ジョニィの口調があまり特徴掴めなくて、苦労した思い出。
ここは…どこだ。何が起こった…。
そうだ、大統領を撃ったんだ。このボクが、ボクの爪弾で。
そしてウェカピポが死んだ。大統領の能力によって。Dioに利用されて。
そうだ、それを見てすぐにジャイロに伝えようとマンホールに入って、地下を伝ってジャイロを探しに行って…。
その後、ボクはどうしたんだ?確か…ボクは…。
そうだ、奴だッ!奴にやられたんだッ!
ジャイロに伝えようとした時、奴を見つけたんだッ!
ボクが撃ち抜いたはずなのに、無傷で独立宣言庁舎に向かうのをッ!
そう、アメリカ合衆国大統領の『ファニー・ヴァレンタイン』は生きているッ!
そして、またボクは焦りすぎた。突っ走りすぎた。
マンホールを伝い、ふと地上に出た時。
大統領を見つけ、隙を見せていた彼に…。つい爪弾を撃ちこんでしまったんだ。
遺体の左眼球を取り返そうと。つい必死になってしまった。
あの時はジャイロに大統領の能力を伝えるのが先決だったッ。
大統領の能力を。挟まる事で別世界を行き来し、何人もの自分を利用できるあの能力をッ!
大統領の能力により、同時に同じ物が存在した時消滅するあの現象をッ!それによりウェカピポが死んだ事をッ!
しかしそんなことも考えられず、ボクは一人で大統領という脅威に挑んでしまった。
傷だらけだってのに、体力も尽きているってのに。
そんなボクに勝ち目があるはずがなかった。
攻撃を仕掛けられた大統領は咄嗟に爪弾を躱し、スタンドでボクを攻撃してきたんだ。
そしてどうなったんだ…?たしか…
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「ジョニィ・ジョースター…あまり賢い戦法とは思えないな」
「遺体の左目を、渡してもらおうかッ!」
息も切れ、意識も朦朧とする中。ボクは大統領と向き合った。
奴から遺体の左目を奪い取る為に。
暫く無言で睨み合い、お互いがお互いの様子を探る。
その間聞こえてくる風の音が、更に緊張を煽る。
そして満を持して動き出したのは、ボクの方だった。
「
ボクが叫ぶと同時に、構えていた人差し指から回転した爪弾が飛ばされる。
空気を切り裂きながら爪弾は一直線に進んでいく。そしてそれはしっかりと大統領を捉えていた。
このまま大統領に直撃してくれればありがたいんだがな…。どうもそうはいかないらしい。
「ふッ…!」
大統領は静かにボクの爪弾を躱す。
流石に不意打ちともいかないと、あんな真っ向勝負の球、当たるわけがないよな。
ただ貴重な爪弾をこんな事で無駄にするほどボクはバカじゃあない。
その爪は大統領に躱され、後ろの民家の壁に突き刺さる。
しかし爪の回転は、穴になっても止まらない。まだ回転は続いているのだッ!
そして既にッ!その回転にはボクの左腕が巻き込んであるッ!
つまりそれは、ボクの腕は大統領の死角に存在するという事。
爪弾での不意打ちもいいが、きっと大統領は警戒しているに違いない…ならばッ!
「なにッ!?D4C──ッ!」
大統領が焦った様に自分のスタンドに指示を出す。
そう、その原因は電線だ。ボクの腕は電柱を移動して、その爪弾で電線を切断したッ。
切断された電線は、真下にいる大統領の元へ落下していく。
電線にどれほどの電気が流れているかは知らないが、喰らってタダで済まないのは確かだ。
そして今ッ、隙が出来たのも確かな事実だッ!
「くらわせろ──ッ!」
電柱の上にある左腕と、ボクの元にある右腕からすかさず爪弾を発射させる。
このまま貫いてやるッ!ボクは確実に遺体を手に入れるッ。
そうしてようやくスタートに立てるんだッ!
「がァッ…!」
よし、命中だッ!このまま叩き込むぞッ!
「グッ…ガッ…!」
2発、3発とボクの爪弾が大統領に叩き込まれる。
そして電線も大統領に向かって、一直線に落下してくる。
よしッ!完全にボクの勝ちだッ!
これで遺体の一部を…いや、大統領の所有する他の遺体も手に入るッ!
「ガァァァァッ!」
電線に触れ、大統領は感電し、苦痛に満ちた雄叫びを叫ぶ。
しかし疑問が一つある。奴は自身のスタンドの名を叫んだものの、結局最後まで出さなかった。
何故…果たして…なぜ。スタンドを出す余裕すらなかったのか?
いや、どこかしっくりこない。それじゃあ、一体…。
そういえば大統領はこんな事を言っていた。
『同じ物が同じ世界に存在することは許されないッ!………もし存在した場合、それはスポンジとスポンジが重なり合う様に消滅するッ!………そしてそれが許されるのは…………
私の能力だけだッ!」
「なんだとッ!?ぐぁッ!?」
痛い…腹を撃たれたんだ…。大統領に、撃たれたんだッ…!
そう…だ。奴は、奴だけは同じ世界に存在することが許される。
つまりッ、さっきボクが戦っていた大統領はスタンドを出さなかったのではないッ!
“スタンドを持っていなかった”からなのかッ!
そう、既に別の世界の大統領がこの基本世界に存在していて、今感電した大統領は既に別の大統領にスタンドを託した後だったのだッ!
「勘のいいやつだなジョニィ・ジョースター。咄嗟に急所を躱すとは…」
そしてスタンドを持った大統領が今、目の前に銃を構えて無傷で立っている。
クソッ!最初から罠だったわけだ。いや、罠というより、警戒を怠らなかった大統領と、警戒せずに突っ込んだボクの当然の結果なのかもしれない。
「次は、当てるぞ」
冷静に、無表情に大統領が銃口を向ける。
どうする…この状況、ボクはどうやって打開する…。
ボクはこんな所で死んでられない。遺体を集め、またこの大地を踏みしめたい。
そうしてようやくボクはゼロになれるんだッ!
ボクは足を…足…。そうだ、足だッ。足だッ!
「
僅かに動く足に目一杯力を入れながら、手を重心にして片足を鞭の様に大統領に向かって叩き付ける。
不意打ちの足からの攻撃。大統領は冷静に対処が出来るか?
いや、しかしそれだけが目的じゃあない。あくまで足の回転する爪弾が目的だッ!
さぁッ!どう対処するッ、ヴァレンタイン大統領ッ!
「D4Cッ!ぐッ、こいつ脚が…!しかしッ、、以前問題はないッ!」
大統領はいきなりの足の攻撃に戸惑った様子を見せつつも、D4Cの腕でガードする。
ただ問題がないのは僕の方もだ。言っただろ?ボクの目的はあくまで爪弾だって。
ボクは決して爪弾を飛ばしたりなんかしなかったんだぜ。
つまり、爪弾はまだ足の指先で回転し続けている。それを直接D4Cの腕で防いだらどうなる?
そう、切り裂かれるのも無理はないだろ?
「ぐぁッ…!?」
足をD4Cの腕で直接防いだ大統領は、例のごとく腕が切り裂かれる。
そして今ッ!バランスを崩して隙だらけだッ!今だッ、喰らえッ!ボクの爪弾をッ!
「ジョニィ…ジョースターッ!覚えていろッ…!今にでも…」
ッ〜!まずいッ!星条旗と地面の隙間に挟まって、並行世界に逃げられるッ!
「いいや、違う。並行世界に行くのはお前だ、ジョニィジョースター」
「な、なにぃ…!?」
こッ、これはッ!星条旗がボクに覆い被さってッ…!
まさかボクが並行世界に送られるのか…?
くッ、すぐに元の世界に帰る事は出来る。しかしその間に大統領には逃げられてしまうッ!
いやそれ以上に、もう一人の自分と出会って消滅してしまう可能性もあるッ!
「く、クソッ!逃げられないッ、挟まってしまうッ!スローダンサーッ!」
やはり脚が動かないのが恨めしい!
少し離れた所からボクの馬であるスローダンサーが走ってくるのが見える。
しかし呼ぶのが遅すぎた。もうすでに手遅れの領域まで来ている。
こんなゆっくりな星条旗の動きからも逃げられないなんて…!
「ゆっくりと味わってくれ…。私の能力、Dirty deeds done dirt cheap“いともたやすく行われるえげつない行為“を…」
ヴァレンタイン大統領…!ボクはすぐに戻って見せ…る……ぞ……。
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そうだ…。大統領の能力によって並行世界に飛ばされたんだ。
しかし今こうして意識があるとしたら、きっと消滅はしていないという事だ。
それならすぐに元の世界に戻らなくてはッ!確か物と物の間に挟まれば、元の世界に戻れたはずだ。いや、それ以前になんでこんなにも視界が暗いんだ?
何かが体に覆い被さっている…?これは…………毛布か。
「ここは一体…」
覆い被さっていた毛布を剥ぎ取ると、周りは普通の部屋だった。
大きなテーブルが真ん中に一つ。そこには四つの椅子がある。
キッチンなども確認できる事から、ダイニングキッチンって奴らしい。
そしてどうやらボクはソファの上で寝ていたらしい。
「あら、起きました?」
するとどこからか声が聞こえる。
知らない場所に、知らない声といい…
「一体ここはどこなんだ?」
「ここ?ここはロマーニ牧場です」
独り言を呟いたつもりが、どうやら質問と受け取ってしまったらしい。
それにしても厄介な事になったものだ。見れば見るほど見覚えがない場所だ。聞いたことのない場所でもあったし。
もしかしたらボクが倒れているのを拾ってくれて、部屋まで運んできてくれたのかもしれない。
とは考えられるが、ボクが元いた世界。つまり大統領と闘った周辺に牧場なんてあったのか…?
「あぁー…すまない。ここはフィラデルフィアで合ってる?」
確認のため、ボクに話しかけてきた女の子に尋ねる。
女の子の見た目は、あまり見ない様な服装をしている。
そして何よりその耳だ。なんであんなに尖っているんだ?
まるで神話とかに出てくるエルフの様じゃあないか。
「フィラ…デルフィ…なんですか?」
そして肝心の彼女はボクが元いた場所、フィラデルフィアを知らないらしい。
オイオイオイオイ、ボクは一体どこまで遠くに連れてかれたんだ?
「…ム。んじゃあ、ペンシルベニア州だよな?」
流石にペンシルベニア州より外には出てないと思うんだが…。
「えっと…すみません。ここは『タルミナ』という場所ですけど」
「タルミナァ〜?聞いたことないぞ、どこだそれ。因みに念の為聞くが、アメリカ合衆国で合ってるよな?」
オイオイ、ペンシルベニア州より外に出てるじゃあないか。
それにタルミナなんて聞いたことのない街まで出てきてしまった。
もしかしたら田舎過ぎて知名度がないだけか?
だとしたらこの女性がペンシルベニア州を知らない説明がつかない。
もしかしたらこの女の子…ボクをからかっているんじゃあないのか?
「アメリカ…?どこですかそれ?」
「お、おい女。寝ぼけてんじゃあないぞッ!いくら別の国の人間でも、このご時世アメリカを知らないってのは悪い冗談だろッ」
やっぱりからかっているのか。
全く、こんな所で時間を使うだけ損だ。
さっさと元の世界に戻らなくては…。
「女じゃありません。私にはクリミアって名前があります!」
「「………」」
「あー…悪かった。それに関しては君の言う通りだ。クリミア」
おっと、つい感情的になってしまった。
先決はあくまで元の世界に戻り、ジャイロと合流する事だ。
場所がどこかだなんて、重要なことじゃあない。
ここに長くいればこっちの世界のボクに出会ってしまう可能性もある。
よし、決まった。目下やるべき事は戻る事だ。
「あ、あの。因みにさっきから何を…?」
と思ったが…。
さっきからソファと毛布に挟まれたり、毛布と地面に挟まれたりしているのに、全く戻る気配がない。
どういう事だ…?ボクの大統領の能力の認識が間違っていたのか…!?
いや、しかしDioが大統領の能力にを喰らった時、たしかにそう見えた。
それなら考えられる理由は、ここは既に基本世界なのか…?
しかし、ボクは確実に大統領の能力を喰らった。これは一体…。
「あの…」
顔を上げると、ボクの事を怪訝に見つめているクリミアが映る。
目下やるべき事が変わった。まずはこの女の子、クリミアの誤解を解く事だ。
続くか分からない。