U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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今更ながら明けましておめでとうございます。新年だけど通常運行でお届けします。


第16話・遠征隊の帰還

U05基地には滑走路を含めた大き目の航空設備がある。かつてリゾート施設だった頃の名残で、一本だけであるが金持ちが道楽で使う航空機を見栄えよくするために大きくかつ見栄えのいい立派な滑走路と併設されたヘリポートだ。

鉄血の崩壊と暴走によってこのリゾート施設が放棄された後、整備する人間もおらず人形たちもスリープ状態になってからは風化するに任せていたが囮基地として使われていた間も偽装のためのアクセントとして復旧。

のちに笹木一家が自家用機の一式陸攻を持ち込んで、修理の傍らで好き勝手に整備して使用可能な状態を維持し続けていた。

そんなぼろい廃墟じみた滑走路は基地の改修工事において拡張工事をなされた場所の一つだ。

併設されていたヘリポートは二つになり、ヘリ用のハンガーも大型化され配備されたV-22やCH-47Eなどを収容しても十分な余裕を持っている。

滑走路も延長されて新品同然になり以前はなかった駐機場を増設され、隣接するハンガーも立て替えられていて新品同然だ。

笹木一家が根城にしていたハンガーも改築され、彼らの要望通りの部屋数と居住スペースを2階部分に設けたものとなりかまぼこ上の見栄えもいい立派なものとなった。

その新品同様の駐機場は、これからこの滑走路を使い倒すであろう新しい機体が駐機され、荷物と人形たちでごった返していた。

単発機と中型双発機がそれぞれ2機ずつ並び、機体内部に詰め込んだ荷物をどんどんと下ろして仕分けしている。

それを後方支援要員の人形達や仕事を振り分けられた戦術人形たちが受け取り、指定さられた倉庫や保管庫、あるいは個人の元に届けられている。

 

「しーしょー!!お帰りなさぁぁぁい!!」

 

「おっと」

 

「あばぁ!?」

 

その傍らでは、帰ってきた遠征隊を歓迎する仲間たちの姿がある。ナガンM1895の帰りを心待ちにしていたSOPMODⅡはダイビングハグを敢行し、両手が荷物でふさがっていた彼女にあっけなくよけられて土を舐めた。

その一部始終を見ていたM4A1が両手で顔を覆い、M16A1は愉快そうにくすくす笑う。

痛そうに起き上がるSOPⅡを見かねたHK416が服をはたきいてケガはないか問う、彼女がさりげないオカン力を発揮するのもいつもの光景だ。

 

「こはくーそこは抱き留めてあげなきゃだめでしょー」

 

そこに通りがかったコルトM1911が同じように荷物を抱えたまま苦笑いする。

 

「え、儂が悪いの?避けるじゃろ普通」

 

「ひどいよししょー!」

 

キョトンとするナガンM1895、それを見てますます面白そうな顔をするM16とやれやれと肩をすくめるM4。

地面に座り込んだままのSOPⅡが抗議するがナガンM1895は全く気にする様子はない。

その要素を傍らに見ながら人込みをかき分け、非番だったイングラムM10とスコーピオンVz61は二機に増えた見慣れた機体をすぐ近くまで来て見上げていた。

 

「グリフィンマークの陸攻ってなんか変な感じ」

 

「まさか、本当にこんなことになるなんて、願いとは叶うものですね」

 

笹木一家の自家用機とは別の一式陸上攻撃機を見上げながらイングラムM10は怪しく笑う。

グリフィンの識別マークが描かれた一式陸攻に乗り込み、ナパーム弾をばらまきたいという欲望が彼女のなか渦巻いていた。

かつて窮地を笹木一家の一式陸攻に救われたことがあるイングラムにとってこの機体は憧れがあった。

 

「機銃が全部20ミリですね、オリジナルは7.7ミリのはずですが…」

 

「使い慣れてたほうがいいだろ?」

 

聞きなれた男性の声にイングラムが振り向くと、最近は見慣れたサバイバルスーツ姿のままの奏太が気軽に笑っていた。

荷物運びを統括しているようで、片手にクリップボードに挟んだ書類とにらめっこしながら無線で逐一指示を出している。

彼の隣にはM14も控えていて、同じようにクリップボードを抱えて目録を見ながら逐一書き込んでいた。

 

「指揮官、お帰りなさい」

 

「もう訂正する気にもなんねぇ…」

 

「私もそう呼ぼうかな?しっきかーん♪」

 

茶化すM14を奏太からの反撃チョップが額にヒットする、けらけら笑ってるので痛くはないらしい。

彼は自分が指揮官と呼ばれることを嫌がるが、こればかりはもうどうしようもない。この基地の人形たちにはすっかり彼が『指揮官』として定着してしまっているのだ。

かくいうイングラムも、彼を今更名前や名字で呼ぶのには違和感があって変えられない。

 

「ただいま、長く留守にしちまって悪かったな」

 

「いいえ、ところでこの機体はいつでも飛べるんですか?」

 

新しく配備された機体は無理だが、一式陸攻に限って言えばこの基地の全員が飛ばすだけならできる。

囮基地時代から彼らが懸命に修理している後ろ姿に興味を持たなかったものはこの基地にはおらず、そこから一度は操縦席に座って操縦のレクチャーを受けていた。

暇つぶし程度の軽いものだったが、彼らの実体験を土台にした実戦的なメニューと修理中とはいえ本物のコックピットで操縦桿を握って行われるレクチャーは魅力がたっぷり詰まっていた。

 

「整備すればいつでも、M3に頼めば喜んで飛ばしてくれるだろ」

 

そのレクチャーを熱心に受けていたのはほかでもないM3グリースガン、この機体をこの基地まで操縦してきたのも彼女だ。

 

「俺たちがいない間に何か変わったことは?」

 

「特には…あ、AR-15の制服がオリジナルと同型になりそうとか」

 

「あいつ嫌がりそうだな」

 

U05基地のAR-15は基本装備の服はオリジナルと違う学校の制服を改造したもので、細々改造しているが大まかには大差がないほかのSPAR小隊メンバーと比べると一目瞭然なのが特徴である

これは本人があまりオリジナルの服装を気に入っておらず、かといって自前の装備を買う金もないので手近な廃墟をあさって気に入った服を改造して使い続けているからだ

いつも着ている学生服も放棄された服屋から回収したものを改造した物で、彼女曰く使い勝手がいいらしく予備も豊富なので一番のお気に入りである。

 

「あのスピーカーが好みじゃないのよ、邪魔だし」

 

「噂をすればか、ひさしぶりだな」

 

「お帰りなさい指揮官」

 

噂をすれば影とでもいうのか、奏太の背後にAR-15がどこからともなく表れて気軽に手を振る。

彼女の言うスピーカーとは、アクセサリーのついたタイの事だ。

何を思ったのかオリジナルのAR-15はただでさえ邪魔なそれをスピーカーに改造していて、ダミー人形のタイと無断で交換していったらしい。

その被害にあったのがほかでもない、目の前のSPAR小隊となった元ダミーのAR-15なのだ。

交換された彼女もそれを気付いていなかったのが後々被害を招いてしまったのでとことん嫌がっている。

 

「指揮官、さっそくお願いがあるんだけど―――」

 

「VR訓練用のデータだろ?この後はフランのところに行かなきゃならないから、そのあとでよければ」

 

「当然、最新版よね?」

 

「ノサリスの生データかな。あとはスノークにデーモンか、FAL達のデータをコピーしてからになるけど」

 

どうやら戦術人形用のVR訓練プログラムがアップグレードされるようだ。

U05部隊用に対ミュータント戦や汚染地帯探索用のプログラムが追加され、基地に合わせたカスタムがされるらしい。

一部のミュータントや地形には、今回同行したFALや一〇〇式達から得た本物のデータも使用される実戦仕様だ。

 

「FAL達、確か集中メンテ中だよね?大丈夫なの?指揮官」

 

「死にはしないがしばらく療養なのは間違いない。最悪体を丸ごと取り換えるって言ってたし」

 

彼らについていったグリフィン人形たちは全員が現在集中メンテナンスの真っ最中だ。

メンテナンス担当によれば部品の消耗は想像以上で、精密部品や電子部品は特にひどく痛んでいたらしい。

EMPの残滓やアノマリー発生地帯特有の異常力場に長時間さらされ続けたせいだと予想されているが、詳しいことはまだわかっていないので担当者も詳しくは話してくれなかった。

 

「大丈夫かしら?」

 

「彼女たちなら大丈夫でしょう、指揮官がついてたんですし」

 

「そうね…あ、そうだ指揮官、できれば新装備を自分で触ってみたいのよ。使い方を教えてくれないかしら?」

 

「あ、それ私もやりたい!」

 

「私もです」

 

彼らが人類生存可能圏外から持ち帰ってきた装備の多くは、グリフィンの基本訓練にはないものばかりだ。

無事だった彼らの装備を借りたり、話も多く聞いてきたが自分の目で見て、手で触って使ってみてこそ本物を知ることができる。

普段使っている銃火器にも改修キットを用いで回収されるのだから、それに合わせてすり合わせをしておくのが効率的だ。

なにより向こう側の生の話を多く聞けるチャンスである、逃さない手はない。

奏太は少し考えてから首を縦に振る。また楽しくなりそうだ、そう思うとイングラムは思わずにやけ顔が止まらなくなった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「というわけで、午後4時に訓練場を借りたいんだ。直前で悪いんだが許可をもらえるか?」

 

「構わないわよ、部屋は開いてるから。」

 

何言ってるんだこいつは?フランは書類を提出した奏太に新しいIDカードを渡しながら答えた。

基地の中枢となっている事務室、その室長スペースの机に座ったフランは副官のドリーマーを従えて、奏太たち3人を迎えて報告を受けていた。

コルトM1911とワルサーP38も彼の後ろで様変わりした事務室を興味深く見まわしている。

今まで放棄されたホテルの事務室をそのまま使っていたのが、一気に近代的なオフィスに様変わりしたのだから当然だろう。

どうやらこちらに来る前にイングラムやAR-15達と装備の訓練をする約束をしたらしい、向上心があるのは良いことだ。

 

「というか勝手に使っていいわよ?別に予約が先に入ってるわけでもないし」

 

「勝手に施設を使うわけにはいかないだろ、契約してるとはいえ部外者だぞ」

 

「部外者でも仲間でしょ、基地の施設は前みたく自由に使っていいから。その新しいIDカードも指揮官権限になってるからなくさないでね」

 

「返す」

 

「持ってなさい」

 

「ゲストIDにして制限をかけてくれ、俺達はただの雇われだ」

 

「指揮官がゲストIDじゃ示しがつかないの、ほかのみんなも納得しないから、おねがい」

 

仕事人の顔になってIDカードを突っ返す奏太に両手を合わせて拝む、ここで彼をただの一部隊扱いするのは簡単だがそうなれば所属する人形たちに不信感を与えてしまうかもしれない。

彼らの割り切りと分相応な身の振り方は正しいが、基地の戦力である彼女たちとの関係を壊したくない。

彼はこの基地における前線部隊のまとめ役であり、実質この基地の指揮官でいてもらうのが人形たちの運用面でもベストなのだ。

書類上はもう基地の長はフランだが、自分はどうやっても後方支援や事務処理のほうが向いていて作戦指示などは彼に大きく劣る。

戦術人形への作戦指示や戦術的思考、咄嗟の判断力やひらめきといった面では笹木奏太のほうが適任だ。

 

「…前線指揮官依頼、報酬増額10%」

 

「3%」

 

「5%」

 

「商談成立、持ってて頂戴」

 

奏太は差し出したIDカードを懐にしまう。あくまで仕事だから受け取る、ハンターとしての落としどころらしい。

報酬も最初は吹っ掛けていたが結局は半額で、それも結局は微々たる増額に過ぎないのも彼なりに思うところがあったのだろう。

その証拠に、先ほどまで仕事人の顔だった彼の表情は柔和なものに変わり実に困ったような苦笑いを浮かべていた。

 

「あとでどうなっても知らねぇぞ?お前がクビになるところは見たくない」

 

「できるもんならしてみろっての、こんな化け物だらけの場所に来たいっていう人間がいればね」

 

その点でいえばフランは上層部に対して結構強気でいられる、元々辺境の木っ端囮基地に配属された窓際出身なので昇進や栄転などには縁がなく自身も無関心だ。

ただその日を暮らせて、お金が貯められて、それでいて面白ければ何も言うことはない。この基地はまさにそれだ、騒動はあれど退屈しないし実入りも良い。

多少危険だがPMCなんていうのは往々にしてそんなもの、一度や二度の戦闘で泣き言をいうような軟な精神をしてはいない。

たとえこのことを嫌味な上司に見とがめられようが、ここではそれが最良だと考えたとフランは強気で言い返すつもりだ。

そのうえこの基地の担当は鉄血だけでなくE.L.I.Dやミュータントがうようよいる汚染地帯だ、死ぬどころか自ら化け物と化す生き地獄の危険性すらある。

そんなところに行きたがる人間はPMCであってもなかなかいない。

 

「さて、見てのとおりよ?箱はできた、あとは中身。首尾はどう?」

 

すでに彼らが帰還する前に任務が入り、危なげなく終わっているがそれがずっとできるかと言われれば答えはNOだ。

これから先は鉄血だけでなくミュータントなどの化け物を相手にしていかなければならない以上、使える手段は何でもやっておきたい。

その点でいえば、そういう戦闘の経験者である彼らを手元に置けるのは極めて重要だ。

 

「装備はできるだけ持ってきた。持ってこれなかった分はアウトーチに保管してもらってる、次の遠征で全部持ってくるよ」

 

奏太が提出した武器装備類の一覧にフランは目を通す。対E.L.I.D用の武器弾薬類や装備がずらりと並び、見慣れない装備も山ほど記載されている。

その中でも目立つのは時代錯誤なレシプロ戦闘機と爆撃機だ、まさかこの時代になって第二次大戦の機体を扱うとは思いもしなかった。

今回持ち帰ってきたのは三機、艦上戦闘機二機、陸上攻撃機一機である。

 

「赤とんぼってのはなかったのかしら?」

 

「在庫がなかった、代わりにできるだけ良いのを買ってきた。五二は足も長いし挙動も素直で扱いやすい」

 

彼曰く、零式艦上戦闘機五二型を選んだのは航続距離と扱いやすさだ。広大な海上で空母運用されていたこの機体は足が長く、機体の機動性も素直で軽快な動きを見せる。

新造された際の機体強化などの強化改修で欠点を減らしており扱いやすい機体で、エンジンも整備がしやすい初心者向けらしい。

一式陸上攻撃機は爆撃、偵察、輸送と多目的運用が可能でかつ基地の人形たちも馴染みがある故に最初から購入が決まっていた。

 

「よくこんなに一気に買ってきたものね…まさか安物とか言わないでしょうね?」

 

「幸い、お金は潤沢でしたから全部新品ですよ。機体に関しては太平洋連合製の良いヤツです」

 

P38の言う通り、購入した機体は他国の正規軍からの払い下げ品だ。

ハンターオフィスと太平洋連合兵站部の正式な署名付き保証文書もそろっていて信頼できる。

さすがだと思う反面、笹木一家の顔の広さには驚かされる。やはりグリフィンは意外な人材を拾っていたのだ。

 

「最終的には戦闘機5機と攻撃機1機を予定してるけど問題はどう錬成するか、あなたたちに頼める?」

 

現状、即戦力となるのは一式陸攻のみだ。戦闘機の操縦は一から担当を決めて覚えてもらうしかない。

 

「基本を一通りくらいなら、ですね。私たちは陸攻を使ってますけど基本は陸戦部隊です。うちのも基本は移動用ですから」

 

「飛ばすだけならみんなできるけど…戦闘機は奏太の担当だね」

 

「昔取った杵柄だけどな、さすがにプロとはいかない」

 

「それで構わないんじゃないかしら?こっちもそのつもりだしね。普段は移動用よ、戦闘機のカバーがあれば多少危険な航路も使えるんでしょ?」

 

戦闘機の先導と護衛があれば輸送機の安全性は高くなり、危険な航路でもある程度対応可能になるので移動ルートの幅が増える。

編隊行動をするので敵の狙いを分散させやすく、攻撃を受けても戦闘機で迎撃して時間を稼いだり逆に撃滅することも可能なので安全性が段違いだ。

 

「そうですね。内地の航路もそうですし、外地の方も戦闘機付きの攻撃機一機程度なら狙われにくいです。

アノマリー探知機も付ければあのルートの先導機も可能なので…朝霞までの最短コースが使えますね」

 

「クーロン経由で最短三日か、依頼の幅が大分増えるな。朝霞にも帰りやすい、か」

 

「それなら良いことづくめじゃん。みんなに朝霞を見せてあげたいし」

 

M1911がうんうんと頷く。こういう話をしていると、彼女たちはどうやっても圏外で暮らすものだと認識させられてフランは少し寂しく思えた。

 

「そうだ、あなたアメリカに行ったことがあるのよね?ボルトテックって聞いたことある?」

 

ドリーマーが軽い調子で聞いた途端、奏太たちの視線が鋭くなって彼らの手がホルスターや刀の柄を握った。

心臓が縮こまるような空気が彼らからほとばしり、一挙一動すべてを睨まれているような感覚に陥る。

どうやら彼らの中のスイッチに触れてしまったようだ。受け答えを間違えれば彼らは容赦しないだろう。

ホルスターの拳銃を今にも抜きそうな空気を隠さず放つコルトM1911は、詰問するような声で問いかけた。

 

「それどこで?ここじゃ話してない、この基地で知っている人間はいないはずだよ」

 

「あ、R08基地の指揮官から聞いたの、ほら、あの59式指揮官の!」

 

「彼女から?確かに装備はアメリカ製が多かった…詳しくお願いできるかな?」

 

M1911は笑みを捨て真剣な面持ちで先を促す。その言葉と目にフランは背筋に嫌なものを感じた。

笹木一家のこちらを探るような眼がフランとドリーマーを射抜く、雇われとしての目、ハンターとしての目だ。

それもこちらを敵か味方か見極めている容赦のない冷たい目、もし敵と認識されれば容赦なく殺されると想像できてしまうほどの。

それはドリーマーも感じたのか、少しもたつきながらもR08基地とのやり取りと送られてきたメールを彼らに見せて説明した。

 

「ボルトテックの技術継承者?なんでユーラシアにいるの?」

 

「居たとしても90wishに吸収されたものと思ってたぞ。ボルト技術者なんて上玉をあいつらが放っておくはずがない、それもこんなところにいるなんて…」

 

「待ってください、これロボブレインの部品じゃないですか?」

 

「ロボブレイン?あ、ほんとだ。おいおい…」

 

「うぇ、ちょっと待ってよ、体作るくらいだから頭も作ってそうなんだけど?たまたまこれが流れてたとかそんなことないだろうし」

 

「勘弁してくれ、思い当たる噂がそこら中に散らばってるんだぞ」

 

奏太たちは資料を睨みつけるように素早く読み込んだと思えば、驚きと焦燥に駆られてすっかり三人の世界にはまってしまった。

3人の発する言葉はいつの間にか日本語になり、フランやドリーマーにはほとんど理解できないものになってしまい声をかけるタイミングすらつかめない。

所々で『ロブコ』や『ゼネラルアトミックス』などといったアメリカ企業の単語が出てくるのでアメリカの話をしているのだろう。

だがこのまま続くと埒が明かなそうな雰囲気をひしひしと感じられる、話を進めたいフランがドリーマーに目配せすると彼女は頷いて二回強く拍手した。

 

「はいはい、エルダーだのファロだの言ってないで説明してくれない?あとここでは共用語で話せ」

 

「悪い、まぁ何というか…ボルトテックはロブコと同じアメリカ国内集中経営の建築業者だ。コーラップスによる災害と戦争の気配をいいことに、奴らはボルトっていう地下シェルターを建築してたんだが…」

 

奏太はそこまで言って少し言いよどむが、小さく息をついてボルトテックの正体とボルトの真の目的を口に出した。

本当の姿は社会実験と人体実験を秘密裏に行うための設備で、まともな避難シェルターは数えるくらいにしかなかったらしい。

核戦争に耐え、コーラップス汚染も遮断し、人類が外に出られる日を迎えるためのシェルターを作っていたのは事実なのだからよりたちが悪い。

そして統括する部門や幸運な一部はそうした運用がなされていた、最初から避難してきた人間で実験をするために作られていたのだ。

建築業者というのもいわば副業で、本業は人権も道徳も知ったことではない実験をしたくてたまらない研究者たちが集まった研究機関だった。

奏太たちもアメリカに行った中でいくつかボルトに潜ったことがあるそうだが、そのほとんどが悲惨な結果と壊滅の状態にあったようだ。

 

「信じられないわ、そんな話、聞いたことがない」

 

「だろうよ、他国とはいえ国がそんなことに手を貸していたんだ。普通は情報規制をかける、国の徹底した鎖国もそれが一因だ。

他の国がやったんだ、うちの国もやったかもしれないってなるのを防ぎたかったんだよ。あの時代に流布されたら今頃どうなっていたことやら」

 

奏太は肩をすくめる、笑えない話だと思った。世界大戦終結直後にそんな話が流れれば国は確実に崩壊していただろう。

今の時代でもそれは同じだ、今の国家というのは難しい立場にある。国家の統制力は未だに弱い、戦争による疲弊とE.L.I.Dなどの跳梁はその回復を妨げている。

それを埋めるように今はPMCが変わって地方都市の運営や行政を委託されているのだ。

しかし国家の存在は衰えたとしても大きい楔といえる、今失われれば世界は戦後よりもひどい混乱の時代になってしまうだろう。

国に認められたPMCという戦力と財力を持つ存在が乱立している状況であれば、それはなおさらだ。

 

「信じるか信じないかはご自由に。それはほんの一部に過ぎない、いろいろあるからな」

 

「一〇〇式やFALが見たあれのこと?」

 

それも一つだ、と奏太はうなずく。彼らに同行したグリフィン人形たちは少なからず異様な光景や現象に立ち会ってきた。

アノマリーだけではないこの世のものとは思えない心霊現象の真っただ中を突っ切り、初めてだらけの県外活動をやり切って帰ってきたがそのおかげで彼女たちはみんなしばらくはメンテナンスに専念しなければならないくらいボロボロである。

 

「今の時代、ああいうたまり場はそこら中にある。知り合い曰く、あの戦争による破壊は完璧すぎた、核の炎は人の世だけでなくあの世までも焼き尽くしたそうだ。

そのせいで死んだ魂の中には行き場がなくて、元の場所に戻ってきてあいつらと通ったような場所ができちまう」

 

「意味わかんないわね、というか誰よそいつ」

 

「ちょっと変わった爺さんだ。案外間違いじゃないかもしれないよ、核が落ちたとき何か変わった気がしたんだ」

 

これはオフレコでな、と奏太は少し茶目っ気を出して片眼をつむり人差し指を一本立てて口の前に立てる。

自分は見たことがない、戦争が起きてすぐにシェルターに避難して戦禍を逃れ、人間の住めるこの場所で学びを得て生きてきた。

だから彼が何を見て、何を感じ、どんな気持であったのかを推し量ることはできなかった。

 

「おかげで私たちもひどい目にあったよ、面白かったけど!」

 

「そのおかげで今がある、というのも皮肉な話ですがね。あるというだけで、詳しい事は何も解明されていないのです。

諸説あれどいまだに多くは仮設の段階で、より調査を進めるためには時間がまだまだかかります」

 

「その依頼も私たちは受けまくってるんだよね、もしかしたら何かわかるかも…とまぁ、それは置いといて」

 

M1911は話を脇に置く動作をして話を切り上げる、確かにこのままではずるずると続きそうだとフランも感じていた。

 

「つまりね、国が外地との接触を極力避けてるのは昔の恥部を丸出しにされてめちゃくちゃにされたくないからなんだよ。

崩壊した国々の重要機密文書とか、諜報記録とか、国家的なのもそうでないのも全部どうぞご自由にってかんじて野ざらしだから」

 

国の最高機密が誰の手でも持って来ようと思えば持ってこれる状況というわけだ、それは国としては何としても阻止したいところだろう。

第3次世界大戦で崩壊した国は数多く、フェイルセーフも何もかもされないままで多く残っている国家機密や極秘兵器の類は随所に残されている。

戦争を生き残った国々から集めた諜報記録なども多く残っているのだ、不確定な情報だからと言って放っておくのも危険な代物だ。

現在の国のトップの議員時代のスキャンダルが飛び出してくるかもしれない、そうなれば国政は大いに荒れる。

 

「ちなみにね、アメリカにはロボブレインっていう汎用ロボがあるんだけど、その中枢って何だと思う?」

 

「普通にAIチップとか電脳じゃないの?」

 

「保存ポッドに入った人間の脳だよ」

 

「…んん?」

 

あっさりとした口調でとんでもないカミングアウトが飛び出したような気がして、フランもドリーマーと同じように自分の耳を疑った。

ドリーマーはきょとんとした様子でかぶりを振り、虚空を見上げると左右の耳を順々に小指で中を軽く穿る。

フランはつい透明なガラスに入ったポッドに浮かぶ脳みそを思い浮かべて鳥肌が立った。

 

「ちなみに向こうじゃ量産化もされててな、そこら中にいる。今度アメリカに行く仕事があったら連れてってやろうか?

暴走してるやつなら持って帰っても文句は言われないぞ、いろいろ保証はしないけど」

 

絶対に行きたくない、フランは全力で首を横に振った。

 

「そうか…なら箱舟計画を追ってみてみないか?」

 

「箱舟計画って、確か巨大地下都市計画っていう…あれは戦中の欺瞞工作でしょ?」

 

「ところがどっこい、バンカー自体はあったのさ。ヤマンタウの麓で知り合いが見つけた、面白そうだろ?」

 

「勘弁して頂戴、まだ次の仕事があるのよ?」

 

そりゃ残念、と奏太は肩をすくめる。彼自身は次の仕事にはあまり興味がないらしく、代わりにP38が問いかけてきた。

 

「どういった内容ですか?」

 

「悪魔狩りよ」

 

フランはファイルボックスから一束の書類を取り出してP38に渡す。S10基地のシーナ・ナギサ指揮官からの作戦協力要請だ。

作戦名は『End of Nightmare』次の戦いも一筋縄ではいかなそうだ。

 

 




あとがき
この世界は世界崩壊要因の満漢全席でお送りします、ろくなもんじゃないからこそ面白い。
後半部分でのお話はFallout4のDLC第一弾とかの話を知ってればわかりやすいかも、グリフィン指揮官には少しなじみ深いかもしれない。
この話の次がコラボ話になります、長かったぜ…



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