機動戦士ガンダムExtincters 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
(はぁ……)
思わず心の中でため息が漏れてしまう。私——シア——にとって学校というものは少し居心地が悪い場所だ。その中でも特に昼休みの時間というものはそれが顕著だ。周りを見ればジョックやクイーン達がいつもの取り巻きを侍らせてホームルームの多くを占拠している。自分の席を取られている人も多くいるが、誰も逆らうことなんてしない。いや、するわけにはいかない。彼らに逆らったら最後、自分達が今までの生活を送る事ができないことを知っているからだ。そんな私がいるのはホームルームの隅っこの席。モビルスーツを前にすると居ても立っても居られない私だが、普段はここでじっと大人しく本を読んでいる。勿論、読んでいる本はモビルスーツに関係しているものだ。
「——だからさ、昨日コイツが——」
「——ちょっと、よしなさいよ——」
部屋中、どこにいてもあそこの喧騒が聞こえてきて仕方ない。うるさいと思ってもそれを口にする事は決してない。彼らの身内以外にはそんな権利など一切ないのだ。だから、私は気にせずただ本に目を落とすしかやる事が残っていない。どうせもう少しすれば授業が始まる。そうすれば彼らと離れる事が出来て、少しは楽にいられる時間ができる。あとはそのまま過ごしきって学校が終われば、私にとって至福のひとときを迎えられるのだ。それまでの辛抱と考えたら何かと楽なように感じてくる。
「——そういえば、さっきからこの辺、なんだか油臭くない?」
喧騒の中に混じって聞こえてきた声に思わず私は一瞬反応してしまった。あの声の主はクイーンの一人だ。彼女に目をつけられてしまうという事は、つまり彼女らの機嫌を損ねてしまったという事。本来、そんな事はあってはならない事はここにいる誰もが理解している。絶対権力者である彼女に目をつけられたら最後、普通から切り離されてしまう。一体誰が彼女の気に障ったのだろうか……自分かもしれないという恐怖と焦りが全身を駆け巡り、背筋に冷や汗が流れ落ちる感触がより一層不安を煽っていく。
「油臭いって、それお前ん家のあのでかいSUVの排ガスでも染み付いたんじゃねえの?」
「ばーか。私の家の車はそんなに臭うわけないじゃない、もう」
「冗談だって、冗談。で、この辺ってもどの辺りから臭うんだ、この臭い? あの辺? それともあの辺か?」
「そう急かさないの。私の鼻の良さはマイケルが一番よく知っているでしょ。どいつがこれの原因かはっきりさせてくるわ」
彼女が動いた。足音が次第に大きくなり、おそらく此方へ近づいてきている。同時に恐怖が私を襲い、身体を縮めこませる。読んでいた本で顔を隠し、周りの状況が目に入ってこないようにする。これから自分の身に何が起きるのか、想像しただけで震えが止まらない。
足音が止まった。それも私のすぐ側でだ。私は恐る恐る視線を上にあげた。そこには明らかに見下しているような顔をしている。
「え、えっ、と……」
「——アンタね、この異臭騒ぎの原因は」
そう有無を言わせず言い切るクイーン。だが、断じてそれはないと言える。確かに昨日は博物館に行って展示用モビルスーツの点検作業をやっていたけど、あれは殆どがシステム周りに近いところだし、昨日の点検じゃ油を注したりする作業は私の担当じゃなかった。それに、ちゃんとシャワーも浴びているし、服だって昨日着ていたのとは違うものを着ている。だから機械油の匂いはしないはず……そのはずなのだが、彼女は私が原因であるかのように最初から決めつけている。
「あっ……!」
「ふーん……『デヴォニクス戦争〜史上最大のMS戦〜』って、どんな本を読んでいるのよ、アンタ。見かけ以上にとんだオタクじゃない」
読んでいた本を取り上げられ、あまつさえ本のタイトルを皆の前で読み上げられるという公開処刑にも等しい事をさせられる私。しかし、今の私には彼女に抗えるだけの力なんてものはない。ただされるがまま、彼女が飽きてくれることを祈るほかなかった。
「これじゃ、油臭いのも当たり前じゃない。まぁアンタみたいなやつには香水じゃなくて、この汚い機械油がお似合いでしょうけど」
嫌味ったらしい口調で言ってくる彼女。明らかに侮蔑と悪意が混じり合った笑みを浮かべて言ってくるあたり、相当ひねくれていると思ってしまう。だが、彼女の言っている事にも一理ある。そもそも私自身、香水とかは似合わないって思っているし。あれよりはモビルスーツの関節とかそういうところに注す潤滑油の方がまだマシな気がする。
「へぇ……オタクのくせにそんな目をするんだ。いい度胸してるじゃん——ッ!!」
しかし、何が彼女の気に障ったのか私は彼女に肩をがっしりと掴まれて背もたれに強引に押し付けられる。そのまま彼女は私のことを睨んできた。あまりにも唐突すぎる事に私はどうしたらいいのか分からず、小さな声を上げることすらできなかった。そしてそのまま突き飛ばされ、椅子から滑り落ちる私。尻餅をついている私は自然と彼女を見上げ、一方の彼女は私を見下している。
「いい? アンタと私とじゃ住む世界が違うの。その辺わかってる? だからアンタは私に大人しく従ってればいいのよ。ま、私は心が広いから今日のは大目に見てあげるけど。でももうアンタ、次のターゲットだから。その辺覚悟しておきなさいよ」
そう言って彼女は去り際に私にさっき取り上げられた本を投げつけてきた。避けられることなく、顔面に本は当たる。よりによってハードカバーの本だから、当たると本当に痛い。床に落ちた本を拾うよりも先に、本が当たった場所を思わず手で押さえた。鼻先と額に当たったからかなり痛い。突然の事とあまりの痛みに涙が出てくる。幸いにも鼻血とかは出てないようだ。
私一人がこんな事をされても誰も反論する事なんてない。手を出して自分も巻き込まれる事なんて、誰もなりたくないから。それに、さっき彼女が言っていたターゲットという言葉……彼女のストレスや苛立ちの捌け口となる人を指すもの。つまり、それが私に向かって言われたという事は、私の平穏な学校生活がなくなる事を意味していた。そう考えると痛みと同時にある種の恐怖が全身を駆け巡る。逃げる手段なんてものはない。彼女が飽きるまで待つほかない。
「おいおい、あのままでいいのかよ? あのギーク、ちょっと今のうちに懲らしめてやったらいいんじゃねえの?」
「いいのいいの。せっかくちょうどいい遊び道具見つけたんだから、すぐぶっ壊しちゃうのはダメよ。ちゃんと遊んであげなきゃ」
「キャシーがそれでいいんならいいけどよ。あ、それよりもさ、この間の事なんだけどさ——」
「——なに、またエッチな話? もう、いい加減にしておきなさいって——」
だが、あの一触即発のような空気はすぐに消え、先程まであった喧騒へと戻っていた。それにつられ遠巻きに見ていた他の人もさっきのいざこざが無かったかのように、いつも通りの過ごし方へと戻っていく。一人、あのクイーンに何をされるのかわかったものではないが故に恐怖に打ちひしがれている私がどこかずれた存在のように思えてならなかった。その違和感が私に不快感を与え、気分の悪さを助長する。
(はぁ……早く学校終わらないかな……)
一刻も早くこんな監獄にも等しい所から逃げ出したいという衝動に駆られる。ここにいたって私には何の利益も生んだりしない。あるのは只々不利益になることばかりだ。
そんな時、授業開始五分前を告げる予鈴が鳴る。どうせ午後の授業を乗り切ってしまえばこっちの勝ちなんだ——そう自分に言い聞かせ、私は次の授業の準備をし、ホームルームを後にしたのだった。
◇◇◇
カンパニアンとバレミアの境界に位置する森林地帯。普段はそこで生きている生物が発した音で溢れている森だが、今日はそれらがまるで嘘であるかのように静まり返っていた。代わりに聞こえてくるのは機械の駆動音。それも並大抵のものではなく、かなり大型の機械が発しているものだ。それも一つだけでなく複数から聞こえてくる。響き渡る無機質な音の発生源は鋼鉄の巨人——モビルスーツだ。一般的には兵器として使用されるものだが、その汎用性ゆえ作業用の重機としても重宝されている。先程から動いているアルビアン連合軍の現行主力モビルスーツ『ヒュネリア』は大型の特殊工具を持ち、その足元では連合軍兵士達が何やら準備を進めているようだ。その近くでは大型の航空艦——カロビアス同盟軍所属のグリフェイド級航空重巡洋艦が停泊し、周囲には同盟軍の主力モビルスーツである『ハウィア』が連合のヒュネリアと同じように大型の特殊工具を持って待機している。現代において互いを仮想敵国として認識している両国が一部隊であるとはいえ集結している様は、見るものによっては異常な事態であると思わざるを得ない。
そのような緊張が走っている場所で、二人の男達が顔合わせを行なっていた。
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます。自分は連合軍強襲揚陸艦ラティメリア副長のラグナル・セレノ大尉であります」
「カロビアス同盟軍第八巡航艦隊第二分遣隊アンドレア・レメイエフ少佐だ。よろしく頼むぞ、大尉」
「こちらこそ。よろしくお願いします、レメイエフ少佐」
ここに派遣されたラティメリア副長のラグナル、そしてカロビアス同盟軍の指揮官であるアンドレア・レメイエフ少佐である。髭を剃り、清潔感溢れるその姿は、黒を基調としたカロビアスの軍服も相まってかかなりのインテリであるように見える。一方のラグナルは無精髭にボサボサの癖毛であり、自分とは対照的な存在だと思った。簡単に挨拶を済ませた二人はある方向を向く。視線の先には黄色いテープで封鎖線が張られ、両軍の兵士やモビルスーツが周囲を取り囲んでいる。
「それにしてもよくこんなシロモノが今になって出てきたものだな……」
レメイエフはその中心にあったものを見て思わず驚きと呆れが入り混じったような声を漏らした。側にいるハウィアを超える体躯を持ち、四本の太い脚部、突き出た二本の巨大なクローアーム、背中と思われる部分には重砲を備えた、見る者を畏怖させる存在。まるでカニのような姿をしたそれこそが、禁忌のモビルドールともされる機体、アクティラムだ。長い間地面にでも埋まっていたのか、装甲の表面は土汚れが目立つ。それでいて装甲自体に目立つような損傷は見受けられない。やはり、最悪であり最強ともされるモビルドールと言うだけの事はあるか、その様子を見たラグナルは心の中で呟いた。
「ええ……私もその報せを聞いた時は自分の耳を疑いましたよ。こんなどデカイもの、どうやったら発見が遅れるんですかね……」
これだけ大きければ見つけられない方が難しいだろう、と付け加えるラグナル。そこには自軍の調査不足に対する皮肉が込められているかのように思える。むしろそうしてなければ、モビルドールとカロビアスが揃っているという、文字だけを見れば極めてよろしくない状況に立ち会っている自分の精神がすり減らされてしまう可能性も否定できない。多少の皮肉屋であった事を彼は、この時ばかりは少し感謝していた。
一方のレメイエフはラグナルとは違い、いたって普通にこの状況を受け入れており、元が生真面目な性格なのかラグナルの皮肉染みた言葉を受け止め、言葉を紡いだ。
「確かにな。だが、決してそちらの不手際ではないだろう。我が国でも似たような事例はある。このアクティラム程の大きさではないが、一回り小さいサイズのガラクネというモビルドールは時折出てくるそうだ。我々の隊も始末には参加している」
「カロビアスでも似たような事例があるんですね……こう言ってはなんですが、通りであまり緊張していないはずです」
思ってもいなかったレメイエフからの返答に思わず感嘆の声を出すラグナル。昨今の世の中、レメイエフの様な若者がここまでの階級や役職に当たる事は然程珍しい事ではない。特に自分のいる艦であるラティメリアのクルーを思い浮かべれば納得もする。しかし、少なくとも自分より年下であるにもかかわらずこの落ち着き様、一体どれほどの戦闘を経験してきたのだろうか。彼の言葉を素直に受け止めるのであれば、少なくとも自分たちよりもモビルドールとの交戦経験は多いはずだ。仮想敵国に指定されているとはいえ、今は共同作業中。その胆力にラグナルは感服していた。
「ハハハ、褒め言葉として受け取らせてもらおう、大尉。とはいえ、我々も緊張していないわけではない。別の問題があるものでな……そちらにも警戒せねばならんのだ」
ラグナルへの返事にもどことなく余裕があるようなレメイエフだが、彼とて緊張をしていないわけではない。モビルドールの処理もそうであるが、それ以上に彼らにはある懸念があった。彼の深刻そうな表情を見たラグナルはその懸念材料たるものが何なのか予想がついていた。
「……例の『テチス』という武装組織ですか?」
「左様。奴らは小規模の拠点を世界中に抱えている。北米、南米、ユーラシア、アフリカ、オセアニア……どこに潜んでいるかわからない、こちらの神経を逆なでするような連中だ。今回のアクティラムを狙って奴らが来るやもしれん。もしこれを奪われでもしたら……あまり考えたくはないな」
武装組織『テチス』。近年になってその活動と存在が認められている国際テロ組織である。主に旧大戦中に用いられていたモビルスーツやモビルドール、または払い下げられているモビルスーツ等を用いて中小国の主要都市を攻撃するといってことが挙げられる。しかし、その活動には一貫性があるわけではないようで、街を焼くこともあれば支配する事もある。加えてテチスは尻尾という尻尾を見せない。故に神出鬼没の存在としてアルビアン連合及びカロビアス同盟の両国から危険視されている。何よりユーラメリカ条約によって戦闘行為を含む軍事運用を禁止されているモビルドールを用いているのだ。
そんな無法者にこの忌まわしきマシンを奪われるような事があれば、それこそ一大事である——最悪の事態を想定したレメイエフは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「奴らの狙いとは一体なんなんですかね……犯行声明は出すものの、そこに主義主張は含まれていないようですし」
「ああ。だが連中がモビルスーツやモビルドールを用いているテロ集団である事に変わりはない。奴らは民間人すら平気で手をかける、人間の風上にも置けん存在だ」
「私としても連中の事は気に入りませんからね。今後、例の会談で決定された共同戦線とかでまた協働することもあるでしょうし、その時はまた頼みます」
「そうだったな……よもやアルビアンと手を組むことになるとは。これを先祖が聞いたらどんな顔をするのだろうな?」
「まぁ、少なくとも目玉をひん剥くくらいはあるでしょうね」
「違いない」
緊張を程よくほぐし、少し楽にした指揮官二人。そこにはかつて戦争で互いに滅ぼす勢いで戦闘を繰り広げ、今でもなお仮想敵国という事になっている者同士が、共に平和へと歩もうとする理想的な存在があった。
そんな時、ラグナルの無線に呼び出しが入る。
「こちらセレノ、どうした?」
『こちらマレット中尉。大尉、第一小隊及び陸戦隊各員、配置につきました。いつでも作業開始可能です』
通信先にいるのは作業にあたるラティメリア配属のモビルスーツ小隊であり、今回の任務にあたっている第一MS小隊、その隊長であるランディ・マレット中尉からの通信であった。彼の言葉通りならば全ての人員とモビルスーツの展開が完了し、後はラグナルからの指示を受けるだけという状態にあるとのことだ。
「了解した。後ほど指示を出す。それまでは待機だ。——少佐、そちらの用意はどうですかな?」
一度マレット中尉に待機命令を出したラグナルは確認のためレメイエフへと声をかける。
「こちらも準備は整っている。そろそろ予定時刻だ。我々も各々の持ち場に行くとしよう。指示は追ってこちらから出す」
「ええ。では、先のブリーフィングのように」
こうして二人はそれぞれの持ち場へと戻る。これからなすべき事に対する重責が二人にのしかかるが、今更その程度のことで立ち止まる事は出来ない。軍人として為すべきことを為すだけだ。それが平和の実現のためであると信じて。
◇◇◇
艦に戻ったレメイエフはブリッジに上がり、部隊を動かす準備に入ろうとしていた。ブリッジのクルーは既に作業準備を終えており、後はレメイエフからの指示を待つだけという状態である。その最重要な指示を出す彼のそばには一人の男性が並び立つ。細身の体躯に縁なしの眼鏡をかけ、まるで絵に描いたような高学歴のエリートを連想させるその男の名はウェザリル。レメイエフが指揮する艦の副長を務めている。現場寄りの意見の多いレメイエフと上層部寄りの意見の多いウェザリルでは時にぶつかり合う事もあったが、それでもレメイエフにとっては自身の右腕として重要な存在だ。それこそかなりの信頼を寄せている。
「——これより任務を開始する。ウェザリル副長、部隊を動かしてくれ。私はアルビアンの部隊と連絡を取る」
故に、彼に作戦を進めさせる事もしばしばある。今回も例に漏れず、自軍の部隊を動かす事になったようだ。その間にレメイエフはアルビアン連合のラグナルに通信を繋ごうとし、通話用のモニターを操作しようとしていた。
「——司令、了解致しました」
その瞬間、ウェザリルの返答と共に乾いた音がブリッジに響く。それから数瞬遅れてレメイエフは胸の痛みを感じ、椅子から崩れ落ちてしまった。生温かい液体が痛む場所を押さえている手を濡らし、不快感を高める。止めどなく流れ落ちる赤い液体の池をより大きなものへとしていく。苦悶の表情に顔を歪めながらウェザリルの方を向くレメイエフ。そこには自らに硝煙の立ち上る銃口を向けた彼の姿があった。
「ぐっ……貴様、一体どういうつもりだ……!」
「どういうつもり、と言われましても。貴方の存在が邪魔だった、それだけですよ」
「なんだと……!?」
さも当然のことであるかのように答えたウェザリルに、レメイエフは驚きを隠せずにいた。理詰めで動いていた彼がこのような直情的なものに身を任せて行動するという事は、今までのことを省みてあり得ない事なのだ。何より、自分がこのような事態になっているにもかかわらず、ブリッジのクルーは依然として変わらぬ態度を貫いている。これらの事に驚愕と困惑が入り混じったレメイエフは戸惑いを隠せずにいた。
「我々はカロビアス、アルビアンと手を結ぶなど言語道断。長い間待たされましたが、この機に我々の部隊は本業に戻ります」
ウェザリルは地に伏せたレメイエフを嘲るかのように歪な笑みを浮かべる。
「……貴様、一体何者だ……!! 一体何を考えている……!? 」
痛みに苦しみながらも、目の前の外道に対して睨みつけ、敵意を剥き出しにする。しかし、それすらも意に介さないのか、ウェザリルは開いた左手で眼鏡の位置を直し、相手を見下すような笑みを見せた。
「いいでしょう、教えて差し上げます。我々はテチス、真のカロビアスを取り戻す者ですよ」
彼の言葉に一瞬呆気に取られたレメイエフだが、次第にその言葉の意味を理解していった。それと同時に怒りが膨れ上がっていく。無理もない。目の前に忌むべき存在であるテロ組織の一員がいるのだ。もし彼が万全の状態なら問答無用で叩きのめしていた事だろう。しかし、血を流しすぎた彼は最早立つことすら怪しい。この場において彼は無力な存在だった。
「ふざけた事を……貴様がテチスの端くれだったとは……このような事をして、ただで済むと思うなよ……!!」
「はて? そのような事を言えるのは貴方と私、どちらでしょうか。周りを見てください」
「何っ……!?」
続々とブリッジに流れ込んでくる兵士達。指揮官である自分が副官に撃たれたという緊急事態にも関わらず、周囲にはウェザリルではなく被害者である自分に銃口を向ける兵士達の姿がある。レメイエフは当初戸惑ったが、すぐにそれは霧散し、最悪の事態である事を確信した。——この場にいるのは全てテチスの構成員である、それも身内にこれだけもの膿を抱えているという事に。
「どうやら貴方が思っている以上に身近にいたようですね、テチスというのは」
再度向けられる無機質な殺意。レメイエフの眼前に突きつけられたそれは未だに仄かな熱を帯びている。怒りを剥き出しにし、ウェザリルを怨敵のように睨みつけるレメイエフ。それが今の彼にできる最大限の抵抗だった。
「これが貴方の辿る末路ですよ、元司令。かつての意志を忘れ、腑抜けてしまったカロビアスと同じ末路を、ね」
——二度、景気の良い乾いた音がブリッジに木霊した。