U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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圏外部隊が一区切りしたので基地居残り組のお話、年末は忙しいぜ畜生…


第15話・初仕事に切り札無し

U03地区の山岳地帯、汚染された雨によってはげ山になった谷間の一角にM16A1率いるSPAR小隊の5人はテントを張ってひたすらに待っていた。

テントのそばに座り込んでヒートパックで戦闘糧食を加熱するM4A1、雨水を携帯浄水キットでろ過するM16A1とM4SOPMOD2。

M16とSOPⅡは雨水を何度も濾過しながら、忌々しそうに曇天の空を見上げる。

 

「また一雨きそうね」

 

丘陵の端に寝そべり、仰向けになって曇天の空を見上げていた416はやれやれと首を横に振る。

丘陵から崖下にわずかに顔を覗かせていたAR-15は、眼下の谷間を双眼鏡でのぞき込みながら笑った。

 

「いいじゃない、水には困らない」

 

「ずっと降られるのも考え物よ、まったく…そもそもなんだかんだで早速出番とか何よそれ?まだ補給もできちゃいないのに」

 

416の愚痴にAR-15は無言で頷く。U05部隊がこの地区にやってきたのは、この丘陵を走る補給路の安全確保のためだ。

この丘陵地帯は地区の補給を担う要衝の一つなのだが、ここ最近は補給部隊の車列が正体不明の敵に襲われて壊滅する事件が続出しているのだ。

地区の防衛部隊はこれを鉄血の攪乱部隊の出現とみて対応、部隊を派遣し山狩りを行うが部隊は反撃を受けて半壊した。

その際、生き残った部隊の口から出たのが、補給路のこの丘陵地帯にE.L.I.D出現の報告だったのだ。

 

「でもここをやられたら前線が揺らぐ、それはまずいでしょ」

 

「それは分かってるけどね、ならせめてここらを通行止めにしないの?」

 

「それをするとほかのところに負担がかかるし、責任問題にもなるからやりたくないんだって」

 

「もうとっくに責任取らされる段階だと思うのは気のせいかしら?」

 

「失敗したこっちのせい、ってことにするつもりでしょ。いつものことよ」

 

元々の発端はこの補給ルートに十分な哨戒を割かないで配置転換中の前線に注力したことだ。

戦線的には安全な後方であり鉄血の攪乱部隊が来てもすぐに鎮圧できる自信はあったのだろうが、この世界にはE.L.I.Dから始まる厄介者がたくさんいる。

結局のところ、この地区を仕切る指揮官はE.L.I.Dやミュータントのことは正規軍の仕事だと割り切っていて鉄血しか見えてなかった。

自分たちでどうにかしなければならない局面に至ったあたりで、どんな思惑であれできるところに任せられる当たりまだマシな部類であるが。

 

「ま、そうだけど。ねぇ、そろそろ変わろうか?」

 

「そうね、お願…待って、居た」

 

二人の間に緊張が走り、416は寝そべったままテントの方にて信号で合図を送る。

 

「数と種類は?」

 

416の問いに、AR-15は双眼鏡を覗き込んで慎重に見極める。

谷間の細い一本道の脇に潜む小さな影、犬の群れだ。体がまるで防弾アーマーを着たかのように皮膚は肥大化して固まっている大型犬を中心に、爛れた皮膚の犬が12匹ほどいる。

すでに変異が進んでおり、治療可能な段階はすでに超えているのだろう。皮膚が肥大化して固まりつつあるのがすべてに見られる。

体に泥を塗りたくって待ち伏せする犬たちの口は半開きでよだれを垂れ流しにしており、飢えて凶暴化しているのが手に取るように分かった。

 

「ボスにK9が1。感染中期とみられる野犬が12、K9化の兆候あり」

 

「報告通りね」

 

犬型E.L.I.D『K9』はコーラップスによる低放射線感染症にかかった野犬から変異するミュータントだ。

特徴はE.L.I.D化によって硬質化した皮膚、ただの銃弾では歯が立たないくらい硬いのに軽くて俊敏性を全く損なっていない事だ。

狂犬病で凶暴化した軍用犬が装甲車並みの防弾装備をしたまま群れで襲い掛かってくるようなもので、正規軍でも嫌われている。

速くて硬いだけでも厄介なのに、一番変異した個体を長として群れを形成するとより組織的になり脅威となるのが厄介だ。

 

「中期の犬も変異が進んでる、皮膚は分厚そうだし賢いと思う。群れは小規模、被害の規模からして他にもいるね」

 

「わかった、少し下がれ」

 

M16がため息をつく、AR-15は双眼鏡を下ろして丘陵から離れて少し下がりながら彼女のほうを見た。

 

「K9、犬型の重装甲タイプか。そりゃ補給部隊がやられるわけだな」

 

「どうする?変異しきってるK9相手じゃ目とか以外、まず弾が通らないよ?」

 

「接近戦、と行きたいところだが、足場が悪いな」

 

M16は自分の踏みしめる土を踏みにじる。この丘陵地帯は雨が降りやすく、土が湿っていることが多い。

犬型らしく機敏で足の速いK9相手ではかなり不利だ、E.L.I.D化によりより俊敏さが増しているのだから余計に悪い。

かといって遠距離狙撃ではM16達の持つ5.56ミリライフルでは圧倒的に不利、装甲に弾かれて撃ち抜けないだろう。

完全に変異したK9の装甲は対E.L.I.D用徹甲弾を使用したいところだが、この銃弾は奏太たちから譲り受けたわずかな弾数しかない上に規格外の反動を持つ諸刃の剣だ。

 

「狙撃、は無理ね。避けられる」

 

「斬る?」

 

SOPMODⅡはナガンM1895から借り受けた対化け物用サバイバルナイフをチラつかせて笑う。

彼女の腕前と圏外製対化け物用ナイフの切れ味ならばK9の装甲を除けて首をはねられるだろう、足場がまともならば。

 

「無理に決まってるでしょ、足取られて終わり。一度引いて、34達と合流しない?」

 

M4は首を横に振り、別の道で網を張っているMG34達との合流を提案する。

悪くない案だ、MG34の部隊はほかに9A91、Vz61スコーピオン、G11がいる。

MG34弾幕とG11の狙撃、9A91の補助とスコーピオンの機動戦が加われば有利に戦えるだろう。

 

「ここで見失えばまた一から探し直しよ?あいつらが何でここまで好き勝手出来るかといえば、この丘陵地帯が雨がちだから。

雨で足跡がすぐに消えるから跡が全く追えない、だから網を張って待ち伏せしてたんでしょ」

 

「それに時間もないぞ、もうじき輸送部隊が近くに来る。車の音に吸い寄せられるぞ」

 

「FNC達が危ないわね」

 

輸送基地からの定期便はこの状況下でも護衛を増やしたうえで継続されている。その護衛の中にはFNCとステンMk2がいるのだ。

FNCとステン以外の護衛部隊は補給基地の所属であり対ミュータント戦の訓練を受けていない、いきなりE.L.I.D戦は荷が重いだろう。

 

「やるしかないな。奴らをこっちに引き付けて、なるべくぬかるんでないところに誘導しよう」

 

「了解、輸送部隊に連絡するね」

 

M4はテントの中に入ると、無線装置の周波数を合わせてマイクを手に取る。

 

「私たちは準備だ、できる限り派手にやるぞ。AR15、狙撃しろ。416、SOPⅡ、派手に撃て」

 

AR15は頷き、銃のスコープを高倍率モデルに変更し、バイポッドを展開して伏せ撃ちの姿勢でK9を狙う。

装填されているのは狙撃用のマッチモデル、弾道は素直で当てやすい。狙うのは目、そして大口を開けている口、どちらもまだ柔らかい部分だ。

 

「撃つのは良いけど、全部殺しても構わないわよね?」

 

「やれるもんならやってみな」

 

「了解、始めるわ」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

遠くから響く銃声が聞こえる、U03補給基地所属のブレンはその連続した一方的な銃声に違和感を覚えていた。

撃ち合っているのではなく一方的に銃撃している、つまり鉄血や野盗のように撃ち返してくる相手ではない。

つまりは野生動物かE.L.I.Dによるミュータントを相手取っている可能性が高いのだ。

 

「お前の部隊か?」

 

「そうですね…方角からしてM16さん達かと、接敵したんでしょう」

 

U05基地のFNCはそっけなく答えて、くたびれた分厚い文庫本から目を離さない。時折別の文庫本を取り出して比べ読むのを繰り返している。

共用語ではない別の言語で書かれた図鑑を読むFNCは物静かで、同じ車に乗る輸送護衛部隊の仲間には我関せずだ。

やりにくい、同型のちょっと抜けている明るい調子を知るブレンには彼女がよくわからない。

ほかの仲間たちも、失礼ではないが壁のある態度の彼女に少し距離を置いていた。

同乗しているAA-12、MDR、G3も少しやりにくそうで、やや疑いの目をしていた。

 

(いけないな)

 

いつもの仲間の少し怪訝そうな視線にブレンは悩む。打ち解けろとは言わないが、もう少し喋ったりしてほしいのだ。

彼女は車に乗ってからというもの、ずっと本を読んでばかりで話そうとしない。

話しかけてもそっけなく返される、大好きなはずのお菓子の話題にさえ興味も示さないので全く会話が続かないのだ。

同じ基地のステンにはよく知るFNCの表情を覗かせていたのだから余計にわからない。

 

(まるで私たちを信用してない?いや、興味自体がない?)

 

話を振られてもそっけなく終わらせる、会話に入ろうとしない、自分から壁を作っている。

同じ基地のステン曰く、放っておけとのことだ。何もしなければ何も起きない、仕事はするから大丈夫だと。

しかしこうまでアクションがない、無関心を貫かれていると気になって仕方がない。

 

「なぁ、さっきから何を読んでるんだ?」

 

「図鑑です」

 

ブレンが再び話しかけると、やはりそっけなく返す。読んでいた本、くたびれた図鑑からは目を全く話さない。

 

「何の?読めない文字だが…」

 

「新呉出版、ミュータント図鑑の携帯版、日本語です」

 

「日本語?日本語を読めるのか?」

 

「少し、まだ辞書が必要ですけど」

 

FNCは読み比べしていたもう一つの本を取り出す。日本語翻訳辞書だ、わからない文字はこれで翻訳していたらしい。

 

「辞書?言語インストールか翻訳ツールを使えばいいのでは?」

 

辞書をしまうFNCに疑問を感じたのか、ブレンの部下の一人であるG3が声を上げる。

 

「翻訳ツールやインストールは電脳を圧迫しますし、このほうが覚えられますから」

 

「覚えるんですか?自力で?」

 

「…何か問題でも?」

 

FNCの視線がG3に向く、無関心な彼女が初めて見せた返答だ。少し不快という形であるが。

 

「いえ、その、そういう人形の方は初めてで」

 

「そうですか」

 

それだけ言うとFNCは再び図鑑に目を落とす。再び車内に沈黙が満ちた、G3はやってしまったと肩を落とす。

ブレンがうまく会話の糸口を見つけたのに、それを自分の不用意な割り込みで不意にしてしまったと思ったのだ。

 

「ブレン、あいつほんとに大丈夫か?わざわざ辞書だなんて、おかしいだろ」

 

「おい、やめないか」

 

「だって普通は翻訳ツールか丸ごとインストールでしょ、早いし、楽だし」

 

AA12のいう通り、戦術人形は必要とあらば様々な国の言語をインストールすることができる。翻訳ツールもそれと同じだ。

データー容量は確かに大きいが、それでも電脳を繋いで少し寝ていれば終わるのだ。

そうすれば辞書を持ち歩いていちいち調べて覚える、などという人間のようなことをしなくてもいい。

起きたころには日本語を読めるし喋ることもできる、熱心に読んでいる図鑑ももっと理解できるのだ。

 

「…もしかして、電脳に何か故障あるんじゃない?ほら、ネゲヴ小隊の隊長は少しアレっていうし」

 

ゴシップ好きなMDRの耳打ちにブレンは思わずドキリとする。が、FNCは特に気にした様子もなく図鑑を見つめるだけだ。

聞こえていないはずがない、おそらく聞こえたうえで無視しているのだろう。

 

「U05基地ってさ、壊滅した基地の生き残りばっかで構成されてるって話だ。あいつもそういう生き残りだろ?

きっとどっかで電脳がおかしくなってんじゃね?だから覚えらんないとか、あの性格だって疑似感情モジュールおかしくなってんのかも」

 

「MDR」

 

「あんただって薄々感じてんだろ?絶対なんか変だって。そもそもあいつ、ダミーすら使わないで一人でやるってことも変じゃん」

 

そういわれるとブレンも頷かざるを得ない、このFNCは最初から変わり者であることを隠しもしない。

物静かで素っ気なく、失礼にならない程度に対応して穏やかに距離を取り壁を作る。放っておいてほしいと言わんばかりだ。

自分たちの指揮官にさえ最低限の受け答えをするだけで、ご機嫌取りの一緒に出されたお菓子にも目もくれない。

仲間のステンとのやり取りで見せるよく知る彼女と今の彼女、まるで二重人格のようだ。

 

「…来た」

 

「は?」

 

おもむろにFNCが顔を上げ、本をしまうと自分の銃を手に取って弾倉を確認し初弾を装填する。

その素早い動作にブレンは制止する暇もなかった。FNCはトラックの後方に首を出し、周囲を確認してから首をひっこめた。

 

「ま、まだ命令が来ていませんよ!?」

 

「しりません、みんなも準備したほうがいいですよ」

 

FNCが銃にバイポッドとACOGサイトを取り付ける。その瞬間、トラックの車体が爆音とともに大きく揺らいだ。

 

≪て、鉄血の攪乱部隊!ジャガーからの砲撃、かなり近い!!≫

 

「鉄血の攪乱部隊か!?」

 

運転手を務めるG17の悲鳴のような報告にブレンは唇をかむ。

 

「指揮官に通信をつなげ!」

 

「了解、こちら補給部隊、指揮官、応答を!」

 

「U05ブラボーチームより通信。我、鉄血残存部隊を確認、ジャガー1、マンティコア2。輸送本隊後方300メートル」

 

「はぁ!?何その中途半端な数と位置!!?」

 

FNCからの報告と同時にジャガーからの砲撃が着弾し、トラックが揺さぶられる。

グラグラと揺れる車内でFNCは片手で姿勢を器用に支えながら、飛んでくるジャガーの砲撃の方向を見つめた。

 

「連中もミュータントにやられてる」

 

「なんだそれは?」

 

「鉄血の人形もE.L.I.Dからしたら餌、生体部品を使ってる人型タイプは食われたんだと思います。

ジャガーとマンティコアはその生き残りだと思う、たぶんルーチンに沿って攻撃して来ただけ。ブラボーがやるでしょう。

それよりも厄介なのが来ました、6時よりE.L.I.D、犬型、K9、高速接近中」

 

「おいおい、嘘だろ!!?」

 

ブレンは揺れる車内で姿勢を立て直しつつFNCの横から顔を出す。

ぬかるみのある道を時速50キロで飛ばす車列の後方から、全力疾走で追いかけてくるK9の群れが見えた。

ブレンの横から顔を出したMDRは狼狽した様子で慌てて自身の銃を手繰り寄せる。

その手はいつものMDRらしくなく少し震えているように見えた、慣れない相手で緊張しているのだ。

E.L.I.D相手となると種類によっては実弾式の銃は効果が薄い、今まで多くの戦場を潜り抜けてきた自分でもたやすくやられるかもしれない。

 

「ほんとに出やがった!お前の部隊は何してんだ!?」

 

「アルファ、ブラボーの後に別の群れが来ただけ、総数8、数が合わない。K9だけで構成されてる」

 

「じゃぁここら辺いっぱいいるのか?冗談じゃねぇぞ」

 

「多分小規模の群れが複数。K9は群れで行動します、どこからか流れてきたとみるのが妥当です」

 

「よし私も援護しよう」

 

ブレンは押元に置いていた銃を手に取り、弾倉を上部に取り付けて初弾を装填する。

 

「いいえ、少し待ってください」

 

「しかし、少しでも火力があれば牽制になる」

 

「今動きが乱れると厄介なんです」

 

どうするつもりだ、そう問いかけようとしたブレンの目の前で、FNCは指揮官の命令を待たずに引き金を引いた。

FNCの正確な単発射撃は確実にK9を捉えていて、回避行動をとるK9の周囲か体にあたって弾かれる。

E.L.I.Dの体はコーラップスにより変異しており、肥大化して硬質化した皮膚は装甲と言える硬さを持つ。

ただ撃つだけでは凶暴化したK9は気にも留めずに追いついてくるだろう。

やはり自分も、とブレンはFNCの横で銃を構える。その時、大口を開けて走っていたK9が口から血反吐を撒き散らして倒れる。

激しく地面に叩きつけられて動かなくなるK9、ブレンが驚いているとさらに1体が口から血反吐を撒き散らす。

 

「倒した…まさか口を撃ったのか!?」

 

「K9のウィークポイントは目や口、そこまでは装甲化されてないので」

 

「そっか、そこまでやったら食べらんないもんね」

 

MDRの言葉にFNCは頷く。

 

「それに体の中はただの肉。撃ち込めば後は勝手に弾が暴れてくれます」

 

FNCは答えながらもACOGサイトで狙いを定めながら射撃を続行する。

移動しているトラックから小回りの利くK9の口を正確に撃ち抜いたのだ。

 

「でも一発じゃ無理です」

 

「だろうな」

 

最初に倒れた一体はラッキーヒットだったのだろう、次々とFNCの弾はK9の口を撃ち抜くが、血反吐を吐いて転がってもすぐに起き上がってくる。

ふらついており、速度も心なしは遅くなっているので有効ではあるが火力に欠けているようだ。

 

「やっぱり距離が…ブレンさん、もう少し脅したら援護射撃をお願いします」

 

「構わんが、いいのか?」

 

「もう少し叩けばヤツラもこの車はやばいと思い始めるはず、迎撃が激しくなれば引くでしょう」

 

「E.L.I.Dを追い返す?そんなことが出来るのか?」

 

「ミュータントとはいえ、野生の獣、逃げるときは逃げますよ。せん滅は仲間に任せます、私たちはこの車列を前線に届けましょう」

 

FNCは古い隊内無線機のプレストークを押した。U05部隊の全員が持っている、グリフィンのネットワークとは独立した個別の通信だ。

 

「ステン、突破するよ。前のは任せた」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

やりがいがない、トラックの荷台からK9の口や目を狙って引き金を引きながらFNCは内心で何度も感じた不満をこぼした。

対ミュータント部隊の初戦というべき今回の任務だが、一緒にいてほしい、見ていてほしい彼がいないというが不満だ。

ましてや他の基地の指揮官や部隊の人形たちの中に少数で放り込まれること自体あまり好ましくない、仕方ないとはいえ嫌なものは嫌だ。

一緒にK9に向けて銃撃するブレン、G3、MDR、AA12とは初対面で色眼鏡をかけるのは悪い事なのだが、やはり信用できない。

外面やうわべでは仲良くしていて、内心ではどうなのかはわからない。それは人間でも人形でも変わらない。

前の基地もそうだった、U08基地の指揮官とは相性が悪くて厄介者扱いだったが仲間の人形は違うと思っていた。

目つきは怖いが面倒見のいいG36、お姉さんな95式、元気な妹97式、プロ思考のリー・エンフィールド、ほかにも多くの人形がいて、その中で仲良くやっていたと思っていた。

でも殿を押し付けられた時に、かばってくれたのはステンだけだったのだから笑うしかない。しかも彼女も結局巻き込んでしまった。

指揮官の命令だから仕方ない、最初はそう思う事にしようと思った。けれど仲間だと思っていた彼女たちの目を見て、感じてしまった。

仲間たちの目が、自分じゃなかった、あの子じゃなかったという安心感ばかりで自分への心配の色がなかった。

結果としてそれが功を奏して生き残った、殿として前線に囮配置された直後に撤退作業のさなかだった基地が攻撃されて落ちたのだ。

自分たちも追撃されて死にかけたが、そのおかげでU05基地の彼らに拾ってもらえたのである。

 

(孤立無援は慣れてるけど、これなら単独任務のほうが楽だよ)

 

フランも無茶言うよね、仕事だから仕方ないけどさ。FNCは銃の弾倉を取り換えながら内心毒付いた、とはいえフランも仕事だから仕方ないことだとわかっていた。

フランは信用している、けど周りにいる人形たちが違う。きっとピンチになれば彼女たちは自分を見捨てるだろう、そうでなくてもU03の指揮官がそう命じるだろう。

そうなれば仕方ない、ステンと合流して近くの仲間のところに逃げるだけだ。それまでは一緒に居よう。

仕事はする、今も手抜きはしていないがそれでも消化不良な感じがしてつまらない。

K9の追撃が少し激しくなっており、ブレンたちの銃撃を自慢の装甲でガンガン弾いて迫ってくる。

手榴弾も投げ込まれるが、高速で移動しているため距離感が狂い後方で起爆するものが多く有効打にはならない。

うまく足元に転がった手榴弾も、K9が素早く飛びのくのであまり効き目がない。

 

(指揮官、早く帰ってこないかな)

 

車内に飛び込んできたK9の首筋を横殴りして軌道をずらして荷台にたたきつけ、バックアップのM29マグナムリボルバーを口の中に突き付けて発砲。

K9を確実に仕留めた、彼がいればきっとあとでほめてくれる。でも今はどうだ、ブレンたちの目は驚きこそあれどほめるような色はしていない。

戸惑い、それと恐怖だろうか、彼女たちの目からはそれが感じられる。

 

(なんだよ、もー)

 

ただE.L.I.Dを殺しただけでそんな目するのか、こうして倒せる相手じゃないか。

何が怖いというのだろう、そもそもE.L.I.Dによるミュータントは彼女達だって知っているだろうに。

仕留めたK9から装甲化された尻尾をナイフでちぎり、足元に転がしてから口にM61手榴弾をかませて首根っこをつかんで放り出す。

K9とトラックの中間あたりでピンを抜いたM61手榴弾がさく裂し、追ってきたK9の目の前で仲間の首が吹き飛ぶ。

頭のいい個体に率いられているならこれでわかるだろう、このトラックには自分たちを殺せる敵が乗っていると。

私は殺せる、今までさんざん食ってきた人間や人形とは一味違うぞと示して見せた。

これでビビって逃げれば楽、早く帰ってお菓子食べたい、そんな風に考えながらFNCは明らかに挙動が乱れたK9に追撃した。

 

 




あとがき
なお、任務は損害なく無事に終了した模様。というわけで第15話、遠征隊期間前の一幕。うちのFNCちゃんと基地のことを少しやりました。
今回登場したE.L.I.Dはオリジナル、詳しくはミニ解説にて。ちょうどいい奴が出てこなかった…
FNCちゃんは二面性があって同じ基地の仲間とか気を許せる相手だと見慣れたFNCですが、それ以外だと大人しい物静かな感じになります。
暇になるとお菓子じゃなくて本に嚙り付く、もとい読んでるFNCです。放っておいてほしいので失礼じゃないけど素っ気ない感じ。
仲良くなるにはまず警戒心をほだしていく心を開かせましょう、そうすれば少し知的ないつものFNCになります。
まぁつまり、一度捨てられちゃってるから人形にも人間にも警戒心バリバリなのですよ。なおステンちゃんも表に出ないだけで同様だったりする。





ミニ解説

K9
出典・オリジナル
コーラップスに汚染されて変異した犬。
変異には段階があり、変異初期のただの狂犬、中期から後期はゾンビ犬、完全に変異すると全身装甲犬となる。
完全変異するまでは通常の実弾でも対処可能。変異により回復力と耐久性がある、また機動性に富んでおり背格好も犬なので狙いづらい。
脚力も強化されており、不整地やぬかるんだ道でも得意の4足走行で時速70キロの速度で長距離を突っ走る。
確実に当てるというよりも撃ちまくって弾幕で殺すことを心掛けるか、散弾を撃ち込むのが無難。
完全変異すると外皮が装甲化されて旧式装甲車並みの装甲となる。その状態でも機動性と速力は変わらない。
見かけは肥大化してたるんだ皮膚がカチコチに固まったフルアーマー、皮膚が硬質化するため見た目に個体差がある。
殺すには対物ライフルや対E.L.I.D用徹甲弾を用いて戦うか、駆動部など装甲の隙間を狙う必要がある。
また仮にそれができたとしてもE.L.I.D化による肉体回復力と耐久性で、多少の被弾では死なないため非常に手ごわい。
その厄介な機動性と耐久性から、完全変異したK9の群れは正規軍の歩兵部隊の天敵の一つになっている。
なお非常に凶暴だが野生の本能を失っているわけではないので、興奮状態や飢餓状態などでなければ火を恐れる。
また戦闘状態に陥っても、群れを半壊させるなどで自分より獲物のほうが強いと思わせれば追い払うことが可能。


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