U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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ついに第一の犠牲者が登場、彼女が嫁の人ごめんなさい!別の彼女は頑張るから!
筆が乗るのはいいのだけれど、長すぎワロタ。駄目な典型ですね。



第1話・捜索1

 

 

私達は望まれて生まれたわけではなかった、私たちが私達になったのはただの偶然だった。

望まれていたのは死ぬことだった。オリジナルを守って、ただ時間を稼ぐことだけだった。

私達はダミー、AR小隊がある任務を遂行するために特別に制作された特別なダミー人形。

IOP製の高性能電脳をダミー用コアの代わりに用い、AR小隊各員の機密性の高い記憶を処理した偽の記憶を埋め込まれた肉の盾。

鉄血に捕まっても、本物のフリをできるようダミーとしての自覚も消えるように設定された囮の人形、それが私達。

逃げて逃げて逃げ続けて、自分が何者かも忘れて、埋め込まれた記憶のままに本物だと思い込んで逃げ続けた。

それが任務だから、それが私たちの役目だから、それで死ねば、きっと指揮官達に迷惑なんてかけなかった。

私達は偽物だ、AR小隊の偽物、特別なダミー、性能のいい囮の駒、それだけしかない。

ダミーがあれだけの敵を引き連れて逃げ込んできて、指揮官達U05基地にはひどい負担をかけた。

エージェント、アルケミスト、ドリーマー、デストロイヤー、鉄血のハイエンドの中でも新機種、上位機種ばかりが立ちはだかった。

ペルシカ博士の狙いは当たっていて、プランBの私たちは見事に囮となって主力を引き付けたという訳だ。

そしてたどり着いたのは最前線の捨て駒基地、埋め合わせの臨時指揮官とその配下、各所で敗走して来た人形達の寄せ集め、勝てる要素なんてなかった。

本部に連絡するすべはない、支部も補給を送るのみで完全放置、まさにどん詰まりだった。

でも自分を偽物だと知らなかった私達は指揮官に助けを求め、本物を知らない指揮官たちはそれに応じてくれた。

自分たちを守るだけで精一杯のはずなのに、彼らは躊躇なく受け入れてくれた。

みんなけがをした、私達も、指揮官でさえも。それでも生き残り、勝利した。けれども手に入ったのは死ぬはずだったダミー。

普通の人間なら怒っている、グリフィンの英雄となるはずだったのに、あれだけ苦労したのに偽物をつかまされたんだから。

指揮官のあずかり知らない所でAR小隊は助けられていて、私たちはただのおまけ、いやそれ以下だった。

この攻勢のせいでU地区の基地の多くが被害を受け、壊滅した基地も少なくなかった。私達が逃げて来たから、余計にひどくなった。

ここが標的になったのは、鉄血が私達を標的にしていたから、それを私たちが招き寄せてしまったから。疫病神もいい所だ。

 

『そうは言うがな、お前は確かにここにいる。M4A1、M16A1、AR-15、SOPMODⅡという人形はお前しか知らないんだ』

 

なのに指揮官は気にしなかった、精鋭を気取っていたバカなダミーの手を取ってくれたんだ。

全てが終わって、本部に連絡がついて、基地に出向いたペルシカにすべて思い出させられた私達に、指揮官は何事もなかったように言った。

 

『同じ顔がもう一人なんて人間でだってよくあることだ。なに?偽物?バカ言うな。

ここで一緒に戦ってきたお前らはここにしかいない。俺たちの背中を守ってくれたのはお前たちだ、違うか?』

 

ダミーだとか、イレギュラーだとかは関係ない。彼は不敵に微笑んで、私達を認めてくれた。

 

『こんなに強いのに初期化する?もったいない、内地だって裕福なわけないだろう』

 

何もない私達に手を差し伸べてくれた、偽物の私達に本物を手に入れるチャンスを彼は与えてくれたんだ。

私達は最後の最後で思ってしまったんだ、私達を庇う彼の背中を見て怖くなった。ただのダミーに戻れば、何もなくなる。

短い間だったけれども、U05で過ごした日々も、指揮官の声も、仲間達も、何もかも消える、それが嫌だった。

嘘にしたくなかった、偽物にしたくなかった。だから私達はスペアになった。

AR小隊のセカンドプラン、AR小隊の商業用ダウングレード版の先行試作人形として、『SPAR小隊』として。

 

 

 

 

第1話・捜索1

 

 

 

 

「部隊の捜索?」

 

U05基地の作戦会議室、指揮官の集められた戦術人形たちはホログラムマップの前で首を傾げる指揮官の言葉に首を傾げていた。

スプリングフィールドM14、M4A1、IDW、イングラムM10、スコーピオンVz61、一〇〇式機関短銃、M2HB、M3グリースガン、SuperSASS。

9人の人形が並べられたパイプ椅子に座り、怪訝そうな表情を浮かべている。

また支部からの無茶ぶりかな?それとも本部からのいらないお節介かな?一〇〇式は指揮官の言葉を待ちながら頭を抱えた。

 

「あぁ、ヘリアントス代行官からの仕事だ。これを見てくれ」

 

決定、これは本部からのありがたくもないお仕事だ。これでまた支部やほかの基地から睨まれる。

指揮官がホロマップのリモコンを操作すると、空中にいくつかの空撮写真と降下する部隊の写真が映し出される。

空撮写真には、霧に覆われながら何か巨大な物体が引きづられたような痕跡が三つ一直線に刻まれているのがうっすら見える森。

そしてヘリから降下するグリフィン&クルーガーU地区支部のエリート部隊が捉えられていた。

他にも捜索隊の後姿と思しき写真がいくつか並び、次いで部隊の顔写真が部隊ごとに映し出される。

 

「U08は鉄血に占領されて以降強力なジャミングが確認されていた地域なのはみんな知ってるな?

無線が十全に機能しない上にレーダーもダメ、それ故にグリフィンは手を出せず一応平穏だった場所だ。

だが一週間前から濃い霧が発生、次いで激しい戦闘が行われた。鉄血を襲った勢力は不明、グリフィンの部隊が攻撃したわけではないそうだ。

数日間にわたり激しくぶつかり合ったようだが、不思議なことに鉄血も謎の勢力も霧の中から出てこなかった。敗残兵、鉄血側の補給、何もかもない。

支社はこれを異常事態と判断し、謎の戦闘と霧の発生原因を探るため偵察部隊を送り込んだ。

当初は鉄血の作った新兵器の可能性もあるとして慎重に捜査するつもりだったようだ。

しかし部隊は連絡が途絶え音信不通、支社は全滅と判断し部隊を再生し再編。部隊を増員してさらに第2陣、第3陣と送り込んだ。合計で50人、全員がダミーをフルリンク使用しているから250人、全員が消息不明になった。

不思議なことに、戦闘という戦闘は確認されていない。全員、まるで霧に飲まれるように消えていったそうだ。

支社長は支社戦力では手に負えないと判断したため本社に連絡、近場で動ける我々に話が回ってきた、という訳だ」

 

「大きいですね、木がこんな広範囲になぎ倒されている。でも、燃えた痕跡が見えない。

大質量の物体が、かなりの速度で突っ込んだように見えます。でも、そんな代物が写真に写っていない。

でも、そんな話今の今まで聞いたことがない。ましてやそんな作戦が行われていたことも聞いてないですが?」

 

「知らんよ、俺もヘリアントス代行官から任務を受けて初めて聞いた」

 

「指揮官、うちも支部戦力のはずですが?本部からは?」

 

「あとでFN小隊が合流する手はずになっている、俺たちは先発だ」

 

「また面倒な仕事を……」

 

呆れたようにつぶやくイングラムの視線は墜落したらしい巨大物体墜落の証拠写真に注がれる。

ひときわ大きな墜落跡を挟むように、比較的小さな跡が等間隔に並んでおり木々をなぎ倒している。

木々のなぎ倒された方向がほぼ統一されていて、三つともに同じということは同方向に一緒に落ちて地面を滑ったようだ。

 

「つまり、私たちは彼女たちを見つけろってことですね?」

 

「そのとおり、それから支部からも任務が来ている。作戦に付随し、行方不明の部隊全員のデータを集める事、だそうだ。

ジャミングを停止させて部隊の侵入を容易にするか、鉄血部隊を殲滅し安全を確保する、このどちらかをやる必要がある。」

 

「バカ?こちとら10人だよ、馬鹿みたいに投入した偵察部隊全員のデータを集めろってだけでも無茶でしょ」

 

罠だ、あからさまに臭い、胡散臭そうにするスコーピオンに一〇〇式も同意見だった。だがそんな無茶ぶりはいつもの事。

本部からは使い走り、支部からはそのせいで睨まれる。指揮官が頼りになるのが救いだ、彼についていけば死にはしない。

 

「あぁ、だから好き勝手言わせてやった。俺たちが撤退できる条件は、ジャミングを何とかして支部・本部部隊の侵入を容易にすること。

生き残りを見つけて保護すること、全滅した部隊の情報を集める事、鉄血部隊の完全殲滅、このうち一つでも達成できたらだ。

それ以上は俺達じゃどうにもならない、後続に任せよう」

 

「ならさっさとジャミング壊して楽しよう」

 

「そううまくいくものか、この地域を落とした鉄血部隊にはハイエンドがいるぞ。それも新型だ」

 

ホロマップにさらに映像が追加される。占領されたU08基地の外周をドローンが撮影した写真だ。

その中庭、量産型鉄血兵がせっせと物資を運んでいる傍らに趣が違う鉄血の戦術人形が二人佇んでいる。

一人は冷徹そうなメイド、もう一人はツインテールに黒セーラー服の傲岸不遜な少女。

 

「エージェント!?」

 

M4が驚いて目を剥く。暴走する鉄血の大ボス、いまだ姿の見えない何かの副官、それがこのメイド、エージェントだ。

彼女に追い掛け回され、殺されかけたのだからその強さも身をもって知っている。

その彼女が直接乗り込み、わざわざ様子を見に来る相手となればその地位は高く、そして強いのだろう。

 

「その通り、こいつはこの件が起きる前に偶然ドローンが撮影したものだ。この物資がそのもとかもしれんな。

そしてこいつの隣にいる奴、武装、スペック、その他諸々一切不明の新型だ。今までの相手とは格が違うだろう。」

 

「ついに新型か、こりゃますますきつくなってきたね?」

 

「そろそろハイエンドキラーの名前を返上したいところだ、ちょうどいい相手だろう」

 

つまり出会ったら殺さないで逃げろということだ、賢明な判断だろう。自分たちの強さには自信はあるが、無敵とは思っていない。

 

「指揮官、エージェントはまだいるの?」

 

「不明だ。もしかしたら、ここの指揮を執っているかもしれん」

 

だとすれば最悪だ、支部戦力が尽く壊滅判定を食らっているのも頷ける。誰一人帰ってこないあたり、徹底しているのだろう。

鉄血ハイエンドとなれば単体の戦闘能力も相当なものだ、それと高い指揮能力が合わさっているエージェントは強敵だ。

しかも戦闘区域は深い霧に覆われた森林地帯。見通しが効かない上に閉所での戦いを強いられる、戦いづらいことこの上ない。

 

「迎えのヘリが来る、それでできる限り旧U08基地まで接近、その後は陸路だ。

作戦目標は支社部隊の救出、または損耗の確認。鉄血の姿は確認できないとはいえ、間違いなく戦闘になるだろう。

市代、M4、一〇〇式、IDW、スコーピオン、イングラム、SASS、地上からU08基地に向かい、捜索及び救助にあたれ。

M2、M3は上空より援護、ヘリに得物を添え付けろ。以上、準備に掛かれ。三〇分後に出発する」

 

「ステンとFNCは?」

 

「帰還を待つわけにはいかんとさ」

 

「支部から?」

 

「YES」

 

本当にろくなことしないな、と軽く考えながら一〇〇式は今後のプランをつらつらと考える。

ステンとFNCがいればよかったが、彼女たちは任務のために護衛に出てしまっている。

彼女たちは壊滅したU08基地のメンバーだ、基地周辺の地理は基地内部の構造に詳しい。

輸送部隊は無線封鎖していないので、今のうちに無線で聞ける限り聞いておくべきだ。

 

「U08基地の内装、および周辺地図だ。それからステンたちから聞いた裏道と隠し通路、倉庫もある。確認してくれ」

 

「さすが指揮官、解ってらっしゃる」

 

スコーピオンの相槌ににやりと彼は笑って見せる。

 

「聞いての通り、いつものごとく少数突撃となる。敵の数は不明、敵も不明である以上状況は芳しくない」

 

「いつもの事だにゃ」

 

きっと他の基地ならば断わられる厄介な仕事だ、だが慣れっこの一〇〇式は狼狽えずに状況を飲み込む。

おそらく無数の鉄血人形が待ち構えているだろうし、U08を落とした鉄血のハイエンドタイプも待ち構えているに違いない。

でもいつもの事だ、だからこそ出撃メンバーに動揺はない。皆自然体で、指揮官の合図を待っている。

無茶ぶりにはもう慣れた、冷遇にももう慣れた、手を出してこないだけマシだ。住めば都とはよく言ったものだ。

人形たちの目を見つめ、満足そうに頷いた指揮官はホロマップの電源を落として笑った。

 

「さ、行こうか」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

太陽が空高く上る空、雲の少ない青空を2機の大型ヘリが飛行している。

久しぶりのヘリだ、M4は座席から感じるヘリの振動と浮遊感を感じながらU05基地の生活に慣れた自分に驚いていた。

周囲の仲間達もみんな久しぶりのヘリコプターの登場に心なしは浮かれているようで、面白そうに窓から下を眺めている。

今自分たちが乗っているヘリコプター『CH-47E・エレクトロチヌーク』はグリフィン&クルーガー社ではメジャーな輸送機種だ。

従来のエンジンを高出力モーターに切り替えた電動式のタンデムローター式輸送ヘリコプターは、元となった機種よりも大馬力でかつ静かな飛行能力を獲得した。

しかしU05基地には配備されていない、最初から配備されていなかったことに加え支部が指揮官を嫌っているので要請も受理されていないのだ。

今使用しているのは本部から回された借り物だ。最新型なのか、支部の機体よりモーターの静粛性がよくなっていて機内は快適そのものである。

普段は中古のおんぼろや修理した放棄車両を使用しているので、乗り心地は常に最悪なのだ。

 

「またチヌークの性能上がってない?」

 

「さすが本部といったところでしょう、一級品ぞろいです」

 

スコーピオンの呟きに、イングラムはグリフィン広報紙を見ながら答える。どうやら機内にあった最新号を読んでいるらしい。

 

「うちに来るとしたらどれくらいで回ってくるかな?」

 

「他の基地が壊滅したら回ってきますよ」

 

当たり前のように否定するイングラムにスコーピオンはそうだねと肯定を返す。特に何も感じていないようだ。

当然か、M4は座席の周囲を見回し、広い機内でゆったりと座る仲間たちと新品ピカピカの銃座の調整を行うM2を見て思う。

M2HBの扱う愛銃は、新品の銃座に比べれば傷だらけで使い込まれている。おんぼろともいえるその姿はあまりに不釣り合いだ。

スコーピオンやイングラムも愛銃はかなり使い込まれており、傷がない箇所はないといえるだろう。

自身のM4A1でさえ、根気よく磨いたおかげで角が取れているくらいだ。

 

「でもそれより私は葉巻が欲しい」

 

「葉巻?んなもん支給されるわけないじゃん」

 

「あの香りとナパームは格別じゃないですか、あなたもそう思うでしょ?」

 

「そりゃそうだけどさ」

 

何とも危ない表情で危ないことを口にするイングラムは恍惚とした表情で広報誌を抱いて笑う。

 

「指揮官、ジャミングを確認。通信が切れます。」

 

「了解。聞いたな、レッドゾーンだ。」

 

操縦席の真後ろ、メインパイロットを務めるM3グリースガンの後ろから機首をのぞき込んでいた指揮官が機内に振り返る。

コンバットブーツに森林迷彩柄戦闘服、随所にポーチ類が付けられて改造されている。元はゴルカスーツだろう。

ロシア製の旧式ヘルメットとガスマスク、背中に挿した大型マチェットと各種小道具を詰めたバックパック。

その姿は第3次大戦前の軍人、といった風貌で前線に出てくるタイプの指揮官の中でもかなり特異な存在だろう。

 

「…おかしいな。霧が消えている?M3、U08に入ったはずだな?」

 

「はい、航路も正しいはずです。ほら、あそこを見てください。レーダー設備が見えます、U08のものですよ」

 

訝し気に指揮官が唸る。M4がつられて眼下を見ると、確かに周囲はクリアだ。

前情報ではU08は深い霧に覆われていたはずで、視界が効かないはずだった。

だが今は霧のひとかけらも見当たらない、人口植林のし過ぎでうっそうとした森林が広がるばかりだ。

 

「変ですね、昼間は霧が無くなるとか聞いてました?」

 

「いや、昼夜問わず濃い霧で覆われていたはずだ。予定変更、クレーターの方に向かってくれ。探ってみよう。

各員、警戒を怠るな。これじゃ下からも丸見えだろう、狙われ放題のはずだ。鉄血はどこに行った?見かけたか?」

 

「いいえ、隠れているのかもしれませんが、まったく見えませんね。応戦も無し、狙われている様子もなし、不気味です」

 

「なら撃たせよう、撃ってくれれば敵が何かわかる。飛べる限り飛ぶぞ」

 

撃たれること前提での強行軍だ、相変わらずめちゃくちゃでM4は苦笑いしながら自身の銃の弾倉を確認する。

正規軍上がりの指揮官や、本社の訓練課程を受けた指揮官ではまずそんなことはしない。

 

「M2、狙えるな」

 

「OK!M3、任せたわよ!」

 

銃座を弄っていたM2はスライドレバーを引いて初弾を装填、M3も無言でサムズアップを返す。

機体がわずかに浮き上がり、機首が横に振れる。指揮官はM3から搭載機器用の備え付けPDAを受け取って操作し始める。

搭載されたレーダーを確認しているようだが、無線と同じくジャミングされてしまっているようだ。

お手上げ状態になった指揮官はPDAをM3に返し、自分も窓から眼下を見下ろす。眼下には、きれいな森が広がるばかり。

霧のせいで濡れていたらしい木々に付いた水の雫が、時折きらきらと輝いている。

いつもならば鉄血人形でひしめく占領されたU08地区だが、場違いなほど静まり返っていた。

 

「綺麗……」

 

静まり返っていた機内に指揮官の隣から森を見下ろしていたM14の呟きが響く。

彼女の言う通り、さんさんと日光に照らされた森は言葉にできないような魅力があった。

世界大戦とコーラップスで荒廃したこの世界で、グリーンゾーン周辺以外ではこんな場所はもう数少ないだろう。

指揮官と一緒にE.L.I.Dやミュータントを相手に荒廃した汚染地帯を旅していたM14にはとてもきれいに見えたのだろう。

 

「観光ならよかったのにな」

 

「残念ながら仕事だ、次の機会にな」

 

「次っていつ?」

 

「お前、何のためにこの仕事受けたんだ?」

 

困ったように笑う指揮官、きょとんしてから何を想像したのか顔を真っ赤にして挙動不審になるM14。

分かりやすい反応にM4以外の全員が微笑ましそうに、あるいは面白そうににやにや笑う。

やがて落ち着いたM14だが、頬を赤くしながら指揮官にもじもじししながら上目遣いを送る。

 

「覚えてたの?」

 

「忘れられるわけないだろ、みんなで俺をめちゃくちゃに―――」

 

「あ、あれは、その、勢いっていうか、その……み、みんなも同じ気持ち、だったし?」

 

羨ましい、M4は胸の内に燃え盛る嫉妬に表情をむすっとさせながらM14を睨む。

いつも見せつけてくる、指揮官を彼女たちは独占している。敬愛する指揮官の、プライベートの顔を独占してしまう。

羨ましい、もっと自分も近づきたいのに、親しくなりたいのに、彼女たちの背中がいつも邪魔をするのだ。

 

「M4、諦めなって。あれに割って入んのは至難の業だよ」

 

隣に座っていたスコーピオンがニマニマしている。きっとM4の事も面白がっているのだろう。

 

「いいえ、指揮官ならありです」

 

「そりゃありだけどさ。あれの相思相愛になれるの?」

 

「なって見せる、指揮官を惚れさせて見せるわ」

 

「そういうことじゃないんだけどな」

 

珍しくため息をつくスコーピオン。惚れた腫れたの問題じゃないんだよと言いたげだ。

何が違うというのだろう、指揮官は人形に惚れられる、人形を本気で愛せる人種だ。

戦術人形と人間の恋愛はいろいろな課題こそあるが、結局は個人の問題だ。人形には人形の良さがある。

なにより指揮官は一対一に拘らない、理由はどうあれすでに4人と関係を持っている。ならそこに加わってもいいはずだ。

 

「あのさ、指揮官はハンターなわけよ。ついていけんの?」

 

「何言ってるの?もう私たちの指揮官よ?」

 

「指令室に収まってるような人じゃないのは解ってるでしょうが。私はあんな化け物相手無理」

 

「鉄血ハイエンドくらいすぐに捻れるようになって見せるわ」

 

「違うっての、あんたは外地に行けるのかって話。指揮官はアウトサイダーなんだよ?」

 

アウトサイダー、人類生存可能圏外に住む人間のことだ。コーラップスやその他の汚染のひどい、国が管理を放棄してPMCの管轄ですらない無法地帯。

この時代では珍しくない、第3次世界大戦の影響もあり人間そのものが少なくなっているのだから。

 

「関係ない、やって見せる」

 

「駄目だ通じない。助けて一〇〇式」

 

「お姉ちゃんだけでキャパオーバーです」

 

「恋は盲目にもほどがあるでしょーよ、昔のM4はどこ行った?ばりばり影響受けてんじゃん」

 

スコーピオンが頭を抱え、一〇〇式は苦笑いしつつ目を逸らす。心底相手にしたくない、といった感じだ。

 

「もっと指揮官にいいところを見せなくちゃだめよね。もっと完璧だってところを。イチヨ、絶対に負けないわ」

 

「M4、意気込むのは良いけどあれに水差しちゃだめだよ」

 

すっかり甘々空間を振りまきだしたM14は指揮官の腕に絡みついてニマニマしている。

指揮官は目を眼下に落としたまま表情こそ変えていないが、空いている手でM14のツインテールを梳いていた。

さすがに周囲の目を気にしたのか声を抑えて話している、きっとこの先の話を詰めているに違いない。

これから戦闘をしに行くようには思えない気のゆるみっぷりだが、この部隊ではいつもの事だ。

 

「指揮官、そろそろ例のクレーターです」

 

幾分か冷たさが強いM3の言葉に指揮官は頷き、M14の頭を小突いて我に返られながらコックピットの後ろから顔を出す。

 

「指揮官、機内でガス兵器の使用はお控えください」

 

「悪い、上を飛んでくれ」

 

指揮官の命令でCH-47Eは機首を少し傾け、件の川の字になったクレーターの上空をフライパスし、ゆったりと旋回を始める。

まるで大きな3本のかぎづめて地面をまっすぐ引き裂いたような大きなクレーターだ。

一体何が落ちてきたらこんなクレーターができるのだろうか?まぐれ飛行機事故があったような有様だが、破片も延焼跡も何もない。

木々がなぎ倒され、地面に抉られてクレーターができているだけで他には何もないのだ。

 

「なんか、ほんとに爪でひっかいたみたい」

 

「だな、いったい何が落ちたらこうなる?グライダーでも下したか?」

 

「車輪とかの後には見えないよ、それに幅も太すぎるし大きすぎる」

 

「だな、どっかで見た気もするんだが?」

 

「奇遇だね、私もだよ」

 

指揮官とM14はお互いに顔を見合わせ、困ったように笑って頭を振る。

どうやら見たことがあるらしい、その様子に機内の全員がおのおの窓から眼下のクレーターを覗き見る。

M4も地面を切り裂いたようなクレーターを見下ろし、何となく気持ち悪いような感覚を覚えた。

よくわからない、けれども見ていると何か嫌な気分になるのだ。胸の内にふつふつと湧き上がる不快感に、M4は窓から目を背けて首を傾げる。

人形である自分がまさか高所恐怖症なのだろうか?そんな考えを巡らせていた時、同じように眼下を見下ろしていたイングラムが血相を変えて叫んだ。

 

「指揮官!見てください!!あそこに人影が!」

 

イングラムが指で示すクレーターの端、なぎ倒された木々の合間によく見ると人影が倒れ込んでいる。

 

「M3!下せ!あの人形の近くに降りる」

 

「了解」

 

指揮官の命令でCH-47Eを操縦するM3グリースガンは、副機長を務める自立人形と頷きあってから降下を始める。

その振動と同時に機内にいた全員はすぐさま手持ちの武器に初弾を装填し、降下準備に移る。

M4も装備と左上腕に巻いたバンダナ、首に掛けた多目的ゴーグルを確認し、愛銃に初弾を装填していつでも飛び出せるように身構える。

M2HBがドアガンとして設置された愛銃のグリップを握り、スライドレバーを引いて初弾を装填し銃口を周囲に向けて警戒する。

イングラムが見つけた人形の周囲に敵影はない、センサーにも反応は見当たらないようだ。

 

「クリア!」

 

「降りるぞ。M2、M3、上は任せた」

 

「「了解。」」

 

「M4、周辺警戒。スコーピオン、SASS、100式、M4に続け。俺のチームはダミーの指示をM4の端末に送れ。M4、ダミーは任せる」

 

「「「「了解!」」」」

 

「よし、行こう。」

 

頷くM2の肩をポンポン叩いて指揮官は愛銃のガリルを構えて先陣を切る。それに続いてM14、イングラム、IDWが続く。

M4は指揮官たちが下りたのを確認すると、すぐさま彼に続く様にスコーピオン、SuperSASS、100式を連れて地上に降りる。

降りた途端、ヘリのダウンウォッシュで巻き上げられた土ぼこりが舞い、嗅ぎなれない塩辛い匂いが鼻腔を刺激した。

M3が操るヘリは再び上昇していくが、不思議なことにあまり土煙が立たない。

 

「何これ?」

 

「うぇ、しょっぱ!?肌がべたつく!!?」

 

口に土が入ったらしいスコーピオンが咽る。指揮官達も顔を竦めるが、M14と指揮官は同時にかがみこむと土を一つまみして匂いを嗅ぐ。

よく見ると地面に少し湿っている。おかしい、雨は降っていないはずだ。霧のせいだろうか?それにしては湿り過ぎているような?

 

「ありえないな、これは。市代、気のせいじゃないよな?」

 

「うん、この潮の香は間違いない。海水がしみ込んでる」

 

海水、そう聞いてM14以外の表情が一瞬怪訝そうになり、やがて一気に緊張感が走る。

この時代において、海はすっかり核とコーラップスによって汚染された死の海で超が付く危険地帯だ。

かつての母なる海の顔は鳴りを潜め、第3次世界大戦の際にばらまかれた遺物や変異した魚や哺乳類などのミュータントがうようよしている。

当然、海水に落ちた人間も例外ではない。汚染され、見るに堪えないミュータントとして陸に上がってくることになる。

 

「指揮官!ヘリに戻って!汚染される!!」

 

「問題ない」

 

指揮官は全く気にせず錠剤を口に含んでから土に手を付ける。危険だ、このままでは彼は汚染されてしまう。

戦術人形であればある程度の汚染は問題ない、センサーが警告しないならばほぼ安全なのだろう。

しかし指揮官は人間だ、多少の汚染ならば問題ないと高をくくって痛い目を見る人間は大勢いる。

M4は指揮官の腕をつかみ、無理やり立たせて足を払った。バランスを崩した指揮官の膝裏を左腕で救い上げ、いわゆるお姫様抱っこで抱き上げる。

コーラップスによる汚染を防ぐには地面に触れさせないのが一番だ、思わぬ役得だがM4は彼の体を堪能できるような心境はなかった。

 

「うわわ!?下もがぁ!」

 

「駄目です!」

 

「このままヘリに乗せましょう。暴れないでください、土を払います。」

 

「お水です!スコーピオンさん!ヘリに緊急合図!!」

 

「了解!SASS、発煙筒!」

 

もがく指揮官をガッチリと掴みガスマスクをかぶせるM4、指揮官のブーツから土を落とすため一〇〇式から水のボトルを受け取るイングラム。

スコーピオンは上空のヘリに合図を送るため、SASSから赤色の発煙筒を受け取る。

一糸乱れぬ行動はさすがといったところだろうが、M4はふと不思議に思った。一番彼を心配すべき彼女の姿が見えない。

彼女を探すとスコーピオンとSASSから発煙筒を取り上げたうえで、いつの間にかM4の横に立っており、指揮官の頭を叩いていた。

 

「ばいったぁ!?」

 

「バカ、説明不足。みんな落ち着いて、この程度なら問題ないから!ほら!M4も指揮官下す!」

 

「だ、駄目です!下しません!」

 

脳裏によぎる最悪の結末にM4は背筋に鳥肌が立つのを感じ、強く指揮官を抱きしめながら後ずさる。

うげぇぇぇ!?と指揮官の悲鳴が聞こえるが仕方がない、化け物になってしまうよりはずっとマシなはずだ。

なぜか呆れた顔をM14、その表情に気を取られてM4は背後に迫るもう一人に気づかなかった。

 

「にゃぁ、大丈夫だにゃ。薬飲んでたし、この程度なら問題ないにゃ」

 

「IDW!?」

 

「あばぁ!?」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

IDWに両腕を抑えられ、無理やり関節を決められて指揮官が空中に放り出されて地面に落ちる。

綺麗に顔面から落ちたことでガスマスクがはじけるように取れた、近くに居たイングラムが聞いたことのない悲鳴を上げて彼を抱きあげようとする。

しかし指揮官はイングラムの手をうまくいなし、するりと避けると口から土を吐き出した。

 

「うっげ、お前らなんだ急に。ここは敵地だぞ。」

 

「あなたのせいでしょう?指揮官でしょうが、今のあなた」

 

「ぁあ?あぁ、そうだが、んん?あ、そうか言ってなかったな」

 

指揮官はやっと何かを理解したらしく納得したように頷く。その様子にM14は呆れ、もう一度頭を叩いた。

M14曰く、海水は確かに汚染されているがこのようにばら撒かれてある程度時間が経っているなら人体に害はほとんどないらしい。

 

「心配いらない、それにそこまで軟じゃねぇしな」

 

「M4、大丈夫。この程度いつもの事だから、何回だっけ?初期感染を治療したの」

 

「えーと、ガキの頃からだから…20回くらいか」

 

「ほら、こんだけかかってれば体も適応するよ。ちなみに私は2回、このバカは去年もやってるよ」

 

指揮官、M14は太鼓判を押すようにけらけら笑う。そのあまりの気軽さにM4やほかの人形たちは酷いカルチャーショックを受けていた。

指揮官達曰く、人類生存可能圏外ではこの程度の汚染はいつもの事で問題にすらならないらしい。

確かにコーラップスに感染しても初期段階であれば治療が可能で、ぺイラン島事件以前から治療法は確立されている。

しかし指揮官自身も子供のころから風邪のように罹患しては治療を繰り返して耐性を持ってきたそうだ。

人類生存可能圏外ではその程度の汚染は日常茶飯事、治れば問題ないそうだ。

指揮官が無駄に頑丈なのはいつもの事だが、コーラップス汚染をこの程度と鼻で笑うあたりやはり外は魔境なのだろう。

その影響で医療技術や生体技術が発達しているというのも本当のようだ。M4はますます外の世界に興味が湧いた。

 

「まったく、みんならしくない。でも奏太、念のため薬飲んどいて」

 

「飲んだよ、お前も飲んどけ」

 

指揮官が放り投げた錠剤をM14は口で受け止めてそのまま飲み込む。指揮官は唖然とするM4に、同じ錠剤を差し出した。

 

「抗放射能薬、コーラップスも多少は予防できる。ユーラシアじゃ珍しいかな?」

 

「聞いたことないよ、どこの?」

 

「アメリカ」

 

歯車と剣のエンブレムが描かれたラベルの付いたタブレットケースから錠剤を出し、指揮官は次々と人形たちに手渡していく。

指揮官の返答にスコーピオンはますます目を剥いた。旧アメリカ合衆国は第三次世界大戦で真っ先に崩壊した大国だ。

理由は全世界から行われた核および戦略爆撃、大国故のエゴで世界を長年振り回して積もりに積もった恨みを一気に支払わされたのだ。

それに平行して隣国カナダもミサイルの標的となり壊滅、北アメリカ大陸は核とコーラップスに沈んだ無法地帯と化しているのだ。

化け物だらけの大陸で、人々も無秩序に日々を生きるために殺しあっている。それが今の北アメリカ大陸だ。

 

「あっちって国家も残ってないって話じゃ?」

 

「国家は無くても人はいるし組織も残ってるもんだ。昔の依頼でコネがあってね、こういうもんを調達できる」

 

どうやって届いてるんだ?と疑問に思うが、おそらくハンター独自のルートがあるのだろう。

 

「データだと、海ってかなり汚染されてるし、化け物だらけだって聞きましたけど?」

 

「それは正解、汚染されてるし海洋型がうようよいるよ」

 

「イチヨは見たことあるの?」

 

「さんざん見たよ、座礁した空母の上でドンパチしたこともあるんだから」

 

空母、この内陸部で聞きなれない言葉だ。グリフィン&クルーガーが管轄するU地区は内陸に位置する。当然ながら、海も、海洋を行く船も見たことがない。

川や湖はあっても海はない、そもそもこんな森の中で海水がばら撒かれているなんて異常極まりない。

 

「誰かここで海水浴でもしようとしたのかね?市代、サンプルを」

 

「もうやった、あとは嫌なのが出なければいいけど」

 

「海水ならあとで国に一言言えばいい、さすがに除染部隊位動かすだろう。行くぞ。M4、ダミーを頼むぞ」

 

調子を取り戻したらしい指揮官は、表情を引き締めるとM14、IDW、イングラムを連れて目的の人形の元へ向かう。

M4達は指揮官たちを追わず、上昇したM3が操縦するCH-47Eに代わって降りてきたヘリを出迎えた。

ヘリの後部ハッチが開くと、中から100式やIDW達のダミー人形が次々と降りて、身をかがめて周囲に目を配る。

M4はあらかじめ仲間から受け取っていた命令を端末からダミー人形に送信し、簡単な周辺警戒を実行できるようにする。

 

「行動開始、行け」

 

M14、M4を除いた人形各2体の計10体がそれぞれお命令された通りに周囲をクリアリングしながら木陰や草むらに身を潜め始める。

それを見送り、M4はふとヘッドセットとそれにつなげたやや古い型の通信機の位置を調節する。

この基地では戦術人形に内蔵された通信モジュールを使用した通信ではなく旧来の人間用無線機を使用する。

これは指揮官の方針で当初は奇妙な目で見られていたが、鉄血ハイエンドとの戦いの中で見直されて今やこの基地の常識だ。

指揮官曰く、便利だからと言って頼り切っていると変な所で痛い目を見るとのことだが、それは嫌というほど思い知らされた。

 

「こちらM4。指揮官、聞こえますか?」

 

≪こちら指揮官、聞こえる。酷いジャミングだが、近距離なら大丈夫だな≫

 

「そのようです、全部隊の降下を確認。周辺警戒に移ります」

 

≪頼む、手早く済ませる≫

 

全員で周囲を警戒しながら指揮官たちの周囲に展開、周囲を警戒しながら隠れた鉄血人形を捜索する。

先ほどの騒動でかなり気を削がれていたが、ここは鉄血の勢力圏内なのだ。いつ襲い掛かってきても遅くない。

 

≪指揮官からM4へ、見つけたぞ。だが、こいつは酷いな≫

 

どうやら人形の元にたどり着いたらしい指揮官の、酷く陰鬱な呟きが無線から響いてきた。

 

「なになに?誰がいた?どう酷いの?」

 

≪ダネルだ。喰われてやがる≫

 

M4は耳を疑った。食われている?何かの暗示?比喩表現?後ろを守っていたSASSと思わず目を合わせる、彼女もキョトンとしていた。

 

「え?ど、どういうことです?」

 

≪そのまんまだ。こっちにこい、警戒は上に任せていい≫

 

「え?しかし。」

 

≪来い、お前らじゃ手に負えないかもしれん≫

 

指揮官の言葉が重い、普段からあまり態度の変わらない彼の言葉には緊張がある。何かあったのだ、それも厄介な何かが。

 

「了解、合流します」

 

とりあえず合流だ、M4は3人とアイコンタクトを取ってから林を抜けて指揮官たちの所へ向かう。

巨大な何かがなぎ倒して進んだような細長いクレーターの横、なぎ倒された木々に寄りかかるように倒れている人形を囲むように彼らはいた。

ピンクの髪に巨大なライフルがトレードマークのアンチマテリアルライフル使いのダネルNTW-20だ。

だがその面影はない、血塗れの彼女は指揮官の言葉通り、食べられたような有様だった。

彼女の顔に下あごはなく、両目はえぐり取られ、喉も食いちぎられている。腹部もごっそりと無くなっていて空っぽ、右足も千切れている。

それ以外にも体のそこかしこに噛み千切られたような傷跡が残っていて、M4は思わず口を覆い、目を背けてしまった。

 

「なんてこと…鉄血の仕業なの?」

 

「鉄血?こんなことをする鉄血なんて聞いたことがない。そもそも鉄血人形がIOP製を食べるの?」

 

「食べる?」

 

「この損傷に比べて周りが散らかってない。食べられてるよ、間違いなく」

 

SASSの呟きにM14は確信を持った様子で頷く。信じられないM4は彼女に問いかけた。

 

「まさか、持って帰ったんじゃ?」

 

「オリジナルの彼女みたいな趣味ならもっと散らかるし、掃除なんてしないよ」

 

周囲を警戒するイングラムやダネルの首筋とPDA型端末にコードをつなげるIDWは総じて顔色は悪い、反面指揮官とM14は平然としていた。

指揮官はダネルの脇に片膝をつき、彼女の千切れた右足の傷跡に手を這わせて唸る。

 

「荒い噛み傷、何度も噛んで、力任せに食いちぎってるな。だが、周りに彼女の内臓その他はなし」

 

「ゾンビ野郎?それともまさか……」

 

「この歯形は人間、あるいは人形のものだ。E.L.I.Dかもしれないが、それにしては力が弱すぎる。

みろ、この足に噛み傷。何度も噛み千切ろうとしてる、E.L.I.Dなら一口で噛み千切る、それをしないとなると?」

 

「荒い噛み傷、か。嫌な予感しかしない、こんな食べ方するヤツにロクな思い出がない」

 

「ヤツラならまだましだ。もし大本にエイかタコなら?」

 

「うわ、酷いよ。思い出したくなかったのに……」

 

また始まった、M4はM14と指揮官の周りを置いてけぼりにする会話に肩の力が抜ける。

指揮官とM14はこうやってハンターにしか分からない用語を連発する会話を展開して回りを置いてけぼりにすることがある。

まとまった後でわかりやすく説明してくれるのだが、それでも始まると疎外感がすごい。

これが指揮官と側近4人で始まるともう基地のベテラン勢でさえ口をはさめないのだ。

さらに悪い事といえば、そうなると大体厄介ごとが起きる。酷いときは本当にはぐれE.L.I.Dに出くわすなんてこともある。

 

「それだとアウトブレイクが起きるよ。あれの対処は初見じゃ難しい、正規軍だって一度しくじった」

 

「そうだな、鉄血との交戦区域だったのが幸いか?近くに居住地はない、ほとんどが無人だ。基地ならサラ達がいる、あいつらなら近くに来ただけで気づくだろう」

 

「鉄血を餌に増えてる可能性があるよ。ハイエンドならまだしも、普通の鉄血人形じゃ餌だよ餌。タコは見境ないしガンガン増える」

 

呆れたような、もう慣れっこだというような気軽さで話し合う二人だが、雰囲気は全く笑っていない。

こんな表情は初めてだ、いつもの鉄血を相手にするよりも数段危機感を感じているらしい。

 

「あの~もしその予測があってたら?」

 

ダネルの死体を検分しながら話し合う二人にスコーピオンが恐る恐る問いかける。

 

「街滅ぶ」

 

「化け物たくさん」

 

「「ずばり最悪。」」

 

「うぇぇぇ…」

 

SASSとスコーピオンは二人の即答っぷりに隠すこともなく表情を歪めて呻く。

M4は当時別任務に従事していたため詳しく知らないが、スコーピオンとSASSは運悪くはぐれE.L.I.D遭遇して死にかけた。

人型を失いかけた変異タイプで、半分獣のような顔をした化け物。すばしっこい上に銃弾が全く通用しなかった。

異変に気付いた指揮官が横殴りして、工事用削岩機で袋叩きにしなければ死んでいたそうだ。

同時に指揮官が身を置いていた戦場のやばさを肌で感じたらしい。なおE.L.I.Dは指揮官に五分でバラバラにされた。

 

「しかし妙だ、違和感がある」

 

「生まれたてかも、それか落ちてきたやつに乗ってたか」

 

「どうだろうな、落ちてきたのがやばいの積んでたにしても暴れたようにも思えん。荒れてこそいるがここは綺麗すぎる。

戦闘や隠蔽の痕跡が一切ない、あるのはいくつかの足跡と、彼女が暴れた痕跡だけだ。

化け物が暴れたなら大なり小なり痕跡が残るはず、痕跡を隠すなんて頭はないんだ。IDW、記憶の方は?」

 

「全部壊れてる、機密保持以前にだいぶシェイクされたみたいだにゃ。電脳自体がダメになってる」

 

ダネルの首筋にあるコネクターにコードを繋げ、PDA型端末を用いて彼女の記憶を探っていたIDWは悲しそうに首を横に振る。

 

「そうか。わかった、次だ。彼女を回収するぞ、M3のヘリを下ろしてくれ。その後はこのまま基地へ向かおう。

ジャミング壊して増援を呼ぶぞ、俺達だけじゃ手に負えないかもしれない。本部の連中と協力して情報を集め、この地域の封鎖を進言する」

 

話がまとまったようだ、指揮官はダネルの顔にハンカチをかぶせ、両手を合わせて短く祈る。

連れ帰ってやるからな、彼は小声でつぶやいたのだろうが、M4の耳にはしっかりと聞こえていた。

任務が終わった後に彼女の体を回収し、火葬したうえで供養するのだろう。

提出を要求されれば従っているが、その後に捨てるのなら引き取るのが彼の流儀だ。

 

{変わった人だ、本当に}

 

一度、まだ基地で部屋を間借りするようになって間もないころに目撃して問いかけたことがある。

基地の片隅で、死体袋に入れた別基地のAK-47を火葬していた彼は寂しげに言ったのだ。

戦友を供養するのは当然のことだ、と。おかしな話だ、彼女は破壊されたが死んではいないはずだ。

彼女は作戦前に残したメンタルモデルのバックアップから再生している、所属基地で反省会でもしているだろう。

彼は作戦中に知り合った彼女と仲良くしていた、電話でもしたらどうかと提案したが彼は首を横に振った。

あの時彼が言った言葉の意味を、M4はまだ理解しきれていない。ともにいたイングラムもまた、同じだろう。

 

(本当にそうかな?私は、彼女と同じかしら?)

 

ふと考える、自分は本当にこれでいいのか、あの時に全て終わらせるべきじゃなかったか。そう自問自答しない日々はない。

イングラムやAK-47の様に望まれて作られた人形ではない、イレギュラーで生まれてしまった自分は、ここに居ていいのだろうか?

自分、いや自分達を保護してからこの基地を取り巻く環境は悪化の一途をたどっている。

支部からは冷遇され、周りの指揮官からは疎まれて、本部からは変に重宝され、IOPと16LABからは実験部隊扱い。

指揮官達は特に気にしていない、ここは最初から捨て駒だったと割り切っている。けれども自分たちと関わってからより悪化していた。

自分ではもうどうにもできない、M16たちと協力してもどうしようもない。ペルシカ博士が出てきたらなお悪い。

商業用ダウングレードモデルの試作機という扱いになったとはいえ、元は出来損ないの死にぞこないだ。

だから、せめて強くなりたい。オリジナルよりも、彼と同じ場所に立てるような強さが欲しい。

 

「M4さん?」

 

「へ?うわ!?」

 

ふと気が付くとM4は自分を心配そうにのぞき込む一〇〇式にびっくりして飛び退る。

ポカンとした一〇〇式の後ろから、スコーピオンが覗き込む。彼女もまた眉をひそめていた。

 

「どしたの?ぼーっとしちゃって」

 

「ご、ごめん。考え事してた」

 

「ふーん、まぁ指揮官たちの話がわけわかんないのはいつもの事だしね」

 

あんなのとタイマン張る人がやばいのは当然だけどさ、とスコーピオンは若干遠い目ではははと笑う。

彼女の言う通り、こういった会話はいつもの事だ。だが、それではいけないのだと思う。それでは彼に近づけない。

M14が彼の横に立てるのはただ強いからではない、彼個人の人形だからというだけでもない。

彼と世界を知っているからだ、自分の目で荒廃した世界を見つめてきたからだ。

だとすればチャンスかもしれない、彼の隣に立てるのだと証明できる。いつも見て来た彼の背中に、少しでも手が届くならば。

 

(結局自分の為、か……)

 

だから強く出られない。M4は彼の背中を見つめながら自嘲した。彼の事を尊敬し、恋慕する自分がいるのは確かだ。

彼の隣にいるM14を羨んで、いつから並び立ってやると思っているのも本当だ。

でもその根底にあるのは、オリジナルにはない自分を手に入れたいがため。

インストールされた偽の記憶とスキルだけではない、自分を手に入れたいから。それを彼に求めているから後ろめたく思ってしまう。

 

「全員周りに目を配れ。それからIFF認証によるオートロックを解除、各位射撃には気を配れ。

補正プログラムも使うな、鉄血用じゃ話にならない。足元に注意しろ、予想が外れてなければそれで見つけやすい」

 

「足元ですか?地雷でも?」

 

「エイやタコは地面を這う小型タイプなの。だから気を付けて、見つけたらすぐ撃ちまくって近づけさせないように」

 

「効くんですか?」

 

「クリーチャーやモンスターだって何でもありってわけじゃないから、何かに特化すれば弱点もある」

 

SASSの問いにM14が捕捉する。もしエイのような生物とタコのような化け物を見たらすぐに撃っていいらしい。

なんでもそのクリーチャーは特殊な半面非常に脆く、通常の弾薬でも対応できるようだ。

撃ちまくる、という面ではサブマシンガンを扱うスコーピオンやイングラム、IDW、一〇〇式の本領だ。

ガリルを扱う指揮官やM4はできなくはないが面制圧力では劣り、M14も愛銃をフルオートに切り替えるがさらに劣る。

狙撃銃でありセミオート射撃しかできないSASSは論外だ、すでに指揮官とM14に挟まれて要保護対象と化している。

 

「特殊?どういう奴なんです?」

 

「聞きたい?SANチェックする?」

 

イングラムの問いにM14は少し意地悪く笑って見せる。その笑みはとても人間臭い、自然な笑みだ。

歩きながら彼女は指揮官に目配せし、指揮官は少し悩んでから頷いた。

 

「まず全般的に、これから言うのは化け物製造に特化してる。微生物を撃ち込んだり、自ら寄生して変異、あるいは改造するの。

死体や生物をそれぞれが変異させて化け物にするのよ。人も、動物も、人形さえもね」

 

「うわ…」

 

「もちろん全て機械の軍用タイプとか、旧式なら寄生はされないし変異もしない。けど、できるとなるとかなり戸口広いよ。

タコ、名前は別にあるけど私はタコって呼ぶ。体は脆弱だけど、小さくてすばしっこい。

こいつは寄生生物で人間や動物に喰らいついて中に潜り込み、体を変異させて改造するの。

エイ、海の生物みたいだけど陸生。こいつは死体に微生物を撃ち込んで変異させる、爪と牙が生えた血みどろのおぞましい化け物にね。

こいつらに出会ったらまともに胴体や頭を狙っちゃダメ、手足を狙って動きを止めてから一気に叩くこと」

 

「え、と、つまり……」

 

イングラムは顔を蒼白にして口ごもる、彼女は戦うかもしれない相手を想像してしまったのだろう。

たぶん自分と考えたことは同じだ、M4も血の気が引くというのを身をもって感じていた。

指揮官がIFF認証によるオートロックを解除しフレンドリーファイアを許可したのもそれが理由だ。

 

「そ、これから戦うのは鉄血じゃなくて、先に突入した偵察部隊の成れの果てかもね」

 

スペクトラいなくてよかったよ、と彼女は笑う。今は別任務に就く基地主力の一人、スペクトラM4は恰好が格好だ。

なにしろ下半身はスカート、上半身はビキニタイプの水着一枚というすごい格好である。

同じ意味ではイングラムも結構危ないだろう、ホットパンツにタンクトップという非常にラフな格好だ。

 

「死にたくなかったら、仲間を殺したくなかったら、いい?躊躇はしないこと」

 

ひやりと、M14から感じたこともない殺気が放たれる。今まで肩を並べて戦っていたが、これほど冷たい声色を聞いたのは初めてだ。

彼女は愛銃を左手に持ち、バックパックのホルスターから大型マチェットを抜いて素早く持ち替える練習をしながら答えた

 

「寄生され、感染し、変異するにも個人差がある。中途半端になって意識を残してることもある。

でも駄目だよ、たとえ助けを乞われても私達には助けられない。中でも外でもどうしようもない類だから」

 

M14の瞳はどこか遠くを見つめる、彼女にはおそらく経験があるのだ。同じように、きっと指揮官にも。

この先にはその光景が待っているかもしれない、そう思うとM4は恐怖を覚えながらも、それを超える興味が湧いた。

憧れる彼らの知る世界がこの先にある、これを乗り越えられれば、自分は自分に自信が持てるかもしれないのだから。

 

 

 

 




あとがき
第一の犠牲者発見、ここからちょろちょろ化け物の影とかが見え隠れし始める。
化け物ネタが分かった人はぜひこの世界のごちゃまぜっぷりと地獄っぷりを笑ってください。
ここで登場するかは未定ですが過去に指揮官達はガチでやりあった設定です。
本作のM4は本編のオリジナルが逃げ回ってるときに猛追された囮ダミーの生き残りという設定。
他の方々みたいなダミー芸をやりたかったけど書いてたら笑えないことのなっちゃった……






ミニ解説
SPAR小隊(スペア小隊)
S09基地に逗留しているAR小隊の商業販売用試作戦術人形部隊。
M4A1、M16A1、AR-15、M4SOPMODⅡが所属している。
その実態はとある任務にてAR小隊が鉄血の追撃部隊から逃走する際にばら撒いたダミー人形部隊の生き残りが自我を獲得した個体。
マインドマップは偽の記憶を基に形成された別物であるため、よく似た別人である。
その作戦において使用されたダミー人形には、通常の代用コアではなくIOPのエリート規格電脳をそのまま使用した特別製。
演算能力、戦闘力、作戦遂行能力を向上させた特殊モデルで、性能自体はIOP正式規格エリート人形と同格である。
さらに鉄血の目を欺くために囮として使う際に、一定時間後に埋め込まれた偽の記憶データがよみがえりデッドコピーとして活動し始めるようになっていた。
これはダミーの囮としての生存時間を高めるため、そして捕縛された際に時間を稼ぐための措置。
記憶はオリジナルから抽出した本物を加工、機密処理した『本物だけどみられてもいい記憶』が使用されている。
そのためU05地区に逃げ込んだダミー達は、ペルシカが解除コードを使用するまでAR小隊本人と思い込んでいた。
ペルシカ自身は自我を持ち、生き残った彼女たちを処分する気はさらさらなく商業販売用の試作個体としてU05に所属させた。
『SecondPlan』『ServicePlan』『SPARE』のトリプルミーニング。


M4A1
16LABの先行試作戦術人形小隊『SPAR』に所属する戦術人形。
AR小隊の特殊戦術人形M4A1の商業用ダウングレードタイプの試作モデルという扱いの特殊ダミー人形。
オリジナルの記憶を機密処理した偽の記憶をインストールされており、それが彼女とオリジナルを比べる要因となりコンプレックスとなっている。
今はとある戦術人形のおかげで持ち直したが、その影響を受けて常にオリジナルにはない何かを求めている。
オリジナルとの差異は腕章の有無、多目的ゴーグルの所持。
腕章の代わりに腕にバンダナを巻き、首には航空パイロット用多目的ゴーグルをかけている。


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