グリフィン管轄区某地区、この地区を管理するグリフィン行政の区画整理によって住民の足が遠のいた貧民層が住むスラムの路地に笹木奏太はいた。
雑草とがれきに囲まれた見通しの悪い道で、ここを抜けると軍やPMCの車がよく使う幹線道路の脇に出る小道に出られる。
その道はこのスラムがまだ普通の住宅街だった頃の名残で、まだ使う住民がいるためか荒れてはいるものの通るのに支障はない。
その道を今回の依頼人が雇った運び屋は通り襲われた、しかし瀕死の重傷を負いながらも逃げ延びた。彼は運が良かった、逃げ延びた先でグリフィンの巡回部隊に拾われたために命を拾ったのだから。
そのおかげで彼は仕事を放棄したのではなく奪われて失敗したという確たる証拠も生まれた、のちの仕事には響くだろうが依頼人のシドロヴィッチも彼をこれ以上疑うことはないだろう。
それに彼も仕事には真剣に取り組む腕のいい運び屋だ、いざというときに取り返すために荷物には発信機を取り付けておりその受信機を託してくれた。
それを受け取った笹木一家は、二手に分かれて荷物の行方を捜索してここまで来たのだ。
(荷物の擦れた後、同じ連中か)
スラムの壁、傷だらけの角の中でも真新しい傷を手でなぞる。その傷に残っている僅かな塗料は、依頼品のケースと同じ色だ。
奏太は自分と同じように路地を探っていたAR-15とスペクトラM4を呼び寄せてその傷を見せる。
「それも同じかしら?」
「運び屋から聞いた背格好、背負った位置、人数、足並みからして間違いない」
「傷と方向からして…やっぱりさっきの奴らで決まりですかね?」
スペクトラのさっきの奴らという言葉に奏太は、この先の路地にバリケードを作って監視所にしていたゴロツキを思い出す。
見た目はどこにでもいる荒くれ物の二人組だが、状態のいいAKMを持ちチェストプレートを着こんでおりバリケード裏にいろいろ仕込んでいるように見えた。
場数を踏んでいるゴロツキといった風体だが、その中途半端な具合が奏太には引っかかっていた。
「十中八九そうだろうが、琥珀たちの偵察も併せて答えを出すべきだろう」
「引っかかってますね?」
「あいつら中途半端だ、装備はいいんだが妙に小物っていうか…」
「成りきってないって感じですか?」
「そんな感じ、新米が群れてるように見えたんだよねぇ」
同じようにスラムに探りに入った琥珀とSOPⅡが、別行動で荷物の発信機を追ってさらに奥に潜入している。
どうにもあの中途半端な風体が気にかかって奏太も判断しかねている、目星はついているのだからあわてず情報収集をしていこう。
琥珀たちの偵察結果と、この区域の市街地を回っている市代たちの情報を総合してから答えを探っていくべきだろう。まだ情報が足りない。
「そもそも妙な話だ、こういう仕事は細心の注意を払うもんなんだ…いや、前提がおかしいのか?」
「どういうこと?」
「前にも話したが、むこうとこっちは基本的に人の行き来はない。出てくのは楽でも入ってくるのは厳しいって前にも言ったろ?
こっちからモノを合法的に輸入するのも決まったルートしかないし、そのルートも金人時間が恐ろしいほどかかるから普段は好まれない」
今回、シドロヴィッチが使ったルートはハンターオフィスと国との繋がりに便乗したルートだ。出なければオフィスに堂々と依頼は送れない、オフィスは犯罪組織ではないのだから非合法すぎる仕事は扱わないのだ。
特にまだ国の法律が広く効力を持つ人類生存可能圏内の活動は注意しなければならない、街を一歩出れば無法地帯になっている圏外とは違うのだ。
「確か依頼人、向こうの運び屋、窓口、こっちの運び屋、発注代理人の順で品を手に入れて、また逆の手順でしたっけ?」
「おおむねそう、軍の要塞も経由するから窓口の前後に入れとけ。とにかく金と時間がかかるから、確実性の高いルートを選ぶはずだ。失敗したら大損間違いなしだからな。」
シドロヴィッチは用心深い男だ、彼の使うルートが簡単に妨害されて失敗するとは思えない。最新の情報を仕入れてうえで慎重に手順とルートを設定していたはずだ。
なのに運び屋は襲われた。そもそも運び屋はなぜこのルートを通った?スラムに妙なゴロツキがいるのにわざわざ近づくなんておかしすぎる。
ほかの地区を通るルートもあったはずだ、別のPMCが管理する地区も近くにあってそこを通ることもできたはず。なのにここを通った、それが引っかかる。
「止まりなさい!」
合流地点にしていたスラム外れ向かう小道に出たとき、横から急に声をかけられて奏太は足を止めた。
声のしたほうを向くと、先ほど町に入る前は見当たらなかった車が駐車されておりその前で二人の少女が忌々しそうに唇をゆがめていた。
右目に縦一本の傷がある栗色のツインテールの少女がUMP9短機関銃、露出の多いもこもことした服を着た青い髪の少女はM249軽機関銃をそれぞれ携えている。
「あなたたちがU05のハンターね」
自分がハンターであることを知っている?少しいぶかしげに眉を顰めるが、彼女の背後に見える車にグリフィンの社章がついているのに気づいて納得した。
おそらくこの地区を管理している基地所属の部隊なのだ、この基地には運び屋の事を尋ねるときに連絡を取っていたし仕事をすることも伝えているから知っていて当然だ。
しかしなぜ今こうして接触してきたのだろう。
「あぁ、何か用か?UMP9」
「よく知っているわね、ドールマニアかしら?」
「マニアって程じゃねぇよ、グリフィンの戦術人形でその銃ならそうだろうと思っただけだ」
「そう。忠告するわ、手を引きなさい、これは脅しじゃない」
「なぜ?」
「あいつらの規模は大きいわ、装備もいい、わかるでしょ?」
それはさっきの監視所を見るだけでわかる、中身はまだただの野盗だがだいぶ手馴れてきているように見えた。
装備も手になじみ始めていて、この一帯を縄張りにしたゴロツキから立派な野盗になりつつある途中だろう。
グリフィンのように行政と治安維持がしっかりしている地区ではなかなか見られない状態の半端者だ。
ふつうはそうなる前に頭を押さえられるか、やり辛さを感じて別のもっと無法地帯の地区や裏の世界に逃げている。
「悪いがこっちも仕事だ、そもそもあいつらが荷物を奪ったのが悪い。他人の物はとっちゃいけない、そうだろ?」
「あきらめなさい。一つの荷物のために町を危険にさらすわけにはいかないわ、もし騒ぐというなら」
「その時はあんたらのお仲間が落ちちゃうよ?」
UMP9がM4SOPMOD2の声がしたほうへ向く、廃墟の二階から身を乗り出した彼女は小柄な少女を抱きかかえてニヤニヤ笑っていた。
彼女は琥珀と一緒に行動していたはずだ、おそらく近くに彼女もいるだろう。
SOPⅡに目を向けたM249は目を見開く、SOPⅡが拘束している人形は彼女の仲間のようだ。
「MP5!?それにSOPMODⅡ!?AR小隊がなぜ!!」
「ARじゃなくてSPARだよ!それよりなんでお仕事の邪魔するの?そもそもあいつらなんで放っておくの?
見てきたけどはっきり言ってただのゴロツキじゃん、装備には気を使ってるみたいだけどグリフィンなら一蹴できるレベルだよ」
「あなたには関係ない、仲間を開放しなさい!」
「教えてくれたら放してあ・げ・る♪」
「ふざけるな!あんたらのせいでこうなったっていうのに!!」
激高したM249がひどくイラついた形相でSOPⅡに銃口を向ける。見た目によらず激しい性格らしい。
AR-15がいるのに気づいてないのは格好が違うからだろうか?二人とも背後に琥珀が回り込んでいるのにも気づいていないようだ、彼女は余裕そうに壁に寄りかかって見物に徹している。
SOPⅡの挑発的な物言いは琥珀からの入れ知恵だろう、あえてつついてどう出るか見ているに違いない
「この距離でそれはまずいでしょ?」
「うるっさい!あんたらがしっかりしないからこっちはいっつもいっつも寝不足でイライラしてるの!!」
「いやそれ私に言われてもなー…そっちの指揮官に頼めば?人形増やすとか」
「お前ら前線が馬鹿みたいに発注するからでしょうが!!そのせいでこっちは―――」
「ミニミ、やめなさい。銃を下ろして」
激昂したM249をUMP9は一目で睨んで黙らせる。M249はまだまだ言い足りなそうだが、表情を怒らせたまま口をつぐんだ。
「悪いけど、ここではあなたたちは部外者なの、勝手な行動はしないで」
「何それ、同じグリフィンじゃん。何なら一緒にあいつらやっつけない?困ってるなら―――」
「戦争屋の手は借りないわ」
これはもしかしたらもしかするのかもしれないな、奏太はUMP9のSOPⅡに向ける侮蔑のこもった視線を見て感じた。
SOPⅡはそれを見て首をかしげるが、少し思い当たったのか素直にうなずくとMP5を室内に引っ込めて手放した。
「え?」
「もういいよ、あ、銃は彼女に渡すからあとで返してもらってね?」
SOPⅡは窓から身を乗り出すとそのまま飛び降り、UMP9に歩み寄ると弾倉を外したACOGサイト付きMP5短機関銃を差し出した。
「ほいこれ、壊してないから安心して。お巡りさん」
「…馬鹿にして。さっさと消えて、仕事の邪魔よ」
「だから私たちもお仕事だってば」
「するのは聞いたけど支援しろとは言われてない、もし変なことしたら同じグリフィンだろうがしょっ引いて豚箱にぶち込んでやる」
UMP9は吐き捨てるように言うとMP5短機関銃をひったくり、近くの階段から降りてきたうなだれる戦術人形のMP5を優しく迎える。
そして奏太たちに一瞥もせずに車に乗り込むと、そのまま去っていった。
「敵視されとるのぅ…いかん、前にもあった気がする」
「こういう嫌な予感は当たるんだ…俺らも車に戻ろう、向こうにも話を振ってみるか」
◆◆◆◆◆◆
この地区の中央区、中流階級の多く住む地区の露天商が多く並ぶ広場は多くの人でにぎわっている。
その一角にあるカフェの一角のテラス席で笹木美奈は合成オレンジジュースを飲みながら無線で問いかけてきた奏太に答えていた。
「治安はそんな感じはしないけど、路地裏にゴロツキが多いかな」
≪町の規模に比べて?≫
「そうだね、この町はいい感じに復興してるし流通も滞ってないから活気はあるけどそれに対して警備が少ないね」
美奈は広場の隅にあるグリフィンの戦術人形がいる交番に目をやる。入りやすいよう大きくあけられた開放感のある出入り口から見える室内の、受付の奥に見える事務スペースには大体4人から5人分の机が置かれているように見える。
だが今のところ、配備されているのは正面にP08が一人と受付に事務方人形が一人だけだ。活気のある広場の中では人気が少ない。
それに内部の様子もアンバランスだ、最初は4人くらい配置されていたらしく小物やファイルが机に設置されている。まるで人員削減にあったばかりのようだ。
「それにゴロツキの動きがアンバランスに見えます、あっちも様子見な感じでぎこちないです」
美奈の向かいでコーラを飲むP38のサラも、広場の片隅で居心地悪そうにしている柄の悪い集団をちらりと見つつ伝える。
いかにもアウトローといった風体なのだが、妙に縮こまっており周囲の目を気にして挙動不審だ。
周囲の視線を過剰に反応し、緊張感が表情にあふれていて睨みを利かせるP08だけでなく周囲の市民たちの視線すらも気にかけているように見えた。
≪なるほど、市代は?どう見る?≫
「ごめん、今絶賛戦争中でここにいないの」
美奈は無線機をいったん外し、近くの露天商と舌戦を繰り広げる市代の声が入るようにマイクを向ける。
いかにも商人というおっさんと雑多な品が多い露店の品をあれこれ手に取りツインテールを揺らしながら言い合うM14の市代が発する熱気は周囲をも巻き込みちょっとした見世物となっていた。
彼女と一緒に買い物をしていたM4A1はその間に挟まれすっかりおろおろしており、その様子がさらに見物客に受けていた。
「その缶詰も買うから、これくらいにならないかな?」
「馬鹿言っちゃいけねぇぜ!こいつも買うならこれくらいだ」
「その缶詰は賞味期限近いでしょ、もう少し負からない?そしたら買うけど」
「んーならそれは良しとするがこっちのラクダの刺繍は定価で買ってくれ、いい品だろ?」
「まったまった!ならこのサテンのロールも買うからセット価格でこれくらいでどう?」
「それじゃ赤字だ、税込みでこんくらいはもらわんとな。こっちだって商売だぜ」
「高い!缶詰も買ってあげるんだからもう一声!!」
「い、イチヨ、それくらいでいいんじゃないかな?十分安いんだし」
「「まだまだ、ここからが本番!!」」
「なんで息ぴったりなの~~!?」
喧々諤々の値切り交渉を論じる市代にM4A1はタジタジである。久しぶりに白熱したショッピングになっているので美奈はあまり邪魔したくなかった。
≪OK、経済は回ってる。ほかに気づいた点は?≫
「あたしはここのグリフィンの奴らの目が気になるね、なんか妙にチラチラ見てる感じがする」
話に割り込んだM16A1がゴロツキの集団から目を離し、広場に入ってきたグリフィンの巡回部隊に目をやる。
MP446とアストラの二人組で、店の店主やお客とは親しげに話しているがM16達の存在に気づいているらしくちらちら様子をうかがっている。
その視線は悪感情と疑いの色が強く、身に覚えのない濡れ衣を着せられているようで気分が悪い。
それは美奈やサラも同じように感じており、チョコバーをかじっていた416が仕返しに思いっきりにらみを利かせると二人は白々しく背を向けて知らんぷりした。
「やり辛いったらないわね、同じグリフィンのはずなのに無言で厄介者扱いよ」
≪まさにそうなんだろうよ、俺たちの所に釘刺しに来たしな≫
「妙な話ね、一緒に一仕事誘えば嫌な顔されたんでしょ?」
≪連中もゴロツキには困っている風に見えたけどな、だから判断しかねてる≫
「それならさっきおじさんから面白い話を聞いたわ!」
値切り交渉を終わらせ、紙袋を抱えてホクホク顔で戻ってきた市代が割り込んだ。
無線の向こうで琥珀が聞き返してくると、市代は無線機をM4に渡して促す。
「M4です、店主さんの話だと最近転勤になった戦術人形の方たちが多いそうです。常連さんで親しかったから少し心配だとか」
≪転勤?ここ最近かのぅ?≫
「はい、時期的にはそうですね…S地区の大規模侵攻の後かな」
≪…おーおー、よくある話ではないか?≫
S地区における鉄血の大規模侵攻で被った被害は大きい、かのS09P基地も多大な損害を被り一時的に機能を喪失したとさえ言われている。
S地区のグリフィンは戦争のプロが勢ぞろいしている超がつく激戦区であり、指揮官の能力も戦術人形の連弩も高い精鋭ぞろいだ。
その指揮官たちと戦力をもってしても防衛にかかりきりになるくらい苛烈で、指揮系統が不安定で足並みがそろっていなかったとしてもすさまじいものだったらしい。
その余波だけでも多くの基地が損害や部隊壊滅の憂き目にあったとしても不思議はない。
S09P基地の戦闘をUSPコンパクト経由で知ったU05基地としても、その場にいれば定点防衛を放棄してゲリラ戦に移行しなければ壊滅必至と判断したほどだ。
それを補填するために各所から余暇戦力を移動させるというのは理にかなっている、何かを察した琥珀の含みのある返答に416は肩眉をひそめて問い返した。
「コハク、何か引っかかることでも?」
≪簡単な話じゃが…いや、これは合流してからのほうが説明しやすいわい。宿で説明してやろう、フランからの情報があればわかりやすいはずじゃ≫
「フランから?何か調べることでも?」
≪あぁ、この地区の戦力とかな。さわりだけでも出てくりゃ一目瞭然じゃろうてな≫
◆◆◆◆◆◆
U05基地の夜は基本的に早い、夜になれば基地外周が消灯されるので真っ暗になり出歩く人影も夜勤担当以外居なくなってひっそりとする。
これは人気がある上に夜に明るくしすぎていると腹を減らした虫型ミュータントが際限なく寄ってきてキリがないからだ。
夜中に窓の外で変な音がして外を見た、あるいは朝に窓の外を見たら人間大の蚊や人間の頭ほどの蝿とご対面という事例が多発したら誰だって嫌になる。
すべての窓に防弾シャッターをつけて対策したりもしたが、やはり寄って来させないのが一番ということもありこうなったのだ。
フランとドリーマーの夢子も仕事のために早々と事務所の窓のシャッターをしっかり施錠し、光が漏れないようにした室内で奏太から頼まれた資料を片手にため息をついていた。
「指揮官の睨んだとおり、この地区の活動人員は大幅に削減されてるわ。全盛期のおよそ半分ね」
≪おやまぁ…その理由は言うまでもないか≫
通信先の奏太は肩をすくめているのだろう。
「えぇ、鉄血の崩壊と今までわたる大小さまざまな武力衝突による損耗と費用が各所の運営を間接的に圧迫してる。その基地も例外じゃない」
フランシスはグリフィン本部から取り寄せた奏太たちのいる地区の変遷と、グリフィン内部での戦力の移動記録を広げながらため息をつく。
「そこは鉄血の戦闘とはほぼ無縁、ある意味国家が求めたPMCの役割を今も果たしている地域ね」
≪いわば後方だな、安全な場所だ。経済に余裕もありそうで活気がいい、しかしそれがどうしてこんな風に?≫
「安全で余裕があったからよ、多少戦力を抜いても問題ないと考えたんでしょ」
≪配置転換?余裕があるなら遊ばせてる理由はないだろうしな、それが問題なのか?≫
M16の声色はやや不思議そうだ。無理もない、彼女は最前線に送り込まれ続けてきた生粋に兵士だ。
生まれてから今まで一度も『正常なPMC』としての活動とは無縁の戦闘ばかりで経験はほとんどないのだから想像したことがないのだろう。
「そもそも私たちに求められているのは国に代わって地方行政と治安維持を行うこと、意味は分かる?」
≪あぁ、国だけじゃ手が回らないからPMCに委託を…あぁ、そういうことか≫
「私たちは本来警察あるいは州軍ってところ、でも私たちが今してるのは何かしら?」
「まんま戦争よね、旧来の傭兵と何ら変わらない。国の求めたそれとは逸脱してると言えるわ、会社の営業だけでそんな膨大な予算を稼ぎきれるとは思えない」
もちろん国はPMCに戦闘力を求めてはいた、しかしそれはあくまで治安維持のためであり戦争を行うためではない。
答えを割り込んだ夢子の言う通り、グリフィン&クルーガー社はあくまで民間軍事会社という一企業でしかない。相手が同じ一企業体だった鉄血工造だとしても規模が違いすぎる。
グリフィンはたしかに国から行政を委託されるほどだとしても、鉄血はそのさらに上をいくIOPと鎬を削った巨大企業なのだ。
こちらがあくまで戦いに向いた企業運営をしてきて、さらにIOPや軍との繋がりがあったからこそうまくやりあってこれただけとも言える。
さらに言えば鉄血のグリフィンは対等な立ち位置ではない、鉄血はリソースをフルに戦争に振り分けられるがグリフィンはすべてを戦争に使うわけにはいかないのだ。
もともと国から任せられている行政を回し、地域の安定化を図り、住民たちを安心させ、生産力を培い経済を回して自分たちの食い扶持を得なければならないグリフィンは、鉄血よりも多くの仕事をこなしながら戦争を行わなければならない。
鉄血のリソースは有限で再調達が難しい立場だとしても、使える量が桁から違うのだ。
「社長は軍とも懇意で便宜を図ってもらってるけど、歪みが出てきてるのかも…」
「会社の上はこの特需でウハウハか、そりゃ自分たちの能力を見せつけるチャンスが向こうからやってくるんですものね」
≪勇敢なる兵士をあなたのボディガードに、能力は実戦証明済みってか?この上ない謳い文句だな≫
この世はいまだに混迷の中、戦前のような安全な場所は限られていて外を移動するだけでもどんな悪意に襲われるかわからない。
企業の幹部などの富裕層からしてみれば日ごろから恨みが多くて困ることだろうし、何より人間だけでなく化け物も不意に襲ってくる可能性もないではない。
そんな時に身を守ってくれるボディガードの能力が、鉄血との戦争という目に見える形で証明されていてかつお金で買える上に替えが利く。
さらに戦術人形たちは見た目麗しく花がある、魅惑の美女からかっこいい麗人まであらゆるニーズにこたえられる至れり尽くせりの存在なのだ。
「資料を見る限り、そこは今までも大きな事件なんかは起きてない安全な地区ね。鉄血が暴れだしてもせいぜい難民が増えたくらいで犯罪率とかは大して変わってない」
≪そこの指揮官はやり手なんだね、信頼もされてるし、住民とも仲がいい、か。だからかぁ≫
納得したのかSOPⅡも感心した様子だ。
「そこらへんもギリギリなんでしょうね、がんばったツケが回ってきたのよ。上は数字しか見なかったの。追加資料を送るわ、さっきのはあくまで町のお話だし」
≪どれどれ…あ、だめだこれ、最近も基地の外周巡回部隊が襲われてる。その前なんて戦力をさらに抜かれてるよ≫
「町を守るので精一杯、周りに手が届かなくなってるからスラムに悪いのがたまりつつあるってこと。しかもこの損害をまだ補充できてないの。
夢子に少し探ってもらったけど、前線の損耗を補填するのに人形の素体が回されててそっちに回す数が確保できてないそうよ。同じようなところはいくつもあるわね」
≪もしかすると人質になってるかも…でも救助にも行けてないねこれ、そりゃキレるか、ひっかきまわしに来たようなもんだし。どうするの指揮官?≫
≪そうだねぇ、忍び込む…じゃ結局暴れるか、皆殺しでいこう≫
「…やめるって選択肢はないのか」
ない、奏太たち笹木一家の返答は簡潔なものだった。その基地の現状は調べて知ったが、彼らにとっては関係ないことなのだ。
多少は配慮するだろうがそれでも仕事優先で行動するつもりらしい、良いところでも悪いところでもあるドライっぷりだ。
≪俺らも仕事だ、つまりあいつらが暴れるとどうしようもないから釘差しに来たんだろ?
明日の夜、全部終わらせる。そっちから指揮官にそれとなく偵察を送るよう仕向けといてくれ、空き家に家主を戻さにゃならん≫
こいつらやらかす気だ。フランシスは何かあった時のためにどう向こうの指揮官に言い繕うか考えることにした。
窓の外で何かひっかくような音が聞こえる、どうやら今日はついてない日らしい。
フランは引き出しからサプレッサー付き44口径マグナムリボルバーを取り出すとシャッターののぞき窓を開けて外にいる巨大な蚊、ブラッドバグに向けて引き金を引いた。
あとがき
グリフィンだって鉄血相手にしてるところだけじゃない、という妄想からこんな感じになりました。
うちも元最前線、今は化け物殺しだけど本来のPMCは国がやりきれない地方行政の下請けって解釈してますので。
それなのに鉄血と絶賛戦争中なのでそのしわ寄せがくる場所もあるわけで…そんな地区がここってわけです。
前線でバカスカ壊してその分補充すれば回ってこないところもあるわけですよ、まぁそれは笹木一家には関係ないから次で仕事します。
また今更ながら焔薙様のところより、S地区大規模戦闘の一件を使わせていただきました。USPコンパクトちゃんとのつながりが使えてうれしい。