SYMPHOGEAR TIME 仮面ライダーオーズ -翳り裂くオーズ-   作:下駄

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第六話『水中戦と青いコンボと暗躍する影』

 普段は自販機であるライドベンダーが変形したバイク――マシンバイクモードに乗った映司が現場に到着した頃には、ほとんど近隣住民の避難は完了していた。

 数の割には思ったよりも被害が出ていないという報告は二課の通信でも聞いている。

 

「ついさっきまでガングニールの戦闘反応があったはずだが、立花の姿はないな」

 

「ふん、こんな奴ら何体倒してもセルメダルにならない。飽きて帰ったんじゃないか?」

 

「メダルが重要なのはアンクだけだって」

 

 翼とアンクもそれぞれ個別のライドベンダーに騎乗して、途中で合流している。

 芸能活動の仕事中だった翼は、ノイズ出現が近隣ならいつでも使える高性能のバイクがあるのは小回りが効いて便利だと語っていた。

 

「とにかくまずはノイズの殲滅を優先しましょう」

 

「そうだね」

 

「コンボは無しだ。渡してある三枚で戦え」

 

「わかってる」

 

 一人でメダルを自由にさせるとどうせすぐコンボで無茶をすると、アンクから基本コンボ以外のメダルは取り上げられていた。

 ノイズ相手だと広域戦が多くなるためガタキリバやラトラーターをメインで使用する気満々だった映司は否定できず、今は渋々メダルの管理をアンクに任せている。

 それでも以前の映司なら皆を守るために必要だと拒否したかもしれない。

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!』

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 片やメダルのスキャニング、片や言葉での詠唱で人を超えた力を身に纏う。

 

 仲間に頼ることの大切さを学んだ映司は、もう一人で無理に手を伸ばそうとは思わなくなっている。

 避難誘導は二課に任せた。

 敵が多いなら頼れる仲間と協力すればいい。

 皆で腕を伸ばせば、それは自分一人よりもずっと長く大きな腕になる。

 だから、今はこの世界で新たにできた心強い仲間と共に戦うのだ。

 

「防人の剣! いざ参る!」

 

 翼の剣が次々とノイズを切り伏せていく。

 勇ましい彼女の歌を聞きながら、オーズはバッタレッグで高く跳び離れた位置に降り立つと、トラクローでノイズを裂く。

 強力な個体は確認されていないので、それぞれに各個撃破して効率よく敵数を減らす作戦だ。

 

「あれ? どうしてここに……」

 

 ふとノイズ達に混ざってバッタ缶が一体、飛び跳ねて自己主張していることに英司が気が付いた。

 バッタ缶はノイズ達をすり抜けるように移動を始める。

 意図が読めないまま、しかし何があるのかと周囲のノイズを撃破しながら後を追う。

 

「ととっ、これ以上進むと川だけど、ここに何か……まさか!」

 

 そもそも、町に放ったバッタ缶は響を見つけた時点で全て回収したはずだった。

 例外があるとすれば、それは響が拾った一つだけ。

 そしてバッタ缶には元々響を探すよう命令を与えていたのだ。そうなると行き着く答えは、

 

「響ちゃんは川の中に!」

 

 翼もさっきまで戦闘反応があったと話していた。

 それが消えたのは、響が川の中に落ちて戦えない状態になっているからでは。

 

「アンク!」

 

「っち、何だ! こっちは今追い付いたばかりだぞ!」

 

「青いメダル三枚!」

 

「だからコンボは無しだ! そもそも何でメズールのメダルが……」

 

「早く!」

 

 もし本当に響がずっと水中にいたのだとしたら、もう一刻の猶予もない。

 通常なら使用頻度の低い青いメダルのコンボに加えて、切羽詰まったような映司の態度にアンクも何かを察したらしい。

 

「いいか、戦闘中に倒れたら終わりだ、長時間の使用は控えろ! 絶対だ!」

 

 一度決めれば行動は早い。アンクは取り出した三枚を即放り投げ、慣れた動作で映司はキャッチする。

 

「ああ、こっちもそんな時間はかけられないから!」

 

 タトバコンボの三枚を引き抜き、青いメダルへと入れ替え再度のスキャニング。

 

『シャチ! ウナギ! タコ! シャ・シャ・シャウタ! シャ・シャ・シャウター!』

 

 青いメダルは海の生き物を象っている。シャウタは唯一水中戦に特化したコンボだ。

 フォームチェンジと共に映司は川の中へと飛び込む。

 

 シャチヘッドは水中でも地上と変わらない視力と聴力を得られる。

 バッタ缶が落ちた場所を把握してくれていたおかげで、探し人はすぐに見つかった。

 

 ――いた!

 

 響は二体のタコ型ノイズの触手に捕まって身動きが取れなくなっている。

 触手はシンフォギアのスーツに深くギチギチと食い込んでいて、雁字搦めになっていた。

 まだ意識はあるようで体をくねらせ藻掻いているが、その動きはどこか弱々しい。

 

 いち早く助けるため体を液状化させ、敵に悟られず水中を高速で移動する。

 そして響の目前に到着すると、液状化を解いた。

 

 突然現れたオーズの姿に彼女は驚きを見せるが、優先すべきは救助だ。

 腕にマウントされた二本のウナギウィップを手にして、瞬く間に彼女を縛る触手を切り裂いていく。

 

 体が自由になると響は腕の噴射を使って即座に水中から離脱を始めた。

 あの様子なら救出は間に合ったようだ。

 

 だが衰弱している体でノイズだらけの地上に戻るのは危険かもしれない。

 すぐ援護するためにも、ここにいる二体のノイズを急いで片付けなければ。

 

 新たに伸ばしてきた触手を鞭で薙ぎ払い一気に距離を詰めると、今度はノイズ本体を鞭で巻取り八本のタコレッグで高速連打の蹴りを浴びせかける。

 

「りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!」

 

 触手は破壊され防御は不可能。逃げようにも鞭で絡め取られてそれも叶わない。

 さっきまで響にしていた拘束を逆に受けて、蓄積されるダメージに耐えきれず一匹目は水中で灰化。

 

 二匹目は早々に撤退を始めたが、映司も直ぐ様追跡を開始する。

 それでもノイズの方が先に陸へ上がると悟った映司は、速度を緩めず一気に水面を突き破り跳び上がった。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「セイヤァ――!」

 

 空中で陸へ上がったタコ型ノイズに狙いを定め、メダルの再スキャンを実行。

 タコレッグが一つに束ねられてドリルのような高速回転を始める。

 そのまま周囲の敵ごとタコ型ノイズを蹴り貫き粉砕して着地した。

 

 それとほぼ同時に、翼が放った大量の刃『千の落涙』が降り注ぎ、残っていたノイズを一掃する。

 

「なんとかなった……かな」

 

「ええ、こちらもノイズは全て斬り伏せました」

 

 それは響の無事と同時に、映司自身の体のことも意味していた。

 変身を解除すると、立ち眩みはしたが意識を保てない程ではない。

 前回よりは反動が多少マシになっている。

 

「立花の反応が消えたのは、水中で力を失いかけていたからか」

 

 装者は途中で歌が止まると能力は減衰する。水の中で溺れかけていたことで激しく消耗したことも要因の一つだろう。

 

「大丈夫、響ちゃん……?」

 

 響もギアを解いており、片膝立ちでその場に座り込んでいた。

 呼吸荒く髪はずぶ濡れで、ギアを解除しても水が滴っている。

 

「余計なこと、しないで……!」

 

 そんな姿に心配した映司が手差し出すと、彼女は自分の手でそれを弾いて一人で立ち上がった。

 

「立花! 火野さんは身を賭してお前を救ってくれたのだぞ!」

 

「そんなの、わたしは頼んでない……」

 

 あくまで助け自体を拒もうとする響に、食って掛かったのは翼だった。

 彼女はコンボが体に大きな普段をかけることを知っている。

 下手すれば助けた映司がその負荷で溺れていた可能性だってゼロではない。

 

「まあまあ、皆無事だったんだからさ。俺が響ちゃんを助けたのは、俺がそうしたかったから」

 

 そんな二人を映司が仲裁した。

 映司自身、見返りを求めてやったわけではないし、自分の助けが元で二人の仲がより険悪になるのは望んでいない。

 ただ場を収めようと微笑んでみせる大人の余裕が、響のささくれ立った心には逆効果だとまでは気付けなかった。

 

「それに一番の功労者は俺じゃないよ」

 

 響の足元で自己主張するようにバッタ缶がぴょんぴょんと跳ねている。

 その姿を彼女はただ黙って見つめていた。

 

「この子が、響ちゃんの居場所を教えてくれたんだ」

 

 仏頂面に小さな驚きが混じり、響がバッタ缶を拾い上げると、軽く跳ねて彼女の肩へと乗った。

 しばしその様子をじっと見つめてから、映司へと向き直る。

 

「これ、どうせ動かなくなるんでしょ」

 

「そのうちそうなると思うけど……」

 

「なら、もらっとく」

 

「それなら、まだ使ってないやつを……」

 

「いらない……」

 

 これがいい。という言葉は両手と一緒にポケットの中にしまって、響はバッタ缶を乗せたまま二人に背を向けて歩きだした。

 

「ふん、とんだ無駄働きだったな」

 

「そうでもないさ」

 

 二課が確認したという高反応の存在は発見できなかったし、響の様子も相変わらずだ。

 収穫なしという意味を込めてアンクが映司を皮肉ったが、彼は穏やかな表情で去っていく少女を見送った。

 

 ●

 

 装者とオーズが全てのノイズを壊滅させた様子を、彼女らからは死角となる遠巻きから、見下ろすように眺めている男がいた。

 先端が大きな円形となっている一振りの杖を手にしており、その外周には紫のメダルが九枚はめ込まれいる。

 

「グリードの杖……テストの結果は上々といったところでしょう」

 

 話しかける相手は人ではく、腕に乗せた白衣の人形。映司と共にこの世界へと渡った真木だった。

 宝物庫から自在にノイズを召喚して操作するソロモンの杖。それを錬金術師ガラの生み出したメダルの力で再現してみせた。

 グリードホルンと並ぶ、真木によるもう一つの発明品だ。

 今日はその実践テストも兼ねている。

 

 響を水の中へと引きずり込んだノイズの連携も、彼が杖を通して命じたものだった。

 ああすれば、オーズはシャウタコンボを使用するだろうと読んでのことである。

 

「オーズがコンボの力で受けているあの反応。興味深いですね」

 

 既に映司は紫のメダルを取り込み制御できるぐらいに、器としてメダルの力を使いこなしている。

 今更、紫色でもない短時間のコンボで疲弊するなどあり得ないことだ。

 そこには必ず何らかの要因がある。

 

「繋がりは錬金術師……そして歌」

 

 何故、古代兵器であるオーズドライバーが、メダルをスキャニングすると使()()()()()()()()()()()で歌うのか。

 そして威力が半減されるとは言え、ノイズの力に対抗できる理由。

 これまでの研究と照らし合わせて基本原理は解明済みであり、それらの根本にある事実も掴みかけている。

 

 真木がシンフォギアシステムのある世界に降り立ったのは、これが初めてではない。

 ギャラルホルンとソロモンの杖を解析して、自分なりに再現と改造を施した『グリード聖遺物』を開発できる程の時間を、彼は過ごしてきた。

 加えてシンフォギアシステムとノイズも、研究対象の範囲である。

 

「計画の遂行と共に、彼らにはもう暫く私の実験に付き合ってもらいます」

 

 そろそろ二課の事後処理班が到着する頃合いだろう。真木は彼らに発見される前にその場から立ち去った。

 

 




オーズドライバーが本編で古代の回想でも日本語だったって? 細けえこたあいいのデース!


下記サイトで9話まで先行公開しています。
https://quatan.net/shin_ooo/

また、モチベーションアップのため、面白いと思っていただけましたら作品評価をお願いいたします!
https://syosetu.org/?mode=rating_input&nid=187636

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