U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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プロローグ・化け物狩りがいる基地

 

 

青い空が広がっている、私が最初に感じたのはそれだった。硬い地面から起き上がると、見慣れた基地の裏庭だ。

U05基地、私の新しい家、どういわれようともここは私の帰る場所。

適度に整備された庭は綺麗で、暇な人形が誰かしらは好きに過ごしている憩いの場。今も庭のベンチに座っている。

私と同じ小隊のAR-15、休憩しているうちに寝入ってしまったんだと思う。彼女は頑張り屋だから。

どこかの学校の制服をモチーフにした装備、スクールバックを模したガンケースはまるでここは学校の中庭とでも錯覚しそう。

眠る彼女のそばを通り過ぎて基地の中に入る。廊下には掲示板を見て首を傾げる一〇〇式機関短銃。え、もしかして今日は学校縛り?

 

「あ、ちがう」

 

100式の後ろから飛びつくのはSOPⅡ、その後ろにM16A1姉さん。

いつもの調子でニコニコして100式に絡みつくSOPⅡを、M16姉さんはニヤニヤしながら見物してる。

あれは酒のつまみにしてるわね、そう思うとさっきまでは持ってなかった酒瓶をM16姉さんは煽った。

さすがは夢の中、何でもありか。だったらもっと面白いことが起きないかな?そんな風に考えながら、気ままに基地の中を練り歩く。

射撃場で416が練習していた、古参のスペクトラと張り合ってる。スペクトラは愉快そうに煽ってた。

屋上の見張り台でG11はいつものように銃を持ったまま寝てた、これでも仕事してるから彼女はすごい。

倉庫の前でステンがお菓子の箱を抱えたFNCを支えてた、FNCったら部屋に運ぼうとして持ち過ぎたみたい。

ふらふらしてて危なっかしいから手伝ってあげた、3人でFNCの部屋に行くと偶然FALさんが近くの部屋から出てきた。

ここじゃなかったはずだけど、ご都合主義ね。FALさんはアルバムを手にニヤニヤしてる、たぶんコレクションが増えたんだ。

そんなFALさんを見送ると今度は9A91がFALさんを追いかけて、廊下のど真ん中で何かトレードし始める。

 

「……楽しいなぁ」

 

FNCの部屋にお菓子の箱を届けると、彼女がお礼にチョコバーを分けてくれた。私はそれを齧りながら呟いた。

夢だから味を感じないけど、このチョコバーは美味しい。うん、起きたら買いに行こう。

あ、珍しい。MG34と42だ。MG42はこの基地の所属じゃないけど、姉の34の所に時々遊びに来る。

34とはよく一緒に戦う、軽機関銃の彼女がついてくれるとやりやすいのよね。

二人はお茶をする気みたい、ニコニコ何かを喋りながら中庭に向かっていった。

それを目で追うと中庭の方からM2HBとM3グリースガンが重装備のまま歩いてくる。この基地最古参の移動砲台コンビだものね、私の中の印象って。

でもこの二人がいると火力支援が凄まじいからすごく安定する、50口径の掃射がいつでもどこでも要請できるってすごく助かるのよ。

あ、イングラムとスコーピオン、後ろからゆっくりと二人を追っかけてる。悪戯でもする気かな?イングラムも悪乗りモードだね。

で、その二人をさりげなく監視するIDW。

 

「あ、こうきたか」

 

悪戯しようとした二人を背後から白い人影がゲンコツを落とした。トカレフSVT―38、気真面目な彼女だものね。

ワイシャツをラフに着こなすパンツスーツ姿にお決まりのサングラスをかけた彼女は呻く二人にお小言。

それを見つけて面白そうに見物するゲパードM1とその後ろから困ったように笑うSuperSASS。

 

「あれ?」

 

引きづられていくイングラムとスコーピオンを見送って、疑問に思う。おかしいな、指揮官たちがいない。

こういう場面だと、大体指揮官が出てきて追い打ちするかSVT-38を宥めたりし始めるのに。そういえば他の4人も見ない。

指揮官の恋人四天王、誰も出てこないなんて今までなかった。いつも誰かしらいたもの、おかしい。

 

「どこ行ったんだろう?」

 

なんだろう、嫌な感じがする。いないだけなのに、もしかしたら今日は出てこないだけなのかもしれないのに。

不安、怖い、背筋に寒い何かが走る感じがして、私は指揮官達を探し始めた。でも、基地をいくらめぐっても会えない。

 

「どこ?なんで?」

 

武器庫にはいない、食堂にも居ない、中庭も、指令室にも居ない。指揮官執務室にも当然だけどいない。

嫌だ、こんな基地嫌だ、みんながいないと、この基地じゃない、U05基地じゃない。

だって、この基地にはあの人たちの声が必要だもの。無いといけない、無ければならない。

焦りと不安が私を急かす、早く見つけないといけない、そんな気がして止められない。

 

「あ!」

 

いた、基地の正門前だ。5人とも正門から外を見ている、なぜ?まぁいいや、聞けばいい。

 

「何してるんです?どこ行ってたんですか、心配しましたよ!」

 

指揮官の後ろから声をかけると、彼は振り向いて静かに微笑む。彼は戦闘服を着てガスマスクを被り、愛用のガリルARを肩に背負っていた。

仕事みたい、なんだ、今日はそういう夢なんだ。きっと今回の出番はここからなのね、それなのに私は早とちりしちゃった。ま、夢ならいいよね。

 

「出撃ですか?お供します!!」

 

いつの間にか私も戦闘装備で、銃を手にしていた。夢だから何でもあり、こういう時は助かるわね。

でもこんな夢は初めて、指揮官と戦いに行く夢は何度も見たけれど、基地から始まるなんてなかった。

何をするんだろう、鉄血の基地に強襲をかけるのかな、それとも迎撃するのかな?

 

「え?」

 

おかしいな、なんで指揮官は首を横に振っているの?来るな?いえ、そういうわけにはいかない。

いくら何でも指揮官達だけで戦地に向かわせるわけにはいかない、強くたって限度があるでしょう?前みたいに戦力不足なわけではないんだから。

 

「みんなが、いる?」

 

気が付くと、なぜか他の4人は基地の外にいて、指揮官を呼んでいた。ガスマスクをした姿で。

指揮官は何か言って、そのまま外に行ってしまう。何を聞いたのかわからない、けれど夢の中の私は焦って指揮官の追いすがろうとする。

なぜか私の体は基地の外から一歩も外に出ていけない。まるで見えない壁があるみたいに、正門から出られない。

指揮官達が行ってしまう、どんどん遠くへ行ってしまう。駄目、その先は危ない。

 

「まって、待って!私も一緒に!!」

 

指揮官達は皆武器を持っていた、指揮官たちの行き先が荒野に変わる。これから戦いに行くのが分かった。

指揮官達だけではだめ、もっと戦力が必要。私も一緒に行きたい、連れて行ってほしい、なのに、なのにどうしてでられないの?

 

「出して!ここから出して!!」

 

みんな傷だらけだ、戦いの中でできた傷だ。早く治療しないと助からないほどに指揮官も、コハクも、イチヨも、サラも、ミナも。

なのに、みんな目が笑ってる。どうして?なんでそんな風に笑えるの?なんでそんなに優しく笑っているの?

指揮官が手に持ったガリルを掲げる、彼の人形もそれぞれの武器をそれに軽く叩きつけてから構えた。

指揮官達が見えなくなる、荒野の向こうに、荒れた空の下に消えていく。見なくなっていく、居なくなってしまう。

 

「嫌!」

 

目が覚めた、起き上がればそこはあてがわれた基地の部屋だ。私、M4A1は不思議な倦怠感を感じながら身を起こす。

ひどい寝汗をかいていて、寝間着のパジャマが湿っている。でもそんな不快感よりも、先ほどまで見ていた夢が頭から離れない。

指揮官が離れていく、私たちの前から消えていく夢。酷い夢だ、彼が居なくなるなんて考えられない。

考えただけでも胸が苦しくなる、彼のいなくなった基地を考えるだけで、とても寂しい気持ちになる。

 

「さよならなんて、嫌。夢よ、悪い夢、ただの悪い夢なの」

 

震える体を落ち着かせるように、私は無意識に独り言をつぶやいていた。悪い夢、ただの夢、だから現実には関係ない。

でも、その日は眠る気にはなれなかった。眠れば続きを見てしまいそうで、なんだか、今日は一人で眠るのが怖かった。

 

 

 

 

プロローグ・化け物狩りがいる基地

 

 

 

 

「指揮官の昔?」

 

「うん、何か知らない?」

 

PMC『グリフィン&クルーガー』が管轄するU05地区に作られた囮基地、通称U05基地。

ここは綺麗で自然豊かな森に囲まれ、小高い丘と川のせせらぎに満ちたこの地区はかつて富裕層にも人気のリゾート地であった。

しかし鉄血工造の暴走以後、この地区に鉄血の侵攻部隊が侵入。やがて最前線となり激しい戦闘が行われた激戦地だ。

この基地も放棄されたリゾート施設を買い取り改修した前線基地、敵の戦力を分散させる囮として建設されたのが始まりだ。

だがそれも少し前までの事、現在は鉄血の興味がS地区中心に切り替わったせいかだいぶ戦力が引き抜かれて攻撃は散発的になった。

グリフィンU地区支部はそれを好機とみて反撃を開始、U地区の勢力圏はほとんどグリフィンが取り戻しつつある。

そんな静かな朝を控えめな音量で壁に掛けられたテレビがグリフィンの広報番組を流す食堂で感じながら、M4A1は同僚の一〇〇式の返答に朝食のご飯を頬張りながら頷く。

セーラー服に日本の銃、それにこの基地古参の一人の彼女であれば、何かわかるかもしれないと思ったからだ。

彼女も同じく洋風朝食セットをモリモリ食べる、それはもうたっぷりと。これから任務なので当然だが、とにかく食べる。

 

「ん~私もM4さんと知ってることは大差ないかと……どうしたんですかいきなり?」

 

「その、嫌な夢を見て…」

 

「夢?M4さん、夢見るんですか?はわぁ、やっぱりエリートさんってすごいんですねぇ」

 

「え?えぇ、でも、それくらい普通じゃない?」

 

「いやいや、私たち人形は夢なんて見ないですよ」

 

あぁ、そういえばそうだった。M4は自分のうかつさに思わず呆れる、そういえばペルシカにも口止めされていたはずなのに忘れていた。

夢なんて当たり前に見るモノだといつの間にかそう考えてしまっていた、あまり話すことではないため自分で勝手に結論付けてしまっていたのだ。

 

「ごめん、これみんなには内緒にして、口が滑った」

 

「解りました、二人の秘密ですね。あ、ならあとで指揮官に聞いてみましょう?教えてくれるかも」

 

M4はこのU05基地の臨時指揮官である黒髪黒目のやや厳めしい日系男性、ソウタ・ササキ(笹木奏太)を思い浮かべる。

人類生存可能圏外の放棄された汚染地域にある街から来た変わり種、生まれも育ちもまったく違う人間だがお人好しで信頼できるできた男性だ。

人形にも分け隔てなく接してくれるので信頼もあり、この基地の構成員には受け入れられている。

いつもややパツパツなスーツ姿か私服で基地を練り歩き、戦闘となれば戦闘服に着替えて大抵は部下と一緒に最前線に飛び込む頼れる男だ。

その戦術眼と戦闘能力は鍛え抜かれたもので、並みの鉄血人形では相手にならない。

しかし突拍子もない作戦を思いついたり、鹵獲が大好きだったり、基本的に一つの型には嵌らない困った人だ。

そんな彼は私物の戦術人形を4人従え、部隊に配属している。

この4人も強い、指揮官と長く戦場を生き抜いた歴戦個体で量産品とは思えない技術力だ。その分ぶっ飛んでいるが。

この基地に最初に配属されたIDW曰く、最初の訓練は化け物との実戦だったとのこと。

ただこの4人と指揮官はただならぬ関係であり、面白半分に覗きに行ったフランシス曰く『指揮官が捕食されてた』らしい。

 

「それで?」

 

「え?あぁ、前はハンターやってたらしいですよ。みなさんたちと一緒に」

 

「それは知ってるけど、それでも強すぎる」

 

「ミュータント狩りの方ですから」

 

ハンター、狩人、それは害獣相手の職業だがもう一つの意味もある。それはE.L.I.Dによって生まれたミュータントなどの化け物を狩る職業としてのハンターだ。

基本的には軍が出動して相手をするのだが、軍が出れない時もあるしそうする必要性が薄い場合もある。

そんな時にかつて頼られたのがハンターだ。ハンターは軍が動かないとき彼らは町や村、あるいは個人の依頼を受けてミュータントを狩る。

だが軍が力を取り戻すにつれて活躍の場を失い淘汰され、斡旋組織のハンターオフィスもこのグリーンゾーンには存在しない。

またE.L.I.Dによる化け物を主に相手にするとは言え傭兵の類であり、あまりいい顔はされていなかった。

大手PMCが都市運営を任されるようになり、大々的に活動を始めてからはさらに仕事を奪われて消えていった。

このグリフィン&クルーガーが管轄する地域にもかつては存在したが、今はもういない。昔を懐かしむ人が話にする程度だ。

 

「うーん、そういわれても…あ、そういえば別の地区で昔大きな事件があって、それで大暴れしたとかなんとか」

 

「誰の情報?」

 

「お姉ちゃんですから多分間違いないかと、今も躍起になってますしね。

この地区には仕事で偶然来て居たらしくて、その指揮を見たグリフィンの営業さんがスカウトしたそうです」

 

「そうなんだ、そういえばたまにいない」

 

「それはまぁ、ここにもたまに出ますしね」

 

M4はふと対物ライフルを抱えた指揮官と、その部下4人を想像した。

指揮官の現場主義は納得だ、元々司令部でどっしり構えているようなタイプではない。

その上人柄もいいのだから、所属する戦術人形たちからも評判がいい。それこそほかの基地所属の人形からも尊敬されている。

 

「あれ?でもスカウトっていう割には、IDWさん、苦い顔してたような。それに、人形ばっかり?」

 

「言われてみれば・・・まぁ、そういうこともあるのかな」

 

一〇〇式が漏らした疑問にM4もふと食堂を見渡して頷く。この基地、実は指揮官と後方幕僚兼事務員のフランシスを除いて人間はいない。

基地メンテから人形のメンテに至るまですべて人形で賄われている。故に戦闘用ではない自立人形も多数いる。

だが一〇〇式は別の司令部に所属した経験はなく、M4も元の所属が所属なので不思議だがそういうこともあると思って気にしなかった。

 

「あ、そういえば聞いた?M3さん、またアップグレードするみたい。強化外骨格を仕入れるとかなんとか」

 

「うわぁ、またあのコンビに磨きがかかるんですか。頼りになりますねぇ」

 

「M2さんウキウキで強化外骨格のカタログもってたから、たぶん指揮官に直談判しに行ったんじゃないかな」

 

「カタログですか、そういえば最近入荷したカタログに最新の戦術人形が近々ロールアウトするって記事がありましたよ」

 

「最新?」

 

「はい、何でもショットガンを使う重装甲タイプらしいです」

 

「へぇ、なら一人来てほしいな」

 

「そうですねぇ、FAL姉経由なら開発部に話を通せそうだし一人回してもらえるかも。

あ、一人といえばM4さんは訓練しなくていいんですか?」

 

訓練というのはおそらく昨日からM16たちが行っているダミー人形の完熟訓練の事だろう。いわば慣らしである。

どの人形も行うことだが、特にSPAR小隊は16LABの試作型だ。ダミーリンクに使用するダミー人形も当然ながら16LABの特別製であるため気が抜けない。

一つ一つが手作業で組まれた高級品でIOPの量産型よりも高性能だが、その分補充が効かない。

不要な破損や、その原因を見つけるために必要な訓練だ。一度も動かしたことがないダミーをすぐに実践で使えるわけがない。

故にM4も本来ならばM16達と共に訓練施設まで出向いていて、昨日から基地にはいないはずだった。

 

「実はもう前点検で不備が見つかっちゃって……」

 

「あ……」

 

とてもめんどくさい訓練なので、必要がない4人が羨ましいとM16はよくぼやくが今は量産品の別の人形が羨ましい。

もし不備があっても量産された個体ならばすぐに部品交換できるし、無理なら丸ごと交換という手段が取れる。

ここの指揮官ならば丸ごと交換だって簡単に許可をくれるだろう、現場主義で理解のある人なのだ。

 

「でも見つかってよかったじゃないですか。」

 

「そう思う?」

 

「へ?」

 

「私だけダミーが直ったら特別訓練なの、ミナと…」

 

一〇〇式の表情がこわばる、M4のどんよりした空気から察してしまったのだ。

指揮官の側近であるミナことコルトM1911は天然だが気さくで明るい人形だ。しかしなぜか工事用スレッジハンマーをふるう変わった個体である。

あくまで普通の訓練なのだ、何もなければ訓練なのだ、システムやプログラムに頼らないアナログ訓練であるが大変為になる。

しかしもし鉄血がいらないおせっかいをしてくれば、そしてしつこいと話は一気に変わる。

苛立つM1911が鉄血部隊に突貫、暴れる彼女を必死で援護、そして血みどろの戦場で紡がれる指揮官達への延々と続く愛の言葉。

しかも近接戦となると工事用スレッジハンマーも振るわれる、何人の鉄血兵の頭がぐちゃぐちゃになるか分かった物ではない。

これに遭遇するとメンタルが図太い姉御であるM16すらも消耗するだから相当だ、頭がない死体を量産するのだから絵面も悪い。

 

「ご愁傷さまです」

 

「一緒に行く?」

 

「いや、スタイルが違うので…」

 

一〇〇式も近接戦をよくするが銃剣を用いた型だ、指揮官達のような刀剣類を振り回すタイプとは違う。

指揮官達を目標にしてはいるが、銃を槍に見立てる彼女と本物の刀剣を振り回す彼らでは型が違いすぎる。

 

「だよね」

 

M4は食堂の入口に設置された食券販売機の前に件のU05臨時指揮官と彼の人形の一人がメニューを吟味しているのを見つけた。

背中からでも解る筋肉質な背中は、いつものように頼れる背中だ。その視線に指揮官は気づいたのか、振り向くとにっこりと笑う。

それに気づいた彼の個人所有人形、スプリングフィールドM14も振り向いて微笑んで手を軽く振る。

 

「いいなぁ」

 

二人の距離は自然と近く、仲睦まじい。普段から一緒にいるのが自然、というのがしっくりとくる。

そんな関係の二人をM4は微笑ましいと思う反面、指揮官の隣にいるM14を羨ましいと思う。

指揮官が券売機から食券を購入するとM14に何か言って一人受け取り口に向かう。

M14は迷いなくM4と一〇〇式に向かって歩を進めてきた。運がいい、M4と一〇〇式は直ぐに自分の横の椅子を引く。

 

「おはよう、二人とも」

 

彼女のあいさつに二人も軽くおはようと返す。M14は流れるように一〇〇式の隣に座り、受け取り口の担当人形からプレートを受け取っている指揮官に向けて手を振る。

指揮官はそれを見つけると、左右の手で器用にプレートを持ちながらテーブルに持ってきてM14の前に彼女のメニューを置く。

二人とも和食セットだ、ハムエッグとサラダは洋食セットと同じだがパンとコンソメスープではなく白いご飯とみそ汁がついている。

 

「おはよう、どうした?少し顔色悪いぞ。夢見でも悪かったか?」

 

ドキッとしてM4は思わず飲みかけていたコンソメスープを吹きかける。

 

「人形は夢を見ませんよ?」

 

一〇〇式がいつものように軽く返す。指揮官のいつもの事だ、人形が気分良さげだったり落ち込んでいたりすると夢云々と冗談交じりに話しかける。

彼なりの人形との付き合い方で、少し様子が変わっている人形がいる場合の朝の日課といえる。

どうやらM4の機微を目ざとく見つけたのだろう、相変わらずよく見ている人だ。

 

「その、ダミーが気になってて」

 

「あぁ、その件ならペルシカリア博士に話を通した。代わりは少し待っていてほしいそうだ」

 

「そうですか」

 

指揮官はM4の隣に座ると旧日本の作法として、軽く両手を合わせていただきますと呟いてサラダに箸を突っ込む。

さも当然のように座った彼にM4は一瞬ドキッとしたが、指揮官から香る石鹸の香りに混じるかすかな女性の香りに気づく。

共同生活なのだから仕方ない、たとえ何もなかったとしても彼女たちの香りが服に付くのは仕方ない。

それでも考えてしまう、男と女が一つ屋根の下で暮らしていて、そういう関係ならそういう事を致すのは当たり前だから。

M4は胸の奥からふつふつと湧き上がってくる嫉妬心に、言い訳をして何とか落ち着けようとする。

昨日は彼の向かいに座るM14だろうか、むすっとしてM4は彼女を睨む。だがM14はニコニコするだけだ。

彼は私達のものだ、そう言葉にすることなく宣言する四天王の存在がM4を圧倒する。

 

「すまんな、代わりに俺が穴を埋めることになったんだが構わないか?」

 

「え!?」

 

棚からぼた餅、いやこれは不幸中の幸いか?思わぬ指揮官の言葉にM4の思考が一瞬固まる。それはつまり、しばらく指揮官を独占できるということか。

指揮官が強いことはM4もよく知っている、戦場では背中を預けた中なのだから当然だ。

 

「つまりそれって、私の任務に指揮官も参加するってことですか?」

 

「そうなる、ダミーが届くまでの間の穴埋めを俺とこいつらでやるって話になってる。まぁあるかは分からないけどな」

 

「あ、そういうことですか」

 

M4は少し落胆する。が、心強いことには変わりない。指揮官と彼の人形の強さはこの基地の誰もが知るところだ。

なにしろ鉄血の攻勢にさらされる初期のU地区で、たった7人から基地を守った上にここまで拡大した実績がある。

 

「ほら、俺は正規社員じゃない契約社員、元々はハンターだ。今も副業みたいなものだしな。

IOPの16LABとの短期契約なら、むしろ支部としてもプラスじゃないかな」

 

「そうでしょうか?マクラファティ支部長が嫌がるんじゃ?」

 

一〇〇式の言葉にM4は現実に帰る。ロバート・マクラファティ、この地域のグリフィン&クルーガーU地区支部のトップだ。

元パイロットで仕事は並みにできる典型的な富裕層のボンボン、しかし長年グリフィンに努めてきた叩き上げでクルーガーに心酔している。

酸いも甘いもかみしめた仕事人、ストレスのせいで禿に悩む中年男性だが彼は指揮官の事を快く思っていない。

アウトサイダーの傭兵という立場からくる軽蔑、本来の目的とは全く違う結果となった彼の躍進に対する嫉妬からか、これまで結構な嫌がらせを受けてきた。

物資の補給は万全で基地能力の維持こそされているがそれ以外の要望、戦力増強や新装備製造依頼など戦力的なモノはほとんど却下されている。

指揮官の行う変則的な自腹、本社の重役や16LABとの繋がりが無ければ、もっとひどくなっていたに違いない。

 

「奴の髪と君の背中なら君の方が大事だ。お飾りのトップだぞ?暇な分仕事するだけだ」

 

「仕事して?」

 

どこから取り出したのか、書類の束をひらひらさせるM14に指揮官の表情がこわばる。

戦闘ができる代わりに彼は書類仕事に疎い、基地のトップとしてはお話にならないレベルで正規の指揮官としては絶対に採用できないだろう。

臨時指揮官という役職の通りあくまで臨時で基地を請け負っているに過ぎない上、元々は数合わせとして雇われた一部隊というだけなのだから当然だ。

 

「市代、書類なんてできないって俺言わなかったっけ?それでもいいっていうから受けたのに」

 

「でも一応仕事だし、その分報酬上乗せだよ」

 

「流されてるぞ、これは嫌な流れだ、実に嫌な流れだ」

 

「フランも褒めてたよ?最初よりはマシだって」

 

「うぐっ…」

 

にべもなし、涼しい顔で指揮官を見つめるM14に彼の肩が落ちる。

この基地の後方幕僚であり副官のフランシスは、この基地の事務方トップであり基地の財政面などの裏方を一手に引き受けている。

今日も朝食を早めに食べ、いい早く事務仕事にとりかかっているに違いない。そんな彼と彼女の間柄は意外と良好である。

指揮官自身、変な要求をしない、無茶ぶりをしない、むしろフランシスを気にかけて事務方人形をわざわざ増員している。

他の基地では要する戦術人形や人員の数が膨大なこともあり、その手の書類も多く大体にデスマーチ状態らしい。

しかしこの基地は所属する戦術人形は25名と少なく、人間もほとんどいないので書類の種類も数も少ない。

鉄血との紛争では成り行きでできた最前線基地だが、フランシスは今日もコーヒーを片手に専属の自立人形と仕事に励んでいるのだ。

 

「前線要員に書類は天敵なんだぞ」

 

それでも書類仕事を苦手とする指揮官には大きな負担らしい、疲れているのも事実なようだ。

ここ最近はフランシスだけでは賄えない指揮官の処理が必要な書類が混ざってきていて否応なしに彼へ負担がかかっている。

最近は彼が前線に出張ることも少なくなったのでストレスもたまり、余計に負担がかかっているのだろう。

 

「そりゃ分かるけど、もう少しなんだから頑張ろ?」

 

「そのもう少しって……夜戦と言い、情報集めといい、いいように使われてるんだが?」

 

「そりゃあんたが勝手にやっただけでしょうが」

 

もう少し、M14の言葉にM4は胸が締め付けられるように感じた。彼の契約期間はほどなく終わる、という意味なのだろう。

そうなるとどうなるのだろう、彼は残ろうとしてくれるだろうか?いや、おそらくそれはない。

彼はハンター、この基地にはもともと仕事の延長で臨時指揮官に就任しただけだ。経緯も理由も、彼にこだわりは全くない。

そもそも今のハンターは、人類生存可能圏外の低汚染地域にある街や居住地を中心に活動している職業なのだ。

本来であればここにいることのほうがおかしい、グリーンゾーンに出てくるE.L.I.Dは軍が処理するからだ。

何もなければきっと、彼は契約通りにここから退去するはずだ。彼は自由だ、それについていけるのは同じ自由を持つ4人だけ。

そうなったら、残された自分たちは戦えるだろうか?今更ほかの指揮官の指揮に従えるのか?きっと従うほかないのだろうが、嫌だと思う。

 

「それも含めて指揮官なの、そもそもその程度で音を上げるほど弱くないでしょ。ほら、しゃきっとする!

私達は信用あってこその商売でしょ、契機満了じゃなくてクビになりましたなんてかっこ悪いじゃない」

 

「わかった、わかったって」

 

M14の少し責めるような口ぶりにM4は思考の渦から引っ張り出された。

指揮官とM14のやり取りもいつもの事だ。それにしっかりしてもらわないと困るのはM4と一〇〇式も同じ思いだ。

そんな横やりで彼をクビにされてはみんなが困る、ただでさえ簡単に切られてしまう立場なのだから隙は無い方がいい。

まだ彼を繋ぎ止める手立てができていないのだ。

 

「頑張ってください!」

 

「あぁ、その純粋な目が痛い…」

 

「が、がんばれがんばれ?」

 

「M4、お前もか…」

 

指揮官はすっかりしょげて、もさもさと朝食を頬張る。その様子がすねた子供のようで、一〇〇式とM14がくすくすと笑った。

ますますぶすっとした指揮官はつまらなそうに視線をテレビの方へ移す、その画面に映るグリフィンのとある部隊を見つつ呟いた。

 

「向こうもいろいろ大変なようで」

 

未だ鉄血の攻勢が続くS09地区の情勢が流れ、対策に当たる部隊の出撃する様子が流れている。

画面の中に長い黒髪に黄緑色のメッシュをした戦術人形がトラックに乗り込んでいくのを見つけた。

指揮官は瞳を横のM4に移し、小さく息をつくとサラダに箸を突っ込んでもさもさと食べ始める。

M4もテレビに映る本物を見つけ、少し虚無感を覚える。胸に空いた何かがうずく。

 

(オリジナル)

 

自分の元となった本物の精鋭、自分はそのコピー。どれだけ頑張っても、どこまで行っても、彼女が自分の前にいる。

自分の中にある記憶は所詮借り物で、偽物。自分は何もないただのダミーであるといつまでも考えさせられる。

 

「M4、喰え」

 

「え?」

 

「冷めるぞ、こいつ試すか?」

 

「あ、はい」

 

指揮官の言葉に現実に引き戻される。行儀悪く箸で彼が示す先にあるのは食べかけの自分の朝食。

先ほどまで暖かだったハムエッグは確かに少し冷めている。食べなければ、M4は彼に言われるがまま醤油を垂らして黄身を口に含む。

醤油が黄身の味を引き立てていてこれも美味しい、ただしょっぱいだけではない複雑な旨みを感じる。

 

「どうだ?俺の故郷の味だ」

 

「え、まさか!?」

 

M14がびっくりして自らも醤油を合成ハムエッグにかけて口に含む。

すると、口に入れた途端に表情を輝かせて即座に合成白米を口いっぱいに放り込んだ。

 

「うまい!本物!」

 

「え?」

 

「故郷の天然物だ、実は箱の隅に転がっててな」

 

それだけ言うと指揮官はにんまりとほほ笑む、よく見るとテーブルに置かれている醤油挿しは食堂に常備されているモノとは形が違う。

食堂に常備された合成醤油の入れ物は円筒形だが、指揮官が出してきたのは個人用の小さい四角のものだ。

話でしか聞いたことがないグリーンゾーンの外にある指揮官の故郷で作られた天然物の醤油。

作られた場所がどこであれ、この時代ではとてつもない高級品だ。

 

「どうだ?」

 

「美味しいです」

 

「だろ?」

 

微笑む指揮官に頷く、いつの間にかM4の中にあった暗い感情は消えていた。彼が消してくれたのだ。

この食事を食べているのは自分だから、この食事を楽しんでいるのは自分なのだから、オリジナルと比べる必要などないのだと。

日常の中のちょっとした違和感、気にも留めなくなったM4はこんな日々がずっと続けばいいと思う。

いつものように彼がいて、仲間がいる。この地区に攻め入る暴走した鉄血人形を倒し、この暖かい基地に帰ってくる。

大丈夫だ、M4は自分に言い聞かせる。まだ時間はある、引き留める方法を探せばいい、それだけだ。そう思いたかった。

 

 




あとがき
まだ平和な時間のU05の朝の日常、化け物出したいけどしばらく出てこない!下地作らなきゃ(涙)
なので代わりに指揮官たるハンターが化け物(意味深)してます。
恋愛に悩む指揮官様がいるのなら、あえていろいろガンギマリした指揮官が居てもいいじゃない?
とっかえひっかえする指揮官がいるのなら、とっかえひっかえされる指揮官が居てもいいじゃない?
と、好き勝手に作ってたらこんなバカ野郎になりました。くそったれハーレム野郎ですがどうかご容赦ください。

なおうちのM4ちゃんはAR小隊じゃありません、SPAR小隊です。詳しいお話は次にしますが本人じゃないです。
あの天災ペルシカ博士ですよ、原作序盤のあれに何の対策もなしに作戦に投入するわけがない。
原作でも最後のあれはCだったしね!当然プランAとBもあるでしょ!なので次回からBのお話をば。
ゆっくり更新ですが今後ともよろしくお願いします(ゴキ土下座)

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