U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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メトロは良い、トンネルの閉塞感がゾクゾクします。飽きないんですよ、ほんと。


第11話・メトロライン2062―2

 

 

隣町までの道のりは順調だった、ボリスさんの乗ってきたカートの速力なら1日の距離。

暗いトンネルの中を進んでいく移動の間、ボリスさんから私たちはいろいろな話を聞いた、この外のこと、世界のこと。

世界は広い、私たちにインプットされていたことなんかちっぽけな情報だったと思い知らされた。

ほんの少し、目と鼻の先に少し出ただけなのにこうも世界は広がった。この地下世界でさえも、私の知らないことは山ほどある。

時間はあっという間に過ぎた。いくつか駅を通り過ぎ、ボリスさんの住む駅までもう少し、でもそう簡単に仕事が終わるはずもなかった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

トンネルの中は人通りが多少あるものの静かなものだ。少し埃っぽいトンネルは人類生存可能圏内で通っている地下鉄よりも古く、年季が入っている。

しかし整備は常にされていて、天井には電気がともり、所々で配線を直している近隣駅の技師の姿も見えた。

SuperSASSは先頭車両の一角に座り、ハンドカーの速度を調節するボリスと他愛のない会話を興じていた。

 

「パーク駅の特産品もできたんですか?」

 

「あぁ、少し前はモヤシだけだったが今はキノコとカイワレ大根を始めたよ」

 

地下での生活において新鮮な野菜はとてつもない貴重品だ。貴重なビタミン源であるし、体に必要な栄養もたっぷりと含まれている。

どうやらパーク駅では外部の街と取引が始まってからいろいろな試みが行われてきたらしい。

今盛んなのは、地上の街で生産に成功した汚染に強い新種を用いた野菜類の生産だ。

 

「モヤシはいいぞ、手間を惜しまなきゃ期待を裏切らん。採れたてに塩を振って炒めるだけでもたまらんわい」

 

天然モヤシ、採れたてで新鮮な野菜なんてものは大きな街の比較的お金のある人用の店でしか見たことがない。

SASSもグリフィンで働いてきて、新鮮な野菜というのは輸送任務の時くらいしか触っていない。

食べたこともほとんどなく、天然のモヤシは昨日の夕食のときに来て初めて食べた。

 

「おいしいですよね、あのシャキシャキした感じがたまりません」

 

「そうだろうそうだろう、シャキシャキぱりぱり、それでいてみずみずしくてなぁ。初めてできたやつを食べたときはなぁ、涙が出たもんだ」

 

ボリスは懐かしげにうんうんと頷く。

 

「昔はモヤシなんてどこでも売ってたし、安い野菜の代表格だった。時代は変わったなぁ」

 

「ボリスさんは、戦前のことをよく覚えてらっしゃるんですか?」

 

「あぁ、今でもサンクトペテルブルクの夜を思い出せるよ、あの夏は暑かった。

ネフスキー通りはごった返してて、車が列を作ってた。人々の笑いが絶えず、空気もきれいで、何もかもが輝いていた。

ほっそりしたいい女がいるバーがあって、飲むには最高。若い時はいつもそこで一杯ひっかけるのが日課だった。偉大な街、我が故郷、今や核の灰の中だ」

 

なんてすばらしい世界を破壊したんだろう。静かに、酷く後悔の気持ちが滲むつぶやきにSASSは胸に感じるものがあった。

自分は戦前の世界なんてものは知らない、ただデータと知っているだけだ。それでも今と比べたらどこまでも輝いていたことがわかる。

そんな世界で生まれて、その世界が壊れていく様を見てきた彼はいったいどんな気持ちで今まで生きてきたのだろうか。

人類生存可能圏の富裕層が送るような生活が当たり前だった世界を知り、そのうえでこうしてトンネルの中で暮らす彼はどんな気持ちなのだろうか。

 

「って、あぁ、すまんな。どうも年を取ると昔話に浸ってしまう、つまらない話をして悪かったね」

 

知りたいと思ったが、聞けなかった。聞いてはいけないと思った。辛すぎると思ったから。

SASSは首を横に振ってから愛想笑いを返す。言葉にできる気持ではなかった。

 

「そうだ、駅についたらうちの店によって行かないか?新鮮なモヤシを特別割引で提供するよ」

 

「わぁ!いいんですか!」

 

「あぁ、パーク駅自慢の地下モヤシだ。是非食べてくれ」

 

もう少しでつくぞ、次の駅を抜けたらすぐだ。と、ボリスはハンドカーの速力を緩めつつゆっくりといつも使っているという主要線路に入ろうとする。

するとその直前、主要線路を管理している兵士に呼び止められた。ボリスが怪訝そうに問い返すと、兵士も困った様子で答える。

この先の線路で野盗が目撃されており、居住地の警備部隊が狩り出している最中らしい。

危険だから普段は使われていない迂回用の保安用トンネルを使ってほしいそうだ、ボリスは仕方なさそうに頷いたがどこか顔色が優れない。

 

「大丈夫ですか?ボリスさん」

 

「あのトンネルは好かんのだ。なんというか、あそこを使うといつもひどい目に合う」

 

ボリス曰く、あそこと自分は相性が悪いようで何かしらハプニングが起きるから使いたくなかったそうだ。

SASSが聞いてみると脱線やエンジン破損などの笑えないハプニングから始まって、買ったばかりの時計を落としたり、割れないはずの瓶がなぜか割れているなどしょうもないものまでつらつらと出てきた。

 

「ほら、見えてきたぞ。まったく、いつ見ても嫌な扉だ」

 

保安用トンネルに入る隔壁はアウトーチなどで見かけるものよりもボロボロで塗装が剥げかかっている。

隔壁はカートが近づくと守衛が操作したのか重苦しい音を立てて開き、一向を中に誘う。

生暖かく湿った感じの悪い空気がトンネル内に交じった瞬間、唐突な空気汚染上昇警報のピープ音とカリカリという聞きたくない音が鳴りSASSは思わず変な声が出た。

咄嗟に懐から圏内製汚染測定装置を取り出すと、空気中の汚染状況を示すメーターがグリーンとイエロー行ったり来たりしている。

人間がガスマスク無しで生活できるギリギリという極めて劣悪な空気という事だ。さらに一瞬とはいえガイガーカウンターまで作動している。

現状では下がってきているものの、まずここまで測定装置が荒ぶるのを経験しない人類生存可能圏内に慣れていると精神的に悪い。

比較的安全と言われた地下でさえ、町を少し離れればこんな状況なら地上はどんな状況なのか考えたくもなかった。

 

「敵影なし、気を付けていきな」

 

クリアリングを担当した警備担当者が全く気にせず、ガスマスクもつけずに線路内に首を突っ込む。

笹木一家やボリスも警戒こそしているがガスマスクに手をかけすらしない当たりいつものことでこの程度の汚染は気にも留めないレベルという事だ。

それがまたSASS達グリフィン所属の人形たちに認識の差を思い知らせた。

 

「指揮官、イエローゾーンギリギリの反応が出たんだけど…」

 

「普段は使わないらしいしな、空気も淀むだろう」

 

今でもイエローの間際なのだが奏太は涼しい顔だ。少し悪いだけで測定器が警報を鳴らす、それが日常になるほど環境は厳しいのだ。

中は暗い、指揮官が一声あげて全員にライトを付けさせると、銃を構えておくように言った。

ふとボリスのほうを見ると、彼も護身用のダブルバレルショットガンを手元においていつでも撃てるようにしている。

 

「SASS」

 

「了解」

 

緊張した面持ちで銃を手に取ったFALの言葉にSASSは頷いて、自分も銃の安全装置を外して初弾を装填する。

愛銃であるSuperSASSはいつもの狙撃用光学スコープではなく、近中距離用のACOGサイトに付け替えた。

保安用トンネルは先ほどまでのトンネルと違い荒れていて、所々壁が崩れていた。

急造で付けたであろう苔むした木の梁には蜘蛛の巣と誇りが絡まって綿のようになり、崩れた壁が石ころの山を作っていた。

爆破して封鎖したのかいくつかの分かれ道の片方のトンネルはがれきで埋もれ、そのせいで全体的に土っぽい。

天井からは長年成長し続けた木の根っこが天井を突き破っており、垂れ幕のようになっている部分もある。

空気も生臭く、湿ったものに変わる。嫌な予感しかしない、ボリスの言う通りいい事なんて一つもなさそうなトンネルだ。

 

「警戒、気を引き締めろ」

 

言われるまでもない、奏太の指示にSASSは無言でうなずく。

前を守るのはFALと一〇〇式、カートの縁に重心を預けるようにして構えて銃口を前に向けていつでも撃てるようにしている。

二人を補佐するようにナガンM1895、ワルサーP38が周囲を睨む。二人の手にはいつもの拳銃ではなく奏太と同じガリルARが握られていた。

その後ろではコルトM1911がアブザッツの銃口を下に向けたまま腰だめにして、いつでも前に出て撃ちまくれるように備えている。

手慣れた手つきでそれぞれ銃を構える笹木一家の三人の姿は、タクティカルサバイバルスーツ姿なのもありよく似合っている。

しかし中身と戦術人形とは何たるかを知るものであれば、自分の半身以外の銃を握る彼女たちの姿は違和感をぬぐえないだろう。

アウトーチで装備を補充し、ほぼ完璧な状態を整えた笹木一家は以前から知る彼らとはまた別物のようだ。

最後尾のカートには銃座にアブザッツを据えたM2HBと彼女を補助するM3が臨戦態勢で後方を睨む。その横で奏太とM14が天井や壁の排気口を注意深く注視していた。

 

「SASSちゃん、いつでも撃てるようにな。嫌なにおいがする」

 

暗いトンネルをゆっくりハンドカーは進んでいく。明かりはハンドカーの随所についているランタンと各自が持っているライトだけだ。

ハンドカーはゆっくりと進んでいく、古いトンネルの線路は先ほどまでの主要線路と違って軋んでいる。

脱線したらと思うときが気ではない、SASSが思わずため息をつきそうになったとき、ボリスが怪訝そうな声を上げた。

 

「あれはなんだ?人か?」

 

ボリスはゆっくりと速度を落とし、懐中電灯を線路の奥へ向ける。照らされた線路の上には、確かに人間が一人うつぶせに倒れていた。

ボリスはブレーキを入れてハンドカーを止めた。

 

「怪しいな、パークはここからすぐだがこの先は坂道になっているんだ」

 

「調べよう。みんな、援護してくれ。サラ、儂と来い」

 

「了解」

 

後ろを担当して来た奏太とM14も、持ち場を離れずに腕だけを掲げてサムズアップを返す。こちらは任せろという事だ。

線路に降りたナガンM1895とP38はガリルARを注意深く構えながら進んでいく。

ボリスとSASS達からの明かりがぎりぎり届くところまでくると、彼女たちもライトを点灯して線路に横たわる死体に向けた。

二人が死体を仰向けにする。死体は汚れた服を着た男のようだ、離れていてよく見えないが胸元が真っ赤に染まっており何かで切り裂かれているように見える。

二人はその死体を検分し、死体を線路からどかした後で奥にぼんやりと見える作りかけの土嚢に向けてライトを照らす。

そして何かを確信したのか、小走りでハンドカーに戻ってきた。

 

「野盗じゃ。奥に作りかけの陣地があったが全滅してる」

 

「ここを通るキャラバンを待ち構えてたのか、しかし全滅しているとなれば…くそ、ノサリス共か?」

 

「あぁ、それもだいぶ規模が―――」

 

声がした、カートの後ろから追いかけてくるように聞こえる耳障りな甲高い鳴き声。犬や猫とは到底思える、不快で初めて聞く声だ。

次いで人間より敏感な耳が何かが次々と走って追いかけてくる音を拾う。それも一体や二体ではない、次々とやってくる。

後ろだけではない、前、横、上、下、すべてから聞こえるようにその鳴き声が反響している。

 

「え、なに?なんなのこれ?」

 

前と後ろからならわかる、だが上下左右というトンネルの中という閉鎖空間ではありえない声の響きにFALの声が動揺に震えていた。

空調ダクトの中にもノサリスが潜んでいるのだろうが、それにしても多すぎるし聞こえてくる足音や這い回る音が多すぎる。

戦術人形だからこそできるその場での音の解析と、音の発生源の移動経路分析でSASSは保安用トンネルの周りに何が走っているのかすぐに分かった。

 

「穴です、周りに穴が掘られてる!!」

 

「巣穴か!」

 

ボリスはエンジン出力を一気に上げてハンドカーを急発進させる。野党の死体を通り過ぎ、作りかけの土嚢を弾き飛ばして坂道に入る。

坂道はそれほど急ではないが、商品と護衛部隊という重い荷物を載せたハンドカーの速力は上がらずせいぜい時速20キロ出ているか否かといったところだ。

野盗も激しい戦闘と逃走を行ったのか、坂道には人間と人形の見る影もない死体がいくつも転がっていた。

 

「みんな構えて!ノサリスを乗せるな!!」

 

「前からも来てる!!」

 

「撃て撃て撃て!」

 

SASSは壁に張り付き飛びかかろうとしていた異形のミュータントを見て、咄嗟に引き金を引いた。

銃火に照らされ、一瞬だけはっきり見えたその全体像をSASSは目に焼き付けた。ノサリス、ネズミのミュータントと言われている化け物だ。

灰色の肌、鋭い牙とたるんだ鼻、毛のないネズミ頭のゴリラのような体躯、退化した瞳は体に比べて小さいが闇の中でも光を放ち獲物を逃さない。

そのノサリスがハンドカーを追ってくる、排気口や壁に空いた穴からトンネルに次々と現れて瞬く間にトンネルを埋め尽くすような数になった。

地面を四つ足で走ってくるノサリスだけではない、器用に壁や天井を伝って追いかけてくる個体もいる。

10や20ではない、それこそ無数というべき圧倒的な数だ。

SASSはすぐ後部に移動して追ってくるノサリスを撃ち殺していくが、いくら撃ち殺してもその隙間を別のノサリスが埋めてしまう。

M2HBのアブザッツがバックショットの散弾を重機関銃のような発射レートでばらまくが、その散弾の嵐でさえ一時的な効果でしかなかった。

 

「M3!ベルトをつないで!!」

 

「わかった!!」

 

M2HBの悲鳴のような指示に、M3は頷いてアブザッツ用の予備弾倉から20連発のショットシェルベルトリンクを引っ張り出す。

そして別の弾倉から取り出したベルトリンクとつなぎ合わせ、さらに別の弾倉のベルトリンクとつなぐ。60連発のベルトリンクの完成だ。

M2HBが今使っている弾倉が切れる瞬間を見計らってそのベルトリンクを渡した。

再び発砲、引き金を引きっぱなしで銃身を振り回し散弾をトンネル中にばらまくようにして撃ち続ける。

すさまじい勢いでショットシェルが飲み込まれていき、ノサリスの勢いが削がれる。その弾幕でもノサリスを完璧に止めるには至らない。

向かって右側の壁に張り付いて追ってくるノサリスをM2HBが銃口を向けた途端、地面を疾駆していた一匹が跳躍しハンドカーの縁にしがみついた。

 

「おらぁ!!」

 

すぐさま奏太がしがみつくノサリスの鼻柱に左ストレートを叩きつけて殴り落とすが、その跳躍力にSASSは恐ろしいものを感じた。

ハンドカーにまた衝撃が走る、咄嗟に自分のすぐ左を見るとノサリスが縁に捕まって牙を抜いていた。

すぐさまナイフを抜き、大口を開いたノサリスの眉間を貫き、ハンドカーから払い落とす。

ハンドカーは坂道を抜け、広いトンネルに出た。保安用トンネルを抜け、パーク駅に入る隔壁前の合流口に出たのだ。

かつては地下鉄が二本となりあって走れるよう作られたトンネルは広く、先ほどの保安用トンネルのような狭苦しさはない。

だが同時に、そこが終着でもあった。目的地のパーク駅であり、中に入る隔壁は閉じられている。ハンドカーも隔壁の手前で止まるしかなかった。

隔壁上部に設置された投光器の光を照らされ、鉄格子で遮られた監視所で警備していたらしい男性兵士が格子にかじりつきながら叫んだ。

 

「ボリス!いったい何があった!!」

 

「開けろ!早く!!ノサリス共だ、トンネルに巣を作ってるぞ!!」

 

「畜生いつの間に!みんなを集めてくる、少し待ってくれ!!」

 

兵士は踵を返して監視所から奥に消える、次いでトンネルに響く警報音が鳴り黄色い警告灯がトンネルをチカチカと照らした。

 

「弾薬を補充して散らばれ!」

 

奏太の指示に従いSASSは予備の弾薬を手っ取り早くポーチに突っ込んでからカートから降りて、カートを守るように線路の上へ展開して銃を構える。

カートの上ではガリルARを撃ちまくっていたP38とナガンM1895もショートブレードや刀をいつでも抜けるようにする。

景気よくアブザッツを撃ちまくっていたコルトM1911も、いつもの拳銃にバトルハンマーを手に取って飛び出した。

 

「間隔を広めにとって構えろ、遮蔽は無意味だ!接近戦になるぞ!!」

 

「あぁもぅ!だから散弾銃なわけ!!?」

 

M2HBは悪態をつきながらアブザッツを銃座から外し、ベルトリンクを持てるだけ持ってM3と牽制射撃を加えながら壁際に陣取る。

銃座を使えば射撃は安定するが射角が制限されてしまうからだろう、天井も伝うノサリス相手では分が悪い。

FALと一〇〇式も銃剣を銃につけ、互いをカバーするように寄り添いながら銃を構える。

敵はすぐに来た、SASSが手短なノサリスに銃口を向けるとそれを見た数体はサイドステップで射線から逃れようとした。

 

(やっぱり銃のこと分かってる)

 

すべての個体が避けるわけではないのがまた厄介だ、避けた個体を追えばまっすぐ突っ込んでくる個体に距離を詰められてしまう。

かといって突っ込んでくる個体を先に処理すれば避けた個体がその間フリーとなる。

数で負けていて仲間も手一杯な状況では連携で対処するのも難しい、とてつもなく厄介だ。

年齢を重ね、経験を重ねた個体ほどその傾向が強いのだろう。これまで戦ってきた化け物たちもそんな予兆はあった、敵も進化しているのだ。

いくら撃っても減らないノサリスたちの攻撃はどんどんと激しさを増していく。

ノサリスは手ごわい、閉所で全力疾走してくる相手ならば思い出したくないグリム相手で経験済みだがそれ以上にノサリスは厄介だ。

グリムは腕力こそ強いが体が弱い、思い切り殴ればそれで殺せるし胴体を撃ち抜くだけで倒せる。

だがノサリスは適当に撃つだけではだめだ、胴体に2発の7.62ミリNATO弾を撃ち込まれてもダメージにはなるが平気で跳ね回る。

一発で殺すには急所の心臓や頭を撃ち抜かなければならないが、悠長に狙っている暇が今はない。

保安用トンネルから雪崩のように飛び出してくるノサリスは身軽な挙動で線路内を跳ねまわり、壁や天井に張り付いて三次元軌道で距離を詰めてくる。

とにかく撃つしかない、死ぬまで撃ち込んで次々と殺していかなければ。

 

「数が多い!」

 

「馬鹿!突っ立ってる奴があるか!!」

 

アブザッツを撃ちまくるM2HBに背後から忍び寄るノサリスの前に割り込んでショートブレードを振るうナガンM1895。

彼女の言う通り抑えきれるような状況ではない、隔壁を背後にしているとはいえ周囲はノサリスだらけだ。

ナガンM1895に向かってノサリスは次々と四方八方から飛び掛かり、彼女はそれを回避しつつ次々と首や手足を切りつけていく。

一体目の首を横一文字に斬り落とし、次いでもう一匹の振り上げた右腕を切り飛ばして無力化し、背後から飛び掛かるもう一匹を除けることで互いを衝突させる。

そして密着した二匹を愛用の魔改造リボルバーで至近距離から撃ち殺し、次から次へとやってくるノサリスの急所を狙って的確に一発で撃ち殺した。

 

「リロード!」

 

弾切れになり一瞬とはいえ再装填の隙ができる、そこをナガンM1895は近くにいたワルサーP38に声をかけてから弾倉をスイングアウトする。

P38は無言でうなずき、スピードローダーで再装填する彼女に突っ込もうとするノサリスの首を九五式軍刀で貫く。

それで時間が稼げる、その隙にナガンM1895の再装填が終わり、P38をかばうように前に出て次は彼女の再装填を援護する。

P38も愛銃の空弾倉を素早く入れ替えてナガンM1895の背中を叩いて知らせ、二人は再び分かれてノサリスに向かっていく。

 

「やぁぁぁッ!!」

 

「キリがないわね!」

 

ノサリスの頭に銃剣を突き刺す一〇〇式の雄たけびとFALの忌々しそうな叫びはグリフィン所属の人形たちの耳に深く響く。キリがない、確かにそうなのだ。

これまで戦ってきた敵は数がある程度わかっていた、ある程度倒せば撤退させることもできた。

このノサリスたちを追い返すことはできるだろう、倒しきることもできるだろう。だが問題は数だ、どれだけ倒せばいいのか見当もつかない。

いままでも正確な情報の無い鉄血部隊と幾度となく交戦してきたことはあるが、それとは別の意味で負担が大きすぎた。

 

「手洗い歓迎だ、モスクワを思い出す」

 

「音波野郎がいないだけましだけども多いよ!」

 

「赤だの帝国だのよりマシ!」

 

近づいてくるノサリスたちを片っ端から撃ち殺し、殴り殺し、切り殺しながらも余裕を見せる奏太・コルトM1911・M14の3人。

コルトM1911はバトルハンマーを振り回し、確実に一撃で仕留めたり二体丸ごと殴り飛ばしたりと大暴れだ。

その背後を守るのはM14、銃剣を付けた愛銃を槍のように振り回してノサリスを突き殺し、薙ぎ倒し、撃ち殺す。

その隙をうめるように奏太がガリルARと大型マチェットで援護する。一歩引いた位置で暴れる彼だが、ノサリスに囲まれても涼しい顔で殺し尽くしていく。

右手一本でガリルARを的確に撃ち、左手一本でマチェットを振り回すのだ。まるでどこから飛び掛かってくるか見えているかのように、その軌道に銃口を向けて撃つ。

真上から奇襲をかけようとするノサリスをよけ、その頭を蹴り上げて顎舌を無理やり隙だらけにした。

 

「撃ちながら動け!ブルートだと思えばいい!!」

 

「そんな無茶な!!」

 

ノサリスの首をマチェットで貫く奏太の言葉に、SASSは這い寄ってくるノサリスを撃ち殺しつつ反論する。

近接戦闘型の鉄血製戦術人形『ブルート』は確かに強敵だ、高周波コンバットナイフのみという特化型の装備とはいえそれに合わせた脚力と俊敏さで一気に距離を詰めてくる。

しかしあくまで地面を走る二次元機動が主であり、閉所などでは三角飛びなどトリッキーな動きを見せてくるがそちらのほうがまだましだ。

トンネルの壁や天井を自在に使って人間や人形にできない動きを見せるノサリスの三次元機動はブルートのそれを凌駕しているように感じた。

 

「あぁクソ!!」

 

「上!上にまた!!」

 

天井に張り付いてにじり寄ってきたノサリスに気付いたM2HBとM3が罵声を上げながら撃ち落とす。

M2HBが振り回すアブザッツの面制圧とM3の制圧射撃をもろに喰らってノサリスたちがバタバタと落ちてくる。それでも終わらない。

恐ろしいまでの物量だ、まるで巣そのものが襲い掛かってきているような勢いを感じる。

終わりが見えない、なのに手持ちの銃弾はどんどん減っていく。補給はあるがそれも有限で、追加支援はここにはない。

接近戦を常に意識している奏太たちの気持ちがよく分かってきた、銃だけではどうやっても限度がすぐに見えてしまうのだ。

 

(きつい、数が多すぎる!)

 

次々と現れるノサリスに狙いを定めて撃ち続けるSASSは、自身の電脳に走る痛みに唇を強く結んだ。

すでに残弾は半分を切った、スナイパーライフルであるにもかかわらずアサルトライフルのように撃ちまくっている自分の銃は熱を持ち始めている。

電脳の思考タスクが無数に増え、処理能力を圧迫する。もう彼我の距離は間近、閉所向けにつけたACOGサイトすら邪魔に感じる。

線路が死体で埋まっていく、それを飛び越えて次々とノサリスは襲い掛かってくる。いくら殺されても襲ってくる。

何のために襲ってくるんだ?食うために決まってる、ノサリスだって生きている、これは食うか食われるかの生存戦争なのだ。

 

「ゲートが開くぞ!!」

 

どれだけのノサリスを倒したのか、20を超えて数えるのをやめるほど撃った時カートの上から援護していたボリスが叫ぶ。

振り向けば、隔壁が重苦しい音を立てて開き始めて隙間から完全武装に兵士たちが次々と飛び出してきた。

パーク駅の警備部隊だろう彼らはAK74や5.45ミリサブマシンガンで的確にノサリスを倒す。

 

「早く中へ!」

 

「引け!中に入れ!!」

 

責任者らしい兵士の手招きをみた奏太の命令にSASSは銃撃で牽制しながら警備部隊とすれ違うようにゲートの方へ向かう。

明るい人気のあるゲートの奥に見える防衛線の張られたホームが、無性に恋しく感じられた。

すでにボリスのハンドカーは引き込まれている、あとは自分たちが逃げ込んでしまえばすべてが終わる。

終わりが見えた、早く終わりにしたい、SASSはその光に向けて一心不乱に走り出す。それがいけなかった。

 

「SASSちゃん、上だ!」

 

ボリスの警告が聞こえた気がして、SASSの視界は地面にたたきつけられた。

全身に走る痛みと、頭を押しつぶすような衝撃に視界が暗転し、頭を大きな手で握られる感覚を覚えた。

ノサリスの手が思い切り引き抜かれ、顎ひもを引きちぎりながらバイザー付きヘルメットが剥ぎ取られる。

まずい、次に頭をつかまれれば確実に殺される。SASSは背筋に走る悪寒を感じながらもがいた。

無我夢中でリボルバーを引き抜き、上半身をよじってノサリスの下腹部に銃口を押し当てて6発すべてを撃ち込む。

44口径マグナム弾をまとめて受けたノサリスが悲鳴を上げて身をよじる、その頭に別の銃口が付きつけられて火を噴いた。

 

「生きてるな、行くぞ」

 

ノサリスを撃ち殺したナガンM1895が手を差し伸べる、見渡せば笹木一家がSASSを守るように展開してノサリスを食い止めている。

SASSは自分を救ってくれた彼女の差し出した左手を握って立ち上がり、援護されながらゲートの中へと飛び込んだ。

 

「あとは任せろ!」

 

「ナイスガッツ!」

 

隔壁の奥にある防衛線に展開した警備部隊の援護射撃に守られながら、最前線の兵士よりも一歩前に重装備の兵士が3人展開する。

その手には手作り感のある火炎放射器が握られており、これから何をする気なのかがすぐに分かった。

 

「ヤツラを吹っ飛ばせ!!」

 

「おらおら!パーティーはおしまいだぜクソども!!」

 

「ノサリス共の丸焼きだァ!」

 

線路上、壁、天井を舐めるように噴き出した火炎放射器による攻撃がノサリスたちを飲み込み燃やしていく。

ノサリスは炎に慄きながらも突撃しようとして、警備隊や奏太たちの援護射撃を受けて倒れていく。

一転して狩られる立場となったノサリスたちの攻撃は、徐々に尻すぼみになっていく。

警備兵たちは引いていくノサリスを押し出すように展開し、トンネル内を確保しつつ前進して保安用トンネルまでノサリスを追い立てていった。

保安用トンネルまで追い返されたノサリスは襲撃失敗を悟ったらしく、我先にトンネルの奥は壊れた通気口に飛び込んでいく。

その姿をSASSはハンドカーに背を預け、生き残った達成感と倦怠感を感じながら見送った。

 

 




あとがき
メトロを見ながら書き続け、ようやく形になりました。これにてSASSちゃん視点は終了としようかと思います。
鉄血や人権団体とは違う、文字通り生きるための戦いを意識してみました。食うか食われるかです。
次はいったんU05基地に戻そうと思います、コラボの反応とか書かなければなるまい。
もし場面が想像しづらい方はユーチューブなどでメトロ2033で検索してみてくださいな(露骨な宣伝)



ミニ解説

ノサリス
出典・メトロシリーズ
核戦争後にロシアの各所で出現し始めたミュータント、ネズミが変異したと考えられているが詳しいことはいまだに解明されていない。
人間と同様に手足がある四足歩行型のミュータントだが、2足歩行も可能であり両手でのかぎづめ攻撃は非常に機敏で危険。
肉体はライフル弾を数発受けた程度ではびくともしないほど強靭で、速やかに無力化するには頭や心臓を撃つのが早いが技術がいる。
主に地下で生活しており地上にはあまり表れないが、地上の汚染が酷くメトロや地下施設で暮らす地域では厄介の種となっている。
非常に凶暴で狡猾、肉食であり人間などの獲物をテリトリーで発見すると大群で襲撃してくる。
トンネル内での狩りに特化しているのか閉所での挙動は大変機敏、またダクトや自ら掘った横穴などさまざまな場所に潜伏しているので神出鬼没である。
より肉体が強靭になったタイプやムササビのような姿をしたタイプも存在し、特異な能力を持っていることがある。
こいつらの集団を一人でさばけるようになれば十分一人前である。
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