U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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戦後モスクワメトロ脅威のメカニズムと阿吽の呼吸、また胸糞描写注意。



第18話・シドロヴィッチの依頼2

今日もスラムは静かだ、男はAKMのスリングを肩にかけなおしながら監視所になっている路地の壁に背を預けたまま眠い目をこすってはあくびをしていた。

グリフィン管轄区の某地区にあるスラムの古びたモーテルは自分たちのチームが占拠してしばらく経つ、この間いくつか『仕事』をこなしてきたが今夜は一段と暇だった。

いつも生意気なグリフィンのお人形たちを見ることもなく、周辺住民の不安そうな視線を感じることもない。

これなら自分ももう一仕事したかった、こんなところでボーっとしているなんて退屈すぎる。

我ながら馬鹿をした、あの運び屋に変な情けをかけるんじゃなかった、と何度も悔やむがもうどうしようもない。

 

「退屈だねぇ」

 

思わず愚痴がこぼれる、もしまた仕事に行ければそこでこの前の仕事の汚名返上できる。しかし前のへまで新しい仕事では外されてしまい、前の仕事は実入りが良すぎたせいで処理に時間がかかっている。

そのせいで自分はこの暇な立哨をずっとする羽目になっている、しかも次の交代が遅いとなれば愚痴りたくもなる。

簡易的なバリケードと座哨用のいすに目をやり、ルール違反だけども座ってしまおうかとも考えるが今座れば確実に寝てしまいそうなのでこらえることにした。

 

「リーダー、早く次の仕事持って来いってんだ…」

 

「仕方ねぇよ、この前の奴に買い手がつかないってぼやいてるし」

 

「おせぇ!何やってやがった!!」

 

「悪い悪い、ついつい夢中になっちまってよ。」

 

交代の兵士、やや軽薄そうな男の同僚は腰を前後させながら下衆な笑みを浮かべる。

捕まえた人形で楽しんできたのでとても上機嫌だ、自分はここでずっと歩哨だというのに。しくじった自分も悪いが。

同僚はおやじ臭い吐息を吐きながら監視所の椅子に座って背伸びして背もたれに寄り掛かった。

 

「定時連絡、Dポイント、異常なし!」

 

「何が異常なしだスレスレ野郎」

 

「そんなこと言ってていいのか?お前のお気に入りちゃんならグレイの奴に連れてかれてたぜぇ?」

 

「くそっ、あいつかよ」

 

聞きたくなかった、お気に入りとはいえ自分専用というわけではない。当然仲間の全員が使う権利がある、特に見た目麗しい新品のグリフィン人形ならなおさら人気だ。

しかしよりにもよって扱いが異常に荒い壊し屋の彼女に目をつけられてしまうとはついてない。彼女は仕事を人形に奪われてから人形を憎悪している、見た目麗しいならなおさらだ。

これはもうバラシだな、と考えていると監視所を照らすライトの電気が消えた。次いで換気用の扇風機の音が途絶え、無音と闇に風景が包まれる。

一瞬の思考の空白の後、彼は咄嗟に肩にかけていたAKMをいつでも構えられるようにして安全装置を外した。

グリフィンの襲撃かと考え、すぐに反撃できるように身構える。このあたりのグリフィンはだいぶ戦力を抜かれているとはいえ格上なのは違いない。

 

(くそったれ、グレイのせいだ)

 

やはり部隊を壊滅させたのはまずかった、動きを見るための牽制だったはずの攻撃で人形嫌いのグレイがやりすぎたせいで行き過ぎた。それで彼らを怒らせたに違いない。

しかし、その懸念はリーダーからの連絡で霧散した。発電機の故障だ。感度の悪い無線で聞き返す同僚の影がやれやれと肩をすくめる。それを聞いて彼は静かに安堵した。

モーテルの発電機は古いので、整備していても機嫌を損ねる時がある。偶然それが今日だっただけだ。

 

「また発電機か?」

 

「あぁ、さっさと修理したげふっ!?」

 

「きったね!?」

 

向かいの同僚がせき込み、勢いよく飛んだ唾のようなものが服に掛かる。暗闇でよくわからないが、生暖かくて気色が悪い。

胸糞悪い、ただでさえ発電機が不調で薄暗い上にグリフィンの襲撃を警戒していて気が立っているというのにこれだ。

薄暗い向こう側で突然黙った同僚は、身じろぎせずにうなだれて椅子に座っている。くそ、謝れよ。

 

「おい、何か拭くのくれ」

 

同僚は答えない。無視か、聞こえていないはずがないからきまりが悪いのだろう。お前の服で拭いてやる、彼は苛立ちながら同僚のほうに手を伸ばして、喉仏に唐突な衝撃を感じて後ろに押し飛ばされた。

その衝撃で彼は壁に押し付けられ、首筋から刺さった何かに壁へと縫い付けられて身動きが取れなくなった。

そこで気づいた、暗闇に慣れてきた目が同僚の姿を薄くだが見えてしまった。同僚は額に鉄の棒のようなものをはやして、目を大きく見開いたまま即死していた。

 

「―――」

 

自分の首に刺さっているのが同僚の首から突き出ているものと同じ鉄の矢だと気づいた。敵だ、頭ではそう考えるが体が動かない。首から下の体の感覚がまるでなかった。

近くの暗がりから誰かが出てくる、自分をやったやつに違いない。グリフィンだろうか?そう思ったが、すぐにそれは否定した。

次第に薄くなっていく意識の中で彼が見たのはまるで昔の軍人のような姿をして、バラクラバをかぶり見慣れない銃を持った男だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

壁に縫い付けた野盗の表情から生気が抜ける、それを傍目で見ながら奏太は暗くなったバリケードの中に足を踏みこんだ。

バリケードは想定通り裏から補強されていて見た目よりも固い代物だ、時間稼ぎには十分だろう。

敵は30名ほどでモーテルを中心にスラム街の一角に陣取り、モーテルの発電機で電力を供給している監視所を設けている。軍人崩れでもいるのか哨戒網も作っていてなかなかのものだ。

うまく潜り込んでも野盗が集めた物資は数多くあるだろうし、すばやく目当ての荷物を見つけ出すのは難しい。奏太はそう考えて笹木一家のいつものやり方をすることにした。

 

「クリア」

 

モーテルの壁に縫い付けられたまま息絶える野盗の男から目を外し、周囲を見渡してから奏太は新しい矢を腰の矢筒から引き抜く。

8連発空圧式クロスボウ『ヘルシング』の空いた弾倉にそれをはめ込み、素早く手動ポンプで加圧しなおして構えなおすと背後に合図を送った。

後ろの物陰で待機していたAR-15とスペクトラM4が、静かに出てきて背後につく。

彼女たちもよくある野戦服を着こみ、バラクラバを被ったうえで戦術人形としての信号類を完全に停止させている。

握っている銃も奏太と同じヘルシングのみで、使い慣れている銃は置いてきていた。

 

「次の提示報告まで15分、長くても30分。騒がせるな」

 

観察から分かったのはこいつらの電力供給減はモーテルの発電機のみで、かつ定時連絡は必ず15分おきということ。

先に市代とSOPⅡが忍び込んで発電機に細工をして電力供給に支障が出るようにした、経年劣化に見せかけているのですぐには異常とは思われないだろう。

その隙に定時連絡を終えたと同時に監視所をすべて潰し、巡回や居合わせた野盗は皆殺しにしつつ内部に侵入し、音を立てずに一方的に皆殺しにする算段だ。

普通ならばうまくはいかない、だが相手は少し頭の回る野盗でしかないのなら簡単だ。

 

「りょ、了解です、お任せください」

 

「相手に気づかれないうちに殺せばいいだけだ、手本を見せてやるからついてきな。念のため聞いておく、オフラインだな?」

 

「いつも通りに!」

 

「ならよし、ここからはおしゃべり禁止だ」

 

さすがに少しおびえているスペクトラにしっかりついてくるように伝え、奏太はモーテルの暗い影の中をゆっくりと進む。

同じように別ルートで美奈とM4が地上を、琥珀とM16、サラとHK416がそれを援護するルートを取って同じように進んでいるだろう。

真っ暗闇ではない僅かな光源が、闇をより際立たせているモーテル内は静かに行動するのはたやすい。極力影の外に出ないように、静かに進む。

音が反響しやすいトンネルでも通じる身のこなしは完全に染みついている。

裏路地の角からライトの明かりが見えた、咄嗟に物陰に隠れると歩哨が一人ぶらぶらと歩いてくる。おそらく先ほど無力化した監視所に行くのだろう。

放っておいては騒がれる、すぐに排除を決めると奏太は物陰で息をひそめて歩哨が十分近づいてきてから物陰から手を伸ばし、口をふさいで物陰に引っ張り込んで首をひねった。

歩哨の死体を物陰にしっかり押し込み、隠れている二人に合図をしてから再び進む。また歩哨が二人組、路地でサボっているようだ。

二人に手信号で合図して共同で始末するように指示する、ヘルシングの空圧式特有の静かな発射音は距離が少し離れているだけで掻き消えるほどに小さい。

僅かに空気が漏れる音が2発同時に聞こえると同時に、サボっていた二人の頭に鉄の矢が生えて一撃で命を刈り取った。

少し進むと開けた場所に出た、モーテルの駐車場のようで廃車だらけの駐車場の中で野盗たちが焚火を囲んで暢気にしゃべっている。

5人ほどが焚火を囲んでおり、一人だけでは殺すのは難しそうだ。奏太は手信号では以後の二人に合図を送り静かに周囲に展開させる。

彼女たちはヘルシングを壁に身を潜めて構える、狙う相手を手信号で二人に指示してから奏太は支援位置についているだろうさらに手信号を送った。

 

≪いつでも≫

 

サラの短い返答と同時に、奏太はヘルシングを構えると素早く女の頭に向けて引き金を引く。僅かな圧搾空気が漏れる音と同時に鉄の矢が飛び出し、男の頭を射抜いて即死させる。

壁に寄りかかっていたせいで貫通した矢がコンクリートに突き刺さり文字通り縫い付けられた。

唐突に仲間を失ったほかの野盗たちだが、騒ぎ出す前にAR-15とスペクトラの放った鉄の矢に貫かれて一言も発さないまま息絶えた。

残り二人もコンマの差でサラたちの狙撃で脳天を撃ち抜かれて一言も発することなく倒れる。

 

「うわ、グロ・・・」

 

AR-15は自分が放ったヘルシングの矢で哀れな太っちょの頭をコンクリートに縫い付けて小声でびっくりしている。

今回のようにどこにでもある圏内製スポーツ用の鉄の矢を使っていても、ヘルシングの射出力ならボロボロのコンクリートくらい刺さる。

3人で分担して僅かな血痕に土やがれきをかけてごまかして死体を物陰に隠す、焚火のおかげで物陰の影が濃いのですぐには見つからない。

 

≪奏太、配置につきました≫

 

「了解、外は任せる。このまま中に入って狩る」

 

≪了解≫

 

談笑が途絶えたのが気になったのか中庭を覗き込んだ野盗の頭が無音で飛来した鉄球弾で貫かれるのを視界の端にとらえながら奏太はヘルシングを構える。

15分が過ぎ、定時連絡の時間になるが反応がないことに周囲の警戒が少しあわただしくなるがその程度はむしろ隙になる。

美奈とM4が別ルートで二階を制圧し始めているだろうし、地下は市代とSOPⅡが裏工作と地下の確保を行っているはずだから余計に引っ掻き回されるはずだ。

怪しいと思いつつ半信半疑だったりするその心理状態の隙をついていく。

野盗は見つけ次第ナイフを突き立て、時に投げ、一度やり過ごしてから静かに首を折る。忍び込みつつ徹底して殺し尽くす、一人も暴れさせるつもりはない。

 

(数だけは多いな)

 

食堂から出てきた男をやり過ごし、廊下の影で待ち伏せて首を折った奏太は、食堂に誰もいないのを確認してから抜ける。

その向こうですでに眠っている野盗がいる部屋を見つけた、二段ベッドで暢気に寝息を立てる野盗に鉄の矢を打ち込んで確実に息の根を止める。

廊下をさらに進み、宿泊用の部屋が並ぶエリアに入ると壁の向こうで物音が聞こえた。一階で見ていないのはこの部屋が最後だ。

慎重に中を覗き込むとボロボロの女性が椅子に縛り付けられて野盗の女性に甚振られていた。

その凄惨な光景についてきていた二人が驚き、助けるためにヘルシングを構えようとしたのを奏太は止めた。

椅子に縛りつけられているのは戦術人形だろう、衣服はすでに剥ぎとられ粗末なぼろ布に着替えさせられている。

その彼女を嬲るのは女性、その横には同じように嗜虐心に満ちた笑みを浮かべるもやしのような細い眼鏡の男とほかに数人だ。

それを見たスペクトラが目を見開き、手信号で嬲られている人形の素性を伝える。C96に違いないらしい。

 

「ほら、ほらぁ!!痛いかい?苦しいかい?」

 

「なんで、どうして…」

 

うつむいて泣いているC96を見つめ、野盗の女はひどく嗜虐的な笑みを浮かべると髪をつかんで引っ張り上げる。

C96の左目はなかった、顔が赤く腫れあがり、口からも大量に出血している。痛みを感じ続けているということは、おそらくシステムにも細工をされているのだろう。

 

「お前さえいなけりゃ、お前ら人形さえいなければ!あたしは仕事ができたんだ!!働けたんだ!!この!この!!」

 

「痛い!痛い痛い痛い!!」

 

「なんで道具があたしたちより良い服着て、良いもの食って、いい部屋で寝てんだ?あぁ!!?」

 

ここからでは角度が悪い、一度に一気に殺すには少し奥に行く必要がある。奏太は二人の位置取りを手で示し、静かに室内に忍び込んだ。

耳に入る殴る音とC96の悲鳴に胸糞悪さを覚える、このタイプは嫌な部類だ。恨みが熟成されすぎていて制御不能になっている、自分では善悪の判断もつかないから何でもやるようになるのだ

 

「謝れ!あたしに謝れ!!人間に謝れ、謝れ謝れ謝れ!!!」

 

平手で殴り続けられるC96に反応が薄い、一刻の猶予もないと見た。配置につく、ほかの二人も準備完了だ。

 

「あんたみたいなのが生まれなけりゃなぁ!あたしはな、あたしはなぁ!!」

 

「グレイさん、そろそろ―――」

 

奏太は野盗の言葉を待たずにヘルシングで射抜く、同時にグレイと呼ばれた女の額と胸にAR-15とスペクトラの放った矢が突き刺さった。

二人を襲った鉄の矢に驚いた野盗の手が銃器に伸びるが遅い、彼らの体に鉄の矢が生えるほうが早かった。声が出せないように口かのどを確実につぶして静かに始末する

自業自得だろうに、奏太は野盗達の死体に侮蔑の視線を向けてから気を失ったC96を椅子から解放して静かに床に横たえた。

何度も慰み者にされた後にこの意味のない拷問をされてC96の体は無残なものだった。

四肢はまともに動かないよう細工されていて、そのうえで治せないようにめちゃくちゃにされていた。

知識がない頭の回る素人が意図的にやったものだ、規則性も手順もなくかつ意図的にいじるから判別も難しいこの場で下手に触るのは危険でめんどくさい部類の破壊工作だ。

首筋の接続部にはやけどが見られ、プログラムを書き換えるようなものではなく電脳自体に損傷がある可能性もある。人間でも人形でも重大な後遺症が残るレベルだ。

 

「だ、れ?るがー?」

 

目も見えていないらしい、無事だと思った右目は瞳が濁っており機能していないようだった、何かの拍子に傷ついてそのまま治療されなかったのだろう。

 

「ないん?みにみ?えむぴ?みえない、だれ、あなただれ?」

 

返答がないのが不安だったのか、声が震えだす。答えられない、証拠は最小限に抑える必要がある。仮に自分が誰か答えてもきっと彼女は安心なんてできないだろう。

部屋の隅に置かれた汚れたマットレスを引っ張ってきて、奏太は無言でC96を静かに乗せるとAR-15とスペクトラに手信号で介抱するように指示した。

 

「り…」

 

AR-15が口を開きかけるが、すぐに口を閉じてうなずく。彼女たちを任せると、部屋を出てドアを閉める。

この地区のグリフィンが後始末に来た時にでも助けてもらえる、それまで辛抱してくれるよう祈るばかりだ。

 

「ダーリン」

 

ふと頭上から声を聞こえる、見上げると自分と同じように野戦服姿でバラクラバを被ったコルトM1911の美奈が上階から階段を下りてきた。

おそらく上にいた連中を殺し尽くしてきたのだろう。彼女はサバイバルナイフに付いた血を払いながら言う。

 

「M4は?」

 

「介抱してもらってる、その、お楽しみ中の奴もいてね」

 

どうやら二階も同じような部屋があったらしい、俺もだと奏太は頷く。

 

「荷物は地下にあるみたい。市代が先に探してる」

 

「了解、俺らも向かうか」

 

≪奏太、報告です、別動隊の車列が見えました。ばれましたね≫

 

唐突に割り込んできたのは、外で周辺警戒と外周に出てきた野盗を狙撃していたワルサーP38のサラ。

手動加圧式空気銃『ティハール』で外部の敵を殺し、周辺警戒に徹していた彼女が言うにはすでに正面玄関に車が横付けされているそうだ。

外で殺した死体も見つかっていて、野盗たちは殺気立っている。今にも引き金を引きかねないが、統率しているリーダーが手綱をしっかり握って指揮を執っているそうだ。

人数は20名前後、全員がAKMを持つなど装備も整っている。まともにやり合えばきついだろう、まともに戦うのであれば。

 

「サラ、動きは?」

 

≪外を固めてから入るようです、合図があるまで監視に徹しますね≫

 

「んじゃ、怖がらせてやろう」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

4台のボロボロのピックアップトラックでモーテルに乗り付けてきた野盗の部隊を見下ろしながら、サラはティハールの加圧ハンドルでティハールに空気を補充しながら陣容と持ち物を見ながら相手の動向を探っていた。

おそらく一仕事終えてきた後なのだろう、テクニカルに改造されたピックアップトラックには盗んだと思われる物資が満載されている。

武装はこの基地を守っていた野盗よりも充実しているが消耗している節が見られ、何人から負傷しておりトラックの周囲で警戒している。

 

(装備がいい、ほかの組織とつながってる?いや、まだ下請けってところでしょうか?)

 

どちらにしろこの部隊は壊滅する、今日ここに残るのは人質と死体だけの予定だ。

 

「どうするの?撤収?」

 

「いいえ、こいつらもやります」

 

「了解」

 

「外したら危ないので確実に当てる自信がなければ下がっててくださいね」

 

「誰に向かって言っているの?たとえ武器が違っても私は完璧よ」

 

416はティハールのチューブ弾倉を新しいものに取り換え、取り換えた弾倉に鉄球を装填して取りやすいところに配置する。

やる気は十分、緊張もさほどしていない様子から自信はあるのだろう。ならば問題はない、彼女の実力は良く知っている。

バラクラバから見える眼光は鋭く、スコープ越しに野盗達の頭を狙っていた。

 

≪琥珀から市代へ、裏に回ってきた。地下に降りる、5、4、3…排除≫

 

≪M16から指揮官へ、ビビった馬鹿が逃げた。路地でやる…排除、奴らに見えない≫

 

裏手に展開した琥珀とM16のほうは先に始めているようだ。小さく、遠くのほうから男の悲鳴が少し聞こえて掻き消える。

 

≪サラ、援護して、脇から行く≫

 

「了解」

 

野盗達の無線のやり取りが少し騒がしくなっている、建物内に入った連中は奏太たちが片っ端から潰しているに違いない。

その隙に乗じて駐車場の暗がりを伝って美奈が接近、すでに何人か近くを通りがかった野盗を絞め殺していた。

僅かに聞こえた音に気付いた野盗が暗がりに銃口を向けて慎重に近づく、一人で行くのは悪手だが相棒はリーダーたちのほうに目を向けていて気付いていない。

暗がりから美奈の腕が伸びてナイフが男の額をえぐる、その小さな悲鳴に気づいた相棒の頭をサラはティハールで撃ち抜いた。

力なく倒れる野盗、しかしその音は野盗達の不安げなざわめきと怒声にかき消されてしまう、その隙に美奈が車列に接近した。

無線を握って思案するリーダー各とその取り巻き4人、周りを固める護衛の連中は周辺警戒に目が行っていて護衛対象のすぐ近くにもう危機が迫っているのに気づいていない。

美奈が標的を定め、リーダーの男が無線のやり取りをいったん終えた瞬間を撃ち抜く。次いで取り巻きの頭を打つ。

それと同時にサラと416がほかの護衛を排除、これで指揮は壊滅した。美奈は素早くリーダーの死体を物陰に引っ張り込んで隠した。

 

「奇襲は楽でいいわね、頭が狙いやすい」

 

「油断しない」

 

「わかってるわよ」

 

美奈が野盗の使っていた無線機のマイク部分に小型スピーカーを張り付け、マイクに繋がったテープレコーダーのスイッチを入れた。

 

「何してるのかしら?」

 

「傍受してみましょう…歌を流してますね、きらきら星でしょうか?」

 

無線機のチャンネルをいじって野盗達の使って居るチャンネルに合わせると、不気味な音程の狂いを持った女性の声の歌が聞こえてきた。

これには野盗達に動揺が走り、周囲に散らばっていた野盗がリーダーたちのいた車のところへ駆け戻る。

そこにあるのは取り巻きの死体だけで、リーダーはどこにもいない。その後ろに美奈がリーダーの死体にマイクを外した無線機をしっかり握らせてサラに合図を送る。

サラはそれを見て、火がくすぶり始めていた焚火に向けて引き金を引いた。鉄球は焚火にうまく命中し、鈍い破裂音を立ててチロチロと火花を散らす。

その音と気をひかれた野盗達の身じろぐ音に紛らせて、美奈がリーダーの死体を静かに空中へ放り投げた。死体は狙い通り野盗達の目前に落ちて血しぶきを飛び散らせる。

さらにリーダーの無線機が手から零れ落ち、ハウリング音が響くと同時に気味の悪い男のせせら笑いが響き、野盗達は恐怖に満ちた表情であたりを見回して次々と自身の無線機を外して放り捨てた。

その瞬間を狙い、美奈が仕掛ける。8人いた野盗たち内3人を美奈がヘルシングで射抜く、それに驚いた5人のうちサラが2人、416が1人を射殺。

バタバタと倒れていく仲間に動揺した二人は、背後に回り込んだ美奈に気づけない。一人の首に絡みついて一気にへし折り、死体を最後の一人に投げつける。

死体に押されてよろけた野盗は車のボンネットに押し倒され、美奈に頭と首を射抜かれて磔にされた。

 

「もしかしなくても死者の呼び声作戦?」

 

「奏太も悪乗りしましたね」

 

416が思い出したのはかつて鉄血ハイエンドのデストロイヤーに対して行ったいやがらせ作戦だ。

墓地に誘導した後、無線に割り込んで不気味な歌やすすり泣きなどを垂れ流しにした上に部下を次々サイレントキリングしたうえでスプラッタな現場を作っていく心理戦である。

建物内は今頃地獄だろう、見えない、聞こえない、気が付いたら仲間もいない、無線も奏太が確保しているのであてにならず闇の中に一人きりだ。

そのうえで一人一人殺されていく、惨殺死体になっていたりあっさり死んでいたりとバリエーションに富んだ死に方でだ。

その光景に耐えられなかったのか、モーテルの正面、受付に野盗が恐怖に駆られて逃げてきた。サラはその胴体に狙いをつける。

 

「惜しい」

 

その胴体が持ち上がり急に足に変わった、倍率を変えると天井の通気口からM4A1が上半身を乗り出して野盗を捕まえて引っ張り込んでいくのが見えた。

バタつく足がひときわ大きく暴れた後にぶらりと力をなくてぶらぶらと揺れる、重さに負けて体が通気口から抜ける。

死体には仕留めるのに使ったコードが結びつけられたままになっていて、そのまま首つり死体となって宙ぶらりんになった。

 

「表に残敵無し、みんな?」

 

≪琥珀、敵影無し≫

 

≪奏太、敵影無し≫

 

≪美奈、敵影無し≫

 

≪市代、荷物は回収、敵影無し。けどこれ、意外にデカい≫

 

任務完了、サラは小さく一息つくと416に合図してティハールを持ち上げて静かに部屋を後にした。

部屋に残ったものは何もない、硝煙も、薬莢も、戦った痕跡すらもない。ただ何かがいたという証拠にもならない跡が少し残るだけだった。

 

 





あとがき
モスクワメトロを駆け抜けた笹木一家にとってこの手のステルスキルは慣れ親しんだものである…メトロに潜ればわかるさ。
二つの勢力が争う最前線をたった一人で全員ステルスキルするなんてことも可能、喧嘩両成敗するの楽しいぞ!







ミニ解説

ティハール
出展・メトロシリーズ
モスクワメトロで戦後設計され、製造されたフルオート式空気銃。装弾数15発、マガジンにより増減あり。
ありあわせのもので作られた銃ながら、維持費が安く弾の調達が容易なため普及している。
手動加圧式のためボンベの容量は少なく、随時加圧が必要であるが専用器具が銃自体に付属しているためいつでも加圧できる。
弾は車の部品に使用されているボールベアリングだが、大きささえ合えばどんな弾でも使えるのが利点。
空気銃なので銃声がほとんどしない他、球体弾を使用する滑降砲ながら中距離狙撃できる優れた精度を持つ。



ヘルシング
出展・メトロシリーズ(2033、ラストライトに登場)
モスクワメトロで戦後設計、製造された空圧式クロスボウ。装弾数8発。
クロスボウの土台に、旧式ガトリング銃の銃身を縮小して乗せて銃身から矢の先端が突き出た形をしている。
ティハールと同じく手動加圧式であり空気容量はやや少なめ、適宜加圧して使用する見極めが求められる。
これも空気加圧用のハンドルと器具が銃にそのまま付属しているため、ハンドルをキコキコすればいつでも加圧可能。
この銃身から発射される鉄の矢はミュータントの分厚い頭蓋にも通用し、ヘルシング用の矢ならば地下鉄のコンクリート壁にもガスガス刺さる。
火薬を用いないため発射音が静か、鉄の矢も非常に頑丈にできており一度使用しても再利用が可能。大変エコロジーであり燃費がいい。
矢の単価は高いのでできる限り回収するのが理想的な運用法である。


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