U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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基地が再編され、U05基地は正式に対ミュータント対策部隊として稼働する。しかし、この基地には足りないものが山ほどあった。


第9話・行動指針

 

新しく再編され、正規の新設基地となったU05基地だが即座に業務を再開するというわけにはいかなかった。

囮として急増されたこの基地は有り合わせの物とその場にあった物でそれらしく作られただけで、基地として稼働してこそいるが本来の基地業務を行うには見た目も機能も足りていない。

軽度生体汚染区域となった地区の運営、駐留及び運用部隊の拡大、人類生存可能圏外への遠征を含めたハンターオフィスとの提携など、この基地にかかる負担は大きくなる。

そのため基地は現在拡張及び強化改修が行われることになり、約一週間の突貫工事が行われる予定となっていた。

その間は休暇、となるはずもない。改修工事中も周辺警備はあり、随所で出没するミュータント類の対処も欠かせない。

また笹木一家は臨時オフィス運営と補給のため、人類生存可能圏外の一番近い街であるアウトーチに数人の人形と一緒に向かう事になっていた。

業務を一括管理するフランシスの城である事務室に併設された小会議室で活動方針を定めるため、笹木一家の奏太とP38、フランシス、ドリーマー、M16A1が話を詰めていた。

 

「指揮官、これが今回の遠征に関するみんなの要望だ」

 

「その呼び方はやめてくれ」

 

人形たちからの要望をまとめてきたM16A1から差し出されたリストを受け取りながら奏太は苦笑いして否定する。

自分はもう臨時指揮官職を解かれ、オフィスから派遣されたただのハンターでしかない。

基地での扱いも勝手に動き回る厄介な外様部隊といった立ち位置でほめられたものではないのだ、なのにM16は意に返さずににやりと笑うだけだ。

 

「愛称みたいなもんさ、大目に見てくれよ」

 

「ここの指揮官はフランに変わったんだ。ササキとか呼び捨てで頼むよ」

 

「勘弁してくれ、いまさらそんなのむず痒いって。それにフランはフランだろ?なぁ?」

 

M16の呼びかけにフランシスも頷く。

 

「私も指揮官呼びはごめんよ、いつもどおりで」

 

「それでいいのかよ指揮官、そもそも執務室じゃなくてなんでここなんだ?」

 

「あの部屋は必要ない、私の城はこの事務室よ。ここを譲る気はない、これは決定事項なの」

 

フランシスは胸を張り、有無を言わせぬ態度で奏太を見つめてにんまりと笑って見せる。

 

「それに私、あなたを人形部隊の指揮を有する前線指揮官に任命したのよ。今まで通り、みんなの指揮官をしながら前線で暴れてもらうわ」

 

フランシスはU05基地を預かる指揮官として、笹木奏太をU05基地の所属する人形への指揮権を有する前線指揮官として任命したのだ。

いわばこの基地はフランシスと奏太という二人の指揮官が存在する状態である、フランシスが上位にあるとはいえ指揮権と系統が絡まって害しかない作りだ。

 

「何度も聞くが本気か?こちとらいついなくなるかもわからない外様だぞ、あり得ない人事だ」

 

「これがベストだと考えているわ。それに依頼だってしたわよね?」

 

「…依頼は依頼だ、仕方ない。だがそれなら隊長とかでいいだろう?」

 

前線指揮官ならばできないわけじゃない、断る理由もない。指揮官としての報酬も程よい、今後の活動資金集めにはもってこいだ。

悲しいかな、依頼あってのハンター家業である。オフィス内での評価も考えればむやみに正規の依頼を断るわけにはいかないのだ。

 

「なら文句言わないで、指揮官」

 

「だから指揮官と呼ぶな、まったく。とりあえずリストは…おい、これ武器じゃないか。しかも近接系」

 

M16から渡されたのは基地に残る人形たちの私的なもの、つまりお土産希望リストである。

アウトーチで購入予定の武器や航空機、圏外由来の書籍などといったものは経費だが、こちらは完全な私費だ。

彼女たちもこれからの任務に対応するべく、今回はこちらでは手に入りにくい対化け物用近接武器を要望している。

H&R社との取引で圏内でも手に入るようにはなったが、オーダーメイドで値段が高いのがネックだ。

 

「いいんじゃないですか?クリーチャーならともかく、モンスターとE.L.I.D相手だとどのみち近接戦です。

それに自前なら自分勝手にカスタムしたってなにも問題ないですし、なにより愛着がわきますよ」

 

E.L.I.Dの強固な外皮を貫くためにはハンター用の銃火器であっても威力が足らず接近戦になる。

ハンターの用いる武器は正規軍のようなハイテクは少なく、ほとんどが旧来の実弾式であり正規軍の装備ほどの威力はない。

そのため近接武器との併用はハンターとして避けて通れない、寧ろ対化け物用ならば撃つより早くて安い場合もあるのだ。

 

「そうなんだけどな。だがナイフとかならまだしも34、刀って…」

 

「教えますよ?北辰一刀流」

 

専用ベルトで帯刀していた対化け物用九五式軍刀を持ち上げるしぐさをしながらP38はニコニコと明るい笑みを浮かべる。

P38は北辰一刀流の師範としての資格も持つ、多くの化け物と戦ってきた経験も加味すれば教官としてはもってこいだ。

MG34も長くこの基地で戦ってきた戦術人形だ、そのことも知っている。同じドイツ製銃火器を使う人形として思うところがあったのかもしれない。

 

「お前か感染源、しかも一人じゃねぇし…武器とかは経費で何とかするからそれ以外にほしいもので頼む、数打ち用意するから」

 

「わかった、伝えとく」

 

「お土産希望って言っといたはずなんだけどなぁ」

 

それでも結局同じ内容が帰ってきそうだな、と奏太は内心確信する。

私費で追加資料を求めてきたフランシスや圏外製戦闘用メイド服を希望する事務方自立人形たちのほうがまだましだ。

 

「ほしかったんだよ、あんたたちみたいにな。どれくらい向こうにいるつもりなんだ?」

 

「一週間くらいですね、機体の修理や補充もありますから。これが一応のリストです、正確なのは帰ってきたからですね」

 

P38は抱えていたクリップボードをそのままドリーマーに手渡す。挟まれた書類をざっと見た彼女も、少し呆れたような顔でぼやいた。

 

「そういうあなたたちも大概なもの混じってるんだけど?高射砲とか何に使うのよ」

 

「空の守りは必要です。飛行型に襲われたら今はひとたまりもない。圏外製の砲弾を使うなら砲も圏外製になりますよ」

 

「こんな古いのがね、うちらは許可もらってるからいいけど…でも本当に手に入るの?」

 

「そこは任せてくれ、向こうなら伝手はいくらでもあるからな」

 

奏太はにやりと笑って見せる。伊達にこの道で食ってきたわけではない。

 

「なら、調達はお願いね。お金は出すから余分に」

 

「そりゃ構わんが、何企んでんだ?」

 

「問題はほかにもあるの、その実弾に使うだけよ」

 

「というと?」

 

「情報網」

 

フランの言葉に奏太は首をかしげる。情報は確かに大事だ、あるかないかでその作戦の生死が決まる。

だがそれで悩むとはどういう事だ?情報ならば本部や支部、軍などから流れてくる手はずになっている。

それをもとにして作戦や計画を立てて仕事をするだけのはずだ。

 

「正確にはこの基地独自の情報網、できれば協力関係ね」

 

「独自?基地間の連絡網なら…いや、諜報なども包括した情報部門か?いるのか?この基地に」

 

「どこの基地も大なり小なり持っているものよ、私たちも相手が相手だし情報はいくらあっても足りないわ。ほかの地区にも出向くの、現地の新しい情報はいくらあってもいい。

それに基地同士で仲が良ければ、何かあった時のつながりにもなる。支援して恩を売ることだってできる」

 

「ですが、この基地独自にというのは大げさなのでは?本部や支部に問い合わせるだけで十分だと思いますが」

 

P38は手元のメモ帳にメモを取りながら整理しつつそれを否定する。それにM16とドリーマーが噛みついた。

 

「そうは思わないな。向こうだって何もかも知っているわけじゃないし、裏付けも必要だろう」

 

「それに私たちだって命を張るわけだしね、向こうとのやり取りがあれば助かるわ」

 

「それこそ本部や支部に仲介を頼むべきでは?それで十分賄えるかと。それに増援も、正規の要請ならばあちらもむげにしないのでは?」

 

「それだけじゃだめよ、良いように使われるだけ」

 

それの何がいけないんだろうか?奏太は単純に首をかしげる。そもそもこの手の仕事は依頼主のいいように使われるのが普通だ。

依頼主の要望に沿って仕事をするのだから、寧ろそれに反してどうするというのだろう。

もちろんあまりにポリシーに反する行為や犯罪ならば別ではあるが、そういうことが起きないように精査してくれるのがハンターオフィスだ。

 

「あんたたちならそれでもいいでしょうよ、いざとなりゃ尻尾巻いてとんずらするくらい楽なもんでしょ」

 

「あ?サラが尻軽だって?」

 

ドスの利いた一言と同時にドリーマーを一睨みする奏太。

 

「ちがうから、悪口じゃなくて言葉の綾よ!つまり、うちはそうじゃないってこと!」

 

「この基地を、みんなを守るには必要なのよ。なったからには全力を尽くす、妥協はしない」

 

フランは毅然とした瞳で奏太を見つめる。いい目だ、いっぱしの指揮官として責任を持った目をしている。

彼女が新指揮官になったのは正解だ、自分よりも立派に指揮官をしている。自分ならば、たとえ思いついても作らなかった。

情報は必要だが知り過ぎるのも良くない、知らないほうがいい事実や現実はいくらでもあるのだ。

奏太は小さく肩をすくめる、どのみち反対を表明してもそれを押し通せる立場ではない。今はただの雇われなのだ。

 

「わかってるよ、だが誰にどう担当させるんだ?うちの連中は戦闘特化なところがあるぞ、俺達もな」

 

「それはこっちで増員する人形たちと、事務方メイド隊を再編して構築するつもりよ。今のうちにね。

もう打診先は決めてある、まずS地区、本部のおひざ元ね。S10基地、S09P基地にお願いするつもりよ」

 

S10基地と言えばいつぞやの悪魔事件の際にお世話になった基地だ、基地間のやり取りはその時からいくらかあったのでやりやすいだろう。

シーナ指揮官は信頼できる、基地に併設された便利屋の面々も協力を取り付けられれば心強い。

 

「S09のP?あの要塞か?」

 

「要塞って…あぁ、あなた見てきたのね?」

 

「前に一度、遠目で外から見ただけだが尋常じゃない。侵入経路のありとあらゆるところに罠がごまんと仕掛けられてた」

 

思い出すだけでも寒気を感じる、一見何もないように見える通気口やダクトも罠だらけでずっと肝が冷えていた。

見た目は普通の大規模基地だが、見る人間が見れば近づくだけで回れ右するレベルであった。

大切な何かを守りたい、だから殺す。仕掛けた誰かのそんな思念がひしひしと伝わってくるのだ。

 

「S09には確か別の基地もあったはずだ。なぜP基地なんだ?」

 

「P基地は対鉄血用レーダー施設としての機能も兼ねているらしいの、情報が集まってると思ってね。

最近はS地区全体の監視も手掛けてて手広くやってるから繋がりを作って損はない。

向こうは激戦区だしね、どこに何が紛れ込んでもおかしくないし、戦いばかりで痕跡を追うのも一苦労でしょ?」

 

「ヘリアンさんやペルシカさんにも確認を取った、信用していい」

 

M16がフランの言葉に付け加える。あの二人の信用がある基地ならば、信じてもいいのだろう。同時に絶対に何かありそうだともわかった。

 

「もう一つはR08基地、R地区でミュータントとの戦闘経験がある基地よ。指揮官はデスクローの群れを単騎で狩る傑物。

別のPMCからのスカウト組で、あなたと同じく自前の戦術人形を運用してる。59式指揮官とも呼ばれてるらしいわ、背格好がそっくりらしいの」

 

「デスクローの群れを単騎で!?装備は?」

 

「情報だとプラズマライフルおよびレーザーライフル、ただ強化外骨格といった類は無しでヒット&アウェイを繰り返したらしいわ。

どうも相当ハイレベルな技術者でもあるみたい、彼女の配下の人形にも独自の改造を加えているそうよ。

最近じゃ、基地で農園やら酒造やらを初めてるようね。周辺住民とも生産物の取引のおかげで関係がいい」

 

「59式ってことはあの体躯か。超武闘派で頭脳明晰って、大したもんだなおい」

 

E.L.I.Dの群れを単騎で殲滅し、それでいて頭脳明晰で電子戦から高度な修理技能を持ち合わせるとは相当な傑物だ。

基地内とはいえ農園や酒造も手掛けるという事は生産系の技術と知識も豊富という事、PMCの一指揮官としてはもったいないくらいだ。

 

「ちなみにP基地もかなり手広くやってるわね、移動屋台、農業、軽畜産、アイドル活動による慰問などなど」

 

「…PMCとはいったい?」

 

「さぁ?私も最近よくわからなくなってきてるわね」

 

奏太の中でPMCという企業の認識がねじれる。ハンターでもそういった本業を持っている類はいる、それは自営業でありいろいろと自由が効くからだ。

農作業の合間、休耕期間の稼ぎとする農家も居れば、精肉店を本業として自ら狩ってきたものを売るハンターもいる。

しかしグリフィン&クルーガーは企業だ、国の認可を経た民間軍事警備会社である。農業だのは専門外のはずだ。

 

「どこも規模が大きいベテランばかりだな、こんな対ミュータント部隊の新参部隊を相手してくれるのか?向こうも鉄血相手で忙しいだろ。

そもそも内地じゃこういうのは正規軍案件だ、認可されたとはいえ変に思われるんじゃねぇか。それに印象も悪いだろ?」

 

「そうね、そうなったらしょうがない。いつも通りにやるだけよ」

 

引き際はフランもわかっているようだ、肩をすくめると椅子に背を持たれる。

多くの基地が対鉄血との戦いに集中し、対応に追われていく中で自分たちは別の敵と戦う。

鉄血との戦いに参加しないわけではないとはいえ、特別扱いされているといえるので周囲からの目は厳しいのだ。

 

「あとはU地区…なんだけど、今は手を付けるつもりはないわね。戦線の整理と引っ越しで大賑わいだもの」

 

「そうか、ま、なら任せるさ。他に必要なものは?」

 

「圏外の美味しいモノなんていいんじゃないかしら?」

 

「アウトーチでうまいモノ、ね」

 

奏太は頭を掻きながらアウトーチの地下都市で売られているものを思い浮かべた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

U05基地のハンガーに向かう小道、M2HBは満面の笑みを浮かべてダッフルバッグを肩にかけて歩いていた。

その横で同じようにダッフルバッグを持って歩くM3グリースガンも、M2HBほどわかりやすくではないが浮かれている。

なぜなら二人は笹木一家とともに人類生存可能圏外へ向かう部隊に選ばれたのだ。

明日の明朝、笹木一家とともに一式陸攻に乗り込んで人類生存可能圏外に向かい、近場の街であるアウトーチに向かうのだ

 

「楽しそうだね、M2」

 

「もちろん、あなただってそうでしょ?」

 

思わず鼻歌を歌ってしまうくらい上機嫌なM2の言葉にM3も頷く。

初めて向かう人類生存可能圏外、いったいどのような出会いと経験が待っているのか、それを考えるだけでもワクワクする。

これも旅の醍醐味、というやつなのだろう。今まで感じたこともない未知への興味、興奮がM2HBの胸を焦がしていた。

そんな二人の横を、段ボールを抱えて歩くM4SOPMODⅡは不機嫌そうな表情を隠さず恨めし気に二人を睨んだ。

 

「ずるいなー、いいなー、わたしなんて猫耳マッドのところだよ、くそっ」

 

「仕方ないじゃない、SPAR小隊は元々16LAB所属だし」

 

「そうだけど…だからって選考メンバーにはなから入れないってどういう事なんだよー!」

 

納得いかないと喚くSOPⅡ、その気持ちは二人もなんとなくだが理解できる。

今回の任務で連れて行くのは5人、だがそれを選ぶ際にSPAR小隊は最初から除外されていたのだ。

今までずっと一緒に戦ってきた仲間なのにその仕打ちだ酷いと思う、だがそれも理由があってのことだ。SOPⅡもそのあたりは分かっている。

理由は単純で、あくまでSPAR小隊はU05基地に派遣されているだけで所属自体はIOPの16LABだからだ。

 

「まーまー、今回は諦めなって。その猫耳が次からは自由にできるよう取り計らってくれるんでしょ?」

 

「むー」

 

「博士の気持ちも汲んであげなさいな、この前だってナイフ両手に大暴れだったじゃない」

 

「イメトレは欠かさなかったし、師匠と比べたらねー」

 

「指揮官達も行ったり来たりするって言ってたじゃない、まだまだチャンスはあるって」

 

「ぶーー…あーあ、私も早く量産されないかな。そうすれば私は試作品ってことで払い下げになるでしょ」

 

「…」

 

「…」

 

「え、なんで黙るのさ!?」

 

そっぽを向いて吹けない口笛を吹くM3と少し残念そうに顔をそむけるM2HB、彼女の願いはまだまだ難しそうだと思っていた。

 

「いや、まー、その、ねぇ?」

 

「AR小隊と言えばエリートですし、量産タイプもエリート規格でしょうからなかなか難しいんじゃない?」

 

「えー?でもFALとか…あ、オリジナル」

 

ふと思い至った原因、自分ではどうしようもない現実にSOPⅡは絶望した。

なにしろAR小隊のM4SOPMODⅡの人形嗜虐趣味は、グリフィン内などでは有名な話だ。

横で話している彼女は今はやっていないしむしろ嫌っているのだが、外部の印象としてはオリジナルがかなり強い。

IOPも企業である、売れないなら量産しない。

 

「まー…そういうこと、かも?」

 

「私までオリジナルに悩まされるんだ…」

 

M4SOPMODⅡタイプの量産型が作られるのはまだ先になりそうだと思い至って肩を落とすSOPⅡ。

精強と名高いけれども同時に悪名をとどろかせるオリジナルのSOPⅡ、あまりにも高い壁であった。

 

「あ、SOPⅡ、その荷物はこっちこっち」

 

「はい…」

 

目的地のハンガーにつくと、倉庫区画から顔を出したM14がSOPⅡに手招きする。

 

「元気ないね?どうしたの?」

 

「すこしわるいゆめをみただけだよ、えむふぉーけいはふうんだー」

 

抑揚のない言葉で返答するSOPⅡにM14は何か感じたらしく、彼女が倉庫の奥に行くとM2HBに小さな声で言った。

 

「こっちはまかせて。二人はあっち、機体の中ね」

 

M14はそれだけ言うと倉庫の中へと顔をひっこめた。二人M14の言う通り、勝手知ったる裏口を開けてハンガーの中に入る。

すると中から嗅ぎなれたエンジンオイルの匂いが漂い、右翼のエンジンのカバーを外した一式陸攻が駐機されていた。

その主翼の上に座り込みエンジンに腕を突っ込む少女の姿があり、M2HB達は機首の方に回り込んでからその姿に向かって問いかけた。

 

「コハク、荷物どうすればいい?」

 

「来たか」

 

一式陸攻のエンジンに腕を突っ込んでいたナガンM1895の油で汚れた顔が主翼の上からのぞく。

油で汚れたツナギ姿のナガンM1895はスパナを片手に持っており、エンジン整備に集中していたのが見受けられた。

 

「機体の中に箱があるからその中に入れておけ、美奈!油圧はどうじゃ?」

 

「だめー、ぜーんぜんあがんなーい!」

 

「やっぱダメか、最後の一つだというのに」

 

コックピットの中から聞こえるコルトM1911の返答に、ナガンM1895はぶつくさ言いながら円筒形の真新しいパーツをツナギのポケットから取り出してエンジンに取り付ける。

代わりに抜き出した円筒形のパーツは見るからに傷だらけで、油汚れが染みついていてボロボロだ。

 

「これでどうじゃ?」

 

「OK、こっちも再調節して確かめる!」

 

ナガンM1895がエンジン内部に手を突っ込むとスパナで何かを締める音が響く。

相変わらず何でも自分たちでやる連中だ、M2HBはM3と顔を見合わせて肩をすくめた。

 

「エンジンの具合はどうですか?」

 

「快調とは程遠い、部品はすり減って来とるしプラグもだいぶ使い込んどるから焦げが目立ってきとる。

そのうえ内地製の高純度バイオ燃料を使っとるおかげでガタガタじゃ。丸ごと換装せんといかんな」

 

M3の問いにナガンM1895は小さくため息をつきながら答える。それにM2は疑問に思った。

 

「高純度燃料の何がいけないの?」

 

指揮官達用に回されてきた航空機用バイオ燃料は純度の高いいわゆるハイオクだ。

富裕層がもつ自家用機にも使われる信頼のある会社が作った品で性能は国も認めている。

燃料の質は高ければ高いほどいいはずだ、だがナガンM1895はその燃料が気に入らないらしい。

 

「純度が良すぎて負担が増えてる、こいつはオクタンにすれば90くらいがちょうどいいようになっとるんじゃよ。

なのに回ってくるのは130オクタン相当の高純度と来た。エンジンの調整でなんとかしようにも、部品がなくてな」

 

「へぇ、意外と細かいのね」

 

「一つの油断で地獄へ真っ逆さま、今の時代じゃさらに生き地獄のおまけつきじゃからな」

 

「私は乗る専門だから考えたことなかったわね」

 

M2HBも愛用の武器が車載向きという事もあり車やヘリなどには多少詳しいが、乗りまわすつもりは毛頭なかった。

自分は生粋のガンナーであり、乗る場所は常に銃座か砲主席と決めているからだ。

 

「これからはそうは言ってられんぞ、ハンターになるなら単発機くらい飛ばせないとやっていけん」

 

「たんぱつ…戦闘機!」

 

相棒のM3の表情がキラキラと輝く。そういえばヘリを乗り回すようになったのは、奏太たちから戦闘機の話を聞いてからだったのをM2HBは思い出した。

M2HBがガンナーならばM3は運転手兼相棒、時に守り、時に導いてくれる大切な相棒だ。

彼女が乗るならその後ろを守る後部機銃手になる、それも悪くないと思った。

 

「コハクさん、何を予定してるんですか?」

 

「しばらくは赤とんぼ、あとは何があるかで変わるのぅ」

 

「練習機ですか?こっちのセスナでいいんじゃ?」

 

M3の表情が少し不思議そうになる。練習機として利用するならばM3の言う通り、圏内で生産されている練習用セスナがお得なはずだ。

エンジンは電動式モーター、教材を丸々一式インストールした教導機材完備、いざというときの全自動飛行や安全装置も備えた逸品である。

この時代の航空学校ではほとんどがこのような型の練習機を用いていて、安全に技術を覚えられるのだ。

 

「それは無理だよ、飛ぶだけならまだしも戦闘機動となるとセスナじゃ持たないし覚えらんない。

あれは車でいえばオートマティック、こっちはマニュアルだし、機体ごとに特性も何もかも違うもん」

 

少し悩んだナガンM1895のフォローをするようにコルトM1911が会話に割って入る。

彼女も油で汚れたツナギ姿で、額に安全ゴーグルをつけたスタイルで機首の爆撃手席の窓から体を乗り出していた。

 

「向こうだと核戦争の影響が残ってるから電子機器が狂いやすいんだよね、だからそれに頼らないやり方をする。

手法もそれに合わせてアナログになってるの、みんなだって私たちに合わせてただの無線を使ってくれてるでしょ?」

 

「あ、そうか」

 

「飛行機も船もWW2の設計を流用してるのはそのせい、最新式だとアナログ手法がやりにくかったりするからね」

 

コルトM1911は補修後の残る機体に手を滑らせる。

 

「そうだ、二人は向こうについたら何したい?」

 

「え?」

 

「だって一週間だよ、一週間。軽い仕事ならできる、こっちはずっとアウトーチにいるわけじゃないしさ」

 

「儂らも仕事をするつもりなのじゃ、稼げるときに稼がねばな。どうする?」

 

自分が何をしたいのか、そう問われてM2HBはにやりと笑う。試したことは決まっているのだ。

 

「もちろん、ハンターオフィスの登録試験を受けるわよ。二人でね!」

 

「頑張ります!」

 

まず第一目標、圏外でも通用するハンターオフィスへの登録を二人は目指すことにしていた。

ハンターはむやみになれるわけではない、門が広いとはいえちゃんとした試験を受けて合格した者が登録される。

当然ながら等級もあり、駆け出しの三級、中堅の二級、ベテランの一級となっている。二級まで取れれば仕事には苦労しないらしい。

これは依頼を割り振る上での実力の目安で、実力以上の仕事を受けさせて無駄に死者を出さないためだ。

グリフィンとハンターオフィスの提携があるうちはハンターと同行していれば、U05部隊の人形は仕事ができるが持っていたほうがずっと楽だ。

M2HBとM3は、オフィスごとに常に行っている三級ライセンスへの登録試験ならば余裕で受かると踏んでいた。

 

「あれ申請から一月後の試験になるから即日は無理だよ?」

 

出鼻をくじかれてしまったが。

 

 




あとがき
大体週一くらいが目安ですねこれ、はい、くそ雑魚大根です。
今回は準備会、次から笹木一家+αがお買い物に行きます。どんどん基地が強化されますよ。
それとハンター内の等級関連を少しやりました、これはモンハンの下位、上位、G級がモチーフです。
また今回は多くの先輩方から基地名の使用許可をいただいたうえで使用させていただきました。この場でもお礼申し上げます。



白黒モンブラン様作『Devils front line』よりS10基地。
以前お世話になったシーナ指揮官率いるS10基地、作るなら欠かせないと思い使わせていただきました。
S地区における作戦の際にはお世話になるかも、現状では唯一面識があって笹木一家も信用してます。
同時にデビルメイクライの面子とも接点がありますので、404小隊への印象が歪んでそう。

焔薙様作『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』よりS09P基地。
ハーメルンドルフロ界では知らない人はいないと思われるひだまりの基地、ほのぼのはええぞ。
まず申し訳ありませんでした、接点も何もない奏太から見たらP基地は恐ろしい要塞にしか映らなかったのです。
こちらは最近始めた業務を知って接触を決めた形です、裏のことは何にも知りません。
知っている人ならこの基地を覆うトラップと純粋な殺意に心当たりあるのでは?

セレンディ様作『人形指揮官』よりR08基地。
FOクロス系小説であり、指揮官のウェイストランド節やネタがジャストミート、クアンタムって最高やな。
デス様が大暴れしてるこの地区、そこで不思議な技術を使いながら辣腕を振るう指揮官の率いる基地として使わせていただきました。
しかしその戦果や能力を見れば見るほど本来の人物像と想像がかけ離れていくスタイル、当然こいつら勘違いしてらっしゃいます。



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