U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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ドックンッ!ドックンッ!(エネミーエンカウント)




第23話・カーネギーホール3

メリッサ・ピアスが生きていた、それは本来なら喜ぶべきだっただろう。だがM16は全く喜べなかった、むしろ危機感すら感じていた。

理由は多くある、まず稽古場で待っていた彼女の仕草が可笑しすぎた。あまりに自然体すぎた、まるでここだけ平時の時間を切り取ったかのように普通過ぎた。

またホールで集団人体発火が起きたとき、彼女も現場にいたのに傷一つないこと。何より自分たちがここまで打ち鳴らしてきた銃声に、今まで全く無頓着だったこと。

救援に来た自分たちを見ても全く動じていないこと、安心も恐怖も感じていないように見えること、何もかもおかしい。

メリッサの瞳がM16を見つめる、奥の見えない吸い込まれそうなその瞳にM16は言い知れぬ怖気を感じ咄嗟にその場から飛びのいた。

416とARー15も同じように飛びのき、即座にメリッサの脅威度を再定義していつでも撃てるように引き金に指をかけ銃を構える。メリッサが一歩前に進み出た。

 

「止まれ!」

 

M16はその足をとっさに止めた。その姿に何かを感じたのか、メリッサはますます笑みを深くする。

 

「動くな、両手を頭の後ろに回して膝を着け!」

 

「なぜ?」

 

メリッサの問いにM16の代わりにAR-15が答えた。

 

「あなた、歌手の目をしてないわ。それに落ち着きすぎ」

 

「私はメリッサよ、メリッサ・ピアス」

 

「そうかもね、本人かも。でも怪しいのは変わらないわ、こんな状況だもの。その場で両ひざをついて両手を頭の後ろにして、申し訳ないけどあなたを拘束するわ」

 

「どれくらい?」

 

「少なくともしばらくは家に帰れないわよ、捜査に協力してもらうし、身体検査だってしてもらう。何かに感染してるかもしれないから念入りに、ね?」

 

AR-15の鋭い声色の指摘にメリッサは怪しく笑みを浮かべる。否定もしなければ肯定もしない、ただ笑みを浮かべて、右手を翳してその手のひらに緑色の何かを浮かび上がらさせた。

これは良くない、M16は一目で嫌な予感がした。ただのオペラ歌手が急に手からプラズマ球体のような何かを撃ち出すなんてありえない。誰も信じないだろうが今目の前でそれが起きている、その緑色の何かがレーザーになってAR-15を貫くのが思い浮かんでM16は咄嗟に引き金を引いていた。

銃弾は狙いを逸れることなくメリッサの額にめり込み、彼女の脳みそを吹き飛ばした。即死のはずだった、そのはずなのに、メリッサは頽れることなく上半身を大きくのけぞらせただけで再び持ち直して見つめ返してきた。

頭を撃たれても平気で動ける連中は見慣れたとはいえ背筋に嫌なものが走る光景だった。

 

「…どうやら、少し甘く見ていたようだ。なぜかな?随分と容赦がない」

 

頭から流れ出したのは真っ赤な血ではなく薄茶色の液体で、それがぐじゅぐじゅと頭の傷をふさいで元に戻していく。

M16たちは即座に追撃をかけるが、周囲に緑色の光球とバリアのようなものをまといながら彼女は体を地面から浮き上がらせた。

3人が放った銃弾は光球とバリアに受け止められ、推進力を失った弾頭がカラカラと床に転がる。

彼女は銃撃をものともせず、興味深げにM16達を見つめて首を傾げているその様子を見て、M16は確信した。

 

「彼女たちは違った、なるほど、人形にも色々いるということか」

 

「ショーティたちもそうやって騙したんだな?メリッサはどこだ!!」

 

返答はレーザーだった、体を宙に浮かせてホバー移動のように体を滑らせながら放ってくる緑色のレーザーをM16は真横に飛びのいてそれをかわしつつ舌打ちする。

これではっきりした、こいつは敵だ。メリッサに成りすましていたからテロ対策部隊はまともな反撃もできずに壊滅したのだろう。

要救助者の奇襲で戦力を削られ、反撃の銃弾も奇妙なバリアに受け止められ、挙句に両手から放たれるレーザーに度肝を抜かれたらそうもなる。

416やAR-15の銃弾もバリアに受け止められている、彼女たちも次々放たれるレーザーをかわしながら反撃しているが有効打になっていない。

バリアを貫くことは簡単だ、通常弾もある程度はバリアを進めるのだから対E.L.I.D用徹甲弾の効果は見込める。最悪至近距離から撃てばいい。

しかし相手は回復力が強いがそれ程固くない、対E.L.I.D用徹甲弾は簡単に突き抜けてしまい大きなダメージにはならない可能性がある。

しかも相手は知能があるタイプだ、どんな隠し玉を持っているかわからない。M16は周囲を見回して即座に対抗手段を模索した。

 

(遮蔽がない、室内も狭い、仕切り直しだ。レーザーはともかくバリアが厄介だ、撤退するにはどうにかして隙を作らにゃこっちがやられる。

煙幕…はだめか、廊下を出れば一本道だ。乱射されたら逆に危ない、見ながら避けつつ逃げるか)

 

ならまずはバリアがどんな代物かを見極めよう、それによっては対応策も練りやすくなる。M16は撤退を軸に切り替えて416に合図した。

 

「仕切り直す、目を離すなよ!416、グレネード!!溶かしてやれ!!」

 

「言われなくても!!」

 

牽制射撃をつづけながらM16が指示をすると、416はHK416突撃銃のハンドガード下部に取り付けていたM203グレネードランチャーに黄色い弾頭の40ミリグレネード弾を装填して狙いをつける。

偽メリッサもそれには気づいているはずだが避けようとはしない、おそらく脅威にはならないと思っているのか。

416がM203グレネードランチャーの引き金を引き、気の抜ける銃声と同時に弾頭が飛び出す。弾頭はメリッサの正面のバリアに受け止められ、その場で起爆して中の液体をバリアにまき散らした。

 

(よし、バリアの形は…ありゃ?)

 

「なんだと!?」

 

ジュウジュウと音を立てて溶けるバリアにメリッサの表情が変わる、人類生存可能圏外製の硫酸を飛び散らせる40ミリグレネード弾はメリッサにとっても予想外だったのだろう。

酸が張り付いて形を浮かび上がらせながらジュウジュウと音を立てるバリアにそのあっけにとられた顔にAR-15が5.56×45ミリライフル弾を撃ち込んだ。

有機的な代物だったらしいバリアの壁は硫酸でボロボロになり、5.56×45ミリライフル弾を受け止めることはできなかった。

貫通した弾丸はバリアをより多く削り取り、偽メリッサの体をめちゃくちゃに引き裂いていく。

どのようなバリアで効果範囲を見極めるためだったのだが想定外にも効いていた、偽メリッサは避けようとするがAR-15は容赦なくその動きを銃撃で妨害した。

硫酸によるバリア融解と銃撃によるダメージが効いたのか偽メリッサが地面に両ひざを着く、そのチャンスを逃す3人ではなかった

 

「効いてるわ!!」

 

「もう一発!くたばれ!!」

 

膝をついたメリッサに416が再びM203グレネードを撃ち込む、装填されていたのは同じく硫酸弾だ。

メリッサの胸元に飛び込んだ弾頭がはじけ、彼女の体に直接硫酸をぶちまけた。耳障りな悲鳴とともにメリッサの体が爛れ、ジュウジュウという音を立てて体の表面が溶けだす。

回復力が強い化け物ならばその回復力を奪えばいい、倒すだけならこれもまた有効な手段だ。

爛れた体から硫酸を拭おうとするがもう遅い、M16は隙だらけの両足を撃ち抜いて彼女を地面に這いつくばらせると3人で念入りに全身に銃弾を文字通り浴びせかけた。

体中に銃弾を浴びたメリッサは真っ赤な血と茶色っぽい粘液をまき散らしながら地面にうつぶせに伸びて動かなくなった。

 

「死んだ、か?」

 

「わからないわよ。ドレス姿でレーザーにバリア、マジックキャスターみたいに復活してくるかもね」

 

「ネクロマンサーの間違いでしょ、一応死んでるっぽいけど…どうする?」

 

「とりあえずサンプルは確保しておこう、そのあと離脱だ。援護してくれ」

 

M16は殺したと思しき偽メリッサの死体に近づく、体中に銃弾を浴びた彼女は硫酸を浴びて皮膚が融解していることもあり見る影もなく無残な死体となっていた。生命反応はない、確実に死んでいる。

体から飛び散ったゲル状の粘液のサンプルを取り、416に渡してから慎重に近づき偽メリッサの手が届かない距離を保ってスキャナーを取り出した。

硫酸と銃弾で滅茶苦茶になった体からは正確なデータは取れそうにないが無いよりはましだ、硫酸で溶けたせいで時間がかかっているスキャナーの画面を一目見てからM16はふと呟いた。

 

「お前は一体なんだ?」

 

「貴様こそ」

 

死んだはずの化け物の声、M16は咄嗟にその場から飛びのこうとして、死体から発せられた衝撃波に吹き飛ばされた。

受け身を取ることもできず、壁にたたきつけられた体は激痛が走り、床に落ちた体が嫌な音を立てる。

なんだ、何が起きた、一体何をされたんだ?訳が分からないM16は頭抱えながらも立ち上がろうとして、眼前で悠然と浮かび上がる元偽メリッサの化け物と目が合った。

ボロボロの偽メリッサの体に茶色のゲルがまとわりつき、体だけでなく衣服すらも元通りになって再生していく。それだけでなく、その姿は人の形を模しながら異形へと変化し始めた。

先細りした紫色の蟻の胴体のような尻尾がめきめきと音を立ててスカートの中から伸びる。

両手が肥大化し詰めが鋭利に伸びてかぎづめとなり、腕も長く伸びていく。その姿は醜悪であったが、どこか気品がある不思議な姿だった。

 

「化け物め…」

 

M16A1を構えようとするが体がうまく動かない、体のいたるところでエラーが発生している。416とAR-15のほうに目をやると、彼女たちも同じようにうまく動けず痙攣を起こして床に転がっている。

エラーを精査して先ほどの衝撃波が電気を帯びていたことが分かった。それを衝撃波と一緒に浴びてしまったことで、体が動作不良を起こしていたのだ。

くそったれ、M16は小さく吐き捨てて重たいM16A1突撃銃から手を放し腰のホルスターからM29マグナムリボルバーを引き抜いて近づいてくる偽メリッサに向けた。

ダメージのせいで緩慢な動きはメリッサにはよく見えたのだろう、M29マグナムリボルバーを構えた右腕が掴まれて強引に銃口を上にずらされる。

抵抗しようにも体に力が入らない、M16は最後の抵抗のつもりでメリッサの緑色の瞳をガスマスク越しに睨み返した。

生体部品もひどく熱を持ち体が燃えるように熱い、電脳がオーバーヒートしかけているのか、M16の意識は次第にぼんやりとしてきた。

 

「ふむ、やはり守るか…面白いな、お前たちのミトコンドリアは」

 

「ミトコン、ドリア?お前は、いったい…」

 

「Eve、我が名はEve。覚えておくといい、いずれまた会うだろう」

 

M16はぼやける意識の中で彼女がひどく満足げな表情で答えるのを聞いた。彼女はくすくすと笑い声をあげながら掴んでいた手を放して背を向けた。

その後ろ姿にM16は手を伸ばしたが、それが限界だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

カーネギーホール内はひどく静かだった、入り口からエントランスホール、舞台から地下のスタッフスペースに至るまで焼死体や戦闘の痕跡はあれど化け物の死体もなければ襲撃もない。

どこにどんな敵が潜んでいるかわからない親な空気の中で館内に突入した7人は、M4とSOPⅡの案内を受けながらM16たちと合流するために彼女たちに痕跡を追っていた。

館内はいまだに無線が通じず最新の情報を知るには一度合流するしかない、その過程で何度か抗戦する覚悟をして館内に突入したのだが現状では不気味なまでに館内は静まり返っていた。

館内に入った時から感じている湿っぽさで体が汗ばみ、ガスマスクが群れて少し気持ち悪い。

周囲に全く気配を感じない上に銃声も何も聞こえないのは不自然すぎて、その気持ち悪いさが余計に気になった。

 

(こいつはいったいどういうことだ?)

 

地下か廊下に転がったM82閃光手榴弾の残骸を拾い上げる、グリフィンでも使われている何の変哲もないフラッシュバンだ。

その周囲に残っているのは粘性の液体が溶けてしみ込んだと思しき染み、そして周囲には黄金色の見慣れた空薬莢がいくつも転がっている。

確実に何かいた痕跡がある、なのに不気味な静けさが館内を支配していた。今までの仕事とは何かが違うな、奏太はそう直感した。

 

「奏太、これ見て」

 

奏太と同じように地面に残った染みに目をやっていた美奈が声を上げる。彼女のほうを見ると、左手で何かをつまみ上げていた。

それは弾頭だった、先端がつぶれているが普段から奏太も使っている5.56×45ミリライフル弾の弾頭だとわかる。

 

「たぶんM16達のだと思う。そこの染みの中にあった」

 

美奈が指差したのは廊下の隅にある染みだ。

 

「外した弾がそこに落ちた、にしてはきれいすぎるな」

 

「変だよね、撃ち込んだ弾が体の再生で押し出されたようにも見えない。それだったら廊下の汚れがひどいはずだし」

 

美奈は床に広がる円形の染みの数々を見下ろす。飛び散った血なども見受けられるが、その量と数は床の円形のシミに比べれば少ない。

 

「この染み、まるで氷が解けたみたいね」

 

「死体が溶けたと?いくらなんでも早すぎる」

 

「じゃな、血肉はともかく骨が残っていないのもおかしいぞ。軟体生物じゃあるまいし」

 

同じように床に染みを作る液体を調べていた市代に否定を返す奏太に琥珀も同調する。彼女は使い捨てスプーンで液体を採取し、保存容器に保管してから液体の入った携帯式スキャナーを取り出して同じ染みをスキャニングする。

スキャン結果がスキャナーのモニターに表示されるが、市代は眉をひそめてから残念そうに首を横に振った。

ここに入ってから見てきた痕跡はどれも奇妙すぎる、襲撃もなければ気配もしない。まるですべてが終わったかのような静けさで、いたるところに死体や謎の染みが残っている。

 

「姉さんたち、一体何と戦っていたんでしょうか?」

 

「鼠だよ、きっとあの鼠がほかにもいたんだ。あれもいつの間にか消えちゃってた」

 

M4の問いに割り込んだSOPⅡに奏太も頷いた。可能性は高い、SOPⅡの言う通りなら鼠の化け物が一体だけだったとは考えにくい。

自然発生であれ、テロ行為であれ、一匹だけ放り込むだけで事を済ませる理由が思い浮かばない。暴れさせて被害を出すなら、一部の例外を除けば数が必要だ。

 

「後始末という可能性は?薬剤あるいはナノマシンでの証拠隠滅かもしれません」

 

「意図的な細胞破壊による形状崩壊か、あり得なくもないか」

 

「アメリカで似たような事件がありましたよね、遺伝子改造されたアリに死体を食わせて証拠隠滅しようとしたテロリストの事件です。覚えてますよね?」

 

サラの疑問にうなずきつつ奏太も頭をひねる、隠蔽にしては奇妙なやり方だ。だがこれが人為的に引き起こされたバイオテロという可能性は考えておこう。

奏太は証拠になる液体などの痕跡を手早く集めると、再び全員に合図して前進する。先頭の痕跡はおそらくM16達のモノだ、これを追っていけば彼女たちに合流することができる。

空薬莢や染みの痕跡は廊下の奥、稽古場のほうへと続いている。奏太は先陣を切って廊下を進み、稽古場の前まで来て中の物音をうかがった。

奏太たちが稽古場にたどり着いたとき、稽古場で倒れる仲間たちの姿に思わず目を見張った。

気を失い床に倒れ伏すAR-15と416、そのすぐそばでもぞもぞと起き上がろうと四苦八苦しているM16の姿があった。

外に漏れていた音はおそらく彼女のモノだ、奏太はすぐにドアの隙間から進入路の安全を確認するとドアを蹴り開けてM16のそばに駆け寄った。

 

「M16、しっかりしろ!」

 

「指揮官?そうか、あいつだから…すまない、しくじった」

 

「生きてるならどうとでもなる、運がいい奴だ」

 

傷はそこまでひどくない、見た限りでは軽いやけどが数か所ある程度だ。だがM16の動きはぎこちなく、AR-15と416も完全に気を失っている。

EMPかそれに類する攻撃で体内に直接ダメージが入っているのだろう。内部の精密機器にダメージがあるならこの場でできることは何もない。

奏太はM16の腕にできた火傷に消毒液を塗り、ガーゼを当てて手当てしながら奏太は問いかけた。

 

「何にやられた?」

 

「わからない、ミトコンドリアだとか言っていた」

 

「ミトコンドリア?」

 

「そうだ」

 

M16は頷く。奏太の脳裏には旧アメリカの片隅に生息する化け物たちのことがよぎった。

まさか人面馬どもの進化系か?奏太の脳裏に人間の顔をした馬の群れに追い掛け回された嫌な記憶がよみがえって思わず背筋が凍った。

人面馬、空を飛ぶ赤ん坊、紫デブ、E.L.I.Dなどのミュータントとは違う変異と進化をたどっており性質や能力もユニークで厄介なところがある。

だが知っている限り、M16が言うように言葉を話せるほど知能が高い相手はであったことがないしハンターオフィスなどからも聞いたことがない。

それになにより、自分が考えているソレは人間が制御できるものではない。コーラップスとはまた違う意味で危険な代物だ。

 

「指揮官、その顔は何か思い当るんだな?」

 

「あぁ、厄介な相手かもしれん。俺たちだけじゃ手に余る」

 

「だったらなおさら、今仕留めないとまずい。奴は下だ、追いかけてくれ。放っておくとやばいマジで化け物だ、消耗してる今なら仕留められる」

 

M16が指を差した稽古場の片隅には縁が黒焦げになった穴が開いていた。人間一人なら通り抜けられる穴だ。

 

「気をつけてくれ、超能力みたいなのバンバン使ってきやがる。硫酸弾をぶち込んだのに再生してきやがった」

 

「そいつはやばいな。サラ、美奈、援護してくれ。M4、SOPⅡ」

 

「はい」

 

「警戒を怠るな、何かあったら3人を連れて逃げろ」

 

サラと美奈に声をかけてからM4を呼んでM16を任せると、奏太は市代と琥珀に撤退路になる廊下に出るドアを確保させつつガリルAR突撃銃を構えながら穴のそばまで近づく。

銃を構えつつ慎重に中を覗くと中から水音が聞こえてきておりかすかに風を感じた、しかし穴の奥は暗くよく見えない。

奏太は穴の様子を確かめるためにポーチからケミカルライトを取り出し、折り曲げて黄色く発光させてから中に放り込んでみた。

ケミカルライトは重力に逆らうことなく穴の中を落ちていく、途中でがれきにぶつかりバウンドしながらも下に落ちて最後には小さな水音と同時に光が消えた。

穴は下の下水と思しき水路まで続いているようだが、鉄パイプやワイヤーといったがれきが突き出ておりそのまま降りるのは危険な状態だった。

 

「無理ですね、がれきだらけで通れませんし下水まで一直線です。ちょうど水路みたいなので痕跡も流されてますね」

 

「ふさがれた?追えませんか?」

 

「できなくはないですが危険すぎますし、時間もかかりますね」

 

M16の手当てをしながら問いかけてきたM4に、サラが首を横に振る。化け物はまんまとホールから逃げたというわけだ。

しかも街中に網を張っている下水道に逃げ込まれたとあっては捜査も難航するだろう、下水道は入り組んでいるしいろいろなものが潜んでいる。

残された痕跡も汚水などですぐにダメになる、このまま無理に降りるのもリスクだけが大きい。がれきに装備が引っかかるだけならともかく下手をすれば下に降りたときには傷だらけだ。

 

「師匠、そのロープは使えない?私がどかしてくるよ」

 

SOPⅡが琥珀のバックパックに括りつけられたロープを指差し、自分の胴体に巻く手ぶりをする。自分を宙吊りにしろということだろう。

防弾繊維で編まれた人類生存可能圏外製の頑丈なロープで、SOPⅡを一人ぶら下げて下すことも簡単にできる。

それを命綱にしつつ先陣を切って、がれきを無理矢理にでも撤去するつもりなのだろう。SOPⅡはオリジナルのSOPⅡと同じ義手をにぎにぎししながらアピールてくるが、奏太は首を横に振った。

この場合は下りること自体が危険なのだ、ロープで下に降りても降りられる場所が見つからなければそれまでだし下で待ち構えられていたら目も当てられない。

それに下の水路がどういう水路なのかも不明だ、使われていない下水ならともかくここの下水は現在も稼働状態にある。放水などで流されれば戦術人形も無事ではいられない。

SOPⅡは不満げにえーと声を上げるが、琥珀も無理無理と首を横に振ってSOPⅡを宥めた。

 

「水路がどんな風になってるかもわからんし、お主も釣り餌になる気はあるまい?」

 

「えぇ?ここで?」

 

「いないって言えるか?」

 

「…食べられちゃうのはやだなぁ」

 

下水に化け物が住み着くのはよくある話だ、暗所で狭い場所を好む化け物は厄介な種類も多い。しかもいくら対策してもどこからともなく湧いて出てきてキリがない。

装置や壁面にへばりついて急速に劣化させるスライムを焼くのが総司令のお仕事だと苦笑いする大佐もいるくらいだ。

最近はU地区の下水でも同じ傾向がみられていて、別荘地などの使われなくなった下水にラッドローチやミレルークが入り込んで巣穴にしていることがある。

そこから生活インフラを巡り巡って基地とつながっている水路にやってくることもあり、SOPⅡも対処に駆り出されたことがあった。

 

(下水からなら街のどこにでも出れる。ここを放置もできないが…やはりおかしいな)

 

奏太は穴から目を放し、開けっ放しの廊下に出るドアからその奥に目をやる。通り過ぎてきた廊下はいまだに静まり返っており、気配も何もない。

まるで何もいない空間にいるようだ、この人口密集地でこのホールだけぽっかり何もない。まるで何かに命令されてどこかに撤退してしまった、そんな感じがする。

ホールに入ってから姿を見せない化け物たち、静まり返った建物内、妙に限定された被害、そこから嫌な想像が膨れ上がり奏太は小さくかぶりを振った。

それを見たM16は不安げな表情を浮かべる、それに奏太は無言で首を横に振ってこたえると彼女は悔し気に顔を俯かせた。

まずは3人を安全な場所に運んでから調査し直したほうがいいだろう、そう考えて奏太は一時撤収を指示した。

 

 




あとがき
どうも遅くなりました、腐った大根です。書けないって辛い、本当に筆が進まなかったんで気分転換してました。
今回で一応カーネギーホールは終了、次からは少し捜査という名の日常とギャグを少しやろうか考え中です。シリアスだけはつかれる…





ミニ解説

『40ミリ特殊グレネード弾・硫酸弾』
出展・バイオハザードシリーズ
詳細
グレネードランチャー用に開発された特殊グレネード弾。通常の炸薬ではなく硫酸を充填しており、着弾と同時に周囲にまき散らす。
加害半径や直接的なダメージは通常弾よりも劣るが、硫酸の溶解力は耐性や対策がない相手には非常に強力でよほどの相手でなければ効果は高い。
着弾と同時に『液体』をまき散らすためわずかな隙間にもしみ込んで溶かしてしまうので重装甲な戦車や機械兵器といった大型兵器に対しても有効。
強力だが手加減の効かない弾薬でもあるので注意が必要、中和剤はあるものの至近距離で自爆しようものなら使用する間もなく溶けて死亡する。
U05基地ではグレネードランチャーを扱う人形が携帯している。

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