U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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どう新人さん?良い音してるでしょ?私はまだまだ働けるよ、ね?だからもっともっと頼ってよ、もっといっぱい稼げるから!!




第30話・SingerSong,MeatChopper

 

遠くで誰かが歌っているのが聞こえる。とても荘厳で、まるで誘われているような、そんなきれいな曲だ。

まるでこの前無くなったという有名なオペラ歌手のような、きれいで、ずっと聞いていたくなる、そんな歌だ。

心地いい、体から不快感がするすると抜けていく、聞いているだけですべてどうでもよくなってくる、もっと聞いていたい、ずっと聞いていたい音色だ。

聞けば聞くほど何もかもがどうでもよくなってくるようだ、だんだん考えもどうでもよくなって、何も考えられなくなって―――頭が重く感じた。

 

「しまった…寝すぎちまったか」

 

男は重たい思考を振り払うようにかぶりを振りながらうめいた、時計を見ると朝方だ。

昨日の夕暮れ時に、帰宅しよう車に乗ったら眠くなったから少し仮眠をとっていたのだがどうやら思った以上に疲労がたまっていたらしい。

ここ最近、新しく入れたひき肉製造機がとても調子が良い上に売り上げも上がったせいで、ここ最近は古い機械も引っ張り出して日勤組と夜勤組に分かれて24時間営業の真っただ中だった。

経理の自分も残業が多くなって昨日は徹夜+日勤業務、現場でひき肉製造機を管理している作業員とは別な意味でハードな仕事だ。

夜通し続いた仕事のせいでまともに寝ていなかったのだからこうなるのも当然だが、ぐっすり寝たおかげで思考はしっかりクリアなのだから寝た意味はあったのだろう。

 

「こんな時間か、帰っても意味がないな…」

 

しょうがない、今日はこのまま仕事場でゆっくりと過ごして仕事に戻ろう。服はさすがによれよれだから、作業員用のツナギを都合してもらえばいい。

そうと決まればまずは腹ごしらえだ、彼はうんと背伸びをしてから車を降りると体感的には来たばかりの道を軽い足取りで戻っていく。

まだ誰もない従業員用入り口を通り、ロビーに出ると見慣れたツナギの男性がデッキブラシ片手に歩いているのが見えた。

清掃員のレイノルズだ、彼もこちらを見つけたようでデッキブラシを両手に持ち直していつも通り周囲を睨みつけている。

元々目つきが悪いのが悩みの男なのは知っていた彼は、挨拶しようと左手を上げようとして腰に痛みが走って表情が歪むのを感じて顔を伏せた。

一瞬理解できなかったが咄嗟に腰に手をやって思い出す、崩壊した鉄血のせいで物騒になったから最近になって拳銃を持つようにしていたのだ。

護身用のマカロフPM自動拳銃を収めた薄型の小さいホルスターは携帯性に優れてはいても、それを付けたまま狭い車内で眠ってしまったら体が無理な体制になるに決まってる。そのせいで寝違えたのだ。

ひどくなかったのかすぐに僅かな鈍痛を伴う違和感に変わり、彼が顔を上げるとロビーには誰もいなかった。どうやらレイノルズはこっちに気付かず通り過ぎてしまったようだ。

変に騒ぎにならなくてよかった、そう考えてあくびをしながらだれもない静かな通路と抜けて職員用休憩室に直行する。ここは長年勤める職員が過ごしやすい環境を整えていて、掃除がしやすく座り心地がいいソファーや雑誌などの娯楽、さらに合成ジャンクフードの自動販売機がある。

彼は合成ジャンクフード自動販売機の前に立つと一度悩むが、自分の完璧な空腹に思わずニヤリと笑ってボタンを二つ押してクレジットカードを読み取り機にタッチした。

 

「こんな日はお大尽に限るぜ」

 

大き目の駆動音がしてから5分後、近くの椅子で部屋の中に流れる耳触りの良い音楽に耳を澄ませて待っていると聞きなれた呼び出し音声が流れて自販機の取り出し口が開く。

中にはホカホカのハンバーガー&ポテトフライのセットとLサイズチキンナゲットボックス。朝からがっつりジューシー、これぞ男の朝飯だ。

 

「うん、これこれ、やっぱり男の子だよなぁ」

 

朝の陽ざしがいい具合に差す窓際のテーブル席に座り、別の自販機で買ったLサイズのコーラも添えてからハンバーガー齧る。

合成品特有の大味な感じがまたたまらない、運がいいのか室内に流れるBGMもアップテンポな曲に変わって食事に彩りを添えてくれる。

一度ハンバーガーを齧ったらもう止まらない、昨日から何も入っていない胃袋が『もっと食べたい』と唸りを上げ、どんどん食が進んでいく。

ハンバーガーを食い尽くし、コーラを飲んでからポテトとチキンナゲットを交互に楽しみ、最後の一つを食ってコーラを飲み切ってもまだ足りない。

気が付けば追加でフィッシュアンドチップスとLサイズのストレートティーを平らげていた。

 

「おおぅ…やっべ、ちょっと食いすぎた…また眠くなってきたなぁ」

 

少し我儘になりすぎた自分を反省しつつ時計を見る、時間はまだまだ朝方で自分のシフトまで時間は余裕がある。

少し寝ても文句は言われないだろう、夜勤組が休憩に来るかもしれないがここで寝ているのは悪いことじゃないし誰も気にしない。

彼はまた眠くなってきた思考の中で結論付けると、一番寝やすい大きめのソファーの上に横になって携帯電話のアラームを余裕をもって起きられる時間にセットしてから目をつむる。

そしてふと腰のホルスターを思い出して、寝違えないように位置を変えてから目をつむると室内に流れていた音楽が子守唄のような音色に変わり、彼は意識が一気に遠のいて眠りに落ちるのを感じた。

だから、次の目覚めも唐突に感じて一瞬何が起きたのか彼には理解できなかった。

 

「ジョシュア!!起きろよ!!」

 

自分を乱暴に揺り起こしたのは会社の同僚だった。あまりに唐突な目覚めに思考がまとまらず、思わずボケた声で答えていた。

 

「…あぁ、ダニエル?おはよう」

 

「おはよう…じゃねぇよ!いったい何があったんだ?」

 

困惑した様子で問いかけてくるダニエルに、ジョシュアは眠い頭でふと疑問に思った。彼はいつもよりも血の気の失せた顔色で、明らかに困惑していたのだ。

まさか寝過ごしたか?そう考えるとさっと眠気が引いて、携帯電話を確認するがすぐに胸をなでおろした。時間はまだ早く、設定したアラームまであと10分ほど残っていたのだ。

 

「昨日帰るつもりが寝過ごしちまってずっと駐車場にいてさ。んで朝方に起きて飯食ったらまた眠くなっちまってよ。

どうしたんだ?変な顔して。まだ仕事じゃねぇだろ、なんか俺、やらかした?」

 

「そうじゃねぇよ、そうじゃねぇ!昨日の夜勤組の連中を見てないか!!?」

 

「夜勤の?レイノルズを見たっきりだけど…作業場にいるんじゃねぇか?昨日はずっと作業してたみたいだしな」

 

「居ねぇんだよ!」

 

「は?」

 

「居ねぇんだよ!人っ子一人、お前以外!今日のシフトに着た連中以外、社長も、警備も、作業員も、ほかのだれも!!」

 

一気にまくし立ててくるダニエルにジョシュアは最初は信じられなかった。だが、彼が嘘をついているようにも思えない。

何かあったんだ、そう思うと室内に流れていた音楽の消えた室内はひどく寒々しく異様な空間に思えてきた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

静かな朝というのは最高だ、銃声もなく、悲鳴もなく、安全で快適な室内で、しかも愛するものを迎える朝はこの世の天国といえるだろう。

これがハンガー建仮宿舎のリビングではなく我が家のリビングならばもっと最高だが、求めすぎてもしょうがあるまい。

奏太は自分の膝の上に座って愛用のM1895カスタムリボルバーを磨く琥珀の後ろ髪を櫛で梳いていた。

シリンダーの穴にクリーニングロッドを通している彼女の邪魔にならないように軽く抱きしめ、彼女のぬくもりを感じながら静かにソファに身を委ねてながら髪を梳くのはやめない。

いつも常備している化粧品セットから時折ミニハサミを取り出して枝毛を整えつつ、ただ膝の上の彼女を感じながら生活音に耳を傾ける。この時間がとても貴重で代えがたい時間だ。

そういえば彼女たちにもよくこんな風に手入れの手伝いをしていたっけな、奏太は遠い過去の事を思い出しながらしみじみと思い出してしまった。

不意に鼻先を潮と機械油の香りが通ったような気がする、自分もだいぶ年を取ったものだ。

 

「奏太、爺臭い」

 

「なんだ急に…」

 

「何も言わんでもわかるわい、ベル達の事を思い出していたのじゃろう?」

 

「まぁな、忘れるもんかい。ファラのヤツは真剣にやるくせに滅茶苦茶ですぐごちゃごちゃにしちゃってて話にならなかったからな、知識は正しいのに何でが狂ってんだもの。

おかげであいつに教わったやつら全員おかしくなるから何度教えなおしたやら…」

 

そのせいでやたらとコスメだのメイクだのには詳しくなったんだ、まったく人生何があるかわかったもんじゃない。

 

「あやつらと違って儂はそんなズボラではないぞ」

 

「なら自分でやれよ、いつも通りにやってりゃいいだろうに」

 

「お主にやってもらったほうが滑らかになるんじゃ。それより、思い出はとやかく言わんが触り方が清らかすぎじゃろ。若いならイヤらしい想像をして悶々とせんか、ほれほれ」

 

そんなこと言われても奏太にはどうしようもない、昔からしないときはしないのだ。

それに今更悶々としろと言われても、悶々とするようなことをできるからする必要がない。

わざとらしく腰かけている位置を深い位置に調節する琥珀の腰つきとアピールを無視するのもそれはそれでだめだろう。

奏太は琥珀のおなかに回していた腕に力を少し混めて抱きしめ、後ろから彼女の右耳に口を近づけて囁いた。

 

「こういうことしてほしいのか?」

 

「そうじゃ、もっとぎゅーってしておくれ」

 

「はいはい、そういやお前の銃の予備、SOPⅡにやったのか?あいつが吊ってるのを見たぞ」

 

「いいや、アーモリー駅製のをそれっぽくしてやっただけじゃよ。儂の銃もアーモリーのカスタムじゃしな」

 

「アーモリー?モスクワのアーモリー駅か?どこで手に入れたんだそんなもん。アウトーチやパーク駅じゃ見なかったぞ」

 

「ここの雑貨屋じゃ」

 

「どこから流れてきたんだそんなもん、うちからは売りに出してないぞ。粗悪品掴まされてないだろうな?ここの連中がそんなもん売るとも思えんが」

 

アーモリー駅はモスクワメトロ内でも有数のガンスミスが集まる銃火器生産駅だ。

モスクワメトロ内という限られたリソースをやりくりして見事な作品を作り出す職人たちが集まっており、今も昔もモスクワメトロ内部で銃といえばアーモリー駅製が頼りにされている。

モスクワメトロ内の政情が不安定になって一度荒廃して廃駅になりかけ、その後持ち直して復興した経緯があり生産時期によっては仕上がりが今一なモノがあるのだ。

パイプガンや有り合わせの代物よりかはましな代物であるが、頼りになるかといえば微妙な所である。

 

「最近出入りしたハンターが武器を新調する下取りで売ったようじゃ、品質の査定はパスしておるから問題は無かろう。

儂も見たが質は上々、おそらく元はレンジャーのカスタム品じゃろうな。D6の戦いよりも前に作られたいい銃じゃよ」

 

「ならいいが…予想よりもやり取りが多くなったんだな。あとでパーツを見に行くか、リボルバーのパーツはまだ買いそろえてないし」

 

「カスタムパーツもSOPⅡが全部買い占めたぞ、残念じゃったな」

 

「そんな金どこから…ん?」

 

琥珀の右耳に目をやると、その奥に少々見逃せないものを見つけた。

 

「琥珀、膝枕」

 

「してほしいのか?甘えんぼさんじゃのぅ」

 

「俺じゃない。俺の膝に、お前がだ」

 

キョトンとする琥珀は言われるがままに奏太の膝に頭を乗せ、右耳を上に向けて寝転がる。

その間に奏太は化粧品セットから一本のプラスチック製の細い棒、耳かき棒を取り出して彼女の右耳に添えて構えた。

 

「そういえば最近してなかったのぅ…」

 

「大物が見えたぞ、サボってんじゃないか」

 

琥珀の頭を少し傾けて耳の中に光を中に入れる、中の様相を見て奏太は小さくため息が出た。彼女の言う通り最近は怠っていたようで、大物のほかにも程よい大きさの汚れがいくつかある。

まずは軽く飛ばせるものを排除するため、奏太は少し勢いをつけて彼女の耳の穴に息を何度か吹きかけた。

 

「ふわぁ!?ぁぁぁぁ♡」

 

息を吹き付けるたびに一瞬緊張して弛緩するのを繰り返す琥珀は見る見るうちに体の力が抜けていく。

いくらか減った耳の汚れを確認してから、奏太は耳かきを彼女の耳の穴に慎重に挿入して目についた汚れに手を掛けた。

 

「ぉぉぉぉぅ…極楽じゃぁ、あ♡そこそこ」

 

「変な声出さない、結構デカいぞ」

 

「最近忙しかったじゃろ?仕方ないのじゃ」

 

「手入れをしない理由にはならねぇだろが」

 

こういう工事の仕事をしていると耳垢以外にも硝煙カスや土塊などのごみが詰まってよく汚れるのだ。

よく勝手に出ていくから問題ないというが、出ていく量よりできる数が多ければ意味もないし人間の耳だから言えることであって人形には当てはまらないこともある。

彼女の体はそういうところは人間のようになっているが、それ以上に撃ちまくって地べたを這いずり回るのだから余計に溜まるのだ。

 

「相変わらずうまいのぅオ゛♡奥がゴリゴリすりゅぅ♡」

 

「だから変な声出すなというに、ハイ反対」

 

「あいたぁ!?」

 

目標の耳垢を取り出してからわざと変な声を上げる琥珀の頭を軽くはたいて逆を向くように指示する。

すると、琥珀はわざとらしくその場で寝返りを打って反対を向いた。顔を奏太の腹により近づける形で。

 

「いいぞ」

 

「いやよくねぇだろ」

 

「想像しちゃったのか?我慢しなくてもよいのじゃ。ほれ、あーん」

 

「やめろ、耳突っ込んじまう」

 

「よいではないかよいではないか」

 

「にじり寄るなうずめるなチャック咥えんな!?」

 

耳かきをしていて下手に妨害できないことを良いことに、好き勝手する琥珀に奏太はなすすべもない。

耳かきをやめればいいことだが、彼女もそれは分かっていて抜こうとするとわざと頭を揺らして妨害する。

わざとらしくズボンのチャックの留め金を口に咥えた状態で、上目遣いで挑発的に鼻を鳴らす琥珀は実に楽しそうだ。

器用にちゃりちゃりと音を立てて、わずかに上げ下げしては悪戯っぽく唇をゆがめている。やられているほうは気が気ではない。

 

「はよ、続きをしておくれ。さもなくばごかいちょーじゃ」

 

「何、ヤってんの?まーぜて」

 

ほら見られたじゃねぇか。

 

「しとらんわ」

 

「あ、耳かき?」

 

「耳かき」

 

「なんだ、残念。どしたの突然?」

 

段ボール箱を抱えて部屋に戻ってきた市代が二人を見てすぐさまそばに寄ってくる。それに気づいた琥珀がおどけながら答えだ。

 

「だらしない所見せちまったのじゃ、大物があったようでな」

 

「そういえば忙しかったもんね。琥珀が終わったら次私もやって、良いでしょ?」

 

「お前もか?こいつみたいなことしないならいいけど。あとその段ボールはなんだ?」

 

「朝霞の百足神社から、さっきオフィスの輸送隊が届けてくれたよ。この前の報酬と特産品がどっさり。ほら!」

 

市代が段ボールから取り出したのは見慣れた魚の干物と缶詰だ、その銘柄が分かった奏太は思わず顔がほころんだ。

一通り綺麗になった琥珀の耳から耳かきを抜いて、きれいにティッシュで拭ってからしまうと市代がそれを見て二つ缶詰を投げてくる。

それを受け取ってパッケージを見ると、見慣れた魚のデフォルメされた絵と日本語の商品名が書かれていた。

一週間に一度のペースでやってくるハンターオフィスの定期便には、笹木一家には注された新しい依頼などだけでなく報酬もやってくる。

 

「キレアジの干物に大食いマグロステーキ缶か、さすがだ」

 

「なんと焼き印付きも入ってたよ」

 

どちらもご飯のお供にぴったりな品で一般流通している食品だが、焼き印付きは取り扱い店が少なくあってもめったに手が出ない高級品だ。

何しろ遺跡の中で育った天然魚を街まで持ち帰ることが難易度の高い仕事な上に、それを迅速に鮮度を保ったまま街に輸送しできる熟練なハンターを雇い、さらにそこから形が良く傷が少ない上物しか使わない徹底した品質管理を行って作っているのだ。

それを戦前の気候を再現した熟成室や加工室で、戦前から生き残った職人とその弟子たちが丹精込めて加工して作り上げたまさに高級品である。

どちらも袋か缶に朝霞の公認の証である焼き印がされていて、街そのものが自信をもって送り出すほどの品という証である。味重視なため保存期間は他の品と比べると短いがその分味は最高だ。

 

「どっちも一つづつか、今日の晩飯は決まりだな。ほかには?」

 

「清めの塩5袋にお札が10枚、お経弾が30発。それから新しいお守り全員分、古いのはお炊き上げしろってさ」

 

「ありがたい、買いに行けてなかったから助かった。今日はこれでパーッとやるか」

 

「その話はまた今度にしたほうがいいわね」

 

今一番聞きたくない声が聞こえた、夕ご飯の献立に思いを巡らせていたところを邪魔された奏太は思わず渋面を作ってリビングの入り口で書類のフォルダーを持って立っていたドリーマーの夢子を睨んでしまった。

 

「仕事か?」

 

「依頼よ、内容は捜査。別地区の挽肉工場で怪事件、現場指揮をお願いするわ」

 

「どんなのじゃ?」

 

さっきまでの悪戯はどこへやら、すっかり素面に戻って寝返りを打って膝枕の姿勢のまま表を向いた琥珀が問いかける。

 

「一晩で夜勤従業員がほとんど消えた、死体は無し、痕跡もほとんどなし」

 

「おやまぁ…ほかに被害は?」

 

「解らない、内部をドローンで偵察した限りでは多少あれているだけで大きな手掛かりは無し。

この前の事もあるし現場は現地部隊が封鎖にとどめてるけど、あまり長引かせるのも良くない」

 

そこの部隊が突入して被害を増やしそうだから早めに専門家を放り込め、とでも命令が来たのだろう。

夢子が投げ渡してきた捜査資料を受け取り、奏太は琥珀をどかして立ち上がる。

 

「即応部隊と一緒に現地に飛んで、10分後にヘリポートA」

 

「了解、報酬はいつも通りに。装備を持ってくる、琥珀、市代、ほかの二人を連れてこい」

 

さてさて次は何が出てくるやら。

そんなことを考えていると、部屋から出ていこうとした夢子がドアの前で立ち止まった。何か伝え忘れてたのかと思ったが、なぜか少し気まずげにしており頬を赤らめて戸惑っている。

あかん、奏太はふと彼女が言いたいことが予想できてしまい思いっきりため息がつきたかった。

 

「ところでその…ヤってた?」

 

「しとらんわ!!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

現場になった精肉加工工場を見て奏太が最初に見たのは、歴史があるにしては小綺麗で先進的な外観をしている建物だということだった

陽光に照らされたランソン精肉加工会社はきれいな外見をしていて、3階建てのこじんまりとしつつも新しいビルと隣接されている精肉加工場の四角い建物は流行りの様式を取り入れた現行の建築法で作られているように見える。

外から見た限りでは怪事件が起きたようには見えない、この会社が近くの街から若干離れた場所にあることもあって静けさが心地よいくらいだ。

ランソン精肉加工会社は戦争の前からこの場所で精肉業を営む古い会社だ。現在は合成品の肉を使った挽肉が主な取扱品であり、主にこの周辺の中流階級向けに出回っている。

戦争を生き抜いた民間業者が同じ土地でずっと同じ商売をするなんてよほど運が良かったのだろうと思っていたが、商売もそこそこうまく回っていたようだ。

会社自体も幹線道路沿いにありアクセスはしやすい、食肉を運ぶ大型車の乗り入れがしやすい地形だ。その正面入り口、車両用ゲートのそばに笹木一家は身を潜めていた。

 

「随分ときれいな建物だね、老舗っていうからてっきり建物はもっとぼろかと思ってた」

 

「商売がうまくいってたらしい、金の使い方がうまかったんだろう」

 

ゴルカ4サバイバルスーツに身を包んで完全武装をした姿の5人は少しだけ顔をのぞかせて目標の正面入り口を自分の目で確認してから遮蔽に顔を引っ込める。

上空写真では広い敷地に建物は2棟、平屋でかまぼこ状の建物の加工場と事務所などが入った3階建てのビル。

敷地の正面は3階建てビルであり、その後ろに加工場が広がっているという構図だ。幹線道路に面した箇所以外は雑木林に覆われている。

正面入り口を雑木林に現地のグリフィン部隊が部隊を派遣して封鎖しており、今は鼠一匹出入りするのも発見されるだろう。

 

「ここの社長はずいぶんとこの場所での商売に思い入れがあったようですよ、先祖代々この場所で商売を営んできたそうで」

 

「昔からか、誰からの情報だ?」

 

「生存者です、名前はジョシュア・アレフ。会社の休憩室で暢気に寝てたところを、事件の第一発見者が見つけたそうです。

第一発見者はダニエル・ザインスキー、ジョシュア・アレフの同僚で経理担当、今は二人ともこの区域の基地で取り調べ中ですね」

 

サラが携帯端末に挙げられた情報を読み上げるのを聞きながら、目の前に見える近未来的な工場の周囲を見上げる。いったい何が潜んでいるやら…

 

≪指揮官、ブラボー準備完了。いつでもいけるわ≫

 

「わかった。チャーリー?」

 

≪チャーリー、配置完了。周りがうっさい≫

 

リーダーのG11がうんざりした様につぶやく、大きな騒ぎはしていないのだろうが静かなのが好きな彼女にはイライラの元なのだ。

チャーリーは狙撃部隊だ、今回はG11、SVTー38、SuperSASSが投入されていて現地部隊に交じって周囲を見張る。

アルファ、ブラボーは突入部隊だ。アルファの笹木一家は正面から突入、FNFAL、一〇〇式機関短銃、Vz61スコーピオン、イングラムM10、9A91のブラボーチームは裏口から突入する。

あとは中を確認して、敵がいたら撃てばいい。その敵が何なのかは皆目見当もつかないが、それを調べるのが自分たちの仕事だ。

 

「ほっといて周りをしっかり固めとけ、逃げられたらまた面倒だ」

 

≪了解、出てきたらぶち抜く≫

 

「やってやれ、実力見せれば文句は言わんだろ」

 

RF型戦術人形で構成されているのが普通の狙撃部隊にAR型戦術人形がいるだけでも奇異で見られるのが嫌で嫌でたまらないようだ。いつもの事である。

 

「行くぞ、交互に前進。U05全部隊、作戦開始」

 

「了解、後ろに付きます」

 

頷くサラに奏太は頷き返してガスマスクをかぶる、今日の得物に選んだガリルAR突撃銃を構えて先陣を切る。その後ろにガリルAR突撃銃を構えるワルサーP38のサラがついて進む。

それをカバーするためにガリルAR突撃銃を持つ琥珀とシャンブラー散弾銃を持つ市代と美奈が、入り口の遮蔽から顔をのぞかせて待機する。

奏太は手ごろな遮蔽になる車の陰に身を潜めると、同じように応戦できる姿勢を取りながら琥珀たちにハンドサインで合図を送った。

それを見た琥珀が頷き、シャンブラー散弾銃を構える市代とサラが先頭に立ちその後ろにガリルAR突撃銃を構えた琥珀がフォローに立って進んでいく。

こうして笹木一家は互いにカバーしあいながら正面入り口を進んでいくが、人気はなく応戦してくる気配もない。

何事もなく正面入り口に奏太とサラはたどり着くと、わずかにドアを開いて内部を確認してからゆっくりと中に侵入した。

正面入り口から入ると来客用のエントランスになっており、リノリウムの床と小綺麗な受付が正面にあり、窓際に待ち合わせ用のソファーがある。

不気味な静けさだけがエントランスにあって、奏太は人気もトラップもないのを確認して外にいる3人にも入ってくるように指示を出してガリルAR突撃銃を構えたまま探知機を取り出した。

 

「静かですね、人気が全くない」

 

「あぁ、でも居なくなってそう経ってない。昨晩まではいたな、確実に。探知機に反応も無し。そっちは」

 

「同じく」

 

「了解、3人を呼ぶ、報告任せた」

 

「アルファから司令部、エントランスクリア、警備室に向かいます」

 

外にいる3人に中に入るよう手信号を送る奏太の代わりにサラが指令室へ報告する。空から監視するドローンの映像と一緒に現場をモニターするU05基地の指令室では、部隊を支援する支援オペレーターとフランシスが詰めて現状を常に把握、分析しているのだ。

 

≪了解、アルファはそのまま前進してください≫

 

「アルファ了解。アルファからブラボー、建物内に入りました、各種探知機、センサーともに反応なし、そちらは?」

 

≪こちらブラボー、一〇〇式。現在作業場より侵入を開始。こちらも探知機、センサーに反応は見られず、調査を続行します≫

 

「了解、気を付けてください。素手で触らないように」

 

≪そちらも≫

 

一〇〇式からの返答にサラは短く了解を返してから無線を切る。

 

「エントランスに痕跡は無し、いい清掃員を雇ってるのかもね」

 

「かもな」

 

市代の想像に奏太は頷き返す、もし相手が人間ならばあり得る話だろう。人類生存可能圏内でも圏外でも『犯罪』ならばその手の需要は常にあるのだ。

人間の犯罪が今回の相手ならばまだ想定内だが、人間には化け物などにはない悪辣なところが無数にあって難しいのだ。

 

「…なんじゃこりゃ、みんなこれを見てみろ」

 

受付脇の通路に入り、すぐ横の事務室に入ると琥珀が全員に手招きをした。

事務所の中はエントランスに比べれば荒れていたがその荒れ方が妙な点だった。

書類棚にある書類やデスクの上はまるで慌てて片付けたような痕跡があったのだ、まるで整っていたのをぶちまけてしまったから戻したように。

それに荒れている机と荒れていない机、荒れていない書類棚と荒れている書類棚が混在している。

そして何より妙なのは『元の所在が分からないのでこちらに置いておきます。レイノルズ』とメモ紙が置かれた書類の束とファイルが、室長の物と思しきデスクに置かれていることだ。

 

「調べよう。市代、あっちを。琥珀、美奈」

 

琥珀と美奈を市代に着けて手ぶりで事務所の奥と別の出口を示しながら、奏太は書類の束に置かれたメモ紙を注視した。

愉快犯や自己顕示欲のある奴らの犯行証明とも見えるが、ただのメモ紙にボールペンで走り書きしただけであるし何より事務的でメッセージ性が感じられない。

 

「レイノルズ、この置き方…サラ、見覚えは?」

 

「道場で雇ってた清掃員のやり方に似てますね。引っかけちゃって分からなくなったり、落ちているのを見つけたけどどう戻していいかわからなかったりしたらこうしてました。ちなみに、普通の清掃員ですよ?」

 

「解ってる、そこまでボケてない」

 

だとすると、清掃員が入った後にことが起きたのか?デスクに置いてあるファイルにレイノルズの書置きが張られているのを見つけてそれを手に取りながらそう思った。

しかしファイルを開いてみて、その考えをなかったことにした。

 

「給湯室もじゃな、散らかした後に片づけた痕跡がある…?」

 

「奥の廊下、何か零した跡があるけど拭かれてる。血じゃない、コーヒーみたい…どったの?」

 

「ここの事務員の名簿発見…二人とも変な目つきしてるけどどうしたの?」

 

「困惑してるんだよ、なんで片付けられた書類に、こんなのがあるんだ」

 

ファイルは同系統の書類が何枚も挟まれており、その一番前の書類には赤黒い血しぶきが付着していた。

まだ新しい血なのはここにいる誰もが理解できた、事件の後にこの清掃が置かれた可能性が出てきたということだ。

状況は良くない、さらに細心の注意を払って調査に臨むべきだろう。もしかしたらすでにここは化け物の腹の中かもしれないのだ。

 

≪ブラボーFALよりアルファ、報告があるわ?≫

 

「こちらアルファ、ちょうどよかった、俺も話がある。先にどうぞ」

 

≪作業場で気になるモノを見つけました。挽肉製造機のバケットに、新鮮な挽肉と骨が山積みです≫

 

「そりゃ挽肉工場だからそうだろうな…まさか人間のか?」

 

≪えぇ、分別用のバゲットに人間の骨がぎっしりよ。間違いなく挽肉も人肉だわ、これもバケットにたっぷり。しかも何個もあるわよ≫

 

「なるほど、了解。外の連中には注意ししておこう」

 

少なくともここでは人が死んでいる、それも大勢だ。それだけでも頭が痛いのに、わざわざ解体までしているとなるとそれなりに知能があるということになる。

まだ断定できる段階ではまるでないが、どちらにしろ厄介だろう。

 

「こっちは妙な掃除された殺害現場だ、隠蔽されているにしては妙でな」

 

無線機越しでもわかる困惑の声を上げたFALに、奏太は弧の事務所で見つけたものと残された痕跡について説明する。

FALもその異様さを理解したようで悩ましそうに相槌を打ってくれた。

 

≪了解、こっちももっと注意してみてみる。もしかしたらまだいるかもしれないわね≫

 

「そうしてくれ、こっちも警備室へ向かう。以上」

 

通信を切って手ぶりでこの部屋の捜索をいったんやめて先に進むと全員に伝える。それを見た琥珀と市代が頷き、ほかの二人の肩を叩いて調査をやめさせる。

奏太は4人の視線が自分に集まったのを見てから『前進する、自分に続け』と手信号を出してからガリルAR突撃銃を構え直して廊下に出た。

廊下には相変わらず人気はなく不自然に日常的な清掃の跡が残っているだけだ、それが奏太には気味が悪く感じられた。

慎重に周囲を警戒しながら進む。足元や天井に奇襲しやすいダクトなどが口を開けていないか、そのダクトに何かが潜伏しているような痕跡がないかを確認しながら。

警備室までは何事もなくたどり着くことができた、奏太は自分たちが入ってきた入り口の守りを美奈に任せて4人で入る。

警備室の中はやはり無人できれいに整頓されていた、荒れていた室内を清掃した痕跡が残っている。

 

「ここもか、奇妙だな」

 

「そうだね、何がしたかったのかな。ちょっとカメラ見てみるね」

 

奏太の呟きに市代が携帯端末を取り出し、部屋に設置されていた監視カメラの録画機材に接続コードをつなげてアクセスを試みる。

奏太は彼女に監視カメラを任せて、さらに別の入り口を見張るように指示してから再び室内に目を這わせる。

 

「おい、あれを見ろ」

 

何かに気付いた琥珀が部屋の戸の開いたロッカーを指差す、どうやらこの警備室にいた警備員達の武器装備がしまわれていたロッカーの様だ。

ロッカーは指紋認証と暗証番号で開くタイプでロッカー自体は頑丈なようだ、無理やり開けるには相当乱暴にしなければならなそうだが様子を見る限り乱暴に開かれた様子はない。

琥珀が警戒しながらロッカーに近づき、安全を確認してから半開きの戸を開く。中には警備員用の防弾チョッキや、自動拳銃が5丁残っており銃弾も残っていたがいくつから持ち去られたようだ。

 

「N99の民間モデル?随分マニアックなもん使ってるな。ほかには何があった?」

 

「レミントンM870が2丁とテーザーガンが6丁、警棒も人数分と予備…妙じゃな」

 

ロッカーの棚には保管装備の目録の挟まったバインダーも一緒に入っており、琥珀はそれを見ながら答える。

 

「実弾しか残っておらん。警棒とテーザーガンがなくなっておる、テーザー用の予備バッテリーもじゃ。

レミントンも無くなってるのは暴徒鎮圧用のゴム弾だけ、実弾は残っておるぞ」

 

訝しげにする琥珀が残ったN99自動拳銃に電磁場探知機を向けるが目立った反応は示さない。それを見て奏太は頷いてから、ロッカーからN99自動拳銃を手に取った。

持ち手を肉抜きしたようなえぐれを持つデザートイーグルのようなスライド、銃の前面は顎が突き出たようなちょっと間抜けなスタイル、民間向けに製造されていたショートバレルタイプだ。

旧アメリカ合衆国で開発された大型拳銃に弾倉が装填されていないのを確認し、スライドを引いてチェンバーを確認、戻しながら作動恩に異常が見られないか確認してから引き金を引く。

撃鉄の落ちる金属音は、よく整備されているのがよくわかる音だった。

 

「よく整備されてる、不良品ってわけじゃなさそうだな。となるとそれが必要だったってわけだが…市代、監視カメラはどうだ?」

 

「問題ない、見た限り建物内にて敬は無し。録画映像は…少し時間かかる」

 

監視映像の録画装置に携帯端末をつなげて操作する市代に奏太は残された実弾を手に取りながら問いかけると、彼女はカメラで今の映像を確認しながら答えた。

録画映像をそのままここの機材で見ることもできるが、安全を確保できているわけではないここで長々と映像を確認している余裕はない。

それにこの会社を襲ったナニカが、どんなトリガーで引き起こされるかもわからないのだ。用心に越したことはない。

まずは証拠をできる限り持ち帰るべきだ、そこから分かることはいくらでもあるのだから。

 

 

 






あとがき
某エネルギー会社に社会科見学に行ってきたイナダ大根です。面白かったので早速出しちゃったんだぜ、今回はオカルト系相手ってことで一つ。
ちなみにあの原作では常にボロボロでした、 自分はああいうのには向かないのは知ってるんですがそれもまた面白い。頭がこんがらがってくるけどな。




ミニ解説
『N99自動拳銃』
出展・Falloutシリーズ(4より)
詳細
旧アメリカ合衆国で設計、製造された大型自動拳銃。原作では主に10ミリピストルと呼称される。
装弾数12発、10×25ミリノーマ・オート弾(以後10ミリAuto弾)を使用する。
最新のプラスチックや合成樹脂などの複合素材を一切使わず、時代を逆行したような木と鉄で構成されたセミオート式自動拳銃。
大型で太いため使用弾薬に比べて重量があり携行性が犠牲になっているが、重さが射撃の反動を相殺する形になっており使い勝手は素直であり素人でも扱いやすく、命中精度もその素直な射撃性能からそれなりに当たる。
第3次世界大戦とそれに伴う物資難を見据え、生産性を重視し原料も手に入れやすく安価な素材で構成されていたため人類生存可能圏外では再生産された個体も出回っている。
そのため手に入れやすく比較的強力な部類である10ミリAuto弾を使用することで威力もあることから、自衛用または初心者向けの一丁として人類生存可能圏外では認識されている。
反面、人類生存可能圏内での知名度はいまいち。主だった生産国はアメリカだが第3次世界大戦の勃発で崩壊したため、人類生存可能圏内には正規の生産設備と設計図を持つ国はあまり多く残っておらず採用国家が稀で、また技術の進歩で複合素材を用いた銃火器が生産不能に陥らず逆に大生産されて多く流通してしまったのでこの銃の居場所はほとんどなかったのである。


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