足音の響く先には   作:小鴉丸

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2話 事務所

 それからアイドルの事を詳しく聞くために事務所へ移動する事になったわたし達、しかし。

 

「あ」

 

「? どうしたんすか、プロデューサーさん」

 

 さっき会った優しそうなお兄さんことプロデューサーさんは突然足を止めこんな事を聞いてきた。

 

「いや、事務所に連れていくって言ったが……よくよく考えれば保護者に連絡してないな、って」

 

「なんだそんなことっすか」

 

「そんなことって……大事なことだと思うが……」

 

「ちょっと待っててくださいっす」

 

 動揺するプロデューサーさんを落ち着かせるためにわたしは携帯を取り出しお母さんに電話をかけた。

 

「あ、お母さん? うん、うん……あぁ、本題だけどわたしアイドルすることになったから。え? ……分かってる分かってる。今からそれを聞きに行くからさ。うん……分かったー。──はい、オッケーっす!」

 

 グッと親指を立てプロデューサーさんにオッケーが出たのを伝える。

 

「そ、そんなあっさりと了解を得たのか?」

 

 動揺の次は困惑。表情の変化が忙しい人だと思う。

 しかし、それもそうか、本来は自分がしなければならないのを目の前の少女が全て済ませてしまったのだ。

 

「んー、とりあえず事務所まで案内を続けてくださいっす。その間にそのことについて教えるっすから」

 

「お、おう」

 

 腑に落ちない様子で足を動かし始める。そんなプロデューサーさんと並ぶようにしてわたしも歩き始めた。

 

「えっとっすねー、わたしの性格上からかうちの親って割と何でもオッケー出すことが多いんっすよね」

 

「芹沢さんの性格……楽しいのが好き、とか?」

 

「あははっ! あさひ、でいいっすよ。で、そうっすね。わたしの性格は楽しければ何でもしてみたい、って感じっす」

 

 気付けばこんな性格だった。

 いつからだろう、なんてそんな事は考えた事もない。少なくとも小学校高学年の時はそんな感じだったと思う。男子に混じって外で遊んだり、理科の実験で色々したり……。

 当時は“女の子”という枠に入ってないような事をしていたと思う。

 

「そんな性格もあってか昔言われたのが……『あなたが興味を持つものは全部やらせてあげる。でもいつかはひとつに絞りなさい』って。で、この言葉通り塾に行きたいと言えば連れて行ってくれたし、習い事をしてみたいと言えばさせてくれた。だからっすかね〜」

 

「今回も了解を得た、って訳か」

 

「そうっす!」

 

 プロデューサーさんはそういう家庭もある、といったふうに納得をしてくれた。

 

「それでも挨拶に行かないとな。時間がある日とかあったら教えてくれるか?」

 

「真面目っすねぇ、分かったっすけど。……ところでまだ着かないんすか?」

 

 プロデューサーさんと出会った場所から結構歩いたがまだ事務所とやらには着きそうにない。プロデューサーさんはあまり離れてないって言ってたが……本当のところはどうなんだろうか。

 

 そんなわたしに苦笑いをするプロデューサーさん。すると、まるで答えをあげるかのように前にある建物を指さす。

 

「あさひは気が早いな。ほら前に283の数字が貼ってある窓ガラスがあるだろ、あの建物が──」

 

「なるほど! あれが事務所っすね!」

 

 楽しみが頂点に達したわたしは話を最後まで聞かずに走り出した。幸い手前にある信号も青だったので全力疾走。

 

「えっ、あさひ──!」

 

 プロデューサーさんを後ろに置き去りにして目の前の人混みを危なげなく走り抜ける。

 

 その事務所に近付く度に胸の鼓動が早くなる。今まで、触れたことのない世界が、目の前に。

 

 興奮を振り払うように端にある狭い階段を駆け登り──。

 

「あ、プロデューサ──」

 

「芹沢あさひ! 今日からよろしくっす!」

 

 思いっきり扉を開けた。

 

「「…………へ?」」

 

 その先に待っていたのは1人の女性、そしてわたしとその人の間の抜けた声。

 

「えーっとぉ……こちらにご用の方、ですか?」

 

「え、あれ?」

 

 女性は少し戸惑った仕草を見せた後、手に持っていた書類らしきものを机に置いてわたしに声を掛けてきた。

 反対に私ときたら何が何だかという状態だ。

 

 そこに置き去りにしてたプロデューサーさんが息を切らしながら走ってきた。

 

「っ……はぁ、はぁ──っ! あ、あさひ! 待てって!」

 

「プロデューサーさんの知り合いですか?」

 

 プロデューサーさんの状態を見るや女性はタオルを差し出す。それをプロデューサーさんは受け取り汗を拭いた。

 

「あぁはい、今日スカウトした……アイドルです」

 

「! そうだったんですか。それなら連絡のひとつくらい入れてもらえればよかったのに」

 

「すいませんはづきさん、少し、色々とあったもので……ふぅ。とりあえず、立ち話もあれだ、中に入ろうか」

 

 呼吸を整えたプロデューサーさんはこちらを見て中へ入るように促してきた。

 

 ……ところで、あの女性は誰なんだろう。

 

 

 

 

 

「なるほど〜」

 

 事務所の中に入ったわたし……達はお茶をしつつここに来るまでの経緯を話した。

 わたしがプロデューサーさんと出会った理由、今回ここに来る事になった理由、そして……。

 

「あれ、そんなこと言ってたっすか?」

 

「言おうとしたらあさひが走ったんだよ……」

 

 事務所に今から向かうという連絡が行き届いていなかったために起きた出来事。

 

「ふふっ、出会ったばかりとは思えないほど仲良しですね〜」

 

「? そうっすかね?」

 

「さぁ? ……ともかく色々と説明していくからな。とりあえずこの資料を──」

 

 そう言いプロデューサーさんから手渡される資料。当然だが今まで見たことのないものだった。

 

 目を軽く通すだけでも楽しい。全てが真新しい世界。

 その日は外が暗くなるまで、その新しい世界の説明を受けていた。




はづきさんの紹介は次に回してます。
それと次回からちまちまキャラが登場していく予定です。
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