一話完結のネタです。
ノリと勢いで作った話だという事はご了承ください。
カッツェ平野に展開された王国軍と帝国軍。
王国軍二十四万に対して、帝国側はたったの六万。そこには四倍差という圧倒的な人数差があった。
膠着状態を先に破ったのは帝国側――その砦から現れたのは五百体のアンデッド。
そして、それを率いるのは仮面を着けた
そのお供には二人の子供の姿があった。
一人は
「さぁ、勇者ネムよ。アインズ・ウール・ゴウンの力を授かりし者よ。王国の者達に我が与えたその力を示すが良い」
「はい、ゴウン様。頑張ります!!」
――メイド服を着用し、一振りの剣を背負った子供。
カルネ村に住んでいる戦士でも魔法使いでもない普通の少女――ネム・エモットである。
彼女はアインズの激励に元気よく返事を返し、やる気に満ちた表情で立っている。
(何でこうなっちゃったのかなぁ。デミウルゴスは相変わらず深読みするし…… いや、ちゃんと聞けない俺が悪いのは分かってる。うん、分かってるんだけどなぁ)
アインズは今の状況に至るまでの事を思い返す。
しかし、いくら自問自答を繰り返しても答えは出ない。
事の発端は数ヶ月前まで遡る――
◆
この日、ナザリックには三人の人間――ンフィーレア、エンリ、ネム――が招待されていた。
ンフィーレアが紫色のポーション作成に成功したため、それをアインズが直々に労ってやろうとしての事である。
三人は玉座の間に通され、そこで事件は起きる。
「凄い、凄いっ!! 凄ーい!! 凄いっ!!」
シャンデリアや壁の装飾など、この空間にある物はその全てが一級品である。
それを目にした一番幼い少女――ネムは感動のあまりアインズが座っている玉座まで、「凄い」を連発しながら駆け寄って来た。
「凄いっ!! こんなの凄すぎるよ!!」
「そんなに凄いか? いや、そうだな――」
仲間達と共に作った物を褒められ、アインズは非常に上機嫌だった。
保護対象に追加決定だな。
そんな事を思いながら、自分の元にやって来たネムを撫でようと、手を伸ばし――
――ピンポンパンポーン。
突如、お知らせ音がナザリック全域に流れ出した。
「え?」
「ほぇ?」
『玉座の間で特定の条件が達成されたため、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーよりプレゼントが贈呈されます――』
(えぇぇぇぇ!? 何それ知らないんだけど!? もしかして、るし☆ふぁーか!? あの野郎、一体何仕込んでたんだ!?)
アインズは叫び出すのを必死に抑えた。
あまりの驚きにアンデッドの種族特性が発動し、精神の沈静化が無理やり繰り返された。幸い、最初の一言以外は声に出さずに済み、動揺が気づかれることはなかった。
『――初めて玉座まで到達した人間。身長145センチ以下。ギルドマスターの好感度が一定以上――』
(この条件、絶対ペロロンチーノも一枚噛んでるだろ!! というかこのアナウンスの声、ぶくぶく茶釜さんじゃないか…… 姉弟揃って何してるんですか……)
特定条件が次々と発表されていくので、少しでも状況を理解しようと耳を傾けた。
しかし、これを聞く限り、この仕掛けに関わった人数はどう考えても一人や二人では無いらしい。
プログラムされていた事も含めると、自分以外のギルドメンバーの殆どが知ってたんじゃ無いかとすら思えてくる。
『――それではモモンガさん。勇者に剣を渡してください』
モモンガって呼ばれるのも懐かしいなぁ――そんな懐かしさに浸って現実逃避をする間も無く、自分の手元に一振りの剣が現れた。
(くっ、どうする!? この放送は守護者達全員、いや今ナザリックにいる全ての者に聞こえている。ギルメンが認めているのに、俺だけが認めないという訳には……)
この場に守護者はいないが、周りに待機している一般メイド達はこれを見てヒソヒソと話している。
後に引けなくなったモモンガはこの場を収めるべく、さも分かっていましたよという態度で魔王ロールを開始した。
「――ふむ、私の予想していた通り、ネムには勇者としての資格があったようだ」
「勇者、ですか?」
「ああ、そうだ。ネムよ、お前は我がナザリックを救う勇者に選ばれたのだ。私はお前に力を授けよう。その代わり、その力を私に貸してくれないか?」
「はいっ!! 私に出来る事なら何でも手伝います!!」
「良い返事だ。ならば受け取るが良い、アインズ・ウール・ゴウンが認めし人間よ」
(テキトーな事言ってごめんね!! 俺も何言ってるのかよく分からん!!)
正直なところネムも状況を理解していない。
ただ自分がアインズの力になれる――恩返しが出来ると思って返事をしただけだ。
こうしてネムはこの茶番を達成した者だけが装備できる剣――ネムだけの特別な専用装備『AOGカリバー・オブ・ネム』を手に入れた。
◆
その後は色々あった。主にアインズが置いてけぼりになる形で。
しかし、事ある毎に――
「――なるほど、そういう事ですか」
「ほう、気付いたか」
「ここまで先を読まれていたとは、流石ですアインズ様。アレを行うのですね?」
「ああ、その通りだ。では皆に分かるよう、説明してあげなさい」
――なんて事を繰り返していたら、いつの間にかこうなった。
(最初は俺が超位魔法を撃つ予定だったのに、どうやったらネムが代わりに一撃を放つ話になるんだ? 頭の良い奴の考える事は分からん……)
未だにこの作戦がどうなるのか、アインズは全く理解していない。
しかし、ここまで来てしまった以上後戻りは出来ない。
ギルドメンバーが遺した剣がどんな力を発揮してくれるのか、やや現実逃避気味に見守るしかなかった。
(あの場はノリで渡しちゃったからなぁ。せめてもう少し詳しく調べておけば良かったかなぁ)
アインズが知っているのは、実用性皆無な程装備条件が厳しい事。
ギルメンの悪ノリにより、相当な浪漫武器となっている事くらいだ。
戦争開幕の時間となり、ネムがアインズの数歩先に立つ。
その手に持った剣を掲げると、黄金の輝きが剣から発せられ、天に向かって伸びた。
その派手すぎるエフェクトは、超位魔法の立体魔法陣よりも遥かに目立つ。
もし王国側にプレイヤーがいたら、確実に的にされてしまう勢いだろう。
「ゴウン様、見ていて下さい!!
『是は、正義の為の戦いである』――承認、たっち・みー。
『是は、理不尽に挑む戦いである』――承認、ウルベルト・アレイン・オードル。
『是は、幼き者に振るってはならない』――承認、ペロロンチーノ。
『弟は、姉に逆らってはならない』――承認、ぶくぶく茶釜。
『この戦いが自然を傷付けない戦いである事』――承認、ブルー・プラネット。
『己がメイド服を着用する事』――承認、ホワイトブリム。
『この戦いが終わったら休む事』――承認、ヘロヘロ。
『相手を驚かせる事』――承認、るし☆ふぁー。
ご丁寧に仲間達のボイスが次々と再生され、その声を聴きながら思い出に浸るアインズ。
やっぱりウチのメンバーがやる事は、作り込みが半端ない。
そう感じながら冷静な部分では、この武器は単体では使えないと判断していた。
(判定ガバガバだなぁ。多分ただの演出なんだろうけど。それにしてもチャージ時間長すぎだろ…… 四十一人分やってたら、流石に普段は使い物にならん)
ユグドラシルで使う事は仕様上ほぼ不可能だったが、この世界では違う。
王国側の陣営は突然の光に驚くが、突撃を開始していた。おそらく立っている位置的にアインズが何かしていると勘違いした者も多いだろう。
――そして、長い詠唱時間も遂に終わりが見えた。
『これはアインズ・ウール・ゴウンの為の戦いである』――承認、モモンガ。
(俺の声も入ってんじゃん…… 魔王ロールやってた時に録音されてたのか?)
誰が選んだかは分からないが、その一文はアインズらしいものだった。
詠唱が終わると黄金の輝きは一段と増し、ネムはその剣を戦場に向かって振り下ろした。
「
――光だ。
これしか表現が出来ない。
王国軍の八割以上、約二十万人もの軍勢が光に飲み込まれた。
そして光が収まった時、立っている者は誰もいなかった。
「えっと、ゴウン様。ついげき?ってした方が良いですか?」
「あー、うん、そうだな。私も一緒に行こうかな」
――無慈悲。
純粋な子供とは時に大人を超え、非常に残酷なものである。
◆
王国側の生き残った者達が戦意を失い、フラフラと敗走していく。
しかし、運良くあの光から逃れることが出来た三人の男は戦場に残ってた。
一人は王への忠誠を示す為、こちらにやってきた者に剣を低く突き付けた。
「私は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。勇者ネム・エモット――汝に一騎討ちを申し込む!!」
王国の秘宝フル装備の男が、メイド服の少女に剣を突き付ける。
なまじ真剣な表情をしている分、恐喝の現場にしか見えなかった。
「うわぁ、大の大人が――んんっ!! ……ほう、ネムとPVPをしようというのか。ネム、いけるか?」
「はいっ!! さっき凄く力が湧いたので大丈夫です!!」
その戦いに待ったをかける男がいた。
「待ってくれ、魔導王陛下!! 頼む、心からのお願いだ。俺も一緒に戦わせてくれ!! その少女なら二対一でも苦では無いはずだ」
「ブレインっ!! お前も大人としての誇りを汚す気かっ!! 俺一人でいい……」
ブレインは一緒に社会的に死のうとするが、ガゼフはそれを認めない。
クライムはたとえ一対一でも子供に剣を振るうのは如何なものかと、難しい顔をしながら黙っていた。
「待たせたな、やるのは私一人だ」
「ああ、うん。もう何でもいいや。この金貨を投げるから、地面に着いたら試合開始だ」
「よろしくお願いします、ゴウン様!!」
オッサン達の熱い友情を無視して、アインズは投げやりに金貨を放った。
金貨はクルクルと回りながら落ちていき、地面とぶつかり辺りに地味な音が響いた――
「――うぉぉぉぉ!!」
――その瞬間、ガゼフは迷い無く全力で一歩を踏み出した。
鎧すらバターの様に斬れる凄い剣『
「――えいっ」
「がっ!? あぁ、王よ、申し訳……ありま、せん……」
――ガゼフは崩れ落ちた。
ネムの乱雑な――剣の刃の部分ではなく、側面で殴っている――一撃に為す術もなくやられた。
(ステータス差の暴力だな…… そりゃレベル1がいきなり二十万体以上も敵を倒せば、レベルくらい簡単に上がるよな)
アインズが手を出す事もなく、戦争は終わりを迎えるのだった。
◆
ジルクニフは部下からの報告を聞き、座っていた椅子の上で脱力した。
「一撃で二十万か…… 認めよう、奴は神だ。その力も、叡智も、人間の敵う相手では無い……」
「ですが陛下、その力を振るったのはただの子供だった筈です。その子供さえ引き込めれば……」
苦しげに意見をだす臣下に、ジルクニフは無駄だと言うように言葉を紡ぐ。
「その少女は元々力無き者だろう? つまり、奴はどんな存在であっても、自分なら比類無き力を与えられると教えてくれたのさ。此方がどんな相手と組もうと、敵対した一人の人間にその力を与えるだけでいい。最大の魔法を使ってくれと言ったが、まさかこれ程とはな……」
余りの打つ手の無さに、狂ったような笑いが溢れた。
「個人の力や、国家間の協力など意味は無い。奴が手を貸した者が勝者となる。ああ、知恵比べや競い合いをしようなど、なんて馬鹿馬鹿しい。奴は初めから対戦相手ではなく、我々を上から見ているだけの者だったのだ……」
ジルクニフの心は折れた。
まさに次元の違う相手。
同じ土俵にすら上がれない存在には抵抗すら出来ないと、全てを諦めた。
「アインズ・ウール・ゴウン――奴は神だ」
◆
ナザリック地下大墳墓、玉座の間。
ここではデミウルゴスが、アインズの智謀が如何に素晴らしいかを解説していた。
「――神。つまり人に力を与える存在…… アインズ様は初めから一国の王などと言う、ちっぽけなものになるおつもりでは無かった。そう!! 初めからこの世界の神として君臨するおつもりだったのだよ!!」
「ほう、気付いていたか」
(ええぇぇぇぇっ!? 俺が神!? ちょっと、報連相はどこいった!?)
他の守護者達が感動している中、アインズは精神抑制を連発していた。
「もし一国の王ならば、卑しくも人間どもはアインズ様と対等に交渉しようとしてきたでしょう…… しかし、相手が神ならば下等な者達の取れる手段は一つ!! ――祈るしか無いのだよ。ああ、ここまで先を読まれていたとは、私の知略など足元にすら及びません。正に端倪すべからざる御方と言う他ありません」
「ふっ、この程度、私にとっては容易いことだ。デミウルゴスもいずれ出来るようになるだろう」
(……ああ、皆さんに早く会いたいです。俺、神になっちゃいましたよ……)
アインズはこの世界の神になった。
一発ネタですが、読んで頂きありがとうございました。