U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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山もなければ落ちもないだらだらな日常小話…のはず




第20話・小話だらだら

 

 

1、U05のVRプログラム

 

静かに坑道を上へ上へと進んでいく、足音を立てないよう細心の注意を払いながらステンMk2は黒いカビがそこかしこに生えた洞窟を慎重に足を運ぶ。

もう何度この坑道に足を運んだだろう、なんとなく考えたが回数に意味はない。ここまで来るのに二人失い、弾薬を多く使った。

無駄遣いできない、後ろに続くIDW、スペクトラM4も同じだ。ステンは被っているガスマスクに最後のフィルターを取り付け、使い切ったフィルターをポーチにしまう。

 

「ステン、あれ見て」

 

長い坑道を抜けた先にある廃坑の出口、ちょうど窪地になっていて上に上がるエレベーターがあるその空間に肥満体の黒々とした巨人。太った人型に塗り固めた悪趣味な海苔人形といった風体の化け物が2体いた。

一体はこれまで見てきた同種のモノよりも巨体で動きは鈍いが頑丈そうだ、反面もう一体は小柄で動きはきびきびしており小回りが利いている。

あれが今回のターゲットである『モールデッド』の感染源、カビが変異したとされるこの菌類型E.L.I.Dがこの地域で感染拡大した原因であり最初の感染者だ。

大本というだけあって感染後の変異具合がほかのモールデッドと違い格段に進んでおり、耐久力と回復力に富んだ強敵だ。

 

「デカいデブとちびなデブ、どう攻略したもんかねぇ?」

 

「指揮官の真似かにゃぁ?」

 

IDWがデブ2体を観察しつつ、ガスマスクの向こうに見える目がにやりと笑う。

 

「いいじゃない、ゲン担ぎ」

 

「いいけどにゃ。どっちも回復力は強いしそこそこ固い、3人で一体に集中攻撃すれば何とかってところだにゃ」

 

「けど片方に集中してるともう片方に溶かされる、9ミリだけじゃちょっと火力不足だよ?」

 

後方を警戒するスペクトラM4が残りの弾倉を数えつつ呟く。ステンも自分の残弾を数えながら同意して頷いた。

FNCとG11をここにたどり着くまでに失ったのが痛い、彼女たちの火力があれば戦いやすかった。

 

「ラムロッドを撃ちまくる?」

 

「弱らせないと効き目は薄いよ、前はピンピンしてたでしょ?」

 

「時間をかけすぎると下の白いのが出てくるにゃ、あいつの相手も考えると多少は残すべきだにゃ」

 

手元にある『ラムロッド再生阻害弾』はE.L.I.Dなどの高い再生力を阻害する薬剤を内包した弾薬で、目の前の敵には特に効果がある特殊弾だ。

通常種やその亜種ならほぼ一撃で、変異が進んだ相手でも弱らせたり止めとして使える。

しかしその分値段が張る、今回持ち込んだ量は一人当たり20発のみであるし一発で最大限効果を発揮するにはまずは敵を弱らせなければならない。

そのまま撃ち込んでも一時的に弱らせるだけで再生力が阻害効果を上回ることがある上に、銃弾は貫通能力がないソフトスキン向けなので最悪の場合全く通要しないこともありうる。

ステンは12発、スペクトラは15発、IDWは10発を残しているものの心もとない。ほかの装備や通常弾はここまでの戦闘で消耗しているのだ。

さてどうしたものか、ステンは残りの装備の位置を取り出しやすい位置に移動させつつ考え、ターゲットの大きいデブを指差して指示した。

 

「よし…IDW、でかいのを引きついけといて。スペクトラと私でチビに速攻をかけるよ。接近して私のラムロッドを全部撃ち込む」

 

「それなら行けるかにゃ。早めに頼むにゃよ」

 

「OK。ステン、援護するから」

 

二人は頷く。小回りがこの中では一番効くIDWが大きいデブをひきつけ、その間に小さいデブを二人で一気に殺す。

そのあとは大きいデブを3人で相手をする、あとは臨機応変に動くだけだ。

まずは有利な位置に陣取り、そこから同時に奇襲をかけるとしよう。ステンは気を引き締めなおし、スペクトラと一緒に小さなデブにゆっくりにじり寄っていった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「鬼畜だにゃぁ…」

 

疲れ果てた、ダレるIDWに倣いステンとスペクトラも基地の休憩スペースの一角の席でテーブルの上に上半身をダレていた。

基地内にいくつか残っているカフェを再整備して整えた休憩スペースはカフェ担当ロボのAIを搭載したサイクロプスもいる癒しの空間だ。

先ほどまで入り浸っていた基地の改装に伴って追加されたVR訓練ルームに近く、訓練終わりの連中はみんなここでだらけたりするのである。

戦術人形用のポッドが連なるこの部屋は基地が新設されたときに追加されたのだがそこで行われる演習は他の基地とはまるで違う。

今回ステンたちが行ったのは旧アメリカのルイジアナ州ダルウェイにおける殲滅演習、モールデッドの発生源と言われている地域だ。

5人チームで感染源となった個体を重要ターゲットにした依頼を受けたという想定で行われたが、現状では依頼を達成できず全滅しまくっている。

行方不明になった別の部隊の足跡を見つけて居場所を割り出し、ターゲットを見つけるまではいけるのだがそこまでにどうしても部隊が消耗してしまうのだ。

ターゲットは廃鉱の奥に配置されていて、廃坑の内部は狭い上にモールデッドがそこかしこに配置されており否応なしにドンパチにぎやかにしながら進むことになる。

それを見越して装備はスタート地点となっているタレットに守られたトラックに用意してあるのでそこから選べるのだが、考えうるどんな装備もうまくいかない。

ガスマスクなどの防疫装備からアメリカ製パワーアーマー『T-45』のフルセットや、圏外活動用カスタムダミー人形まで至れり尽くせりだが持ち込める量には限りがある。

また持ち出した装備類には金額が設定されており、それを含めて依頼の報酬を上回らないようにしなければならないハンター仕様だ。

上回っても訓練はできるが、クリアしても評価は低くされてしまう。結論から言えば、今回も演習は失敗した。文字通りの全滅である。

 

「陽動からの各個撃破はうまくいった、でもそのあとが問題かぁ…」

 

「全員弾切れで息切れしてるところにモールデッドがわんさかだもんにゃぁ」

 

スペクトラとIDWが二人でテーブルにだらり体を預けてぼやく。G11とFNCは別の仕事があるためこの場にはすでにいない。

ターゲットの破壊は順調だった、大きいデブをIDWが誘導してその隙にステンとスペクトラが小さいデブを二人係で殺す。

そのあとは3人がかりで大きいデブを囲んで叩く、そこまでは順調だった。問題はそのあと、大きいデブを倒した後の撤退ルートだった。

この二体を倒すのに全員が手持ちの武器をほとんど使いきっており、メイン武器の弾倉一つ分の弾薬とナイフなどしか残っておらずなおかつ全員が疲労と負傷を追っていた。

その状態で逃げなければならないのだが、そこに追い付いてきたモールデッドが雪崩を打って襲い掛かってきた。逃げようにお体が思うように動かず、押し切ろうにも弾薬がない。

最後はナイフ一本で相対してみたもののうまくいかず、平均して3体ほど倒したところで押し倒されて終了となった。

 

「T―45を使うにゃ?」

 

「目立つし動きがノロくなるよ、数で迫られたらミニガンもすぐ弾切れになっちゃうし」

 

「ラムロッドをもう少し多くあれば…」

 

「グリフィンが破産しちゃうにゃぁ」

 

対ELID用特殊弾のラムロッド再生阻害弾はトラックにはなく持ち込んだ設定で支給される20発のみ、ラムロッド再生阻害弾1発の値段は通常弾30発分なのでこれでも大盤振る舞いだ。

 

「1発で1マガジンって値段がネックよね、ラムロッド1マガジンで対鉄血戦を1戦できちゃう」

 

「ぐぬぬ…となるとやはり弱らせてから出ないと足りない。でも圧倒的に火力が足りない!」

 

「白いのに追っかけられると必然的にラムロッド消費しちゃうしね。一発で済むけど数多い、うざいししつこいし」

 

「バックアップの増やすにゃ?普通のは44マグナムで始末していくとかどうにゃ?」

 

IDWは自分のショルダーホルスターに差したリボルバーをポンポンたたく。それにステンは首を横に振った。

44口径マグナムのならば一発のダメージは大きいが所詮は一発、メインとして扱うサブマシンガンならば次弾を撃つ前にそれ以上の手数で火力を出せる。

しかし所詮は拳銃であるし、6連発という少ない装弾数と弾薬の再装填がネックになる。リボルバー用の予備弾倉といえるスピードローダーならば素早く争点可能だが、これは普通のマガジンよりも嵩張りやすく多く持ち込めない。

それを補うために所持弾数を増やすためにスピードローダーに纏めていない弾薬も持ちこむが、それを装填するとなるとどうしても時間がかかる。

総合能力でいえばメイン武器にしている短機関銃のほうが上なのだ。

 

「でも44なら頭狙えばほぼ一撃か…メインも44仕様に改造してもらう?」

 

「9パラの銃をどうやればそうなるにゃ、反動も装弾数もやばいことになるから無理無理」

 

「コハクもやってるし、同じ要領で」

 

「あれほぼ新造でASST適応外にゃ、私らがASSTなしで戦えるかにゃ?」

 

だよねぇ…とスペクトラはだらだらしながらうんうんと唸る。

 

「爆薬持ってく?C4とクレイモアもあったでしょ」

 

「廃坑を崩落させるつもりかにゃ?ん?いや待てよ、廃坑までおびき寄せて吹っ飛ばすってのもありかにゃ?」

 

「いやいやそれじゃぁ感染源を確実に始末したことにならないよ、しっかり処理して始めて達成だし。それに爆破するったって私たちが安全な場所に逃げられない」

 

危ない考えを出したIDWをステンは窘める。

 

「ダミーにPA着せて囮と壁役は?」

 

ステンは編成と装備、その使用状況、部隊の損耗と移動ルートを打ち出した結果通知を移すPADの画面をトントン指でたたく。

いやもっと弾を増やそう、いやいや近接武器を担いでみようと次の訓練での対策を考えては口に出すがどうもしっくりとこない。

 

「ダミーにPA着せるとして操作できる?」

 

「戦闘は無理だにゃ、PAはシステム適応外だからミニガン持たせて固定砲台くらいかにゃ。それに失ったら結局赤字…」

 

「どうも頭の回転が悪いにゃぁ…気分を変えるかにゃ?」

 

賛成、とステンとスペクトラは頷く。IDWはタブレットをスリープモードにすると、改めて体を弛緩させて背もたれにだらんともたれかかった。

 

「…ぎっづいにゃぁぁぁぁ」

 

IDWのしたようにスペクトラもテーブルにだらけたままぼそりとぼやく。

 

「鉄血のほうがマシよまじで」

 

それには同意だとステンも頷いてから自分も唸る。

 

「もう溶けるのはイヤァァァ…」

 

なお今回の訓練でステンの死因はすべて押し倒されてからの酸性体液による融解である。痛みはないが体が溶かされていく様を見せつけられるのでとっても精神的に悪い。

 

「いいじゃない、わたしなんか一回仲間入りしてたし」

 

スペクトラはうんざりした様子でジュースを飲む。この手の訓練で一番精神的に来るのは、不意の接触や装備の破損で感染したのに気づかないで放置した場合だ。

最悪の場合、変異したということでVR空間の接続が切られて感染した自分のアバターが仲間に襲い掛かるのをただ見ることしかできない状態になる。

今回の訓練ではそれが適用されていて、E.L.I.D化したカビに感染すると一定時間で支配されるという設定が付与されていた。

スペクトラはガスマスクが破損したことに気付かず放置したために感染し、治療もしなかったためにカビに支配されて敵になったというわけだ。

 

「マスク壊された時だにゃぁ…いきなりぶん殴られたときはマジビビったにゃぁ」

 

「不覚、あのカビはセンサーが反応しないのを忘れてたよ。性能に頼り切ってた」

 

「それから逃げた先にはデブのゲロ…」

 

「ステン今日はほんと持ってたよね」

 

とことんと溶ける運命だったよぉ…とステンはさめざめと泣く。クリアできないと断言できたらどれだけ楽だろうか、しかしながらできる奴はできるのである。

クリアできる難易度なのかこれを設定した奏太たちに聞いたことがあるが、クリアできると断言された。

事実、同様の条件を課したキルハウス訓練を彼は余裕をもってクリアできる。モールデッドに扮した人形たちの攻撃を掻い潜り、重要ターゲットを撃破して悠々と帰還してくるのだ。

この訓練にしてもFALと一〇〇式、M2HBとM3の4人がとっくにクリアしている。それに続きたいところなのだがなかなか詰まると先に進めない。

 

(あぁぁぁぁぁぁもぅ、実戦よりも難しいなんて…)

 

ガスマスクで視界を制限されているうえに慣れていない環境を想定した訓練だからだからしょうがない、とは言い訳したくない。

実戦でもアウトーチ周辺やパーク駅といった人類生存可能圏外での経験はこの基地の所属する人形ならば一回はある。

 

「ままならないなぁ…」

 

「だにゃぁ…」

 

「指揮官が遠のくぅ…」

 

伸び悩むお年頃な3人であった。

 

 

 

 

 

2、とじみよ

 

U05基地屋内訓練場、大きな体育館といった風貌で基地の要員数にしては大きい室内の一角でMG34は振り回されるハンマー一撃を避けるのに必死になっていた。

相対するコルトM1911の美奈が大上段にハンマーを振り上げ、体を思い切り使って振り下ろしてくる。

眼前で布を巻いた訓練用スレッジハンマーが振り下ろされ、咄嗟に右手に握る訓練用の木刀で受けかけて咄嗟に身を引く。

彼女も訓練用の軽いものを使っているのだが、合成品の木刀で受けようものならそれ事押しつぶされるのは目に見えていた。

だがそれを美奈は見越していたのか、即座に一歩踏み込んで振り下ろしたハンマーをMG34の顎めがけて振り上げる。

よけきれない、MG34は即座に木刀でハンマーを受けて受け流す。重い一撃に腕に伝播し、木刀が悲鳴を上げるがハンマーの機動は顎をそれて空を切った。

受けきったのもつかの間だ、流された反動をそのまま使ったような軌道で真横から振り回されるハンマーからバックステップで何とか逃れる。

そのハンマーの慣性を体を大きくしならせて緩和して右手にハンマーを握って右肩に担いで構え直す美奈は腰を落として構え直す。

MG34は彼女に木刀の切っ先を向けて体を半身に構える正眼の構えでしっかりと腰を据えて待ち構えた。

 

(来る!)

 

美奈が踏み込み、ハンマーを横なぎにふるう。それをMG34は身を屈めることで躱し、彼女が振り切った隙をついて勢いをつけて木刀で美奈の顎めがけて切り上げる。

美奈が予想したとおりにそれを顔だけ横に傾けることで躱したのを見て、さらに追撃としてショルダータックルを彼女の腹に叩き込んだ。

重量のある機関銃を扱うMG型戦術人形の持つ脚力を使った突進力だ、まともに受ければただでは済まない。美奈はその突進を横に身をよじって避け、視線が一瞬MG34から外れる。

その動きをできる隙をMG34は見逃さない、即座にシミュレーションしていた通りに左手でゴムナイフを抜いて投擲する。

狙い通りならわき腹に刺さるはずの機だったが、そのナイフは振り上げられたハンマーに殴り飛ばされてはじけ飛んだ。

 

(早い、サラほどじゃないけど切り返しが鋭い!!)

 

打ち合いなかで幾度となく見せられる美奈の技術に息を巻く、威力はあるが鈍重でもあるハンマーの挙動を彼女はテクニックで補っている。

傍から見ればサラや琥珀の剣術などよりも鈍重で隙も多そうなのだろうが、相対すると切り返しや仕切り直しといった面が工夫されていて隙が読めないのだ。

先ほどのように隙と思えるような瞬間があっても彼女は見ている、笹木一家のメンバーはみんなそのようなところがあって見えてないはずなのに見えているように反撃してくる。

これでも彼女は本気ではない、まだまだ余裕たっぷりな様子だ。わざわざハンマーで殴り飛ばすなんて無用なことをするあたり狙ってすらいただろう。

 

「惜しい、やるならもっと素早く見えないところじゃないと避けられるよ」

 

「一応視野の外に出たつもりだったんだけど」

 

「一対一なら後ろに回ったって見られてるって考えたほうがいいかな、大体勘でわかるし」

 

難しい、こいつらはどこまで見ているかわからない。それと同じように化け物相手だとどこまで見えるのか予想がつかない。

自分のもう一つの武器として刀を選び、サラから剣術の教えを受けて実戦で使えるくらいには身についているのだがその自身も一気になくなりそうだ。

 

「難しい…」

 

「銃を撃つのとはまた違うからね、まぁ経験を積んでけばそのうちわかるから」

 

「そういうお前は弾き飛ばす方向を考えろ」

 

「はぃ?」

 

唐突に会話に聞きなれた男の声に割り込まれて美奈が首をかしげながら声がした方向、自分の後ろを向く。

美奈が後ろを向いたことでMG34も気づいた。いつの間にか作業服姿の奏太がニコニコしながら、弾き飛ばされたゴムナイフの残骸をひらひらさせていた。

ゴムナイフの刀身部分は潰れて曲がっており、柄の部分の亀裂が走っていて完全に壊れていた。

 

「蛍光灯の交換してるって言わなかったっけか?」

 

奏太が親指で指さした体育館の端には脚立とその横で尻もちをついて目を真ん丸にしている新人のスプリングフィールドM1903。

そういえば新人の彼女に基地の整備を手伝ってもらっていたな、MG34は自分もすっかり忘れていたことに一瞬冷や汗をかきながら顔をそむけた。

 

「……ダーリンなら大丈夫!」

 

「当たったら痛いじゃ済まねぇだろうが!しかも壊しやがって!!」

 

「いだだだだだだだだだぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

そりゃ訓練用とはいえハンマーで殴り飛ばせばそうなるだろう、頭をこぶしで挟まれてぐりぐりされる美奈と怒っている奏太の絡み合いにますますM1907が目を白黒させる。

この基地に配属されたときに、笹木一家は夫婦仲だとは聞かされているはずだがこうも遠慮なしの関係だとは思っていなかったに違いない。

それにしても本当に仲のいいご夫婦だこと、一気に空気が弛緩して訓練する気分ではなくなったMG34は奏太に怒られる美奈のほうを見ながらふと思う。

気の置けない関係とはこういうことを言うのだろう、だから美奈は正直に謝って怒られているし奏太も彼女の事を思って怒る。

そして逆もまたそうだ、奏太が無茶をすれば全員から折檻が待っている。

いつか自分にもそんな相手が見つかるのか、それともただの道具としてどこかで朽ち果てるのか。

 

(サラみたく剣の道ってのもありかも)

 

もしこの戦いを生き延びて、コアを外す時が来ればその道に入るのも悪くないかもしれない。

射撃管制コアが外されたとしても、覚えた剣術はそれによるものではない自分だけの技術であって消えるものではない。

 

「それにしても34、随分と手に馴染んでるな。見事な捌きだ」

 

「いいえ、私なんてまだまだですよ。サラさんの真似をしてるだけですから」

 

「どんな達人も真似事から入るもんさ、まだ本格的にやって日が浅いのにこれだけ打ち合えるんだから羨ましいよ」

 

「才能にも恵まれたようで何よりぃぃぃぃぃ!?!?」

 

奏太に折檻されながらも絞り出すように美奈が言った言葉はドキリとした。別の基地で活躍している妹たちの後姿が脳裏によぎり、忘れかけていた嫉妬のようなモノが沸く。

自分よりも優秀な成績を収めて、より高みに上った彼女たち、それを自分は背後から追いかけていた。

体の性能も、銃の性能も旧式でそれでもお姉さんとして振舞っていたころの胸に走る無力感と対抗心がとても嫌だった。

そんな自分に才能があった?銃ではなく、刀の才能が?

 

「確かに筋はいい、才能もあるでしょう。でもそれだけじゃまだまだですよ」

 

「サラさん?」

 

不意に後ろから声をかけられて振り返ると、運動着姿で訓練用の近接武装が納められたラックの乗った台車を押してきたサラと目が合った。

彼女は一見普通のように見えるが怒っているのがわかる、ジトっとした視線と絡み合う奏太と美奈の二人に向けた。

 

「何訓練の邪魔してるんですかねぇ二人とも?」

 

「げぇ!?サラ!!」

 

「は!?い、いやこれ―――はい、すんません」

 

咄嗟に反論しようとした奏太を絶対零度の視線が射抜き、無言の圧力で黙らせる。剣術となるとサラは厳しいのだ。度が過ぎるおふざけは絶対に許さない。

今回は二人も度が過ぎた。美奈が発端とはいえ、奏太も訓練に割って入って中断させた上にその場で折檻を始めてしまって空気を乱してしまった。

訓練中に適度な余裕を持つことは必要だがふざけるのは良くない。サラが怒るわけだ。

美奈はアワアワしながら逃げようとしているが、奏太はがっちり掴んで離さない。奏太の表情にも焦りが見える、やりすぎたと勘づいているのだ。

 

「ねぇ奏太、あなたも34の相手をしてください。訓練相手のバリエーションは多いほうがためになりますから」

 

「俺も仕事が―――」

 

「してください、ね?」

 

あっという間にサラに詰め寄られ、訓練用マチェットを押し付けられた奏太は彼女の瞳の奥に何を見たのか。

知らないほうがいいだろう、34はマチェットを受け取る奏太の様子を見ながら直感した。

心なしか、マチェットの刃が首に食い込んでいるように見える。訓練用のはずなのに今にも首が飛ばせそうだ、それだけ威圧感がすごい。

 

「はい」

 

「お願いしますね、私は美奈とお話がありますから。34、思いっきりやっちゃっていいですよ?真剣にね?」

 

「はい!」

 

「いい返事です。あなたはまだまだ素人、慢心など許しませんよ。じゃぁ美奈?ちょっとお話ししましょう。奏太?」

 

「はいどうぞ」

 

「え、待って、やだやだやだ!!もう怒られたからぁぁぁぁ!!」

 

訓練だというのに力加減を間違えた美奈の首根っこをつかんで引きずっていくサラの背中を見ながら、34は自分は絶対に気を付けようと心に刻むのだった。

 

 

 

 

 

 

3・暇な危険地帯

 

U05基地はグリフィン社管轄地区の中でも危険度の高い地域に存在する基地である。

その汚染地帯の監視及び治安維持を担当しており、基地が存在する区域も区域整理の結果その汚染地帯のど真ん中で最近はミュータントもそこそこみられる危険地帯だ。

日夜鉄血やミュータントたちと三つ巴のような殺し会いをする日々を送っており、常に食うか食われるかの瀬戸際ともいえる。

 

「平和ね…」

 

そんな基地のトップであるフランシスは和やかな日差しを受けながらお昼のコーヒーブレイクを楽しんでいた。

遠くから誰かの悲鳴が聞こえて気がしたが気にしない、きっと気のせいだろう。

まだ昼間も真っただ中、午後2時という時間で普通の基地ならばまだ執務に追われているのだが決してサボっているわけではない。

単純に普段の仕事が少ないのである、今日の日常業務もほとんど終わっており運営中に出てきた雑務をくらいなものだ。

この基地が管轄しているのは軽度汚染区域となっている地域のみ、人間がいるまともな市街地どころか難民キャンプやスラムすらない。

当然ながらほかのグリフィン基地が行っている都市や町の警備や運営なんてもの行っていないので本雑な書類仕事も住民たちへの対応も全くないのである。

U05地区にあった町は鉄血が暴走した後にほどなくして壊滅したり避難によって無人になり、鉄血に見向きもされないくらい細々とあった難民キャンプやスラムなどはとっくに壊滅して化け物の巣となった。

ミュータントやE.L.I.Dが住民としての不満を書類にして出してくるわけもなく、空腹などで実力行使してくるだけなので返答は鉛玉とあの世への片道切符を渡すだけで終わる。

その原因の鉄血もこの地域の本部であった第2支社を正規軍の爆撃によって失い弱体化、そこにミュータントやE.L.I.Dの襲撃を受けたため多くの部隊と基地を失った。

つまり別の書類が増えたが、その分通常業務といえる書類が大幅に削減されてしまったので全体的には非常に少ないのである。

今も事務室にいるのはフランのほかには2名ほどの事務方メイドが今日の提出書類をダブルチェックしている最中であり、それが終われば彼女たちも暇である。

 

「フラン、悪いんだけどこれにサイン頂戴」

 

「ん?遠心分離機の受領書ね、やっとくわ。どう?あなたも」

 

「もらうわ」

 

そんな和やかな事務室に鉄血製ハイエンド戦術人形のドリーマー、夢子・ロスマンが書類をぺらぺらさせながら入ってきた。

フランはそれを受け取ると一通り目を通してさっさと承認のサインを書き込んで決済済み書類の棚に入れて彼女をコーヒーブレイクに誘う。

夢子もゆったりと頷くと、壁際の棚に設置されたコーヒーメーカーから合成コーヒーをマグカップに注いだ。

 

「どう?新しい設備と生化学分析室は」

 

「ま、上々よ。サンプルの分析やワクチンなんかの合成とか一通りは行けそう」

 

夢子の感想にフランはうんうんと頷く。新しく基地に設置した生化学分析室は、簡単に言えば研究設備だ。

U05地区を中心とした地区内の廃病院や診療所などから回収した機材を修理して配備し、回収したE.L.I.Dやミュータントたちを研究分析して弱点の研究や薬などの作成を行う予定だ。

ほぼすべての機材が修理したものなので若干ぼろくて見栄えが悪いのを除けば、設備は一流の病院にだって負けない。なにしろこのためにコツコツと廃病院や診療所から集めてきた機材を大放出したのだ。

修理するために奏太たちをめちゃくちゃこき使うことになったが、ほどほどの資金でどこかの研究室並みの設備が整えられたのだからその成果は出ている。

当然ながら取扱注意な代物も扱う予定なので、施設は基地内でも隔離された区域に設置されており警備は厳重だ。

 

「でも生物学的なのは専門外だから学者の一人くらいほしいわね、たぶん今のままだと宝の持ち腐れ」

 

「今のところは無理ね、さすがのそこまでのツテは…あるけどちょっと無理かなぁ」

 

「あるんかい」

 

「昔の友達が国の機関で科学者やってるんだけどね、ほらここ危険地帯だし」

 

「国家機関所属じゃ無理じゃない…しょうがない、もう少し粘るわ」

 

さすがに研究者まで現地調達するわけにはいかない、とフランは苦笑いした。この基地の欠点といえばそこなのかもしれない。

 

「フラン、いる?」

 

「今日は来客が多いわね、何かしら?」

 

再び事務室の戸が叩かれ、返事をするとひょっこり顔を出したのはスコーピオンだった。

 

「どうしたの?」

 

「パトロールの報告書、ラッドスコルピオンの光ってる奴を始末したから死体を持って来たんだけど分析室に誰も居なくて…」

 

光っている個体とは放射能の汚染に適応してチェレンコフ光らしい緑の光を肉体の随所から放つようになった変異種のことだろう。

この変異種は原種に比べて耐久性がある上に凶暴だ、ここでは目撃例の少ない種類で新鮮なサンプルが取れたというのはありがたい。

自然発生するような環境ではないので、持ち込まれたということなのだからより周囲の危険度は増したともいえるがそれはいつものことだ。

 

「あら?外出中って札掛けなかったかしら…」

 

「あったからこっちに来たんだよ、そしたら偶然ね。死体は分析室のコンテナに入れといたから解析おねがい」

 

「やってみるわ…ほんとに死んでるわよね?」

 

「死んでるよ!イングラムと二人でやっと仕留めたんだから」

 

ジャイアントラッドスコルピオンは原種であっても硬質化した甲殻で縦覧をはじく厄介な巨大サソリだ、その変異個体となればもっと固いので拳銃弾を用いる短機関銃装備の二人ではきつい相手だ。

光るタイプに変異したジャイアントラッドスコルピオンの甲殻も原種よりも強固で、スコーピオンの用いるVz61短機関銃の32ACP弾ではまず抜けない。

有効弾を得るには接近した上で、弱点である目などの部位を狙わなければならないのだ。

 

「あとそれからこれ、別荘地の近くで鉄血がやられてた。偵察部隊みたいだね」

 

スコーピオンが追加で差し出してきた写真付きの報告書には、パトロールルートにある別荘地の一角でとられた写真が付随していた。

場所はとある別荘だが周辺に見慣れた紫を基調とした戦闘装備の鉄血部隊が無残な死体となって横たわっている。

よく見かける偵察小隊らしく、ハイエンド人形の姿はない。ヴェスピッドやリッパー、ガードなどの下級人形のみだ。

五体満足で死んでいる死体はほとんどなく、死体の大部分は欠損しており一部は噛み千切られているのが見て取れた。

その中には鉄血のモノではない死体、手足が非常に長いガリガリにやせ細った人間といった風体だが牙を剥いて凶暴な形相をした死体が混ざっている。

運のない連中だ、フランはウェンディゴに襲われて壊滅した鉄血の正体の末路を見てただそう感じた。数体のウェンディゴが一緒になって死んでいるところを見るに多少は対抗できたようだが押し切られたのだろう。

 

「たぶん夜中にこのあたりを通ったんだろうね、調べたけど狩場にしてるみたいだよ。痕跡があったから追ってみたら、ここの地下倉庫に巣があるみたい」

 

スコーピオンは常備している紙の地図を広げ、別荘地の近くにあるホームセンターを指差した。

鉄血もたまには役に立ってくれる、おかげでウェンディゴの住処になっているらしい場所が見つかった。

 

「掃除しなきゃね、指揮官を呼んで」

 

「了解!」

 

「じゃ、私は暇な奴に声かけるわ」

 

「お願い」

 

スコーピオンは元気に、夢子はコーヒーを飲み干してからゆったりとした足取りで事務所を出ていく

ウェンディゴならば何度か相手にしているとはいえE.L.I.Dだ、スコーピオンやイングラムも戦闘経験はあるからこそ危険性もわかっている。

それに壊滅した鉄血の偵察部隊にはダイナゲートやスカウトといった無人機もいたはずだ、もしそいつらが残っていれば不意の奇襲を受ける可能性もある。

壊滅した部隊の情報をもって離脱した可能性もあるが、そうなればハイエンドを擁した部隊が送り込まれるかもしれないからどっちにしろ面倒だ。

それを見送って新しく書類を作っていると、仕事をしていた事務方メイドの一人が声を上げた。

 

「フランさん、こちら仕事終わったので私たちも行っていいですか?少し体を動かしたいですし」

 

「あら?珍しいわね。良いわよ、行ってらっしゃい」

 

「ではお先に失礼します」

 

どうやら彼女たちも久しぶりに戦いたいらしい、フランが許可を出すとメイドの二人は優雅に一礼して部屋を出て行った。

彼女たちは事務方だが基地の防衛戦力としては鉄血と銃火を交えてきた実力者だ、事務方とはいえたまには実戦で体を馴染ませたいのだろう。

フランは先ほどのメイドから精査されて戻ってきた書類のデータをパソコンで開き、再度確認してから一文を付け加えて本部に向けて送信した。

 

 

 

 




あとがき
やりたい事考えてたらこんなんになったけど私は元気です。
なんてことない日常会を書こうとしたけどネタがばらけたので小ネタ集的なヤツにしてみました。さて、そろそろ事件を起こそうかな…



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