U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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気が付けば一か月、遅くなって申し訳ありません、提督業が忙しくなってたしイベントも重なってたのでそっちに集中してました。
リアルの方もまた変なことになってるし、この先も予定立てづらいので書く時間どころか気力も削られる。コロナも異常気象も大っ嫌いだ!




第27話・NightConcert

 

雨足が強くなってきたのを彼は書類仕事に追われながら感じていた。医師である彼は、担当患者たちの経過リストをまとめながら、終わらない書類の山に忌々しく思いつつもこの雨には感謝していた。

何しろ自分の席があるオフィスは3階で日当たりがいいし、窓際にあって病院正面玄関のロータリーを見下ろす景色も最高なのだが悪い点もある。

マンハッタン総合病院はこの街で有数の総合病院だが大きくて金がある分色々な層の恨みを買っている、そのせいで抗議団体が来る日も多いからだ。

抗議団体は最悪だ、所かまわず大声を上げるし窓にごみを投げて汚してくる。おまけに口から出る騒音は差別や偏見にまみれたモノばかりで反吐が出る。

自分が担当している患者たち、コーラップスによる低放射線感染症患者を指差して化け物呼ばわりし街から追い出そうとするふざけた連中もいるだからだ。

こいつらは患者だけでなく担当医師にまで手を伸ばして罵倒してくる、ひどいときは患者を殺して楽にしてやれと諭そうとしてくる連中もいる。

命を救う意思に向けて平然と殺しを指示し、それが正義だと人類の務めだとうそぶくカルト集団にはもううんざりしていた。

 

(いい雨だ、ほどほどに振るだけにしてくれよ)

 

そんな連中も雨の日は家から出てこない、この時代の雨の恐ろしさを良く知っているし何より忌避する感染症にかかって自分も差別の対象になるのを恐れるからだ。

医者の目からすればこの程度の雨は特に問題ない、帰宅までこのまま降り続いてくれるなら大助かりだ。自分は自家用車で通勤しているから、マンションと病院を行き来するだけなら雨に濡れる心配がないのだ。

 

「おっと、切れちまった」

 

コーヒーを飲もうとするとカップが空だった。まだまだ仕事はある、彼は小さく息を吐いてから廊下にある自販機に向かった。

自販機は近くの休憩スペースにあり、そこも街の風景が良く見える。コーヒーメーカー型の自販機にマグカップを設置し、小銭を入れていつものを選択して仕上がりを待っていると不意に頭上の蛍光灯が点滅した。

切れかかっているのかと考えたが、見上げた途端蛍光灯の光が消える。廊下の電気とコーヒーメーカーの電気も消えている、停電だ。

すぐさま非常用自家発電機が稼働して院内に電気を供給し始め、廊下や休憩室の非常灯が点灯して最低限の明るさを確保する。

残念ながらコーヒーメーカーは動かない、何があったのかはわからないが最後の一杯だ。

 

「ついてるぜ」

 

アツアツだが仕方がない、この先忙しくなるのを予想した彼はひと思いにコーヒーを呑み込む。その時、遠くのほうから爆発音が響いてきたのが聞こえた。

何回も街のどこかで爆音が響き、街の光がそのたびに消えていく。見える街の光がすべて消えるのには数分もかからなかった。

外はほとんど真っ暗で、いくつか見える窓の光はおそらく自家発電機か非常用のバッテリーを持っていた部屋や企業のものだ。

 

「なんだ?」

 

声が聞こえる、ここだけじゃない、病院中で、街中で、いたるところから。笑い声が、うめき声が、鳴き声が、叫び声だ。

爆発音が響く、銃声が轟いてくる、何かを引き裂く音、租借する音が耳に残る。訳が分からない、まるで考えがまとまらずに呆然としていると唐突に後ろから肩を引っ張られた。

 

「おい、何やってる!先生、早く逃げろ!!」

 

後ろにいたのは顔見知りの太った警備員だった、右手には.38口径のリボルバーを握っておりぶるぶると震えていた。

 

「なんだそれ、どうしたんだ?」

 

「はぁ!?何言ってんだ、早く逃げないと死んじまうぞ!」

 

警備員は半ば叫びながら震える手でリボルバーの弾倉を横に振り出し、空薬莢を振り落とすと新しい弾薬を込めていく。

その様子がとても現実離れしていて思わず目を疑った、常日頃から役に立たないと警備員自身もぼやいていたそれを使ったということだ。

旧式の軍用兵器を振り回すPMCが台頭してからは警備員の腰の飾りとして使いまわされてきた形式も忘れられた.38口径リボルバーは、彼の震える手で一発一発弾を再装填されて再び弾倉を戻された。

 

「撃ったのか?いったい何に?」

 

「E.L.I.Dだ!!もう中に入ってきてる、くそ!なんでこんなところに、くそ!!」

 

「え、そんな、鉄血じゃないのか?」

 

「ちげぇよ!あいつらがイカした格好の姉ちゃんに見えんのか!!逃げるぞ、先生!!」

 

警備員は彼を無理矢理引っ張って廊下に連れ出す。そこには紫色の太った人型の何かがいた。

人間を限界まで太らせて足首まで腹の肉が垂れ下がり、両腕が長く先太りした化け物だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

窓の外の気配を感じ取って奏太は目を覚ました、何かがゆっくりと近づいてくる特有の気配が司令部の窓の外にじりじりと近づいてきている。

気配は一つ、ピンポイントで制圧するつもりなのかそれしか感じない。それかもうすでにことが終わっているのかもしれない、自分が気づかない間抜けとは思わないが上には上がいる。

基地の警備は出し抜かれたか、もしくはグルだったのだろう。奏太は仮眠をとっていた椅子に座ったまま、静かに腰のホルスターに手をかける。

司令部には寝袋を持ち込んだり同じように椅子にもたれて眠るM2HBとM3グリースガンが寝息を立てていたが、起こせば敵に気付かれるだろう。

愉快な目覚ましになるが仕方ない、奏太は寝返りをするふりをして窓の外に体を向けた。窓の外はまだ弱い雨が降っている、その中を何かが歩いている音がする。

ゆっくりと、気配を押し殺しながら、狙いを定めた獣の足取りだ。単独の動きではない、迷いがなく意識も集中しているようだ。下手に騒げば周りにいるかもしれない仲間に気付かれる。

ゆっくりとホルスターからM29マグナムリボルバーを抜き、次いでサプレッサーをポーチから取り出して静かに銃口にねじ込み固定する。

モスクワメトロの技術で改良されたこのリボルバーはナガンM1895リボルバーの機構をアップグレードして取り入れており、サプレッサーを使って音を抑えられる。

厄介なことになった、そう思いながら窓の外から覗いてきたピンク色の肌をした化け物の顔に向けて素早く銃口を向けた。

 

「おはよう、クソ野郎」

 

M29マグナムリボルバーはいつも通り.44口径マグナム弾を撃ち出して、空気の抜けるようなガスッという銃声と同時に化け物の額に大穴を開けて後頭部を弾き飛ばした。

化け物は撃ち抜かれた衝撃でよろけながら崩れ落ち、不快な悲鳴をわずかに上げる。奏太はM29マグナムリボルバーを構えながら窓を即座に開いて、地面に倒れて悶える裸の鶏と人間を混ぜ合わせたような醜い化け物に銃口を向けた。

ストレンジャー、ネオミトコンドリアに感染した人間が変異しやすい形態の一つだ。

その中でもレッサーと呼ばれるタイプだろう、身も元まで割けた口、元人間だとわかる異形な姿は見ていて気持ちのいい姿ではない。

 

「何!?何事」

 

「静かに。敵襲だ、全員たたき起こせ。もう基地の中に入ってきてる、見つけたら撃ち殺せ!!」

 

「奇襲?警備は何してたんですか!?」

 

悶えるストレンジャーに追い打ちをかけて止めを刺すと、銃声で飛び起きたM3と目が合った。

室内に響いた銃声で椅子から飛び起きたM3は、壁際の銃器置き場に置いていたM3短機関銃を手に取って初弾を装填しながら愚痴る。

 

「欺かれたかもな、ここの連中に向こうの警備みたいな目利きはいない。装備をくれ」

 

M3から愛用のガリルAR突撃銃とCIRASボディアーマーが投げ渡される、予備弾薬や装備を入れたままのポーチやポケットを確かめながら即座に着こむ。

そのころには基地内のそこかしこで銃声と爆発音、そして悲鳴が聞こえ始めていた。襲撃は基地全体に向けて行われているようだ。

サプレッサーをつけて敵の注意をひかないようにしたのは無意味だったらしい、どこに潜んでいたのか基地中から悲鳴や銃声がどんどんと響き渡っている。

 

「まさか向こうからくるなんてね、随分とアグレッシブじゃないの」

 

「向こうから顔を出してくれるなら好都合だ、探す手間が省ける」

 

「逆に追い詰めるチャンスってわけね、上等!」

 

「準備しろ、援護してくれ」

 

M2はふんすと鼻を鳴らし、銃器置き場に置いていた鋼鉄製の武器トランクを開いて中からアブザッツ重機関散弾銃を引っ張り出した。

手慣れた手つきの彼女はアブザッツ重機関散弾銃に40連発ベルトリンクを収めた大型箱型マガジンを取り付け、弾帯を装填してコッキングする。

それからM3と互いに頷きあってから、M2は窓に、M3は廊下側のドアに陣取って武器を構えた。

 

(俺をピンポイントで狙ってきた、その上で全体を襲撃か。ほかの隊長クラスも同じようにやられたとしたら…随分と手回しがいいじゃないか)

 

奏太は指揮所の無線機に電源を入れ直し、チャンネルをセットして部隊の周波数に合わせた。

それと並行しつつ偵察用ドローンの小型コンテナを開いてセットアップを開始する。

 

「奏太から各位、現在地と状況を知らせろ。ヘリポート、報告を」

 

≪こちらミルヤ、やられました。メイド隊に負傷者は無しですがヘリをすべて失いました、申し訳ありません≫

 

ミルヤ達事務方メイド隊が担当していたのはU01基地の飛行場に駐機されているU05基地のCH-47Eの警備と整備だ。

駐機していたのは物資と増援を運んできたCH-47Eが2機、そのどちらも失ったようだ。

 

「やられたか、U01のもか?」

 

≪はい、見たこともない化け物にすべて齧られました。退治しようにも数が数で…今もむしゃむしゃやられてます。

向こうの整備員にも多数被害が出てしまい、今は生存者を集めて4番ハンガーに立てこもっています。

幸いそれ以外に大きな損害はありません。欠員無し、武器装備もです。内部の安全は確保したのでしばらくは立てこもれます。

4番ハンガー内のヘリもコックピットをやられましたがそれ以外は無事なので修理可能かと≫

 

「機種は?」

 

≪ブラックホークが一機≫

 

「了解、修理しろ。しばらく持ちこたえてくれ。無理ならばすぐにこちらに逃げてこい。監視所、報告を」

 

≪こちらSuperSASS、現在基地上層部の監視所にて狙撃支援を実施中。損害なし、U01も同様ですが混乱あり。

正面の警備隊に損害多数、現在正面ゲートにて籠城中の警備隊を援護してます。

見た限り街の大部分が停電、爆発音が多数聞こえました。おそらく電気系統がやられたものかと。基地外周も大混乱、そこら中からNMCが這い出てきてますよ。

正門ゲートの閉鎖が間に合いましたが長く持ちそうにありません。何人か回してくれると助かります、正面ゲートにいるのは人間の警備員と軽装備の人形だけで負傷者も多い。時期に突破されて外にあふれ出るでしょう。

基地内でも複数の爆発音と衝撃を感じましたが詳細は不明、内部まで敵は浸透しているようでこちらから中を探るのは危険と判断しました。

館内からの攻撃は退けてますが攻勢が続くようでは長くはもたないでしょう、救援あるいは撤退許可を≫

 

「了解、救援を回す。それまで援護して持たせてくれ。駐車場、報告を」

 

≪こちらFNC、人員及び車両に損害なし。でもU01のほうは派手にやられてる、外に馬みたいなのがバタバタしてて応戦に手間取ってる。

こっちにも何体か来たから殺したけど…こいつらすっごくキモいよ、指揮官の言ってた人面馬ってこいつらの事?≫

 

基地の駐車場で車の番をしていたのはFNC、ステンとIDWが一緒にいるはずだ。

 

「チェイサーか。その通り、くそったれの人面馬どもだ、向こうで新車をぶっ壊された恨みは忘れてねぇ。群れは統率されているように見えるか?」

 

≪見えない、群れてはいるけど好き勝手に駆け回ってる感じ。確認できたのは12体、シルバーバックのボスはいないっぽい≫

 

「即席の群れだな、ならお前たちでも十分だ。奴らは近接しか能がない、頭から突っ込んできたら避けるかカウンターを叩き込んでやれ」

 

≪もうやってる!ステン、IDW、いくよ!!これから生き残りと一緒に指揮所に行くから!!≫

 

「頼む。武器弾薬保管庫、そっちは?」

 

≪こちらスコーピオン、芋虫のでっかいヤツに群がられちゃってたけど何とか無事。武器弾薬の方も大丈夫、いくつか齧られちゃってる箱はあるけど中身は確認した。

こいつら一体何なの?死んだら一気に溶けたんだけど…うわ、なんかまたきたよ!!≫

 

無線の向こうで銃声が響き、耳障りな鳴き声と何かがはじけて散らばる音が混じる。

 

「虫型?気をつけろ、そいつらがいるってことは二次被害が起きてるかもしれん。感染するかもしれないぞ」

 

≪まじで!?了解、気を付ける。武器弾薬は移動させる、予定通りでいい?≫

 

「頼む、防衛線を構築しなおす。仮眠室、そっちは?」

 

≪こちらMG34、損害なし。敵影見られず、現在部隊を再編し周辺の安全確保済み。いつでも出撃できます≫

 

だろうな、出なければこんなに静かなはずがない。敵は完全にこの場所を把握している。ピンポイントで臨時指揮所を狙い、彼女たちに指示を与える前に仕留めるつもりだったのだろう。

人間の指示を受けない人形部隊は練度にもよるが脅威度は低くなる、まずは頭を処理してからいただこうという作戦だろう。

 

「了解、プランAで防衛線を構築。武器弾薬をスコーピオンたちから受け取って万全にしてから基地内外周掃討の準備に移れ。

34、救出部隊を編成できるか?駐機場でミルヤ達が孤立してる、負傷者が多く移動できない」

 

≪可能です。FNC達が戻ってきたら車両の使用許可を願います≫

 

「頼む、油断するなよ。次は…SPARか」

 

夜に臨時指揮所を離れていた部隊の記録を探り、最後に記載されていた部隊とメンバーと無線を確認してから交信を試みる。

 

「SPAR小隊、M16A1、現在地と戦況を報告せよ」

 

≪こちらM16、SPAR小隊に損害なし。現在地は屋内射撃訓練場、U01対テロ部隊とともに応戦中!≫

 

「了解M16、敵の種類と数は?」

 

≪敵は紫のデブ、ハンプティダンプティだ!肉が分厚い糞野郎がうじゃうじゃいるぜ、いつからここはスモウレスリングの会場になったんだ?≫

 

奏太の脳裏に紫色の肌をした胴長で超短足な肥満体人型NMCがみっちり廊下に列をなしているのが脳裏に過った。

見た目のインパクトもさることながら接近戦でハンプティダンプティとの戦闘はやや不利だ。

このNMCは見た目通りの分厚い脂肪とその裏の強靭な筋肉、伸縮性のある両腕を武器にした重装甲型パワーファイターだ。

動きは鈍いがその分パワーと耐久性に秀でており、防弾チョッキを着ていてもその上から人間や人形の体を押しつぶしぐちゃぐちゃにしてしまう。

肉体のほとんどを脂肪と筋肉で覆っているため、弱点の頭以外では小口径の拳銃弾くらいは脂肪と筋肉に阻まれてしまう上に武器とする両腕は遅い脚とは裏腹に機敏に動く上に伸縮性がありリーチが長い。

室内戦が得意なHG型戦術人形やSMG型戦術人形では対処法がわかっていないと逆に殺されかねない相手だろう。

 

「了解、援護と補給はいるか?」

 

≪大丈夫だ、武器弾薬はたっぷりあるしみんなもいる。ショーティたちにはスラッグをたっぷり持たせてあるよ、ちょいとビビってるが何とかなる≫

 

無線機の向こうでスーパーショーティたちから不満そうな声が上がり、それをM4A1とAR-15が窘める。

 

「よし、基地内部の敵を掃討しつつSASS達の救援へ迎え。監視所で缶詰になってる、急ぎで頼む」

 

≪了解!≫

 

通信で基地内に散らばっていた仲間たちから情報を聞きながら奏太は奇妙に感じた、攻撃があまりにも広範囲に行われすぎている。

自分たちの基地の本棟内部だけではなく、飛行場、駐車場、正面ゲートに至るまでそこかしこで戦闘が始まっている状態だ。

たとえ奇襲に成功したとしても、こうもいきなり全体に攻撃を行うなんてことはできないはずだ。

監視の目を掻い潜り基地内部に部隊を配置できる知恵者がいるとしても、生半可な数ではこの配置の仕方はただの戦力の分散にしかならない。

なのにまるで、それこそ降ってわいたかのようにNMC達は基地内部に現れて暴れまわっているのだ。

 

(攻撃にしちゃお粗末だ、ここまで深く入り込めるならもっとうまくやれるはず。なのにこの大騒ぎ、どういうつもりだ?)

 

何か引っかかる、知恵のある化け物との戦いは何度も経験してきたがこの攻撃は矛盾を感じてならない。

本気でここを制圧するつもりの奇襲攻撃のつもりなのだろうか、外の騒ぎはそれを街に悟らせないための陽動か。

それとも基地内部で騒乱を起こしてくぎ付けにしておいて本命は街の方だろうか、だがそれならこの状態で外を知れる状況を作るはずがない。

SuperSASS達が展開している監視所は真っ先に攻撃されていてもいいはずだ、自分よりもずっと重要な目標になる。

そもそも、ここまで簡単に混乱するか?奇襲されるか?嫌な予感がする。

 

「こちらU05前線指揮官、笹木だ。トンプソン、聞こえるか?」

 

≪こちらU01司令部、なんだ?≫

 

「現状報告をと思ってな、現在こちらは基地内に侵入したNMC排除のために作戦行動に移る。その間、途中回収した装備と合流した彼女たちの力を借りてもいいか?こちらも戦力が足りない」

 

≪それで早く鎮圧できるなら構わない、使ってくれ。基地内はひどい混乱状態だ、どこもかしくも化け物がうようよしてる、どこから入ったのかも突き止めてほしい。

私は指揮官から新しい指令を受けた、そのためには基地を安全にしなきゃならないんだ。今わかってるだけの部隊と人形たちの位置を送る、助けてやってくれ≫

 

よし、言質は取った。これで確保したヘリを使う言い訳ができる、あとで怒られるかもしれないが存分に乗り回させるとしよう。

奏太は相変わらず仕事はしてくれる上に満足しながら思考をやめない。他にも回収した兵器を自由に使えるというお墨付きも得た、これで仲間たちは存分に暴れられる。

手持ちの武器だけで相手をするのは可能だが、やはりやりたいようにできなければこの部隊の実力は出せないのだ。

 

「了解、化け物相手は任せろ。こちらもわかったことがあれば連絡する、暴れるから巻き込まれんでくれよ?」

 

≪司令部を吹き飛ばさなければいいんだよ、通信終了≫

 

所詮は寄せ集めの行き当たりばったりの部隊だ、それらしく規律なんてあったモノじゃない戦い方をさせてもらおう

 

「これでよし、M2、M3、仕事だ。救出部隊に同行してミルヤのところに行け、ブラックホークで火力支援と偵察だ」

 

「それはいいけど、指揮官は?」

 

「34達と合流して直接指揮を執る、少し調べたいこともできたしな」

 

「いつも通りに前線ね、それはいいけど誰か一人くらいそばに付けときなさいよ?彼女たち居ないんだし、何なら一緒に空から探らない?」

 

「問題ない、無理はしないよ。今わかる限りの相手なら慣れりゃここの連中にだって狩れる」

 

「指揮官が怪我でもしたら私たちが殺されちゃうんですよ、できればここで指揮取っててくれると助かるんですが?」

 

「そういうのは性に合わないの知ってるだろ、M3?」

 

「ですよねー…市代さんたちが怒りますよ?」

 

それは困るな、もし彼女たちが帰って来た時に病院のベッドにでもいようもの彼女たちはとても怒るし大泣きしてしまう。

家族を悲しませるのはどうしようもないとき以外は避けたい、彼女たちを苦しませてしまって自分も悲しくなる。

それでもやらないわけにはいかないのが自分の仕事だ、付きものなのだから諦めるしかないだろう。

 

「その時は謝るよ。気合い入れていけ、今は稼ぎ時だぞ?」

 

なにしろNMCのサンプルはどこも高く買い取ってもらえる、そういうとM2HBとM3は呆れた顔で互いを見つめあっていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

基地の指揮を預かる副官のトンプソンは中央司令部で襲撃を受けて戦闘が勃発する基地とマンハッタンシティの姿を見上げながら歯噛みしていた。

 

≪こちらパトロール3号車!E.L.I.Dです、化け物が町中に!!応援を!≫

 

≪こいつらどこから入ってたの!?避難誘導を急いで!ART!!火力支援!!≫

 

≪こちらパトロール7、M9、だれか応答してほしいの!クライスラスビルで暴動が起きてるなの!!至急応援を送ってほしいの!!≫

 

≪バイキングより本部!第5ゲートで爆発、負傷者多数、救援要請!!≫

 

≪こちらゲート4!こちらも負傷者多数、ゲートが爆破された!通行不能!!≫

 

街は大混乱に陥っていた、街の電気系統への爆弾テロによる停電と街の内外を行き来するゲートに対する爆弾テロ、繁華街など数か所で立て続けに起きたミュータントの襲撃で人々は一気に混乱と混沌の渦に投げ込まれていた。

街の治安を守るパトロールは市民たちの渦の中で孤立し本来の連携を生かせず、人の波に紛れて襲撃してくる化け物たちへの応戦に苦慮している。

今日は街の避難用シェルターの完成セレモニーの準備が行なわれており、マクラファティ指揮官は基地を留守にしていたのも大きな痛手だった。

基地自体も攻撃の対象になっており、すでに化け物が基地内に侵入しているという報告も上がっている。基地内で待機していたU05部隊が侵入した化け物を狩り出し、基地の防衛を援護しているがまだ立ち直っていない。

基地内では部隊が散り散りになり、逃げ惑う非戦闘員の職員たちを守ろうと個々で反撃してじりじりと被害を増やしていた。

 

≪本部!こちら第2小隊AR70!第1宿舎にて応戦中!何なのこいつら!!こんなの見たことない!!≫

 

「防衛を続けろ、宿舎を盾に仕え」

 

≪こちら第6小隊MP5、厨房似て応戦中!!負傷者多数、移動できません!!増援を≫

 

「部隊を再編中だ、もうしばらく持たせてくれ!」

 

≪第5小隊WA2000、第1弾薬庫に敵発見!!速い!?ぐぇ――――≫

 

「WA2000の信号が消えた、オペレーター!すぐに回復させろ!!あいつがこんな簡単にやられるわけがない!」

 

≪こちら第2予備通信室!誰か助けてくれ!!化け物が外にいる、もう隠れていられない!!早く、早く!!≫

 

「落ち着け、もう少し待ってくれ、いま、今すぐに」

 

≪第2宿舎!第2宿舎から奴らが出てきてる!抑えられない!!≫

 

外の中も大混乱だ、これでは収拾がつかない。トンプソンは自分の能力の限界を感じ、電脳がオーバーヒートしかけているのを感じて思わずかぶりを振った。

夜間ということもあり人数が少なかった中央司令部はトンプソンを含めても6人のみ、当直のオペレーター3名と何とかたどり着けた幸運な二人の情報分析官しかおらず膨大な情報を処理しきれていなかった。

 

≪こちらMP40!セントラルパーク内にミュータントが出現!混乱がひどく現有戦力では収拾がつきません、至急応援を!!≫

 

「こちらトンプソン!民間人を誘導して避難させろ!応援は出せない!繰り返す、こちらも襲撃されてる!!」

 

≪応援を!このままじゃみんな――――アァァァ!!!?痛い痛い痛い!!!放して!イヤァァァ!!≫

 

「MP40?MP40!応答しろ!!」

 

「ダメです、信号をロスト」

 

「パトロール4、5との交信途絶!7、9号車はミュータントと交戦中!」

 

「マンハッタン総合病院から火災!し、死傷者多数!!」

 

「そ、ソーホーで新たなミュータントが出現!住宅街で暴れまわってます!!」

 

混乱は悪化の一途をたどっている、監視カメラや街中に放った偵察ドローンから送られてくる映像はどこも惨劇とパニックに染まり、襲撃地点などは火と血で真っ赤に染めあがっていた。

仲間たちの困惑した声、職員たちの悲鳴、断末魔、すべて頭の中で反響して思考を鈍らせる。どうすればいい、どういえばいい?指揮官たちはいつもどうしていた。

MP5達を助けるには?パトロール隊への指示は?WA2000は今どこに、予備通信室への救援の編成は?やらなければいけないことは分かっている、でもどうすればいいのかわからない。

 

(どうすればいい、どうすればいい、どうすれば――――)

 

≪こちらマクラファティ、トンプソン、状況を報告しろ。いったいどうなっている?≫

 

聞きなれた、今まさに必要としていた彼の声に混乱していた電脳が一気に冷めていくのを感じた。

モニターに映るUO1基地指揮官、ロバート・マクラファティのツルリと光る禿げ頭がこんなに頼もしいと思うことはない。

トンプソンは通信越しの慣れ親しんだ上司からの問いに、一瞬考えて情報を整理してから答えた。

 

「攻撃だ。変電所と送電設備がやられて街中が停電して、そこらじゅうから化け物どもがうようよ出てきて暴れまわってる、うちも今攻撃されてて防衛に手いっぱいだ。

すでにミュータントたちは基地内部に侵入、そこらじゅうで暴れまわっててどこから手を付けていいかわからない」

 

≪こちらも同じだ。化け物どものせいで近隣の住民が集まってシェルターがあふれかえりそうになってる。

シェルターのほうは私が指揮する、幸いセレモニー用の食料や物資はそのままだ。しばらくは籠城できるだろう、お前はシェルターがない地域を優先して事態の収拾にあたれ。

まずは基地の安全を確保し避難場所を確保、そののちに部隊を編成して救助及び鎮圧活動を行え。ほかは私が行う、できるな?≫

 

「了解」

 

≪よし、すぐに取り掛かれ。外部に出ていたパトロール隊の指揮は俺が受け持つぞ。避難経路を構築して市民たちを誘導する≫

 

「足りるのか?メンバーは…パトロールの連中は指揮官の馴染みばかりか、運がいい」

 

今日の夜間パトロールを担当する人形たちはマクラファティがまだ新人の時代から一緒に戦ってきたベテランが多く出ていた。

彼女たちはこの街の事を良く知るベテランたちであり、街の人々にも愛され信頼されている。まさにうってつけといえるだろう。

 

「了解、任せるぜ。基地は何とかする、通信終わり」

 

≪待ってくれ、トンプソン≫

 

無線を切る直前、マクラファティがその手を止める。まだ言い忘れたことがあったのだろうか?トンプソンは内容を反芻していると、なぜかマクラファティは少し迷っていた。

何か言いたいが、どういえばいいのかわからない、そんな表情だ。何を迷っているのかわからないが、トンプソンは大人しく待つ。

 

≪トンプソン、基地のみんなを頼んだぞ。基地がだめなら放棄も許可する≫

 

「おいおいらしくないな、この程度鉄血との戦いでも何度かあっただろ。切り抜けられるさ、この基地であんたの帰りを待ってるよ」

 

≪鉄血とならな。こいつらは違う、最悪の場合を想定してるだけだ≫

 

「…指揮官、それ以上はやめてくれ。」

 

≪覚悟はしておくべきだ、いざとなったら頼む、以上だ≫

 

「おい馬鹿なこと言うなよ。あんたはここに戻ってくるんだ、街だって元通りになる、そうだろう?」

 

≪…すまない、通信終わり≫

 

マクラファティの方から一方的に通信が切られる、トンプソンは通信終了で暗転したモニターから目を背けると俯いてこぶしを握り締めた。

 

「馬鹿野郎、人間が先に死ぬなんてこと言うんじゃねぇよ…」

 

「トンプソン、あの人も覚悟してるんだ。アレと戦う恐ろしさは彼だって知ってる。この街だって…わかってるだろ?」

 

それを見たオペレーターは少し迷いながら、彼女に向けていった。

 

「戦って死ねるならいいほうだ、下手したら―――」

 

「あいつもその仲間入りだ、わかってる、わかってんだよ、でも…殺せってのかよ、指揮官を」

 

たとえ変異して化け物になってしまっていてもトンプソンには彼を殺すなんてできるとは思えなかった、

理屈ではわかっている、化け物になった彼が無関係の人間を手に掛ける前に終わらせてやることは正しいことだ。

命令とあらばやるしかないのだろう、でもそれに自分が耐えきれるとは思えない。マクラファティは上司で、トンプソン自身も親愛と信頼を置いていた男なのだ。

 

「もしもの時は、だ。やるしかない。みんな怖いんだ、お前と一緒で怖いんだよ。忘れてたんだ…ゲホッゲホッ、悪い、咽た」

 

「こんなの訓練じゃなかった…」

 

「さっきは強がっただろ、それでいい。それしかできねぇんだ、だからせめて笑ってやれ、あとは任せろってよ」

 

オペレーターが再びせき込みながら笑う、彼もまたE.L.I.Dとの戦いを一度は経験したことがあるはずだ。

その彼のアドバイスは参考になる、トンプソンは沈みかけていた気持ちを叱咤して無理やりいつも通りの笑みを浮かべて頷いた。

 

≪こちらU05前線指揮官の笹木だ、トンプソン、聞こえるか?≫

 

「こちらU01司令部、なんだ?」

 

目の前の現実は待ってはくれない、マクラファティの通信が切れてから少しの間をおいてつながったのはこの基地に増援で展開していたU05基地の雇われ前線指揮官からだった。

 

≪現状報告をと思ってな、こちらは損害なしだ。これから部隊を再編して基地内に侵入したNMC排除のために作戦行動に移る。

その間、途中回収した装備と合流した彼女たちの力を借りてもいいか?こちらも戦力が足りない≫

 

「それで早く鎮圧できるなら構わない、使ってくれ。基地内はひどい混乱状態だ、どこもかしくも化け物がうようよしてる、どこから入ったのかも突き止めてほしい。

私は指揮官から新しい指令を受けた、そのためには基地を安全にしなきゃならないんだ。今わかってるだけの部隊と人形たちの位置を送る、助けてやってくれ」

 

≪了解、化け物相手は任せろ。こちらもわかったことがあれば連絡する、暴れるから巻き込まれんでくれよ?≫

 

「司令部を吹き飛ばさなきゃいいんだよ、通信終了」

 

笹木奏太からの通信が切れる、彼の動きと察しの良さにトンプソンは内心感心した。マクラファティがぼやくのを聞いていたが、実力は確かにある。

 

「通信を開け、全体にだ。U05部隊と合流することがあれば彼らの指揮下に入ることを許可すると通達しろ。

それから近くにいる部隊を戻せるだけ戻せ、こっちも攻めるぞ。化け物どもに好き勝手させるもんか」

 

「了解、でも大丈夫ですかね?」

 

基地内の通信を担当していた男性オペレーターのやや懐疑的な質問が飛ぶ。何も知らないオペレーターたちからすれば、U05の前線指揮官はよくわからない新設基地のよそ者だ。

今話している彼はまだこの基地では新人で、彼の事を良く知らないというのも大きいだろう。

加えてこの基地内ではあまりいい噂を聞かない雇われの部隊が前線をまとめており、その噂も妙に誇張された戦果やらよくない噂ばかりだ。

信用ならないといえば確かにそうだろうが、彼らの能力は確かなものだと何度も共闘したことのある部隊から話を聞いていたトンプソンは知っていた。

 

「彼らはプロだ、あたしらががむしゃらにやるよりかは効率がいいだろうよ」

 

 

 





あとがき
はい、というわけでマンハッタンシティでの戦いその2の始まりです。モチーフは原作でもあったとある襲撃イベント。
のんびり更新となりますが地道にやっていく所存です。

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