U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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圏外地上探索の続き、大体世界は狂ってるので何があってもおかしくない(無責任)


第14話・17yearAfter2

崩壊した街の只中、荒廃した路地裏で銃声と化け物の悲鳴がこだまする。

パーク駅を出てすでに1時間、奏太たちはハウラーやデーモンに追い掛け回されながら街の中を進んでいた。

ハウラー、体長2メートルほどの4つ足の真っ黒な毛むくじゃら。元がどんな生き物だったは分からないが確実なのは、肉食で獰猛なミュータントだという事だ。

崩壊した街の中、奏太は飛びかかってくるハウラーの顎をマチェットで貫いて即死させる。

相変わらず気味の悪い顔だ、変異しているもののハウラーの顔はどこか人間の顔のようにも見える。

もしかしたら人間の成れの果てかもな、さながら人面犬か?笑えねぇぜ。

 

(マクスウェルの言う通り、ハウラーの縄張りがとっ散らかってるな。しかもまだ落ち着いてない)

 

こりゃ骨だな、そう思いながら奏太はハウラーの顎からマチェットを引き抜き、振り向きざまに忍び寄ってきたハウラーの頭に振り下ろす。

この一時間、少しの間をおいて10匹ほどの集団による攻撃が連続している。

追尾されているような様子は見られないことから、新しくできた縄張りの自分たちが出たり入ったりしているのだろう。

処理しきれないほどの数ではないし、ハウラーの練度もそれほどではないが休む暇がないのは新人を連れている状態だと少し厳しい。

 

「終わりよね?そうよね?」

 

襲撃してきた一団をせん滅し、文字通り肩で息をするFALの息苦しそうな問いに奏太は肩をすくめた。

 

「こいつらはな」

 

「その口ぶり…まだ来るの?もう30は殺してるわ。普通怖気づくでしょ?」

 

「この程度じゃ奴らは恐れない、現に銃をぶっ放しても逃げないだろ?そもそも街中にいるんだ」

 

「弾が持たないわ…」

 

ハウラーの襲撃の連続ですっかり消耗したのかFALは見るからに肩を落として落胆する。

それでも愛銃の弾倉を交換する当たりはさすがだが、いつもの彼女とは程遠い。慣れない環境での戦闘で消耗しているのだ。

ガスマスクで限られた視界、制限される呼吸、電脳に走るエラーなど様々な要素が彼女たちを消耗させている。

 

「これで3度目、二人の消耗が心配じゃ」

 

ナガンM1895の心配そうな言葉に奏太はうなずく。ここはグリフィン管轄区の戦場のように状況に応じて武器弾薬の補充をできるような場所ではない。

運が良ければ戦前の置き土産や先人の遺品の調達できるが、放置されていたそれは傷んでいる可能性もあるし持ち込んだ銃器に対応してるかどうかは運だ。

基本的には持ち込んでいる武器弾薬と体が命綱なのだが、一〇〇式とFALはそのあたりはまだ不慣れなのだ。

戦うことはできているが鉄血との戦いと同じ感覚で撃ちまくるところがあるため弾薬の消耗が早い。

それを見越してマガジンポーチだけでなくバックパックにも持てるだけ詰め込むよう指示しているが、焼け石に水かもしれない。

彼女たちの付き合いはグリフィンの中では長い、U05基地に臨時指揮官になったころからの付き合いだ。

だからこそ今回の遠征メンバーに加えたのだが、こちらに連れてくるのはまだ早すぎたのかもしれないと感じていた。

 

「一〇〇式、平気か?」

 

「は、はい…うぇ…ありがとうござい、ます…」

 

ナガンM1895の問いかけに一〇〇式は少し息苦しそうに答える、その様子に奏太はすぐにピンときた。

よく見ると一〇〇式のマスクの内側がうっすら曇っており、顔色も少し悪い。フィルターが限界なのだ。

 

「一〇〇式、FAL、マスクのフィルターを変えときな」

 

「え?まだあと10分使えますけど…」

 

一〇〇式は自分の腕時計を見て息苦しそうにぼやく。彼女の時計のタイマーはおよそちょうど二〇分経過したところだ。

すでに二人は2つ目を使い切ろうとしている。ハウラーの襲撃と緊張のせいで普段よりも息が早くなってしまったのだろう。

 

「苦しいだろ、マスクも曇るから変えておけ。じゃないとやられちまう」

 

ついでに水も飲んでおけ、と言ってから奏太は自分の水筒を取り出してマスクをずらしてから素早く一口だけ口に含んで被りなおす。

口の中で転がし、しっかりと味わってから体にしみこませるように飲み干す。濾過された精製水は貴重品だ、それは人類生存可能圏外でも同じである。

再び歩き出しながら奏太はもう一口水を飲み、蓋を閉めてしっかりとしまう。路地裏を出ると街を走っていた主要幹線道路に出た。

主要幹線道路だったらしい片面3車線の道路はボロボロで、下水が崩れたのか中心が崩れて川になっている。

川の流れは激しく、濁った水がざぶざぶと大きな音を立てていて落ちれば最後どこまでも流されてしまうだろう。

残った車道にも車や戦車の残骸が赤さびを浮かせており、死角になる部分が多い。

 

「一〇〇式、川には近寄るな。汚染されるぞ」

 

「やっぱりですか?」

 

「内地の川とは比較にならない、それにシュリンプが潜んでるかもしれないからな」

 

シュリンプは川エビが変異したと思われる甲殻類型の水棲ミュータントだ。

ミレルークの親戚のようなもので、丈夫な甲殻を身にまとった重装甲タイプで食用になるという特性も似通っている。

ミレルークのように陸地もある程度動けるが水辺を離れることは少ない、その分水辺で遭遇した時のしつこさと凶暴性は目に余るのだ。

しかも個体によっては軽トラック並みにまで巨大化し、凶暴性も増して非常に危険なのだ。

大きくなればなるほど甲殻も分厚くなり殺しにくくなるので、そいつを狙っているとき以外はなるべき遭遇したくない部類だ。

首をかしげるfALと一〇〇式に分かりやすいように奏太は川べりで横倒しになった小型戦車、どこかの同業が使っていたのだろうM3リー軽戦車の残骸を顎で示す。

M3リーの車体には殴られたような凹みや巨大なハサミで切られたような切り傷がいくつもついており、搭乗員の座席に近い部分のハッチや装甲が捲られて内部を晒している

車体に弾痕や爆発跡はなく、主砲は切り落とされておりキャタピラも外れていて、動けないままミュータントにたかられたのがよく分かった。

 

「あれをやったのがシュリンプだ。砲塔が捲られて歪んでるだろ?大型が潜んでる証拠だ、それも複数な」

 

一体や二体ならば戦車の圧勝だ、M3リー軽戦車の37ミリ主砲で甲殻を撃ち抜き、その車体とキャタピラで踏みつぶせる。

それがこうも無残にやられているという事は強力な個体が複数いる証拠に他ならない、十分危険地帯という事だ。

 

「まるで缶詰ね」

 

FALのぼやきに奏太は頷く、ミュータントにとって戦車や装甲車は強敵だが同時に美味しいお肉の詰まった缶詰だ。武器を剥いで足を奪えば、あとは蓋を開けて中身を頂ける。

それを相手も理解してそのうえで行動する。勝てないなら逃げる、向かってきたら自信ありということだ。

なるべく水辺に近寄らないように、歩道に沿って進む。水辺は静かなままで、シュリンプが飛び出してくる様子はない。通りの曲がり角までもう少しといったところだ。

このままこの大通りを抜ければ、セーフハウスまではもう少しなのだが奏太は周囲に違和感を感じ取った。

 

「止まれ…臭いな」

 

大通りの街かど、風化して草が生え放題になったカフェテラスの残骸を踏みしめながら周囲を見回す。

崩壊した建物の瓦礫だらけの歩道、車道には車が朽ち果てて赤錆だらけになっている。道路もひび割れ、草が伸びている。

その中に奏太は何かの息遣いを聞き取った、わずかに聞こえる荒い息遣い、息をひそめているのに漏れているわずかな音だ。

ナガンM1895も気づいて、ARW002の引き金に指をかける。二人のスイッチが入ったことに気付いたFALは忌々しそうに問いかけた。

 

「またハウラー?」

 

「いや、スノークだ」

 

瓦礫の中から伸びてきた手を踏み抑え、硬質化した肌にシャンブラーで関節部分を二連射。

通常弾とはいえ至近距離からの散弾はこのタイプのE.L.I.Dならば十分通用する。

散弾で引きちぎられた腕を振り回しながら飛び出してきたミュータントに、見慣れない一〇〇式とFALの息を呑む音が聞こえた。

姿かたちはガスマスクをかぶった人間、軍用ズボンにタンクトップを身に着けた軍属を思わせる格好だ。

悲鳴につられて出てきただろう同族もガスマスクをかぶり四つん這いで獣のような行動をとる。

どうやら彼らの縄張りに踏み込んでいたようだ、それらしい特徴を見受けられなかったのはおそらく出来立てだからだろう。

もがくスノークの頭を散弾で吹き飛ばし、新手に残弾をすべて撃ち込んで確実に殺しつつ歩を進める。

奇襲に失敗したことを悟ったのだろう、奏太に近い場所に隠れていたスノークががれきの下や車の中から飛び出して威嚇し始めた。

 

「今度はスノークか、ハウラーを待ち伏せておったか?」

 

ナガンM1895の苦笑に奏太も笑う。だとしたらこいつらは運がない、人間と人形の四人組ではお腹いっぱいにはならないだろう。

スノーク、コーラップスの放射線とアノマリーなどの精神放射で頭が先にイカレタ人間の成れの果てだ。

獣のような4足歩行を主としており、足の筋肉が異常発達していて機敏かつ怪力のE.L.I.Dである。

変異する前の習慣を繰り返すのかガスマスクをかぶり、ボロボロの服を身にまとう習性がある。

おかしいな、奏太はスノークたちの背格好を見て疑問を覚えた。妙に身に着けている装備が充実していて、スノークにしては小綺麗なのだ。

着ている戦闘服もよく見れば統一された規格の物で、身に着けている装備もボロボロではあるが形を保っている。

 

「妙なスノークだな、なり立てか」

 

「ドロップシップの連中かもしれんぞ。みろ、パイロットじゃないか?」

 

ナガンM1895が顎で示した個体、牙をむいて威嚇するスノークはボロボロのパイロットスーツと防弾ベスト、ヘルメットをかぶっていた。

デザインは圏外で生産されているものよりも洗練されており素材も違うように見える、圏内製のようだ。

 

「そうだな…二人とも、K弾は使うな。抜けちまうぞ」

 

言われる前に対ELID用徹甲弾を再装填しようとしていたFALと一〇〇式を制止する。

スノークが相手では徹甲弾の貫通力は強すぎてまともなダメージにならない。小さな穴をあけるだけすぐに回復されてしまう。

 

「予定変更、ちょいと相手しよう」

 

「二人とも、こいつらは足癖が悪いから注意するのじゃぞ」

 

スノークは獣のように襲ってくるが襲い方は獣とは違う、四つ足だが攻撃はなぜか足技主体の足癖の悪いミュータントだ。

生前に格闘技を習っていた軍人などの場合、その技を仕掛けてくる個体もいてトリッキーな狩りを得意とする。

そのいびつな狩りの仕方や背格好から、スノークの多くは初心者狩りとして恐れられているのだ。

軽快なステップからのドロップキックを受けかけた二人はとっさに身を引いて躱し、人形らしく正確な射撃でスノークの頭を撃ち抜く。

動揺はしているがうまく立て直している、これならば問題ない。彼女たちは戦力になる。

 

「FAL、後ろにつけ。一〇〇式、琥珀とだ。どっちが多く殺れるかな?」

 

「ほほぅ?カウントはここからで良いな?ついてこい一〇〇式、暴れるぞ!」

 

ナガンM1895がARW-002を単射しながら一気に距離を詰める、100式もそれに追従しスノークに撃ちながら前進する。

負けられないな、奏太はシャンブラーの弾倉にショットシェルをはめ込みながら彼女たちとは違う獲物を狙う。

銃を右手で保持しつつ左側の弾倉一番上に一発、スライドを操作して装填。再び左側の弾倉に二発はめ込み、左手に持ち替えて右の弾倉に二発、下部に一発。

装填したと同時に足元に這い寄っているスノークの背中にマチェットを逆手に抜いて振り下ろして突き刺し、地面に縫い付けて散弾を撃ち込む。

一発で頭を粉砕し、痙攣する死体からマチェットを引き抜いて飛びかかってきたスノークの首に深々と突き刺して仕留める。

まだ人間的な部分が残っているだけスノークは殺しやすい、変異が進んだ種類や戦術人形だとこれでも動いて殺しにかかってくるのだ。

 

「FAL、背中を任せるぞ。鉄血よりは柔い、気楽にやれ」

 

「了解」

 

スノークには悪いが、二人の経験となってもらおう。奏太は唸り声をあげるスノークに散弾を撃ち込み、悶えているところに追撃して仕留める。

その背後でFALもスノークの頭を蹴り上げ、仰向けに蹴り倒したところに頭と胸に二発ずつ撃ち込む。

さすがは戦術人形といったところか、呑み込みがとても早い。FALは的確にスノークを狙い、牽制しながら距離を詰めて確殺の距離で殺していく。

詰め寄られて変異して筋肉が異常発達した足でけられそうになるが、素早くククリナイフを抜いてそれで軌道を反らしていなす。

うまいな、奏太はそれを横目で見ながら内心で褒めた。筋肉が異常発達したスノークの蹴りは強力で、まともに受け止めたら防御ごと持っていかれる。

自慢の蹴りをいなされて姿勢を崩したスノークに、FALは容赦せずその額にククリナイフを突き立てた。

 

「やるじゃないか」

 

「当然でしょ、私はできる女なのよ?ほしくなったかしら?」

 

FALの背中を狙うスノークをM29で撃ち殺しながら奏太は肩をすくめる。

頭上から飛び掛かってきたスノークの蹴りをマチェットで受け、右足首を軸に体を回転させて受け流しそのままの流れでうなじを切り裂く。

回転による遠心力が乗った振り下ろしによる一撃で、スノークの首は一撃で切断された。

 

「どうかな。琥珀、終わったか?」

 

「とっくにな」

 

ARW-002を背負い、ツインショートブレードを両手に握るナガンM1895は少し物足りなさそうだ。

彼女の後ろには首を落とされたスノークの死体が五つ、それを見ている一〇〇式が顔を真っ青にしていた。

彼女のことだ、あえて囲まれることで殺しやすい位置に誘い出してスノークをバタバタと切り殺していったのだろう。

 

「7、そっちは?」

 

「8、儂の勝ちじゃ。それと例のヤツ、殺したぞ」

 

やれやれだ、と奏太は肩をすくめて彼女たちが倒したスノークの死体に目を向ける。

彼女が倒したスノークの中にパイロットスーツを着ている個体がいた。人類生存可能圏内製の現用品でジェット機向けの対Gスーツだ。

彼女は自分が切り殺したパイロットスーツを着込んだスノークに近寄ると、パイロットスーツの中から手帳を抜き出した。

 

「見てみぃ、やはりパイロットじゃ。傭兵らしいな」

 

手帳は血と汚物で汚れボロボロで読める状態ではないが、写真はよれよれではあるが見れる状態だった。

写真には愛機のキメラドロップシップを背にして腕を組む生前の姿が映されている。

 

「ジャスティン・アロウズ、ね。聞かない名前だな、オフィスに知らせておこう。他には何かありそうか?」

 

「無いな、ポーチは空っぽじゃ。ベストを脱がして、足ぶった切るか?」

 

スノークの討伐証明は足だ、報酬としてはそれなりだが少しかさばる。

防弾ベストも使えそうではあるが、二束三文にしかならないだろう。仕事を控えている身ではかさばる重荷だ。

それに派手に銃声を立てた以上、デーモンやシュリンプをおびき寄せている可能性が高い。長居するのは危険だ。

ナガンM1895の持つARW-002の威力ならば、多少遠くてもデーモンの頭蓋骨を撃ち抜けるが殺す意味は薄い。

デーモンそのものを狙っているならまだしも、今は偵察の仕事に来ているのだ。

 

「やめとこう、重荷になるし…臭いし」

 

なおこいつらの足はもれなく臭い、蹴りが主体なのに洗わないし靴の中で蒸れてひどいことになっている。

行こう、と声をかけて三人を連れて街を進む。セーフハウスまでもう少しだが、その前には少し問題があった。

この街のメイン通りだった大通りに出るとセーフハウスと思しきコンビニエンスストアが、シネマの隣に見える。

見た目は問題ない、瓦礫や残骸だらけの何もない道路のように見えるだろう。ガスが充満しているようになぜか歪んで見えなければ。

 

「指揮官、ここ、なんか変です」

 

「だろうな」

 

一〇〇式も何か感じたらしい、奏太はポーチから黄色の四角いセンサー、空間異常検知器を取り出してカバーを開く。

プラスチックのような安っぽい外見でフィラメントのようなランプ埋め込まれたセンサーは、何かに反応してランプが点滅している。

アノマリーがある証拠だ、圏外での活動に慣れない二人にはちょうどいい体験になる。

 

「アノマリーだよ、見てな」

 

奏太はそれだけ言うと足元から手ごろな破片を拾って、前方の何もない空間に投げつけた。

石はまっすぐ飛ぶと、アノマリーの表面を突き抜けて何もない空間に波紋を作る。異常な力場がある証明だ。

一〇〇式とFALには初めての光景だ、その前の光景に二人とも息を呑んでいた。

 

「でかいな、あいつがここを狩場にするのもうなずける。儂らも探してみるか?」

 

「時間がありゃな」

 

核戦争のせいか、コーラップスのせいか、はたまたその両方か。詳しい原因は不明だが、汚染地帯の中に良く表れる傾向にある不思議な力場だ。

定位置で発生するものが多いのだが、稀に移動して獲物を探し回るものもある。人類生存可能圏内にはめったに存在しないし、知っている人間すらわずかだ。

 

「ここを通るぞ、抜けた先のセーフハウスで休憩だ」

 

「え!?指揮官の話だと吸い込まれて圧縮されたり、炎が噴き出したり、電流流し込まれたりするって聞いたんだけど!?」

 

「踏めばそうなるな、ほら見ろ、あの車」

 

奏太は道路の真ん中で横転している乗用車を指さす。壊れたボンネットに、黄色いペンキが塗ってあるのが見えた。

雨風に晒されているがまだ新しく『MSH』と書かれており、矢印マークが書かれている。

 

「あれに沿って進めば大体安全だろうよ」

 

「セーフハウス自体が発生区域ぎりぎりにあるっぽいのぅ、アーティファクト探しの拠点にはピッタリじゃ」

 

アノマリー発生地域では時折、アノマリーによる特殊な力場にて生成されたり変異した鉱物が発見できる。

普通はありえない効能や組成を持ったそれらはアーティファクトと呼ばれている不思議な物体だ。

今から向かう拠点はそのアーティファクトを探すためだけにしつらえた場所だ、それでもかなり危険で命知らずである。

 

(アーティファクト探し、やりたいなぁ…)

 

目の前にあるアノマリーだらけの道路はまさに狩場だ、大きな危険が伴うがその分利益になる。

珍しいタイプ、あるいは新種を発見できれば一攫千金も夢ではない。良く見つかる種類でもお金にはなるのだ。

とはいえ今は仕事中である、残念ながら新人二人の教育にあてがうとしよう。

 

「ついてこい、アノマリーの避け方を教えてやる」

 

奏太はポーチの中からボルトを取り出した、手のひら大の少し大きいタイプのボルトにはひもが括りつけられている。

それを正面に投げる。ボルトは少し飛ぶと透明な膜を通過、途端に膜の中身に赤熱が迸り空に向かって炎が噴き出した。

 

「気を付けろ、喰らえば鉄血ハイエンドも丸焦げだ」

 

何もない空間から突如として吹き上がった火柱は、およそ30秒ほどで収まったが目の前の不思議な光景に一〇〇式とFALは息を呑んでいた。

 

「こうして何にも起きなかった場所を進んでいく、このボルトが何事もなく通った場所が安全地帯ってわけだ。

さっきはそこら辺の石を使ったがこういうのを持っておくといい、何かと役に立つ」

 

奏太は新しく取り出したボルトを弄び、ひもを括りつけてまた投げる。透明な膜を通過するが、今度は燃え上がらないため彼は糸を手繰ってボルトを回収した。

そんなことを続けながらゆっくりと目に見えない危険な空間を進んでいく、ミュータントの襲撃は今のところない。

大きな見晴らしのいい道路をジグザグに進み、排水溝に身をかがめて潜り込み、排水溝を抜けたら荒れ果てたコンビニエンスストアの前を抜けて裏路地に入る。

裏路地もひどく荒れ果てていたが、おおよそ17年前に放置されたものがそのまま雑草に取り込まれているような光景だ。

 

「あったぞ、ここだ」

 

裏路地に入ってすぐの勝手口、表通りに面したコンビニエンスストアのバックヤードに続くドアだ。

扉は錆びてボロボロだが、外側から新しいナンバー式の南京錠がかけられている。マクスウェルがかけたものだ。

4ケタのナンバーを合わせると南京錠は外れる。だが奏太はすぐに入室しないで少しドアを開けて中を確かめた。

 

「あった」

 

ドアの前に屈み、足元に張られたワイヤートラップの先に括り付けられたパイプ爆弾を見つける。何も知らずにドアを開けたら作動する仕組みだったのだろう。

ワイヤーの先には粗末な作りのパイプ爆弾が仕掛けられている、中に入って数拍置いてから起爆する仕組みだ。

扉の隙間から手を伸ばしてパイプ爆弾からワイヤーを外し、ドアを開けて中に3人を誘う。全員中に入ってから、ドアを閉めて再びワイヤーをパイプ爆弾につなげた。

これはもし野盗やミュータントが入ってきたときは牽制兼合図になるトラップでもあるからだ。

 

「二人とも、後ろについてきながら見ておくのじゃ。まだ安全ではないぞ」

 

ナガンM1895の言う通り、トラップはこれ一つではない。マクスウェルのようなスタルカーやハンターなどがこしらえたセーフハウスは、必ず二重三重のトラップで守られているのが常だ。

それも基本的に赤外線トラップなどの警備システムではなく、原始的なワイヤートラップなどである。

この人類生存可能圏外では圏内のようなハイテクの警備システムを組むような余裕はあまりないし、ミュータントの中にはそういったものに鋭い個体もいるのだ。

奏太も一〇〇式とFALに注意するよう呼び掛けてから、ゆっくりとバックヤードを進んで足元の床がわずかに浮いているのに気付いた。

 

「ほらあった、圧力プレートか。上を見てみな」

 

天井に括り付けられていたのは血の跡がついた鉄骨の振り子、踏むと作動して横から殴られる仕組みだ。

当然ながら人間ならば即死であり、戦術人形でも行動不能になりかねない。ミュータントも小型種なら一撃だ。

 

「指揮官、天井の鉄パイプってショットガントラップ?」

 

「大当たり、足元をよーくみろ」

 

FALが何気なく指さした天井に突き出た鉄パイプ、天井には経年劣化で突き出た鉄パイプがいくつかあるがその中の一つに一二ゲージショットシェルが詰められている。

鉄血と戦っていたときにこのトラップの作り方を教えたので、FALには何となく察しがついたのだろう。

足元を見ればお決まりの細いワイヤ―、その一歩奥のさらに低い位置に透明な釣り糸が張られている。

罠に気付いて避けたという一瞬の隙を狙った二重トラップだ、これはミュータントではなく対人用を主目的にしているのだろう。

踏み越えて隙だらけになった頭上から12ゲージの散弾が降り注ぐとなればまず即死だ。

 

「こんなところに人間が来るの?」

 

「いるよ、現に俺達もいるだろ?」

 

FALもこのトラップの意図に気づいたらしく疑問の声を上げる。当然ながらいる、野盗も地上には姿を見せるし住処もある。

彼らもまた地上を徘徊し、食料や物資を求めてうろうろしているのだ。そいつからすれば、こういったベテランの隠れ家は宝の山である。

しかしFALは一つ思い違いをしている、このトラップはあくまでセーフハウスを守るためのものだ。

自分の安全地帯と保管してある物資を守るための装置であって、殺す相手がミュータントや悪党だけというわけではないのだ。

他の仕事できた傭兵が偶然入り込むこともあれば、同業のハンターやスタルカーが物資を求めて忍び込むこともある。

彼らに害意はなくそもそもここがセーフハウスだという事も気づいていないこともある。だがそこに物資があればこれ幸いと持っていく。

売れば金になる、これがあれば生き延びられる、理由はどうあれ自分の物が持っていかれる。いざというときに残していた財産がだ。

そういった『アクシデント』から、自分のセーフハウスを守るためにトラップなのだ。それを説明するとFALは顔色を悪くした。

 

「…それって私たちもやばいんじゃ?」

 

「そのために奏太がマクスウェルに許可をもらい行ったんじゃ、金も前払いしとるわい」

 

「節度は守ること、だがな。根こそぎとかしないようにすりゃ書置きしとけば問題ない―――っとまただ、クロスボウかよ」

 

「毒?性格悪いわね、ここまで乗り込んできた奴を苦しめようってこと?」

 

自分たちもよくやるけどな、奏太は内心苦笑いしながら二重ワイヤートラップを避けつつ前へ進む。

クロスボウトラップを抜け、階段を上がって廊下を一本曲がる。すると店長室と書かれたドアがあり、外と同じナンバーロック式南京錠がかけられていた。

ここがセーフハウスだ、南京錠を解除し扉をトラップの有無を確認しながらゆっくりと開く。セーフハウス内にまでは仕掛けていないようだ。

店長室を改造したセーフハウスの中は、一通り人間が休める設備が整っていた。

空気清浄フィルターを完備した空調設備もあり、ガスマスク用フィルター洗浄設備や監視カメラまでついている。

それらに電力を供給する燃料式発電機も大型だ、業務用の大きくて古い型だが燃料も入っているし整備もされている。

ひとつだけある窓も封鎖されており、セーフハウス内は外と遮断されているようだ。多少隙間風はあるだろうが、空調を動かせば問題はないだろう。

至れり尽くせりだな、さすがはマクスウェル。奏太は発電機の電源を入れながら感謝した。

 

「FAL、窓際のメーターを見ててくれ。左のが室内、右のが外だ」

 

「空気汚染測定器のね、了解。」

 

室内の蛍光灯が灯り、空調設備が稼働して換気扇が回り始める。フィルターを通して正常な空気が流れ込み、室内の汚染濃度が下がっていく。

 

「指揮官、左のがグリーンにまで下がったわ」

 

「もう取っていいぞ、使ったマスクのフィルターをこっちにくれ。洗うから」

 

「うむ、儂らは補給と休憩とするかのぅ。44マグナムはあるかな?」

 

「マクスウェルはDEじゃなかったか?」

 

「拾ってるかもしれん」

 

ナガンM1895は奏太に使用済みのフィルターを投げ渡して、部屋の隅に置いてある武器弾薬用の軍用ロッカーのナンバーを合わせて開く。

仲にはマクスウェルが補充のために保管していた武器弾薬が保管されているが、中身を見てナガンM1895は落胆した声を上げた。

 

「44はないのぅ…」

 

「えーと、5.45ミリと50AE、12ゲージに鉄球?8ミリは…ない」

 

「7.62ミリNATOもない」

 

マクスウェルのメインウェポンはAK74Mとデザートイーグル50AEだ、その弾を保存しているのは当然である。

鉄球や12ゲージショットシェルはこの業界ならば誰もが使うので割愛する。

 

「マクスウェルのヤツ、もう少し面白いもん用意していてもいいじゃろうに。今日に限ってきれいなもんじゃな」

 

「いつもは何か置いてあるの?」

 

「試作品をしまっているときがあるのじゃ、当たり外れはあるが面白いぞ。あ、奏太!帰りにあいつの焼夷弾買って良いか?」

 

「残念ながら却下。高いし、ソフトスキン向けだし、売れる部位まで燃やしちまうだろうが」

 

ぶー垂れるナガンM1895に奏太は44口径マグナム弾の入った紙箱を投げ渡す。

彼女はそれを受け取り、封を切って中の銃弾を取り出すと回収していた空のスピードローダーに素早くはめ込み始めた。

同じように8ミリ南部拳銃弾と7.62ミリ×51NATO弾の箱を一〇〇式とFALに投げ渡す。

 

「しっかり休んどけ、次はビルを上る。そこで偵察だ」

 

地図と一緒にクライミング用のピックを取り出して見せつける、FALと一〇〇式の表情が死んだ。

 

 




あとがき
ほとんどドンパチしかしてねぇ、しかもドルフロ要素が人物しかないぜ。やってることがほぼメトロでスタルカーだし。
化け物に足が臭いとか勝手にキャラ付けしてるけどそこらへんは個人的印象です、実際臭そう。
というか、元ネタ知ってる奴って今の時代にいるんだろうか…





ミニ解説

スノーク
出典・STALKERシリーズ
コーラップス感染とアノマリー発生地帯での以上力場に長く晒されて起きた変異により生まれた元人間のE.L.I.D。
四つ足歩行で犬のように機敏なガスマスク人間。姿勢が常に低く警戒心が強い、入り組んだ屋内や瓦礫の多い場所など遮蔽が多い場所を好む。
足の筋肉が異常発達しており、それを生かして蹴り技や飛び掛かりなどを多用する。
意地でも蹴ってくる個体がいるなど少しユニークだが、蹴りの威力は強力で確実に骨を折られるか内臓をつぶされる。
外皮はそこまで変異しておらず通常弾で対応できるが、回復力は相応に強いので一気に仕留めること。
ほぼすべての個体が衣服を身にまとい、ガスマスクなどをかぶって行動しており素顔でいる例は非常に稀という変わった習性がある。
これは生前の習慣を覚えているためで、E.L.I.Dとなった後もそれを繰り返しているから。なお、食事のときは器用にガスマスクを少しだけずらして食べる。
時折変わったものを身に着けている個体もおり、ひょんなところで意外な収穫を得られることがある。
変異した足は有用な研究素材であり討伐の証にもなるのだが、集めるハンターやスタルカーはあまりいない。
変異していても形は人間の足なので少しかさばる上、集めて持っていくと非常に見た目は悪く臭いからである。
なお臭いのは生前の習慣を中途半端に繰り返しているので、蹴りを主体にしているくせに洗う習慣がないため。




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