勘違いで最強の冒険者に祭り上げられました。助けてください 作:帰りたい教会
なぜこうなったんだろう。俺は最高位の冒険者の証である金色の首飾りを見ながら、思い返す。俺は何か世界を変えられるほどの才能があったわけではなく、平均的な・・・いや、平均よりもしたかもしれないような力しかないただの少年だった。ただ、嘘を解くのは誰よりも得意だったように思える。今思えば、それが災いしたのかもしれない。
13歳のあの日俺は生きるために冒険者になった。危険な依頼を受けなくても生きていくことができる職業だったし、危険な依頼だあれば、一獲千金の可能性がある、夢のある職業だったからだ。現実はそんなに簡単じゃなかったが、当時の俺にはそう見えていた。
最初の仕事で俺は薬草つみの仕事に行った。13歳の子供には危険な仕事を割り振ろうとは冒険者ギルドの職員はしなかったのだ。
本来なら普通に帰ってこられたはずだった。だが、運悪く俺は魔物の大量発生に巻き込まれ左目を失い、命からがらある屋敷に逃げ込んだ。それが始まりだった。そこに住んでいたのは、いかれたマットサイエンティストで、そのくせ優秀だったその仮面のマットサイエンティストは俺に交渉を持ち掛けた。
「君のその左目に義眼を入れてあげよう。外にいる魔物もここには入ってこれない。特殊な結界が張ってあってね。しばらく、匿ってあげよう」
左目の痛みと体力の限界に来ていた俺の体は、思考力を削っていた。
「その代わりといっては何だが、私の実験に付き合ってはくれないかね?私が満足するまでね」
突如として差し出された救いの手だ。弱っていた少年がとってしまったのは、必然ともいえる結果でしかなかった。俺はここで、よく考えておくべきだったのだが、もはや後も祭りだ。
頷いた俺に奴は嬉しそうに笑いった。「私の名はスミレ。よろしく少年」
そこからだ、このマットサイエンティストははるか昔に魔法と同等いや、それ以上の効力を持つ魔具と呼ばれていたものを再現する研究をしており、そのデバイサーとして俺を欲しがった。
俺は奴から、一振りの刀を渡された。赤く発光する、妖しい刀。
「それは、妖刀『朝霧』。君の認識していない敵でも、勝手に迎撃する刀だ。君に敵意を向ける存在を、君を勝手に動かして殺してくれる素晴らしい武器だ。使用者に身体強化魔法をかけ、どんな相手にも対処できるようにしてある。まあ、私の想定以上の相手には勝てないだろうがね」
「これでどうしろと・・・」
「今外を蹂躙している魔物たちはそのうち君の今の拠点がある、サウザンドスカイにも行くだろう。これだけの数が、あの町になだれ込めば何の準備もしてないあの町は三日以内には全滅するだろう。それは君も困るだろう?その刀で魔物を殺してきてくれ」
「ひゃ、百体は余裕でいるんだぞ!?ワイバーンだっていたんだ。俺は運良くここに潜り込めただけ!勝てるわけがないだろ!」
「ふむ、不安だというのならこの指輪も持っていくといい」
「そういう話じゃ!?」
「いいから、行ってこい」
結果として、俺は町に侵入しかけていた魔物をすべて殺しつくせた。否、刀が勝手に殺してくれただけだが。それで一件落着にも思えたが、問題が起こった。俺は町のすぐ手前で戦闘を繰り広げたため、魔物を殺戮している姿を、町の人間にバッチリ目撃されていた。あっという間に町では英雄扱い、そのままあれよあれよと色々な魔具のデバイサーとして魔物や犯罪者を殺していくうちに・・・いや、殺させられていくうちに・・・。
「あ、あれが王国最強の冒険者・・・レイン・スノーか・・・。風格あるな」
「ああ、何でもこの間もドラゴンを相手にかすり傷も負わずに帰ってきたらしい」
「かっこいいよな~」
「冒険者を初めてたった二年で最上位の階級『金剣級』まで上り詰めたらしいぜ」
「素敵よねー」
「近づきずらいな」
「でも、下手に近づくと殺されるって話も・・・」
そう、いつの間にか王国最強の冒険者とか呼ばれてしまっていた。そんな実力もないのに・・・。でも、今更言い出せない・・・俺は魔具を使っているだけの普通の冒険者なんですなんて・・・。結構、恨みを買うのが冒険者だし・・・俺は嘘を吐き続けるしかなかった。ただ生き残るために!
「ハァ~、時間が巻き戻せたらな~」
そんな俺の独り言は、周りのノイズで誰の耳にも入ることなど無くかき消された。
これは、勘違いで最強に祭り上げられた少年が何とかバレずに生き抜こうとするお話である。