U05基地の化け物ハンター   作:イナダ大根

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かなり遅いがグロ注意、グロ注意! そして長い!


第1話・捜索2

 

この世界は滅びかけている、それは戦術人形である一〇〇式機関短銃にだってわかりきったことだ。

ぺイラン島事件から始まり、第3次世界大戦が終わるころにはコーラップスによる汚染と第3次世界大戦による傷跡によってボロボロだった。

当然ながら人間の数は激変し、住める場所すらも少なくなった。

グリーンゾーン及びその外周は今自分たちが立っていること場所はコーラップス汚染と第3次世界大戦における影響が少ない、人類生存可能圏と言われる数少ない土地だ。

コーラップス汚染による災害を生き残り、第3次世界大戦を戦い生き残った国家と数少ない人類がしがみ付いて生きている。

だが人類生存可能圏外、指揮官たちが普段から活動する戦争と災害によって荒れ果てた大地のほうが多い。

政府に限らずこの人類生存可能圏で暮らす人間のほぼすべてが見捨て、そこに人は住んでいないとすらうそぶく。

大地はコーラップスだけでなくあらゆる兵器の残滓などに汚染され、それに適応する形で激変した環境はあまりに過酷なものとなっている。

恒常化した電波障害や汚染環境は常に人体や電子機器を蝕み、変異したミュータントや遺跡からあふれ出たモンスターが常に命を狙っている。

グリーンゾーンの生き方も、現代社会の文明の利器も生半可な対策では通用しない弱肉強食の世界。

その二つを遮るのが点在する高濃度汚染地帯と正規軍による防御壁による閉鎖と多重防衛ライン。

高濃度汚染地帯は世界各所に存在するコーラップスをはじめとしたあらゆる汚染物質とミュータントの血に塗れた草も生えない荒野だ。

特にグリーンゾーン周辺やかつてグリーンゾーンがあった場所に数多く存在する。

かつて行われた第3次世界大戦は、いわばコーラップスの汚染を免れたグリーンゾーンを奪い合う戦争だったからだ。

グリーンゾーン周辺の汚染されているが戦える区域では情け容赦のない戦闘が行われ、泥沼の地上戦ではあらゆる兵器が使用された。

それこそ各国が保有していた核兵器、戦術兵器、ガス兵器などのNBC兵器や奥の手の秘密兵器までだ。

その結果生まれたのが人どころか化け物すら住めない荒れ果てた荒野、電波障害や汚染された嵐などが頻発していて通り抜けることすら難しい現世の地獄。

高濃度汚染地帯にはE.L.I.D感染者しか住めないといわれ、正規軍が相手取るE.L.I.D感染者のほとんどはそこを通ってやってくる。

そんな場所だがグリーンゾーン周囲の点在する極限の汚染は陸路からのE.L.I.Dではないミュータントを寄せ付けず、侵入経路を限定して正規軍の防衛を有利にしている。

皮肉にも人類の業である高濃度汚染区域は激変したそんな環境からこのグリーンゾーンを守る一助となっているのだ。

その先に待ち受けるのが正規軍の防衛壁による通行止めと多重防衛ラインからの徹底した殲滅攻撃。対地、対空双方に行われる猛烈な攻撃だ。

その守りは並のE.L.I.Dならば寄せ付けないほどに強力と聞く。それが自分たちが目の当たりにしている地獄の一端から守ってくれているのだ。

 

『FMG!FMG!!どこ、どこに行ったの!!?』

 

『なんなの、なんなのよ!また銃が撃てない!』

 

『そこら中にいるぞ!逃げろ、化け物だ!!』

 

『イサカ、イサカ?そんな、そんな!やめて、こないで!!』

 

血塗れの室内で、ホロマップデスクにホログラムには地獄のような光景が映し出されていた。

映像の中でU地区支部の偵察部隊が化け物から逃げまどっている。かつての自分の成れの果てに追い立てられ、反撃する事すらできずに。

耳障りな奇声を上げ、虫のような肌に変異し部品を体内からさらけ出した異形の怪物と化した戦術人形達の成れの果てが次々と偵察隊をその牙にかけていく。

偵察隊は反撃しようと銃口を向けるが、引き金に掛けた指は堅く固まり動かない。

 

「どう?これが今私たちのいる場所での出来事」

 

ホログラムマップの映像を苦々し気に見つめるM14。彼女自身辛そうだが、映像を止めることはしない。

これは必要な洗礼だと考えているからだ、ここから先仲間たちが経験する悪夢を乗り越える一助になると。

誰も声を発しない、IDW、スコーピオン、一〇〇式、三人全員が映像に釘付けになり、声を失っていた。

映像の中で逃げまどうスオミKP31とMG5が、ここにいる全員が見覚えのある廊下にたどり着く。

 

『嫌だ、嫌ぁ!!いやだいやぁァぁァ!!』

 

「ぁあ!?」

 

見たことのある廊下でスオミが天井のダクトから奇襲を受け、スコーピオンは悲鳴を上げた。

グロテスクに変化したカギ爪に左肩を貫かれ、彼女が立ち止まった途端ダクトから上半身を乗り出した化け物が彼女に抱き付く。

暴れる彼女のさらにかぎづめで突き刺し、強引にダクトの中に引き摺り込んでいく。

鮮血を流しながら懸命にバタつく両足と悲鳴がダクトの奥に消えていき、廊下にMG5一人になった。

 

『スオミ、スオミ、そんな―――ぁ』

 

MG5の姿も映像から消えた、廊下の端からかぎづめが伸びてカメラの射角から彼女を連れ去った。

これが向こうの化け物、これが跋扈する世界。そんな汚染された圏外の大地にはいまだに多くの人間が住んでいる。

グリーンゾーン周辺よりも数倍強い汚染とはいえまだ低濃度な地帯やメトロ、シェルターなどに街を築き、世界を受け入れて今を生きている。

その多くが取り残された住民や軍人、大戦前から棄民されたりキャンプを自分から抜け出した難民だ。

他にも戦争に嫌気がさして離脱した者もいれば、戦争終結後にグリーンゾーン周辺から離脱した者たちなどもいる。

ペイラン島事件、第3次世界大戦という歴史的大惨事では多くの国家がその損害に耐えきれず崩壊していった。

ペイラン島を管理していた中華人民共和国は言うに及ばず、国際社会で責任を追及され第3次世界大戦では真っ先に悪者にされた。

巻き添えを食らった日本、台湾、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国はコーラップス汚染に沈み一瞬で国家が破綻した。

周辺諸国は完全な被害者であったもの、各国に取り残された難民の扱いは酷いモノであった。

生活基盤の脆弱な者、元々持たない旅行者だった者、様々な理由で多くは劣悪な環境の難民キャンプに放り込まれた。

その後も世界を襲った汚染により貿易摩擦が加速、どの国も自分を守ることしか考えなくなり、世界中で戦火が迸る結果となったのだ。

当然、中にはそんなことをしている政府に我慢ならなかった人間も多くいたのだ。

そんな人間たちの中には、大戦への参加を拒否して全てを捨てて混迷する国から逃げた者もいた。

そんな世界を自分達は指揮官達から聞いていた、だけど、所詮想像しかできていなかった。

 

「逃げるなら今しかないよ?」

 

「逃げる?」

 

「そう。私は慣れてるし、体もあっち仕様だからね。外で待っててくれてもいい、どうする?」

 

そんな世界に飛び出した戦術人形の一人、幾多の視線を潜り抜けた化け物殺しのハンター。

スプリングフィールドM14こと春原市代は映像をマップに切り替えた、まるで世界が塗り替わるかのように。

体が震える、それが恐怖かそれとも武者震いか、一〇〇式には理解する余裕はなかった。

 

 

 

第1話・捜索2

 

 

 

 

2階建てのU08基地が見える基地正面、おそらく鉄血の防衛ラインだったであろう陣地は尽くが血と噛み砕かれた死体で埋まっていた。

有り合わせの資材と車両で構成されたバリケードは無残に破壊され、中に籠っていただろう鉄血兵が体の生体部品をむさぼられ、凄惨な末路を迎えている。

そのあまりの光景に部下の彼女たちは全員が顔色を悪くしていた。無理もない、鉄血との戦いに終始していた彼女たちには未知の領域だ。

そしてその下手人は、グリフィン&クルーガーU08基地の部隊。正確にはその成れの果てとなれば、顔色を悪くするだけで済んでいるのはむしろいい方だ。

バリケードを囲むように、IOP製戦術人形の死体がゴロゴロと転がっているのだ。それもすべてが破損し、腐敗した状態だ。

銃撃戦をしていた、というような状況ではない。鉄血が押し寄せるIOP製戦術人形を押しとどめていた、というほうが正しいのだろう。

その様相はまさに一昔前のゾンビ映画さながらだ。さしずめ鉄血がやられ役の警察隊で、IOP製がゾンビだ。

 

「ウィルスかしら?」

 

「ウィルスね、それにしちゃ悪趣味にもほどがある」

 

U08基地所属を示すカードキーをぶら下げているm45の胸ポケットからはみ出た手帳を指揮官は引き出す。

手帳にはいくつかのメモや走り書きが散見され、2枚の古い写真が挟まっていた。

メモはどれも指揮官からの頼まれごとや今夜のメニューなど日常的なものと、指揮官に対する愚痴。

そして基地が放棄された際、時間稼ぎを命じられた彼女の今際の時の書き殴られた恨み節と後悔がつづられていた。

写真は荒野を背景にした別の指揮官らしい男性を映したものと、基地から見下ろすようにして取られた部隊全員の集合写真。

どの写真にうつる指揮官も、すこし皮肉気だが煙草を口に咥えたまま自然体で笑みを浮かべている。

 

(昔の写真か、異動願を出すくらいだ。m45は前の部隊に戻りたがっていたようだな)

 

裏を返すと2060・S05とボールペンで書かれている、古いインクでやや薄くなっているのは何度も触ったからだろう。

 

(カードキーか、使えれば儲けものだな)

 

カードキーはそれほどかさばるものではない、カードのアクセス権が消されていても思わぬところで役に立つことがある。

そうではないとしても使えるカードキーというものは外地では再利用できるジャンク数多の使い道がある。

纏めてジャンクショップに持ち込めばお小遣い程度には売れるので回収して損はない。

 

「どうしてみんな、銃を持っていないの?」

 

M4の言う通り、IOP製戦術人形たちはダミーも本体もすべからく銃を所持していないか、手に持っていない。

所々背にスリングで背負っている個体がいるが、それもおかしい。鉄血の防衛線の目の前で銃を抜いていないのだから。

指揮官は鉄血の死体に抱き付く様にして力尽きたMicroUziの首根っこを掴んで思い切り引きはがす。

Uziの姿もひどい姿だ、いつもの水着を失い上半身裸、肉付きのいい体は食い荒らされていた。

血の気を失った体は腐臭が酷く、カビすら生えている。両目も白濁し、頬も腐りかけている。

だがそんな状態で彼女は動き、鉄血人形に組み付いていた。動くわけがない、それが一目でわかる損壊と腐敗をしているのにだ。

 

「ダネルを食ったやつが分かったな。おそらくこれと同じ人形がゴロゴロいたんだろう、何度も噛みついていたのも納得だ」

 

戦術人形の身体能力は人間のそれを越えている、だがそれは戦闘面での話に過ぎない。

顎の力はあくまで人間と同等だ、そこまで強化する必要性は全くない。

 

「電脳も腐ってる。生物的でも、電子的でもないな。市代、見ろ。この子の口、鉄血の皮膚だ。まだ新鮮だよ」

 

「計算が合わないね、皮膚に比べて電脳の腐敗がひどすぎる」

 

戦術人形の電脳は生体部品であり分類的には生ものだが、人間の脳と比べれば腐敗には強い。また人間の脳にはできない防腐処理も行われていればより腐敗しにくい。

もしこの人形が活動していたとしたら当然ながら電脳が健在だったはずで、死んだときに口に含んでいた鉄血人形の皮膚が新鮮ならばまだ電脳は腐りきっていないはずなのだ。

 

「となると、外的要因だね。死体は死体、死体のままあやつって喰らいつかせてた。となると、予想はできる」

 

「あぁ、こうまでしないと止まらないならな。やらかしたか、もぐりこんだか」

 

撃ち抜かれた頭部の銃創から漂う腐臭はきつく、活動を停止してから大分時間が経っていることを思わせる。

この防衛陣地で倒されている死体は全て、行動不能にされた上で頭を撃ち抜かれている。四肢をもぎ、頭を撃たれているのだ。

ただのゾンビ、あるいはもどきならばそこまでする必要はない。頭を撃ち抜けばそれで行動不能にできるからだ。

そんなことができるクリーチャーというのはそう多くない、それもここまで潜り込む、あるいは持ち込めるとなると限られる。

 

「キメラ?」

 

「あれを?持ち込んでいたら相当なバカだ、それに変異が見られないのは変だぞ」

 

「ポルターガイスト」

 

「だと思いたい」

 

ポルターガイスト、圏外ではよく知られた浮遊タイプの要注意クリーチャーの一種だ。

このクリーチャーの一番の武器は不可視の攻撃、変異の過程で進化した頭脳が起こすいわゆる超能力だ。

自らの姿を消し、無音で浮遊移動しながら周囲のものを操るサイコキネシスでとにかく嫌がらせしてくる悪戯者だ。

クリーチャーの中では厄介だが脅威レベルは低い、悪戯好きだが繊細な性質で縄張りに籠るタイプの待ち伏せ型だ。

主に暗い洞窟や廃墟を住処にしていて外にはまず単体では出現しないし、縄張りにも敢えて別のミュータントを住まわせて自分の存在を偽装する。

物を操るといっても注意していてればさほど脅威でもなく、生きている人間や人形は操れない。死体も使うがぶつけてくるだけだ。

捕まえようとすれば捕まえることもできるので、捕まえて時折内地に流そうとするならず者も多いのだ。

軽く解説するとものすごく嫌そうな顔をしたスコーピオンが軽く手を挙げて質問してくる。

 

「何それ?」

 

「クリーチャーの一種だよ。空飛ぶサイキック腹踊りと虫野郎」

 

「は?超能力」

 

M14の表現は現物を知るハンターならばすぐに思い浮かぶ的確な表現だ。

人間の上半身が単体で浮遊し、頭はなく代わりに腹に顔があるというのがポルターガイストなのだ。

 

「待って、虫はともかく、超能力?そんなばかな」

 

スコーピオンはふざけた表現をされる容姿はともかくポルターガイストの能力を疑っているようだ。

無理もない、いきなり超能力を使うクリーチャーが現れたなどと、こちらに住んでいれば信じられないのは当然だ。

 

「奴がむむんとやれば物が浮く。種も仕掛けもなしでだ」

 

「声のトーンがマジですね……」

 

「イングラム、とりあえず信じてくれ。油断して頭を飛ばされたルーキーはそれこそごまんといる」

 

「倒せるの?SASSの時みたいに弾が効かないとかだと、その、まずい」

 

「あぁ、あいつはさほどタフじゃない。皮膚も能力媒体だから柔い、お前の32口径だって軽く貫通する」

 

「そりゃよかった。でもそれだけじゃないでしょ?」

 

「ごもっとも、もうこいつは普通じゃない」

 

スコーピオンの問いに指揮官は頷く。人形の死体を操り、食い殺すという芸当はただのポルターガイストにしては巧妙すぎるのだ。

 

「さっき言った通り、超能力使いだが精々物を浮かしたり、自分の姿を消すくらいにしか使えないはずなんだ。

だがこいつは人形を動かした、それこそ人形師の真似事をするくらいに巧妙に。おそらく人と戦って学習した個体だろうな。

それに食い殺させてるってことは飢えてるって証拠、喰いたくて喰いたくて仕方なかったんだろうよ。それもこの規模、一体じゃない」

 

「学習?」

 

「あぁ、化け物だって頭がないわけじゃない。いるんだよ、野生の勘だろうが知能だろうがこういう奴が。

特にポルターガイストは頭がいい、人間や人形のような思考をしてるわけじゃないがな。

でも妙だ、外でこれならもうここはテリトリーに入ってる。飢えてたならもう仕掛けてきてもおかしくない」

 

指揮官は再び地面の死体に目をやって首を傾げる。嫌な予感がする、これはクリーチャーの行った捕食行為ではないかもしれない。

脳裏に過る数多の経験、ハンターとしての知識、各種データベースで閲覧した記録、タブロイド紙の眉唾な噂話、様々な言葉と姿が脳裏を過ぎていく。

 

「なるほど、ちなみにキメラって?」

 

「虫野郎だ、背格好は人と虫の合いの子みたいなやつ。こいつは堅い、32口径じゃ効きが悪いぞ。生態は――――」

 

「奏太、これ見て」

 

「ん?おぅ…」

 

M14が鉄血人形の死体を一つ足で押しのけると、その下から写真の写っていた新型鉄血ハイエンド人形の躯が出てきた。

彼女もひどい有様だ、両手足がもぎ取られ、腹部から下の下半身を丸々食い荒らされていて金属部品が丸出しだ。

頭部の損傷が少ないのは、おそらくべつの死体が覆いかぶさったせいだろう。

おそらく何かに押し倒された時、別の人形が頭に上から圧し掛かるように倒れたのだ。そしてそのまま一気に群がられ、貪り食われた。

恐ろしかったのだろう、ツインテールの彼女の表情は写真のような傲岸不遜で自信満々な感情はなく、ただ自分が貪り食われていくことへの恐怖に歪んでいる。

 

(上半身は無事、となると電脳がショートしたか。怖かったろう、安らかに眠れ)

 

人類生存可能圏外ではよくある光景だ、戦術人形や自立人形はタイプがどうであれ多少足を貪り食われたところで行動不能になる事はない。

その傾向は旧式あるいは圏外用に換装をしていない第2世代人形がその傾向にあり、多少の欠損は効果がない戦闘力が売りだ。

しかし『食べられる』という特殊な状況においては、どんな人間も人形もほとんど差がない。

生きたまま皮膚を剥かれ、腕や足を引きちぎられ、内臓を抉られ、その上で生きたまま食べられるという『恐怖』はどんな人形にも未知のものだ。

未知ゆえの恐怖、自分が食われ死に瀕している恐怖、その他諸々が合わさり、最終的に人形の電脳はパニックによる機能不全を起こす。

そして何もできないまま食い散らかされ、そのままむごたらしく死ぬか、電脳がショートを起こして死を迎えるのだ。

ハイエンドの恐怖で開かれた瞳を閉じてやり、安心させるように無事な右肩に手を当てて静かに彼女に祈りを捧げる。

ミュータントを狩るハンターとして、同じ戦う者として、奮戦の末に散った彼女の死を丁重に扱うことは当然だ。

 

「指揮官?何してるんです?」

 

「別に。せめて安らかにな」

 

「安らかに?こいつら鉄血ですよ?死んで当然です」

 

「お前らそういうところドライだよな……」

 

むしろすっきりする、という表情のM4に指揮官はため息をつく。

こういう鉄血に対する敵愾心の強さはグリフィン&クルーガーの人形全般によくみられる傾向だ。

鉄血との紛争の当事者なのだから当然と言えば当然なのだが、指揮官個人としてはあまりよろしく思っていない。

敵を憎むなとは言わないが、こういう場面では静かに祈ってやるくらいしてもいいだろうに。

 

(言っても無駄だろうな、そうあれと作られてる部分もあるんだろうし)

 

指揮官としてはこの戦争に対して興味はない、原因の究明、手を出さない国の思惑、それにとやかく言うつもりはないし詮索もしたくない。

ここにいるのは仕事と個人的理由のためであり、向こう側の故郷へ帰るための金づくりでしかない。そんな人間が口に出したところでどうしようもないだろう。

そもそも彼女たちが鉄血を悪く言うのが耳に触るのは、個人的に鉄血製戦術人形たちにはお世話になっているからだ。

圏外のようなネットワークが寸断されている方面では、かつて新たな販路を求めて向こう側に派遣された鉄血工造の見捨てられた人形たちが多く生きている。

見捨てられた鉄血製人形は残された物資や機材、そして支社施設を接収し街を盛り立てた上で各方面に多く活躍しているのだ。

本社が崩壊し人形が暴走し始めたとはいえ人類生存可能圏外では関係がない、あくまでデータとネットワークがつながっている部分のみの話だからだ。

向こう側の隔絶された状況下で進化し、隔離されていた彼女たちは人類生存可能圏の鉄血の暴走とは無関係に日常を過ごしている。

指揮官自身、人類生存可能圏外で活躍する鉄血製ハイエンド人形とは付き合いがあるからいまいち気分が悪い。

ハンターオフィスのこの近辺への鉄血系派遣禁止令も納得だ、下手をすればハンターとグリフィンの戦争である。

考えてもしょうがない、指揮官は横道にズレた思考を追いやって再び目の前の問題に思考を傾ける。

 

「なんだろうな。この違和感、似てるのになんか違うというか、そんな感じだ」

 

「うわ、それスゴイいやだ。アルさん呼ぼうよ」

 

「解析専門欲しい所だよなぁ……」

 

M14の疑問に指揮官もうまく答えられない。これまでならば、これがいつもの仕事ならばすでに何度か会敵しているはずなのだ。

既にこの地域に展開して30分、上空にヘリを飛ばして派手に進んでいるのに一切反応がない。

相手が鉄血であれ、鉄血が運んで来たらしいバケモノであれ、ここまで何もないというのはおかしいのだ。

分からない、不可解だ、指揮官はいつも以上に不信感を覚えながら部隊に前進指示を出す。

崩壊した鉄血防衛線を抜け、U08基地正面の駐車場を抜ける。駐車場もまた多くの鉄血人形やIOP製人形の死体で埋め尽くされていた。

無数の薬莢や空のバッテリー、血塗れの地面、ばら撒かれた血肉や部品、損傷の激しい死体がいくつか転がっている。

基地の敷地内に空薬莢と血の跡がない場所はないと言い切れるほどに凄惨な有様だ

 

「これは……」

 

「確実に何かいるな、どっちも派手にやったみたいだ」

 

「支部の連中も襲われてるね。派手に撃っちゃってる、パニックになったみたいね」

 

指揮官は地面に倒れる支部偵察部隊のM21の切り裂かれた死体に残った傷跡を確かめる。

切れ味のよくない刃物で何度も無理やり切り裂かれたようだ、抵抗しようとした後も見られる。

 

「傷口はそう古くない、状況からして襲撃されて中に押し込まれたか」

 

「なら銃声が聞こえないってことは全員やられたってことね」

 

「もしくは静かに閉じこもっているかだな。そうしていてもらいたいもんだが」

 

ありえない、指揮官の言葉にM14は無言で否定を返す。支部偵察部隊はあくまで対鉄血用戦術人形部隊なのだ。

自分のような化け物狩りに慣れたハンターではない、彼女たちはモンスターやクリーチャーたちとの戦闘経験はない。

このケースにおいて、支部偵察隊や自分の部下の大半は武器を持ったお嬢様にすぎないのだ。

指揮官と連絡が取れない状態でミュータントのごとき振る舞いで元同僚の成れの果てが襲い掛かってきたら、到底まともな思考と判断は下せないだろう。

この部隊でもまともに相手できるのはM14かIDW、辛うじてSASSかスコーピオンくらいだ。

 

(予想が正しければ、連中は地下だな)

 

指揮官の脳裏に今まで相手にしてきた化け物たちの姿が過る。嫌な思い出も多い、ここで同じことが起きていないことを願うばかりだ。

 

「分かれよう、3つだ。IDW、100式、スコーピオン、市代について行け。基地の管制システムを立ち上げて情報収集。

できればM3に無線で連絡してくれ、基地の出力なら届くだろう。しばらく空中待機、いつでも拾えるようにしておいてくれ。

M4、SASS、イングラム、俺と地下だ。電源の安全を確認してから探りを入れるぞ。

イングラムダミー、お前だ。お前をリーダーにダミー全員でヘリポートを確保しろ、クリーチャーの襲撃の注意だ」

 

「マジで?」

 

スコーピオンの疑念の声に指揮官は頷く。不測の事態に備えて退路の確保はしておきたかったのだ。

 

「中は狭い、大所帯では不利だしランディングゾーンの確保をしてもらいたい。それにたぶん、制御している余裕はない。」

 

なにいってんだこいつ?と訝し気なスコーピオンに、指揮官は有無を言わせず無言な圧力で制しつつイングラムダミーに命令を付け加える。

 

「ダミーリーダー、もし怪しくて、見た目が化け物な奴が襲ってきたらIFFが味方だろうが撃って良し。動かなくなるまで撃ちまくれ」

 

「了解」

 

「市代、ジャミング装置を見つけたらそのままにしておけ、下手に触るんじゃないぞ」

 

「了解。3人とも、指揮官をお願いね。不用意にダクトや換気扇には近づかないように」

 

M14も指揮官の意図を察して部隊に指示を出す。ダミーは一言も発することなく続々と外に足を向ける。

指揮官の脳裏に基地周囲までの光景、会話が過る。その中でおかしいと思わなかったか?そうだ思っていたはずだ。

今まで多くの死体を見てきた、腐った死体も見てきた、でもそこに本来いるべき生物がいなかった。

ありえない、過酷な圏外の大地でさえ奴らは平気な顔をして死体に沸いている。日にちが経てば必ず集っているはずなのだ。

 

(出てこれないのか、死んだのか、それとも…逃げたのか)

 

指揮官は胃が痛くなるのを感じた。このクリーチャーは最悪の部類だ、特にこの自然豊かな環境であれば特に。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「イチヨ、どうして指揮官はジャミングを切るなって命じたのかな?」

 

指揮官達を別れ、廊下を指揮所に向けて進むM14のバックパックを背負った背中にスコーピオンは小声で語りかける。

彼女の背後を進む一〇〇式も同じ疑問を感じていた。ジャミング装置の破壊禁止、それにダミー達を外に出してメインフレームの自分達での任務遂行。気になることだらけだ。

M14は振り返ることなく、いつも以上に警戒しながら廊下を進む。彼女の足が廊下の端に付いたとき、ゆっくりと彼女は口を開いた。

 

「まだ確証はないけど、厄介なクリーチャーがいるかもしれない」

 

「厄介?」

 

「うん、外地でも取扱注意の部類。さっきも言ったでしょ?アウトブレイクが起きかねないクリーチャーもいるって」

 

「まさか……」

 

「おかしいと思わない?外の死体の山、あれだけあったのに虫が湧いてなかった」

 

そういえばそうだ、一〇〇式は先ほどの映像を脳内で確認しながらうなずく。映像には確かに、虫が一匹もわいていなかった。

それだけではない、思い返してみればこの森に降り立ってから一匹も虫を見ていないではないか。

 

「逃げたか、隠れたか、それとも死んだか。どちらにしろ悪い兆候だよ。

ジャミング装置の妨害電波は、モノによっては虫が嫌う電波も出せる。これは見えない蓋かもしれない」

 

M14は少し苦笑いしながら、廊下の奥をゆっくり覗き込む。

 

「やっぱり、数が少ない」

 

「どういう意味?」

 

「死体の数、ここでどれだけ人形が死んだと思う?」

 

「そりゃ沢山じゃない?」

 

「外の鉄血は埋め尽くさんばかり、グリフィンも250人も投入、その割には室内に死体が少ないと思うのよ」

 

確かに言われてみればそうかもしれない。もし鉄血の抵抗がほとんどない状態であれば、霧の中の行軍であっても偵察部隊は迷わないはずだ。

十中八九、この基地にたどり着いているはずなのだ。だがM14の言う通り、基地内部で散見されるグリフィンの人形の死体は多くない。

あらゆる場所で凄惨な最期を迎えているが、足の踏み場もないほどという訳ではないのだ。

 

「…考え過ぎじゃない?言っちゃ悪いけど、ここに来る前にやられたかもしれないし」

 

「それもまた怖いんだけどね、そこ!ダクトに寄らない!」

 

M14の叱責にスコーピオンがびっくりして壁際から離れる。彼女の頭上には通気ダクトが口を開けている。

その暗い口の奥にM14は銃口を向け、スコーピオンの手を握ると思い切り傍に寄せた。

 

「お、大げさじゃ?」

 

「頭から齧られたいの?」

 

一切遊びを見せないM14に、スコーピオンのいつものはつらつとした表情が消える。

その言葉にはヘリの中で交わしていた暖かな感情は含まれていない、どこまでも真剣で一本筋が入った声色だった。

 

「お願いだから、言う通りにして頂戴」

 

「わ、解った…」

 

「ありがとう。みんなも気を付けて、壁、天井、全てに気を配って」

 

M14は再びゆっくりと前進し始める。U08の指揮所は1階、鉄血が機材の流用をしているのなら今も変わらないはずだ。

廊下に転がる死体を踏み越えながら進んでいくと破壊されたバリケードが目に付く。

有り合わせの廃材で作られたバリケードは無残に壊されゴミの山になっており、その中に鉄血の無人走行兵器『プラウラー』が埋まっている。

搭載されたプラズマ粒子式サブマシンガンの銃身は焼け付き、見るからに何かに向けて撃ちまくった痕跡があった。

そのバリケードの向こう側にグリフィン規格そのままの防弾扉を発見した。

ドアはぼろぼろに破壊されていて、中に入ると司令部も血みどろで鉄血とグリフィン人形の死体がいくつも転がっている。

銃撃戦を行ったという雰囲気ではない、彼女たちもまた化け物に殺されたのだろう。

射殺ではなくかぎづめや牙などで切り裂かれたり噛み千切られていて、バラバラにされている人形すら見受けられた。

その凄惨すぎる光景と放たれる悪臭に一〇〇式は表情を歪め、喉の奥からせりあがってくる吐き気に顔をそむけた。

 

「ぐちゃぐちゃだにゃ」

 

「うわ、うわぁ……」

 

「むごい、惨過ぎる」

 

「ほら、ぼーっとしないでこっちに来る。大丈夫、混じってない」

 

そんな地獄の中にM14は気にも留めずに足を踏み入れて、指揮所の中の管制システムの前に立つ。

彼女は手早く腰のポーチからゴム手袋を両手に嵌め、背負っていた指揮官と同じバックパックをホロマップデスクの上に置く。

彼女はスイッチを入れて起動しようとするが、ホログラムに鉄血のロゴが表示された後ID照合を求められる。

グリフィンのIDは当然使えないだろう、鉄血がプログラムに手を加えたならばハッキングも危険だ。間違いなくウィルスが仕込まれているに違いない。

それは全員よくわかっている、M14は特に考えることもなくバックパックの口を開いて中からドライバーやペンチなどが入った工具箱を取り出し、ホロマップデスクのメンテナンス用カバーを開くと手早く配線し直し始めた。

 

「ここをこうしてあとは、こぅで、あ、奥か」

 

ハッチの奥に迷わず手を突っ込み、スイッチを弄りながら火花が飛び散るのも構わずガチャガチャと機材をいじくりまわす。

頭脳派鉄血人形泣かせの肉体派物理ハッキング、いくらウィルスを仕込もうがそもそも電子的に繋がらないので意味がない。

普段ならウィルス感染予防にもなる彼女の手際に感心するものだが、この状況ではとにかく異常としか思えなかった。

どうしてこうまでいつも通りなんだろう?一〇〇式はホロマップデスクと格闘するM14を見つめて思う。

どう考えても、彼女にとってこれは『日常茶飯事』だからどうも思わない、としか考えられない。

彼女が暮らす人類生存可能圏外というのはどれだけ過酷なのだろうか?正直考えたくもない。

 

「よし、動いた。どれどれ、マップと、IFFを……ウゲッ!?」

 

管制システムに無事アクセスし、ホロマップを作動させてマップを表示したM14が奇声を上げる。

驚いて彼女の見るマップをのぞき込むと、そこには基地の全体マップと地下にある無数の光点が目に飛び込んできた。

地下の非常電源システムあたり、おおよそ地下の最奥部だろう。そこにグリフィンと敵である鉄血のIFFが固まっている。

鉄血のIFFを取り囲むように地下階に散らばっているのだ。

反応がほとんど生死不明となっているのだが、生存反応を示すIFFが見受けられる。おそらくジャミングのせいで反応が狂っているのだ。

生き残りがいる、酷い状況だった故にうれしい話だ。一〇〇式は思わず笑みを浮かべてM14の方を見る。

 

「笑らえない、これは最悪よ」

 

M14は一変たりとも笑っていない、声も表情もまったく喜色を現していなかった。

彼女はマップを別角度からのマップと見比べながら光点の位置を探り、さらに鉄血の資料を呼び出してそれを読む。

 

「最悪……なんてこと、なんてこと」

 

「市代さん?どうしたんですか?みんな下に居ます、きっとまだ作戦中なんですよ、早く指揮官に伝えないと」

 

「一〇〇式、これは作戦行動中じゃない。みんなやられた、これは敵よ」

 

「敵?ちょっとおかしくなっちゃったの、まさかハッキング?」

 

スコーピオンの軽口にM14は答えず、ホロマップに向かうと端末を操作してホログラムに追加で枠を表示する。

映像を映し出している枠は二つ、日付は今日ではなく少し前だ。どうやら監視カメラの映像らしい。

慌ただしい鉄血の後姿を映したもの、荒れた室内に足を踏み入れている偵察部隊のFMG9とその後続たちのもの。

もう一つは鉄血の物資搬入リストだ、なぜかペット用の餌や食料品が多い。合成の肉、野菜、穀物が鉄血の基地にしてはあまりに多く納入されている。

その量は鉄血内部でも問題視され始めていたらしく、物資の送り主らしいアーキテクトとやらのお小言付きだ。

 

「監視カメラに、搬入リスト?ウロちゃんペット飼ってるの?ちょっと多くない?」

 

「ペット?鉄血が?」

 

「これで何が起きたのかわかる、今私達は最悪の場所の上に立ってる。いい?はっきり言うよ」

 

M14は真剣に表情で一〇〇式たちを見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「私達はクリーチャーの巣の上に立ってる」

 

M14はそれだけ言うと映像をスタートさせた。

 




やっと出せた本作のワールド設定。先にやるべきかと思ったけど、結局SPERを優先しました。
簡単に言えばドルフロの世界とポストアポカリプスごちゃまぜ世界があって、そこを汚染地帯と正規軍が仕切ってると考えてくだされば結構です。
指揮官達はベテランなので定番を潰していくスタイル、ちなみにこのステージの元ネタ、解る人にはわかるかと。
化け物が本格登場し始めます、次もよろしくお願いします。



ミニ解説
人類生存可能圏内と圏外

グリーンゾーン及びその周辺。
人類居住可能圏と呼ばれる汚染の少ない土地。
大戦を生き残った人々はそこに肩を寄せ合い、互いにけん制しながら今を生きている。
かつての人類黄金時代の技術力をある程度維持し、今も研鑽している未来世界。
しかし様々な理由から圏外との関係および接触を断ち、現状ではほとんど見捨てていいる状態。
圏外への進出を視野に入れた企業もいたが、現場の危険さや採算の合わなさに諦めて撤退してしまった。


高濃度汚染地帯
第三次世界大戦でできた人類の業であり皮肉の塊。世界各地に存在し、グリーンゾーン周辺に多く存在している。
人間どころか外の世界の化け物たちですら生きられない死の大地、動くものは大体E.L.I.D感染者。
常に電磁波嵐、磁気嵐、放射能嵐などが日常茶飯事に吹き荒れており、人類が知る限りの有害物質が巻き上げられて舞っている。
そんな有様だが、皮肉にも外の環境からグリーンゾーンを守る壁として役に立っている。


人類生存可能圏外。
コーラップス汚染と大戦によって放棄された汚染地帯、政府やグリーンゾーンの人々が見捨てた土地。
グリーンゾーンのような場所は存在せず、幾分かマシな低汚染地帯や地下シェルター、メトロなど様々な形で街を作って人々は生活している。
かつての大戦とコーラップスによって環境は激変しており、数多のクリーチャーやモンスターがひしめく弱肉強食世界。
その中で人間や人形たちは新しい世界での生き方を模索し、意外と図太くたくましく生き抜いている。
既存の技術は大半が失われ、グリーンゾーンほど技術力は保持していないがアナログ面と医療関連に強い別技術が発達している。
また人形が生活できるように改修できるなど少し歪な進化も遂げており、U05指揮官の恋人たちのような人形が当たり前に生活している。
人類生存可能圏内の事を内地、圏外を外地と呼ぶのはこちらの習慣。U05基地では広がりつつある。
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