U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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ちょっとアメリカ中西部の田舎町とマンハッタンにネタ集めに行ってたら、日本もやべーこの状況。
ま、死体が歩き出さないだけマシだよね(汚染思考の戯言)



第22話・出動

 

 

新人というのは基本的にはどんな基地にも入ってくる存在であり、どう扱うか難しい存在だ。

戦術人形は人間とは違うので一概には言えないのだが大枠でいえば良くも悪くもあり案外一緒だったりする。

臨時基地から汚染区域探査やミュータント退治などの特殊業務を扱う正規基地に格上げされたU05基地も、その問題に直面して少し悩むこととなった。

元々ろくな扱いも運用もされていないので人員不足なうえに戦力が偏りすぎているということで少数ながら新人が配置されることになったのだ。

今まで正規の手続きで配備された人形は数えるほどで、他はすべて現地で救助するなどした敗残部隊の寄せ集めな上に事務などの後方要員まで現地調達したうえで戦闘に動員しているという状態ならそう判断もされるだろう。

その中にはSPAR小隊の名前も挙げられており、16LABからAR小隊商業販売プランの正規試作機として作られた個体の一体が追加配備されることになっていた。

U01地区、IOP支社戦術人形訓練施設、IOP製の訓練設備に囲まれた射撃訓練場には二人の人形が訓練の前準備にいそしんでいた。

SPAR小隊のM4A1は射撃訓練場の制御端末にメモリチップを差し込み、使い慣れた訓練プログラムをロードしながら射撃訓練場で準備をするSPAR小隊の新人の背中に目を向けた。

RO635、ペルシカ博士から送り込まれてきたSPAR小隊に新たに加わる新人だ。彼女はAR小隊に配属されている個体の量産型モデルの試作機で、カタログスペックは整備性を重視しつつオリジナルよりやや控えめだが十分な性能を持っている。

実戦経験とデータがあればより開発に弾みがつくということでこのSPAR小隊に配属が決まり、自分たちはその彼女を迎えにここにやってきた。

 

(でも、私たちに必要かしら?)

 

M4はRO635短機関銃を調整する彼女を見つめて嘆息する。期待の新人、と言われれば聞こえはいいが要は鉄血との実戦も経験していないピカピカのド新人だ。

そんな状態で味方どころか教練で相手をしただろう鉄血人形の実物が『喰われる』最前線に投入しようというのだ。

M4としてはU05基地に増員があるのは助かるのだが、SPAR小隊に新人が必要かと問われれば今は必要ないと考えていた。

元々偶然から生まれた実験小隊であり、それに便乗した商業販売型の生産プロジェクトが終了すればお払い箱になる次がない部隊だ。

配属してくれるというならもらうものはもらうのだが、同時にこのニューフェイスは少し扱いに困る。いっそFALや一〇〇式、G11をそのまま編入したほうがやりやすい。

 

「準備はいい?」

 

「いつでもどうぞ」

 

じゃぁお言葉に甘えて、M4はそんな言葉に出すことなく無言で操作端末を取り出すと訓練開始のボタンを押した。

訓練開始のブザーが鳴り響き、射撃訓練場内に可動式スタンドがカチャカチャと音を立ててせりあがる。

可動式スタンドに取り付けられた訓練用の的はU05基地で使われている実弾訓練用の的で、これまで交戦してきた化け物の写真が使われている。

 

(ノサリス、数2、距離20)

 

射撃レーンの20メートル先に現れてまっすぐ迫ってくるノサリスの的を、RO635は正確に頭を撃ち抜いていく。SuperSASSやFALのデータから耐久力が設定されており、胴体を撃つ程度では大口径ライフル弾を1発2発受けても撃破判定にならない。

RO635短機関銃が用いる9ミリパラベラム弾では、素早く倒すには近距離から心臓か頭を的確に撃つのが効果的だ。RO635はセオリー通りに倒しているが、頭を振らない動かない的だからできる技だ。

頭は当てれば運が良ければ一撃であるし殺しきれなくても致命傷になりやすくひるませやすい弱点ではあるが、小さい上にちょこまか振られる上に頭蓋骨が固いので彼女の銃では不利な場所でもある。

 

(ハウラー、数3追加1、距離30と5)

 

ハウラーの絵が描かれた的が出現し、ジグザクに動いて迫ってくる。RO635はしっかり狙ってヘッドショット、同時に5メートル先の天井から勢いよく出てきた的もフルオートでハチの巣にした。

これもノサリスと変わらない、しかし実物を知らない彼女はほぼ直感で弱点である頭を集中して狙っている。

 

(ラッドスコルピオン、数2、距離20)

 

中型ラッドスコルピオンの的が勢いよく地面からせりあがる。弱点と設定されている目の部分を撃ち抜かなければ、9ミリパラベラム程度ではダメージにならない。

これは一瞬迷ったが、目の部分であり複眼を狙った。

 

(ファットモールデッド、数1、距離50)

 

射撃場の奥から迫る大きい的、先ほどまでの的よりも多く耐久値が設定されている。急所を撃ち抜いて終わりというタイプの敵でもない。

RO635は近寄ってくる的に最初は3点バーストで撃ちつつダメージを稼ぎ、およそ30メートル付近で弾倉を素早く交換してフルオート射撃して止めを刺した。

 

(ミレルーク、数5と2、距離30と5)

 

基地では人気の人型カブトガニが5体、一斉に迫ってくるシチュエーションだ。所詮は的なので弱点の頭を撃ち抜けば簡単なほうである。問題は最初の5枚を処理した後に不意打ちしてくる2枚だろう。

RO635は慎重に的の頭を撃ち抜いて倒し、唐突に至近距離に2枚同時に表れて迫ってくる的には頭を狙いながらフルオートで薙ぎ払った。

 

(グリム、数30、距離60、味方識別あり)

 

射撃場の奥でこれ見よがしにバタバタと音を立てて次々と立ち上がる的、それに描かれた見るからに気色の悪い複眼のひょろ長い体をした人型の化け物。

M4にとっては嫌な思いでしかないグリムの妙にバリエーションのあるポージングの的が一斉に全力疾走してくる。

先ほどとは違う圧倒的な数と勢い、そしてその的の中にあるなぜか味方識別の的がある。つまり味方も化け物になって襲ってきているシチュエーションだ。

グリムの的は密集して配置されており、また耐久値の低く設定されている。どこでも体に当たれば2発で倒れる仕組みで、貫通もありだ。

一度に現れた的の大群にRO635は一瞬面食らうも、すぐに足の速い的から処理をして時間を稼ぎつつ的を破壊する。

的は半数が倒され、その中に紛れていた味方識別のグリムがちらほら見え始める。その的にRO635は困惑した表情になった。

撃っていいのか、それともダメなのか、判断できないのだ。あえて指示も出していない、RO635はどう考えるかが重用だ。

彼女は敵のグリムをまず倒していき、味方識別への攻撃を避けて時間を稼ぐ。その判断の遅さが命取りだ、射撃レーンを駆け抜けた味方識別グリムの的がRO635の目の前で急停止して訓練が終了した。

悪くない、戦術人形としては十分合格点といえるだろう。肩を落としているRO635には少し意地悪だったかもしれないが必要なことなのだ。

 

「すみません…」

 

「良いのよ、これはそういう訓練なの。こういうこともあるってわかってもらうためだからね」

 

「それは分かります、救出対象ですよね。でも…あの絵柄はどうにかならなかったんですか?」

 

「あれ撃っていいのよ、味方識別の敵って意味なの」

 

「はい?味方の敵…傘ですか?」

 

「そっちとはまた別、似てはいるけど」

 

意味が分からないとかぶりを振るRO635。初めは自分もこうだった、少し懐かしくなってM4はクスリと笑う。

 

「プログラムのような電子的なものじゃないほうのウィルスに感染して変異した味方ってことよ。変異の過程で内部部品が壊れないままで変異することもあるの」

 

「うわ…それは…」

 

「やばかったら指揮官に一言言ってもらいなさい。それにしてもさすが新型、その銃では満点ね。次はこれ使おっか?」

 

M4は素直にRO635を褒めると、足元に置いていたトランクを開いて中から見慣れたブルズアイ短機関銃を取り出す。

 

「見たことがない銃ですね…これを使うんですか?」

 

「ペルシカ博士からデータはもらってないの?」

 

「はい、基本設定はRO635のままなので特別なことは…」

 

つまり何も経験していないまっさらなRO635、ということなのだろう。こういうところは、やはり後発らしい。

こういうところもあるから扱いに困るのだ、RO635の口に出す『まっさらなデフォルト』というものが自分たちにはないからどうしてもそこを理解できない。

 

「そう、まぁいいか。うちはASSTで紐づけられた銃だけに頼らないからね、すぐにとは言わないけど最低限何でも使えるようにはなってもらうわ。

これはブルズアイ、キメラ製の光学式サブマシンガンよ。うちでは事務方の自衛装備だから結構ポピュラーなほうね」

 

トランクから鉄血製複合バッテリーを取り出し、互換アダプターを取り付けたブルズアイの接続部分に取り付けて見せる。

ブルズアイのバッテリー接続部は従来の銃火器と変わらない銃下部にあるため、慣れれば扱いは簡単な部類だ。

M4は端末を操作して射撃訓練用の的を一枚出現させ、お手本として10発ほど撃って調子を確かめる。

実弾式とは違う機械的な銃声と同時に銃口から飛び出した赤光の球体弾が狙った場所とその周辺を貫く、整備はばっちりだ。

 

「撃ち方はあまり変わらないんですね」

 

「これはね、中にはすごいのもあるから楽しみしてて。はい、この銃はいろいろ機能があるけどまずはそのまま撃ってみて」

 

「やってみます」

 

M4が差し出したブルズアイを受け取って構えるRO635だが、その姿勢は先ほどまでと違って構えにブレが見える。

初めて使う銃で、システム適応外のキメラ製ということもあってまったく戦術人形に合致しない装備だから余計に戸惑っている。

そもそもブルズアイを含めたキメラ製の兵器は人間も使えるというだけで、人間向けの設計ではないので銃のバランスなどがめちゃくちゃなのだ。

ただの射撃訓練用の的を撃たせてみると、やはりというべきか当たらない。狙うのにも時間がかかっており、扱いそのものにも戸惑いが見られる。

RO635短機関銃を使っていた場合の成績がほぼ100点であったなら、ブルズアイでの成績は60点というところだ。

銃に頼りすぎかな…まぁ戦術人形だものね。M4は最初とは成績が大分落ちたRO635のしょんぼりとしたとした肩をたたいて慰めた。

 

「…すみません」

 

「最初はだれでもこんなものよ、基地では嫌なくらい実戦できるからそこで学べるわ。でも分かったでしょ、自分の弱点」

 

というか戦術人形の弱点かな、と内心独り言ちる。グリフィンの扱うIOP製第2世代戦術人形はASSTによる紐づけをされた一人一銃制も兵器といえる。

対応した銃ならば少しの訓練で人間以上にそのスペックを引き出して扱うことができるが、ほかの銃を握ったときはむしろそれが足かせになると気がある。

咄嗟に別の武器を握っても素人よりは使えるが本来の性能は発揮できないし、本来扱う銃の癖が出て無理な扱いをしてしまい中にも体にも悪影響が出る。

特に新型や新しく製造された根っからの戦術人形は銃に合わせて体を製造しているという話もあるので、民間人形から改修された個体に比べると顕著に出ることもある。

M4自身もASSTで紐づけされたM4A1突撃銃ではなくガリルAR突撃銃を最初に使ったときは、全く命中率が安定しないひどい成績であった。

 

「もう一回やっていいですか?」

 

「もちろん、じゃぁ基本訓練から―――」

 

訓練を再開しようとした矢先、訓練室の壁に掛けられた内線電話の呼び出しベルが響いた。室内には自分たちしかいない。

M4は首をかしげるRO635に訓練を続けるように手ぶりで示し、内線電話の受話器を取った。

 

「はい、M4です」

 

≪出動よ、訓練は中止。早めにヘリポートに上がってきて≫

 

内線から聞きなれたHK416の声色はいささか固い、どうやら普通の出動ではなさそうだ。

 

「中止?何があったの?」

 

≪事件よ、詳しい話はこっちでするわ≫

 

「了解」

 

まずは合流するのが先決だ、受話器を戻してRO635のほうに振り返る。

 

「訓練中止よ、仕事が入ったの。行かなきゃ」

 

「出動ですか?同行しても?」

 

「ダメよ。別ルートで移送してもらえるように手配するから、先に基地に行ってて」

 

「了解しました」

 

素直に頷いて銃を訓練室の武器ラックに戻しに行くRO635にM4は頷くと、自分もブルズアイを持ち込んだ武器トランクに戻して持ち上げると訓練室を出る。向かう先はヘリポートだ。

訓練室を出た先の通路は蛍光灯で明るく照らされており、スーツや白衣姿の人間や調整中と思しき人間たちが行き来している見慣れた日常が流れている。

その廊下を足早で抜け、ヘリポートまで最短ルートで抜ける。ヘリポートにつくと、U05基地所属のCH-47Eがいつでも離陸できる体制を整えていた。

 

「416、来たわよ」

 

「一番乗りね。マンハッタンシティのオペラで火事よ、このまま現地に向かうわ」

 

火事?M4はHK416の言葉に首を傾げた。ただの火事なら現地のグリフィンで十分対応できるはずなのだ。

そもそも火事なのだから戦闘部隊よりも消防隊が必要になる、自分たちが準備している装備にはその手の装備はない。

マンハッタンシティはここから近い場所にあるので、単に周辺封鎖などの要員として増援要請を受けただけなのかもしれないが可能性は低い。だとすれば理由は一つだろう。

 

「妙なことになってるのね?そうじゃなきゃ私たちはいらないわ」

 

「えぇ、なんでも公演中に客が突然燃え出したそうよ。人体発火現象が起きたみたい」

 

「人体発火?随分とレアなケースね」

 

「えぇ、それもオペラの客が次々燃えたっていう連続発火だそうよ。向こうの指揮官は揮発性の高い化学薬品を用いたテロだと考えてるらしいわ」

 

それで話が終わるのなら自分たちに話が回ってくるはずがないだろう、SPAR小隊の専門は鉄血との戦闘ではなく『化け物退治』だ。

鉄血やテロリストたちの仕業だと断定できるのならば自分たちはお呼びではない、駐屯している部隊の戦力から別の部隊を呼べばすむ話だ。

 

「誰からの情報でこの仕事に?」

 

「MG42よ、MG3とあの子の指揮官が巻き込まれた。マンハッタンシティの治安部隊からいきなり話がくるとでも?」

 

「そこを期待するほうが可笑しいわよ。でもU06の二人がどうしてそこに?」

 

「休暇を取ってデートしてたんだと」

 

なんて運のない、M4は思わず両目を瞑ってかぶりを振る。MG42の所属する部隊の指揮官と彼女の妹であるMG3は恋仲だった。

MG42曰く、二人はデートでオペラを見に行って巻き込まれたそうだ。

 

「二人の安否は?」

 

「不明、逃げてきた客の中にはいなかったみたい」

 

MG42が真っ先にU05基地に連絡を入れてきたのも頷ける話だ、彼女の姉であるMG34から化け物や異常現象の話は腐るほど聞いていたのだろう。

生きてるなら幸運だが死んでいるのも幸運だ、最悪の場合は変異して化け物となり襲ってくるしその始末をつける必要が出てくる。

現状の段階ではマンハッタンシティの治安部隊は異常性に気付きつつも従来の対応を行おうとするだろう。

それで話が済むのならばいいのだが、そうでなければ被害は拡大する一方だしより深刻になる恐れも大いにありうる。

もし誰かの手によるバイオテロだとすればより厄介だ、ただのテロリストごときが化け物たちをうまく制御しておけるとは思えない。

細心の注意の設備を整え、グリフィンの設備すらも応用していたU08の鉄血部隊でさえも自滅に追いやるくらいだ。

 

「本部のほうは?」

 

「フランからヘリアントス上級代行官に通達済み、許可は下りてる。私たちは表向きではただの増援、偶然近くにいたから手伝いに来ただけの雑務担当ってことで入る。

無用な混乱と被害は避けたいってさ、何もなきゃただの雑用ね。

私たちは先んじて現場入り、あとで指揮官たちが増援に近場に展開する。現状の任務は偵察、要は現場で生の情報を手に入れろってところね」

 

「指揮官たちが?確か依頼で鉄血の倉庫を襲いに行ったはずだけど…」

 

「場所が基地より近いのよ、仕事も終わってるからそのまま合流するってさ。移動がてらブリーフィングで詳細を詰める予定よ」

 

「終わっちゃったんだ、残念。わかった、先に準備してていいかしら?」

 

「私はあいつらを待ってるわ、順位をつけてやんなきゃ」

 

意地悪そうに笑う416、おそらく誰が一番遅いのかは予想がついているのだろう。ほどほどにしておくように言って、M4はCH-47Eのキャビンの中に入った。

キャビンの中にはこういった緊急出動のための装備品を収めたコンテナが増設されており、そのわきで着替え用に防火カーテンを吊るすパイロットのミルヤがいる。

さっさと準備をしよう、M4はコンテナの中から自分の装備が収まっているケースを引っ張り出してミルヤに一言いうと着替えスペースにもぐりこんだ。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

カーネギーホール前のメインストリートはひどい喧騒の渦中にあった。

メインストリートを封鎖はブロック一つを丸々隔離するように配置されており、道路という道路はグリフィンの治安部隊が配置されて野次馬をせき止めている。

封鎖されたメインストリートとブロック周辺には治安部隊の車両が駐車され、バリケードがさらに作られておりカーネギーホール周辺を包囲するようにしてさらに封鎖している。

カーネギーホールと治安部隊を隔てるバリケードの向こう側はグリフィンの人形や職員たちがあちらこちらへとせわしなく行き来している。

そのメインストリート、ヘリの着陸場所として大きく開かれた場所にCH-47Eが下りてハッチを開いた。

 

「騒がしいわね、何かあったのかしら?」

 

「野次馬はともかく、治安部隊の連中が浮足立ってるな」

 

ヘリから降りたAR-15が感じたのは、ホールを包囲しているグリフィン部隊の忙しなく落ち着かない雰囲気だった。

現場はどんなところでも騒がしいものだが、普通の忙しなさと何かあったときに起こる忙しなさはまるで違う。今回は後者だ、どこかピリピリしたものが多く混じっている。

事件に進展があっていい方向に進んでいるという空気ではない、むしろ悪いことが起きていて気が立っているようだ。

現に近場の増援が到着したというのに殺気立った視線が飛んでくる、嫌な予感を感じつつも現場の指揮所になっている場所を近場の人形に聞いて5人は足を運んだ。

予感はあたりだった、指揮所になっている天幕の警備に一声かけたところ今は忙しいためヘリの近くで待っていてほしいと断られ、仕事の指示もなく手持ち無沙汰になったのだ。

警備の人形も困り顔で、さりげなく見せてくれた指揮所内を覗き見たところ現場部隊の隊長を務めているトンプソンM1928は途方もなくイライラしており、周りの人形たちにもそれは伝染していた。

それを基地に報告すると着陸したままのCH-47Eのキャビンに戻ったSPAR小隊は次の情報か動きがあるまで待機することになった。

下手にうろついて治安部隊からの印象を悪化させるわけにもいかないし、人目についているところでぼさっとしているのもよくないのだ。

CH-47Eの中で準備をしながらも暢気にするしかない、一通り装備をし終えたSOPⅡは開けたままのハッチから外をこっそりのぞきながらつぶやいた。

 

「何があったんだろ?」

 

「さぁな、ミルヤは何か知ってるか?」

 

「いえ、それとなく聞いてみましたけどさっぱりですね…」

 

M16の問いに常備してある電気式クッキングヒーターでコーヒー淹れていたパイロットのミルヤは、メイド服に付いた合成コーヒーの粉を払いながら首を横に振る。

彼女もCH-47Eを駐機して機材を展開する傍ら、短い時間を使って多少の情報収集を試みたようだが不発のようだ。

おそらく状況が動いたのは自分たちが到着する直前だ、そうでなければ少なくとも何かあったくらいの情報は入るはずだがそれもないということは完全にタイミングが悪かったというよりほかにない。

 

「AR-15より指揮官へ、そちらに何か情報は?」

 

≪いや、知らないな。フランたちも何も知らんとさ、ヘリアントス上級代行官からの情報待ちだな。そっちではだめなのか?≫

 

ミルヤが外に出した中継アンテナを通じて、搭載無線機のスピーカー越しに繋がる指揮官の声は雑音がひどいがよく聞こえるほうだ。

 

「動いただけで変な目で見られそうな雰囲気、前の鉄血基地制圧戦を思い出す」

 

無線機越しの車のエンジン音をバックにした奏太の言葉にM4が、サイドアームのM29マグナムリボルバーをウェスで磨いていた手を止めて返す。

おそらくまだU05基地が臨時の囮基地だった頃に行われたU地区における複数基地合同作戦の時の話だろう。

当時からぽっと出の新参者が重要作戦に抜擢されて粋がっていると思われて非常に扱いが悪かった。

臨時指揮官である奏太はまともな扱いはされず作戦会議にも呼ばれない、勝手に決められた作戦で勝手に配置を決められて勝手に命のかけ時を決められた。

自分たちは不遇な人の下に配属されたと思われて別の基地の人形たちからはいらない同情を受けて扱いに困ったものだ、その時と同じだ。

 

≪あのときか?≫

 

「戦闘音はしないけど、どうも治安部隊の動きが妙なのよね。混乱してるような感じ、でも何かできないもどかしさ…的な?」

 

「それはあるわね、出ようにも出られない感覚、いえ、これは当てが外れた感じ?」

 

≪当てが外れた、ね…そこを探れるか?≫

 

「無理無理、今は下手に突けない」

 

≪そうか、わかった。できる限り探ってくれ、こっちも…あぁ、ちょっと遅れそうだ。5分くらい≫

 

「どうしたの?」

 

≪鉄血の追手だよ≫

 

指揮官の声に交じりアサルトライフルの射撃音が混じる、次いで琥珀の声が奏太を呼んだ。

車で移動中の奏太たちを鉄血のスカウトが追いかけて追撃を仕掛けてきているらしい。

重苦しい銃声が響き、車にスカウトの銃撃がかすった耳障りな音がかすかに聞こえる。

接近戦を仕掛けてきている個体がいるのか、金属と金属を打ち合うような音も混じった。

 

≪飛び乗ってきやがった、対応早いな。切るぞ、何かあったらフランに頼む≫

 

「了解、がんばってー」

 

≪はいはい≫

 

ショットガンの発砲音と鉄血兵の悲鳴らしい小さなうめきを最後に無線が切れる。しばらく時間がかかりそうだ、それまでどうしたものか。

AR-15は手慰みと暇つぶしを兼ねてアノマリー探知機を取り出して電源を入れて調節する、感度チェックもかねてなんとなく後部ハッチのほうに近寄ってからホールのあるほうに向けた。

 

「ん?なんだこれ」

 

「あら?」

 

その探知機のアンテナが見慣れた顔の眼前に突き付けられる。すぐに探知機を下ろすが、AR-15は見慣れた顔に首を傾げた。

 

「よ、おひさ」

 

スペクトラM4のような上半身はビキニにマグポーチのみという露出の多い格好、赤いベレー帽に金色の長髪、活発そうな表情にぱっちりした瞳。

そして自分の名前でもあるAK-47突撃銃を自在に操る自動人形がハッチの下からひょっこり首を出して笑っていた。

U06基地所属のAK-47だ、以前の戦いで共同作戦を張ったこともありそこそこやり取りのある顔なじみでAR-15とも仲が良い。

 

「AK?あんたなんでこっちにいんの、とりあえず上がんなさい」

 

「ありがとよ。ほら、お前もこっち来いよ」

 

U06基地所属のAK-47は、少しばつの悪そうな表情をするMG42をハッチの影から引っ張り出した。

MG34の妹である彼女とも同じく顔なじみで、何度も一緒に戦ってきた。

二人をキャビンの空いている席に座らせ、ミルヤがコーヒーを渡すのを待ってからAR-15は問いかけた。

 

「どうしてあんたここにいるの?MG42は分かるけど」

 

「休日でな、こいつの尾行に付き合わされたんだよ」

 

「尾行じゃありましぇん!ボディガードでしゅ!!」

 

誰のだよ、とは誰も言わない。妹であるMG3が心配で心配で仕方ない姉馬鹿を彼女が発揮してしまっただけの話だ。

同じようなことを仲間のMG34もたまにやるので大体理解できてしまう、MG3と恋人のU06基地の指揮官がふしだらな間柄にならないか監視しに来たといったところだろう。

彼女の場合、奏太たち笹木一家の関係やスタンスを間近で見ているせいか少しばかり身持ちが堅いのだ。

 

「で、コーヒー片手に出待ちしてたらあの騒動だ。びっくりしたぜ」

 

「あなたホールにいたの!?よく無事だったわね」

 

「正確にはホール前のカフェ。で、急に悲鳴が上がって客が逃げてきたと思ったら火だるまだったり火だるまにいきなりなったりだ。

やばいと思って速攻で逃げた、もしその、アノマリーだっけか?そんなだったらあたしらじゃどうしようもないからよ。

で、駆けつけてきたトンプソンに見つかって根掘り葉掘り聞かれてな。すぐに解放されたけどバークにしばらくここにいるように言われちまったしよ。

かといって手伝いも何もできないし武器もないしでボケっとしてたらお前らが来たのを見かけたわけだ」

 

「正しい判断ね、でもよくあなた突っ込まなかったわね」

 

「それは…」

 

HK416の指摘にMG42は物憂げに俯く。

 

「あたしが止めた、おかしいと思ったからな」

 

「はい、AKに言われて、しゅこし考えて…しょれで、お姉ちゃんに連絡しなきゃって」

 

「で、こっちに情報が来たわけね、早いわけだわ。ここに来たってことはそれだけじゃないでしょ、何があった?」

 

「最新の情報が必要だと思ってな。実は少し前、中に治安部隊の部隊が突入したのを見かけたんだ。テロ対策部隊の連中だ」

 

「SWATみたいなやつ?」

 

AK―47は頷く。国が管理する地域に配備されている警察のSWATのような特殊な装備はしていないが室内戦や市街地戦に特化した治安部隊だ。

鉄血よりも対人戦訓練を多く積んでおり、警察活動による特殊かつ危険度の高い任務を多く請け負う精鋭だ。

 

「で、そいつらが入っていったきり全く出てこない。通信は途絶、銃声もなし、だれも戻って来やしねぇ」

 

「妙ね、装備も練度しっかりしてるなら多少の化け物なら撃退できる。不意さえつかれなければだけど」

 

「鉄血やテロリストならドンパチにぎやかになるだろうし、そうでなきゃ向こうもばかじゃないから戻ってくるはず、なのに全く音沙汰なしさ。

だから気が立ってんのさ、何が起きてるのかわからない。かといって、下手に部隊を再び突っ込ませるわけにもいかない。

テロ対策部隊の連中が何もできずにやられたなら中は相当危険な状況、普通の部隊じゃまず被害が増えるだけだ。

一応最初に部隊を突っ込ませる前に、ドローンで索敵と各種危険物反応の調査はしてたはずだけどな。で、またドローンを出そうと思ったら―――」

 

「やられちゃった、と?」

 

「そ、ホール内に突っ込ませたら通信障害でポトリだとさ。気が付きゃホール内は通信がジャミングされてるような状態なんだと」

 

SOPⅡの相槌にAK-47は頷く。ドローンによる索敵でもわからなかった何かがあって、それが今も活動している。そう考えるのが自然だろう。

トンプソンたちが苛立ちを隠せないのも納得だ、自分たちの自慢の部隊と自信を一気に喪失しかけているのがきついのだ。

これは近いうちに押し付けられちゃうかな、トンプソンの事は正直どうでもいいAR-15は次に来るだろう使い捨ての要請に少し期待することにした。

この事件の主導権はどうであれマンハッタンシティ警備部だ、この現場でいえば治安部隊のトンプソンである。U05基地の悪いイメージと自分の懐が痛まない使い捨て上等の認識がまだあるなら使うだろう。

通信がジャミングされてしまう状況下では適役だ、自立行動とアナログ手法は十八番である。

 

「大丈夫、二人とも生きてれば必ず助ける。お世話になってるし」

 

「M4さん…お願いします」

 

M29マグナムリボルバーをホルスターに戻しつつMG42の気持ちを読み取ったM4の言葉に、MG42は涙をこらえて震える言葉を紡ぐ。

彼女も『姉』だ、妹の窮地に何もしてやれないのは悔しいし今も心配で仕方がないに違いない。口ではいろいろというが、MG3と恋仲の指揮官のことだって応援はしているし親しくもしている。

二人とも無事でいてほしいし、絶対に助けてほしいだろう。自分で何とかするならしたいだろうが、今の彼女は銃すら持たない身でどうすることもできない。

だがそれをこちらに頼むのも気が咎めていたに違いない、MG42は優しい子でU05基地に対するほかの基地の扱いも知っていて心を痛めていた。だから戸惑っていたのだろう。

それをM4はこともなげに笑い飛ばす。扱いの悪さはいつもの事、そんなことよりもMG3やU06基地の指揮官を助けることのほうが重要だ。

ならばやることは一つ、徹底的に前準備だ。

 

 




あとがき
引き続き今回の事件の序盤の話、あとROちゃん加入。すみません、化け物は次からなんです。
ROちゃんはしばらく別行動ですので、基地で揉まれていただきましょう(ゲス顔)


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