空気のある場所へ戻った時には、体中がボロボロだった。
「はあっ…はあ」
ペッと血を吐き、フラフラと揺れる足で立ち上がる。
よくよく見てみると、眼が三つ巴になっていた。
なるほど。道理で…。
「見切れるわけだ…オレの攻撃が」
でも、あちらがこちらを連れ戻そうとするのであれば、こちらはあちらを食い止めねばならない。
「しゃーねーな…」
腹を撫でる。
『すまねー、九尾。お前の力を』
『今回だけだ…ワシはあの眼が好かんだけだからな…』
『ああ。恩に着る』
深々と頭を下げ、ナルトは前を見据えた。
「おめーは苦しみを知らねー…そんな甘えん坊にオレはとめられねーってばよ」
ゴウッ、と強大なチャクラが空間を支配した。
水がナルトを避けるかのように弾かれ、強烈な熱風がサスケの肌に焼きつく。
「ッ…!これは…!?」
「さて…行くぜ?」
水面を蹴る。
来るか!と思った瞬間には、後ろ。
背中を蹴られ、吹っ飛ぶ。そして前。
圧倒的実力差で攻撃を加えられていく。
鳩尾。わき腹。
水面にぶつかるように飛ばされるサスケの上空には太陽が見えた。そしてそれを遮るかのようにナルトが現れる。
「お前はオレに勝てねえ。何故なら…」
急いで印を結び、サスケも千鳥を発動する。
体勢を整えて、ナルトが来るであろう方向を予測し、それに従って跳ぶ。
「憎しみが足りねーからだ!!」
ナルトの咆哮。
それと共に螺旋丸と千鳥がぶつかった。
とは言っても。
片や残り少ないチャクラでの千鳥。
片や尾獣最強のチャクラが入った螺旋丸。
もう分かっている。
勝敗は。
「うっ…うおおおおおおおお!」
千鳥が消滅し、サスケの体に直接螺旋丸が刻まれる。
「ぐああああああああ!」
水へ。
深く。
深く。
落ちてゆく。
意識と、共に―。
「はあっ、はあ…」
肩で息をし、尻餅をついた。
何故だろうか。
殺す気でやったのに、サスケを助け出してしまった。
「…」
地面に横たわる、かつてのライバル。
ポツポツ、と体に雨が降りかかった。
「まあ…いいか」
息を吐き、気配がした方向へ顔を向ける。するとそこに、黒い衣を着た男が来た。赤い雲が点々とある模様。
「…ゼツ」
案内人だ。
「終わったみたいだね…」
「ああ。ちょうど…な」
「カカシガコチラヘキテイル。スグニイクゾ」
その言葉にうなずいて、ナルトは闇に向かっていった―。
九尾がナルトに力を貸したのは、サスケが嫌いなだけ。
むちゃくちゃ?知らんがな。