結末をどうするか考えてたら遅くなりました。
まぁやりたいようにやるで落ち着いたので、これからも派手に壊れて死んでいきます。
U01基地への奇襲は成功、基地内は市街地よりもひどく混乱し大きな打撃を受けていて壊滅するのも時間の問題に見えた。
基地の正面ゲートは防衛を続けているが、基地内からあふれ出てくるNMC達の攻勢で要員の心を着実に削られているだろう。
内側からの攻勢には負けるが、外側からもちょろちょろとNMCが流れてくるのにも対応しなければならず、防衛ラインとなっている警備所付近の防衛陣地は混乱の真っただ中だ。
正面ゲートを封鎖する土嚢と車両で作られた防衛ライン内は空薬莢と空弾倉であふれかえり、警備所などに常備されていた弾薬はほぼ使い果たしたのか銃撃はまばらになり始めている。
正面玄関を援護していた狙撃もすでに途絶えており、本部棟上層の監視所の奥で銃火がきらめいているが援護ではない。
上層階にもNMCが到達し、地上を援護していた人形たちに襲い掛かっているのだろう。
正面ゲートを守る部隊の人数もすでにわずか4人しか残っていない、ダミー人形が残っている人形がいるがそれを含めても7人だ。
彼女たちは必死の形相で武器に使える物やあまった弾薬をかき集め、再分配して戦おうともがいている。その様子を遠くのビルから眺めていたナインは声を押し殺しながら顔がにやけるのを抑えきれなかった。
懐かしさがその光景にはあった、あの光景に中に自分たちはいたのだ。戦友たちと一緒にあそこにいたのだ。化け物と戦い、人間と戦い、戦い、戦い続け、この身のすべてを捧げてきた。
胸の奥に溜まっていた何かが消えるような心地のよさがあった、自分を裏切った連中がこうして自分たちを同じ境遇に立っているのが哀れでとても面白かった。
だから、自分に残された復讐の楽しみを邪魔する邪魔者の気配にはより敏感になっていた。背後に感じたわずかな気配に、ナインは即座にホルスターに差していたガンソードを引き抜いて切っ先を音のした方向に向けた。
「随分と派手にやっているな、ナイン」
「てめえか」
ガンソードの白刃と銃口を突き付けられた状態で微動だにしない少女にナインは皮肉げに笑いながら切っ先を下げる。
この片目に何か制御装置めいたものを付けた黒い人形はスポンサーからのお目付け役のようなものだ。
取り巻きの白いロボットめいた人形たちを従えていないところを見るとただの様子見だろう。
「何の用だ、お前の言う通りの仕事はしているはずだぞ。今いいところなんだ、邪魔しないでくれ」
「これがか?派手すぎる、計画に支障をきたしかねないとお父様は心配している」
「はっはっは!これしきで派手、ねぇ?さすが核戦争経験者はいいことを言う」
たかだか街一つを混乱に陥れただけだ、これからもっとひどいことをする予定だがこれで派手とは恐れ入る。
核戦争で世界を焼き尽くさんとした人間の作った人形とは思えないその言葉にナインは笑いを抑えきれなかった。
かつての外道な人類でさえ一種の自制を持っていた、狂っていたにしてもより良い世界を目指して研究をしていた。
「お前もそうだろう、お前を救ったお父様を敬う気はないのか?」
「俺の大部分はナインだぜ、ネイト。お前さんらがそうしたんだ?まぁやることできりゃどうでもいいがな、尊敬はしねぇ。
シャンバラの連中も似たり寄ったりだったがよ、お前たちよかマシだった気がするぜ」
「古臭いフランケンシュタインが吠えるな」
「お、やるか?どうせ生き死にはミトコンドリアの思うがままだ」
黒い人形、ネイトが銃口を向けると同時にナインも切っ先を向ける。ここでもう一度殺しあうのも一興だ。
それにネオミトコンドリアはコーラップス感染症とは経緯と仕組みがまるで違う、殺しあうついでに感染させてみてもいい。
このネイトも例外なく感染し、ネオミトコンドリアに取り込まれれば化け物に変わる。それを知らない彼女ではない、ネイトはナインの長髪に小さく舌打ちして銃を下ろした。
「いい顔してんじゃねぇか、ほかの奴より好みだぜ?」
「減らず口を…これからどうするつもりだ?ここまで派手にやれば正規軍が出てくる、不要なリスクは負えない」
もし明確な理由がなければ、それが納得できるものでなければ、この関係はおしまいだ。ネイトの声色は言外に告げていた。
彼女たちも正規軍と真正面からやりあう気は全くないのだ、それはそれで面白いともナインは考えたが。
「落ち着けよ、それが狙いだ」
「貴様まさか」
「売らねぇよ。俺たちの仕事はお前たちの研究がしやすくすることとサンプルの供給、だろう?」
「そうだ、ネオミトコンドリアの研究は我々の研究の発展につながる。しかしリスクも大きい、副産物として発生するNMCとANMCの処理が面倒だ。
今までは鉄血の騒乱がいい隠れ蓑になってきたが永遠には続かない。それを解決するためのテロと聞いていた、正規軍をおびき出す?グリフィンとは比べ物にならない」
「わかってんじゃねぇか。ならこの状況を見てどうよ?」
「…不要に混乱を煽り、国を挑発しているようにしか見えないな。舐めているのなら改めるんだな、奴らは腐っていても国だぞ」
ますます訳が分からない、と無表情のまま首を傾げ困惑した雰囲気を醸し出すネイト。そんなにわかり辛いだろうか、ただ相手が自己満足してくれるのを待つだけの作戦なのだが。
「お前の知るアメリカに比べるな、今の人類のタガは外れている」
「んなこたわかってんよ。まぁ見てろ、こいつはお嬢が仕上げた演目だ。フィナーレを迎えられれば、みんな満足できるはずだぜ」
「…なら見せてみろ、もし失敗すれば、お前たちとはこれきりだ」
ネイトはそういうと背を向ける、ナインも彼女から目を放し激戦が繰り広げられるU01基地をもう一度見下ろした。
必死の形相で人形たちが応戦する防衛陣地の一角に、ついにオド・ストレンジャーが足を掛ける。
それに気づいた金髪の人形が、大型自動拳銃を抜いてそれを払い落とそうと遮蔽物の車から身を乗り出して銃を至近距離から突き付けた。
引き金を引けば確実に殺せる一瞬、その少女の指は引きつって動かない。動かせなかったのだろう、彼女が銃を突きつけたオド・ストレンジャーの顔は『彼女自身』の面影が残っていたから。
(そうだよな、撃てねぇよな、人形でもビビるよな?)
引き金を引き損ねた少女の自動拳銃を突き付けた腕に、すぐ横から飛び込んできたオド・ストレンジャーが食らいつく。
彼女は噛み付いたオド・ストレンジャーの頭をグリップで殴りつけて引き剥がそうとするがもう遅い、自分と同じ顔をしたオド。ストレンジャーが彼女の手首に噛み付いて、彼女を防衛ラインの外に引っ張り出した。
仲間の人形が外側に引っ張り出される彼女の足を掴もうと手を伸ばすが届かない、外に引っ張り出された彼女は自分の顔をしたオド、ストレンジャーに首を噛まれて押さえつけられたまま、周囲のストレンジャーに体をめちゃくちゃに引き裂かれて絶命した。
防衛していた人形を失い、開いた穴にストレンジャーとハンプティダンプティが文字通り隙間に体をねじ込むようにして突破する。
防衛陣地内に侵入されたことに二人の人形が気づいて反撃に移るが、手に握る小口径の自動拳銃ではハンプティダンプダンプティには相性が悪かった。
先制して銃撃を加えるが胴体狙いの銃撃ではハンプティダンプティはビクともせず、肥満体の体で銃弾を受け止めて反撃する。振りかぶった肥大化した腕がまるでゴムのように伸び、ピンク髪の人形の頭の上から捕らえて地面に押しつぶした。
呆気なく押しつぶされ、肉と部品の塊を化した同僚が信じられなかったのか動きが止まったもう一人をハンプティダンプティは掬い上げるように胸を殴りつけて吹っ飛ばした。
殴られた人形は派手に吹き飛ばされ監視所のすぐ横にたたきつけられてピクリとも動かない、胸部を文字通り潰されて両腕が自然と吹き飛ぶほどに損壊したら人形でも即死だ。
不運にもダミーを残していたのがこの二人だった、最後の一人になった角の付いた帽子の人形はM870散弾銃を即座に構えて反撃する。
何度も放たれる12ゲージ散弾がハンプティダンプティとストレンジャーの体を至近距離からえぐり、致命傷を負わせるがその開いた穴は後続が即座に埋めてしまう。
何度も引き金を引き、何度も再装填してNMCの歩みを押しとどめようとするがM870散弾銃はやがて銃身を赤熱させたまま沈黙した。
人形は即座に再装填しようとして、クイックローダーを差していた腰に手をやり何もないことに気付く。
弾切れに気付いた彼女は防衛陣地の隅に追い詰められながらM870散弾銃をから盾に持ち替えてそれを振り回して抵抗するが、ハンプティダンプティは頭で受け止めながらのそのそと追い詰める。
やがて殴り殺されたハンプティダンプティが倒れるころには、周囲を完全にストレンジャーとハンプティダンプティが回り込んでいて逃げ場はなかった。
恐怖に表情をゆがめて盾を振り回す少女の姿は後続のハンプティダンプティの背に嵌れて見えなくなる、もう少し見ておきたいところだがそろそろ時間切れだ。
次の仕込みに取り掛かろう、ナインは基地から視線を外すと遠くから聞こえてくるエンジン音から逃げるように姿をくらますことにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
正面ゲートの上空をUH-60ブラックホークがフライパスし、開けたままの左後部ハッチの銃座に取り付けたM2HB重機関銃の銃口が眼下に向けられ12.7×99ミリライフル弾が正面ゲートににじり寄るNMC達を瞬く間に粉砕していく。
ステンは.50口径ライフル弾の弾幕になすすべなく細切れにされていくストレンジャーやハンプティダンプティの群れの中で、死に底なった個体に止めを刺して安全を確保してから周囲を見回した。
≪敵影無し、支援完了。ステン、下は…最悪ね≫
「うん」
遅かった、ステンはその言葉を呑み込む。正面ゲートを封鎖していた防衛陣地は壊滅していた。
M2HBの援護射撃を受けながら強行突破することで急いだつもりだったが、正面ゲートにたどり着くのは遅すぎた。
グリズリーマグナムは防衛線から引っ張り出されたのか土嚢の外で全身を食い千切られ、K5は胴体がめちゃくちゃになり両腕がちぎれ飛んでいた。
両腕と下半身をむしり取られて上半身だけしか見つからないグリズリーマグナムなど見ているだけでメンタルに負荷がかかる。
グリフィン部隊も最後まで抵抗したのだろう、M2HBやステン達が殺したよりも多い死体が防衛陣地の周辺で横たわり融解を始めている。
そのせいか、正面ゲートとその周辺の地面は粘り気のある粘液で少し足元が悪くなり異臭がした。
「なんて力…盾ごと殴り潰してる」
グリズリーの死体のように形が残っていてるならいいほうだ、もっとひどい死体もある。
血みどろになっているボロボロのM870散弾銃の脇でぐちゃぐちゃに叩きのめされた死体はボロボロの盾と地面の間に挟まっていた。
文字通り、叩きのめされて辛うじて人の形を保っているだけ、化け物と戦うようになってから幾度となく見てきた死体の形だが何度見ても慣れない。
鉄血との戦いでも凄惨な現場は幾度となく見てきたが、化け物との戦いはやはり全く違うものだ。
ブレンテンの銃身が突き出した焼かれていないハンバーグのようになった肉塊など、銃の種類がわからなければ人形の目でさえも判別できなかった。
「ハンプティダンプティはイージスみたいなもんだ、装備の上から押しつぶしてくるから彼女とは相性が悪い」
鉄血工造のイージスも重装甲で押し切り距離を詰めてくるタイプだ、U01部隊ならば都市警備専門の部隊でも負ける要素は少ない。
それはステンもわかっている、同時に一度目は必ず負けるだろうとは考えていた。ハンプティダンプティにはイージスにはない生々しさがある、このギャップは対人戦や対鉄血戦にはないものだ。
ここまで何体ものNMCを屠ってきたが、鉄血の戦術人形と殺しあってきた時とは明らかに別の生々しさがあった。
何度もU05地区や人類生存可能圏外で化け物相手に殺しあってきたから自分は耐えられたが、まったくの初見の彼女たちではU01基地指揮官のバックアップが満足にないこの状態では致命的だっただろう。
現状、指揮権を握っているトンプソンからの指示も現状新しいものはない。どうしていいのかわからない彼女たちは持ち場を守って、死ぬまで徹底抗戦するしかなかったのだ。
「指揮官、生存者ゼロ。バリケードは崩壊、足跡からしてかなりの数が街に出てったと思う」
「数は?」
「計測不能、20か30、少なくとも」
防衛ラインは突破され、こもっていた部隊は自分たちがたどり着いたときには壊滅していた。
急増のバリケードは崩壊し基地外にNMCが逃げ出していて、殺された人形たちは無残な死体となっている。
最悪だな、奏太の呟きにステンも同意した。
≪こちらSASS!!アルファチーム、正面ゲートは!!?≫
「ステン」
「はい!こちらアルファ2、正面ゲートは壊滅、生存者なし」
≪そんな…畜生!!≫
正面ゲートを最後まで援護しきれなかったのが悔しいのだろう、彼女たちの監視所にもNMCが到達して援護どころではなかったのだ。
援護できていれば間に合ったかもしれないという悔しさがSASSの口からにじみ出ていた。
「アルファ1よりSASS、お前はよくやった」
≪助けられませんでしたよ、指揮官≫
「やるだけやったのは確かだ」
彼はただ終わったこととしてことして答えた。その言葉にステンは彼との価値観の違いを感じてしまう、きっとFNCもそうだろう。
彼がほかの人間や人形たちの事を何とも思っていない冷徹な男ではないのは知っている、仲間にはむしろ甘いタイプだが切り替えがはやい。
≪こちらデルタ!指揮官、聞こえる?緊急事態よ!!≫
「お次はなんだ?」
≪新たな敵影、NMCが本棟の中から湧いて出てきてる!そっちにも新たらしい一団が行った、数は少なくとも30体!!≫
「本棟から湧いてるのか?」
≪うじゃうじゃ出てきてる!あぶれ出てきたにしては数が多い!!≫
「種類は!」
≪ストレンジャー!足が速い、レッサータイプ!!全速力で走ってる、すぐに接敵するよ!!≫
正面ゲートと本棟までは車で一分と掛からない、L字カーブを曲がればすぐの距離だ。丁寧に道路を進んでくるとしても、すぐに姿を現すだろう。
「レッサーストレンジャー、数は十倍か、M2!そいつらはこっちで片付ける、本棟から出てくる奴らを片っ端からぶっ殺せ。ステン、FNC、迎撃準備、ここで食い止めるぞ!」
「応援は?」
「呼ばん」
「キツイよ!」
「悪いが耐えろ。発生源を叩かないと後手に回るだけだ、そっちに回す。くそったれ、完璧に後手に回っちまった」
FNCが新しい弾倉を取り出しながら問いかけると奏太は厳しい表情で首を横に振る。その答えにステンは疑問に思って問いかけた。
「指揮官、心当たりがあるんですか?」
「思い当たったんだよ、とびっきりの生モノだ。ここはU地区の本丸、当然たっぷり備蓄してあるに決まってるからな」
「備蓄…材料…変異…あ、人形素体!!」
このU01地区はU地区支部の支社機能も有している、奏太の言う通り本丸だ。当然ながらこの基地で使う人形が損害を出した時のための予備はたっぷり保管されているし、ほかの基地に補充する分も溜め込まれている。
その量は他の地区の基地の数倍に上るだろうし、この地区にはIOP支社もあり製造ラインも当然ながら設置されているから倉庫内は常に一定数確保できているはずだ。
もしEveがひそかに基地に乗り込んできていて、人形素体の倉庫に侵入しネオミトコンドリアを放出すれば一体どうなるかは考えるまでもない。
機動もしていない予備の素体は抵抗しないし悲鳴も上げない、ただ黙って彼女の手ごまに変異する。そしてこの基地に裏工作をしたなら、きっとそれだけでは済まないはずだ。
奏太は頷くと、裏付けもとれるといって腰のポーチの中からビニール袋に入った人形用の部品らしきものを見せてきた。
それを見てステンは背中に冷気が走ったように感じた、その部品はいつも見慣れていたものだったからだ。
「腕のジョイント、お前の体にも使われてるヤツだ。駐車場のストレンジャーから出てきた、道理で見たことあるわけだ」
え、同型撃ったんですか?わかってるけどちょっとショック。
「まさかEveが?」
「それは低いほうだと思うね。仕込みは前々からしてたんだろう、殺すだけなら燃やせばいい」
「マジ?」
「その根拠は?」
「いるんだよ、こういう頭の回る奴らがな。NMCでというのは初めて聞くけど、まったくやり辛い」
彼は心底嫌そうな声色だったが、ステンは彼の唇に浮かんだ一瞬の笑みを見逃さなかった。彼は嫌がっているがワクワクもしているのだろう。
その気持ちはステンの中にも生まれていた、自分の指揮官も知らない未知の敵、それらとぶっつけ本番で戦うとなれば普通の人形なら嫌だと思う。
でもこれはチャンスだ、まだまだ知らないことを多く知るチャンス、世間の名を知らしめるかもしれないチャンス、そして彼に対するアピールのチャンス、そんな機会が転がり込んできたともいえる。
緊張して体がこわばるのを感じるが、その緊張感が心地よくもあり、ステンは思考を落ち着けるために一度構えを解いて大きく深呼吸した。
「弾、足りますか?ここまで結構ばらまきました」
「ストレンジャー程度ならな。頑丈だが頭をぶち抜けば瀕死にできる、あとはこいつだ」
奏太はガリルAR突撃銃の予備弾倉を確かめてから、マチェットの柄を撫でる。接近戦になるのは想定内、ステンも常備するようになったサバイバルナイフをすぐに抜けるように位置を整えた。
化け物は銃撃なんてお構いなしに突っ込んでくる、相対する数が多く殺しきれなければ必ず振るうことになるのだ。
「あれにナイフとかやりたくなーい」
銃剣を一度抜いて握りを確かめてから鞘に戻すFNCが呆れたようにぼやく、ステンもNMCの頑丈さにはこの短期間で心底呆れていた。
この場で最弱と考えられるストレンジャーでさえ、急所の頭を撃ちぬいても一撃では殺しきれないことが多かった。
たとえ瀕死にできてももうひと手間かかるというのは、対多数戦の連続になる現状では文字通り手間がかかってしょうがない。
それでも超音波を撃ってきたり、無駄にアンブッシュに長けてたりしないからマシなのだが。
「U05部隊アルファ1よりU01司令部、基地の予備素体倉庫はどうなっている?」
奏太はトンプソンの返答を待たずに畳みかけるように問いかけるが、なぜか返答はない。通信障害かとステンは思ったがすぐに否定した。
この状況ではトンプソンたちがいる中央指令室が墜ちたと考えるのが自然だろう。奏太もそう考えたのか、少し苦い顔をしながらも無線を切り替えていた。
「司令部との通信途絶、ほかの通信もアウト、隊内のみか…やられたな。ブラボー、現在地を」
≪本棟に到達したところです、内部に突入し交戦中。食堂にて二名を保護、一緒に行動中。M16たちとも先ほどすれ違いました。確かにNMCだらけですね、なんでこんなに?≫
「嫌な予想だができてるよ。本部棟の武器庫を調べてくれないか、ダミー人形と予備素体のある倉庫を重点的にだ。中央指令室なら調べられるはずだ」
≪やられたかもしれないんですね?了解。司令部に向かいます≫
「頼む。SPAR、聞こえてるならそのまま聞いてくれ。戻れるなら戻ってブラボーを援護してくれ、無理なら片っ端からぶち殺せ」
≪了解、指揮官。ブラボーを援護する、それにしても外よりひどかったとは驚いたぜ。そりゃなかなか進めないわけだ≫
「これからこっちもひどくなる。SASS、残存戦力は?」
≪R93、M200、PP2000です。ダミーはそれぞれ二人、弾薬は全員充足していますが監視所の予備はもうありません。他はみんなやられました≫
「10人か、もうそこはいい。屋上の通信アンテナを確保して、最大出力で軍の通信に割り込め。ブレイク大佐の直通回線だ。ダメなら撤収、デルタのヘリで降りてこい」
≪了解、監視所を放棄して屋上に向かいます。以後の呼び出しはシエラで≫
「了解、しばらく無線には出られない。説明は任せた、通信終わり」
奏太の言う通り、道路の曲がり角から醜いストレンジャーの群れが姿を現し始めていた。すぐに通信をしている暇はなくなるだろう。
ステンも構えたステンMk2短機関銃にしっかり弾が装填されているのを再度確認して照準をストレンジャーの頭に合わせる。
「私たちはこの後どうします?」
「まずはここで奴らを殲滅しつつ退路を確保、その後は撤退だ、向こうがごねなければだが」
「逃げるのには慣れてますがまたいろいろ言われそうですね。軍に任せるのはいいとして、動いてくれますか?」
「平常運転なら動くさ、SRPAに琥珀と市代が話を通してる。証拠もあるならな、ここで動かないほどKCCOもバカじゃあるまい」
SRPAから連絡を受けたKCCOが真っ先に動くだろう。カーター将軍はグリフィンと関係も深い、無視するということはないはずだ。
おそらく彼はもう撤退するつもりで動いているのだろう、この事件は大きくなりすぎてU05基地の戦力だけでは手に負えそうにない。
マンハッタンシティを守るU01基地は壊滅的被害を受けていて戦力はほとんど残っていない上、基地がすでに汚染され感染源になりつつあり避難所としても使えなくなってしまっている。
グリフィンはこの攻撃で完全に戦略的価値を喪失してしまっているのだ、ここでどう反撃しても巻き返せるとは到底思えない。
マンハッタンシティの人々には気の毒だが、自分たちにはもうどうしようもないところまで来てしまっている。
撤退の時に民間人を少しでも拾えるかどうか進言しよう、ステンは走り寄ってくるレッサーストレンジャーに向けて引き金を引こうとして、目の前の光景に指が止まった。
もう目と鼻の先まで走り寄ってきていたレッサーストレンジャーたちの足が止まっていたのだ、見るからにおろおろと狼狽えており、まるで何かにおびえているようだ。
「撃つな、なんか妙だぞ」
奏太も不審に思ったのか、様子を見ることにしたらしい。
「いいの?」
「こんなの初めてだ、あそこまで殺気立ってた今更NMCがビビるなんて見たことがない」
戦闘で劣勢になった場合、戦意を喪失したりして逃げることはあるがこの場合は明らかにタイミングがおかしい上に様子も以上だ。
逃げるのならほとんどの場合、すぐに一目散に逃げる。こんな風に迷い、狼狽えるそぶりはあまりしない。
先ほどまで血気盛んに襲い掛かっていたから自分たちに今更怯えるようなことはないはず、ならば別の要因か?ステンはそう考え始めたときレッサーストレンジャーたちは急にその場で散会し四方八方に駆け出した。
まるで自分たちの存在なんて目に入っていないかのような完全な逃げに、ステンは思わずぽかんとなるしかなかった
「逃げた?」
「指揮官?」
「わからん、何が起きてんだ?」
化け物退治のベテランの奏太もすっかり困惑しているようで目をぱちくりさせている、彼すらも知らない異常な光景なのだ。
≪…こちらSPAR!NMCの様子が変だ、急に動きが可笑しくなって逃げてったぞ≫
≪ブラボーよりアルファ、こちらも同じです。攻撃してこなくなった≫
≪こちらデルタ!上からも見える、みんなおろおろして逃げてる、何かあったの!?≫
≪チャーリーよりアルファ!こっちも同じ、急に引いたよ?どうなってんの?≫
≪こちらシエラ、同じです。急にいなくなった≫
ほかの場所でも同じようなことが起きているようだ。無線機から仲間たちはかろうじて生き残っていたU01基地の人形たちの驚いた声や唖然としたうめきが聞こえてくる。
ステンはNMCの事を良く知っているわけではないが、NMC達は明らかに何かにおびえていた。まさか今更グリフィンの反撃に怖気づいたわけではないだろう、何か別の要因があるはずだ。
でもそれはなんだ?ステンは周囲を見渡しながら考えるが、何も思い当たらない。不気味だ、そう思った時かすかに地面が揺れたように感じた。
「地震?」
ステンはすぐに地震だと判断した。滅多に起きることではないがあり得ない話ではない、そう最初は思ったがすぐにおかしいことに気付いた。
この揺れは不規則に、断続的に起きている、まるで何か地面の下で爆発しているように。データにある地震のパターンとは全く違う。
まさか地下で爆弾か何かがさく裂している?いやそれはおかしい、この真下には何もないはずだ。
ならばU01基地の地下倉庫で何かが誘爆したのか?それもおかしい、ならばもっとわかりやすい揺れと衝撃が起きる。
これは違う、でも聞いたことがある。ステンはふと、昔のある出来事を思い出した。これは防音壁に阻まれてなお響いてくる大音量のデスメタル、そのドラムをもっと不規則にしたようなそれだ。
まさかこれを察知してNMCは逃走したのか?ステンがそう考えたとき、視界の端が真っ赤な光が走った。
「なッ!?」
奏太の絶句にステンも思わず目を真っ赤な光のほうへ向ける、方向的にはマンハッタンシティのビル街の方だ。
その真っ赤な光の正体を見て、ステンはまたもや言葉を失うしかなかった。密集する高層ビルの間を貫くように真っ赤な炎が噴き出して街を真っ赤に染め上げていたのだ。
まるでマグマのように吹き出す炎は市街地を焼き、ビルをドロドロに溶かしていた倒壊させていく。
噴火、と考えてすぐにあり得ないと否定した。ここは火山帯ではない、少なくともすぐに噴火するような浅いところにマグマは通っていないし溜まってもいない。
あの炎は一体何なんだ?ステンはポーチから双眼鏡を取り出して覗き込む、炎の根元から上に向かって見上げるように確かめていると、炎の柱の傍らに何かが浮遊しているのが見えた。
「指揮官、あそこに何かいます」
「どこだ?」
「あそこに、なに、あれ…赤ん坊?」
それはぐずっている赤ん坊のように見えた、だが普通の赤ん坊よりも後頭部が大きい上に空を飛んでいて何より背中に羽と尻尾が生えている。
ぐずっていた赤ん坊は、落ち着き始めて一度丸くなり、まるで本物の赤ん坊がやるように親指を加えながらくりくりとした両目を開いて周囲を見回した。
その中で、ステンは赤ん坊と双眼鏡越しに目が合った。瞬間、体が奥底から燃え上がるような熱気を感じて咄嗟に目をそらした。
「指揮官、あれヤバイ!!絶対にやばいよ!!」
「あぁわかってるよ」
FNCは何か別なものを感じているようで、肩を震わせて真っ赤な炎の噴水と赤ん坊を見上げて肩を震わせる。
同じように目が合ってしまったのだろう奏太も息を荒くし、顔に大玉の汗を浮かべていた。
赤子の鳴き声に合わせて炎の噴水はさらに一本、また一本と街を貫くように吹き出して、その熱に溶かされたビルはどんどんと融解して折れ曲がり形を失っていく。
それだけでなく、ビルそのものも内側から爆発し始め、地上でも連鎖爆発が次々と起きている。
その範囲は徐々に拡大していて、少しずつこの基地の方にも広がっているように見えた。
何が起きている、まったく訳が分からない、ステンの思考はほとんど真っ白になりつつあった。
「こりゃ不味い、総員退避!!繰り返す!!総員退避、逃げろ!!とにかく逃げろ!!アレに追い付かれるな!!」
奏太は無線で生き残った基地要員全員に呼びかける。ステンはその声で現実に引き戻された。
「ステン、FNC、しっかりしろ!逃げるぞ!!」
「で、でも、街が!!助けないと!!」
「俺たちの手には負えん。お前も感じただろ?目が合っただけでやられかけた、あれは何か対策しないと近づくことすらできねぇ」
それはこの街とこの街の市民の大半を見捨てる決断だったが、それに異を唱える気がステンには起きなかった。
彼の表情はいつにもまして切羽詰まっていて、まったく余裕なんてなかったのだから。
あとがき
元ネタ的にはMP5ちゃんがどこかでぼっこぼこになってるのも考えたんですけど、急に分からせたくなっちゃったのでやりました。
原作も一歩歯車が狂ったらこれに似たような感じになってたと思います、警察がまともに機能してなかったらほんとやばかったと思う。