これが食欲がなくなるという事か、FN小隊のFALは椅子に背中を預けて忌々しい太陽を見つめながら毒付いた。
U08基地の日当たりのいいカフェテラスでグリフィン内でもエリートと称されるFN小隊のメンバーはげっそりと表情を曇らせていた。
普段から緊張癖のあるFN49はすっかり血の気の失せた表情で机に沈み込み、FNCは心ここにあらずといった調子でクッキーを無心で口にし続けている。
FALも同じようなものだ、二人よりも場数を踏んだおかげで少し余裕があるというだけですっかり参ってしまっている。
ヘリアンの護衛としてこの基地にやってきたのだが、証拠品の見分で全員が見事に撃沈したのだ。
あれはない、いくらなんでもあれはない、FALは隊長としての意地も捨ててぐったりと背もたれに身を預けて空を仰いだ。
「私たち、あれと戦う羽目になってたかもしれないんだよね?」
「も、ももも、もし、この基地が先発じゃなかったら、きっと」
「やめて…」
考えたくもない、FALはFNCとFN49の言葉を遮る。一つ違えば自分たちが死んでいたと容易に想像できるからだ。
しかもただ死ぬのではない、最悪の場合グリムの仲間入りをして再生された自分と戦う羽目になっていたかもしれない。
そしてそれがエンドレスで続くのだ、本部や支部が異常と考えない限り。支部偵察隊はそのパターンだった。
「で、でもですよ、あ、ああ、あれがもし拡散してたりしたら、私たち、戦えます?」
「専門家に任せたいところね」
無理だ、FALはすぐに悟った。あるはずのない、動いているはずがない自分自身のIFFを持つ化け物を見て冷静でいられる自信がなかった。
撃つことはできる、戦うことも難しくない、むしろ簡単な部類のはずだ。でも勝てない、初動で確実に負けてしまう。
なぜなら相手が自分だとわかるからだ、自分の成れの果てだと確実に理解できてしまうから、思考がエラーを起こしてしまう。
テロリストなどに体を鹵獲され、再利用された例ならばいくらでもある。しかし、それはあくまでジャンクの再利用に過ぎない。
AIもそれを理解したうえで対応できる。しかし、変異した人形相手では勝手が違う。
変異した自分は生きている、例え化け物になっていたとしてもIFFは死んでいない。U08でも生死不明の信号を放ち続けていたそうだ。
その相手を撃とうとすれば、同士討ちとして安全装置が作動して発砲できない。その動作がAIと疑似感情モジュールに恐怖として刻まれる。
その一瞬の隙、その一瞬の判断で負けるのだ。戦闘用の機械である戦術人形が、並の人間よりも高性能であるはずの人形がだ。
機械的に、感情的に、瞬時の判断で迷う。その一瞬が化け物相手には致命的だ。
U05部隊の面々でさえもその恐怖に飲まれかけた、支部偵察隊や鉄血の成れの果てが自分の末路に思えたのだろう。
それを脱することができたのはこの手の専門家であり、同行していたミュータントハンターである指揮官が居たからだ。
指揮官は迷わず「撃て」と命令した、その命令が彼女たちを突き動かしたからこそ脱することができたのだ。
(U08はジャミングが酷い、だからこの惨事が起きた。でも、たとえ通信がつながっていたとして、普通の指揮官が対応できるかしら?)
できないだろうな、確実に無理だとFALは判断した。今は鉄血への対応に忙しく、どこの指揮官も鉄血人形と戦争に明け暮れている。
鉄血との戦争はできても、化け物との戦いには慣れていない部分が多いはずだ。
出会えば逃げるしかない、逃げて時間を稼ぎ、反撃するのが得策だろう。しかしU08基地ではそれが許されない状況だった。
U05部隊がそうであったように、支部偵察隊も基地内の奥に踏み込んだうえで包囲されてしまっていた。
四方八方から迫るグリムを見て、支部部隊が何を考えてエラーを起こしたのかは想像に難くはない。
それが原因でグリムの大量発生につながり、最後はU05部隊にせん滅された。
「でも、専門家って言ってもさ、うちにいる?」
「む、むむ、昔は対E.L.I.D対策部門も、あ、ありましたけども」
「鉄血との戦いが主流になって消えたわね」
FNCの問いかけにFN49は頷き、FALが否定する。
グリフィン&クルーガーは国から入札を受けて地域を管理するPMCだ。ゆえに相応の武装を持った対策部隊も保持していた。
かつてはそこがグリーンゾーンで活動していたミュータントハンターの仕事を奪い、地域の安寧をこまごまと守っていた。
しかし鉄血の暴走以後状況は一変し、彼らも初動で対鉄血戦に参加。結果として全滅しながらも、戦線を維持して時間を稼いだ。
それ以後、鉄血との戦いが主流になってからは再建されていないまま一年が過ぎていた。
財源、世論、その他もろもろが鉄血対応に集中してしまってE.L.I.Dの存在を忘れさせてしまったのだ。
(そもそもグリフィンの管轄にE.L.I.Dは少ない、前から無駄飯食いとか言われてたっけ)
思えば大変危険な状況だ。E.L.I.Dの対応は正規軍が請け負うとはいえ、どうやってもこまごまと漏れは出る。
感染初期の段階ならば通常の兵器でも対応できるが、それでも分が悪いのだ。
それに対応するのが対策部門であるし、活動も派手ではないが必要不可欠なものだったはずだ。
もっとも、そういう必要な草の根活動というものほど軽視されて忘れられ、のちに響いてきて後悔するのだ。
(それを踏まえて、彼を雇ってたのかしら)
FALはふとU地区支部を統括するマクラファティ支部長のことを思い出し、戦術ネットワークを繋いで彼の経歴を探る。
FNCとFN49も顔をつきあわせてあーでもないこーでもないとぶつくさ言い合う。そんな彼女たちに、横合いから声がかかった。
「あら?随分やつれてるわね」
「その声、AR-15?ついに幻聴かしら…」
S地区にいるはずのエリート様の声にFALは死んだ目つきで声のほうを見る。
そこには学生服型装備を着込んだAR-15が飲み物を乗せたトレーを持っていた。
「幻聴って、酷いわね。私は現実よ、SPAR小隊のAR-15、オリジナルとは違うの」
「そう、あなたが例のダミーってわけ。おかしいわね、最近のダミーは妙に個性的だわ」
「今は商業販売用のテストモデルって扱いよ」
「あと予備部品」
「知ってるじゃない。その通り、でもお役御免かも。みんな揃ったみたいだし?」
毒のある言い方のはずなのにAR-15は気にも留めない。どうやら彼女も席を取りに来たらしく、隣の席にトレーを置いて席に座る。
慣れた様子でコーヒーカップを手に取ると、スプーンで中を軽く混ぜて一口飲んだ。
「どうしてここに?」
「席取り以外に理由ある?M4の検査が終わるから先に来ただけよ」
「ここは席を取り合うほど人員はいないはずよ」
「滑走路に一番近いからね。日当たりもいいから最高だし、何もなければ静かだし」
AR-15が指をさす、使われていない施設と空き地の向こう側に固定翼機用の滑走路が見える。
富裕層の持つプライベート機用の物で、リゾート時代の名残でいまだに残っている代物だ。
この基地の存在理由である囮のためのフレーバーとして利用しているようだ。
「で、随分とやつれているけどどうしたの?」
「ノンフィクションのグロ画像を延々と見せ続けられたらこうもなるわよ」
「あら、戦争なんていつもグロ画像じゃないかしら。手足はもげるし首も飛ぶ、いつも血みどろじゃない」
「それとこれとは別、別よ、くそっ。いずれあなたもわかるわ」
この基地に配属されているのだ、落ち着いたころに指揮官が彼女たちに情報を開示するだろう。
その時にせいぜい苦労すると良い、と柄にもなくFALは悪意を込めてにらんだ。
「知ってるわよ、M4のデータを全部見せてもらった」
「…は?」
「あれはくそったれね、今までの戦場とはまるで違う。まるでホラーゲームの中に入ったみたいだったわ」
「な、なんか反応薄くないですか?」
「こう見えて鍛えてるの」
FN49の言葉に、AR―15は力こぶを作るように腕を力ませて冗談交じりに笑って見せる。
「というのは半分冗談、指揮官達からいろいろ聞いてるのよ。他のみんなよりもずっとね、実はキメラのこともだいぶ前から知ってはいたの」
「なるほど、自慢話を聞いてたわけね」
「どっちかっていうと苦労話ね、アホみたいな生態してるのもいるし。ま、指揮官といると多少耐性付くわよ?大概ハチャメチャだしね」
「そう、で?それだけじゃないんでしょ?」
「鋭いわね。指揮官はもう手遅れだって考えてる、コハクとミナの偵察結果待ちだけど、良い報告は期待できないわよ?拡散は時間の問題ね」
「コハク?ミナ?」
「指揮官の恋人、ナガンM1895のコハクとコルトM1911のミナよ」
どうやら専門家が二人偵察に出るらしい、それでも嫌なことしか言わない彼女は何か思うふしがあるのだろうか?
「その根拠は?」
「あるわよ、ここ最近鉄血の動きがあまりなかった。S地区で派手にやってるにしたって偵察隊もあまり見ないの。
比較的平和っていう地区とかでもそれなりにドンパチしてるはずでしょ、なのにここのところはとんと低調と来てる。
多分向こうでも何かあったのよ、そう考えるのが自然じゃないかしら?でも支部は理解しなかった。
入植案件まで出てきてて困ってるのよ、ある程度地区は奪還できたけど不安要素ばっかだってのにね」
たまったもんじゃない、AR-15は口をとがらせてぼやく。
人形たちからのグリフィンへの信頼は最底辺というのも事実らしい、仕事はするがそれだけという非常にドライな関係になっているようだ。
そうもなるか、FALはこの基地そのものを考えて納得する。
この基地の所属人形は、ほとんどが別の基地で見捨てられて途方に暮れていた個体ばかりだからだ。
支部からは冷遇されて補給こそ来るがそれ以外は援護も何もなしの捨て駒配置。
それだけならまだしも本部が妙に重宝するので、余計に支部や他の基地から白い目で見られる。
支部と本部に振り回されてとばっちりを食らっていると考えてもおかしくない状況だ。
「ちょうどいいわ、離陸準備が始まるわよ?」
ほら、とAR-15は滑走路の端にある大型機用ハンガーを指さす。
いつの間にかハンガーのシャッターが開いており、FALの眼にハンガーから古い牽引車で引っ張り出されるその双発の航空機が見えた。
補修跡の残る流線型の葉巻のようなフォルム、グリーンゾーンでは富裕層くらいしか持てない燃料式レシプロエンジン、随所に機銃座を設けた深緑の機体。
しかし国籍マークはなく、所有者を示す笹の葉。尾翼には登録番号、チーム名のみがシンプルに描かれているだけだ。
「ちょっと、何あれ!?どこの機体!!っていうかでかっ!?」
「ななな、なんなんですかぁ!?グリフィンの新型機!?」
「リッコーよ、うちの秘密兵器」
驚くFNCとFN49をしり目にAR-15は瞳を輝かせて滑走路に向けて牽引される航空機を見つめる。
「りこー?」
「リッコー、一式陸上攻撃機、指揮官達の仕事道具なの。あれでいろんなところを巡ったって話よ」
AR-15のその目はくだんの一式陸攻にくぎ付けだ。
指揮官達の個人所有機ということは、あれは人類生存可能圏外で新しく生産された機体なのだろう。
ネットワークに保存されている第2次世界大戦当時のスペックとは異なるに違いない。
「指揮官の私物ね、でもあんなの使ってたら目立つはずよ?こっちの報告書には記載がないけれど?」
「あれを飛ばしたのは一度きりなの。2か月前に鉄血の攻勢があってね、その時に試運転がてら辻爆撃したっきり。それまでずっと修理してたのよ。
機体は穴だらけで主翼もボロボロ、エンジンが無事だったのが奇跡って具合でね。ずっとちまちま直して、ようやく飛べるようになったわけ」
「え、もしかして自分で直したの?」
「当り前じゃない。ここに外地の機体を直せる技師がいると思ってるの?」
指揮官達もだいぶ苦労して来たらしい。
「だからやばいのよ、いざとなったら文字通り飛んできて助けてくれる。あの指揮官の後釜になれる人間なんてそういないわ」
「それは大変ね、新しい指揮官が来たら大変そう」
「来たら死にますよ、人形と最前線で戦える人間はそういませんよ」
「ひょほ!?」
背後から陰鬱そうな暗い声を掛けられ、FN49が文字通り飛び上がる。一斉に振り返ると、日向のベンチに寝転がるSuperSASSの姿があった
AR-15も彼女の唐突な登場に目を丸くする、彼女も全く気付いていなかったらしい。
「SASS、あなたまだ病棟にいるはずじゃ」
「私は終わったので。FNのFALですね…いまさら、よく来られたものです」
U05のSASSは両目にクマを作り、ひどく疲れた様子でベンチに体を横たえたまま胡乱な目を向けてきた。
信じられない、FALは彼女のひどく憔悴した姿に目を疑った。
U05のSASSの戦闘能力は本物、凄腕と言っても過言ではない高い練度を持った人形だ。
本部や支部からの無茶な作戦も、指揮官と共同して何度も潜り抜けてきた現場たたき上げとして本部エリート部隊はその実力を認めている。
その彼女がこうも傷つき精神的に消耗しきって憔悴しているなんて今まで見たことがない。
「SASS、あなた、その姿は?」
「グリムにやられました、直接やられてはいませんがね。でもまだいい、私は感染していない」
「か、感染?」
「コクーンになって、グリムにならないだけましってことですよ。ははは、言っても分からないでしょうがね」
彼女は肩をすくめ、そのままコクリコクリと首を揺らして目をこすり始める。眠いのだろう、どうやら相当疲れているらしい。
少し眠ったほうがいい、そう言おうとしたFALだったがSASSがポケットから取り出して飲み干したドリンクに目を剥いた。
「ちょっと、何してるの?」
「何がです?」
「それ、カフェイン剤じゃない」
SASSが飲み干したのは人間用のカフェインドリンクだ。よく深夜勤務の人間が飲む眠気覚ましである。
「眠らないためです、寝たら、またあそこに戻される」
「あそこ?」
「夢に出てくる、グリムが、ずっといるんですよ」
「グリム?夢?」
「FNのFAL、みるんです、人形なのに、ずっと、でてくるんですよ」
SASSは頭を抱え、まるで何おびえるような様子で顔をうずめる。
「夢を見るんです、眠ると私をグリムが追いかけてくる、撃っても、撃っても、私を!!」
「人形が、夢を?」
信じられない、FALは小さく首を振る。しかしSASSの様子はうそを言っているようには思えない。
電脳がウィルスに侵されている、と考えるのが妥当だろうがペルシカの検査では結果は白のはずだ。
そうでなければこうして自由に動き回っているはずがない。
「悪夢ですよ、私はU08のあの廊下にいて、指揮官を追いかけて走ってる。
周りからグリムが沸いて出てくるんです、後ろからも追いかけてくる、私は、応戦しながら逃げて、でも、つかまって、私は!」
「SASS、ただの夢よ。ただの夢」
「痛いんです、夢なのに、体が切り裂かれると痛くて…なのに、起きると五分も寝てない。
昨日からずっとなんです、何度寝ても、なんども、何度も何度も…」
SASSは皮肉気に笑うと、さらに一本カフェイン剤を飲む。
「寝たくないんです、日光を浴びてないと気が休まらない。だからこうやってるんです」
「でもSASS、眠ったほうがいいわ。人形の初夢は大半が悪夢だってサラたちも言ってるのよ?強烈だけど」
「アマダ理論ですか?AIの成長に苦痛が何たらとかいう…指揮官から聞きました、別におかしいわけじゃないって」
「成長痛みたいなもんよ、外地じゃ珍しくないらしいわね」
SASSとAR-15の会話にFALは口を挟まず注視する。どうやら夢を見る、ということについて指揮官も何かしらフォローしているらしい。
「でもきついんです、夢の中では何時間も戦ってるはずなんです。タイマーだって記録されてるのに、現実では5分程度。
寝るたびにその誤差は大きくなって、何度も何度も死ぬんです。M4さん、よくケロッとしてますね」
「M4は付き合い方を知ってるの、それだけよ。お風呂に入ってさっぱりきたら?今日は風呂の日よ」
「お風呂、あぁ、そういえばそうですね…」
SASSの表情がようやく緩む。AR-15は好機と見たのか、ふらつくSASSをゆっくりと立たせると静かに背中を押した。
「気分が悪いならさっぱりするに限る。行ってきな、いまなら騒がしい馬鹿姉貴もいないんだから」
「あははは、じゃぁ、お風呂いただいてきます」
SASSは小さく一礼して、ふらふらとした足取りでテラスを去っていく。慣れない症状にかなり消耗しているのだ。
AR-15の言う通り、多少なりともリフレッシュして気分を切り替えたほうがいいのだろう。
戦術人形とはいえ感情というものが搭載されている以上、こうした気分転換は意外と効果があるものだ。
「こ、ここ、この基地には、お風呂あるんですか?」
「あるわよ、元はリゾートだもの。その時の設備がほぼ丸々残ってるから修理して使ってるの。週三日ね。
なんだかんだで自給率高いわよ?電気は全部太陽光、水も地下水と雨水をろ過してるもの」
U05基地の立地ははっきり言えば僻地だ、ペルシカが特権をふるって高速ヘリによる直行便を手配しても丸一日かかる程遠い。
しかもただ敵を誘引するためだけに特化した基地はあらゆる人口密集地から離れている。
かつてはリゾート地だったにしても人が離れて時間が長く、地区内の別荘地などのためにひかれていたライフラインもすべて遮断されるか破壊されている。
当然ながら近場に町などはなく、何気に友軍の基地もかなり離れているので交流もほとんどない
それ故にもっぱら自前か補給だよりなのが現状、それを何とかしようという思考は指揮官にもU地区支部にもない。
支部からすれば解体予定の急増基地、指揮官としても仮住まいでしかないからだ。
「今日はお偉いさん方も来てるしね、久々のお客だしフィーアたちも意気込んじゃってごちそう用意してくれてるわ」
「そこまでするの?」
「42達くらいしか出入りないもの、ほとんど通信だけで支部も放置だしね。まともに書類も読んでないかもしれないわ。
監査もない、視察もない、援軍に行ったことはあっても援軍が来たことはないし、来客なんて前に博士が来たっきり」
それはまたひどい扱いもあったものだ、FALはU05基地のおかれていた現実に嘆息するしかなかった。
完全放置、つまり何が起きても、どれだけ危機的な状況でも無視して来たという事なのだろう。
死ぬために作られたのがこの基地なのだから、ありていに答えれば死なないほうがおかしいのだ。
「どどど、同期の方とかは?」
「ないない、指揮官は臨時の雇われよ?同じように雇われた連中はいたけど、みんな死んだわね」
あっけらかんとAR-15は答える。U地区の臨時雇用された部隊の生き残りは指揮官達、ハンターチームの笹木一家のみ。
それはデータベースの照合して確認できた。ついでに彼に支払われる今月の賃金も見た、一介の指揮官の月給をはるかに超える高額だ。
元々指揮官並みの高給を約束されていたに加えて各種ボーナスが加算されているようだ。
(妬まれもするわね、まともな学びもない肉盾の使い捨てが自分たちよりいい給料もらってれば)
さらに契約終了の後にはさらに報酬もつけられている。ここまで至れり尽くせりならば嫌われても仕方がない。
ただでさえ厳しい就職活動、大企業ゆえに選考の厳しい採用試験、さらに指揮官としての厳しい訓練を乗り越えた正規指揮官や社員たちからすれば許せない存在だ。
ぽっと出のグリーンゾーン周辺にすら住んでいない汚染地帯出身の得体のしれない傭兵が、自分たちの潜り抜けてきた苦難の道を特別待遇で無視して同じ立場になったのだ。
それだけならまだしも、自分たちよりもはるかに高い賃金をもらいながらやっている仕事はただ暴れて囮になっていることだけ。
その能力をなぜか本部が評価して仕事を回され、しかも成功させてさらに心象を良くしている。
しかも正規指揮官や社員たちのように社内の空気やら上下関係やらの重圧がほとんどないとなれば恨まれもするだろう。
「ま、いつものことだから気にしてないけど。それよりもお風呂どうする?何なら案内してあげようか?
サウナもあるし、ジェットバスもある、いまなら入浴剤を選べるかもしれないわよ?」
「こんな時に、のんきねあなた」
「こんな時だからよ、やるにしても万全の態勢を取るべき。ならお風呂に入ってさっぱりして、おいしいもの食べてぐっすり寝るのが一番」
変わっている、FALは素直にそう感じた。このAR-15はオリジナルとはだいぶ異なっているようだ。
口調はさほど変わらない、クールで冷静な雰囲気のあるタイプだ。けれど出てくる言葉には大らかでマイペースだ。
彼女のいうことも一理ある、FALは茹で上がりそうな電脳の演算を鎮静化させながら頷いた。
「そう、なら紅茶とチョコはあるかしら?」
「合成品でよければいくらでも。食べ物には無理のない範囲で妥協してないよ、おいしいやつがある」
「お菓子!お菓子ある?」
「なら食堂の売店ね。確かまだ残ってるはず。でも早くしないと売り切れるかもね、うちのお菓子魔人が帰ってきたもの」
「あ、あああ、あの、わ、私、ちょっと銃の調整がしたいなーと」
「武器保管庫に行きなさい、いろいろそろってるわよ?」
ちょっとした雑談が少しづつ広がる。ようやく落ち着いて物を考え始めたFN49は自分の銃の整備を心配し始め、FNCはお菓子の話に夢中になり始めた。
そんな二人に少しいさめながらFALはくすくすと笑う。
「…ちょっと、随分なごんでるじゃない」
「あら、FiveseveN」
若干和やかになった空気のテラスに、FN小隊最後の一人であるFN57がげっそりとした顔でのそのそと戻ってきた。
FN小隊の中で一番ダメージを受けていたのは彼女だ、女好きの毛がある彼女にとって戦術人形が敵味方問わず実験台にされていく様を見せるのは酷だったのだろう。
グリフィンの中でもエリート部隊に属しているという自負もあり、彼女は若干無理をしてしまい今の今までトイレの住人だったのだ。
吐き出すものはすべて吐いたと言いたげなFN57の様子に、カップの中身を混ぜていたAR-15は苦笑いする。
「あ…」
そんな彼女の手からスプーンが零れ落ち、FALの足元に転がる。FALは特に何も考えず、上半身をかがめてスプーンに手を伸ばした。
そして机の下に目が行ってその黒い何かが目に映り、FALの思考が一瞬のうちにエラーで埋め尽くされた。
黒いテカテカの平べったい憎い奴、こんな世界でも余裕な顔をして生き残るあん畜生。
冷静に見ればそれがただのおもちゃで、顔を上げればAR-15が悪戯心に満ちた微笑を浮かべていることに気が付いただろう。
だがFN小隊のFALは、いささか疲弊し過ぎていた。証拠映像という名の精神的拷問によっていろいろと限界だったのだ。
AR-15もまた、頑丈で復活の速い指揮官達や鍛えられた仲間たちという規格外に慣れ過ぎていた。
FALが叫びながら椅子から転げ落ち、叫び声をあげながら後ずさる。それに驚き、3人も原因に目をやってしまう。
FN57とFN49は何も言わず倒れた、FNCはその場に嘔吐し始め、その場でうずくまりけいれんし始める。
狂乱に飲まれるFN小隊を見て呆気にとられたAR-15が大目玉を食らったのは言うまでもない。
AR-15「大変申し訳ありませんでした」たんこぶ+正座
M16「妹がご迷惑をおかけしました」殴った本人
グダグダお喋り会です、特に何も進みません。ハンター勢の武装が少し出てきた程度です。
すこしの間ほのぼの回予定だぜ、化け物も出すけど。
ミニ解説
一式陸上攻撃機2型(笹木一家機)
武装・20ミリ対空機銃5丁(上部、尾部、左右機銃座、機首に各一丁)
エンジン・バイオ燃料式火星3型エンジン(2200馬力)×2
搭載量・60キロ爆弾×8、250キロ爆弾×4、800キロ爆弾×1、またはそれに類する重量物。
出典・史実
人類生存可能圏外、朝霞の兵器工場で製造された改良生産型。初期型、2型、3型(最新)が存在する。
旧日本から持ち出した設計図を基に改良し、長い航続距離を維持しつつ防弾性とエンジン性能を引き上げている。
爆撃、偵察、輸送、と比較的なんでもござれだが器用貧乏という面もあり、特化機には負ける面も多い。
笹木一家は仕事に合わせて改造しており、航続距離を若干犠牲にしながらも防弾と内装、防衛火器を充実させて愛用している。
グリーンゾーン内に入る前に、エンジンを最新の3型仕様に換装しているため速力が若干上がっている。
半年前の鉄血の攻勢に駐機していた飛行場が巻き込まれてしまい損傷。長らく飛行不能状態だった。
上部濃緑下部が白色塗装、国籍マーク部分に月をバックにした笹の葉。尾翼にチーム名、登録ナンバーが簡素に記されている。