U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

20 / 59
無理やりだけどチーム引き留め、行動範囲拡大話。
時系列的には低体温症まで終わってる設定。あれだけドンパチすれば脇も甘くなるでしょう。


第8話・発足、G&K対ミュータント対策部隊『U05』

青い空が広がっている、U05基地滑走路に駐機された一式陸攻のそばで空っぽの木箱に腰かけたナガンM1895はぼんやりと空を眺めていた。

青い空、汚染されていたとしても空は青く、地球のどことでもつながっている。自分たちの街とも、この場所とも。

 

(今日で最後か、存外、悪くなかった)

 

最近は着慣れてきたIOP製のデフォルト装備ではなく、人類生存可能圏外で作られたタクティカルサバイバルスーツに身を包んだ彼女は感慨深く思った。

旧ロシアのゴルカスーツをモチーフに作られたものに、自分の好みに合わせてポーチやタクティカルベストを合わせた戦闘服だ。

IOP製のデザインに凝った制服に比べれば色気も何もないだろうが、M1895にとってはこれがしっくりくる。

生まれ故郷ともいえるここには苦い思いでしかない、それでもここでの日々は楽しいモノだった。

 

(じゃが、やはりこれが一番じゃな)

 

ホルスターから愛銃を取り出し、弾倉を横に振り出して44口径マグナム弾をスピードローダーで装填する。

6連発スイングアウト式シリンダー、ダブルアクション、44口径マグナム仕様のナガンM1895リボルバー、魔改造された自分の愛銃。

大口径高威力、各種特殊弾対応、ASST制御からも外れた魔改造品だが本来のナガンM1895よりも手に馴染む。

この銃でこれまで化け物を、人間を、人形を、何十人、何十体と屠ってきた。

 

(今はどんな依頼があるのかのう、手軽な討伐依頼があればよいのじゃが)

 

朝霞の街は遠い、いつものようにいくつかの街を経由して帰る。機体の本格修理も最初の街で済ませるのでその間に現地でも軽い依頼で稼ぐつもりだ。

人類生存可能圏近辺ならばE.L.I.D討伐が主だろう、面と向かってあの化け物を狩りに行くのは久方ぶりだ。

修理を終えれば、オフィスの輸送飛行隊などに便乗して街から街へと飛ぶ長い道のりだ。

人類生存可能圏外では飛行型E.L.I.Dなどの化け物のほかに、空賊も出没する。戦闘機の護衛なしでの長距離移動は危険なのだ。

 

「どうしました、ニヤニヤして」

 

「何、久しぶりで少し昂っておるのよ」

 

どうやら笑っていたらしい、一式陸攻の中から出てきたP38にとがめられてM1895は気づいた。

P38も同じくタクティカルサバイバルスーツに身を包み、腰には愛用の日本刀を吊るしている。

 

「お主も久方ぶりに九五式を握ったのじゃ、どうじゃ?」

 

「忘れてなんかいませんよ」

 

「どれ、みせてみぃ!」

 

不意打ち気味にM1985は空のスピードローダーをP38に投げつける。瞬間、宙に浮いたスピードローダーが真っ二つになった。

対化け物用に鍛え上げた日本刀『九五式』を用いた居合切り、M1895の目にも見切れないその一太刀で腕が訛っていないことを見せつけた。

だがそれでは物足りない、M1895は自分の唇が吊り上がるのを感じた。昂っている、久しぶりに本気で打ち合える。

 

「やるぞ!」

 

「唐突ぅ!?」

 

愛用のツインショートブレードを抜き、片刃の刀身を逆さにしてP38に向かって構える。殺しはしない、峰撃ちの本気の訓練だ。

バックステップで距離を取ろうとするP38に斬りかかり、体をコマのように振り回しながら3連撃を仕掛ける。

 

「弾くか!?」

 

「何の!」

 

バックステップと同時に抜かれた九五式の刃に下段から上に右のブレードを弾かれ、反動でM1895がのけ反る。

反動でたたらを踏むその喉元にP38は九五式の切っ先を突き付けた、銃口を腹部に突き付けられながら。

 

「なんじゃい、存外腕を上げておるじゃないか」

 

「慣れないモノで戦ってきたんです、そりゃ腕も上がるってもんですよ。琥珀だってそのクイックドロー、早すぎですって」

 

違いない、M1895自身も非力なM1895リボルバーに苦労した。おかげでリロード技術やクイックドロー、速射技術がめきめき上達したものだ。

今も弾かれたと同時に、ツインショートブレードでの反撃が間に合わないとわかったらすぐに左手の剣を手放してリボルバーを抜いていた。

 

「琥珀、ちょっと悪い癖出てきてません?」

 

「なはは、まぁ許してくれい」

 

「いつも縛りプレイ状態だったもんね」

 

「奏太の緊縛姿は見たいかも」

 

「ひどい絵面だ」

 

ハンガーの奥から荷物を詰めた段ボール箱を抱えて出てきたスプリングフィールドM14が話に割り込む。

その後ろには笹木奏太、コルトM1911も続いていており、全員がタクティカルサバイバルスーツを着込んでいた。

笹木一家の全員同じモノをそれぞれのスタイルに合わせて細かく変えている。

奏太は得物を収める二人とその間に転がるスピードローダーに目をやり、小さくため息をついた。

 

「ローダーを真っ二つにするなよ、もったいない」

 

「細かいこと言うな、あとで買っておくれ」

 

「そりゃ買うけどな。で、こいつで荷物は全部か?俺は全部だが」

 

「うん、みんなそうだと思うよ」

 

M1911の返答に他の全員もうなづく。その数と内容を鑑みて、奏太は思案顔になった。

持ち込んだ対E.L.I.D用弾薬などと一緒に圏内製弾薬を詰め込んだ木箱が二つ、個人の私物が入った段ボール箱が五つ。

これはこちらにやってくる際に持ち込んだものの残りだ。

 

「そうか、やっぱもうぎりぎりだな。持ち込んだ装備、ほとんど使っちまった」

 

わずかに残った弾薬を除けばハンガーから持ち出したのは持ち込んだ私物と、こちらで調達した衣類などだ。

だが持ち込んだ装備類のほとんどは戦いの中で使ってしまい、ほとんどこちらで調達したものばかりだ。

以前の仕事では一式陸攻に積めるだけの武器弾薬、各種補給物資を積み込んでいたのだが全部失うか使い切ってしまった。

 

「仕方なかろう、鉄血も侮れん相手ばかりじゃったのじゃ。むしろよく生き残れたものよ」

 

実はいろいろきつかった、表向きはめちゃくちゃしていたけれども。

 

「いつものことじゃん。今回は報酬ウハウハ出し言うことなしでしょ」

 

「そうなんだが、揃え直すのは手間だぞ?サラなんか整備道具新調せにゃならないだろ」

 

「仕方ありませんよ、ね?市代」

 

「そうそう、生きてるんだからノープロブレム」

 

M14の言う通りだ、M1895は頷く。奏太の懸念ももっともなのだが、やはりちゃんと生きて帰れることが重要だ。

これから自分たちは帰るのだ、慣れ親しんだ朝霞の街に。あとのことはそこで考えればいい。

 

「そうだな。あー…なぁ、みんなちょっといいか?」

 

「なに?」

 

「渡したいものがあるんだよ。その、左手を出して、目をつむってくれないか?」

 

それだけで4人は察した、目を互いに合わせ、M1895達は飛ぶような勢いで奏太に詰め寄った。

もう何が渡されるのか知っている、4人とも左手のグローブを取り、手のひらではなく手の甲を見せるようにして差し出した。

M1895は期待を胸に目を閉じて静かに待った。本当は前の仕事から朝霞に帰ってから、4人に渡すはずだったのだろう。

だがそれは足止めされて機会を逃した、だからもうその轍は踏まない。風情がない、と言われそうだがそれがどうした。

 

(あぁ、いいな)

 

彼が左手を持ち、薬指に何かを嵌める。ささやかれ、目を開ければM1895の左手の薬指には銀色の鈍い光を放つリングが嵌められていた。

壊れそうだ、M1895は人工心臓が壊れんばかりに波打つのを感じた。ただの人形であれば感じない、嬉しいちょっとした苦痛。

奏太は4人の左手の薬指にそれぞれのサイズに合った結婚指輪を嵌め、少し照れたような笑みを浮かべる。

思わず疑ってしまう、人形の自分がこれほど幸せでいいのだろうかと。でも同時に思うのだ、これが欲しかったのだと。

自分の指にはめられた指輪を見た4人は、柔らかに、慈愛の籠った微笑みを返した。

 

「結婚、してくれないか?」

 

4人は、静かにうなずいた。言葉はいらない、言葉にならない、そんな気持ちでいっぱいだった。

 

「さ、準備は終わり。最後に一仕事しなくちゃな。」

 

グリフィン最後の仕事、新指揮官である彼女への業務の引継ぎと退去手続きがまだ残っている。

 

「新基地設立とはいえ、ヘリアントス上級代行官直々にお目見えとはのぅ。嫌な予感がするのじゃ」

 

「新規っていっても、書類上解体して正規基地にするだけでしょ?これで予期するなってほうが無理でしょ」

 

M14も同意し、少し考えてから少々悪い顔になって自分の左手薬指を見た。すでに思考は切り替えている、きっと悪だくみだ。

 

「みんなで見せつけてうやむやにしちゃおうか」

 

「鬼だね」

 

「それは駄目です。効きすぎます」

 

ヘリアンの固まった怒り顔、にじみ出る焦燥と虚しさが手に取るように分かったのかM1911とP38が止める。

 

「うむ、ここは産休ということで納得してもらうのが一番じゃろう」

 

奏太の表情がさっと青ざめる、ヘリアンにも効くがこの場合は彼にも流れ弾が入る言い分だ。

ナガンM1895の体躯は子どもに近い、人形なので合法ロリである。

 

「…鬼嫁」

 

その様子を監視ポストから眺めていたG11はポツリとつぶやき、無線で基地内部に連絡を入れた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「お断りします」

 

丁寧に、はっきりとした否定の言葉がU05基地の長らく使われていなかった指揮官執務室全体に響き渡った。

あぁやっぱりか、執務室の一角にある応接セットの様子をうかがっていたU05基地指揮官『フランシス・フランチェスカ・ボルドー』は頭を抱えた。

もうどうしようもなく終わるはずだった、笹木一家はU05基地から姿を消し、新しいU05基地が発足するはずだった。

本部はこの基地を解体する気はさらさらなかったようで、書類上は解体したことにしてそのまま新基地設立という形にしてしまったのだ。

昨今の鉄血への対策に戦力を取られ、かついろいろと苦慮している状況では少しでも戦力が欲しかったのだろう。

フランシスも昨今の指揮官不足により徴発されていっぱしの正規指揮官として任命され、胃の痛い日々を送るだろうと腹を括った。

嫌がらせに鉄血製ハイエンド戦術人形『ドリーマー』こと夢子・ロスマンを副官にしてやって、通信越しにクルーガー社長の目を見開かせて少し留飲を下げていたところにこれだ。

 

「で、どうすんのよこれ?」

 

「知らないわよ」

 

グリフィン制服を着てタブレットを持ったスタイルでいっぱしの副官に見えるドリーマーの耳打ちにため息を返す。

 

(なんでこうなるのよ…)

 

だが現実はそれをはるかに超える、胃が痛いどころかねじ切れてそこら中に胃液を撒き散らしそうな勢いだった。

応接セットでは二組の陣営が顔を合わせ、片ややる気なく、片や鉄面皮を引くつかせていた。

はっきりと断りを告げたのはハンターチーム『笹木一家』リーダー、笹木奏太。先ほどまでU05基地元臨時指揮官だった男だ。

圏外の職人が作ったハンター用タクティカルサバイバルスーツを着込み、つい先日までの友好的な表情などすっかり引っ込めて厳しい視線を送っている。

背後の壁によりかかる彼の恋人たちも耳を貸す気などなさそうだ、日本語で静かに何か相談しあっている。

彼女たちも指揮官と同系統のサバイバルスーツに身を包み、圏外製の武装と装備で身を固めていた。

これまでは補充の関係で小出しにしていた小道具や、代替品を使っていたのだ。心なし彼女たちの心持もいつもより自信ありげだ。

日本刀を腰に差したワルサーP38、黒くてゴツイハンマーを壁にかけているコルトM1911、短めの肉厚な刃を持つ双剣が目立つナガンM1895。

スプリングフィールドM14と奏太は変わらないように見受けられるが、どちらも圏外製の銃器とマチェットに変わっている。

対するのは奏太の退任と同時に、彼に仕事を依頼しにやってきたヘリアントス上級代行官と護衛の戦術人形。

ウェルロッドMkⅡはその目を細め、ヘリアンは一瞬呆気にとられながらも彼に問いかけた。

 

「なぜ何も聞かずに断る」

 

「興味がありません」

 

「そういわずに聞くだけ聞いてくれ、機密だなんだとは言わん」

 

「確約してくれるなら。聞いたからには生かしておけない、なんて言われるのはごめんです」

 

「いわない、確約しよう」

 

どこの悪役だ、と思わなくもないがこのご時世である。きっといるんだろう、フランシス自身もそれなりに生きてきたが知らないことは山ほどある。

自分自身、このガタイと趣味でいろいろと言われてきた身であるからして否定できなかった。

 

「我々グリフィン&クルーガーは君を必要としている。現状、我々は鉄血への対応に手いっぱいで戦力が足りないのは知っているだろう。

S地区での数々の争乱で戦力は未だに不足しているのが現状だ」

 

「ほどほどには。ジュピターとかいう固定砲台、鉄血の新型、変なウィルス、なかなか大変そうだ」

 

某地区での鉄血攻勢により地区放棄、S-12地区における雪中戦と砲台攻略など詳しく詳細は知らされていないが大きなことは知っている。

どの地区で騒ぎが起きているかがわかれば、鉄血第2支部からの陽動部隊を横殴りしやすくなるからだ。

 

「そのうえこの事件、認めたくはないが我々は少し脇が甘くなっていたようだ。

今から対E.L.I.D、対ミュータント戦に向けた指揮官を育成もスカウトもしている時間もない。

そこで経験豊富なあなたに正規指揮官として再編する対策部隊の指揮を執ってもらいたい。

鉄血との戦いはこれからが正念場になるだろう、足元を揺らがされるのは何としてでも避けたい。

もちろん相応の報酬は約束しよう、滞在に関する問題もこちらでなんとかする」

 

「ハンターをやめてグリフィンの社員になれ、と?」

 

「ハンターは続けてくれて構わない、ただ君ともう一度契約を結びたいと考えている」

 

「お断りです」

 

そりゃそうだろうな、フランシスははっきりと断りを入れた奏太に同情した。彼自身は指揮官には何の未練もない。

自分には不相応な地位だと考えていたし、正規指揮官のようなスキルも持ち合わせていないのだ。

それに専属契約によるハンターとの二足草履だとしても、正規指揮官扱いとなれば降りかかってくる仕事は倍増するだろう。

 

「脇を固めたいのは理解できますが自分に指揮官は務まりません」

 

寧ろさせてはいけない、彼にそんな書類整理能力はない。事務処理スキルもほどほどで、いれば助かるがそれだけだ。

フランシスも奏太の事務処理能力はよく理解している、以前よりも向上しているのは認めるが間違いなく指揮官を務めるほどの能力はない。

 

「彼女たちは君を信頼している、彼女たちの経験が十全に発揮できるようにしたい。それはほかの指揮官にはできないことだ」

 

「すぐには無理でしょう、でも彼女たちもわかるはずだ。フランシス指揮官ならば彼女たちも信用している、心配ないですよ。

自分はただのハンターです、ただ化け物を狩り、時には探偵まがいのこともする何でも屋ですが、これは専門外ですよ。

そもそも彼女たちの作戦を指揮した経験なんてほとんどありません、知っての通りお飾りの男ですから」

 

「だがそれで今までうまくいっていたのだろう?」

 

「以前とは違います、それはここが囮基地だったからできたことですよ。敵が向こうから来てくれたから、こちらは片端から狩って狩って狩り尽くすだけでよかった。

他の基地が行っているような作戦を行ったことはほとんどありませんよ、せいぜい嫌がらせのゲリラもどきをしていたくらいです」

 

これも事実だ、この基地は作戦という作戦を行ったことはあまりない。戦いに参加することはあっても主導したことがない。

目的が決まっていて、倒す敵が分かっていればそれを排除する。物資を奪って遅滞工作、煽りまくって嫌がらせ、それを繰り返してきただけだ。

S地区が騒がしい時も、こちらから増援に出ようとする部隊を片っ端から叩いていただけに過ぎない。

他の基地のような高度な戦術や戦略を駆使したことは一度もない、泥臭い現場主義の何でもありをやってきただけなのだ。

 

「ほかをあたってください、なんならもっとでかいチームを紹介しましょうか?」

 

(参ったわね、下手したら爆発しそう)

 

主にヘリアンの背後で腕を組んでいるウェルロッドの視線は厳しいの一言、グリフィンに強い忠誠を誓っているタイプなのだろう。

対する奏太たちはグリフィンにも鉄血にも大して興味がなく、提示された依頼にも一切興味なさそうだ。

どう折り合いをつけるようにそれとなく声をかけようか、フランシスが頭を悩ませているとヘリアンがさらにもう一枚書類を取り出した。

 

「ハンターオフィスからの依頼書…オフィスもこの件に一枚噛んでいるわけですか」

 

「あぁ、オフィスの辻本という男から渡すように頼まれた。君なら受けてくれると、な」

 

「辻本か。なら最初からこれを見せればよかったでしょうに」

 

「知り合いか?」

 

「友人です、たまに仕事をする中でして」

 

どうやら彼らの本業であるハンターの元締め、ハンターオフィスからの指名がかかっているらしい。どうやらこの一件にはオフィスも絡んできているようだ。

彼は書類を一通り読んでから、後ろに立っていた4人に書類を渡す。それを見た4人は目を丸くし、次いで表情を険しくする。

 

「つまりバカどもがこちらに持ち込んだのはあれだけじゃないと?それもやばいものと一緒に裏に流れてるだって?」

 

「そうだ、そしてもしまた事が起きれば、我々では対処しきれないかもしれない」

 

「正規軍だって手を焼く化け物どもいますし…なるほど、だから俺達か」

 

「そうだ、我々グリフィンはオフィスにこの地域における臨時オフィスの開設を依頼する。つまり、一種の提携だな。

君にはこちらで活動しオフィスから回される依頼を消化しつつ、できればグリフィンに協力して事態の収拾にあたってほしい。

なお、依頼にはグリフィンも一枚噛むこともなる。余裕があれば圏外にも彼女たちを連れて行って、鍛え上げてくれ」

 

「彼女たち、というのはこの基地の?おすすめはしませんね」

 

「彼女たちには鉄血以外にも多くの敵と戦ってもらうことになる。経験と力が必要だ。この件は国も承知している、問題はない」

 

「そういう意味ではないですが…上が許可したなら構わないでしょう、ですがハンターの仕事ははっきり言ってPMCのそれとは違いますよ?

一応裏を取った仕事を回してはもらえますが、何事も完璧じゃない。汚いこともあれば、裏で真っ黒なこともある」

 

「そんなもの、こちらと比べればまだマシではないか?」

 

ヘリアンの瞳がすらりと細くなり、奏太を鋭く射抜いた。その恐ろしいまでに経験の籠った威圧感に、フランシスは背筋が凍るような感じを覚えた。

 

「舐めるなよハンター、こちらは海千山千の魑魅魍魎が渦巻き、私利私欲のために喰らいあうくそみたいな世界だ。

上が白と言えば黒も白、正義も悪もない、生き残るためならなんだってやる金に汚い亡者どもだ」

 

「過去の栄光を未だにひきずる時代遅れどもが吠えるな、核まで使ったのにまだ現実逃避したりないのか?」

 

奏太も負けていない、彼から感じ取れるのは咽るような炎の匂いを感じる怒気。

一触即発、二人のにらみ合いにウェルロッドが腰を抜かし小さな悲鳴を上げてフランシスの後ろに隠れた。

フランシスも逃げ出したかった、恐ろしいほどの威圧感のぶつかり合いだ。

 

「ちょ、ちょっと何やっているのかしら!?」

 

同じように怯えて隠れたドリーマーにウェルロッドがしがみつく。

 

「怖い、怖い怖い怖い!な、なんとかして」

 

「出来たら苦労しないわよ!あなたの上司でしょ!」

 

「無理です、むりむりむり!あんなヘリアンさん見たことありません!」

 

そりゃ見たことないでしょうね、フランシスは二人からにじみ出る覇気が渦巻いてぶつかり合うのを見た気がした。

 

「権力者いつだって神になりたがる、金と権力さえあればなれるから。そしてそいつらの欲は底知れない。

第3次大戦は地獄だった、その結果がこのざまだ。それなのに、まだやるか?散々殺しておいてまだやるかぁ?」

 

「威勢がいいな、銃や剣で解決できないことは山ほどあるぞ。ここではそれが普通だ。奴らはまだしがみついている」

 

「確かに解決できないことはあんまりない、それはどこでもいっしょだ。人がいればそうもなる」

 

「ならばどうする?」

 

「金も使って黙らせればいい、それはどっちも同じだろ」

 

我が意を得たり、と言わんばかりに二人はにやりと笑って握手を交わす。何かの暗号なのか、それとも暗喩か、よくわからないが意気投合したようだ。

背後からか細い悲鳴が響く、さりげなく確認すると怯えた表情で二人は互いに抱き合っていた。気持ち話フランシスにもよくわかる。

怖い、怖いよこいつら。無条件に怖い、とにかく怖い。ヘリアンは奏太の答えに満足したのかにやりと笑い、奏太もひどく悪人面でケタケタ笑った。

AR-15が時々見せる悪だくみの顔はここから来てるのか、と特に意味のない答えを得たフランシスだった。

 

「ですが今の我々は物資が欠乏しています。何分長い時間足止めを食らっておりまして、持ち込んだ物資はすべて使いこんでしまいました。できれば一度帰郷したいのですが?」

 

「構わない、政府も空域の通行を認めた。依頼の期間中は、好きに出入りをしてもらってよいそうだ。

オフィスが第一陣を用意している、それが到着するまでは長い遠出は控えてほしいそうだがな」

 

「オフィスが?いつ頃で?」

 

「わからない、とりあえず早急にチームを二つ送るとのことだが向こうにも事情があるそうだ」

 

「そうですか、まぁ長距離移動になりますし仕方ない。飛行船を手配するのも手間ですしね」

 

「こちらからの提案は二つだ。これか、こちらか」

 

「どちらも受けない、もありますよ」

 

「ハンターは信用が第一だろう?オフィスまで蹴るのか?」

 

信用第一、それはM14達が口酸っぱく言っていることだ。だからこそ彼らは仕事が成り立っている。

信用される腕があり、信用できる目があるからだ。無理だと言って引くのも勇気だが、そればかりでは成り立たない。

ハンターオフィスという自分の所属する組織からの指名とくれば、それを反故にするには相応の理由が必要だ。

 

「それを言われると辛い…どうする?」

 

奏太は後ろで各々思案を巡らせていた四人に話しかけた。彼女たちは仕方ないとばかりに肩をすくめるなどしつつ頷いた。

 

「いいでしょう。この依頼、笹木一家が引き受けました」

 

「助かる。ところでなんでオフィスからの依頼だとこうもあっさりなんだ?」

 

「そりゃ法外な値段で肉盾募集した企業を信頼してるわけないでしょう」

 

そりゃ信用なんてしてるわけねーなー。あっけらかんと何もかもぶち壊すようなことをのたまった奏太にフランシスは不思議と共感を覚えた。

ヘリアンも身に覚えがあったのか少しムッとしつつも何も言わない。

 

(ん?待てよ、ということは私、お払い箱かしら…やったわ)

 

笹木一家がまだとどまるというならば、当然ながら基地も元鞘に納まるに違いない。

指揮官という職務には自分も大変重圧を感じていたところだ、後方参謀兼事務員のほうが気楽でいい。

なんだかんだでうまくやっていたのも事実だ、奏太にはお飾り指揮官兼前線部隊を担ってもらい自分が事務を一任すればうまくいく。

事務仕事の激化は避けられないだろうが、彼に頼めば事務員の補充は最優先で行ってくれるはずだ。

 

(今までもそうだったのよね、手段は正直褒められたもんじゃないけど)

 

この基地にいる事務方自立人形の大半は放棄されたホテルやロッジなどから指揮官達がかき集めた人形たちだ。

回収した彼女たちを支部におくり、精査と調整、再雇用契約を交わしてもらっているのである。だからメイド型が多い。

この辺りはほとんどさらったが、まだU05地区には探し切れていない場所はいくつもある。

それにほかの地区への遠征などがあれば、そこでも放棄された人形に出会えるかもしれない。

そんな彼女たちをスカウトすれば、事務職は大いに潤うだろう。彼も事務職の重要性は理解している、乗ってくれるはずだ。

 

(ふふふっ、事務職メイド隊の拡充計画はまだ潰えていない。それにみんなも喜んでくれるはず、あぁ、胃薬買いだめしなくてよくなりそう)

 

なんだかんだでいろいろせっつかれてはいたのだ、なんとか彼らをここにとどめるにはどうするべきかと。

彼女たちとは仲がいいから余計に気持ちがよくわかるし心も胃も痛かった課題だった。

 

「気になったのですがここは僻地です。お話ではU地区だけに展開する、というわけにはいかないのでしょう?基地の移転を?」

 

「いや、君たちには対E.L.I.D、対ミュータント戦を習熟してもらいたい。この地区は軽度汚染区域に認定される、その対策部隊も必要なのだ。

こちら側の汚染は軽度に収まっているとはいえ、今ある居住地にまで被害が拡大するのは好ましくない。

鉄血も第2支部は正規軍がすべて破壊したとはいえ残党はいるし、新たな鉄血の侵入はこれからも続くだろう」

 

「ではここを管理しつつ、部隊を事案ごとに派遣、というわけですか」

 

「そうなる、グリフィンはU地区軽度汚染区域から通常戦力部隊を随時撤退、対鉄血戦に向け配置転換する。監視部隊を残してな。

君たちはその監視部隊の一つとなり、普段は汚染区域の安定化と被害軽減に努めてもらいたい。

本部から長距離高速移動用にティルトローター機をこちらに送る。今貸与しているチヌークもそちらで運用してくれ。

それから圏外製の機体、武器類をいくつか調達してもらいたい。資金は経費で払う、できるか?」

 

「問題ありません、アウトーチにいいバイヤーがいます。うちの機体の修理を頼む予定ですから、その時にでも調達しましょう。

希望はありますか?なければこちらで手に入るものを調達しますが」

 

「そちらに任せるが、最低でも輸送機を一機は確保してくれ。この予算に納めるいいものを頼む」

 

「承知しました」

 

話が進みだすととんとん拍子だ。

 

「では我々はしばらくU05の一部隊として協力する、ということでよろしいですね?」

 

「その通り、君たちはチームだ。バラしては意味がないだろう?」

 

あれ?なんか違う方向に話し進んでない?このままだと彼らはただの雇われ部隊に事実上格下げってことにならないか?

 

「あ、あのヘリアントス上級代行官。少しよろしいでしょうか?」

 

「ヘリアンでいい、なんだ?」

 

「はい、その、彼は指揮官に戻らないので?」

 

「戻るわけがないだろう」

 

唖然、呆然、何が起きているのかわからない、フランシスはヘリアンの返答に思考が真っ白になった。

 

「いや、しかし、この部隊を育てたのは彼です。彼がトップに立ってこそ十二分の働きが期待できるのでは?」

 

「確かに彼は欲しいところだが状況が変わった。笹木一家には前線に出てもらわなければならない。

それに彼らはこちらでもハンターとして活動する。基地を留守にする場面も増える、到底仕事など任せられん」

 

「それでは実質、降格ではないですか。そんな理不尽な…」

 

「契機満了になっただけ、理不尽でも何でもありませんよ」

 

フランシスの言葉を奏太が遮る。目上と判断したのか敬語だ、フランシスは思わず背筋がむずむずした。

 

「そもそもただの雇われです、フランシス指揮官。分相応の立場というやつです」

 

「やめて、敬語はやめて!」

 

「おや、そうですか。では遠慮なく、これから頼むぞ!フランシス指揮官!」

 

奏太は実に晴れ晴れとしたいい笑顔でサムズアップ、後ろの四人も頷いたり同じようにがんばれとポーズをとった。

分かってしまった、これからもっとひどいことになる。それも、それも自分の胃が酷いことになる。

主にいろいろな感染源としてみんなを染め上げていくに違いない、きっとそうだ、そうなれば、そうなればァァ!!

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁァァァァァァッ!!!!!」

 

「愉快な奴だな」

 

「えぇ、だから信頼できる」

 




あとがき
爆誕、筋肉乙女指揮官の巻。またの名をスケープゴート、基地運営要員とも言います。
これで時間制限抜きに好き勝手出来るぜ。




ミニ解説

ハンター
人類生存可能圏外で活動する化け物殺したちの総称、元締めのハンターオフィスに所属する正規ハンターのことを指す。
2062年現在では、狩りだけでなく遺跡や未踏破汚染地帯の探索、バウンティーハントなど多角的に活動している。
ぺイラン島事件以後、増え続けるE.L.I.D感染者と後手後手になり始めた国の対策に業を煮やした害獣ハンターが、ありあわせの武器で普段の仕事のようにE.L.I.Dを狩り始めたのが始まり。
その活動は世界各所に起きており、世界大戦勃発後国家のほぼすべてが戦争に明け暮れる中で活動を活発化させた。
戦争にかかわらず居住地を守るハンターたちはやがて横のつながりが広がり、まとまりを持ち始めて元締めであるハンターオフィスが結成する。
国家もその活動を認めており、戦後は統制の意味も込めてハンターライセンスを国家資格化した。
しかし現在のPMCと被るところがあり、オフィス傘下の零細PMCの集まりと言えるハンターは大手企業のPMCに市場を奪われる。
また戦中の敵味方問わない活動にスパイ容疑がかけられるといったことが多くあり、それが元で富裕層などから不信感を持たれ活動に支障をきたす。
正規軍の再編により狩るべき獲物も減ったため、より生きやすい場所や新たな獲物を求めて人類生存可能圏外での活動を本格化。
やがて復興活動が安定化した人類生存可能圏からはほぼ排除され、現在ではその姿を見ることはほとんどない。
しかし必要性とオフィスそのものは国家に敵対していないことからライセンスは未だ有効であり、汚染地帯でも活躍できるハンターは場所を変えて今も活動している。
モチーフはメタルマックスよりモンスターハンター。




ハンターオフィス
国家に認められたハンターの元締め組織、依頼斡旋の他にも多くのサービスを提供している。
オフィスのある街周辺で起きる犯罪や小さな依頼など、大小さまざまな依頼を精査してハンターたちに提供している。
特に犯罪者や強力な化け物に行う賞金首設定は人気、一攫千金かつ分かりやすいのが長所だがその分危険である。
組織の技術力は高く、対化け物用武器の開発を手掛けたり、人形素体生体化施術も行える高い医療技術を保持している。
また圏外企業の多くに出資する組織でもあり、圏外での影響力は大きい。
圏外の交易路開通にいち早く着手した組織でもあり、多くの専属輸送部隊を保持している。
しかしそれを振り回す気はオフィスにはさらさらなく、事なかれ主義ではないが平穏第一。
第3次世界大戦が一種のトラウマと化しており、決して組織力をひけらかそうとはせず静かに業務を行う。
国家とのつながりは今もあり、現在は政権の顔ぶれも変わって関係は可もなく不可もなくといったところ。
人類生存可能圏外での情報収集や境界線でのE.L.I.D討伐などが主立っている。
モチーフはメタルマックスのハンターオフィス。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。