U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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増援到着とかもろもろ、カーネギーホールは難燃性。




第23話・カーネギーホール2

U01地区にある経済都市『マンハッタンシティ』はグリフィン&クルーガー社にとっては重要な経済拠点の一つであり、戦略拠点としても重要な都市だ。

都市の周囲は街を取り仕切るU01基地の戦闘部隊とトーチカなどの防衛ライン、さらに町の中は治安維持を専門とする警備部が日夜治安を守り人々の生活を守っている。

その外周防衛線の最終防衛ライン、都市を守る防護壁にある出入用ゲートがある主要幹線道路をハンヴィーとトラックが夜にもかかわらず走っていた。

その様子はゲートを管理する警備室でも確認しており、警備室に詰める老警備員と戦術人形の彼女もモニターに目を向けていた。

2台の車を確認し、識別信号と目視での確認の差異にドキッとしたがすぐに報告にあった通りだと思い出して気を静めた。

 

「ほんとに鉄血から車を奪ってきたんだね、僕びっくり」

 

「わしもびっくりだ、凄腕ってのは本当だったな」

 

警備室で一緒に暇をつぶしていたMP446の驚きに、しわくちゃの手で制帽を取りながらうなずく老警備員は同意する。

ハンヴィーの車体にはグリフィンのマーク、識別信号はU05基地となっている。トラックは鉄血工造が製造していたタイプで車体にも3本の傷がついた鉄血のマークがあった。

トラックの識別信号もグリフィンのものに変えられており、トラックから首を出したのもグリフィンに務めているならば見覚えのある戦術人形だった。

バイキング、と警備員が声をかけると彼女は軽く手を振ってからゲートをすぐに開けるようにパソコンを操作する。それを見てから老警備員は警備室を出てゲート前に来るがまとまるのを待ち構えた。

 

「お久しぶりです、ちゃんと帰ってきましたよ」

 

「やるじゃないか。IDを」

 

「どうぞ」

 

ゲート前で止まったハンヴィーの運転席から顔を出した男性が差し出したU05基地所属を示すIDカードを確認し、警備室に合図を送る。

三日前に鉄血の基地を襲撃しに行くと言って出かけて行った日系男性だ、見た限りでは襲撃はうまくいったらしい。車は傷が増えているがそれだけだ。

彼が着こんでいるゴルカ4モデルの戦闘服も幾分か汚れており、同じ格好をした助手席のツインテールの少女も同じような状態だ。

 

「首尾はどうだい?」

 

「鉄血は皆殺し、首尾は上場、収支は黒字です」

 

ゲートが音を立てて開き始める中、運転席の彼はIDカードを懐に戻しながら何でもないように答える。

彼らも自分と同じ純粋のグリフィンの正規社員ではないが、実力のある戦闘部隊となると老いぼれとしても少し尊敬してしまう。

 

「すごいね、そりゃボーナス確定だ。ところであんたも街の事件の手伝いに行くのかい?」

 

「えぇ、事件の進展はどうですか?」

 

「さぁね、わしらみたいな下っ端じゃぁなんかまごついてるくらいにしかわからんよ。少し前に前線の子たちが変な顔で戻っていったくらいしか知らん」

 

「そうですか」

 

「気を付けてな、最近は割と物騒なんだ」

 

地下鉄で人が消えた、マンホールから夜な夜な獣のような唸り声が聞こえてくるだのという噂話に始まり、鉄血との戦いが長引いているせいかいろいろなうわさが飛び交っている。

そうでなくても神経をすり減らす毎日で物騒なことを考える輩は後を絶たないというのに、嘆かわしいことだ。

そんな愚痴を彼にぼやいているとゲートが大きなブザーを鳴らして開く、男性は頷くとハンヴィーを発進させて中へと入っていく。

続いてトラックも中に入り、ゲートを通過したところで再び老警備員は閉鎖の指示を出した。

事件か、老警備員はふとゲートの向こう側に目をやった。町の輝きは今日も変わらない、戦争で荒廃したとは思えない日常の輝きがある。

ゲート前で待っていたデモ隊が勘違いしたのか『人形達を開放しろ』『人形達を戦争利用するな』などとシュプレヒコールを上げている。

その向かいでは『感染者を追い出せ』『正常な町は正常な人間のために』などと差別主義者たちが横断幕を張る。

さらにその向こう側では『グリフィンは人間の雇用拡大を』『人間の命は人間が守るべきだ』という横断幕もある。毎度毎度飽きないものだ。

自分もかつては黄金時代の輝きを取り戻そうと必死に働いた身だ。今や身寄りもいない独身の老いぼれだが、老警備員はなんとなく自分の身の上を思い出して苦笑いした。

 

(いや、そうなったらあの子たちとも出会えないか…うまくはいかんもんだね)

 

昔の若いころの自分なら少しは共感できたかもしれないが、その熱狂に身を任せた末路を知ってからは冷めた目でしか見れなかった。

国のために、正義のために、生きるためにと熱狂に浮かれて人間がした第3次世界大戦、地表を汚し尽くした核戦争を経験してなおまたこのざまだ。

それでいいのかもしれない、このどうしようもなさが人間の良いところなのかもしれないと思いつつもあきれてしまう。

自分はもうこりごりだ、どれだけやっても意味がないと身に染みた。

グリフィンの人手不足を埋めるためのシニア枠で得た警備の仕事で、何も情報なんて回ってこないがそのほうが気楽だ。

そんなことを気にするくらいなら、孫のようにかわいいMP446の事を考えていたほうが彼にとっては建設的だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

もう夜も更けてきてるのによくやるよな、マンハッタンシティに入ってから最初に思ったことはそんなちょっとした呆れだった。

ゲート前に待ち構えていた暇人たちのシュプレヒコールという御大層な雑音を通り過ぎ、夜中にもかかわらず車通りの多い大通りを走らせる。

朝霞の街ならば夜に武器もなしで出歩く馬鹿はいないし車もほとんど通らない、夜は日中に出てこない危険が山ほどあるからだ。

暇人たちが何をしようが勝手だが、騒音は迷惑なのでやめてほしかった。音楽がだめになるし、せっかくの雰囲気も台無しになってしまう。

助手席の市代もあきれた様子で人ゴミを見ていたがすぐに飽きて、車のダッシュボードを開けて中から携帯食料のパックを取り出している。

 

「奏太、ご飯にしよ?おなかペコペコ、やっと安心して食べられるよ…」

 

「そうするか、ここまでノンストップだったからな」

 

あまり縁のない都市とはいえ安全であることには変わりない。鉄血の追撃を警戒して今の今まで飲まず食わずだったために腹ペコだ。

カーネギーホールまでのわずかな時間に腹ごしらえをしておいたほうがいいだろう。奏太は市代から差し出されたブロック状の携帯食を片手で受け取って、見慣れた銀色の無地包装に少しだけ懐かしく思った。

人類生存可能圏外で仕入れたいつもの旧式軍用携帯食だ、味と口当たりはとにかくひどいのだが栄養抜群と腹持ちもよく、保存性に優れていて小型軽量なおかつ安い合成食品である。

粉を固めた質感をした白い正方形の一口ブロックを口に放り込むと、ゴリゴリかみ砕いてさっさと飲み込む。これを四回繰り返して一パック分、これで軍人が必要とする半日分の栄養が取れるのだが味はしないのでとにかくまずい。

 

「これ食べるの久しぶりだね。くそまっずい」

 

「そういえばなんでこれ持ってきた?確か人形用のレーションとかまだあっただろ」

 

「長期任務用のヤツの事?あれボリスさんが全部買ってくれるっていうから売っちゃった」

 

「マジで全部買ったのかあの爺さん…でも賞味期限近くなかったか?」

 

「それを含めてもこれより美味しいから良い値段になったよ、すぐ売れるってさ」

 

「日持ちと栄養価だけが取り柄のこいつと比べりゃそうだろ、味はあっちのほうが数段マシだ」

 

栄養が取れて日持ちして量産できる、文字通り無いよりはマシな代物でしかないがこれが人類生存可能圏外の人々の命をつないできた。

人類生存可能圏外の食糧事情が改善しつつあり、普通の生産や料理ができるようになっても必要になる人間は数多く今でも需要が高い商品だ。ある意味国民食ともいえる、困ったときはこれを食っとけと言われるくらいには。

とはいえこれだけなのはきついので、これを食べて栄養を補給したらおいしいもので口直しするなど一工夫するのが普通だ。要はただの栄養補給と腹ふさぎに割り切って使うのだ。

助手席を一瞥すると同じように携帯食を食べ終わった市代が、合成チョコバーの封を切って美味しそうに頬張っている。

奏太も少し考えてから、ポーチに入れていた合成チョコバーを取り出して口で封を破いてから放り込む。

口の中に広がる安っぽいチョコ味が広がり、同時に腹の中で膨れた携帯食が満腹感を出す。

同じ合成食品でもこういった美味しいものは人類生存可能圏外では作れないから残念だ、作れればもっと食が豊かになっただろう。

これでしばらく大丈夫だろうが口がさみしく感じてしまう、いくら栄養は万全でも食事としては物足りない。

帰ったらうまいもんを食おう、水を口に含んで口を潤し手から奏太はハンドルを切りつつそう決めた。

 

「ご馳走様…でもやっぱりお肉が食べたい。あ、ハンバーガー…ドライブスルーあるし寄らない?」

 

「帰りだ、もうすぐ着く。M16達を待たせたくない」

 

SPAR小隊も化け物狩りには手馴れてきた、装備類も今は充実しているからよほどの相手でなければ後れを取ることはないだろう。

しかしそれはあくまでルーキーとしての話だ、まだまだ新人の域を出ない。

 

「約束だよ。でさ、奏太は何が出たと思う?」

 

「人体発火だけではいまいちだ。やらかしそうなのはいくつかいるが状況が引っかかる」

 

「だよね、私もそう。炎を操るタイプは多いけど、撃ち出すとかじゃなくて発火させるタイプってなるとここで出てくるとは思えないやつばかりだし」

 

「密輸されたのが逃げたにしても市街地のど真ん中でやらかしたにしては被害が少なすぎる、もっと大暴れしててもおかしくない。

仮にアラガミタイプのE.L.I.Dが出たとして、そんなことする化け物なら被害が音楽ホール一つなんて少なすぎるぞ。

アノマリーだとしても同じだ、人体発火させるのは聞いたことないがそれでも機材ですぐわかる。M16達もアノマリー探知機は持たせてるしな」

 

「だとしたら新型かマイナーなヤツ、か。そうなると面倒ね、ここじゃ解析できる人が限られてくるよ」

 

市代の面倒くさそうなことに奏太も頷く。普段の仕事であればこういった新種の痕跡は信頼できる解析専門のチームや機関、あるいはハンターオフィスの解析部門などに持ち込んで解析してもらうのだが今回はそれができない。

この町のグリフィン基地は言わずもがな、U05基地の生化学分析チームもできたばかりで新種の痕跡を解析して探るなんて芸当は難しい。専門の研究機関や病院ならができるかもしれないが、自分たちにはこの街のツテがない。

本格的にしようとするならツテがある軍の知り合いに頼むのが手っ取り早く確実なのだが、距離などの問題で結果が出るには少し時間がかかってしまう。

 

「結局、まだまだ準備不足ってことか。甘く見てたかねぇ…」

 

「仕方ないよ、どこの誰が何を密輸したかなんて調べてもキリがないわ。出てきたのをぶっ叩くくらいしかできないって」

 

「そうするにも不足だってんだ。もし新種ならうちの生化学分析室になんて危なくて持ち込めねぇ、何があるかわからないからな」

 

「ブレイク大佐に頼むしかないね。SRPAなら博士もいるし」

 

「いつの間にか博士が基地にいたりして」

 

「ロスモア抱えた博士が前線にいても驚かねぇな…」

 

知り合いの分別はあれど必要とあらば嬉々として愛用の散弾銃を片手に最前線へ乗り込むくらいにはアグレッシブな博士だ、いつひょっこり現れてもおかしくない。

 

「ま。そうなったらそれはそれか…しかし、もし新種だとしたら久しぶりの臨時収入だな、さていくらになるか」

 

化け物の新種や変異種のサンプルやデータを欲しがっている組織はいくらでもあり、奏太たちも信頼できる取引先はいくつも知っている。

ハンターオフィスも有力な痕跡や情報の買い取りには熱心で、持ち込んだサンプルのグレードや希少価値によっては良い値段で買ってくれるのだ。

複数採取して複数の組織と取引をすれば、二束三文のモノであっても意外といい稼ぎになる。売る相手の優先順位はあっても独占するという契約は結んでいないので、文句は言われるがそれだけだ。

 

「軍からも二足三文とはいえ出るだろうし、オフィスのほうにも流せるから…終わったらみんなで豪華なご飯にしようよ!」

 

「そうしよう」

 

もっとも、それは生き残ってからの話だ。とは奏太は言わなかった。彼女もそんなことは分かっているし、理解したうえでこんなこと言っている。

そんな雑談をしながら車を走らせていると、人ごみの多い封鎖されているメインストリートに到着した。メインストリートを封鎖しているのはマンハッタンシティ警備部の人形達だろう。

その封鎖戦の前に見慣れたM4A1が、笹木一家の到着を待ち構えていた。奏太は封鎖線の前に車を止めて、首を出してIDカードをゆらゆらと見せつける。

それを見て頷いたM4が指示を出し、封鎖線が一時的に説かれて車列が通れるようになる。

奏太は車を中に入れ、駐車スペースになっているところに車を止めると車内の小銃ラックから愛用のガリルAR突撃銃を取り出して車を出た。

トラックに乗っていたサラたちも隣にトラックを止めて、中からいつもの装備とバックパックを取り出している。

ハンヴィーの後ろに回り、トランクを開けて装備を確認している市代の脇から手を伸ばしてバックパックを引っ張り出しながら奏太は市代にM4から報告を受けてくると伝えてからM4のそばによって問いかけた。

 

「M4、遅くなって悪い。現状はどうなってる?」

 

「悪いほうに向かってます。ホール内でミュータントを確認、ネズミ型の新型かもしれません。それからU06指揮官とMG3の死亡が確認されました。

マンハッタンシティのテロ対策部隊も一人を残して壊滅、館内で未確認のミュータントと交戦した形跡があります」

 

「残念だ、良いヤツだったのに…M16たちは?」

 

「ホールにとどまって偵察中ですが、通信はいまだに不通で現状は不明です」

 

「テロ対策部隊の生存者は?」

 

「スーパーショーティです。意識不明の重体ですでに基地に搬送されました、電脳接続部も破壊されておりデータの抽出もできないので詳しい情報は後日になりそうです」

 

スーパーショーティはたしか新型の戦術人形だ。より戦闘に特化しており頑丈にできており、小型な体躯でありながら高馬力な高性能機だ。だが彼女だけが生き残った理由は何だろうか?

運が良かっただけか、それともしぶとかったか、とりあえず記憶にはとどめておこう。

 

「サンプルの採取は?できれば死体も確保しておきたい、軍の知り合いにも頼んで解析してもらう」

 

「すでに確保してあります、サンプルはうちの化学分析室に。死体はまだ何とも言えませんので、MG42たちに頼んで詳細なデータを取ってもらってます」

 

「彼女たちに?だが…いや、何でもない。燃え方に合わせて3種類、生焼け、こんがり、真っ黒こげのヤツをできるだけ確保しろ。それからもう一つ、手袋は?」

 

「させてます、素手で触らないこと、ですよね」

 

「その通り。補給は済ませたか?すぐに中に入るぞ」

 

「問題ありません」

 

M4はしっかりとうなずく、奏太が彼女の持っている装備を見ると確かに装備は万全のようだ。

 

「OK、オーガーは置いていけ、そいつの弾は痕跡を変質させちまう。SOPⅡを連れてこい、中を案内してくれ。頼りにしてるぞ」

 

「了解しました!」

 

元気よく返事をするM4はやる気に満ちた様子でSOPⅡを迎えに走っていた。タフな奴だ、内心でM4に賞賛を送っていると琥珀が彼女の後姿を見てにやりと微笑んで言ってきた。

 

「元気じゃのぅ、お前に良いとこ見せようと息巻いておる。どうじゃ?わかっておるんじゃろ?」

 

「なんの話だ?」

 

「とぼけるでない。儂は構わんぞ、まだまだ増えるとみておる。モテモテじゃのう、このこの」

 

準備を終えた琥珀が面白そうに笑いながら奏太の横に立って肘で彼の腰を突いた。きっと彼女の自分に対する気持ちのことを言っているのだろう。

わかっている、気付かないほど朴念仁ではない。彼女たちの望む答えは出せないが。

 

「お前の夫はそんなに浮気性なのか?傷ついたぜ、準備は?」

 

「完璧じゃ。で、お主から見て彼女はどうなんじゃ?」

 

「まったく…M4が素晴らしい女性なのは確かだよ、もう少し若かったらくらっと来たかもな。今は恋愛対象にはならねぇ」

 

「今はそうじゃろうな、今は」

 

「はっはっは…お前らと彼女は違うだろ。それにもしもの時の答えは決まってる、NOだ」

 

「許すと言っておるのに今更堅物か、良いところなんじゃが…計画が必要じゃな」

 

「何の計画だ?」

 

「ほ、ホールをしらみつぶしにする方法じゃ、うちらだけでは手が足らないじゃろうが。ダミーが使えればいいんじゃが、今はできる奴はいないじゃろ?」

 

確かに、と奏太は頷く。カーネギーホールの面積は広く、富裕層向けに豪華に作られている。たった10人では中をしらみつぶしにすることはできないだろう。

周辺封鎖をするのにも人手が足りない、今はマンハッタンシティ警備部が封鎖線を敷いているが化け物が外に出てきた時の対処法を知らない。

周囲に民間人がいる状況で大騒ぎをすればいらない混乱を生んでしまうだろう、副次災害もばかにはならない。

 

「そうだな、中の奴らが変な気を起こさないことを祈るしかないだろ。どのみち手が足りない」

 

「それしかないか…いくか?」

 

ガリルAR突撃銃に弾倉を取り付けた琥珀の言葉に奏太は頷く、後ろを見ると装備をまとめた市代たちがすでに手持無沙汰で待っていた。

グリフィン&クルーガー社の戦術人形たちのようなおしゃれな制服とは違う、露出の少ないサバイバルスーツ姿の彼女たちにマンハッタンシティ警備部所属の人形たちは興味津々といった様子で見ている。

身に着けている装備と手に持っている銃器も違う、まだヘルメットを被っていないので余計に目立っているのだろう。装備以外はグリフィンでは見慣れた人形と同じ顔と髪型だ。

ゴルカ4戦闘服タイプのサバイバルスーツ、ポーチや無線機などを取り付けたCIRASボディアーマーに鋼鉄製バイザー付きヘルメット、汚染にも悪路にも強いコンバットブーツとタクティカルグローブ、2000年代の陸軍兵のような恰好だ。

小柄なナガンM1895タイプの琥珀は装備をすると装備が少し浮いているように見え、腰のショートブレードや肩に担いでいるガリルAR突撃銃も大きく見える。

ワルサーP38タイプのサラは携帯する対化け物用九五式軍刀が異色を放っており、それを腰のベルト部分で体に固定する専用装具が酔狂ではないことをわかる者にはわからせる。

バトルハンマーを手にしたコルトM1911タイプの美奈やシャンブラーセミオート式散弾銃を握るスプリングフィールドM14タイプの市代のほうがおとなしい。

頼もしい妻たちの姿に思わず見とれていると奏太の視線に気づいた市代が微笑みながら近づいてきた。

 

「なに?見とれてるの?」

 

「あぁ、とても頼もしくて素敵だよ」

 

「当たり前、あなたの妻だもの。シャンブラーはいる?」

 

「いや、ガリルでいい。お前が使え」

 

「OK、これは?」

 

市代が差し出してきたシャンブラー散弾銃を断ると、彼女はそれをスリングで肩にかけると弾頭が赤く塗られた銃弾をまとめたスピードローダーを差し出してきた。

M29マグナムリボルバーに使える44口径マグナムの特殊弾だ、薬莢部分にMと書かれている。

使う機会がなけりゃいいがな、奏太は内心そう思いながらそれを受け取った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

カーネギーホールの地下は化け物がうろうろしていた。歪に急成長した鼠の化け物が闊歩する廊下を覗き見ながらM16は嘆息した。

自分たちがいるのは地下一階の楽屋や倉庫が連なる通路の端、奥にはおそらく稽古場がある。

地下もほかにもれずスタッフだった人間の焼死体が転がっており、化け物たちはそれをついばんで我が物顔で闊歩している。

一体どこから現れたんだ?M16は廊下を占拠する化け物たちの出所が気になった。U01地区の中でもマンハッタンシティは重要な経済都市だ、出入りは厳しくチェックされている。

自然発生するような不衛生な場所でもないのに、どうしてこれ程の化け物が出現するのかが気にかかるのだ。

 

「合図で突入、殲滅するぞ」

 

「了解」

 

M16はポーチからフラッシュバンを取り出し、慎重に安全ピンを抜きながら待機するAR-15とHK416に指示を出す。

二人は頷くのを見てから、M16はフラッシュバンの安全レバーを弾きすぐさま廊下に投げ入れた。

フラッシュバンが廊下に転がった音にびっくりした化け物たちがそれを凝視し、次いで投げ込まれたほうへと体を向けようとする。

その視界と聴覚を焼くように、至近距離でフラッシュバンを炸裂して化け物たちから視界と音を奪い去った。

耳障りな甲高い悲鳴を上げる化け物にM16は素早く銃弾を浴びせかけながら廊下を前進する。

混乱して暴れる化け物はその場でじたばたと暴れたり、先端が三又に割れた尻尾から炎の球を作り出して滅茶苦茶に撃ち出すなどしていて隙だらけだ。

偶然自分に向けて放たれた炎の球を上半身を傾けてよけつつ暴れる化け物たちに次々と撃ち殺して進み、廊下の両脇にある扉に近づいて次々と室内をクリアリングしながら進んでいく。

楽屋や倉庫の中は何もないか死体が転がっているばかりで、時折鼠の化け物がいるだけで生存者の姿は見当たらない。

 

「ここにもいないわね、やっぱりどっかで死んだかしら?」

 

「ならせめて死体を見つけなきゃな、そうじゃなきゃ誰も納得しないだろう」

 

焼死体が二つほど転がる楽屋をクリアリングしながらぼやいたHK416にM16が返答すると、彼女は心底嫌そうな顔をした。

 

「勘弁してよ、黒焦げとかならまだしも食い千切られた死体を見せることになるわ。またいろいろ言われるじゃない」

 

「そうね、また変な団体が丸腰で来るかも…もしくはとっくに変異してるか」

 

「余計に最悪」

 

いつものことだがうるさいのが嫌だ、と答える416にAR-15も同意する。

化け物だらけで鉄血ですら勝手に自滅する地域にわざわざやってきてシュプレヒコールをしようとする阿呆の死体を遺族に返すと感謝の代わりに恨みが飛んでくるのだ。

それがまた別の団体を呼び寄せる、勝手に死ぬだけならいいが化け物になると厄介だ。E.L.I.Dなどに変異してしまえば動き回る上に危険度が増すのだ。

 

「M16、まだいるわよ」

 

廊下に戻ると、クリアリングしてきた廊下のほうから鼠の化け物が牙を剥いて突進してくる。

三又の尻尾から炎の球を作り出して投げながら突っ込んでくる化け物に、HK416は炎の球を避けながら反撃して化け物の頭を撃ち抜いて即死させた。

 

「どこから湧いてきてるのかしら…嫌な感じだわ」

 

「あぁ、だが上でテロ対策部隊を殺したのはこいつらじゃないな。弱すぎる、火力もいまいちだ」

 

壁に当たって弾けた炎の球の焦げ跡と、ぐったりとした化け物の体を見比べながらM16はまだ別の化け物がいると確信していた。

 

(最後は稽古場か、ここにいてくれるといいが…)

 

稽古場の扉には鍵がかかっていたが、悠長に鍵を探している余裕はない。M16は二人を扉の脇に配置し、思い切りドアを蹴破った。

勢いよく開くドアと同時に416とAR-15が内部に突入、一瞬遅れてM16もM16A1突撃銃を構えて室内に飛び込んだ。

室内に荒らされた形跡無い、だが無人でもなかった。咄嗟に銃口を向けたが、稽古場のピアノの脇に佇む赤いドレス姿の女性だと気づいて引き金から指を放す。

しかし3人は武器を降ろさなかった、システムは要救助者だとがなり立てていたがM16はそれを信じられなかった。

要救助者のメリッサ・ピアスは、まるで何も起きていないかのように微笑んでそこに佇んでいた。

 

 




あとがき
カーネギーホール第2話です、今回は化け物と少し戦いました。まぁ序盤の雑魚なら大した脅威じゃないのでこんなもんです。







ミニ解説

旧式軍用携帯食
詳細
味の良し悪しが兵士の気分を左右するなら元から無ければいいじゃない、という悪魔的発想の結果生まれた無味無臭の栄養ブロック。
生産が簡単で大量生産が可能かつ極めて安価で栄養満点な上に長期保存も可能と至れり尽くせりな合成食品。
現在に至るまで人類生存可能圏外での人間の腹を支えてきた国民食的な存在、比較的大きめの街ならば生産設備を一つは持っているというくらい浸透している。
正四角形のブロックが四つで一パックとなっており、一般的な軍人が一日中活動するのに必要な栄養の半分を取ることができる。
ただしまずい、とにかくまずい、味も匂いもしない栄養ブロックなので後味だけが強調されてしまい食えるけどまずいという印象だけが残る代物。
そのため財布に余裕がある人間はこれで栄養を『補給』して、好きな食事を少量で満足するための腹塞ぎとして利用している。

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