U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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気付いたら新年明けてました、遅くて申し訳ない。
待たせてしまって大変恐縮だがどうか楽しんでほしい。




第29話・最初から怪しすぎるから今更だよね?

悪夢のような一夜だった、それが事の顛末を聞いたフランが感じた感想だった。

グリフィンはこの事件に関しては何も有効な手を打つことができず、ただ生き残るだけで精いっぱいで対処する暇などありはしなかった。

それも指揮をした彼の判断が一つでも遅ければだれも生きて帰ってこれなかっただろうことは間違いないだろう。

マンハッタンシティを崩壊させたNMC、正式名称『ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー』は民間のPMCが相手するには荷が勝ちすぎたのだ。

マンハッタンシティに投入された部隊の報告書や生存者たちの証言を取りまとめた報告書を届けに来たフランと夢子を見つめるヘリアントスは静かに頷いた。

 

「報告は以上です」

 

「そうか、わかった」

 

「…それだけですか?」

 

「そうだ」

 

「おかしいわね、何かしら処分があると思ってたけど?」

 

あからさまに眉を顰めてニヤニヤしながら言うドリーマーの夢子、普段ならば諫める所だがフランは何もせずヘリアンのほうをじっと見つめた。

ヘリアンは困ったような息を吐いて、不遜な仕草をする夢子にあきらめたように頷く。ヘリアンも無理にごまかす気はなかったらしい。

 

「この件は国家安全保安局が預かることになった。グリフィンはこの件からは手を引く、他言は一切無用だ」

 

「だと思いました、あれは厄介極まりない」

 

何しろ根本的な解決策がない部類ですからね、フランがそういうとヘリアンは顔を渋くしながらうなずく。

戦術人形の生体部品をも変異させて取り込めるともなれば、グリフィンの長所は潰されたも同然だ。

人間の兵士を使うPMCと何ら変わらないどころか、むしろ脅威に気付かず被害を拡大させる恐れすらある。

その轍はすでにキメラとの初遭遇で経験済みだったフランは痛感していた。

マンハッタンシティに派遣されていた奏太たちが回収したU01基地の監視カメラ映像などの貴重なデータからもそれがわかる。

 

「あぁ、だからこそは慎重に進めなければならんということらしい。連中、なりふり構わず情報を規制している。その件もあってお前たちへの罰則もうやむやだ」

 

「むしろやりたい放題してくると思ってましたが意外ですね」

 

「よくわかっているじゃないか?お前たちを良く思わん連中は真っ先に懲戒免職の上で刑務所に入れようと動いていたぞ?敵前逃亡でな」

 

ヘリアンの言う通り、理由がどうであれ今回の事件でU05派遣部隊は任務を放棄したも同然に撤退している。

それがどんな理由であれ何かしらのペナルティはあってしかるべきだし、ましてやそれを主導したのがただの雇われであったならば責任を押し付けることも可能だろう。

そういう輩はたとえ回収されたU01の映像を見ても何も思わないか、別の事を感じて保身に走るだけだ。

U01基地の指令室が司令部要員の変異したNMCに蹂躙されていくのを見ても、シェルターに避難した人々がEveによってネオミトコンドリアの茶色いゲルに変えられて利用されても。

もっともそれをしたところで当の本人はあっけらかんとしていそうではある、とフランは思ったがそれは言わなかった。

 

「だがここで事を荒立てるのを国が良しとしなかった。ここ最近はグリフィンの対鉄血作戦がうまくいっていたのにこの有様だ。

そこに下手をすれば外と中とで争いになる火種を作るとなれば、余計に大きくなるのは確実だろう?あいつらは黙っていない」

 

「もしそうなったら間違いなく私は死ぬし、グリフィンはなくなりますね。そうなれば文屋は大騒ぎでよからぬ思想家たちも張り切る。

その原因となったこの事件は好き勝手ほじくられるでしょうから、国が黙ってられるわけがない。それで損切ね、これで黙ってろと。ま、それはそれでいいか」

 

「向こうで引き取るならご自由に、好き好んで引っ掻き回す気なんてないですよ。ですが、こちらも仕事がありますからそこは理解していただけますよね?」

 

「お前たちの仕事が仕事だからな…事故は起こるさ」

 

事故、ね。ヘリアンがわずかに強調した単語を脳内で反芻した夢子はくつくつとこみ上げる笑いを抑えきれずに咳払いした。

上からの圧力で捜査が打ち切られるというシチュエーションは映画などでよくあるが、この打ち切りはうれしいものだ。面倒なことに関わらないで済む。そんなやり取りをしたのが先日である。

 

「あ、そう」

 

朝早い時間、トレーニングで一緒にランニングをしていた笹木奏太の反応は恐ろしく淡白だった。

走るペースは変わらず、表情も変わらず、特に何も感じていないのが見て取れる。

一緒に走るM1911の笹木美奈も一緒でまったく動揺が見えず、奏太の隣をぴったりキープしてペースを乱さなかった。

自分の隣を走る夢子は呆れたように苦笑いして、奏太に問いかけた。

 

「反応薄いわね?たぶんちょっかい掛けてくるわよ」

 

「いつものことさ、古い国の連中はいつも勝手に被害妄想を募らせやがる。この業界じゃ珍しいことじゃない」

 

「今は悪いほうに傾いてるしね、歴史があるってことはそれだけ積もる話もあるってわけだもの。そもそもダーリンってIOPと鉄血にだって睨まれてたからね?」

 

「なにそれ、初耳なんだけど?」

 

「これも俺の人生ってやつだ」

 

どうやら初耳だったらしい夢子の問い返しに奏太は意味深に笑うが、笑ってられる当たりおかしいとフランは断言できた。

 

「ダーリンとペルシカリア博士には因縁があるの、鉄血のリコリス博士とも。向こうからしたら要注意人物ってわけ。

でもその手の連中は良い装備してる奴らならいい稼ぎになるよ、ゴロツキとかじゃなければ装備がいいの」

 

「このあたりならサイクロプスくらいは横流しとかなんとか言ってずっと出せるだろうな。腕試しにはちょうどいい…失礼」

 

しかも内地ならば軍用人形を使ってくる可能性が高い、そうなれば堂々と鹵獲して使いまわせるわけだ。お財布も潤って素晴らしい。同じコースを走っていたG11の脇を抜けながらそう顔に書いてある奏太の表情を見て、夢子は鉄血時代に散々投入しては壊滅して部隊の装備類を根こそぎ奪われていたのを思い出して納得するしかなかった。

供養する代わりに最低限の慈悲を残して武器弾薬、装備類に至るまで根こそぎ持っていかれていたのは何の冗談だと思っていた。

このグリフィンに鞍替えしてから、それらが鹵獲戦力にされたり資金源にされたりコスプレ衣装にされてたりしたのを知り脱力したものだ。

生半可な実力の襲撃部隊ではただのボーナスにしかならないだろう。頼もしいやら恐ろしいやら、何とも複雑な気分に夢子はなった。

 

「それでもしばらく控えてほしいんだけどね、最近は新入りも増えたし」

 

「いつまた昔みたいに雑にされるかわからないだろ、慣れてたほうが楽だ」

 

「ハードル高すぎんのよ、変にちょっかいだされて巻き添えになったらいやよ」

 

「ま、相手次第だね。向こうが撃たなきゃこっちもほっとくし」

 

「ほんとう?」

 

「ホントホント、ミナチャンウソツカナイ」

 

「うさんくさ」

 

わざとらしいカタコトで頷く美奈をフランの茶化す気持ちもわかる、ゲパードM1を避けて追い越しつつ夢子はうんうんと頷きながら肯定した。

新人のスプリングフィールドM1903は初日から躓いていたし、RO635は帰ってきたSPAR小隊の大暴れを後から聞いて軽く引いていた。

指揮官を失って再編を余儀なくされたU06基地からもMG42率いる機関銃使いを筆頭に何人も合流してくることになっているからその対応もある。

おかげでこの基地の所属人数は一気に倍ほどの人数に膨れ上がっていて、当番やらなにやらと一新しなければならず事務方は毎日忙しい日々を送っているのだ。

ここでさらに面倒事を増やされてはたまったモノではない。そんな風にフランが考えていると、何かを思いついたのか美奈が問いかけてきた。

 

「そういえばその新人はどう?やっていけそうかな?」

 

「どうかしらね、スプリングフィールドはまだ戸惑ってるかも。戦術人形としての職務は理解しているでしょうけど、ほかの例が強いから。

ほかの連中は言わずもがな、あんたらが引きずり回せばだいぶ変わるでしょ」

 

「スプリングフィールドのほかの例?」

 

不思議な顔をする美奈に、前を走るスコーピオンとイングラムを追い抜きながらフランは引っ掛かりを覚えたがすぐに思い至った。笹木一家を含め、この基地は他の基地との連携はすれどその基地で長く過ごすことはほとんどない。

行って、戦って、仕事が終わればほとんどはそのまま基地に直帰してしまう。ほかの基地のスプリングフィールドM1903が基地で何をしているか見たことがないのかもしれない。

 

「スプリングフィールドM1903の人形は基地のエースで活躍する高性能な人形だけど後方支援員としても優秀なの。

多くの基地では本来の仕事のほかに喫茶店やバーで慰安をしてたりするのよ。広報誌とかで喫茶店の話題が出ると大体セットになってるわ」

 

「そういえば前に読んだかも、でもここじゃ無理っしょ」

 

美奈の言う通り、この基地にスプリングフィールドM1903が喫茶店を開く余地は全くない。

土地や資金の問題ではなく競合するためだ、すでに喫茶店やバーはこのリゾートに残されていた施設が稼働しており担当者もついている。

担当者となる人形たちもそのほとんどがこのリゾート施設が営業していた時からいる担当人形たちであり、接客から食事に至るまで経験豊富なベテランの本職ばかりだ。

他にも訓練場扱いのトレーニングルームや体感型VRシミュレーション施設稼働といった流用可能な遊戯施設も稼働していて、その専門職の人形がいるために放り込む理由もない。

そのため今は完全な戦闘職として配属していて、今は主にゲッコーやラッドスコルピオンなどで経験を積ませている。

 

「今は様子見よ、戦力面では問題ないしね。中型のラッドスコルピオンくらいまでなら慣れてきたわ、次はソロで何かやらせてみる予定よ」

 

「ソロね、彼女はボルトアクション式がメインだしサブに連射が効くの持たせたほうがいいかも」

 

「アドバイスしておくわ、何がいいかしら?」

 

「オートマチックなら手ごろなのはローライフ当たりじゃないかな?それかバスタードのショート」

 

「ショートマグにショートバレルか?正規拳銃に比べたら安いがピーキーだな」

 

「そこは彼女次第、人形なら力づく何とかなるでしょ」

 

美奈の考えを読んだ奏太がそういうと彼女は頷く。二人とも真剣に考えているようだが少し行き違いがあるようだ。

 

「なんで自腹を切る前提なの?支給品だから密造銃じゃなくて正規品が出せるわよ」

 

「支給でも出費が抑えられるならそれに越したことないんじゃない?」

 

「スカベンジング訓練も併せてジャンク集めをやらせれば費用もむしろプラスになる。戦闘跡地に行けばジャンクには事欠かないし、いざというときは自分で何とかできる」

 

「スカベンジャーが少ないっていいよね、ところで私たちちょっと遺跡に行こうと思うんだけど行ってきていい?」

 

「唐突ね!?控えろって言ったわよね!?」

 

「前に探索した遺跡がちょうど入りやすくなってるって情報が入ってさ、ZONEの奥にあるここの国の連中も手を出せてない穴場だよん?」

 

ZONE、そう聞いてフランは思わず顔をしかめてしまった。人類生存可能圏外でもひときわ汚染と変異が著しく探査すらままならないとされる地域の事だ。

場所によってまちまちであるがそのほとんどにおいて現在の科学では考えられない異常な超常現象や凶悪な化け物などが闊歩する恐ろしい場所でいくつも確認されている。

しかも確認されている、というだけで全体の総数も規模も何もかもが現状ではすべてが不明だ。

ZONEは半ば異空間という話もあり、第3次世界大戦以後はZONEの出現のたびに世界地図が書き換わっているとすら言われており、その特異性から解明がほとんど進まない空間といえよう。

最新の装備と細心の注意をして、最高のベテランが最高のバックアップを受けて調査に挑んだがほとんど成果がないというのだ。

その超がつく危険地帯にはるかにたった5人でしかも旧式装備で挑んでケロリとした顔で生きて帰ってくるなんてほら話も良いところのはずである。

本人曰く『手ごろ』な危険地帯にど素人を引き連れてレクチャーしながら闊歩する変態が目の前の二人なのであるが。

 

「何組も挑んでは消えてる危険地帯だ、無理にとは言わねぇよ」

 

そういうことサラッというんじゃねぇよ!と何度思っただろうか、この国の研究機関が聞けば目をむく話だがこいつらにとっては日常なのである。

普通に考えれば貴重な戦力を彼らに連れて行かせるなんてどうあっても許可してはいけないのだが、この基地ではむしろ望んでついていく連中が大多数だ。

 

「チェルノブイリにでも行くの?」

 

できれば成果が上がっている数少ない地域にしてくれと願うばかりなのだが、彼らの事だからそんなメジャーなところはいかないだろう。

チェルノブイリ原発周辺、プリピャチ市近辺などは国の調査隊が成果を上げている数少ないZONEだ。

それでもZONE内部では複数の派閥が目下紛争中で十分危険地帯という話は彼から聞いている。

 

「そこはアーティファクト狩りのメッカ。私たちが行くのはプレアデス遺跡群」

 

「聞いたことない名前ね」

 

「発見チームから取った通称だ。この国じゃまともに探査できないから番号を振っただけで学会のバンクに埋もれてるだろう」

 

普通ならば行くことすら間違いな危険地帯に好き好んでいく連中だ、そりゃこうもなる。

 

「超危険ってことじゃないのそれ?」

 

「危険ではあるがその分実入りがいいんだ、プレアデスの足跡を見つけるのだって面白い。データログ見つけるだけでいい稼ぎになるぞ」

 

「そういえばプレアデスの痕跡を見つけたチームが前いたね」

 

「神機使いのいた北欧の?いいチームだった」

 

「全滅したの?」

 

「いや二人生き残ってウラジオストックに行ったよ、そこに行くのが目的で金稼いでたんでな。

本社の精鋭っていうだけあって結構強かったんだが仲間を守って死んだ。帰ってきたのは神機、武器だけだった」

 

しみじみ、といった様子で空を仰ぐ奏太。その遺跡だけで一体どれだけの命が飲み込まれていったのか、フランはふとそう考えて即座に考えるのをやめた。

 

「行くのはいいけど成果は出してよね、できれば長く開けないでほしいわ」

 

「そこは諦めてくれ、長引くときは長引くもんだ。俺たちがここに一年以上もいるんだぞ?」

 

「あんたらがいないときにデカいヤマが起きたらどうするのよ」

 

「ほかの連中も時々来るようになっただろ、そいつらに声かければいい。報酬さえ釣り合えば嬉々として乗ってくるさ」

 

「あんたらが一番信用できるのよ、そもそもここは中継地とか保養所みたいに思われてるみたいだし。売り上げは上がるからいいけどね」

 

「はいはい、なんなら歴史に名を残すか?最速攻略っていうな」

 

「馬鹿言いなさんな、生きて帰って来いって言ってんの。この前みたいなのはごめんよ、あんたら以外に対処できない」

 

「どんなに気を付けても罹るときは罹る、アレはそういうもんだ。まだあいつらには刺激が強すぎんのさ」

 

「正直あんたらやらかしたんじゃないかって思ってたわよ?SPARのみんなだって呼び出し食らってんじゃないの」

 

茶化す奏太に突っ込みを入れるフラン、その横でけらけら笑う美奈。いつもの光景だ、そう思うと夢子は安心したように前を向く。

雑談しながら同じコースを走る人形たちをどんどん追い抜くその様子をSPAS12は唖然としながら見送っていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「生体組織が変異してる?」

 

IOP、16LABの主任研究室、ペルシカに体の検査のために召集されたSPAR小隊のM4A1は思わず聞き返していた。

 

「ほんのわずかなものだけどね。変異というより適応といったほうがいいかしら」

 

「あの化け物が言ってたのはそれか…一体どうして?」

 

M16A1は自分の検査結果が印字された資料に目を通しながら少し乾いた笑いを上げながらペルシカに問う。

 

「簡単に言えば人類生存可能圏外での活動結果、かしらね。ここの汚染とあっちの汚染は桁が違う、汚染対策をしっかりしても完璧に防ぐことはできないの。

人体に影響が出ないくらい防いでいるだけ、その弱毒化された汚染物から生き抜くすべを体が身に着けつつあるってところよ。

たとえばあなたたちの肌よ。SOP2、あなたの肌は人間に極力似せるように作られてるし多少の傷なら再生する。今その紙で指を切ったらどうする?」

 

「絆創膏張れば十分かな?」

 

「そう、あなたの体を覆う皮膚や皮下組織などの生体組織は『生きてる』の。グリフィン主流のIOP製民間人形は大体そう」

 

「生きてるから当然環境の変化に適応しようとする、というわけね?」

 

AR-15の答えにペルシカはその通り、と答えた。

もちろん人間と全く同じというわけではない、被弾などの被害にクラッシャブルストラクチャーとしての役割を持って対応するように設計された人工物だ。

しかし壊れることが前提で作られたこの生体組織は時間さえかければ自然と治る利便性がある。

 

「外の環境に慣れ切った彼女たちと長い接点があったのも理由ね。これを見てみなさい」

 

「これは整備記録?うちの連中の…だけじゃないわね。それにこっちは人間の診察記録、これはあの街の生存者たち?」

 

「そう、あなたの基地から提出された整備記録をこちらで解析したものよ。注目すべきは生体部品の変異、あなたたちよりも付き合いが長いFALや一〇〇式達はもっと数値が高い。

記録を見た限り、みんなは体の修復は数多くあっても乗り換えまではしてないでしょ?そのせいね」

 

この基地に所属する人形たちの生体部品を維持するのに使用されているミトコンドリアは、Eveのバラまいたネオミトコンドリアを受け付けなかったのはミトコンドリアが過酷な環境に適応するための変異が見られたかららしい。

この結果を見てM16A1は今まで考えていた疑問が解けた、Eveとの遭遇戦で掛けられた問いの答えはこれだったのだ。EveはM16A1たちのミトコンドリアを暴走させることができなかったようなのだ。

その傾向は他のメンバーにもみられており、生き残ったU01基地の部隊や民間人たちに比べても汚染の痕跡が格段に少なかった。

奏太からの助言で栄養剤などでの免疫力の活性化とガスマスクなどの装備で、基地に限らず町全体を汚染していたネオミトコンドリアからの影響を防いでいたのは正解だったのだ。

 

「FAL?ほんとね。確かに変異率が高いけど…あいつ帰ってきたらしばらく寝込んでたわよ?」

 

416の怪訝そうな言葉にM4も思い出す。人類生存可能圏外への初遠征に抜擢されたメンバーのうち、FALと一〇〇式は帰還して早々医務室送りになっていたのだ。

彼女たち二人は奏太たちと同行して地上探査に出向いてかなり特異な経験をしてきたのだが、そのせいか体内の部品に変調とメンタルに負荷がかかってしまったらしい。

そのせいで集中メンテの後に一週間ほど熱を出して寝込んでしまい、ひどい風邪を引いてしまったようになって奏太たちに看病されていたのだ。

もっとも、愛しの彼にやさしく看病されていたFALは別な意味で高熱を発していたようにも見えたが。

 

「そもそも戦術人形が人間みたいにそこまで寝込むほうが変よ、風邪みたいになるとかありえないでしょう?」

 

「そうかしら、指揮官は風邪って言ってたけど?鼻水だらだらでせき込んで、発熱に体の倦怠感、人間とほぼ同じ症状だったわ」

 

「正確には風邪みたいなモノ、でしょう?報告書を読ませてもらったけど頭痛くなったわよ…霊的な接触による精神汚染とかオカルト過ぎないかしら?」

 

「そうはいっても実際あるみたいだし、それ用の装備ももらったし」

 

416は常備しているポーチの中からメダリオンの付いた質素な首飾りをペルシカに見せた。

『セントメダリオン』と呼ばれるいわゆるお守りのようなもので、精神放射や霊的な接触といういわゆるオカルト的な精神攻撃をある程度身代わりになって緩和してくれるらしい。

指揮官の友人であるマクスウェルが純正人形用に調整したものなのでグリフィン所属の人形にはぴったりなのだそうだ。

 

「まだ実際に見たことはないけど、これから先嫌でも目にするでしょうね」

 

回復した二人曰く『二度とごめん』らしい、経験したことのない苦痛にすっかり二人は参っていた。体が全くいうことを聞かず、かといってハッキングや電子ウィルスとも違う体の暴走は彼女たちをひどく追い詰めたのだ。

廃棄処分になる最悪の想像が何度も過って気分も陰鬱になり、その憂鬱さがさらに症状を悪く感じさせる悪循環は言葉にできない悪夢だったという。

その様子に奏太たちは微笑ましく笑い、まるで人間にするように消化のいいおかゆなどを食べさせ体を拭いてあげたりして看病して治してしまったのだ。

 

「それで風邪薬飲ませて、人間みたいにあったかくさせて寝かせて直したって?」

 

「そうね、薬を買いに行かされたの私だし覚えてるわ。市販の風邪薬と栄養ドリンクよ、ねぇSOPⅡ」

 

「うん」

 

当時、416と一緒に買い出しをしたSOPⅡは思い出しながらうなずく。いきなりこんなものを買わされて困惑していたのをM4は思い出した。

夕暮れ時、人間用市販薬の数に不安があったために車をかっ飛ばして隣の地区まで買いに行かされた二人は帰って来て早々奏太たちに何度も確認して首を傾げていたのだ。

それで無事に元気になったときは、そういうこともあるかと納得していたのだが良く考えるとおかしい。

精神面や霊的な接触などの治療に関しては専門家でなければ難しいらしいが…家庭的すぎるのも不思議だ。

 

「でも、それとこの召集とどんな理由が?」

 

「今回の一件であなたたちの価値がIOPに認められたの。あなたたちの量産モデル化計画に拍車がかかったのよ」

 

「あら、てっきりただの言い訳だと思ってたわ」

 

「今回のはそれだけ大きかったの。言い方は悪いけどあなたたちは生き残っているはずがないイレギュラー、それがここまで経験を積んだ精鋭に成長したんだもの。

しかもあの子たちとは違って使われている部品もほとんど流用可能な既製品、高級品ではあるけど量産してるから」

 

「でもマンハッタンシティではまるで役に立てませんでしたよ、あの時は本当に死ぬかと思った」

 

「あの混乱の中でむしろ良く生き残ったといえるわ。あなたたちは全員生きて帰ってきた、それも正規軍が相手するような化け物たちと互角に渡り合ってね」

 

そこまで言ってペルシカは少し思いを巡らせるように言葉を切った。

 

「今回はその開発のためのデータ取り、できるだけ早く済ませるつもりだからできる限り協力して頂戴?」

 

「だからってオリジナルの装備にこだわる必要なくない、私これ嫌なんだけど」

 

AR-15が自分の脇に寄せていた装備を持ち上げて心底嫌そうする。彼女の持っているのはオリジナルのAR-15が身にまとっていたおしゃれな服だ。

AR小隊の所属を示す腕章などはないが、それ以外はすべて同じでAr-15はすごく苦々しい表情をしていた。

 

「いつまでもあなただけ私物を使いまわさせるわけにもいかないのよ、今度からそれを使ってちょうだい。

防弾使用だし戦闘用にカスタムもしてる、それにおしゃれで町中にそのまま出ても目立たないから普段着としても使えるわ」

 

「そうはいっても…正直、戦場でおしゃれする必要性に最近疑問を―――」

 

「AR-15、それ以上はいけないわ」

 

不穏なことを言いかけたAR-15にペルシカはぴしゃりと有無言わせぬ口調で言葉をかぶせた。

 

「…さて、話がズレたから戻すけれど今回の仕事は武器への適合率と射撃能力のテストよ。私はやることがあるから、先に射撃場に行ってて頂戴」

 

「せんせー、じまえのまぐなむもありですかー?」

 

「常識の範囲内なら許可します」

 

SOPⅡのおどけた質問にペルシカはくすくすと笑い、その朗らかな笑みにM4は小さな違和感を覚えた。

何からしくない、少し取り繕っているようなそんな感覚がした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

ヘリアンは夕暮れに染まる執務室のデスクに座りながら、胸の奥に過る罪悪感に顔をしかめた。

過るのはU05基地で何も知らないままに職務に従事するフランシス、彼らは何も知らない、今グリフィン&クルーガー社を取り巻く情勢も、状況も、すべて理解しているわけではない。

U地区における鉄血との戦いはほぼ化け物との戦いに取って代わられつつあるが、これはあくまで一地方での出来事に過ぎない。

グリフィン&クルーガー社の主敵はあくまで暴走した鉄血で、今まさに矢面に立っているのはAR小隊を救い鉄血本体からの注目を浴びる『ジャンシアーヌ部隊』だ。

未だに最前線であり、激戦区として名高いS09地区にて頭角を現した期待の新人である彼女とその配下にいる戦術人形部隊は鉄血との激しい戦闘を繰り返している。

 

(知らなくていいんだ。AR小隊がすでに半壊状態にあるなんてこと、そのせいでお前たちに重役たちが注目しつつあるなんてことはな)

 

その戦いの中で彼女たちのオリジナルであるAR小隊はほぼ半壊状態になり、早急な戦力の補充が必要な状態だった。

SPAR小隊はAR小隊のスペアという側面もあり、欠員が出れば補充要員とされるはずだった。

それがここ最近の戦闘で流れが大きく変わっている、U地区を取り巻く異常情勢の中で彼女たちはAR小隊に負けない存在感を確立してしまったからだ。

正規軍が受け持つ案件であるELID案件またはそれに類する危険な敵との戦いを、彼女たちは欠員を出すことなく戦い抜いてきてしまっている。

 

(それはつまり、状況は自分たちの予測を逸脱し、全く未知な方向へと進んでいるということ)

 

そもそも鉄血が暴走したのはなぜだ?そしてそれを軍が放置したままなのはなぜだ?それを政府が黙認しているのはなぜだ?

最初からすべてがおかしいのだ、なぜ鉄血を相手にしているのがPMCなのだ?

この国の中でもトップクラスの生産力と資金力を誇りIOP社と鎬を削っていた大企業が一夜にして人類の敵になり、今や数少ない人類が生存できる地域を荒らしまわり人々を虐殺している。

経済は混乱し、人々の生活はひっ迫、治安も悪くなる一方、地方の経営を任せていたPMCにも鉄血ユーザーはいたことからもろとも壊滅した地区もある始末だ。

 

「これだけで国が腰を上げて対策するべき大事件のはずだ、正規軍がすべてを受け持っていいはずだ」

 

「…入るときはノックをしろ」

 

まるで自分の心を読んだような男の言葉に、ヘリアンは声を発した主がいる方向へと目を向けた。室内の隅、陽射しのおかげで影が濃くなっている壁際に一人の男性が壁に背を預けて佇んでいた。

灰色のスーツを身にまとい艶のある金髪をオールバックにした欧州系白人、程よく修羅場をくぐった精悍なサラリーマン。腰のベルトに特殊な器具で刀を装備していなければそう見えただろう。

 

「ノックはしましたよ。でもまったく反応がないので仕方なく」

 

「ふん、どうだか…なんのようだ?辻本」

 

「ハンターオフィスからお届け物です、いつもの面倒な最新の情報です」

 

辻本正樹、日系の名を持つ彼はハンターオフィスから派遣されてきた連絡員であり彼自身も一級ハンターの資格を持つベテランらしい。

らしい、というのは彼とはあくまで仕事上の付き合いしかなくまるで実力を知る機会がないからだ。

仕事の面では滞りなく、まともに連絡員として職務を続けているがそれ以外のプライベートな時間に何をしているかは把握できていない。

彼への調査はそのすべてが簡単に降り切られてしまい不発に終わってしまう。

 

「なぜ私の考えていることが分かった?」

 

「解ったも何も少し調べれば誰だって考えることでしょう?鉄血の跳梁は明らかに腑に落ちない点が多すぎる、怪しまないほうが変ですよ。

鉄血といえばIOPに肩を並べる大企業であり、正規軍にも装備を供給していた重要な会社のはずなのです。

その一つがつぶれ、しかも凶悪無比な反政府ゲリラと化すなどどう考えても看過すべきことではない」

 

なぜなら、世界はいまだに崩壊のただなかにあるのだから。皮肉気に、そして気負いなく辻本が言った言葉にヘリアンは並行するしかなかった。

世界はまだ安定したわけではない、かつてのように戦争が終わったからと言って平時に戻れるような時代ではなかった。

第3次世界大戦が引き起こされた根本的な原因である『北蘭島事件』それによって世界中にまき散らされたコーラップス液による深刻な環境汚染がすべてを狂わせ、そしてコーラップス液が放つ放射線がもたらした低放射線感染症により生まれるE.L.I.D感染生物。

これだけでも人類が栄華を誇った戦前の世界を壊すには十分だった。だがそこに人類は第3次世界大戦、核戦争とモラルの消え去った終末戦争によりさらに追い打ちをかけていた。

今でこそ生き残った国家間の戦争は終結した、だがその過程で生まれた化け物と環境汚染がそれでなくなるわけではない。

国家の正規軍は残された健全な国土を守るために化け物を相手に戦いを続けている、環境を回復させるために研究や除染作業にも命を懸けている。国を守るために同じ人類の国家に銃を向けたままの二正面作戦の状態で。

 

「そもそもこの人類生存可能圏を守る防衛線の背中を脅かす存在を放っておくなんて普通に考えてもあり得ない。前線への補給が邪魔されようモノならどんな悲劇が起こるかもわからないというのに。

その時だけ軍が何とかする?バカバカしい、そんなもの時間と経費の無駄だ。さっさと終わらせたほうがいいに決まってるでしょう?」

 

「ではなぜおまえたちは我々の依頼を受けたのだ?そんな怪しい事態に関わる我々だぞ?」

 

「私たちにも利点があったから、と答えておきましょう。先の見えない厄介な案件にかかわる危険性を加味してもうまみがある。

行ったでしょう?この国家が何か企んでいる、探っておいて損はない」

 

「藪蛇になるとは考えないのか?この国の溜め込んだものがあふれ出るかもしれないぞ?」

 

「出てくればそれはそれです、生き残るように動くだけですよ」

 

「彼らには知らせていないのだろう?捨て駒にして時間稼ぎにでもする気か?」

 

「彼らには十分対価を支払っている、納得もしています。教えなくても彼らなら生き残れる。その実力はありますよ。

我々は金を払い、彼らは仕事をする。仕事が終われば彼らは家に帰り、我々はそれを見送る、それのどこがいけないのです?」

 

ただ彼は首を傾げた、微笑みを浮かべたまま。その笑みと変わらぬ一本調子の声に、ヘリアンは背筋に冷たいものが走ったような気がした。

どこまでも単純で、無機質なその言葉は真実味がありどこまでも残酷に聞こえた。

 

「さぁ、今回のビジネスと行きましょう」

 

 

 

 




あとがき
あけましておめでとうございます、お久しぶりです遅筆糞野郎です、ついついリアルに集中してました。
けど正月ネタはやらん。いろいろ詰め込み気味だけど許してください。

後半はドルフロの世界観において自分が感じた疑問『なんで軍がさっさと処理しないの?どう考えても委託案件じゃないでしょこれ?』です。
物語が進んでいろいろわかってくるとどうしても付きまとう違和感でして、使っちゃいました。
E.L.I.Dのやばさとか国家間の緊張とかあるから戦力割きたくないのは分かるけど、それ以上に放っておいた場合の被害総額のほうがやばいと素人だって思いますもの。
そもそも正規軍の装備の生産元の一つってことはその分の供給量は減ってるし、しかも劣化版とはいえ生産されて国民相手に暴れてるとか政府に激震が走るレベル。
正直、PMCに委託するにしても複数企業で一気にボロボロにするくらいやらんとならんのでは?やったのかもしれんが。
それでも約一年ほど暴れさせてるって何さ…絶対なんか企んでるだろ?という隠す気すらねぇよな?と思う次第。
まぁ、世界観的に隠さなくてもいいくらい混沌としてんのかもしれんのですがね。

さて次はどんな奴らぶち込もうかな。


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